>>154 駐車場に放置された警察の護送車に生存者がいると報告を受け、堺と原は決断を迫られる破目になった。
佐藤、渡辺、鈴木の三人組がガソリン集めに協力せず、駐車場に放置された車輌を物色していて発見したのだ。
「おまわりさん !? 」 原幹恵が頼もしい戦力を期待しながら護送車に乗り込んで来る。
車内の三人組は互いに困った顔を向け合い、原も直ぐに早とちりに気付くとともに息を呑む。
生存者は警官ではなく、隔離されて出られずにいる血まみれの囚人なのだから。
「お嬢さん。 どうかお願いです。 私をここから出して下さい。 このままでは餓死を免れません」
「でも・・・ 私にそんな権限は・・・」
「私は医者なのです。 何かとお役に立てるかと思いますよ」
「医者 !? 」 一人が驚きの声を上げた。
「どうした」 堺も乗り込んで来る。
誰も説明しない。見れば状況は飲み込めるから。
「これはこれは。 警官ゾンビを倒した方ですね。 私は医者です。 ここから出しては貰えないでしょうか」
「やはり、見殺しにはできません」 原が堺に同意を求める。
「医者なら連れて行くべきだろ。 一ノ瀬が身重なんだし」 佐藤が促す。
>>164 相手は囚人だ。 医者と言うのも嘘かもしれない。
何を仕出かして処罰されたのかすら定かでないのに・・・。
「お前、何の犯罪者だ」 堺は、言葉を交わすのも汚らわしいとでも言いたげだ。
「医療ミスです。 事故なのですよ」
「連れて行くのには反対だ」と、堺。
「じゃぁ、一ノ瀬に何かあったら誰が助けてくれんだよ!」 佐藤が食って掛かる。
「あなた方。 あの警官の死体に鍵が有りますから、取って来て貰えませんか」
囚人は堺が倒した警官ゾンビの身体を指差し、三人組は鍵を取りに出て行った。
「原さん。 こいつの言ってる事は全て嘘かもしれない。 危険すぎる」 生徒たちが居ない隙に本音をぶつける。
「常に手錠を嵌めた状態で同行させるのはどうですか?」
堺も原の提案に、それなら危険を押さえ込めると考え、囚人の同行を承諾した。
犯罪者は開放され、3週間ぶりに飲み物にありつけたと喜んでいる。
堺は腑に落ちなかった。
3週間も飲まず食わずで、あんなに元気で居られるものだろうか。
他の囚人が全て死んでいるのに、何故あいつは生き延びられたのだ?
他に誰も居なくなった車内で、転がっているうつ伏せの死体をひっくり返し喉元の噛み傷を見る。
噛み傷があるのは1人のみで、もう1人は首を捻じ切られて死んでいた。
あの犯罪者は、この2人がゾンビになって襲って来たと話しているが、そんな風には見えない。
そもそも脳に損傷を与えずにゾンビが動かなくなるなど有り得るのか?
この喉元の傷・・・ あの囚人は、この男の生き血をすすって生き延びていたのでは・・・。
確証はない。
堺の脳裏に、蠱毒(こどく)と呼ばれる中国の呪術がよぎった。
「器の中に多数の虫を入れて互いに食い合わせ、最後に生き残った最も生命力の強い一匹を用いて呪いをする」という呪術。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A0%B1%E6%AF%92