>>126 「電気が止まってもう5日だし、冷蔵保存食はこれ以上は持たないよね・・・」
寝巻きからバスガイドの制服に着がえながら、原がこぼす。
今更、この制服に意味など無いが、気持ちが引き締まるので敢えてそうしているのだった。
原の隣で着替えている少女が応える。
「幹枝姉さん。 持ち出せる食べ物を含めても、1日2食のペースで残りは一週間分だよ。 どうしよう」
「うん・・・」
血気盛んな一部の男子生徒を除き、建物の外に出て無事に戻って来た者は居ない。
運転士は真っ先にゾンビ化して行方知らずとなったが、観光バスの鍵が付けっ放しなのは幸いだった。
しかし、エンジンと電源を切らずに避難したため、今では燃料が尽き、バッテリーも上がっていることだろう。
ソンビの腕力は凄まじく、また、野外に出ても逃走手段はなく、陸の孤島に取り残されたも同然の状態。
毛利の意見を待つまでも無く、堺に同行を願い出るしか窮地を脱する方法は無かったと言うのが本当のところだった。
「今日はやけに多くねえか?」
エントランスのガラスにへばり付いているゾンビの群れを見て、見張りの少年がつぶやく。
「あの野郎が外で暴れやがったからな」
学級で身長の一番高い生徒が不快感をあらわにした。
「俺らだけなら、あんなの居なくても平気なのにな」
三人組の残り一人が話しに入ってくる。
「先生でもない他人の言うことなんか聞く気ねえよ」
「ああ」
「俺も」
「達磨どうしてるかな・・・」
今期を最後に定年を迎えるはずだった社会科の担任教師、平泉 成 (ひらいずみ せい)。
自ら囮となって50体以上のゾンビを建物の外へとおびき出し、その際の戦いで感染して何処とも無く去って行った。
この三人組は、平泉教師に達磨との渾名を付けて事ある毎に煙たがって来たが、
生徒のために身を投げ打って死んでいった彼の姿に、大人としての、人間としての在り方を見せ付けられた思いであった。
平泉は彼ら三人に「皆を頼んだぞ」と言い遺している。