【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ20【友人・知人】

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1本当にあった怖い名無し
シリーズ物、霊感の強い人にまつわる話を集めるスレです。
考察や、好きな話について語り合いましょう。(荒れる原因なのでなるべく「乙」だけですましましょう)

・投下歓迎。実話、創作不問。新作も歓迎
・作品投稿者はトリップ(名前欄に#任意の文字列)推奨
・話を投下する際はなるべくまとめてから投下しましょうね
・他スレへの迷惑が掛かるような過度の勧誘やはご遠慮下さい
・投稿作品への批判は荒らし認定、sage進行、荒らし煽り、スルーよろしくです
・『このスレと住人を許さない』系の荒らしがしつこく荒らしています 徹底無視で

・「荒らしに反応する奴も荒らし認定されるよ」のネットルールを忘れずに。

洒落コワ投稿掲示板(煽りは嫌、洒落コワまとめに載りたい!と言う人はこちらへ)
http://jbbs.livedoor.jp/study/9405/

前スレ
【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ19【友人・知人】
http://toro.2ch.net/test/read.cgi/occult/1318029342/
2本当にあった怖い名無し:2012/03/04(日) 20:49:56.75 ID:cfOVpH5x0
おk
3本当にあった怖い名無し:2012/03/04(日) 21:36:25.55 ID:RBb2jGSd0
>>1
おつ!
4本当にあった怖い名無し:2012/03/04(日) 23:15:55.91 ID:++DGWxHp0
常識のない馬鹿のせいで他所の作品を無断で転載するのはやめましょうってテンプレを増やさなきゃな
5本当にあった怖い名無し:2012/03/04(日) 23:23:01.63 ID:HOcgV/yg0
あれは埋め立て荒らしじゃないの?判りにくい様にウニを使ってるだけで。
6本当にあった怖い名無し:2012/03/05(月) 13:37:25.16 ID:xUTGmKlU0
7本当にあった怖い名無し:2012/03/05(月) 14:29:36.22 ID:LAFPBRJ7O
自治厨うざぁ
8本当にあった怖い名無し:2012/03/05(月) 18:48:05.33 ID:i2Smsi1Y0
336 名前:本当にあった怖い名無し[] 投稿日:2012/03/04(日) 13:59:49.00 HOST:p3137-ipbf2504souka.saitama.ocn.ne.jp[114.148.62.137]
削除対象アドレス:
http://toro.2ch.net/test/read.cgi/occult/1318029342/970-985
削除理由・詳細・その他:
pixivアップロードされている画像等の情報を、当該著作者(創作者)の同意なくして転載する行為。
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=858125

337 名前:通りすがりのミッちゃん[sage] 投稿日:2012/03/05(月) 13:27:17.79 HOST:i125-202-193-110.s10.a032.ap.plala.or.jp
>>336
削除理由はガイドラインもしくはローカルルールより正しく指定で。

著作権侵害ということでしたらその権利の所有者が
警察や司法機関にご相談なさってください。

wwwww
9本当にあった怖い名無し:2012/03/05(月) 20:16:21.59 ID:dq0EdVLn0
立法機関に通報しろよ
10本当にあった怖い名無し:2012/03/05(月) 20:49:28.39 ID:DwDR/wRW0
著作権法違反は親告罪ではなかったか?
著作権侵害を見つけた場合、下手に通報すると名誉毀損等になる可能性もある。
著作権者に、侵害行為を申告すればよい。
11本当にあった怖い名無し:2012/03/06(火) 20:31:15.46 ID:S6klQ0jp0
あたし
でもねー
あのねー
あたしねー
なんかねー
12本当にあった怖い名無し:2012/03/06(火) 21:24:32.90 ID:8CtjfqVz0
おk
13本当にあった怖い名無し:2012/03/07(水) 14:22:56.86 ID:3gqcknJnO
ボム山ボム吉の『お盆の夜』だけ無いんだけど、どうして?
14本当にあった怖い名無し:2012/03/07(水) 18:05:11.56 ID:xuo5JdC20
どうしてだろうねー
15本当にあった怖い名無し:2012/03/08(木) 13:36:49.37 ID:C1HW2snO0
著作権違反だから訴える!
すごいねウニ信者ってw
じゃあ、数あるまとめサイトの管理人も一緒に訴えるんだよね当然
その人らもウニに許可取ってるわけないもんな
16本当にあった怖い名無し:2012/03/08(木) 17:11:04.60 ID:02PMobA90
まとめサイトは当然違法だけど、
著作権の所持は2chにあるから
見逃されてるんだろ。
いちいち訴えてられないからな。
17本当にあった怖い名無し:2012/03/08(木) 17:20:54.52 ID:DsOqmsvp0
>>15
2chのレス転載したまとめサイトと
著作権がウニ自身に帰属するpixivの文章を転載する輩とじゃ
どう見ても同列に考えられない問題だろ

馬鹿だから分かんないんだろうけど
18本当にあった怖い名無し:2012/03/08(木) 17:21:02.27 ID:C1HW2snO0
訴えるもの何も、営利目的じゃなければ不問に付す、と宣言してる。
お前ら信者みたいに当事者でもないのにギャーギャー喚いてるカスとは器が違うわ。ウニもな
19本当にあった怖い名無し:2012/03/08(木) 17:24:05.45 ID:C1HW2snO0
>>17
どうやら2chには著作権がないから無断転載おk、と思ってる馬鹿がいるな
pixivの著作権はウニに帰属する
2chの著作権は2chに帰属する

どう見ても同列ですが?
20本当にあった怖い名無し:2012/03/08(木) 17:39:01.06 ID:DsOqmsvp0
ほら、話すり替えた(笑)

>>8は別にウニに対する著作権を侵害してるって言ってるだけで
2chの著作権を侵害するまとめサイトに対しては別に述べてない

さらにお前は>>15でまるでまとめサイトもウニに対して著作権を侵害してるようなこと言ってる
ここまで言って理解できるか? 責任の所在が違うんだからまとめサイト云々はこの流れで全く関係ない話なんだよ
21本当にあった怖い名無し:2012/03/08(木) 18:11:46.90 ID:RUXtidwu0
著作権者以外が「権利を侵害していると指摘する行為」は
著作権者の許諾権(禁止権)「自分の著作権が侵害されていると指摘するかしないかを決める権利」を侵害している
22本当にあった怖い名無し:2012/03/08(木) 21:30:39.06 ID:v/uvmYcd0
>>20
馬鹿だろお前
pixivのコピペもまとめサイトのコピペも著作権者からの許諾取ってないという点は一致してるだろ
単にここの信者がここだけのコピペに対して騒いでるだけであって、まとめサイトのコピペも著作権は侵害してんだよ
だから、訴えるならまとめサイトも訴えてみろよ()という簡単なこともわからないのか

あと、pixiv、同人以外の師匠シリーズの著作権は2chに帰属するからな。ウニが著作権を主張したらウニを訴えろよ?
23本当にあった怖い名無し:2012/03/08(木) 22:17:23.53 ID:J0t5cIoz0
別に明文化されてるわけじゃないが、一般的な指標として誰の文章かを明示してるかどうかってのはけっこうポピュラーな線引きじゃないのかと思う
24本当にあった怖い名無し:2012/03/08(木) 22:43:59.94 ID:DsOqmsvp0
>>22
君の中で信者は著作権保護団体の責任者にでも映ってるのかねえ...(苦笑)
自分のそのレス100回読み返したら病院行って下さいね、アスペの疑いありだよ
25本当にあった怖い名無し:2012/03/09(金) 11:52:38.70 ID:m3M8aZ7zO
アスペを疑いながら議論するってどうなんだろうね。
26本当にあった怖い名無し:2012/03/09(金) 12:45:24.71 ID:/Cepss4c0
著作権違反だ!訴えろ!と喚いておきながら、
>君の中で信者は著作権保護団体の責任者にでも映ってるのかねえ...(苦笑)

このセリフ吐くかねえ
ほんと頭おかしいんだな
27本当にあった怖い名無し:2012/03/09(金) 13:10:29.43 ID:n/KnI/to0
>>26
信者の削除要請が通らなかったから、ウニが親告すれば解決するよって流れを
勝手に告訴だ告発だお花畑のレスしたのは>>15のアホ

はい、論破
28本当にあった怖い名無し:2012/03/09(金) 13:15:02.72 ID:n/KnI/to0
>>25
2chってそういう掲示板ですよ?
29本当にあった怖い名無し:2012/03/09(金) 13:48:31.37 ID:puSDjK/bO
ふ〜ん。で?
30本当にあった怖い名無し:2012/03/09(金) 14:19:02.44 ID:Ir3qxT55O
ならpixivからの転載をまとめに転載するのは2重にアウトだな
31本当にあった怖い名無し:2012/03/09(金) 18:03:59.06 ID:BbqRVAoD0
>>27
おk

はい、論破
32本当にあった怖い名無し:2012/03/09(金) 18:06:16.12 ID:O7HWRCc30
新たな争いの種ができてヨカッタネ!
33本当にあった怖い名無し:2012/03/09(金) 23:02:05.03 ID:xknCIxt2O
お茶が美味しい
34本当にあった怖い名無し:2012/03/09(金) 23:46:26.29 ID:/Cepss4c0
>>27
支離滅裂でイミフ。

>ウニが親告すれば解決するよって流れを

お花畑はどっちだよ?たかだかコピペされたぐらいで訴えるとでも?
しかも本人が同じスレにコピペしてんだから、問題ねーだろ。コピペされてもやめろの一言もないって事は認めてるって事だよ。
35本当にあった怖い名無し:2012/03/09(金) 23:48:34.88 ID:/Cepss4c0
>勝手に告訴だ告発だお花畑のレスしたのは>>15のアホ

はあ???告訴だの喚いてたのはお前ら信者だろがwww
馬鹿じゃねーのまじで

>はい、論破


勝利宣言(゚∀゚)キタコレ!!しかも全然論破になってねえ。何に対して論破したと思ってんのお前?
36本当にあった怖い名無し:2012/03/09(金) 23:58:20.70 ID:n/KnI/to0
>>34-35
もう相手して上げるの飽きたんで読まなくても良いですか?














            は  い  論  破






37本当にあった怖い名無し:2012/03/10(土) 00:34:11.98 ID:r3XPiKXN0
ハイハイ、言い返せない奴の常套文句「相手するの疲れた・飽きた」とベタな勝利宣言(逃亡)・「論破」いただきましたんでもう満足w

いまだにこういう奴いるんだなあ・・・
38本当にあった怖い名無し:2012/03/10(土) 01:03:16.62 ID:wjuR+IRr0
顔まっかっかやん
39本当にあった怖い名無し:2012/03/10(土) 02:15:59.09 ID:TTAVlR690
論破って議論になってるときじゃないと使っちゃいけないとおもうの
40本当にあった怖い名無し:2012/03/10(土) 06:12:28.06 ID:uy1wv6Xg0

論破した人はちゃんと論破出来てる
はぁ?、とか言ってる人は頭悪くて言い返せなくて
ただ悔しさとか負け惜しみしか表現できなくて
内容が無いよね
僕もはい、論破したいなあ
41本当にあった怖い名無し:2012/03/10(土) 07:00:39.93 ID:a0c3w9GI0
単に“論破”て言いだけのよーな・・・
42本当にあった怖い名無し:2012/03/10(土) 12:51:49.51 ID:t1ZqZN5g0
じゃあ俺も論破
43本当にあった怖い名無し:2012/03/10(土) 12:53:46.19 ID:cqyWZTMO0
「破ァ!!」
44本当にあった怖い名無し:2012/03/10(土) 14:27:02.21 ID:OyagC2YS0
ろろん波!
45本当にあった怖い名無し:2012/03/10(土) 15:14:03.56 ID:x4rYJKgS0
おk
46本当にあった怖い名無し:2012/03/10(土) 15:34:28.28 ID:x4rYJKgS0
ウニさん待ちです
47本当にあった怖い名無し:2012/03/11(日) 02:34:04.31 ID:5UPjNro+0
久々に来たけどまだこんな面白い流れなのかwww
隔離スレの末路wwwwww
48本当にあった怖い名無し:2012/03/11(日) 03:46:01.01 ID:dvOsCCIyO
先週、元芸能人の山口美江がずっと頭の中に浮かんでたんだけど
『あれ?あの人まだ生きてたんだっけ?死んだっけか?』
って思ってたんだけどその数日後にひるおびで山口美江孤独死。ってニュースが入ってびっくりした。
あれは死んだ人が『誰か早く見つけて!』って電波を発信してるの?
たまに俺の中の受信機の感度が凄い跳ね上がる時があるんだけど誰にもこういう能力ってあるよね。
49本当にあった怖い名無し:2012/03/11(日) 08:39:08.36 ID:pozV6Cnz0
俺の場合、
先週頭に浮かんで、あいつどうしてんのかな?
と思った芸能人は

『TOM☆CAT』のTOM
陣内大蔵
ボビーオロゴン
・・・

他にもいたけどすぐには思い出せんな。
日本中で先週芸能人の誰かのことを考えていたやつが、三千万人くらいいるんじゃないか。
3千万人×数人
芸能人の絶対数を考えると、山口美江のことを考えていたやつは数十人単位でいるだろう。

そんな受信機だの電波だの持ち出さなくても、偶然、というか必然のレベルだと思うぞ。


50本当にあった怖い名無し:2012/03/11(日) 10:56:41.38 ID:t+W7JtQM0
今日は感がざわざわして、良く眠れなかったよ。(≧_≦)
51本当にあった怖い名無し:2012/03/11(日) 11:35:02.70 ID:Kzs1wn/2O
52本当にあった怖い名無し:2012/03/11(日) 18:57:31.31 ID:qybZc30l0
怖くて踏めない
53本当にあった怖い名無し:2012/03/11(日) 22:21:41.91 ID:a+1r7oyZ0
おk
54本当にあった怖い名無し:2012/03/16(金) 01:56:15.20 ID:aaS4TqLG0
ウニ様お待ちしています。
55本当にあった怖い名無し:2012/03/16(金) 17:22:27.74 ID:UD6jTNmQ0
pixivからのコピペでもおk
56本当にあった怖い名無し:2012/03/16(金) 17:31:09.85 ID:aaS4TqLG0
お願いします。
57本当にあった怖い名無し:2012/03/16(金) 18:16:37.97 ID:PFlHzpg30
最近ホント投稿者が減ったけど、霊感持ち系は単なるブームだったのか
もしくは他の発表の場に移っただけなのだろうか
58本当にあった怖い名無し:2012/03/16(金) 20:20:40.98 ID:LXIwIhCq0
オカルト自体下火じゃね
59本当にあった怖い名無し:2012/03/16(金) 23:59:04.65 ID:ndvUNNr60
>>58
そうかもね
60本当にあった怖い名無し:2012/03/17(土) 19:39:53.83 ID:ufgyk9n90
>>57
最近?このスレ出来てからずっと数名のラノベモドキ作家が数名しかいなかっただろ
で、その作家気取りもいなくなって、作家気取りの王様ウニだけが残っただけ
なにがブームだよww
61本当にあった怖い名無し:2012/03/18(日) 11:32:44.92 ID:ZfwX+kRYO
下手にコピペしやがったからヘソ曲げて投稿止まっちまったじゃねーか!
62本当にあった怖い名無し:2012/03/18(日) 12:53:12.52 ID:7HRca5M10
ざまあw
63本当にあった怖い名無し:2012/03/18(日) 15:33:22.55 ID:uv2NjgNo0
ウニさん待ちです
64赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/03/19(月) 13:53:18.37 ID:zo1tMb5j0
[彼女は思い出す]

1/14
この道のことは、よく覚えている。

山の麓から堀塚邸まで続く、緩やかな坂道。
十分に広く造られた車道。その脇の、これも十分な広さのある歩道。
この道の先には堀塚邸しかないので、行き交う車は滅多にない――という事を、明君に聞いたことがある。

それはよく覚えている。

でも、昔ここに来たとき…私は1人でこの道を登っていた?
今は横に美加がいるけど、その時も誰かが?

…ううん、いない。
私は1人だった。
行きも帰りも1人。
それは確かなこと。

でも、堀塚の家では…4人。4人で遊んでいた。
明君と紗希ちゃんと、私と――もう1人。美加じゃない女の子。

誰だっけなぁ…。
どうしても思い出せない。
65赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/03/19(月) 13:54:20.78 ID:zo1tMb5j0
2/14
その女の子は、紗希ちゃんに初めて会ったときには居て、その翌年美加が来たときには居なくなっていた。
その間、その1年の間に起こった事と言えば…

…明君のお父さんが亡くなっている。

それと何か関係しているのかな?
あ、そもそも明君のお父さんって、どう――

美加「古乃羽、あっちじゃない?」

私「ん?…あ」

美加が立ち止まり、横の道を指差す。
見ると、「あっちじゃない?」というのはかなり控えめな言い方で、明らかにそっちが正解だ。
何しろ、車道はそちらに向かって曲がっており、その先には堀塚邸が見えている。
私の前方には、山の上へと歩道が続いているだけだ。

私「ごめんごめん、そっちだ」
美加「その道、どこに行くのかな」
私「?」

美加に言われて、私は自分が進もうとしていた道の先を見る。
先ほど言った通り、車道は堀塚邸に向かって横に曲がっているが、歩道だけはここで分岐して、車道に沿って横に向かう道と、更に真っ直ぐ、山の上へと進む道に分かれている。

私「知らないな、どこだろう?」
美加「…ま、いっか。いこいこ」
私「うん」
そう言って私達は道を曲がり、堀塚邸へと向かった。
66赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/03/19(月) 13:55:35.17 ID:zo1tMb5j0
3/14
明「――やぁ、待っていたよ」

3階立ての、洋風の豪邸。
昔の外国の映画に出てきそうな建物。
その重々しい玄関の前に立ち、美加と二人で「インターホンはどこかな?」と探していると、扉が開き、明君が出迎えてくれた。

こんにちは、お久しぶり、と挨拶を交わし、招き入れて貰う私達。
「2人とも本当に綺麗になったね」なんてお世辞に、「そんなこと無いよ」と返す私と、「自分でも困っちゃう」と返す美加。

紗希ちゃんが早く会いたがっていると言うので、私達はコートを脱ぎ、明君と一緒に2階にある彼女の部屋に向かう。
家族の方にも挨拶をしないと、と思ったけど、今は留守らしい。

部屋まで歩きながら邸内を見渡すと――うん、懐かしい感じがする。
何回も来たことがある訳じゃないけど、内装は結構覚えている。
なぜなら、紗希ちゃんのために少し特徴的な造りになっているからだ。

随所に付けられた手摺りや、車椅子のための幅広い廊下。各階に行くためのエレベータ。
それと、階段の横に付けられた車椅子用の昇降機。
67赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/03/19(月) 13:56:40.61 ID:zo1tMb5j0
4/14
初めてこの家に来た美加は、へぇー、ふーんと、珍しそうに辺りを見渡している。

そういえば、私も最初に来たときはそうだったなと思う。
…と同時に、あることを思い出す。

昔来たときも、今と同じように私は明君に連れられて紗希ちゃんの部屋に向かった。
その時は――今と同じく、3人だった。
もう1人、女の子がいたのだ。

つまり…私は1人で来たわけだから、その時出迎えてくれたのは、明君ともう1人の女の子ということになる。

…何だか、変な感じだ。

明君とその子は私より先にここに来ていたのだろうけど、部屋に紗希ちゃんだけを置いて、2人で出迎えに来るものだろうか。
何だか、紗希ちゃんが可哀想に思えてしまう。
まぁ、まだ小さかったから、あまり細かいことは気に掛けなかっただけかな?

…と、そんな事を考えている内に紗希ちゃんの部屋に着く。
68赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/03/19(月) 13:57:48.44 ID:zo1tMb5j0
5/14
コンコンと軽くノックをしてから、3人で部屋に入る。

紗希ちゃんの部屋は、一言で言うとヌイグルミの部屋。
趣味でヌイグルミをよく作るそうで、部屋の中には無数の自作のヌイグルミが置かれている。
昔来たときも結構な数があったけれど、あれから数年経った今、当然ながらその数は一段と増えていた。

そんな中、出窓の前に置かれたベッドの上で、紗希ちゃんが私たちを迎えてくれた。

紗希「お久しぶりです。古乃羽さん、美加さん」
落ち着いた佇まいで、笑顔を見せてくれる紗希ちゃん。
その様子がどことなく舞さんに似ている感じがして、そのせいか、1つ年下のはずの紗希ちゃんが大人びて見える。

私&美加「お久しぶりー」

口を揃えて挨拶をする私と美加。
そこで、あれ?と思う。

いつもの美加なら、キャーとかワァーとか言って、紗希ちゃんに飛び掛らんばかりになりそうなのに、やけに大人しい。
…さては私と同じように、彼女の大人な雰囲気にたじろいでいるのかも知れない。
69赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/03/19(月) 13:58:50.50 ID:zo1tMb5j0
6/14
紗希ちゃんのベッドの横には大きなテーブルが置いてあり、彼女はベッドの上に座ったまま、私たちとテーブルを囲うことができるようになっている。
昔はここでトランプだのボードゲームだので遊んだっけな、と思いながら椅子に座り、改めて紗希ちゃんを見る。

白い肌。透き通るような肌って、こういうのを言うのかな。ちょっと羨ましい。
それと対照的に髪は黒く、長く伸ばして後ろで結わいている。
昔は確か肩くらいまでの長さだと思ったけど、今は腰までありそうだ。

何か飲み物を持ってくるね、と言って明君が部屋を出て行く。
私たちはそれを機に…という訳でもないけど、紗希ちゃんとあれこれ話を始める。

会うのは何年振りだろうね、という話から、お互いの近況の話。
特に、生活面において私たちは大きく変化している。
何しろ最後に会ったのが中学の頃なので、それと比べて今は、どちらも実家を出て1人暮らしの身だ。

紗希「…1人で暮らすのって、やっぱり大変?」
興味があるのか、紗希ちゃんが聞いてくる。

私「んー、そうでもないよ?ほら、美加にだってできているし」
美加「そうそう。それは否定しないね」
紗希「ふふ。でも、いいな…」
ちょっと羨ましそうに言う紗希ちゃん。
1人暮らしに憧れているのかも知れない。

美加「紗希ちゃんなら問題なくできるよ。ね、古乃羽」
私「うん。私の家の近くに、車椅子で1人暮らししている人もいるよ」
紗希「へぇ…」
70赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/03/19(月) 13:59:47.15 ID:zo1tMb5j0
7/14
もし1人暮らしをするなら何でも相談してね、と言っていると、明君がワゴンと共に戻ってくる。

ワゴンの上には、良い香りのする紅茶と小さなケーキが幾つか乗っており、こういうのを見ると、あぁ、ここってやっぱりお金持ちな家なのね、と変に実感してしまう。

慣れた手付きで紅茶を淹れてくれた明君を交え、今度は高校についての話をする。

前に聞いた話では、紗希ちゃんは小・中学校には行かず、数人の家庭教師を雇い、家で勉強を教えて貰っていたとの事だった。
では、高校はどうしたのかな?と思い、聞いてみると…これまでと同様に、家で勉強をしていたらしい。

…つまり紗希ちゃんは、"学校"というものに、一切行ったことが無いのだった。

私「そうなんだぁ…」
何か、マズイ話題に触れちゃったかな?という気になる。
学校に行っていないという事は、同年代の友人を作る機会が極めて少ない、という事だ。

家庭教師の人とは仲良くなれるかも知れないけど、何かをして遊ぶ時や、気兼ねなく他愛のない話をするとなると、やはり同じ年頃の子が――
と思ったところで、私は例の、もう1人の女の子の事を思い出す。

そうだ。
もしかしてあの子は、紗希ちゃんのお友達だった…?
71赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/03/19(月) 14:00:41.12 ID:zo1tMb5j0
8/14
私「あのさ、紗希ちゃん」
紗希「?」
私「明君も」
明「ん?」

私「私が初めて紗希ちゃんに会った時の事、覚えている?」
明「…あぁ、覚えているよ」
そう言いながら、紗希ちゃんを見る明君。
紗希「…うん、私も」

私「その時さ、明君と私と…あと誰かもう1人、女の子が居なかった?」

明「…」

明君の顔が、何故か一瞬曇る。
私はそれを不思議に思いながらも、質問を続ける。

私「紗希ちゃんが来たのって、確か、川原でその子と遊んでいる時――」
紗希「…古乃羽さん」
私「?」

紗希ちゃんが、悲しそうな表情で顔を横に振る。

明「…良いんだよ」
紗希ちゃんに声を掛ける明君。

何だろう?と疑問が浮かぶけど、その理由はすぐに分かった。
明君の話で、すぐに…思い出す事ができた。
72赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/03/19(月) 14:05:04.87 ID:zo1tMb5j0
9/14
明「確かに居たね。もう1人」
私「うん」
明「3人で遊んでいた」
私「うん…」

あれ、何だろう…この感じ…

明「あれは、奈々だよ」

なな?

あっ…!!

ハッと息をのむ。
私、何て事を――

私「あの…、ごめんね」
明「いやぁ、良いんだよ。もう随分経つし」
気を遣ってか、そう言ってくれる明君。
うわぁ、失敗だ。悪い事聞いちゃった…。

美加「…奈々って、誰?」
こちらの気も知らずに、サラッと聞いてくる美加。
もう。ちょっと察して欲しいのに。
ここはどうしようかな…と思っていると、明君が答えてくれる。

明「奈々は僕の妹だよ。…もう亡くなってしまったけどね」
73赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/03/19(月) 14:29:15.88 ID:zo1tMb5j0
10/14
物部奈々。
奈々ちゃん。

明君の妹で、いつも彼の後ろにくっついて来ていた子だ。
背の小さな可愛らしい子で、常に明君の服の裾を掴んでいたようなイメージがある。

母親がおらず、父親はここ――堀塚邸で働いていたので、奈々ちゃんが常に明君にくっついていたのは当然と言えば当然の事かも知れない。

2人はとても仲の良い兄妹で、明君は子供ながらに奈々ちゃんの面倒をよく見ていたし、奈々ちゃんも明君の言う事はよく聞いていた。

…そんな奈々ちゃんが亡くなったと聞いたのは、私が紗希ちゃんに初めて会った、その翌年の1月のことだった。

その事を今まで私が忘れていたのは…
きっととても悲しくて、無意識の内に忘れようとしていたのと、それ以降、奈々ちゃんの話を誰もしなくなったからだろう。
それと、翌年から美加が来るようになって、私の中で勝手な"穴埋め"が出来ていたのかも知れない…。

――その後は今通っている大学の話などをして、時間も遅くなってきたこともあり、私たちは堀塚邸をあとにした。
明君、紗希ちゃんと携帯の番号を交換し、田舎から帰る前にはまた訪ねてくる約束をして。
74赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/03/19(月) 14:31:15.31 ID:zo1tMb5j0
11/14
夕暮れ時、帰りの坂道を下りながら、私は奈々ちゃんの事を美加に教えてあげる。
彼女の話が出てからずっと、美加が何か気になるような顔をしていたからだ。

美加「そうなんだ…」
私「うん。ちょっと悪い話題に触れちゃった」
気になっていたもう1人の女の子の事は、杵島のおじさんかおばさんに聞けば良かったなと思う。

美加「ふーん…」
私「どうかした?」
美加「ん?いやぁ、ねぇ…何でかなぁって」
私「何が?」
美加「私、全然気付かなかった、って言うか…そんな様子、少しもなかったじゃない?」
私「様子?」
美加「うん。ほらさ、私が初めて会った年に、明君はお父さんと妹さんを亡くしていた訳でしょ?」
私「そうね」
美加「1月に亡くして、私が会ったのが8月。まだ半年ちょっとしか経っていなかったけど、私の明君の第一印象って、明るく優しい元気な子なのよね」
私「それは…きっと、凄く頑張って立ち直ったのよ」
美加「まぁ、そうなんだろうけどさ…」

頑張って立ち直ったと言ったものの、確かに美加が不思議がるのもおかしくないかも知れない。
今思うと、明君は悲しい素振りや寂しい様子を、欠片も見せていなかった。
私が奈々ちゃんの事を思い出せなかったくらいに。
昔から勘の良かった美加が、気付かなかったくらいに。

父親だけでなく、あんなに仲がよかった奈々ちゃんも亡くして、天涯孤独の身になった明君。
それは、相当辛かっただろうけど…
私「紗希ちゃんが支えてくれたのよ」
きっとそうだろう。
釈然としない様子だったが、「そうだろうね」と美加も同意する。
明君と紗希ちゃんは、本当に仲が良い、お似合いの2人だ。
75赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/03/19(月) 14:32:26.85 ID:zo1tMb5j0
12/14
堀塚邸までの坂を下りて、来た時の道をそのまま戻っていく。
坂道では誰ひとり見掛けなかったが、麓の道に入るとポツポツと通行人がいる。
夕飯の時間が近いからか、誰もが気持ち、急ぎ足だ。

そういえば、今日の晩御飯はおばさんがご馳走を作ってくれると言っていた。
それを美加に伝えると、「楽しみだねぇ…ウヒヒ」と、他人には見せられないような笑い方をする。
まったく、食べるだけじゃなくて、ちゃんとお手伝いもさせないとな、なんて思っていると――

声「古乃羽ちゃん?」
突然、後ろから声を掛けられる。
こんなところで誰かな?と思って振り返ると、そこには着物を着た、見覚えのあるお婆さんが立っていた。

私「あ、紗希ちゃんの…」
お婆さん「やっぱり。大きくなったわねぇ」

紗希ちゃんのお婆さん――父方のお婆さんである、堀塚雅代さん。
堀塚家の前当主である、堀塚大安さんの奥さんだ。
現在の堀塚家には、こちらの雅代さんと紗希ちゃんのご両親、紗希ちゃんと明君の5人が暮らしている。

私「お久しぶりです。今丁度、お邪魔していたんですよ」
雅代「そうなの…ありがとうね。あの子、喜んでいたでしょう」

…うーん。

昔から紗希ちゃんのお婆さんは、私が紗希ちゃんを訪ねると「ありがとう」と言う。
お友達なのだから、普通だと思うのだけど…。
76赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/03/19(月) 14:35:11.53 ID:zo1tMb5j0
13/14
美加「あれ?」
横で美加が声をあげる。

私「どうしたの?」
美加「いやぁ…。はじめまして、神尾美加です」
そう言って、ペコリと頭を下げる美加。

私「あれ、会った事ないっけ」
美加「無くはないんだけど…」
雅代「はじめまして、堀塚雅代と申します…今朝は御免なさいね」
美加「えへへ…」

今朝って…?
…あぁ、そういうことか。

挨拶だけを済まし「それじゃあ、またいらしてくださいね」と言って、去っていく雅代さん。
少しお話したかったけど、夕飯の時間も近いからかな。

私「美加が今朝会ったお婆さんって、雅代さんの事だったのね」
再び歩き出しながら、聞いてみる。

美加「そうなるね。紗希ちゃんのお婆ちゃんだったんだ」
私「うん。紗希ちゃんのお父さんの、お母さんだよ」
美加「何か、不思議ねぇ」
私「ん?世間は狭い、って?」
ここの町が狭い、って言った方が正確かな?

美加「それもそうだけど、紗希ちゃんの家ってお金持ちじゃない」
私「うん」
美加「でも、あのお婆さん…雅代さんって、ここからどこにも行った事が無いのよ?」
77赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/03/19(月) 14:35:56.23 ID:zo1tMb5j0
14/14
私「あ、そっか…」

美加「元気そうだし、行きたくない訳でもなさそうだし、お金の問題も無さそうだし…」
私「うーん…」

堀塚家のことだから、変な家風があるとか?…と思ったけど、それも無さそうだ。
現に今、紗希ちゃんのご両親は町の外まで出掛けている。
と、なると…

私「紗希ちゃんに遠慮しているとか…」

雅代さんは、昔から紗希ちゃんの事をとても気に掛けている。
足の不自由な紗希ちゃんに遠慮している可能性はありそうだ。

美加「でも、紗希ちゃんだって行こうと思えば行けるじゃない。車椅子でだって、遠出できない訳じゃないし」
私「そうだけどさ」
美加「それにさ、1度も無いってことは、紗希ちゃんが生まれる前からって事でしょ」
私「あ…そうだね」

そうだった。
雅代さんは、確か70過ぎだ。
つまり、70年間この町の外に出た事がない…?

ちょっと信じ難い話だけど、雅代さんが嘘を付く理由も無い。
私たちは得体の知れない、なんだかモヤモヤしたものを感じながら家へと帰っていった。



78本当にあった怖い名無し:2012/03/19(月) 15:00:41.69 ID:P8Zj2W3e0
赤緑乙。

だいぶこなれてきたね。
79本当にあった怖い名無し:2012/03/19(月) 15:03:20.67 ID:5WbgsOBxO
また荒らしに来たか
80本当にあった怖い名無し:2012/03/19(月) 20:14:04.65 ID:BZeaX0ri0
いらない子(心底)キタ━━━( ゚∀゚ )━(∀゚ )━(゚  )━(  )━(  ゚)━( ゚∀)━( ゚∀゚ )━━━!!!!
81本当にあった怖い名無し:2012/03/20(火) 06:04:54.10 ID:Sk9b/Qyi0
ウニさん待ちです
82本当にあった怖い名無し:2012/03/20(火) 16:01:19.72 ID:MwK7uFIP0
赤緑乙
まだ何も始まってないようだがこの先どうなるか
83本当にあった怖い名無し:2012/03/20(火) 23:31:41.98 ID:lPEK/d/20
赤緑乙
息が長いよね、他皆どうしてるのかね
84本当にあった怖い名無し:2012/03/21(水) 01:09:28.30 ID:CzV/Adp+0
話を書くのは基本赤緑とウニで、たまに趣旨を理解してない単体の話が来るぐらいだよなこのスレ
85本当にあった怖い名無し:2012/03/21(水) 10:44:24.08 ID:ZEqwA4ET0
やっぱウニ人気に便乗した書き手が多かったのか
しかし最近のウニクオリティは簡単に真似できるものじゃないから便乗できない、と
しかし以前のウニの作風も需要ある様だし、色々書いてもらいたいね

ともあれ赤緑乙
86本当にあった怖い名無し:2012/03/21(水) 13:34:35.92 ID:fwZW6o820
ウニを真似するには小学生の作文以下の文章にしないと駄目だからな
87本当にあった怖い名無し:2012/03/21(水) 13:42:12.92 ID:q1trI7wa0
そんなにウニが憎いのかw
88本当にあった怖い名無し:2012/03/21(水) 18:53:27.76 ID:oPktqQZp0
ウニ人気に便乗ばかりでもないんじゃないの?
書き手に粘着して追い出したりするのに嫌気された方がでかい気がするけどね
89本当にあった怖い名無し:2012/03/21(水) 20:17:09.20 ID:OMwqxLGS0
ウニの真似ばかりだよ
90本当にあった怖い名無し:2012/03/23(金) 20:51:23.44 ID:6qUb5b/s0
おk
91本当にあった怖い名無し:2012/03/25(日) 03:09:58.50 ID:FeDnDxOK0
赤緑乙
92本当にあった怖い名無し:2012/03/26(月) 01:58:38.60 ID:MdGtSjlk0
俺のリア友が霊感があるみたいでそいつから聴いた話を
かいてもいいのかな?
93本当にあった怖い名無し:2012/03/26(月) 02:18:34.27 ID:fwPHdXqV0
俺の考えた師匠シリーズを書きたいって事だろ?
好きにすればいいんじゃね
94本当にあった怖い名無し:2012/03/26(月) 02:32:49.51 ID:MdGtSjlk0
そんなに面白い話じゃないんだけどね。
ただ今まで霊とかそういうのをあまり信じてなくて、霊感のある人にも
全然会ったことがなかったから、ちょっと衝撃をうけただけ。
ちなみにそのリア友はめっちゃピュアだから嘘をつくようなことはない。

ではぼちぼちかきます。
95本当にあった怖い名無し:2012/03/26(月) 02:47:11.20 ID:MdGtSjlk0
そのリア友(以下A子)が保育園児のころの話です。

A子はある友達と遊んでいたんだけど、その友達はちょっと変わっていて、
A子が話しかけるとそれに応答するといった感じだったらしい。

でもそれ以外はまったく普通の子で別に変な服を着ているとか、
顔面蒼白だとかそういうのはなかったらしい。
(それと俺が人間っぽいオーラがあったかどうか聞いたら、あったっていった。
だからA子にはその子が、全く普通の同い年の人間にうつっていたらしい。)

それである友達がA子に、「誰としゃべっているの?」っていったらしい。
要するにA子が遊んでいた子は、他の子には見えていなかったらしい。
そして、ある日その子は保育園に来なくなった。

・・・まだ続きます
96本当にあった怖い名無し:2012/03/26(月) 02:56:38.22 ID:MdGtSjlk0
A子が小学2、3年(どっちか忘れた)のとき、そのみんなにはみえなかった
子にそっくりな子が入学してきたんだって。

それでA子が、周りの友達に、「あの人、保育園のときの○○ちゃんに似ているね」
って言ったらしいんだけど、当然皆には見えていなかったわけだから、○○ちゃん
って誰?ってなったらしい。

A子本人曰く保育園の時の体験は、○○ちゃんが入学してくることを
暗示していたのかもしれないっていってた。

俺は、へぇ〜そんな不思議なこともあるのかなぁと思って、
今まで幽霊とかに対して疑問に思っていたことをきいてみた。

・・・・もうちょっと続きます。
97本当にあった怖い名無し:2012/03/26(月) 03:11:07.73 ID:MdGtSjlk0
俺の頭の中での幽霊は、顔面蒼白で、真っ白い服を着た生気の抜けた人って
イメージがあったから、そういう幽霊に会ったかどうか聞いてみた。

そしたら、神社(寺だったかもしれない)にいる幽霊は真っ白い服をきているよ
って言われた。

A子が大学に入る前(小学か、中学か、高校時代のいつかはわからない)、
友達と数人で神社(or寺)に肝試しにいってきたときの話です。

普通に本殿(賽銭箱のあるところ)にいってたら、真正面から真っ白い服を
きたひとが歩いてきたらしい。
A子にはその人がはっきりと見えていて、白い服を着ていたから、
住職さんかなと思ったらしい。
それで、その人とすれ違って、冗談のつもりでみんなに、
「今の幽霊っぽくなかった」って聞いてみたらしい。
でも皆には見えていなかったみたい。

他にも話を聞いているけど、あまり需要ないと思うから、
ここら辺でおわっておきます。
面白くない話ですみません。ってか文が雑ですみません。

一応言っておきますが、ガチでノンフィクションです。
98本当にあった怖い名無し:2012/03/26(月) 13:16:56.89 ID:pmLnaJdz0
ほんとにつまらなくワロタ

あと実話は実話スレがあるだろ。ここはラノベが歓迎されるからもう来ないでね
99本当にあった怖い名無し:2012/03/27(火) 05:21:13.29 ID:9l69TTXOO
>>98
言い過ぎw
100本当にあった怖い名無し:2012/03/27(火) 09:55:17.42 ID:1A8+tvkx0
シンプルな見える人の日常やな
霊感があるからってドラマチック展開てんこもりとか、そんなのは幻想なんやな
101本当にあった怖い名無し:2012/03/27(火) 12:12:53.79 ID:oZiqkSQ60
そういうの書いてくれる人もいたのにね
今は人自体少ないし書くのはラノベ屋とSSくずれの2人だが
102本当にあった怖い名無し:2012/03/28(水) 01:55:01.74 ID:/0VvSc8P0
「人間っぽいオーラがあったかどうか聞いたら」ってお前ら普段からオーラちからでも操ってるのかよw
103本当にあった怖い名無し:2012/03/28(水) 18:44:38.68 ID:48I9A+GC0
オーラちからって何?
104本当にあった怖い名無し:2012/03/28(水) 19:34:31.95 ID:/0VvSc8P0
105本当にあった怖い名無し:2012/04/01(日) 13:40:21.55 ID:kw0GFUgM0
話は繋がってなくても登場人物が同じならスレ違じゃない?
106本当にあった怖い名無し:2012/04/01(日) 13:43:58.62 ID:PcuOvYLX0
じゃない
107本当にあった怖い名無し:2012/04/01(日) 14:42:07.99 ID:JxMqSZoXO
>>105
ウニ以外はスレチ
108本当にあった怖い名無し:2012/04/01(日) 20:52:50.43 ID:IVe3qCDq0
うに・・・?
109本当にあった怖い名無し:2012/04/02(月) 02:55:32.42 ID:Kg9Hs8Lt0
べつにいいじゃん。その娘のエピソードいくつか書いてくれたら、シリーズ物にならないかな?書いてほしいのですが
110本当にあった怖い名無し:2012/04/02(月) 17:14:13.14 ID:jxKqW7hl0
そもそもシリーズ物って同一人物を軸にしたストーリー物だとおもうよ
111本当にあった怖い名無し:2012/04/03(火) 12:06:25.58 ID:ryMJAHtH0
とにかく書いてみるのさ
112本当にあった怖い名無し:2012/04/03(火) 19:38:21.39 ID:fxe8D4n20
その話がつながってないってのがどの程度かにもよるだろ
探偵小説レベルならシリーズものだし、スターシステムレベルなら違うだろ
113本当にあった怖い名無し:2012/04/03(火) 22:42:34.98 ID:utIqbs4h0
おk
114本当にあった怖い名無し:2012/04/03(火) 23:43:18.55 ID:dRcxSSb3O
ウニなら何を書いてもシリーズ物
過去スレで何度も出てる話題だぞ
11592:2012/04/04(水) 18:42:07.81 ID:VKaxRRPv0
シリーズ物の定義って案外難しいんだなw
ちなみに俺の書いた話しは、主人公は同じで、ノンフィクってことになってるけど、
ただその主人公が体験した話を羅列しただけじゃ
シリーズ物にはならないのかな?

もっと聞きたいという人もいるみたいだし、スレチじゃなければかきたいんだけど。
116本当にあった怖い名無し:2012/04/04(水) 18:45:21.57 ID:jR2FOiXp0
ウニさん待ちです
117本当にあった怖い名無し:2012/04/04(水) 21:17:40.50 ID:jR2FOiXp0
おk
118本当にあった怖い名無し:2012/04/05(木) 03:05:52.12 ID:Ny+RWUth0
>>115
取り敢えず書いて欲しいなー 読みたいなー
119本当にあった怖い名無し:2012/04/05(木) 12:42:26.69 ID:Vv3NDJE80
俺もそのゴミみたいなラノベモドキを読みたいな〜
120本当にあった怖い名無し:2012/04/05(木) 14:45:20.98 ID:5FFttTX+0
本人がシリーズと思ったらシリーズ物ですよ
12192:2012/04/05(木) 17:49:12.04 ID:A0cjgYRd0
では書かせてもらいます。

(ちなみに自分で後から読み返したら、まったく面白くなくて笑えてきた(ノд-。)
これはA子の話が面白くないというより、俺の文章力に問題があると思う
12292:2012/04/05(木) 18:06:25.67 ID:A0cjgYRd0
A子が小学時代の話なんだけど(学年はわからない)、A子の小学校の周りには
川があって、ある日その川のほうから大勢の子どもの笑い声が聞こえてきたんだって。

でも川の辺りを見回しても誰も居なかったから、
どこか他の場所で子どもが笑っていて、それが反射して川で聞こえているの
かなとか思っていたらしく、そのときはさほど気にしていなかったらしい。

だけどその笑い声はその日以来、ほぼ毎日聞こえるようになって運動場に誰もいないようなときでも
聞こえていてさすがにちょっとおかしいなとは思ってきたみたい。

だからある日友達を川の辺りまで連れて行って、「なんか人の笑い声が聞こえない?」
とか聞いてみたらしい。だけどどの子に聞いても「聞こえない」って言われて
そのとき初めて、これは私にしか聞こえない奴だ(いわゆる幽霊の類)と知ったらしい。

ちなみにA子はその川のほうが気になっていたからほぼ毎日行って川を確認していた
らしいんだけど、周りの皆はなんにも聞こえてなかったから、「またあいつ川の方へ行ってるよ」
とかで変な目で見られていたらしい。

12392:2012/04/05(木) 18:17:34.92 ID:A0cjgYRd0
次は、A子が確か中学時代の話。

A子は登下校で、ある一本道を通るんだけど、どうもそこがおかしかったらしい。
どこがおかしいかというと、絶対に誰もいないのに、なんか見られているような気がしたり
足音がしたり、石を投げられたり。
もちろん辺りを見回しても誰もいなくて、また幽霊かなとは思っていたみたい。
でも、何にも見えなかったから考えすぎかなとも思っていたらしい。

ある日、A子が下校していてその道を通っていると、また誰かに見られているような気が
したらしい。
そこで辺りを見回していると、なんか無数の目?がこっちを見ているのをみていたらしい。
(ここら辺記憶があやふやで自分で書いても意味分からない(涙))
ちなみにその日以来、その不思議な現象も収まったみたい。
12492:2012/04/05(木) 18:40:50.27 ID:A0cjgYRd0
ここでA子の霊感の強さについて。
A子は幽霊とかははっきり見えるんだけど、はっきり見えすぎて
それが幽霊かどうかはわからないらしい。
友達とかといて、初めてそれが幽霊かどうかがわかるらしい。

A子の父さんと、おばあちゃんも霊感があって、父さんからは「A子が一番霊感が強い」
といわれているらしい。
でもA子本人曰く、「私は、他の人の霊感の強さとか分からなくて、ただ見えるだけだから
父さんの方が強いと思う。」とは言ってた。
12592:2012/04/05(木) 18:41:37.38 ID:A0cjgYRd0
そのA子の父さん(以下Bさん)が体験した話。
Bさんもいわゆる見える人らしく、そういう類のものをいろいろ見たんだけど、
そのBさんがいままで体験した中で一番怖かった話を書きます。

Bさんはある道を運転していた。(昼夜とかどんな道とかは知らない)
そこでふとルームミラーをみると、後部座席に人の生首があったらしい。(生首の性別、状態などは不詳)
さすがにBさんでもこれにはビックリしてとにかく早く逃げようと急発進でそこから
逃げようとしたらしい。
すると、ちょっといったところにお地蔵さんの首が道の真ん中に落ちてあったらしい。
なんで首だけがとれていたのかわからなかったらしいけど、とりあえず辺りを見回すと、
首がないお地蔵さんがいたから元の位置に首を戻して
後部座席をのぞいてみたら生首は消えていたらしく、お地蔵さんが助けを求めていたのかも
しれないってBさんは言ってたみたい。
(聞いていて助けたことになっているのか?とは疑問に思いまくった。)

12692:2012/04/05(木) 18:50:51.43 ID:A0cjgYRd0
A子とBさんが体験した話。

A子が寝ていると、夜居間の方でばかでかい女の人の悲鳴が聞こえたらしい。
A子はビックリして居間に出てみると、テレビを見ていた母一人のみ。
テレビの音量は普通でA子は母に「いま悲鳴が聞こえなかった?」と聞いてみるが
母は「全然聞こえなかった。」
それからすぐしてBさんも居間にやってきて、「今悲鳴が聞こえなかったか?」と
と聞いたらしい。
でも、それからしばらく居間にいても何にも聞こえなかったからまたそれぞれの部屋に
戻っていった。

そしてある日、また女の人のばかでかい悲鳴が聞こえたらしい。
またA子はびっくりして居間に出てみても誰も居なくて、Bさんも出てきたらしい。
A子の母は聞こえていなかったみたいだから、また幽霊とかそういう類のものか
という結論になったらしい。
ちなみにその悲鳴はちょくちょく聞こえるらしく、その悲鳴があるたびにA子とBさんはビックリして
居間に駆けつけるみたい。
本当にリアルな声だから何度聞いても慣れないらしいw

さて、俺が聞いている話は以上です。見てくださった方ありがとうです。
127本当にあった怖い名無し:2012/04/05(木) 20:15:21.67 ID:JcXog9CN0
>>92さん
面白かった!ありがとう!
128本当にあった怖い名無し:2012/04/05(木) 20:50:49.18 ID:ryFlKeZ8O
第二のウニの誕生だ!やったね!
129本当にあった怖い名無し:2012/04/06(金) 20:40:29.76 ID:xI6dlxC20
おk
130本当にあった怖い名無し:2012/04/06(金) 22:40:35.83 ID:p8KjbGAu0
なんていうオーラだ
読む前から感動して目が潤んで読めない
131本当にあった怖い名無し:2012/04/06(金) 23:11:11.08 ID:p4kSK/l10
>>92
乙。久々にこういうの読めてよかった。
132本当にあった怖い名無し:2012/04/07(土) 04:14:51.27 ID:AvGi8Qj9P
捏造のない聞いた話って素直でいいね。
133本当にあった怖い名無し:2012/04/07(土) 07:18:00.21 ID:K9ngag6B0
おk
134本当にあった怖い名無し:2012/04/07(土) 07:36:53.00 ID:K9ngag6B0
ウニさん待ちです
135本当にあった怖い名無し:2012/04/08(日) 22:59:50.48 ID:lbjwSQ2Y0
遅ればせながら、乙です。おもしろかった。
136本当にあった怖い名無し:2012/04/11(水) 21:41:17.87 ID:BWO/P/Gp0
>>92
ただただ奇妙な日常がそこにある
137本当にあった怖い名無し:2012/04/11(水) 22:14:21.14 ID:uayE+9400
>さて、俺が聞いている話は以上です。見てくださった方ありがとうです。

単発じゃねーか
マジで死ねよ。スレタイ読めないのかお前
つか「見てくださった方」って馬鹿か?読んでくださった、だろ。日本語もできないなら書き込むなボケ
138本当にあった怖い名無し:2012/04/12(木) 07:20:46.75 ID:XpVGgsiQ0
4本分の話をまとめて投下したんだなって解釈してたがな。
139本当にあった怖い名無し:2012/04/15(日) 14:48:33.20 ID:5opzccRw0
ウニさん待ち
140本当にあった怖い名無し:2012/04/15(日) 15:03:49.53 ID:czJgzVea0
口チャック
141本当にあった怖い名無し:2012/04/16(月) 23:51:18.70 ID:a0t029j+0
ウニさん待ちです
142本当にあった怖い名無し:2012/04/17(火) 19:26:53.61 ID:cMQAMZ8l0
コチャック
143本当にあった怖い名無し:2012/04/20(金) 23:16:51.81 ID:jlCArSHk0
シリーズ物は流行りだったのかな・・・
144本当にあった怖い名無し:2012/04/22(日) 14:05:38.43 ID:H+11qpVT0
どこで流行ったんだよ
145赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/04/23(月) 09:42:51.86 ID:visX3y3t0
[得るものはない]

1/11
深夜。

時刻は2時を過ぎた頃だ。
辺りはすっかり暗闇に包まれている。

良い頃合だ…
そう思いながら、俺は目の前の邸宅を見上げる。

ここ数日で下調べは済んでいる。
この家の住人は5人。
しかし主夫婦は不在なので、今家に居るのは3人だけだ。
その3人とは、年老いた婆さんと1人娘のお嬢さま、そして使用人の男。

この使用人の若い男には気を付けなければならないだろう。
しかし、もし万が一見つかり、面倒なことになりそうなら…有無を言わさず仕留めるつもりだ。
そう思いながら、俺は使い慣れたナイフを確認する。
146赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/04/23(月) 09:45:08.01 ID:visX3y3t0
2/11
田舎の山の中にある豪邸。
俺なんかにとって、これほど仕事のしやすい所はない。

しかもこの家は、金持ちの癖に何のセキュリティもされていない。
まったく平和ボケというか…これじゃあ強盗に入ってくださいと言っている様なものだ。

俺は建物の裏手に回り、予め目を付けていた窓の前に立つ。
格子の付いていないトイレの窓。
顔より少し高い位置にあるが、入ろうと思えば楽に入れる。

さて、テープでも貼って叩き割ろうか…と思い、手袋をした手で窓に触れたところで俺は吹き出しそうになる。

ふん…なんとまぁ…。

鍵が開いている。
呆れてしまう。まったく、拍子抜けだ。

俺はそっと窓を開けると、身を躍らせて中に侵入する。

もちろん、拍子抜けしたと言っても警戒は怠らない。
トイレという場所は、この時間最も人と出くわす可能性が高い場所だ。
夜中に目を覚ました住人は、大抵がここに来るだろうからな…。
147赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/04/23(月) 09:47:26.46 ID:visX3y3t0
3/11
家に侵入した俺は入ってきた窓を閉め、ある部屋へと向かう。
その部屋とは、この家のお嬢さま――紗希という女の部屋だ。
家の外観から、部屋の位置の検討は付いている。

俺の目的は、もちろん金だ。女ではない。
しかし…
遠目にだが、見上げた窓に映るあの女はなかなかの美人だった。
しかも噂によると足が不自由らしい。
…つまり、容易に逃げることはできないということだ。

そんな女が、少し人里離れたこんな場所で無防備に暮らしている。
無論1人で暮らしている訳ではないが、俺にとっては同じことだ。
簡単に潜り込める場所に1人で居るのだから。

それが如何に危険なことか、俺が教えてやろう。
じっくりと、その身をもって学ばせてやろう…。

そう思いながら俺は2階への階段を上がり、目的の部屋へと向かう。

辺りは静まり返り、夜鳥の鳴き声が聞こえるばかりだ。
余りに静か過ぎると仕事がやりにくい事もあるが、これだけ広い家なら問題ないだろう。
それに万が一誰かが気付き、部屋にやってきたとしても…女を人質に取ればいい。
148赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/04/23(月) 09:52:08.06 ID:visX3y3t0
4/11
足音を忍ばせて部屋の前に着いた俺は、そっとノブに手を掛け、ゆっくりとドアを開ける。
…鍵が掛かっている可能性も考えたが、ドアはすんなりと開いてくれた。
そして滑り込むように中へと入り、音も無くドアを閉める。

カーテンの隙間から差し込む月明かりのみの、暗い室内。
既に暗闇に目が慣れていた俺は、部屋の中をサッと見渡し…眉をひそめる。

…ちっ。

窓際のベッド。
当然そこに女が寝ているだろうと思いきや――
そこには狐のヌイグルミが1つ、ポツンと置かれているだけだったのだ。

トイレにでも行ったか?

そう思いながら俺はベッドに近付き、シーツに触れる。

――冷たい。
人が寝ていた形跡もない。
これは…?

…あぁ。
ふん、そうか…。

女がこの部屋で寝ていない理由について、すぐに1つの考えに行き着く。

あの男だ。
使用人の若い男。恐らくあの男のところだろう。
両親が留守なのを良いことに…ってところか?
149赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/04/23(月) 09:54:57.79 ID:visX3y3t0
5/11
獲物を横取りされたような気分になるが、不自由な身でありながらここに居ないことを考えると、女は自分の意思で行ったのかも知れない。

…仕方ない。
わざわざ男の部屋を探すのも面倒だ。

そう思った俺は、本来の仕事に戻ることにした。

――金目のものを、根こそぎ奪う。

まずはこの部屋からだ。
金持ちの、1人娘のお嬢さま。さぞかし高価な物を持っていることだろう。

俺は室内を見渡し、目に付いた鏡台に向かう。

――その時から、多少の違和感はあった。

そして鏡台の前に立ち、引き出しを片っ端から開ける…

…が。

クソッ…やっぱりだ。

何もない。
どこにも、何も入っていやしねぇ…。
150赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/04/23(月) 09:57:31.65 ID:visX3y3t0
6/11
そもそも、おかしいとは思ったのだ。
何しろ鏡台の上には、何一つ置いていないのだ。
化粧品はおろか、手鏡の1つさえ。

几帳面に全て仕舞い込んでいるのかとも思ったが、やはり何も無かった。
この鏡台は使っていないのか?
身支度は別の部屋でやっているのか?
ならば、なぜ鏡台がここに置いてある?

…いや、考えるだけ無駄か。
どうでも良い事だ。
お嬢さまがどこで化粧をしようと、そんな事に興味はない。

俺は気を取り直し、次に目をつけていた箪笥へと向かう。
そして、一番上の小さな引き出しを開け…他の引き出しも開け放っていく。

…何だ?

全て空だ。
何一つ入っていない。

ならば――

俺は勢い込んでクローゼットの前まで行き、その扉を思いっ切り開ける。

…無い。
服が一着も掛かっていない。
クローゼットの中には、忘れ去られたようなハンガーが数個ぶら下がっているだけだった。
151赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/04/23(月) 09:59:03.74 ID:visX3y3t0
7/11
何だこれは…。どうなっている?
あまりにも予想外なことに、俺は軽い眩暈に襲われる。

ここは誰も使っていない部屋なのか?

…いや。
そんな訳は無い。

俺はここ数日の間、この家を見張っていたから知っている。
今日――正確には昨日の昼過ぎ、2人の若い女がこの部屋を訪れてきているのだ。

では、部屋を間違えたか?

…いや、それも無い。
これ以上無いほど、確実な目印がある。
それは窓だ。窓の形を見れば分かる。
他の部屋とは異なり、この部屋だけ出窓になっているのだ。
間違いようが無い。

しかし…

ならば何故、ここには何も無い?
何故、ベッドや箪笥といった家具しか置いていない?
152赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/04/23(月) 10:00:35.11 ID:visX3y3t0
8/11
待てよ…

その場に立ち尽くし、しばし考え込んでしまった俺は1つの解を見つける。

そうか分かったぞ…。
あの女、部屋を移ったな?

これだけ大きな家だ。他にも部屋は沢山ある。
恐らく、気分を変えるためにと言って女は部屋を変えたのだろう。
何しろ不自由な身だ。
毎日ずっと同じ部屋と同じ景色では、気が滅入ってしまう…とか、そんな理由だろう。

納得できる考えが浮かんだ事に俺は満足し、安心する。
たとえ間違っていても良い。
気を落ち着かせ、冷静を保てることが出来ればそれで良いのだ。

…そうとなれば、この部屋に用は無い。

俺は何もない無人の部屋を出ると、次の部屋へと向かう。

それは主夫婦の部屋だ。
元々はそこが一番の狙いであった。
153赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/04/23(月) 10:02:06.90 ID:visX3y3t0
9/11
3階建ての邸宅の、その3階にある主夫婦の寝室。
そこに隣接した書斎部屋。
この家で、最も金の匂いのする場所だ。

部屋の検討を付けていた俺はまっすぐそこに向かい、まずは寝室へと入る。
夫婦の留守を良いことに、使用人の男とお嬢さまが寝ている可能性も少しだけ考えたが、そこには誰もいなかった。
婆さんもいる訳だし、流石にそこまではしない、か。

フン、と鼻を鳴らしてから、2つ並んだ高級そうなベッドを横目に、俺は大きなクローゼットの扉に手を掛ける。
そしてゆっくりとその扉を開け――

――同時に、全身の力が抜けていくのを感じる。

バカな…ここも!?

そのクローゼットの中は、またしても空であった。

どうなってんだ?
意味が分からねぇ…

俺は脱力した目でベッドを見る。

ベッドは…綺麗にメイキングされている。
先ほどの部屋もそうだった。シーツも枕も掛け布団もあったのだ。
それなのに…何だ?これは。
154赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/04/23(月) 10:04:35.18 ID:visX3y3t0
10/11
一切合切、何も無いというわけではないのだ。
室内に、TVや小型の冷蔵庫といった家具は、普通に置いてある。
ベッドの横のナイトテーブルには、花瓶やメモ用紙といった物もある。

生活感は十分に感じられる。
それはそうだ。実際に人が住んでいるのだから。
しかし…俺の望むものが、一切ない。
俺の狙う金目のものが、一つも目に付かないのだ。

俺はフラフラと隣の書斎部屋へ行く。
そこには大きな本棚があり、大量の本が置いてあった。
しかし俺は、本になど興味は無い。
例えその中に高価な本があったとしても、俺には分からないし…
そんな本は、決して置いていないだろう。なぜか確信できる。

部屋に置いてある書斎机は、どっしりとした高級感に溢れている。
しかし、こんなものは盗みようがない。
机の上には様々なものが置いてあるが、金目のものは何も無い。引き出しのどこを探しても見つからない。
万年筆用のインク入れが目にとまるが…どこを探しても、万年筆自体は無い。
きっと高価なものだから置いていないのだろうと、そんな風に思えてしまう。
155赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/04/23(月) 10:06:10.44 ID:visX3y3t0
11/11
――ここは駄目だ。
この家は駄目だ。何か異常だ。まるで…
…いや、考えないでおこう。今やるべきことは1つ。
速やかにこの家から立ち去ることだ。

俺は急いで、かつ慎重に書斎部屋を出る。
慎重に。そう、こんな時こそ慎重に行動しなければならない。
異常な事態に遭遇するのは、これが初めてではない。
以前盗みに入った家でも、衝撃的な光景に出くわした事がある。

――その家の夫婦が、揃って首を吊っていたのだ。

それに比べれば、異常性は高いかも知れないが、冷静さを失うほどではない。
俺は落ち着いて1階まで降り、玄関まで行く。
帰りはここからだ。入ってきたように、わざわざトイレから外に出る必要もない。
玄関の鍵を開け、重々しい扉を開き…ゆっくり表に出ると、俺は夜空を見上げて一息つく。

ふぅ…。まったく奇妙な家だった。2度と来たくもない。
今日はもう休んで…明日は別の家にお邪魔するとしよう…。

そんな事を考えながら門を出て、坂を下りようとした、そのときだった。
視界の隅に何かを見たような気がして俺は振り向く。

…振り向いたその先にある道。
家の方ではなく、山の上へと真っ直ぐに続くその道の先。

そこに、1人の女が立っていた。



156本当にあった怖い名無し:2012/04/23(月) 10:10:16.13 ID:NW1/BSUP0
早く誰か作品投下しに来ないかな
157本当にあった怖い名無し:2012/04/23(月) 10:12:09.08 ID:JX/Sa26P0
赤緑、乙。
昔よりはかなり読みやすくなったよ。

がんばっているのは赤緑くらいのものだな。
158本当にあった怖い名無し:2012/04/23(月) 12:55:39.80 ID:uypa2yEX0
赤乙
159本当にあった怖い名無し:2012/04/23(月) 16:12:50.83 ID:xhj3K7uC0
ウニキタ━(゚∀゚)━!と思ったらこいつか・・・
160本当にあった怖い名無し:2012/04/23(月) 19:17:38.69 ID:EdSuWAe9i
>>159
ウニの投下は週末の深夜だけ
おまえの気持ちは痛いほどわかるがw
161本当にあった怖い名無し:2012/04/23(月) 23:59:13.39 ID:UQVWjWcw0
乙乙
162本当にあった怖い名無し:2012/04/24(火) 06:04:50.61 ID:LncywXjaP
ちょっと初期の時思い出したな
163本当にあった怖い名無し:2012/04/25(水) 07:24:38.07 ID:qbnnsxk40
おお、赤緑乙です
164本当にあった怖い名無し:2012/04/25(水) 08:42:44.85 ID:muiGhwT0O
猛者シリーズって三話までしかない?
165本当にあった怖い名無し:2012/04/27(金) 01:44:16.31 ID:VDKQqY6b0
ここのじゃないけど巣くうものシリーズが好きだな
166本当にあった怖い名無し:2012/04/27(金) 14:10:18.29 ID:8VkqqLIV0
漫画の人はもういないの?
167本当にあった怖い名無し:2012/04/27(金) 18:58:46.94 ID:Px3/h/9N0
漫画の人?
168本当にあった怖い名無し:2012/04/27(金) 21:40:47.28 ID:8VkqqLIV0
あ、漫画家の卵だかなんかの人がいたのここじゃないっけ?
169本当にあった怖い名無し:2012/04/29(日) 19:18:50.65 ID:tgLF2l7e0
漫画家の卵は知らないが漫画家のアシスタントは枯野?
夏に他のスレに投下してるの見た気がする
170本当にあった怖い名無し:2012/05/01(火) 14:27:42.30 ID:PdJBW24Z0
もう今年の夏の足音がするがな
171本当にあった怖い名無し:2012/05/01(火) 21:46:57.68 ID:+jzygSvQi
誰かとんがらしの作品まとめて読めるサイト知らない?
172本当にあった怖い名無し:2012/05/03(木) 01:04:36.61 ID:p8tQhKJx0
とんがらし懐かしいね
何であんな投下方法だったんだっけ
173本当にあった怖い名無し:2012/05/04(金) 11:00:04.09 ID:7GOfTSqJ0
最近みないな
174本当にあった怖い名無し:2012/05/05(土) 14:30:10.98 ID:DL54V67o0
アドパp3@3
175本当にあった怖い名無し:2012/05/05(土) 20:19:33.33 ID:h8VjcX8X0
ウニさん待ちです
176本当にあった怖い名無し:2012/05/07(月) 23:59:36.29 ID:/GrYFAa90
マサとの不思議な体験待ちです
177本当にあった怖い名無し:2012/05/08(火) 01:40:52.30 ID:0lbvzhBj0
枯野の消息待ちです
178本当にあった怖い名無し:2012/05/08(火) 02:53:00.82 ID:QN0/TW5f0
忍の人と、お姉さん、元気にしてるかなぁ…
179本当にあった怖い名無し:2012/05/08(火) 06:21:27.82 ID:Vde8eqNO0
忍の人は一応問題解決したらしい
もう二度と忍にいいようにはやられんでしょう
やられたら単なる馬鹿でもはやどうしようもない
180本当にあった怖い名無し:2012/05/08(火) 14:14:07.05 ID:QN0/TW5f0
>>179
そうでしたか!
気になっていたのでホッとしました。
ありがとうございます。
181本当にあった怖い名無し:2012/05/09(水) 00:24:05.12 ID:Wv8YjPpbO
自演臭がハンパないッスねw
182本当にあった怖い名無し:2012/05/09(水) 03:08:09.57 ID:I270mpcg0
↑きもっ
183風の行方  ◆oJUBn2VTGE :2012/05/11(金) 21:09:55.96 ID:wBpB+Oun0
師匠から聞いた話だ。


大学二回生の夏。風の強い日のことだった。
家にいる時から窓ガラスがしきりにガタガタと揺れていて、嵐にでもなるのかと何度も外を見たが、空は晴れていた。変な天気だな。そう思いながら過ごしていると、加奈子さんという大学の先輩に電話で呼び出された。
家の外に出たときも顔に強い風が吹き付けてきて、自転車に乗って街を走っている間中、ビュウビュウという音が耳をなぶった。
街を歩く女性たちのスカートがめくれそうになり、それをきゃあきゃあ言いながら両手で押さえている様子は眼福であったが、地面の上の埃だかなんだかが舞い上がり顔に吹き付けてくるのには閉口した。
うっぷ、と息が詰まる。
風向きも、あっちから吹いたり、こっちから吹いたりと、全く定まらない。台風でも近づいてきているのだろうか。しかし新聞では見た覚えがない。天気予報でもそんなことは言っていなかったように思うが……
そんなことを考えていると、いつの間にか目的の場所にたどり着いていた。
住宅街の中の小さな公園に古びたベンチが据えられていて、そこにツバの長いキャップを目深に被った女性が片膝を立てて腰掛けていた。
手にした文庫本を読んでいる。その広げたページが風に煽られて、舌打ちをしながら指で押さえている。
「お、来たな」
僕に気がついて加奈子さんは顔を上げた。Tシャツに、薄手のジャケット。そしてホットパンツという涼しげないでたちだった。
「じゃあ、行こうか」
薄い文庫本をホットパンツのお尻のポケットにねじ込んで立ち上がる。
彼女は僕のオカルト道の師匠だった。そして小川調査事務所という興信所で、『オバケ』専門の依頼を受けるバイトをしている。
今日はその依頼主の所へ行って話を聞いてくるのだという。
僕もその下請けの下請けのような仕事ばかりしている零細興信所の、アルバイト調査員である師匠の、さらにその下についた助手という、素晴らしい肩書きを持っている。
あまり役に立った覚えはないが、それでもスズメの涙ほどのバイト代は貰っている。
184風の行方 前編  ◆oJUBn2VTGE :2012/05/11(金) 21:12:15.96 ID:wBpB+Oun0
具体的な額は聞いたことがないが、師匠の方は鷹だかフクロウだかの涙くらいは貰っているのだろうか。
「こっち」
地図を手書きで書き写したような半紙を手に住宅街を進み、ほどなく小洒落た名前のついた二階建てのアパートにたどり着いた。
一階のフロアの中ほどの部屋のドアをノックすると、中から俯き加減の女性がこわごわという様子で顔を覗かせる。
「どうもっ」
師匠の営業スマイルを見て、少しホッとしたような表情をしてチェーンロックを外す。そしておずおずと部屋の中に通された。
浮田さんという名前のその彼女は、市内の大学に通う学生だった。三回生ということなので、僕と師匠の中間の年齢か。
実は浮田さんは以前にも小川調査事務所を通して、不思議な落し物にまつわる事件のことを師匠に相談したことがあったそうで、その縁で今回も名指しで依頼があったらしい。
道理で気を抜いた格好をしているはずだ。
ただでさえ胡散臭い「自称霊能力者」のような真似事をしているのに、お金をもらってする仕事としての依頼に、いかにもバイトでやってますとでも言いたげなカジュアル過ぎる服装をしていくのは、相手の心象を損ねるものだ。
少なくとも初対面であれば。
師匠はなにも考えてないようで、わりとそのあたりのTPOはわきまえている。
「で、今度はなにがあったんですか」
リビングの絨毯の上に置かれた丸テーブルを囲んで、浮田さんをうながす。
学生向きの1LDKだったが、家具が多いわりに部屋自体は良く片付けられていて、随分と広く感じた。師匠のボロアパートとは真逆の価値観に溢れた部屋だった。
「それが……」
浮田さんがポツポツと話したところをまとめると、こういうことのようだ。


彼女は三年前、大学入学と同時に演劇部に入部した。高校時代から、見るだけではなく自分で演じる芝居が好きで、地元の大学に入ったのも、演劇部があったからだった。
定期公演をしているような実績のあるサークルだったので部員の数も多く、一回生のころはなかなか役をもらえなかったが、くさらずに真面目に練習に通っていたおかげで二回生の夏ごろからわりと良い役どころをやらせてもらえるようになった。
185風の行方 前編  ◆oJUBn2VTGE :2012/05/11(金) 21:15:08.37 ID:wBpB+Oun0
三回生になった今年は、就職活動のために望まずとも半ば引退状態になってしまう秋を控え、言わば最後の挑戦の年だったのだが、下級生に実力のある子が増えたせいで、思うように主役級の役を張れない日々が続いていた。
下級生だけのためではなく、本来引退しているはずの四回生の中にも、就職そっちのけで演劇に命を賭けている先輩が数人いたせいでもあった。
都会でやっているような大手の劇団に誘われるような凄い人はいなかったのだが、バイトをしながらでもどこかの小劇団に所属して、まだまだ自分の可能性を見極めたい、という人たちだった。
真似はできないが、それはそれで羨ましい人生のように思えた。
そしてつい三週間前、文化ホールを借りて行った三日間にわたる演劇部の夏公演が終わった。
同級生の中には自分と同じように秋に向けてまだまだやる気の人もいたが、これで完全引退という人もいた。
年々早くなっていく就職活動のために、三回生とってはこの夏公演が卒業公演という空気が生まれつつあった。
だが、彼女にとって一番の問題は、就職先も決まらないまま、まだズルズルと続けていた四回生の中の、ある一人の男の先輩のことだった。
普段からあまり目立たない人で、その夏公演でも脇役の一人に過ぎず、台詞も数えるくらいしかなかったのだが、卒業後は市内のある劇団に入団すると言って周囲を驚かせていた。
誰も彼が演劇を続けるとは思っていなかったのだ。同時に、区切りとしてこれで演劇部からは引退する、とも。
その人が、夏公演の後で彼女に告白をしてきたのだ。
ずっと好きだったと。
なんとなくだが、普段の練習中からも粘りつくような視線を感じることがあり、それでいてそちらを向くと、つい、と目線を逸らす。そんなことがたびたびあった。いつも不快だった。気持ちが悪かった。
その男が、今さら好きだったなんて言ってきても、返事は決まっていた。
はっきりと断られてショックを受けたようだったが、しばらく俯いていたかと思うと、蛇が鎌首をもたげるようにゆっくりと顔を上げ、ゾッとすることを言ったのだ。
『髪をください』
口の動きとともに、首が頷きを繰り返すように上下した。
186風の行方 前編  ◆oJUBn2VTGE :2012/05/11(金) 21:17:21.65 ID:wBpB+Oun0
『せめて、思い出に』
そう言うのだ。大げさではなく、震え上がった。
「いやですよ。髪は女の命ですから」
と、最初は冗談めかしてごまかそうとしたが、それで乗り切れそうな気がしないことに気づき、やがて叫ぶように言った。
「やめてください」
男は怯んだ様子も見せず、同じ言葉を繰り返した。そして『一本でもいいんです』と懇願するような仕草を見せた。
彼女は「本当にやめてください」と言い捨てて、その場を逃げるように去ったが、追いすがってはこなかった。
しかしホッとする間もなく、それから大学で会うたびに髪の毛を求められた。『髪をください』と、ねとつくような声で。
彼と同じ四回生の先輩に相談したが、男の先輩は「いいじゃないか、髪の毛の一本くらい」と言って、さもどうでもよさそうな様子で取り合ってくれず、女の先輩は
「無駄無駄。あいつ、思い込んだらホントにしつこいから。まあでも髪くらいならマシじゃない? 変態的なキャラだけど、そこからエスカレートするような度胸もないし」と言った。
以前にも演劇部の女の同級生に言い寄ったことがあったらしいのだが、その時も相手にされず、それでもめげないでひたすらネチネチと言い寄り続けて、とうとうその同級生は退部してしまったのだそうだ。
ただその際も、家にまで行くストーカーのような真似や乱暴な振る舞いに出るようなことはなかったらしい。
そんな話を複数の人から聞かされ、今回はその男の方が演劇部から引退するのだし、髪の毛だけで済むのならそれですべて終わりにしたい。そう思うようになった。
それで済むうちに……
そしてある夜、寝る前にテレビを消した時、その静けさにふいに心細さが込み上げてきて、「よし、明日髪の毛を渡そう」と決めたのだった。
しかし、いざハサミを手に持ってもう片方の手で髪の毛の一本を選んで掴み取ると、これからなにか大事なものを文字通り切り捨ててしまうような感覚に襲われた。
一方的な被害者の自分が、どうしてこんなことまでしなければならないのか。
そう思うと、ムカムカと怒りがこみ上げてきた。
187風の行方 前編  ◆oJUBn2VTGE :2012/05/11(金) 21:18:48.09 ID:wBpB+Oun0
そうだ。なにも自分の髪の毛でなくとも良いのだ。同じくらいの長さだったら、誰のだろうがどうせ分かりっこない。
そう思ったとき目に入ったのが、部屋の衣装箪笥の上に飾っていた日本人形だった。
子どものころに親に買ってもらったその人形は、今でもお気に入りで、この下宿先まで持ち込んでいたのだった。状態も良く、いつか自分が着ることを夢見た綺麗な着物を清楚にまとっていた。
そっとその髪に手を触れると、滑らかな感触が指の腹を撫でた。確か本物の人毛を一本一本植え込んでいると、親に聞かされたことがあった。
これなら……
そう思って、摘んだ指先に力を込めると一本の長い艶やかな髪の毛が抜けた。根元を見ると、さすがに毛根はついていなかったが、あの男も「抜いたものを欲しい」なんて言わなかったはずだ。
少し考えて、毛根のないその根元をハサミで少しカットした。これで生えていた毛を切ったものと同じになったし、長さも彼女のものより少し長めだったのでちょうど良い。
黒の微妙な色合いも自分のものとほとんど同じように見えた。
それも当然だった。両親は彼女の髪の色艶と良く似た人形を選んで買ってくれたのだから。
次の日、男にその髪の毛を渡した。ハンカチに包んで。
「そのハンカチも差し上げますから、もう関わらないでください」と言うと、思いのほか素直に頷いて、ありがとう、と嬉しそうに笑った。
最後のその笑顔も、気持ちが悪かった。カエルか爬虫類を前にしているような気がした。袈裟まで憎い、という心理なのかも知れなかったが、もう後ろを振り返ることもなく足早にその場を去った。すべて忘れてしまいたかった。
それから数日が経ち、その男も全く彼女の周囲に現れなくなっていた。
本人の顔が目の前にないと現金なもので、たいした実害もなかったことだし、だんだんとそれほど悪い人ではなかったような気がしはじめていた。
そして、メインメンバーの一部が抜けた後の最初の公演である、秋公演のことを思うと、自然と気持ちが切り替わっていった。
そんなある日、夜にいつものように部屋でテレビを見ている時にそれは起こった。
バラエティ番組が終わり、十一時のニュースを眺めていると、ふいに部屋の中に物凄い音が響いた。
なにか、硬い家具が破壊されたような衝撃音。
188風の行方 前編  ◆oJUBn2VTGE :2012/05/11(金) 21:20:52.18 ID:wBpB+Oun0
心臓が飛び上がりそうになった。うろたえながらも部屋の中の異常を探そうと、息を飲んで周囲に目をやる。
箪笥や棚からなにか落ちたのだろうかと思ったが、それらしいものが床に落ちている痕跡はない。そしてなにより、そんなたかが二メートル程度の高さから物が落ちたような生易しい音ではなかった。
もっと暴力的な、ゾッとする破壊音。
それきり部屋はまた静かになり、テレビからニュースキャスターの声だけが漏れ出てくる。
得体の知れない恐怖に包まれながら、さっきの音の正体を探して部屋の中を見回していると、ついにそれが目に入った。
人形だ。箪笥の上の日本人形。艶やかな柄の着物を着て、長い黒髪をおかっぱに伸ばし、……
その瞬間、体中を針で刺されるような悪寒に襲われた。
悲鳴を上げた、と思う。人形は、顔がなかった。
いや、顔のあった場所は粉々にくだかれていて、原型をとどめていなかった。巨大なハンマーで力任せに打ちつけたような跡だった。まるで自分がそうされたような錯覚に陥って、ひたすら叫び続けた。


浮田さんは語り終え、自分の肩を両手で抱いた。見ているのが可哀そうなくらい震えている。
「髪か」
師匠がぽつりと言った。
ゾッとする話だ。もし、彼女が自分の髪を渡していたら…… そう思うと、ますます恐ろしくなってくる。
なぜ彼女がそんな目に遭わなくてはいけないのか。その理不尽さに僕は軽い混乱を覚えた。
その時、頭に浮かんだのは『丑の刻参り』だった。憎い相手の髪の毛を藁人形に埋め込んで、夜中に五寸釘で神社の神木に打ち付ける、呪いの儀式だ。
藁人形を相手の身体に見立て、髪の毛という人体の一部を埋め込むことで、その人形と相手自身との間に空間を越えたつながりを持たせるという、類感呪術と感染呪術を融合させたジャパニーズ・トラディショナル・カース。
しかしその最初の一撃が、顔が原型を留めなくなるような、寒気のする一撃であったことに、異様なおぞましさを感じる。
189風の行方 前編  ◆oJUBn2VTGE :2012/05/11(金) 21:22:43.12 ID:wBpB+Oun0
「その後は?」
師匠にうながされ、浮田さんはゆっくりと口を開く。
「なにも」
その夜は、それ以上のことは起こらなかったそうだ。壊された人形はそのままにしておく気になれず、親しい女友だちに捨ててきてもらった。
怖くて一歩も家を出ることができなかったが、その友人を通してあの男が大学にも姿を現していないことを聞いた。
もしあいつが、渡したのが人形の髪の毛だったことに気づたら、と思うと気が狂いそうになった。もう私は死んだことにしたい、と思った。実際に、友人に対してそんなことを口走りもした。
私が死んだと伝え聞けば、あいつも満足してすべてが終わるんじゃないかと、そう思ったのだ。
喋りながら浮田さんは目に涙を浮かべていた。
「わたしにどうして欲しい?」
師匠は冷淡とも言える口調で問い掛ける。締め切った部屋には、クーラーの生み出す微かな気流だけが床を這っていた。
「助けて」
震える声が沈黙を破る。
師匠は「分かった」とだけ言った。

            ◆

僕と師匠はその足で、近所に住んでいた浮田さんの友人の家を訪ねた。頼まれて人形を捨てに行った女性だ。
彼女の話では、人形は本当に顔のあたりが砕けていて、巨大なハンマーで力任せに殴ったようにひしゃげていたのだそうだ。彼女はその人形を、彼氏の車で運んでもらって遠くの山に捨ててきたと言う。
「燃やさなかったのか?」
師匠は、燃やした方が良かったと言った。
友人は浮田さんと同じ演劇部で、以前合宿をした時に幹事をしたことがあり、その時に作った名簿をまだ持っていた。男の名前もその中にあり、住所まで載っていた。
190本当にあった怖い名無し:2012/05/11(金) 21:24:02.56 ID:N1rxlDzF0
¥4
191風の行方 前編  ◆oJUBn2VTGE :2012/05/11(金) 21:26:25.78 ID:wBpB+Oun0
「曽我タケヒロか」
師匠はその住所をメモして友人の家を出た。
曽我の住んでいるアパートは市内の外れにあり、僕は師匠を自転車の後ろに乗せてすぐにそこへ向かった。
アパートはすぐに分かり、表札のないドアをノックしていると、隣の部屋から無精ひげを生やした男が出てきて、こう言った。
「引っ越したよ」
「いつですか」
ぼりぼりと顎を掻きながら「四、五日前」と答える。ここに住んでいたのが、曽我という学生だったことを確認して、引越し先を知りたいから大家はどこにいるのかと重ねて訊いた。
すると、その隣人は「なんか、当日に急に引っ越すからって連絡があって、敷金のこともあるのに引越し先も言わないで消えた、って大家がぶつぶつ言ってたよ」と教えてくれた。
四、五日前か。ちょうど人形の事件があったころだ。その符合に嫌な予感がし始めた。
礼を言ってそのアパートから出た後、今度はその足で市内のハンコ屋に行った。以前師匠のお遣いに行かされた店だった。
師匠は店内にズラリとあった三文判の中から『曽我』の判子を選んで買った。安かったが、領収書をしっかりともらっていた。宛名が「上様」だったことから、これからすることがなんとなく想像できた。
ハンコ屋を出ると、案の定次の目的地は市役所だった。
師匠は玄関から市民課の窓口を盗み見て、僕に「住民票の申請書を一枚とってこい」と言った。
言うとおりにすると、今度は建物の陰で僕にボールペンを突きつけ、その申請書の「委任状」の欄を書かせた。もちろん委任者は「曽我タケヒロ」だ。
そして買ったばかりの判子をついて、「ここで待ってろ」と市民化の窓口へ歩いて行った。
そのいかにも物慣れた様子に、興信所の調査員らしさを感じて感心していた。なにより、ポケットから携帯式の朱肉が出てきたことが一番の驚きだった。前にも持っているところを見たことがあったが、こんなこともあろうかと、いつも持ち歩いているらしい。
どっぷり浸かっているな、この世界に。
しかしそれさえ、彼女の持つバイタリティの一面に過ぎないということも感じていた。
192風の行方 前編  ◆oJUBn2VTGE :2012/05/11(金) 21:28:18.48 ID:wBpB+Oun0
しばらく待っていると、浮かない顔をして戻ってきた。
「どうでしたか」と訊くと
「駄目だ。こっちに住民票自体移してなかった。蒸発の仕方から、転出届けは出してない可能性が高かったから、住んでたアパートの住民票さえ取れれば、戸籍と前住所が分かって、色々やりようがあったんだけど」
師匠はそう言いながら市役所の外へ歩き出す。
「大家をつかまえて、アパートに越してくる前の住所を訊き出しますか」
「いや、難しいだろう。住民票を市内に移してないということは、遠方の実家に住所を置いたままだった可能性が高い。カンだけど、曽我はまだこの街にいる気がする。
だから実家を探し出してもやつの足取りをたどれるかどうかは怪しいな。ま、逆に実家に帰ってるんだったら、実害はなさそうだ。とりあえず今すべきことは、最悪の事態を想定して、迅速に動くことだな」
となると、やっぱり大学と演劇部の連中に訊き込みをするしかないか。
師匠は忌々しそうに呟いた。
もし曽我がまだその近辺にいるのなら、それではこちらの動きも筒抜けになってしまう可能性があった。
「どうすっかなあ」
師匠は大げさに頭を両手で掻きながら歩く。
クーラーの効いていた市役所の中から出ると、熱気が全身に覆いかぶさってきて、息が詰まるようだった。そして太陽光線が容赦なく肌を刺す。
しかし、しばらく歩いていると、強い風が吹き付けてきてその熱気が少し散らされた。相変わらず風が強い。朝からずっと吹き回っている。
「昨日からだよ」
と師匠は言った。風は昨日から吹いているらしい。そう言えば昨日はほとんど寝て過ごしたので覚えていないが、そうだったかも知れない。
「そう言えば昨日、友だちが髪の毛の話をしてましたよ」
僕には、男のくせにやたらと髪の毛を伸ばしている友人がいた。高校時代からずっと伸ばしているというその髪は腰に届くほどもあって、周囲の女性からは気持ち悪がられていた。
本人は女性以上に髪には気を使っているのだが、長いというだけで不潔そうに見えるのだろう。だが大学にはそういう髪の長い男は結構多かった。いわゆるオタクのファッションの一類型だったのだろう。
193風の行方 前編  ◆oJUBn2VTGE :2012/05/11(金) 21:32:30.07 ID:wBpB+Oun0
その友人が昨日、自分の部屋にガールフレンドを呼んだのだが、あるものを見つけられて詰め寄られたのだという。
どうせ他のオンナを部屋に上げていた痕跡を見つけられたという、痴話喧嘩の話だろうと思ってその電話を聞いていると、案の定「髪の毛が部屋に落ちてるのを見つけられたんだ」と言う。
ふうん、と面白くもなく相槌を打っていると彼は続けた。
「それで詰め寄られたんだ。この短い髪の毛、誰のよ? って」
少し噴いた。なるほど、そういうオチか。彼女も髪が長いのだろう。
市役所の前の通りを歩きながらそんな話をすると、師匠はさほど面白くもなさそうに「面白いな」と言って、心ここにあらずといった様子でまだ悩んでいた。
僕は溜め息をついて、歩きながら自転車のハンドルを握り直す。またじわじわと熱さが増してきた。早く自転車にまたがってスピードを出したかった。
そう思っていると、また風が吹いてきてその風圧を仮想体験させてくれた。
「うっ」
いきなり顔になにがか絡み付いてきた。虫とか、何だか分からないものが顔にあたったときは、口に入ったわけではなくても一瞬息が詰まる。そのときもそんな感じだった。
なんだ。
顔に張り付いたものを指で摘んだ瞬間、得体の知れない嫌悪感に襲われた。
髪の毛だった。
誰の? とっさに隣の師匠の横顔を見たが、長さが違う。そしてそのとき風は師匠の方からではなく、全然違う方向から吹いていた。
髪の毛。
髪の毛だ。髪の毛が風に乗って流されてきた。
立ち止まった僕を、師匠が怪訝そうに振り返る。そして僕の手に握られたそれを見ると、見る見る表情が険しくなる。
「よこせ」
僕の手から奪いとった髪の毛に顔を近づけて凝視する。それからゆっくりと顔を上げ、水平に首を回して周囲の景色を眺めた。
風がまた強くなった。
心臓がドクドクと鳴る。偶然だろう。偶然。
194本当にあった怖い名無し:2012/05/11(金) 21:35:18.80 ID:w/BUYyAYO
ウニさん(・ω・)!
195風の行方 前編  ◆oJUBn2VTGE :2012/05/11(金) 22:06:24.13 ID:wBpB+Oun0
そのとき、近くを歩いていた女子高生たちが悲鳴を上げた。
「やだぁ。なにこれぇ」
その中の一人が、顔に吹き付けた風に悪態をついている。いや、風に、ではない。その指にはなにかが摘まれている。
「なにこれ。髪の毛?」
「気持ち悪ぅい」
口々にそんなことを言いながら女子高生たちは通り過ぎていった。
髪。
偶然…… ではないのか。
師匠はいきなり自分の服の表面をまさぐり始めた。猿が毛づくろいをしているような格好だ。ホットパンツから飛び出している足が妙に艶かしかった。しかしすぐにその動きは止まり、腰のあたりについていたなにかを慎重に摘み上げる。
そして僕を見た。その指には茶色の髪の毛が掴まれている。
反対の手の指にはさっき僕の顔に張り付いた髪の毛。色は黒だ。
長さが違う。色も。どちらも師匠とも、僕の髪の毛とも明らかに違っていた。
「お前、その友だちの話」
「え」
「短い髪の毛誰のよ、って怒られた友だちだよ」
「はい」
「本当に浮気をしていたのか」
その言葉にハッとした。浮気なんかしていないはずだ。今の彼女を見つけただけでも奇跡のような男だったから。
その部屋に、彼女のでも、自分のでもない短い髪の毛。
普通に考えれば誰か他の、男の友人が遊びにきて落としたのだろうと思うところだ。しかし、そう連想せずにいきなり詰め寄られたということは、なにか理由があるはずだ。
例えば、前の日に二人で部屋の掃除をしたばかりで、友人は誰も訪ねては来ていないはずだったとか。
だったらその髪の毛は、どこから?
僕は思わず自分の服を見た。隅から隅まで。そして服の表面に絡みついた髪の毛を見つけてしまった。それも三本も。
ぞわぞわと皮膚が泡立つ。
196風の行方 前編  ◆oJUBn2VTGE :2012/05/11(金) 22:08:29.86 ID:wBpB+Oun0
どれも同じ人間の髪の毛とは思えなかった。よく観察すると長さや太さ、色合いがすべて違う。こうして、友人の服についた誰かの髪の毛が、部屋の中に落ちたのか。
そう言えば、今日自分の部屋を出たときから顔になにかほこりのようなものが当たって息が詰まることが何度かあった。あれはもしかして髪の毛だったのかも知れない。すべて。
空は晴れ渡っていて、ぽつぽつと浮かんだ雲はどれもまったく動いていないように見えた。上空は風がないのだろうか。
師匠は歩道の真ん中で風を見ようとするように首を突き出して目を見開いた。
そしてしばらくそのままの格好でいたかと思うと、前を見たまま口を開く。
「髪が、混ざっているぞ」
風の中に。
そう言って、なんとも言えない笑みを浮かべた。
「小物だと思ったけど、これは凄いな。いったいどういうことだ」
師匠のその言葉を聞いて、そこに含まれた意味にショックを受ける。
「これが、人の仕業だって言うんですか」
街の中に吹く風に、髪の毛が混ざっているのが、誰かの仕業だと。
僕は頬に吹き付ける風に嫌悪感を覚えて後ずさったが、風は逃げ場なくどこからも吹いていた。その目に見えない空気の流れに乗って、無数の誰かの髪の毛が宙を舞っていることを想像し、吐き気をもよおす。
「床屋の…… ゴミ箱が風で倒れて、そのままゴミ袋いっぱいの髪の毛が風に飛ばされたんじゃないないですか」
無理に軽口を叩いたが、師匠は首を振る。
「見ろ」
摘んだままの髪の毛を二本とも僕につきつける。よく見ると、どちらにも毛根がついていた。慌てて自分の身体についていたさっきの髪の毛も確認するが、そのすべてに毛根がついている。
ハサミで切られたものではなく、明らかに抜けた毛だ。
確かに通行人の髪の毛が自然に抜け落ちることはあるだろう。それが風に流されてくることも。だが、問題なのはその頻度だった。
師匠が、近くにあった喫茶店の看板に近づいて指をさす。そこには何本かの髪の毛が張り付いて、吹き付ける風に小刻みに揺れていた。
197風の行方 前編  ◆oJUBn2VTGE :2012/05/11(金) 22:11:04.43 ID:wBpB+Oun0
「行くぞ」
師匠が僕の自転車の後ろに勢いよく飛び乗った。僕はすぐにこぎ出す。
それから二人で、街なかをひたすら観察して回った。だが、その行く先々で風は吹き、その風の中には髪の毛が混ざっていた。
僕は自転車をこぎながら、混乱していた。今起こっていることが信じられなかった。現実感がない。いつの間にか別の世界に足を踏み入れたようだった。風は広範囲で無軌道に吹き荒れ、市内の中心部のいたるところで髪の毛が一緒に流されているのを確認した。
目の前で風に煽られ、髪の毛を手で押さえる女性を見て、師匠は言った。
「この髪の毛、どこからともなく飛んできてるわけじゃないな」
通行人の髪が強風に撫でられ、そして抜け落ちた髪がそのまま風に捕らわれているのだ。
師匠は被っていたキャップの中に自分の髪の毛を押し込み、僕には近くの古着屋で季節外れのニット帽を買ってくれた。もちろん領収書をもらっていたが。
師匠に頭からすっぽりとニット帽を被せられ、「暑いです」と文句を垂れると「もう遅いかも知れんがな、顔面を砕かれたくなかったら我慢しろ」と言われた。
顔面を?
まるであの人形だ。ゾクゾクしながらされるがままになる。
「よし」と僕の頭のてっぺんを叩くと、師匠は顔を引き締めた。
「追うぞ」
「え?」と訊き返すと、「決まってるだろ、髪を、集めてるヤツだ」
何を言っているんだ。
呆れたように師匠の顔を見ながら、それでも僕は自分の心の奥底では彼女がそう言い出すのを待っていたことに気がついていた。
「曽我ですか」
「タイミングが合いすぎている。わたしの勘でも、これは偶然じゃない」
想い人である浮田さんの髪を手に入れ損ねた男が、騙されたことに怒り狂い、無差別に人の髪の毛をかき集めている、そんな狂気の姿が頭に浮かんだ。浮田さんは家に閉じこもっていて正解だったのだろう。
しかし、丑の刻参りだけならまだしも、こんなありえない凄まじい現象を、ただの大学生が起こしているというのか。
198風の行方 前編 ラスト  ◆oJUBn2VTGE :2012/05/11(金) 22:14:41.76 ID:wBpB+Oun0
「いや、分からん。曽我は浮田の髪の毛を手に入れたが、それが誰か他のやつの手に渡った可能性はある」
「他のやつって?」
「……」
師匠は少し考えるそぶりを見せて、慎重な口調で答えた。
「どうもこのあいだから、こんなことが多い気がする」
このあいだって。
口の中でその言葉を反芻し、自分でも思い当たる。師匠が少し前に体験したという、街中を巻き込んだ異変のことだ。僕も妙な事件が続くなあ、と思ってはいたがその真相にたどり着こうなどとは考えつかなかった。その後も師匠にはそのことでしつこく詰られていた。
こういう大規模な怪現象が立て続くことに、師匠なりの警戒感を覚えているらしい。その怪現象のベールの向こうに、なにか恐ろしいものの影を感じ取っているかのようだった。
「どうやって追うんです」
少し上ずりながら僕がそう問うと、師匠は自分の人差し指をひと舐めし、唾のついたその指先を風に晒した。風向きを知るためにする動作だ。
「風を追う」
風が人々の髪の毛を巻き込みながら、街中を駆け回り、そしてその行き着く先がどこかにあると言っているのだ。
「でもこんなにバラバラに吹いてるのに」
「バラバラじゃない。確かに東西南北、どの方角からも風が吹いている。でも一つの場所では必ず同じ向きに風が吹いている」
師匠のその言葉に、思わず「あっ」と驚かされた。言われてみると確かにそうだったかも知れない。
「迷路みたいに入り組んでいても、目に見えない風の道があるんだ」
そうじゃなきゃ、髪を集められない。
そう言って師匠は僕の自転車の後輪に足を乗せ、行き先を示した。つまり、風が向かう方向だ。
ゾクゾクと背筋になにかが走った。恐怖ではない。感心でもない。畏敬という言葉が近いのか。この人は、こんなわけのわからない出来事の根源に、たどり着いてしまうのだろうか。
力強く肩を掴まれ、「さあ行け」という言葉が僕の背中を叩いた。

199本当にあった怖い名無し:2012/05/11(金) 22:18:02.65 ID:NsBUriUX0
ウニ乙。

次も期待wktk
200本当にあった怖い名無し:2012/05/11(金) 23:30:57.45 ID:N1rxlDzF0
>>183-198
ウニ乙!
201本当にあった怖い名無し:2012/05/12(土) 00:03:31.15 ID:AYDa145G0
埋めます
202本当にあった怖い名無し:2012/05/12(土) 15:02:44.96 ID:lIT3jC8L0
ウニ乙!
また来週!ノシ
203本当にあった怖い名無し:2012/05/13(日) 23:18:58.22 ID:h1vvkpm0O
つまんね
204本当にあった怖い名無し:2012/05/14(月) 15:52:16.85 ID:7HeQGFPY0
え?たった5レス?そのうちひとつは「埋めます」でもうひとつは「つまんね」だってww
もうこのスレに投下する意味ないだろ
何回聞いても答えないけど、ウニはなぜpixivに投下してんのに、ここにも投下すんの?
これぐらい答えろよ
205本当にあった怖い名無し:2012/05/14(月) 16:03:53.93 ID:W/HPRNm/0
uni乙
206本当にあった怖い名無し:2012/05/15(火) 13:47:42.84 ID:67LQg79Li
>>204
なんか嫌な事でもあったのか?
207本当にあった怖い名無し:2012/05/15(火) 14:17:34.89 ID:GSKRJcq6i
答える義務なんて全く無いのがわからないのかなw
208本当にあった怖い名無し:2012/05/16(水) 10:25:36.20 ID:lgf35zF30
ウニ乙
エンターテイメント性が高くなったなあ
読んでて面白い
某スレの創作もこのくらいクオリティが高ければいいのに

おっと、もちろん師匠シリーズは実話だZE☆
209本当にあった怖い名無し:2012/05/16(水) 15:40:25.33 ID:KHQoVGEW0
>>207
今までもウニは質問に何度か答えてる。
都合の悪いことには一切答えないけどなw

断筆宣言してたのになぜ再開したか、という質問には完全スルーw
まあ断筆宣言した理由が理由だけに下手な答え方したら人格疑われるからな

で、なんでpixivだけでいいハズなのにわざわざここにも投下するん?
全くの無駄だし、鯖の負担にもなってるんだが?お前の小説はいつも長文だから尚更。
210本当にあった怖い名無し:2012/05/16(水) 18:58:47.38 ID:UCaH/PVL0
こいつはウニに何されてこんな歪んだ悪意を持つに至ったんだろうか
211本当にあった怖い名無し:2012/05/16(水) 19:07:50.07 ID:BlqrfowJ0
ウニはプロめざしたりはしないんだろうか。
212本当にあった怖い名無し:2012/05/16(水) 20:22:49.96 ID:xFZUofpAO
ウニって誰?
213本当にあった怖い名無し:2012/05/16(水) 21:26:19.60 ID:P0ndOfKW0
山とか森で採取できるトゲトゲしたヤツだよ。
うにー! と叫びながら投げるのが作法な。
214本当にあった怖い名無し:2012/05/16(水) 21:36:29.03 ID:GBM/TeFDi
>>209
過去に質問に答えた事がある、と
でもそれはイコール答える義務とはならないよねw
215本当にあった怖い名無し:2012/05/17(木) 08:09:58.33 ID:Fh40Szh00
>pixivだけでいいハズなのに
この前提もおかしいよねw
解としては「質問になってない、よって答える価値も無い」ってとこで納得してくれまいか?w
216本当にあった怖い名無し:2012/05/17(木) 14:12:13.01 ID:izWRjQdg0
なぜそうも頑なまでにここに書かせたくないのか。
逆に聞きたい。
まあ答える義務なんてないんでスルーしてくれても構わんし、
「このスレ潰したい」んだろうなあってことは容易に想像できるんだが。
それ以外の理由があるなら単純な興味で知りたいわ〜。

おっとそんなことよりウニ乙っした。
風の中に髪の毛漂ってたら鼻や口ン中が大変なことになるなあと思いました。
217本当にあった怖い名無し:2012/05/17(木) 16:25:52.46 ID:0nQ3MbZs0
>>214-216

お前らに用はないからwww
218本当にあった怖い名無し:2012/05/17(木) 17:24:01.03 ID:SzYPPk9b0
ウニ氏もお前に用は無いと思うよ
219本当にあった怖い名無し:2012/05/17(木) 19:41:30.01 ID:0nQ3MbZs0
だからお前に聞いてねーからww
本人でもねーのに必死過ぎて泣けるw
220本当にあった怖い名無し:2012/05/17(木) 22:24:48.41 ID:VI2oky8Q0
お前は今泣いていい
221本当にあった怖い名無し:2012/05/17(木) 23:33:50.62 ID:Lj7usZe20
ウニの人気に嫉妬で泣ける
222本当にあった怖い名無し:2012/05/18(金) 17:52:53.09 ID:EpMRLv0g0
ウニ乙
面白かった!
223本当にあった怖い名無し:2012/05/18(金) 21:23:59.00 ID:TAbI03rs0
どこがどう面白かったのかすら言えない信者
224本当にあった怖い名無し:2012/05/18(金) 23:12:41.43 ID:X6RBfUgP0
どこがどうウケてるのか参考にしたいんですね分かります。

225風の行方 後編  ◆oJUBn2VTGE :2012/05/19(土) 23:19:25.47 ID:13YZ4scB0
それから僕らは、師匠の感じ取る風の向かう先を追い続けた。
それは本当の意味で、目に見えない迷路だった。「あっち」「こっち」と師匠が指さす先にひたすら自転車のハンドルを向け続けたが、駅前の大通りを通ったかと思うと、急に繁華街を外れて住宅街の中をぐるぐると回り続けたりした。
かと思うと川沿いの緑道を抜け、国道に入って延々と直進したりと、法則もなにもなく、その先に終わりがあるのかまったく見えなかった。
そしてまた風に導かれるままに繁華街に戻ってきて、いい加減息が上がってきた僕が休憩しましょうと進言しようとしたとき、師匠が短く「止まれ」と言った。
そして後輪から降り、一人で歩き出した。
大通りからは一本裏に入った、レンガ舗装された商店街の一角だった。師匠の背中を目で追うと、その肩越しに二人の人間の姿があった。
女性だ。二人ともセーラー服を着ている。腕時計を見ると、いつの間にか高校生の下校の時間を過ぎていた。
二人は並んで立ち止まったまま、師匠をじっと見ている。二人ともかなり背が高く、目立つ風貌をしていた。
師匠が「よう」と気安げに声をかけると、髪の長い方が口を開いた。
「どうも」
少しとまどっているような様子だった。それにまったく頓着せず、師匠は親しげに語りかける。
「あの夜以来か。いや、一度会ったかな。元気か?」
「ええまあ」
短く返して、困ったような顔をする。
僕もそちらに近づいていった。
「この道にいるってことは、おまえも気づいたんだな」
師匠の言葉にその子はハッとした表情を見せた。
「危ないから、子どもは家で勉強してな」
やんわりと諭すような言葉だったが、見るからに気の強そうな目つきをしているその女子高生が反発せずに聞き入れるとは思えなかった。
そしてその子が口を開きかけたとき、
「どなた」
と、じっと聞いていた髪の短い方の子が、一歩前に出た。それは一瞬、髪の長い方を庇う様な姿に映った。薄っすらと笑みを浮かべた目が値踏みするように師匠に向けられる。
師匠がなにか言おうとして、ふと口を閉ざした。そしてなにかに気づいたような顔をしたかと思うと、すぐに笑い出した。
226風の行方 後編  ◆oJUBn2VTGE :2012/05/19(土) 23:22:45.51 ID:13YZ4scB0
そのとき、強い風が吹いて全員の髪の毛をなぶった。髪の短い方が、その髪を手で押さえながら、不快げに眉間を寄せる。
「おいおい、あのときの覗き魔かよ。憑りつかれてるのか思ったのに、仲良しこよしじゃないか!」
一人で笑っている師匠に、女の子たちの空気が凍りついた。
「なにを言っているの」
髪の短い方が冷淡に言い放つ。
「なにって、しらばっくれるなよ。ひっかいてやったろ」
指先を曲げて猫のような仕草を見せる師匠の言葉に、彼女は怪訝な顔をする。師匠もすぐに彼女の顔を凝視して、おや、という表情をした。
「おい。あんなつながり方しといて、無事で済むわけないだろ。目はなんともないのか」
言われた方は自分の目をそっと触った。細く長い指だった。
「なにを言ってるのかわからない」
「ノセボ効果を回避したのか? それともおまえ……」
髪の長い方は連れと師匠との言い合いに戸惑った様子で、口を挟めないようだった。
「おまえ、過去を見てたのか」
師匠の目が細められる。
異様な気配がその場に立ち込め始めたような錯覚があった。
「だったら悪かったな。初対面だ。どうぞよろしく」
からかうように師匠が頭をぴょこんと下げる。
髪の短い方が冷ややかな目つきでその様子をねめつける。
「もう行きましょう」
ただならない雰囲気に気おされて僕は師匠のジャケットを引っ張った。
「まあいいや。とにかくもう家に帰れ。分かったな、子猫ちゃんたち」
バイバイ、と手を振って師匠はようやくセーラー服の二人から離れた。
遠ざかっていく二人を振り返り、僕は師匠に訊いた。
「あの子たちは誰なんですか」
「さあ。名前も知らない。ただ、追いかけているらしい。同じヤツを」
髪の毛が風に流されていく先をか。こんなバカな真似をしているのは僕と師匠だけだと思ったのに。
「あんのガキ」
急に師匠がTシャツの裾をこすり始めた。その裾が妙に汚れていて、こするたびにその汚れが薄く広がっていくように見えた。赤い染み。まるで血のように見えた。
「なんです、それ」
「イタズラだよ」
227風の行方 後編  ◆oJUBn2VTGE :2012/05/19(土) 23:23:36.85 ID:13YZ4scB0
ガキのくせに。
師匠はそう呟いて、シャツの裾をくるくると巻いてわき腹でくくり、僕の肩に手を置いた。「さあ急ぐぞ。日が暮れる」
そう急かされたが、僕には師匠のへそのあたりが気になって仕方がなかった。
その後、さっきの二人が追いかけてくる様子もなく、また街なかをくるくると自転車で回り続けた。確かに同じ場所は通らなかったが、風の道が本当に一本なのか不安になってきた。
道がどこかでつながっていたとしたら、尻尾を飲み込んだウロボロスの蛇のように堂々巡りを繰り返すだけだ。
そして、あるビルの真下にやってきたとき、師匠は忌々しげに「くそっ」と掃き捨てた。
ビルを見上げると、十階建てほどの威容がそそり立っている。風は垂直に昇っていた。ビルの壁に沿って真上に。
これでは先に進めない。
ひたすらペダルをこぎ続けた疲れがドッと出て、僕は深く息を吐いた。目を凝らしても壁に沿って上昇した後の風の流れは見えなかった。
しかし師匠は「ちょっと、待ってろ」と言って近くのおもちゃ屋に飛び込んで行った。
そして出てきたときには手に風船のついた紐を持っていた。ふわふわと風船は浮かんでいる。ヘリウムが入っているのだろう。
「見てろよ」
師匠は一際大きく吹いた風に合わせて、紐を離した。
風船はあっと言う間に風に乗って上昇し、ビルの壁に沿って走った。そして五階の窓のあたりで大きく右に曲がり、そのままビルの壁面を抜けた。壁の向こう側へ回りこんだようだ。
僕と師匠はそれを見上げながら走って追いかけ、風船の行く先を見逃すまいと息を飲んだ。
だが、風船はビルの壁の端を回りこんだあたりで、風のチューブに吸い込まれるような鋭い動きを止め、あとはふわふわと自分自身の軽さに身を任せたかのようにゆっくりと空に上昇していった。
「しまった」
師匠はくやしそうに指を鳴らす。
そうか。風が上昇するときは、風船もその空気の流れに沿って上昇していくが、下降を始めたら、風船はその軽さから下向きの空気の流れに抗い、一瞬は風とともに下降してもやがてその流れから外れて、勝手に上昇していってしまうのだ。恐らくは何度やっても同じことだろう。
飛んで行く風船を見上げながら、僕たちはその場に立ち尽くしていた。これで道を指し示すものがなくなった。
気がつくとあたりは日が落ちかけ、薄暗くなっていた。
228風の行方 後編  ◆oJUBn2VTGE :2012/05/19(土) 23:24:38.31 ID:13YZ4scB0
「どうしますか」
焦りを抑えて僕がそう問い掛けると、師匠は難しい顔をした。
もう、零細興信所に持ち込まれた小さな依頼どころの話ではなかった。ありえないと思いつつも、起こりうる最悪の事態をあえて想定した時、この街に訪れるかも知れない最悪の未来は、凄惨なものだった。
想像してしまって、自分の顔を手のひらで覆う。
風の行き着く場所で大きな口をあけて、そのすべてを飲み込もうとしている怪物。その怪物が自らの口に飛び込んできた無数の人々の髪の毛を集めて、なにかをしようとしている。
ガーンッ……
金属性のハンマーの音が頭の中に走った。思わず顔を上げ、幻聴であったことを確かめる。
うそだろ。そんなことが現実に起こるのか。うそだろう。
助けを求めるように師匠の方を見たが、いつになく蒼白い顔をしていた。
「ガスか」
「え」
「着色したガス。それを流せば風の道が見える」
それだ。その思いつきに興奮して、師匠の手を取った。
「それですよ。いけます、それ」
しかし師匠は浮かない顔だった。
確かに着色ガスなどどこで手に入れたらいいのかとっさには分からない。しかし知り合いに片っ端から訊くとか、あるいは街なかのミリタリーショップにでも行けばあっさりと売っているかも知れない。もしくは駄菓子屋で売っていたような煙玉でもいい。
少なくともここでビルを見上げているよりはマシだ。
しかし師匠は首を振る。そして自分の腕時計を指し示す。
「時間がない」
「なぜです」
「もう日が暮れる。なにかあるとしたら夜だ。確かに昨日から風は吹いていたけど、明らかに今日になってから強くなった。今夜、それが起こるかも知れない。
ここまでに掛かった時間を考えてみろ。わたしたちはスタートがどこかも知らないんだ。この先、どこまでこの風の道が続くのかも」
僕は口ごもった。
しかし腹の底から湧いてくる焦燥が、考えも無く口を開かせる。
「だったらどうするんですか」
229風の行方 後編  ◆oJUBn2VTGE :2012/05/19(土) 23:29:16.14 ID:13YZ4scB0
我ながら子どもがだだをこねるような口ぶりに、師匠は「なんとかするさ」と口角を上げた。
どれほど追い詰められても、この人はそのたびに常識を超えた解答を導き出す。正答、正しい答えではない、ただ複雑に絡まりあった事象を一刀で断ち切るような、解答をだ。
そんなとき、彼女の周囲には夥しい死と生の気配が、禍々しく、震えるように立ち込め、僕はそれにえもいわれない恍惚を覚える。
「行くぞ」
どこへ、ではなく、はい、と僕は言った。

            ◆

ビルの屋上は風が強かった。
いつもそうなのか、それとも今日という日だからなのか、それは分からなかった。時間は夜の十二時を少し回ったころ。
展望台として開放されているわけではない。ただこっそり忍び込んだのだ。高い場所から見下ろす夜景は、なかなかに壮観だった。
周辺で一番高いビルだから、その周囲の小さなビルの群れが月光に照らされている姿がよく見えた。そしてその下のぽつぽつと夜の海に浮かぶ小船のような明かりも。
師匠は転落防止のフェンスを乗り越えて、切り立った崖のような屋上の縁に腰をかけ、足を壁面に垂らしてぶらぶらと揺らしていた。
片方の手ですぐそばのフェンスを掴んではいるが、強風の中、実に危なっかしい。
僕は真似ができずに、フェンスのこちら側で師匠のそばに座り、その横顔をそっと窺っていた。
「…………」
持ち込んだ携帯型のラジオからニュースが流れている。
「続報、やらないなあ」
師匠が呟く。
さっき聴いたローカルニュースには僕も驚いた。
市内の中心街で、夕方に毒ガス騒ぎがあったというのだ。黄色いガスがビルの回りに立ち込めて、周囲は騒然としたそうだ。
すぐにそのガスはただの着色された無害なガスと分かり、厳戒態勢は解かれることになったのだが、こんな平和な街でそんな事件が起こること自体が異常なことだった。
犯人はまだ分かっていない。しかしその誰かは、師匠と同じことを考えたのに違いないだろう。
騒動のあった場所は僕らが行き詰ったビルの前とは離れていた。しかしそんなトラップのような場所が一ヶ所とは限らない。僕らよりもかなり手前にいたのか、あるいはずっと先行していたのかも知れない。
230風の行方 後編  ◆oJUBn2VTGE :2012/05/19(土) 23:30:28.88 ID:13YZ4scB0
「だれでしょうね」
そう問うと、師匠は「さあ、なあ」と言ってラジオの周波数を変えた。「あの子たちじゃない気がするな。まあ、この街にもこういう異変に気づくやつらが何人かはいるってことだろう」
そのガスをつかった誰かは、風の行き着く先にたどり着けたのだろうか。それとも出口のないウロボロスの蛇の輪に囚われてしまっただろうか。
僕は今日一日、西へ東へと駆けずり回った街を感慨深く眺める。この高さから夜の底を見下ろすと、地上のすべては箱庭のように見えた。現実感がない。
さっきまであそこで這いずり回っていたのに。急に得た神の視点に、頭のどこかが戸惑っているのかも知れない。
「で、このあと、どうなるんです」
なにも解決などしていなかった。それでもここでただこうしているだけだ。もう僕はすべてを師匠に委ねていた。


あの後、僕らはビルを離れ、師匠の秘密基地へ向かった。ドブ川のそばに立っている格安の賃貸ガレージだ。部屋の中に置けない怪しげな収集物はそこに隠しているらしい。
シャッターを上げると、かび臭い匂いが鼻をついた。そして、感じられる人には感じられる、凄まじい威圧感がその中から滲み出していた。
その空気の中へ、どれで行くかな、などと鼻歌でも歌う調子で足を踏み入れた師匠はしばらくゴソゴソとやっていたかと思うと、一つの箱を持ってガレージの外に出てきた。
やっぱりこれだな。
そしてなにごとか呟いて、箱に施されていた細い縄の封印を解いた。呟いたのは、短い呪い言葉のようだった。
箱の中から現れたのは仮面だった。鬼のような顔をした古そうな仮面だったが、どこかのっぺりとしていた。
だがそのときの僕は、もっととてつもないものが現れたのだと思った。恐ろしさや、忌々しさ、無力感や、憤怒、そして嘆き。そうしたものが凝縮されたもの。
なにか、災害のようなものが現れたのだと。
身体が硬直して動けない僕を尻目に、師匠はその仮面の頭部に手をやり、そこに生えていた毛を一本毟り取った。
そう。その仮面には髪の毛が生えていた。いや、髪の毛というより、その部分の皮膚が仮面に張り付いて、剥がすときに肉ごとこそげ落ちてしまったかのようだった。
231風の行方 後編  ◆oJUBn2VTGE :2012/05/19(土) 23:32:01.44 ID:13YZ4scB0
髪は仮面の裏側にこびり付いた赤黒い肉から生えていた。
これでいい。
師匠はそう言ってまた仮面を箱に戻し、引き抜いた髪の毛だけをハンカチに包んで、行こう、と言った。
それから師匠はまた市街地に戻り、強い風が吹いている場所に立ってニヤリと笑ってみせた。
日は落ちて、街には人工の明かりが順々に灯っていた。
目深に被ったキャップの下の目が妖しく輝いている。
どうすると思う?
もう分かった。師匠がなにをするつもりなのか。
こうするんだ。
そう言ったかと思うと、ハンカチから出したさっきの髪の毛をそっと指から離した。それは風に乗り、あっと言う間に見えなくなってしまった。風の唸る音が、耳にいつまでも残っているような気がした。


「あの仮面は、なんだったんです」
風の舞う深夜のビルの屋上でフェンスを挟んで座り、僕はぽつりと漏らした。聞けばゾッとさせられるのは間違いないだろう。しかし聞かずにもいられなかった。
「あの面か」
むき出しの足を屋上からはみ出させ、前後にぶらぶらと揺らしながら師匠は教えてくれた。
「金春(こんぱる)流を知ってるか」
曰く、能の流派の一つで、主に桃山時代に豊臣秀吉の庇護を受けて全盛期を迎え、一時代を築いた家なのだという。
現代でも続くその金春流は、伝承によると聖徳太子のブレーンでもあった渡来人の秦氏の一人が伝えたものだと言われ、非常に古い歴史を持っている。
その聖徳太子が神通力をもって天より降ろし、金春流に授けたのが「天之面」と呼ばれる面だ。その後、その面は金春家の守護神として代々大切に祀られ、箱に納めた上に注連縄を張り、金春家の土蔵に秘されていたという。
天之面は恐ろしい力を持ち、様々な天変地異を起こしたと伝えられている。人々はその力を畏怖し、厳重に祀り、「太夫といえども見てはならぬ」と言われたほどであった。
享保年間の『金春太夫書状』によれば、「世間にておそろし殿と申す面也」とされている。
232風の行方 後編  ◆oJUBn2VTGE :2012/05/19(土) 23:34:55.04 ID:13YZ4scB0
また、「能に掛け申す面にては御座(イ)無く候」とも記されているとおり、能の大家の守護神たる面にもかかわらず、能を演じるときに被られることはなく、ただ秘伝である『翁』の技を伝授された太夫のみが一代に一度のみ見ることを許されたという。
それは「鬼神」の面とも、「翁」の面とも言われているが、正体は謎のままである。時代の下った現代では大和竹田の面塚に納められているとも言われるが、その所在は判然としていない。
その「おそろし殿」と呼び畏れられた面が。「太夫といえども見てはならぬ」と称された面が……
「ちょっと、まってください」
ようやく口を差し挟んだ。
師匠は僕の目を見つめ返す。
「あの面には、その、肉が。ついていました」
能を演じる際に掛ける面ではない、と言われているのに、あきらかに誰かが被った痕跡があった。いや、それ以前に、それほど古い面ならば、人間の肉など風化して崩れ落ちていてしかるべきではないか。
「ニンゲンの肉ならな」
師匠は口元に小さく笑みを浮かべる。
いや、そもそも、どうしてそんな面を師匠が持っているのだ。
「話せば長くなるんだが。まあ簡単に言うと、ある人からもらったんだ」
「誰です」
「知らないほうがいいな」
そっけない口調で、つい、と視線を逸らされた。
なんだか恐ろしい。
恐ろしかった。
その面はただごとではない。自分自身がそれを見た瞬間に「災害のようなもの」と直感したことを思い出した。
そして次に、師匠がその面の裏に張り付いた肉から抜き取った髪の毛を、風の中に解き放ったときの光景が脳裏に蘇る。そのときの、風の唸り声も。
ゾクゾクと寒気のする想像が頭の中を駆け巡る。
髪の毛は風に乗って宙を舞い、街中を飛び続ける。まるで巨大ななにかが深く吸う息に、手繰り寄せられるように。
やがて髪の毛は誰かの手元にたどり着く。そして人間を模したヒトガタの奥深くに埋められる。それを害することで、その髪の持ち主を害しようとする、昏い意思が漏れ出す。
そして……
二十分か、三十分か。沈黙のうちに時間が経った。
233風の行方 後編 ラスト  ◆oJUBn2VTGE :2012/05/19(土) 23:37:16.82 ID:13YZ4scB0
深夜ラジオの音と、轟々という風の音だけが響く高層ビルの屋上で、僕はふいにその叫びを聞いた。

h ―――――――――………………

声にならない声が、夜景の中に充満して、そして弾けた。断末魔の叫びのようだった。
その余韻が消え去ったころ、恐る恐る街を見下ろすと、遥か地上ではなにごともなかったかのように車のヘッドライトが、連なる糸となって流れていた。
きっとあの叫び声が、悲鳴が、聞こえたのはこの街でもごくひと握りの人間たちだろう。その人間たちは昼間の太陽の下よりも、暗い夜の中にこそ棲む生き物なのだ。
自分と、師匠のように。
「結局、曽我ナントカだったのか、別の誰かだったのか分からなかったな。黒魔術だか、陰陽道だか、呪禁道だか知らないが、たいしたやつだよ」
その夜の側から、師匠が言葉を紡ぐ。
「だけど」
相手が悪かったな。なにしろ国宝級に祟り神すぎるやつだ。
ひそひそと、誰に聞かせるでもなく囁く。
僕はその横顔を金網越しに見つめていた。落ちたら助からない高さに腰をかけ、足をぶら下げているその人を。
その左目の下あたりからは、いつの間にかぽろぽろと光の雫がこぼれている。そしてその雫は高いビルの屋上から、海のような暗い夜の底へと音もなくゆっくりと沈んでいく。
この世のものとは思えない幻想的な美しさだった。
われ知らず、僕はその光景に重ね合わせていた。見たこともないはずの、鷹の涙を。あるいは、夜行性の鳥類の涙…… 例えば、フクロウの流すそれを。

気がつくと、風はもう止んでいた。

(完)
234本当にあった怖い名無し:2012/05/19(土) 23:46:08.75 ID:CyHFIgZi0
ウニ乙。
次回は空を歩く男をお願いします。
235本当にあった怖い名無し:2012/05/20(日) 00:11:06.32 ID:44J4O0+E0
うにおつ
236本当にあった怖い名無し:2012/05/20(日) 05:19:42.74 ID:SUanKwNqO
ウニさん乙でした!
237本当にあった怖い名無し:2012/05/20(日) 15:38:13.37 ID:sJOHa/yJ0
10円キズつけて回る奴のルートにヤクザの車置いたみたいな感じだなw
238保育園 前編:2012/05/20(日) 16:05:37.87 ID:cMOGa5XM0
師匠から聞いた話だ。



土曜日の昼ひなか、僕は繁華街の一角にある公衆電話ボックスの扉を開け、中に入った。
中折れ式のドアが閉まる時の、皮膚で感じる気圧の変化。それと同時に雑踏のざわざわとした喧騒がふいに遮断され、強制的にどこか孤独な気分にさせられる。
一人でいることの、そこはかとない不安。
まして、今自分が密かな心霊スポットと噂される電話ボックスにいるのだという意識が、そのなんとも言えない不安を増幅させる。
夜の暗闇の中の方がもちろん怖いだろうが、この昼間の密閉空間も十分に気持ち悪い。僕は与えられた使命を果たすべく、緑色の公衆電話の脇に据え付けてあるメモ帳に目をやる。
メモ帳は肩の部分に穴があけられていて、そこに通した紐で公衆電話の下部にある金具に結び付けられている。
239保育園 前編:2012/05/20(日) 16:07:17.52 ID:cMOGa5XM0
紐を解き、メモ帳を手に取る。何枚か破った跡もあるが、捲ってみると各頁にはびっしりと落書きがされていた。僕は頷いて、財布を取り出すとテレホンカードを電話機に挿し込む。
「えーと」
記憶を確かめながら、バイト先の番号を押す。
『……はい、小川調査事務所です』
この声は服部さんだ。
「あ、すみません、僕です。加奈子さんはいますか」
『……中岡さんのことですか』
「あ、すみません。そうです」
240保育園 前編:2012/05/20(日) 16:08:26.71 ID:cMOGa5XM0
僕も、先輩にあたる加奈子さんもバイト用の偽名を使っているのだが、依頼人がいる場所でもついうっかり本名で呼んでしまいそうになることが多々あった。
なるべく小川調査事務所でのバイト中は偽名で呼び合うように気をつけているのだが、正直徹底できていない。
しかしバイト仲間の服部さんには時々それを嫌味であげつらわれている。服部さんはクスリとも笑わないので、嫌味なのか怒っているのか分からないのでとても怖い。
『代わります』
保留音に変わった。ワルキューレの騎行にだ。いつもイントロで終わってしまいメインラインを聴けない。だいたい二十五秒くらいで勇壮なメインラインに入るはずなのだが、『あたしだ』、ほらね。
241保育園 前編:2012/05/20(日) 16:08:51.41 ID:cMOGa5XM0
静々と始まったイントロが盛り上がってきたところで、保留が解ける。
『首尾はどうだ』
「手に入れました。これから戻ります」
『ご苦労。ボールペンも忘れるなよ』
そう言われて手で探るが、メモ帳を置いてあるあたりにはない。誰かに盗っていかれたのかと思ったら、足元に落ちていた。
拾ってから「じゃあ、これで」と言って受話器を戻す。
扉を押すとベキリという折れるような音とともに、気圧の変化と外のごみごみとした騒々しさがやってくる。
その瞬間にあっけなく孤独は癒され、拍子抜けしたように僕は太陽の下に足を踏み出した。

242保育園 前編:2012/05/20(日) 16:09:19.30 ID:cMOGa5XM0
大学二回生の春だった。
僕は繁華街から少し外れた通りを足早に進み、立ち並ぶ雑居ビルの一つを選んで階段を上っていった。
そのビルの三階にはバイト先である小川調査事務所という興信所がある。ドアをノックして中に入るとカタカタという音が静かな室内に響いていた。
フロアには観葉植物の向こうにデスクがいくつか並んでいて、二人の人物の顔が見える。
「お疲れ」
バイト仲間であり、オカルト道の師匠であるところの加奈子さんがやる気なさそうにデスクに足を乗せたまま雑誌を開いている。
「……」
もう一人、ワープロを叩いていた服部さんが僕の方に一瞬だけ視線を向け、そしてまた何の興味も失ったようにディスプレイに目を落とす。相変わらず冷たい目つきだ。
嫌な空気が漂っている。
243保育園 前編:2012/05/20(日) 16:10:00.78 ID:cMOGa5XM0
同じアルバイトの身ではあるが、服部さんは所長である小川さんの本来の助手である。
それに対して師匠と僕はイレギュラーな存在であり、ある特殊な依頼があった時だけ呼び出される。
この界隈の興信所業界では『オバケ』と陰口を叩かれている奇妙な、そして時に荒唐無稽な依頼、つまり心霊現象が関わるような事件の時にだ。
霊感などとは無縁の服部さんからすれば、師匠のやっていることなど胡散臭いだけで、口先で依頼者を騙して解決したように見せかけている姑息なやり口に見えることだろう。
元々無口な服部さんは実際のところ何を考えているのか分からないのだが、師匠と仲が良くないのは間違いない。
「メモは?」
師匠は雑誌を置いて、催促するように右手を伸ばした。
244保育園 前編:2012/05/20(日) 16:10:31.00 ID:cMOGa5XM0
僕はポケットからさっき電話ボックスから回収したばかりのメモ帳とボールペンを取り出してデスクの上に置いた。
「ほほう」
師匠は身を乗り出してデスクの上のメモ帳を捲り始めた。
どのページにもゴチャゴチャと線が走り、色々な落書きが残っている。
三角形がいくつも重なった図形もあれば、グルグルと丸を続けたもの、そして割と上手なドラえもんの顔やかわいいコックさんを失敗してグチャグチャに消してある絵…… 他にも形をとどめない様々な落書きがあった。
感心したような溜め息をつきながらメモを眺める師匠に、ようやく声をかける。
「それがなんなんですか」
「うん」
生返事で顔を上げもしない。
245保育園 前編:2012/05/20(日) 16:11:23.67 ID:cMOGa5XM0
僕が知っているのはただ、あの電話ボックスに一人で入っていると、目に見えない何かに肩を叩かれたり物凄い寒気に襲われたり、あるいは足を掴まれたりする、という噂だけだった。
そして師匠がこっそりとその電話ボックスにメモ帳とボールペンを持ち込み、まるで備え付けのものであるかのように偽装して放置してから三日目の今日、僕に回収に行かせたのだ。
回収したメモ帳は電話口で訊いた用件をメモしたのであろう、破りとられた頁もあったが、ほとんどが落書き帳と化していた。
「無意識にだ」
師匠がメモから視線を切らずに口を開く。
「人間は電話中にペンを取る時、電話の内容や、そこから連想したもの、あるいは全く関係がないようなその時頭に浮かんだもの書きつける。
たいていは意味のない落書きだ。後からそれを見ると、自分でも描いたかどうか覚えていないような模様が残っていたりする」
いきなり師匠がメモ帳開いて僕の前に突きつける。
「そんな無意識下におきた現象がこれだよ」
その妙な圧力のある言葉に息を呑む。
246保育園 前編:2012/05/20(日) 16:12:00.11 ID:cMOGa5XM0
メモ帳にはキノコのようなものが小さく描かれ、それがゴチャゴチャした線で消されていた。
「これもだ」
何頁かメモを捲り、またぐいと開かれる。
オカッパのような髪型の誰かの顔が描かれているが、失敗したのか途中で線が途切れている。
「そしてこれ」
ドキリとした。
別の頁に、さっきとはまるで違う筆致で頭のようなものが描かれている。
オカッパ頭が。
顔は描かれていない。頭の外殻だけの絵。
「お……女の子」
「そうだ」
師匠はニヤリと笑う。
僕は思わずメモ帳を受け取り、さっきのキノコのようなものの絵を見る。
髪だ。
あらためて確認するとキノコではなく明らかに髪の毛として描かれていた。
ドキドキしながら頁を捲っていくと、他にもそのオカッパのような髪型がいくつか現れた。
偶然。
247保育園 前編:2012/05/20(日) 16:12:34.50 ID:cMOGa5XM0
にしては多すぎる頻度だ。
電話ボックスに入った不特定多数の通行人が無意識に握ったペン。それが描くものがたまたま同じであるという蓋然性は?
そしてそれが偶然ではないのだとすると、そこに描かれたものは一体……
生唾を呑んで僕は師匠を見る。
しかし彼女はへら、と笑うとメモ帳を摘むようにして取り上げた。
「だいたい分かったし、もういいや」
そうしてメモ帳をデスクの引き出しに放り込み、また雑誌を手に取った。
読みかけた場所から頁を追い始める。
さっきまで興奮気味だったのに、すっかり興味を失っているようだ。
この熱しやすく冷めやすいところが師匠の特徴の一つだった。
そんなやりとりの間にも事務所の中には服部さんが叩くキーボードの音が静かに響いていて、僕はふいにここがどこであるのかを思い出す。
248保育園 前編:2012/05/20(日) 16:13:07.60 ID:cMOGa5XM0
「何時からでしたっけ」
僕が言うと、師匠は雑誌から目を逸らさずに壁を指さした。そこにはホワイトボードが掛かっていて、『所長』と『中岡』の欄に『十三時半、依頼人』という文字がマジックで走り書きされている。
もう少しでその時間だ。
「あれ、そう言えば所長は?」
「あれだよ。下のボストンで待ち合わせ」
ああ、そうか。思い出した。今度の依頼人は若い女性で、こんな妖しげな雑居ビルにある興信所などという場所にいきなり足を踏み入れるのを躊躇したのだ。
気持ちは分かる。
それでまずビルの一階にある喫茶店『ボストン』で所長と待ち合わせをしていたのだった。そこで少しやりとりをして、多少なりと安心してもらってから事務所まで招き入れる、という算段だろう。
249保育園 前編:2012/05/20(日) 16:13:43.57 ID:cMOGa5XM0
この零細興信所の所長である小川さんは、服の着こなしからして随分くだけた大人なのだが、人あたりは良く、初対面の依頼人の緊張をほぐすようなキャラクターをしていた。
「あ、やべ。お茶切れてたんじゃないか」
師匠はふいに立ち上がって台所の方へ小走りに向かった。
そしてガタゴトという音。引き出しをかき回しているらしい。
傍若無人な振る舞いをしている師匠だったが、何故かこの事務所ではコーヒーやお茶などを出す係を当然のように引き受けている。
女だから、などという固定観念で動く人ではないはずなので、意外な一面というところだろうか。
台所をひっくり返すような騒々しさに苦笑していると、服部さんがキーを叩く手を止め、ぼそりと呟いた。
「彼女は、この仕事に向いてない」
服部さんから僕らに話しかけて来ること自体まれなので、この部屋に他に誰かいるのかと一瞬キョロキョロしそうになったが、どうやらやはり僕に聞えるように言ったらしい。
「探偵には」
250保育園 前編:2012/05/20(日) 16:14:18.89 ID:cMOGa5XM0
そう補足してから、服部さんはまたキーを一定のリズムで叩き始める。
自分の師匠が馬鹿にされたというのに、僕は何故か腹が立たなかった。
ただ服部さんがどうして今さらそんなことを口にするのか、そのことを奇妙に思っただけだった。
「でも、服部さんだって一緒に仕事したことあるでしょう。僕はあの人、凄いと思いますけど」
一応反論してみる。
確かに師匠はオカルト絡みの依頼専門なので、どうしても本来の興信所の業務とは異なる手法を取ることが多いが、その端々で見せる発想や推理力の冴えは探偵としても凡庸ではないと十分に思わせるものだったはずだ。
そんな僕の説明を聞き流していたように見えた服部さんだったが、またピタリと手を止め、眼鏡の位置を直しながら淡々とした口調で言った。
「名探偵に向いている仕事なんて、何一つない」
「え」
251保育園 前編:2012/05/20(日) 16:15:30.22 ID:cMOGa5XM0
それってどういう意味ですか、と訊こうとした時、「あったー」という声がしてふにゃふにゃになったインスタント緑茶の袋を手に、台所から師匠が顔を出した。
「間に合った? 間に合った? セーフ?」
師匠が入り口のドアを見てそう繰り返す。
階段を上ってくる足音が聞こえる。
師匠と、そしてそのオマケの僕が呼ばれた依頼。
つまり、不可解で、普通の人間には解決できない不気味な出来事が、これからドアを開けてやってくるのだ。


252保育園 前編:2012/05/20(日) 16:18:12.74 ID:cMOGa5XM0
次の日、つまり日曜日。師匠と僕は市内のとある保育園に来ていた。
子どもの声のしない休日の保育園はやけに静かで、こんなところに入っていいのだろうかと不安な気持ちになる。
二階建ての園舎の一階、その中ほどにある部屋で僕らは座っていた。床は畳ではなくフローリングで、開け放した園庭側のガラス戸から暖かな風と光が入り込んできている。
ガラス戸からはそのまま外へ出られるようになっていて、すぐ前には下駄箱がある。
横長の園舎の一階の部屋は全部で五つ。
門を潜るとすぐ左手側に園舎の玄関があり、そこをつきあたりまで進むと、右手に真っ直ぐに廊下が伸びていてそのさらに向かって右手側に事務室、四歳児室、五歳児室、倉庫、調理室、という順で部屋が並んでいる。
また玄関の奥には二階へ上がる階段があり、玄関の下駄箱はその二階へ上がる人たちのためのものだった。
階段を上るとまた廊下が真っ直ぐ伸びていて、右手側に遊戯室、0歳児室、一歳児室、二歳児室と並んでいる。
253保育園 前編:2012/05/20(日) 16:19:10.75 ID:cMOGa5XM0
保育園の敷地は四角形で、おおよそ園庭と園舎とで半々に区切られている。門の真正面はその園庭側で、わずかな遊具と砂場、そしてその奥には花壇と小さな農園がある。
園庭側の周囲は背の高いフェンスで覆われており、そのフェンスの内側は木が並べて植えられている。
残りの半分の園舎側はフェンスが途中で材質変更されたような形でブロック塀に切り替わり、それがぐるりとちょうど農園の手前まで周囲を覆っている。
門を通り抜けてすぐ左手に進むと、園舎の玄関とブロック塀の間に隙間があり、裏側へ進むことが出来るが、途中に物置があるくらいで園舎の真裏にはブロック塀との間にほとんどスペースがなく、調理室の裏手のあたりでフェンスに阻まれ行き止まりとなっている。
そしてその向こうはプールだ。出入りは園舎の廊下側からしか出来ないようになっている。敷地で言うと調理室の隣ということになる。
以上がこの保育園の概要だ。
254保育園 前編:2012/05/20(日) 16:22:03.01 ID:cMOGa5XM0
師匠は到着して早々、一通りの案内を頼み、ようやくその構造が頭に入ったところで一階にある一室に腰を落ち着けたのだった。
「で、ここは五歳児室というわけですね」
師匠が周囲の壁を見回す。
「はい」
女性が頷いた。
小川調査事務所に依頼人としてやって来た人で、悦子さん、という三十歳くらいの保育士だ。
「私が担任をしています」
悦子さんはいつもはエプロン姿なのだろうが、今日は私服だ。本来は休みである日なので当然か。
僕と師匠の前には悦子さんの他に三人の女性が座っている。
順に紹介される。
255保育園 前編:2012/05/20(日) 16:24:42.58 ID:cMOGa5XM0
「あと、麻美先生が隣の三・四歳児室の担任、それから洋子先生が二階の二歳児室、由衣先生がその隣の一歳児室の担任です」
それぞれが緊張気味に会釈する。
お互いが先生と呼び合うのか。そう言えば自分が昔保育園に通っていた時もそうだったことを思い出して懐かしくなる。
悦子先生は見るからにしっかり者、という感じで喋り方や動きがキビキビしていて、明らかに他の先生を引っ張っているリーダー役だった。
「で、これが問題の写真ですね」
師匠の言葉に、全員の視線が床に置かれた一枚の写真の上に注がれる。
256保育園 前編:2012/05/20(日) 16:25:12.55 ID:cMOGa5XM0
それはこの園舎の二階の窓から園庭に向かってシャッターを切った写真であり、雨に濡れてぬかるんだ園庭の中ほどに奇妙な丸い模様が浮かび上がっている様が写し出されている。
その丸い模様は直径二メートルほど。すぐそのそばにエプロン姿の女性が一人写っていて、園舎側から足跡が伸びている。
写真を見ながら、四人の若い保育士が息を呑む気配があった。
師匠が顔を上げ、そんな様子を意にも介さない口調ではっきりと言う。
「では、詳細な説明を」


257保育園 前編:2012/05/20(日) 16:26:02.38 ID:cMOGa5XM0
先週の金曜のことだった。
その日は朝から曇りがちで、天気予報でも降水確率は50%となっていた。
空が暗いと気分も暗くなる。悦子先生は園庭で遊ぶ子どもたちを見ながら、ここ最近続く気持ちの悪い出来事のことを考えていた。
一階や二階のトイレでなにか人ではないものの気配を感じることがたびたびあった。
他にも花壇やプール、時には室内でさえ何か人影のようなものを見ることもあった。先輩から聞いた噂によると、この保育園の敷地は元々、罪人の首をさらす場所だったとか……
悦子先生だけではなく、他の先生や、子どもたちまでも何か幽霊じみたもののを見てしまう、ということがあった。少なくともそんな噂がまことしやかに囁かれている。
お祓いをしてもらった方がいいんじゃないか。
先生の間からそんな意見も出たが、園長先生はとりあってくれなかった。
馬鹿らしい。子どもに悪影響が出る。
そんな言葉で却下された。
『だいたいねえ、うちは公立なんだから、そんなお祓いなんていう宗教的なものに予算がつくはずないでしょう?』
そんなことを言われたので、悦子先生は市の保育担当職員にこっそりと訊いてみたが、やはりそういう支出はできないのだそうだ。
258保育園 前編:2012/05/20(日) 16:28:26.76 ID:cMOGa5XM0
公立だろうが私立だろうが、出てくるお化けの方はそんなことを気にはしてくれないのに。
理不尽なものを感じたが、どうしようもなかった。
ああいやだ。
そんなことを考えながら一瞬ぼんやりしていると、パラパラと雨が降り始めたらしく、子どもたちがきゃあきゃあと騒ぎだした。
すぐにみんなを室内に引き上げさせる。そうこうしていると、お昼を食べさせる時間がきた。
それぞれの教室で食事を取っていると、外はかなり雨脚が強くなり風も少し出てきたようだった。
食事の時間が終わり、昼寝の時間になったが、子どもたちはカーテンの隙間から外の様子を見たがってなかなか落ち着かなかった。
「はい、もう寝るの!」
カーテンをジャッ、と閉め、たしなめると子どもたちはようやく布団に入る。
それから悦子先生は事務室とトイレに一度だけ立ち、それ以外は自分の五歳児室で子どもの寝顔を見ながら連絡帳などをつけて過ごしていた。
叩きつけるような雨音を聴きながら。
259保育園 前編:2012/05/20(日) 16:32:12.26 ID:cMOGa5XM0
一度だけ外が光ったかと思うと雷が鳴って、その時だけは子どもたちを起こさないようにそっとガラス戸のところまで行って、カーテンの隙間から外を覗いたが、特に変わったことはなかった。
随分近くで鳴ったような気がしたのだけれど。
それからしばらくして昼寝の時間が終わった。
ちょうどそれに合わせるように、雨が止んだようだった。子どもたちにおはようと言いながらカーテンをあけると、外はまだ曇っていたが、遠くの空から光が射している。
ふと、園庭の一箇所に目が留まった。
地面になにかある。
なんだろう、と思いながらガラス戸を開け、サンダルをつっかけて外に出る。雨は降っていない。
しかし強く降った雨で、地面はかなりぬかるんでいる。泥にサンダルを引っ張られながら、園庭の中ほどまで進むと、悦子先生は自分の目を擦った。
え?
思わず呆けたような顔をしてしまう。
あまりに似つかわしくないものがそこにあったからだ。
260保育園 前編:2012/05/20(日) 16:34:22.59 ID:cMOGa5XM0
<魔方陣>
そうとでも呼ぶしかないような模様が泥の中に描かれている。円の中に三角形だか四角形だかが重なったような図形、そして円の外周にそってなにか文字のようなもの……
「   」
悲鳴を上げた、と思う。
園舎から、ガラス戸が開く音がして、他の先生たちも顔を出した。子どもたちまで出てこようとしているのを、みんな必死で止める。
状況を把握した園長先生が物置の方へ走ったかと思うと、地ならしをするトンボを持って来て、すぐにその魔方陣のようなものを消し始めた。
そしてみんな部屋に戻りなさい、と怒ったように叫ぶ。
悦子先生は呆然としながら、頭の中に繰り返される声のようなものを聞いていた。
『だから言ったのに。だから言ったのに』
それは自分の声だったと思う。
でも。いやに他人事のような声だった。

261保育園 前編:2012/05/20(日) 16:36:24.47 ID:cMOGa5XM0
「で、今日がその出来事があってから、ひいふう…… 九日目か」
師匠が指を折る。
気持ちの悪い話を聞いたばかりなのに平然としている様子はさすがというべきか。
「この写真は誰が?」
問い掛けに、洋子先生と呼ばれた一番若い保育士がおずおずと手を挙げる。
「私です。悦子先生の悲鳴を聞いたあと、カーテンを開けると、その…… 魔方陣みたいなものが見えて、ちょうど私、次の遠足の写真の担当だったからカメラをいじってるところだったんで」
「思わず、シャッターを切った、と」
「はい」
「これ一枚だけですか」
「はい。園長先生がすぐにトンボで消してしまったので」
「消した後の園庭の写真は?」
「撮っていません」
「そうですか。分かりました」
師匠は写真を手にして、少し考えているような顔をする。
「この写真をとったのは、二歳児の部屋からですね?」
「はい、ちょうどこの部屋の真上です」
262保育園 前編:2012/05/20(日) 16:39:19.18 ID:cMOGa5XM0
「なるほど、ではこの魔方陣は、この部屋の正面に近い位置にあったわけですね」
そう言って師匠は立ち上がり、ガラス戸の方へ向かう。
開け放してあった戸から外へ出て、すぐ外にあった小さな板敷きから自分の靴を選んで園庭へ出て行った。
僕らもそれについていく。
数メートル進んで、写真と周囲を見比べながら「このへんですね」と言う。
当然だが、地面はすっかり乾いていて、泥に描かれていたという魔方陣のらしきものの痕跡すらない。
「ふうん」
師匠は怪訝な表情で地面を触る。そして首を傾げた。
その場所からは、部屋の正面側のフェンスや左手側の花壇まで、まだ十メートルほどもある。
「あそこから撮ったんですね」
師匠が園舎の二階を指さす。
園庭から見て、一番右端の部屋だ。一階の倉庫と調理室にあたる部分には二階がないためだった。そしてその二階にはテラスがなく、師匠の指さす方向には窓と壁だけが見えている。
「念のための確認ですが、これが描かれているところを、誰も見てないんですね?」
「はい」
「雨の降っていた時間は?」
「十一時から昼の二時までです」悦子先生が答える。「それ以外の時間は曇ってはいましたが、雨は降っていません」
それを聞いて、師匠が意味深に頷く。
263保育園 前編:2012/05/20(日) 16:39:51.12 ID:cMOGa5XM0
「なるほど、呼ばれた訳が分かりましたよ」
じゃあ、部屋に戻りましょうか。
師匠にそう促されて全員、五歳児室に戻る。
また同じような配置で床に座ったとたん、師匠が口を開く。写真を手にしたままで。
「これを、どう思ったんです」
先生たちは顔を見合わせる。
「園長先生は、たちの悪いイタズラだと」
悦子先生がそう答えたのを師匠はニヤニヤしながら聞いている。
「何年か前にあった、机を9の字に並べるイタズラ事件のことを思い出しますね」
師匠の言葉に僕もその出来事のことを思い出した。
確か東京の中学校で、夜のうちに何者かが校内に侵入し、何百という大量の机を運び出して校庭に並べた、という事件だ。
校庭から見ると、ただむちゃくちゃに放置された机にしか見えなかったが、屋上から見るとそれがアラビア数字の「9」の形になっている、という奇怪な事件だった。
そのことが全国的に報道されると、視聴者たちは素人探偵となってその事件の犯人や「9」の意味、そして動機について様々な推理がなされることになった。
規模はまったく違うが、保育園の園庭に奇妙な図形が描かれるというのは、その時のことを彷彿とさせるものがあった。
264保育園 前編:2012/05/20(日) 16:42:00.15 ID:cMOGa5XM0
「イタズラねぇ……」
師匠はまだ笑っている。「あなたたちは、そうは思わなかった訳ですね」
みんな神妙な顔をして頷いた。
「理由はだいたい分かりますよ。まず、第一にこの保育園で以前から心霊現象のようなものが続いていたこと。そして第二に、この写真の、これですね」
師匠は写真の中の一箇所を指さす。
そこには魔方陣のそばで立ち尽くす悦子先生が写っている。いや、師匠の指はそこから少し外れた位置、その悦子先生の足跡らしき小さな点々が園舎の方から伸びてきている部分に掛かっている。
「サンダルの足跡。雨が上がったばかりでぬかるんでいたので地面についていて当然です。
しかし…… 問題はそれが一人分しかないこと。
魔方陣に最初に気づいて外に出た悦子先生のものだけ、つまり、イタズラでこの魔方陣を作ったはずの人物の足跡が残っていないこと、それが問題なんですね」
師匠の言葉に保育士たちの顔が強張る。
「園長先生はこんなことがあった後も、お祓いなんかしないの一点張りで。だから私たち、有志でお金を出し合って依頼をしたんです」
最初は神主さんに頼もうとしたのだが、魔方陣、というところが引っかかっていた。専門外ではないかと思ったのだ。
それはお寺であっても同じだ。かといって西洋式の、たとえばエクソシストのような人にはツテがないし……
265保育園 前編:2012/05/20(日) 16:44:07.16 ID:cMOGa5XM0
「この写真には悦子先生が魔方陣に近寄って行った時の足跡しか写っていない。確かに二階から撮影したものだから、見えにくいだけで実際は他の足跡はあったかも知れない。でもそうではないんでしょう?」
師匠が訊くと、悦子先生は頷く。
「私が外に出た時、他の足跡はありませんでした。後から思い出して、そうだったかも、というんじゃありません。私、その場にいる時から他の足跡がなかったことを変だと思ってましたから」
そう強く断言する。
「そして雨は十一時から降り始めて十四時で止んでいる。
どの時点で地面に魔方陣が描かれたのかは、はっきり分からないけど、少なくとも雨が強く降っている時ではないないはずだ。だとしたら、こんなにくっきりと形が残っているはずがないから。
では雨が止んだ後に描いたのか? それもおかしい。ぬかるんだ地面に、それを描いた人の足跡が残っていないんだから」
師匠の言葉の揚げ足をとるような形で僕は口を挟む。
「じゃあ雨が降っている間にそこまで歩いて行って、止んでから描いたとか」
「行きの足跡は消えたとしても、帰りの足跡は?」
そうか。
266保育園 前編:2012/05/20(日) 16:46:38.13 ID:cMOGa5XM0
立ち去った時の足跡もないのなら、その後で雨によって消されたということになる。しかし魔方陣は消えていない。
「やっぱりおかしいですね」
雨が止んだ後で魔方陣を描いたのなら、そのイタズラをした誰かはどうやって足跡を残さずにその場を去ったというのか。
写真を見る限り、魔方陣は園庭の中ほどにあり、園舎からもフェンスからも花壇からも、そして門からもかなり離れている。
一番近いフェンス側でも恐らく十メートルはある。とても一飛びに飛べるような距離ではない。
「竹馬で行ったとか」
僕の意見に呆れた顔をした師匠だが、一応確認する。
「竹馬はありますか」
「うちにはありません」
「まあ、かりにあったとしても、そんなことまでして足跡を残したくない理由はないでしょう。
仮にまだ雨が降っていて、園児の昼寝の時間中だったとしても、先生の誰かがカーテンの外を覗けば間違いなく見つかってしまうこんな遮蔽物もない場所で、そんなイタズラを敢行しようというんですから。
描いているところを見られてもかまわない、と思っている人ならそこまでして足跡だけを残したくない理由はないでしょう。
逆に出来れば見られたくないと思っている人なら、これはスピード勝負です。そんな目立つ竹馬なんかに乗ってえっちらおっちら行くなんて考えられません」
「じゃあ、トンボみたいなもので自分の足跡を消しながら立ち去った、とか」
「む、なるほど」
僕の言葉に師匠は思案げな顔をして頷く。
すると悦子先生から反論が出た。
「だとしたら地面にナメクジが這いずったみたいな跡が残るんじゃないですか。そんなものありませんでした」
「ふうん。ではとりあえず足跡の問題は置いておくとして、もう少し確認したいことがあります」
師匠はそう言った後、ゆっくりと口を開いた。
267本当にあった怖い名無し:2012/05/20(日) 16:56:06.78 ID:DgiVDjSF0
ウニ乙
また来てね
268本当にあった怖い名無し:2012/05/20(日) 19:18:50.25 ID:xnya1xzE0
↑はウニじゃないよ

他人が勝手にウニの作品を投下したんだよ
269本当にあった怖い名無し:2012/05/20(日) 20:23:55.67 ID:44J4O0+E0
敢えて言おう
うにおつ
270本当にあった怖い名無し:2012/05/20(日) 22:02:35.53 ID:VbCSV4fkO
どうせ誰かから聞いた話を書いてるんだから、誰が投下してもいいじゃん。
271本当にあった怖い名無し:2012/05/20(日) 22:08:57.98 ID:xnya1xzE0
自分が書いた話を他人に投下されるのって、どんな気分だろうね
272本当にあった怖い名無し:2012/05/20(日) 23:01:02.95 ID:PBpBd5QL0
↑はウニじゃないよ

他人が勝手に文句を言ってるんだよ
273本当にあった怖い名無し:2012/05/21(月) 17:31:09.15 ID:qxLrfbu60
これも一つの有名税か・・・
偽者かも分からんし、できれば出展を明記して欲しい物だが・・・
(最近のウニのクオリティは生半にコピーできる物じゃないし、多分内容は本人が書いたものだろうが。ウニ乙)
274本当にあった怖い名無し:2012/05/21(月) 21:30:18.12 ID:rBLcz7bSO
クオリティとかwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
275本当にあった怖い名無し:2012/05/22(火) 01:37:26.11 ID:drX4z3td0
括弧つきなのがキモイ
276本当にあった怖い名無し:2012/05/22(火) 09:57:09.52 ID:V/ie4yp40
(フヒヒ、サーセンwwwwwwwwww)
277本当にあった怖い名無し:2012/05/22(火) 21:39:47.11 ID:82ds74Rd0
ウニは句読点の使い方が致命的に駄目
278赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/05/23(水) 09:45:01.27 ID:xKbJHur60
[男は捕まる]

1/17
時刻は夜中の3時過ぎ。

こんな時間に1人の女――若い女が、暗い山道からこちらを見下ろしている。
それだけ考えると、これは異常なことに思えるが…

女は至って普通の格好…レザーのロングコートを着ていた。

季節柄、そして時間的にも今は少し肌寒い。
だからその服装は当然のものだ。
もし女の服装が、こういう場面にありがちな白のワンピースなどだったら、俺は間違いなく全力で逃げ出していただろう。

しかしその女は、余りに普通の格好をしていた。

…暗がりで明かりを持っていない、という事以外は。
279赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/05/23(水) 09:47:39.27 ID:xKbJHur60
2/17
暗闇に目が慣れていたとはいえ、女の顔はよく見えなかった。

明かりがあるのはこちらの車道に沿った道だけで、女が立っている山の上に続く一本道は真っ暗だからだ。

しかし、月明かりだけでもその女が美人であることは分かる。
むしろその光加減で、一段と美しく見えているのかも知れない。
あの屋敷の娘にどことなく似ている感じがするが…俺はこっちの方が好みだな。

俺はもう少し良く見ようと思い、一歩前に踏み出す。
…すると女はクルリと後ろを向き、山の上へと消えていく。

――さて、2択だ。

追うか、追わざるか。

女は去っていく瞬間、フッと笑みを浮かべたように見えた。
…まるで、こちらを誘うかのように。
勘違いかも知れないが、少なくとも俺にはそう見えた。
そしてそうまでされたら、こちらの行動は決まっている。

部屋に娘が居なかったため、俺の中にはある種の欲望が渦巻いているままだった。
もちろん、相手が明らかに異常な存在であったのなら、こんな気は起きなかっただろう。
しかし、あの女は生身だ。
それなら問題ない。
力で負ける気もしないし、そもそも向こうが誘っているのだ…。
280赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/05/23(水) 09:49:30.57 ID:xKbJHur60
3/17
車道から外れたその山道は、そこまでの道と同様に緩やかな坂道であったが、余り舗装がされていなかった。

階段状ではなく坂道になっているのは、車椅子の娘のためだろう。
1人で登るには多少骨が折れそうだが、誰かに押してもらえば楽に登れそうな道だ。
もっとも、金持ちのお嬢さまがわざわざこんな山道を登る理由もなさそうだが…。

女は暗闇の中、振り向くことなく山道を登っていく。
明かりもないのに、大したものだ。

相手は走っている訳では無いので、一気に距離を詰めることも出来そうだが、俺はその足跡を追う形で大人しくついていくことにした。
この先に何があるかは知らないが、女には目的地があるようで、どうやらそこまで俺を連れて行きたいようだ。

…もちろん、警戒は怠らない。

気が付くと崖から突き落とされていた――なんてのはゴメンだ。
281赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/05/23(水) 09:52:03.68 ID:xKbJHur60
4/17
数分歩いたところで坂道が終わり、少し開けたところに出る。

そこは山の頂上でもなく、展望台と呼ぶのもおこがましいところで、
辛うじて雨くらいは避けられそうなくたびれた屋根と、誰も座ることが無さそうなベンチがあるだけの広場だった。

女はそこで歩く速度を落とし、崖に面して作られた、大人の胸の高さ程ある柵へと向かう。

俺も釣られるようにそこに向かい――ハッとする。

…絶景だ。

そこからは町を一望でき、深夜なので灯りは疎らだったが、それでも十分に美しい景色だった。
こういうのを、きっと宝石箱と言うのだろう。
この俺でさえそんな風に思えるのだから、まともな人間ならもっと感動的なはずだ。

俺は女の横に立ち、しばらく景色に魅入ってしまう。

すると…

女「良い景色でしょう?」

その女が初めて口を開いた。
282本当にあった怖い名無し:2012/05/23(水) 09:52:22.58 ID:mKQHoTFw0
だからもういいってw
283赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/05/23(水) 09:54:09.93 ID:xKbJHur60
5/17
俺「…あぁ」
女に向き直り、答える。
そこでやっと、俺は相手の顔をはっきりと見ることができた。

――やはり美人だ。目鼻立ちの整った良い顔立ちをしている。
長く伸びた黒髪も良い。
そんな女が、俺のすぐ目の前に、微かに笑みを浮かべたような表情で立っている…。

どうしてくれようか?

相手も望んでいるのなら、有無を言わさず襲い掛かるのもアリか?

…いや。
少しくらい話をしてやるか。

俺「…あんた、こんなところで何してんだ?」

当たり障りの無い――しかし一番知りたかったことを聞いてみる。

女「考え事を、ちょっとね」

サラリと答えてくる。
殆ど意味の無い答えだ。

俺「俺に何か用があんのか?」

誘ってきたのだからそうだろうと思い、聞いてみる。
…すると、俺の望む答えが返ってきた。

女「そうよ。貴方が欲しいの」
284赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/05/23(水) 09:55:26.85 ID:xKbJHur60
6/17
俺はニヤリとほくそ笑む。

…話が早い。

そう思って女に向かって一歩踏み出す――と。

女「堀塚の家…驚いたでしょう?」
俺「…は?」
女「誰とも会えず、何も盗めなかった」

…何?

女は笑みを浮かべたまま、こちらを見ている。

俺「…何か知ってんのか?」

俺がそう聞くと、女は視線を落とす。
何となくその視線の先を追うと、崖に面した柵の元に花が添えてある。
暗くて気付かなかったが、これは――

女「あの家は特別なのよ」

俺「特別?」
女「そう」

視線を戻すと、女は柵に手を掛け、町を見下ろしながら呟く。
女「この中でも、特に…」
285本当にあった怖い名無し:2012/05/23(水) 09:55:38.88 ID:mKQHoTFw0
以降、••• 禁止なw
286本当にあった怖い名無し:2012/05/23(水) 09:56:18.51 ID:mKQHoTFw0
あと−−もw
287赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/05/23(水) 09:57:05.49 ID:xKbJHur60
7/17
俺「どういう意味だ?」

どうでも良さそうな話だが、少し興味を引かれる。
何しろあの家は…やはり異常だったからだ。
俺には、少なからずその理由を知りたい気持ちがあった。

女「この町に古くからある家には、秘密があるの」
町を見下ろしたまま、女が言う。

俺「秘密?」
女「その家に生まれた女性には、ある素質があるの。…二十歳くらいまでに覚醒しないと消えてしまうけどね」
俺「何だ?何の素質だ?」

女「魔女になれる素質よ」
俺「…ハァ?」
魔女?こいつ、何言ってんだ?

女「信じられない?」
そう言いながら、女がこちらに向き直る。

俺「…無茶な話だな」
頭がおかしいとしか思えない。
288赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/05/23(水) 09:58:28.20 ID:xKbJHur60
8/17
女「言い方が悪いかしらね…。所謂、霊感の強い女性よ」
俺「…」

霊感?
霊だの何だのと言われたところで…

女「堀塚の家で、異常な体験をしたでしょう?」

俺「それが何だ?説明できるのか?」
女「簡単な話よ…」
冷ややかな目で俺を見つめながら、女が言う。
…少しゾクッとするような目つきだ。

女「堀塚家の女性は、予知の力を持っているの」
俺「予知?」
女「そう」

また、突拍子も無い事を。
そんなものは――…いや、しかしそれなら…?
289赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/05/23(水) 09:59:38.49 ID:xKbJHur60
9/17
俺「それはまた、大層な話だが…。じゃあさっきのあれは、俺が来ることが分かっていたからだと?」
女「そういうことね」

予め俺が見て回る部屋、場所を全て把握されていたって訳か。

…馬鹿げている。

そうだ。そもそも、そうと分かっているのなら――

俺「なら、警察にでも通報しておけばいいじゃねぇか」
俺が言うのもおかしいが、それが普通だろう。

女「警察が信じると思う?今夜、強盗が入るので守ってください、って」
俺「…しらねぇよ」
女「巡回にくらいは来てくれるかも知れないけど、それだと貴方、日を改めるだけよね」
俺「…」
女「入るだけ無駄だ、って分からせる方が効果的よ」

…そういう考え方もあるのか。
確かに俺は今、二度とあの屋敷には行きたくないと思っている…。
290本当にあった怖い名無し:2012/05/23(水) 09:59:51.49 ID:mKQHoTFw0
ネタかよwwww
291赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/05/23(水) 10:01:43.43 ID:xKbJHur60
10/17
俺「まぁ…それはもういい。その話は分かった」

あの家でのことは、それで良い。
予知なんてものを信じるかどうかは、この際どうでも良いことだ。
それより――

俺「で?あんたは何なんだ?」

俺は再び、女に質問を投げかける。
最初に俺が欲しいとか言っていたが、何故か急に変な話を始めて、何がしたいのかさっぱり分からない。

女「最初に言った通りよ。貴方が欲しいの」
俺「じゃあ――」
女「正確には、私の手足になって欲しいの」
俺「手足?」

女「そう。私の兵士になって」
俺「…」

兵士?
変わった表現だが…駒になって、従えってことか?
292赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/05/23(水) 10:04:25.03 ID:xKbJHur60
11/17
俺「フン…。意味も無く従うと思ってんのか?」
そう言いながら、俺はゆっくりと女の目の前まで詰め寄る。

俺「俺は、従わせる方が好きだしな…」
手を伸ばせば届く距離だ。
掴み掛かれば、腕力で負けることはないだろう。
だが女は少しも動じる気配を見せず、澄ました顔でこちらを見つめている…。

気に入らねぇ。

何様のつもりか知らないが、この、人を見下す態度。
相手が男だろうが女だろうが、気に入らねぇ。

俺を言い包めるつもりだったのだろうが、俺はそんな単純ではない。
頭の良さそうな女だが、この世の中、結局は腕力がものを言うのだと思い知らせてやる…。

…と。

女「死ぬわよ」
唐突に、女が言う。

俺「あぁ?」
女「このままだと、貴方、死ぬわよ」
何言ってんだ?死ぬ?…俺が?
293赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/05/23(水) 10:05:42.36 ID:xKbJHur60
12/17
俺「ふん…。今度は何だ?」
馬鹿馬鹿しい。
ため息が出ちまう。

俺「脅し文句にしては、つまらねぇなぁ」
俺は女を睨み付けて言う。

女「自分が呪われている事に、気付いていないのね」

…ヤレヤレだ。

これはアレか?
あなたは呪われています。このままでは死にます。
助かりたければ、ああしろこうしろって?

俺「あんた、ふざけるのも――」
女「首を吊っていた夫婦の霊ね」

俺「…は?」

突然の事に、体が固まってしまう。
首を吊っていた夫婦だと?
こいつ、何で…

女「貴方もバカな事をしたものね」
294本当にあった怖い名無し:2012/05/23(水) 10:06:03.11 ID:mKQHoTFw0
あ、かわいそうだから「」は使っていいけど






いいかげん恥ずかしいと思えよ(´・ω・`)
295赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/05/23(水) 10:07:35.67 ID:xKbJHur60
13/17
俺「何でだよ…」

全身から、急速に力が抜けていくのを感じる。
俺は話していない。
俺は、あの時のことを誰にも話していない…。

女「2週間ほど前、貴方はあるアパートの一室に盗みに入った」
俺の様子などお構いなく、女が淡々と話を始める。
…俺が体験した、誰にも話していない話を。

女「小さな木造のアパート。そこには、50過ぎの夫婦が暮らしていた」
そう。暮らしていた。木造のボロアパート…。

女「時刻は0時過ぎ。小銭稼ぎのつもりで部屋に入った貴方は…居間の中央で、首を吊っている夫婦を見つけた」

吊っていた…。
あぁ…思い出す…思い出してしまう。あの時のことを。

盗みに入ったその家で、それぞれの体をロープに委ねていた2人。
足元には、踏み台に使ったのであろう簡素な椅子が転がっていた。
あれは正に衝撃的な光景だった。

だが、それを見て俺は…

――あぁ、あれが間違いだったのか?

俺はそこで逃げ出す事もせず、首を吊っている2人を尻目に部屋の物色を始めたのだ。
296赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/05/23(水) 10:10:08.35 ID:xKbJHur60
14/17
女「そんなものには動揺しない、強い自分を演じた?…でも、代償は大きかったわね」
俺「…」
女「どこかに大金があるような、そんな状況の家とは思えないのにね」

そうだ。少し考えれば当たり前のことなのに。
俺はただ、逃げ出すのが嫌なだけだったんだ。堂々としていたかったんだ。

女「物色を続けながらも、貴方は夫婦の方を見ないようにしていたわね」
俺「…」

まるで、そこで俺のことを見ていたかのように言う。
確かにそうだった。
俺は、ずっと夫婦に背中を向けて行動していた。
…そりゃそうだろう?
そんなもんを望んで見たいなんて、頭のおかしな奴だけだ。

女「でも視線は感じていた」
俺「く…」

こいつ…

女「でしょ?」
俺「そんな訳は、ない…」
女「そうかしら?」
297赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/05/23(水) 10:13:56.86 ID:xKbJHur60
15/17
女「最初に夫婦の"向き"を確認してから、貴方は決してその正面に行かないように行動していたわね」
何で知ってんだよ…ちくしょう…

女「幸い、2人は何もない壁の方を向いていたから、特に困ることはなかったでしょうけど――」

何なんだ?こいつは。
…駄目だ。こいつが一番おかしい。
さっきの家の事なんかより、こいつが一番異常だ。
頭の中に警告が鳴り響く。これ以上話を聞いてはいけない。今すぐに逃げ出すべきだと。

…だが、足が動かない。
鉛のように重くて、足が動かせない…。

女「気付いたはずよ。その部屋にあった鏡台の前に立ったとき、鏡に映って見えたでしょう?」
鏡台の前に立った…あぁ、立った…。
そこで、俺は――

――見ていない。
俺は何も見ていない!
首を吊ったまま、クルリとこちらに向き直った夫婦の姿なんて、俺は見ていない…!

女「それから、貴方はすぐにその家から逃げ出した訳だけど…」

あぁ…、もう嫌だ。嫌だ…
俺は頭を抱えて、後ずさる。

女「良かったわね。突然、後ろから肩を掴まれるような事が無くて」

もう、やめてくれ…
298本当にあった怖い名無し:2012/05/23(水) 10:14:34.72 ID:6zjCzHoAi
293 名前:赤緑 ◆kJAS6iN932 [sage] :2012/05/23(水) 10:05:42.36 ID:xKbJHur60
12/17
俺「ふん…。今度は何だ?」
馬鹿馬鹿しい。
ため息が出ちまう。

俺「脅し文句にしては、つまらねぇなぁ」
俺は女を睨み付けて言う。

女「自分が呪われている事に、気付いていないのね」

…ヤレヤレだ。

これはアレか?
あなたは呪われています。このままでは死にます。
助かりたければ、ああしろこうしろって?

俺「あんた、ふざけるのも――」
女「首を吊っていた夫婦の霊ね」

俺「…は?」

突然の事に、体が固まってしまう。
首を吊っていた夫婦だと?
こいつ、何で…

女「貴方もバカな事をしたものね」



クオリティ高杉だろWWW
299赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/05/23(水) 10:15:44.80 ID:xKbJHur60
16/17
俺「分かった…。もう、十分、よく分かった」
俺は女を制止するように、手を向けながら言う。

俺「俺は…何をすれば良いんだ?何を望んでいる?」

こんなのはゴメンだ。
殴られ蹴られ、暴力で脅される方がまだマシだ。それなら俺だって負けやしない。
だが、こんな――意味も分からず頭の中に手を突っ込まれて、無理矢理全てを引きずり出されるようなのには、耐えられない。頭がおかしくなりそうだ。

女「最初に言った通りよ」
およそ感情のこもっていない声で、女が言う。

俺「あぁ…。駒になれってことか」
女「そう」
女が軽く微笑む。

…街で見掛ければ、目を引く美人だろう。
ひょっとしたら声を掛けたかもしれない。
出来ればそういった形で会いたかった気もするが…逆に、この状況を良しとしている自分にも気付く。
この女になら全てを支配されても良いと、少なからず思っている自分に…。
300本当にあった怖い名無し:2012/05/23(水) 10:16:21.21 ID:6zjCzHoAi
284 名前:赤緑 ◆kJAS6iN932 [sage] :2012/05/23(水) 09:55:26.85 ID:xKbJHur60
6/17
俺はニヤリとほくそ笑む。

…話が早い。

そう思って女に向かって一歩踏み出す――と。

女「堀塚の家…驚いたでしょう?」
俺「…は?」
女「誰とも会えず、何も盗めなかった」

…何?

女は笑みを浮かべたまま、こちらを見ている。

俺「…何か知ってんのか?」

俺がそう聞くと、女は視線を落とす。
何となくその視線の先を追うと、崖に面した柵の元に花が添えてある。
暗くて気付かなかったが、これは――

女「あの家は特別なのよ」

俺「特別?」
女「そう」

視線を戻すと、女は柵に手を掛け、町を見下ろしながら呟く。
女「この中でも、特に…」

秋田お(´・ω・`)
301赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/05/23(水) 10:17:14.56 ID:xKbJHur60
17/17
女「必要な時にこちらから連絡するから、余り遠くには行かないでね」
俺「分かったよ…」
女「それじゃ――」
俺「あぁ、ちょっと待ってくれ」
そう言って、去ろうとする女を引き止める。
1つ聞いておきたい事があるからだ。

俺「あんた…名前は?何て呼べば良い?」
一応、これから俺の"主"となる人間だ。
名前くらい知っておきたい。

女「名前ね…」
すると女は、小首を傾げて何か考えるような素振りをする。

俺「あぁ、俺は三井。三井卓也」

女「私は――舞よ。それじゃあ、ね」

そう言って、その女――舞はクルリと背を向け、更に山奥へと消えていった。

どこに行くのか、後を追いかけてみようかとも考えたが…止めておいた。
きっと姿を見失い、永遠に追いつけないだろうと思ったからだ。

俺は大人しく、来た道を戻って行く。

既に夜は明け、新しい朝が来ていた。


302本当にあった怖い名無し:2012/05/23(水) 10:18:03.78 ID:6zjCzHoAi
298 名前:本当にあった怖い名無し [sage] :2012/05/23(水) 10:14:34.72 ID:6zjCzHoAi
293 名前:赤緑 ◆kJAS6iN932 [sage] :2012/05/23(水) 10:05:42.36 ID:xKbJHur60
12/17
俺「ふん…。今度は何だ?」
馬鹿馬鹿しい。
ため息が出ちまう。

俺「脅し文句にしては、つまらねぇなぁ」
俺は女を睨み付けて言う。

女「自分が呪われている事に、気付いていないのね」

…ヤレヤレだ。

これはアレか?
あなたは呪われています。このままでは死にます。
助かりたければ、ああしろこうしろって?

俺「あんた、ふざけるのも――」
女「首を吊っていた夫婦の霊ね」

俺「…は?」

突然の事に、体が固まってしまう。
首を吊っていた夫婦だと?
こいつ、何で…

女「貴方もバカな事をしたものね」


やっぱこれがベストw
303本当にあった怖い名無し:2012/05/23(水) 10:33:31.25 ID:mKQHoTFw0
>>302、乙!おもしろかった!
304本当にあった怖い名無し:2012/05/23(水) 10:51:28.96 ID:UY8fhRkI0
赤緑はわりと安定感が出てきたな。
305本当にあった怖い名無し:2012/05/23(水) 11:19:31.41 ID:Ctq1Ryi90
赤緑乙
306本当にあった怖い名無し:2012/05/23(水) 13:16:49.02 ID:SzZ5eTA5i
赤緑乙
307本当にあった怖い名無し:2012/05/23(水) 19:47:35.59 ID:jaKdd8KV0
赤緑Z
308本当にあった怖い名無し:2012/05/23(水) 23:12:45.97 ID:vGcaKtpB0
今日もウニ来たー・・・・っておい搾りかすかよ・・
309本当にあった怖い名無し:2012/05/24(木) 17:11:13.44 ID:1GxYNX6q0
ついに赤緑にもアンチがついたか・・・出世したものだ
310本当にあった怖い名無し:2012/05/24(木) 23:55:24.44 ID:ygNA/8VD0
ウニ&赤緑乙
311本当にあった怖い名無し:2012/05/26(土) 09:10:52.16 ID:MmujNDxp0
赤緑にアンチがついた、ってずっと前からいるだろ
それも話全く読んでなくて単に投下がうざいってだけだから出世もくそもねーよ
312本当にあった怖い名無し:2012/05/26(土) 15:14:53.87 ID:Uc7ZAjPyP
というか2chによくいるコテハンアンチじゃね?
名前がついてるととりあえず挨拶したくなるんだよ
313本当にあった怖い名無し:2012/05/26(土) 22:35:50.25 ID:QVphLMXk0
まあ本当につまらんけどな
314本当にあった怖い名無し:2012/05/29(火) 18:08:54.56 ID:VK2uc+i80
このスレのアンチも忘れないであげて
315本当にあった怖い名無し:2012/06/03(日) 06:11:37.93 ID:5pI8in8G0
ウニさんいつでもばっちこいですぅ〜
316本当にあった怖い名無し:2012/06/03(日) 21:19:20.36 ID:SlbmuW2Y0
そういえば一族の人はもう来ないのだろうか・・・あの人の話好きだったのに
317本当にあった怖い名無し:2012/06/03(日) 21:48:30.83 ID:tpOVzXrv0
誰?
318本当にあった怖い名無し:2012/06/08(金) 00:47:26.50 ID:gUm5FGT+0
彼?
319赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/06/08(金) 13:09:22.41 ID:dTRtyS7a0
[大切な時間を過ごす]

1/9
美加「んー、いい天気ね〜」

眩しそうに空を見上げながら、美加が言う。

紗希ちゃんを訪ねた翌日――つまり美加が来て2日目の朝、私は美加に誘われて散歩に出掛けていた。

美加「秋晴れだねぇ」
私「食後の運動にもいいね」
美加「うんうん」

朝食後に散歩に誘ってきたのは美加だけど、彼女はこの土地に詳しい訳ではない。
なので、行き場所の選定は私。
そして選んだのが――

私「はい、到着〜」

ここ、町外れにある川原。
昔、紗希ちゃんと初めて会ったところだ。
320赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/06/08(金) 13:11:10.93 ID:dTRtyS7a0
2/9
鳥の声、風の音、木々のざわめき。
近くに民家や車の通りがないこの場所は、自然の音だけが聞こえる。

美加「へぇ…、良いとこね」
私「でしょ。紗希ちゃんの家も近いんだよ」
美加「ふーん…」

初めてここに来る美加にも、気に入ってもらえたみたいだ。
よし、ここなら――

私「…よいしょ」
2人で川原に降りる階段まで行き、そこに腰掛ける。
ハンカチでも敷いて座るのが"女性らしさ"かも知れないけど、お互い気にもしない。

美加「ふぅ…」
座ってからしばらく、何も言わずに2人で川を眺める。
ちらと横を見ると、美加は物思いにふけるような表情をしている。
彼女には悪いかも知れないけど、これはちょっと珍しいことだ。

私「何かあったの?」
美加「ん…」
もういいかなと思い、水を向ける。

私「話したいことがあるのかなーって」
美加「…うん。分かる?」
私「うん」
321赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/06/08(金) 13:12:51.53 ID:dTRtyS7a0
3/9
「今度、母の田舎に帰るの」と言った私に、「行ってもいい?」と聞いてきた美加。
特に観光名所もないこの町に来たいなんて、それだけでも何かあるのかなと思っていたけど、
昨日、奈々ちゃんの話をしたときの釈然としない様子を見て、何か心に抱え込んでいるのだなと確信していた。

それで今日散歩に誘われたとき、私は美加が話をしやすいと思えるこの場所を選んだのだった。

美加「深刻な話とかじゃないんだけどね」
そう言って、美加が話を始める。

美加「あのさ…。古乃羽、佳澄のこと覚えている?」

佳澄のこと――

私「うん。もちろん」
忘れるわけがない。

美加「そうだよね。古乃羽は、そう。…でも、他の人は違うみたいじゃない?」
私「違うって?」
美加「私あれから…佳澄がいなくなってから、誰にも一度も佳澄のことを聞かれないの」
私「…」

それは、実は私も同じだった。
誰からも佳澄のことを聞かれない。
まるで――初めから彼女が居なかったかのように。
322赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/06/08(金) 13:14:44.38 ID:dTRtyS7a0
4/9
美加「それがね…すごく寂しいの」
そう言って、膝を抱え込んで小さくなる美加。

美加「自分が居なくなった後、みんなが自分のことを忘れていくって…私はイヤ…」
私「そうだね…」
それは私も同じだ。…ううん、きっと誰だってそうだろう。

美加「佳澄は自分でそうしたのだろうけど、本当だったら…そんな風にしないよね」
私「…うん」

佳澄が特別な存在ではなかったら。
普通に人と人の間で暮らして、友達や恋人を作って、泣いたり笑ったりして。

そうしていたら、誰の記憶にも残らない道を選ぶことはなかっただろう。

美加「…ずっと考えないようにしていたんだ」
美加がポツリと言う。

私「何を?」
美加「昔の、彼のこと」

…あ。
そういうことだったのね…。

急に話が変わったように思ったけど、違う。
ここで、美加が何に悩んで…何に心を痛めていたのかが分かる。
323赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/06/08(金) 13:16:54.61 ID:dTRtyS7a0
5/9
美加「私ね、はやく彼のことを忘れて次にいかなくちゃ、って思ってた」
消えてしまいそうな声で、美加が言う。

美加「ダメだよね、そんなの」
私「…」
美加「私、彼のこと好きだったし…彼も私のこと大好きって言ってくれていたのに…忘れちゃうなんて、可哀想だよね」
私「美加…」
美加「ひどいよね…」
美加の目から、涙がポロポロとこぼれ出す。

私はそっと、美加に寄り添う。
彼女の言わんとしていること、彼女の気持ちを…ちゃんと受け止められるように。

美加「…往来会のことがあった後ね、彼のお墓参りに行ったんだ」
私「うん」
美加「昔一度行ったきりだったから…今まで来なくてごめんね、って言ってきた」
私「うん」

美加「それと――大好きだったよ、忘れないよって言ってきた…」
ちょっと照れくさそうに美加が言う。

私「…うん」
美加「大分、待たせちゃったけどね」
324赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/06/08(金) 13:19:35.53 ID:dTRtyS7a0
6/9
それからまたしばらく、川を眺めながら静かな時間が過ぎていく。

…大切な時間だな、と思う。
今この時のことは、ずっと忘れないだろう。
きっと、美加も同じだ。

人が成長する過程にある、大切な記憶。思い出。
悲しいことでも辛いことでも、沢山のことが無いと…心は育っていかない。
それは今の自分を成すものであり、未来の自分を成すものにもなる――
…なんて偉そうな事を考えているうちに、1つのことに気付く。

私「あ、それで気になっていたの?」
美加「?」
私「昨日の奈々ちゃんの話」
美加「あ…うん」

私が奈々ちゃんの話をしたとき、美加はどうにも釈然としない様子だった。
当時、まるで全てを忘れたように欠片の悲しさも見せなかった明君のことや、
亡くなった奈々ちゃんの話を誰一人しなくなった、ということが気に掛かっていたのだろう。

美加「私も彼の事を忘れちゃおう、なんて考えていた身だから、偉そうなこと言えないんだけどね」
そう言いながら立ち上がり、ん〜っと伸びをする美加。

美加「よし。帰ろっか。泣いたらお腹空いてきちゃった」
私「うん」

「お嬢様、お手をどうぞ」と手を差し伸べてくる美加を無視して立ち上がる。

時刻は12時前になっていた。
325赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/06/08(金) 13:20:59.64 ID:dTRtyS7a0
7/9
――
「紗希…?」

俺が部屋をノックして中に入ると、紗希はベッドから窓の外を眺めていた。

俺「もうすぐお昼だよ」
紗希「うん…」

…少し元気がない。
やっぱり気に掛かっているのだろう…あのことが。

俺はベッド脇の椅子から狐のヌイグルミをどかし、そこに座る。

俺「そんなに気にしないでさ。こういう事もあるよ」
紗希「…うん」

紗希が気にしているのは、昨夜のことだろう。
何しろ俺の知る限り初めて、彼女の予知が”意図せずに”外れたのだ。

「深夜、この家に強盗が入る」
「その男は、この部屋と3階の部屋を見て回る」
「そして家から出た後…坂を下りたところで、丁度巡回していた警察に見つかり、捕まる…」

それが紗希の予知であり、家から出るまでは確かにその通りに事は進んでいた。

しかし、その後何かが変わった。何かが起きたのだ。
326赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/06/08(金) 13:22:09.30 ID:dTRtyS7a0
8/9
堀塚の予知は絶対的なもの。
それが外れる事は、決して許されない。

ずっと昔――ここがまだ小さな村であった頃、”ある時期”にそう言われていた。

しかし今は違う。
もうその必要は無いのだ。
昔のように、そうでなければならない理由は無いのだ。

…だが、紗希は恐れていた。

昔のそれとは違う理由で、自分の言ったことが外れてしまうことを。

それは自身のためであり…俺のためでもあるのだろう。
俺がしたことを、少しでも――と。

自分のしたことが間違っていたとは、欠片も思っていない。
紗希の言葉がなくても、俺は行動を起こしていただろう。

それほどまでに、あれは危険だった。

あの考えは。あの、忌まわしき妄想は。

「奈々は紗希に殺された」などと…。
327赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/06/08(金) 13:23:21.53 ID:dTRtyS7a0
9/9
紗希「あ…」
心ここに在らずといった様子で窓の外を見ていた紗希が、不意に声をあげる。

俺「どうした?」
俺が聞くと、紗希は目を閉じて少し俯く。
どうやら、何かが"きた"ようだ。

紗希の中にどういった形で予知が訪れるのか、俺には分からない。
意識して得られることもあれば、突然降ってくることもあるとは言っていたが…。

紗希「…見つける」
ゆっくりと目を開けながら、紗希が呟く。
紗希「お社…2人が…」
お社…アレのことか。
では、2人というのは――

俺「2人って、古乃羽ちゃん達か?」
紗希「うん」
俺「そうか…」
…古乃羽ちゃんは杵島家の者だ。その血を色濃く引いており、とても良い目をしていた。
ということは――

果たして、どう思うだろう。

この町のこと。堀塚のこと。
その歴史を全て知ったとき、彼女は何を思うだろう…。


328本当にあった怖い名無し:2012/06/08(金) 14:41:00.88 ID:RQvc9Bun0
赤緑、乙

けっこう面白かった。
329保育園 中編:2012/06/08(金) 19:49:20.44 ID:WMI9l70o0
「方法はともかく、誰がやったかということです。この中に犯人を知っている、という人は?」
反応がない。あたりまえか。
「では、まず考えるべきは部外者でしょう。この保育園の敷地の出入り口は、あっちの正門だけですね」
角度的に今いる場所からは見えないが、師匠は右手方向を指さす。
「そうです」
「普段は開けておくのですか」
「送迎の時間帯以外はほとんど開けません。それ以外の時間だと、出入りの業者さんが来た時とか……」
「その雨が降っていた時間帯も閉めていたと」
「はい」
「でも外からも開けられるんでしょう」
さっき来る時に、門の構造を見てきたのだ。
二メートル少々の長さの、下部についた滑車でスライドさせるレール式門扉であり、重そうではあったが、つっかえ棒になるバーをずらしただけで鍵をかける単純な仕組みになっていた。
外からでも手を伸ばしてさし入れれば、バーは操作できる。
「でも、門を動かせば凄い音がします」
かなり錆びてますから。
330保育園 中編:2012/06/08(金) 19:50:21.34 ID:WMI9l70o0
麻美先生と呼ばれた保育士が口を開いた。確か三・四歳児の担任の先生だ。
女性にしてはガッチリした体格で、袖から覗く腕などかなり太い。このメンバーではリーダー格の悦子先生に告ぐ二番手といったところか。
後の二人は年も若く、大人しそうにしていてまったく口を挟んで来ない。
「その音が聞えなかった、ということですね。雨が降っていて、戸を閉め切っていても聞えないものでしょうか」
「じゃあ試しに……」
麻美先生が立ち上がるとガラス戸から外へ出て行った。
僕らも戸口まで行って門の方を覗き込むと、麻美先生がふんと力を入れた瞬間に、門は物凄い音を立てながら横に滑り始めた。
僕は思わず耳を塞いだ。あまり好きな音ではない。
しかしなるほど、これなら雨が降っていて、かつ戸を閉めていたところでまず間違いなく聞えるだろう。
「ありがとうございます。良く分かりました」
麻美先生が戻って来てから師匠は口を開く。
「でも門はそれほど高くありません。乗り越えようと思えば乗り越えられない高さではないはずです。
それに園庭側の敷地の周囲のフェンスもいわゆる金網ですから、よじ登っていけば越えられるはずです。
園舎側のブロック塀は足場のない外からだと厳しいかも知れませんが」
「それはそうですけど」
悦子先生が不満そうに言う。
331保育園 中編:2012/06/08(金) 19:53:14.85 ID:WMI9l70o0
「まあ、それだけ目立つリスクを負った外からの侵入者が犯人だとしても、やはり足跡の問題は残ります。門からもフェンスからも魔方陣は遠すぎますから」
師匠は部外者説を簡単に切り上げ、次の説に移した。
「では、次に園の先生の誰かが犯人である可能性は?」
おいおい、まだやるのか、と僕は思った。
悦子先生たちは心霊現象の専門家としての師匠の噂を聞いて解決のために依頼して来たのに、当の師匠はまるでこの事件がただのイタズラであるかのように聞き込みを続けている。
先生たちも鼻白んだ様子を隠さなかった。
「そんなことをするような人はいません」
悦子先生が代表してそう宣言した。
師匠は少し下手に出るようにおどけた仕草を見せて「もちろんそうでしょう、そうでしょうけど、これも必要な確認ですから」と話を続けた。
「その時いた職員では、今ここにいらっしゃる四人の他にどういった方が?」
不承不承、といったていで悦子先生が答える。
332保育園 中編:2012/06/08(金) 20:03:47.40 ID:WMI9l70o0
「まず園長先生です」
「ああ、そうでしたね。それで他には」
「主任保育士の美佐江先生。0歳児の担任が三人いて、時子先生と美恵子先生と理香先生。あと調理員の本城さんと青木さん。これで全員です」
「その調理員のお二人も女性ですか」
「そうです」
その日の職員全員が女性だったというわけか。保育園では珍しくないのかも知れないが。しかしメモしないと覚えきれないぞこれは。
僕が手帳に名前を書き付けている間に「臨時職員とかは?」と続けて師匠が問い掛ける。
これには麻美先生が答えた。「忙しくなる送迎の時間にだけ来てくれるパートの方はいますが、そのことがあった時間帯にはいませんでした」
「なるほど。では全部で、十一人と。『11人いる!』なんて漫画がありましたね」
師匠の軽口にどの先生も一瞬反応を見せた。
333本当にあった怖い名無し:2012/06/08(金) 20:04:08.13 ID:KFRephPs0
ウニの作品を勝手に貼るなよ

しかも途中から

通報するぞ
334保育園 中編:2012/06/08(金) 20:21:41.49 ID:WMI9l70o0
ちょうど世代ということか。かくいう僕も男だてらに読んだ口だが。
「まあそれはいいとして、問題の時間帯にそれぞれの方がどんなことをしていたか、分かる範囲で教えてもらっていいですか」
それから四人の保育士の話を聞いたところをまとめると、おおむねこういうことになるようだ。
十一時ごろ雨が降り出して、園庭で遊んでいた園児たちは全員室内に戻される。
それから昼の食事。保育士も一緒に食べるのだが、食育、といって園児の食事時間中も仕事のうちだ。
食事が終わると、絵本の読み聞かせをし、その後は園児たちを着替えさせて昼寝をさせる。
この時点で十二時過ぎ。園庭に出ていない二階の0歳児から二歳児の部屋でも十一時の昼食の後は、昼寝の時間だ。
先生たちは寝ている子どもたちの様子を見ながら、それぞれ部屋の中の自分の机で主に連絡帳をつけて過ごしている。
昼寝の時間中、十二時四十五分に簡単な打ち合わせのため、一度先生たちは事務室に集まっている。
その際、0歳児の部屋からは代表で時子先生だけが参加している。それ以外の時間は各先生ともトイレに立つぐらいで特に部屋の外に出ることもなかった。
園長と主任保育士は各部屋の食事や昼寝前の着替えなどを手伝い、別同部隊として自由に移動している。昼寝の時間になると二人とも事務室にこもり、様々な雑事をして過ごしている。
なお、この二人の動きについては推測となるが、魔方陣発見後の証言から、少なくとも外へは出ていないようだ。
335保育園 中編:2012/06/08(金) 20:23:30.07 ID:WMI9l70o0
>>333
途中から?>>283も読めないの?
336保育園 中編:2012/06/08(金) 20:24:05.03 ID:WMI9l70o0
ああ、>>238の間違いだwww
337保育園 中編:2012/06/08(金) 20:24:55.90 ID:WMI9l70o0
残る調理員二人については、園児の食事終了後、食器洗いなどの片付けのために調理室にずっといたらしい。
このあたりの行動は日々のルーチンであって、ほぼ間違いのないところだそうだ。
「なるほど。だいたい分かりました」
師匠はそう言うと、僕も疑問に思っていたことを続けて口にした。
「先生の休憩時間はないんですか」
その言葉に悦子先生が反応する。
「ないんですよ! おかしいでしょう。昼食の時間だって食育だし、昼寝中もずっと子どもたちを見てないといけないし。
連絡帳だってちゃんと書かないといけないのに、その昼寝の時間くらいしかないんですよ、書く時間。いつ休憩とったらいいんですか、私たちは」
日ごろからの不満が堰を切って出てくるのに、師匠は渋い顔をした。
「保育園によってはねぇ」と麻美先生が口を挟む。「園長先生とか主任とかフリーの先生が交代で子どもを見てくれて、順番に休憩取ってるとこもあるんだけど」
うちはねえ……
そんな溜め息をつきながら四人の保育士たちは顔を見合わせる。どうやら園長を中心とした今の体制に大いに不満を持っているようだ。
それとなく師匠が話を振ると、今日来ていない0歳児の担任の三人と主任保育士は完全な園長派らしいことが分かった。
338保育園 中編:2012/06/08(金) 20:26:26.34 ID:WMI9l70o0
女性ばかりの職場だ。そういう人間関係のややこしさもあるのだろう。
まだまだ出てきそうな不満に、師匠は「まあまあ、とりあえずは分かりました」と話を一度切る。
「とにかく、雨が降っている間は誰も外に出ていないと、そういうことですね」
先生たちが頷くのを見回してから、師匠は続けた。
「では園児たちはどうでしょう」
これにもすぐに反論がある。
「出ていません。食事の時間も昼寝の時間もずっと私たちが部屋で見てたんですから」
「でも昼寝の時間には一度事務室に集まっているし、トイレに立った時間もあります」
「外は大雨ですよ。音も凄いです。カーテンを閉めてやっと寝かしつけたのに、子どもの誰かがガラス戸をあけて外へ出ようとしたら、他の子も起き出します。
絶対に。打ち合わせは十分もかかってないです。
その起きてしまった子どもたちが、私が戻ってきた時に一人残らず布団で大人しく寝てる、なんてありえません」
悦子先生の言葉に他の先生も頷いている。
「しかし出入り口はガラス戸だけじゃないでしょう。こっちの廊下側の戸から出て、玄関に向かえば、他の子を起こさずに外へ出られる」
この師匠の意見も鼻で笑われた。
339保育園 中編:2012/06/08(金) 20:27:26.26 ID:WMI9l70o0
「事務室の戸は開けっ放しです。しかも園長先生の机がすぐ横にあるから、子どもが廊下を通り過ぎようとしたら絶対に気づきます。
昼寝の時間に外へ出ようとしたら、凄く怒られるので、子どもたちはみんな園長先生を怖がってます」
「分かりました。念のために訊きますが、その日、園長先生は誰も外へ出てないと言ってるんですね」
「はい」
なるほど。先生たちの間でも子どものイタズラの可能性は一応検討されたのか。しかしそれも園長の証言で否定された。
「一階の子どもたちはそれでいいでしょう。でも二階の子どもたちはどうです。
この園舎の構造上、二階の階段から降りてくれば、事務室の前を通らずにそのまま玄関から外へ出られるのではないですか」
「二階の子は、一番上でも二歳児ですよ。その日の午前中も外ヘは出していません。
一人で出て行くなんて…… 第一、外へ出ても二歳児にあんなもの描けるもんですか」
悦子先生の言葉に、僕もハッとした。
そうだ。魔方陣なのだ。
二歳児が五歳児だろうと、そもそもそんなものを子どもが描けるものだろうか。
思わずもう一度くだんの写真を覗き込む。
340保育園 中編:2012/06/08(金) 20:29:59.22 ID:WMI9l70o0
園庭に描かれた円の中には幾何学的な模様が浮かび上がっている。適当にイタズラで描いたものとは思えない。そこにはなんらかの意図が感じられる。
あらためて気持ちが悪くなってきた。
「これ、どうやって描いたんだろうな」
ふと思いついたように横から師匠がそう言う。
「木切れとかでガリガリやったんですかね」
「そんなもの落ちてるか、保育園に」
しかし手で描いたとも思えない。
「傘、じゃないでしょうか」
おずおずと、当の写真を撮った二歳児の担任の洋子先生が言う。
「その日は雨が降るかも知れないっていう予報だったから、みんな傘を持って来ていました。下駄箱のところの傘立てに一杯置いてありましたから」
なるほど。傘の先で地面をガリガリとやったわけか。
「傘立ては玄関のところと?」
「一階の部屋の外の下駄箱にもあります。一階の子はそこから出入りするので」
「傘か……」
341保育園 中編:2012/06/08(金) 20:36:19.00 ID:WMI9l70o0
師匠はそう呟いて立ち上がり、開け放しているガラス戸のそばに立って外を見つめる。
そしてくるりと振り返ると、「カーテンはすべて閉めていたんですよね」と訊いた。
外は大雨だったのだ。一階の部屋だけではなく、二階の部屋も、そして事務室や調理室もすべてカーテンが閉まっていたと、先生たちは証言した。
「子どもたちの傘はカラフルです。誰かがその傘を手にして地面に魔方陣を描こうとしたら、カーテンの隙間から見えてしまったりはしないですか。
いや、もし魔方陣が描かれたのが雨が降っている間だったとしたら、その誰かは地面に描く道具としての傘だけではなく、自分がさすための傘も一緒に手にしたのではないでしょうか。だとすれば目立ちますね。ほんの少しでもカーテンの隙間があれば……」
先生たちの間に動揺が走った。
師匠はそれを見逃さない。
「なにかありましたね」
促されて悦子先生が口を開く。
「私が担任をしているアキラくんが……」
青いものを見た。
そう言っているらしい。
342保育園 中編:2012/06/08(金) 20:57:26.33 ID:WMI9l70o0
昼寝の時間に、ふと目が覚めたとき、ガラス戸のカーテンの隙間から青い色のなにかを見たのだと。雨の中に。
気にせずまた寝てしまったが、絶対に見たんだと言い張っている。
他の子は誰もそんなことを言っていない。五歳児のアキラくんだけの証言だ。
「青いもの、ですか。この部屋からですよね」
師匠は外を見つめる視線を険しくする。
園庭の向こうにはフェンス沿いに木が並んでいる。まさかその枝葉のことではあるまい。
「青い傘を持って来ている子は?」
という師匠の問いに、「いっぱいいると思います」という答えがあった。
先生の中にも青い傘を持って来ている人は何人かいて、その日、玄関の下駄箱にも確実に青い傘はあったのだそうだ。
「まあ、魔方陣と関係があると決まったわけでもありませんが」
師匠はそう言ったが、あきらかになにか疑っている顔だ。
「その日、十一時から二時までの間しか雨は降っていません。降り出してからはすぐにみんな園舎に入り、その後誰も雨が上がるまで外に出ていません。
確実に言えることは、雨が上がって騒動が持ち上がった時、濡れた傘が一本、もしくは二本傘立てにあったとしたら、その傘を置いたのは雨が降っている間に外に出て魔方陣を描いた人物の可能性が高い、ということです」
師匠の言葉に僕は感心した。
343保育園 中編:2012/06/08(金) 20:58:17.79 ID:WMI9l70o0
そうか。その日、誰も傘は使っていないはずだ。使ったとすれば、こっそり外へ出る必要があった人物だけ。
濡れた傘が傘立てにあったとしたら、それはすなわち魔方陣を描いた犯人のものに違いないのだ。
そこまで考えて僕は、いや違う、と思った。犯人が自分の傘を使ったとは限らない。まして外部からの侵入者だとすれば当然だ。
しかも、保育士たちは揃って首を横に振った。誰も下駄箱の濡れた傘など確認していないのだ。
その騒動の中、そこまで知恵が回らなくても仕方がないと言えた。もはや唯一と言っていい物証も断たれたようだ。
しばし沈黙が降りた。
「あの…… そう言えば私、一度外を覗いたんですが、その時見たものがあるんです」
悦子先生が思い出したようにそう言った。
外が光って雷が鳴った時だ。ガラス戸のところまで歩いて、カーテンの隙間から外を覗いたら、緑色のタオルのようなものがフェンス際の木の枝に引っかかっているのが見えたのだと言う。
344保育園 中編:2012/06/08(金) 20:58:51.77 ID:WMI9l70o0
雨だけではなく、風も吹いていたのでどこかから飛ばされて来たのだろう。
「青ではなく、緑だったんですね」
「はい」
なら無関係か。いや、元の青いものからして魔方陣と関係があるのかよく分からない。
「そう言えば私もそれ、見ました」
それまでずっと黙っていた由衣先生が口を開いた。一歳児の担任の先生だ。四人保育士の中で一番気が弱そうで、心なしか顔色も悪い。
「雷が鳴って驚いて振り向いたら、あの辺の木の枝にタオルが引っかかってるのが見えました」
外に向かって指をさした後、「緑色、だったと思います」と、そう付け加えた。
他の先生にも訊いたが、三・四歳児の担任の麻美先生は雷が鳴った時、カーテンの方は見たが、外は覗かなかったと言い、二歳児の担任の洋子先生は机でうとうとしていたのか、雷には気がつかなかった、と言った。
「魔方陣が見つかって騒ぎになった時には、その緑のタオルはありましたか」
先生たちは顔を見合わせる。
やがて悦子先生が口を開く。
「それどころじゃなかったから、はっきり覚えていませんが、あったと思います」
同じ木の枝に引っかかっていたはずだ、と付け加える。
345保育園 中編:2012/06/08(金) 21:03:32.93 ID:WMI9l70o0
「誰か拾った?」
などと先生たちは話し合い、結局誰もその後のことは分からず、また風でどこかへ飛ばされたのかも知れない、ということに落ち着いた。
「これにも写ってないかな」
師匠はそう言って、写真をまじまじと見つめる。
僕や他の先生たちも顔を寄せ合って魔方陣発見直後の写真を覗き込むが、フェンス際の木にはそれらしいものが見当たらない。
「ああ、でも幹に近い枝のあたりだったから……」
悦子先生が言った。
なるほど、二階から撮ったこの写真では角度的に生い茂る葉で隠れてしまって見えないのかも知れない。
結局なにも分からない。
僕は溜め息をついた。
「緑ねえ」
その時ふと思いついた。
その青いものを見た、というアキラくんがおじいちゃん子、おばあちゃん子ならもしかすると緑色をしたものを「アオ」と言ってしまうかも知れない。
お年寄りの中には「緑」のことを「アオ」という人もいるのだ。それを聞き慣れていた子どもならひょっとして……
346保育園 中編:2012/06/08(金) 21:04:25.39 ID:WMI9l70o0
だがそこまで考えて、はた、と思考が止まる。
だからなに、という感じだ。一応口にしてみたが、やはり師匠はそんな反応だった。
アキラくんが見たものが実際は緑のタオルだったとしても、誰かが傘を持って外にいたことを否定するものではない。
もちろん傘を持って外に出ていた人はいなかったかも知れないし、いたとしてもその誰かが魔方陣を描くには足跡の問題が残ったままだ。
また沈黙がやってきた。
チチチ。
と、ガラス戸の外を小鳥が鳴きながら飛び去っていく。
嫌な静けさだ。
それから師匠が念のため、と言い置いて一階の廊下側から外へ出るもう一つの出入り口のことを確認する。
事務室の前を通らず、反対側へ進むと裏口の扉があり、その外はプールにつながっている。
しかし普段は子どもたちが勝手にプールの敷地へ入らないように内側から鍵が掛けられており、その日も間違いなく施錠されていたという。
そして開錠するための鍵は事務室にあり、園長が管理している。誰も持ち出せない。
347保育園 中編:2012/06/08(金) 21:10:54.05 ID:WMI9l70o0
また、五歳児の部屋と調理室との間にある倉庫も施錠されており、また仮に中に入れても窓すらなく、外へは出られない。
いよいよ手詰まりになってきた。
会話がなくなり、みんな考え込んだ表情で俯いている。
僕は師匠をつついて、ちょっと、と窓際へ誘った。
「どうするんです」
小声で訊くと、「なにが」と返される。
ここまでなにやら推理めいたことをしているが、結局なにも分かっていない。オバケ事案を解決するための霊能力を期待されてやってきたはずなのに、これではどうやって決着をつけるつもりなのか。
そんなことをささやくと、ふん、と笑われた。
「いないものはしょうがないだろう」
「いないって、なにがですか」
「あれがだよ」
うすうす僕も感じていたが、あらためてそう言われると、やっぱり、という気になる。
ようするにこの保育園にオバケの気配を感じないのだ。
この魔方陣騒動の前からたびたびあったという怪談めいた話など、やはりただの噂だったのだろうか。
348保育園 中編:2012/06/08(金) 21:14:25.42 ID:WMI9l70o0
師匠は少し唸って、こう言った。
「ちょっと違うかな。なんかこう、残滓、残りカスみたいなものは感じるんだけど、もういなくなった、ってとこだな。まあ多少の悪さをする霊がいたとしても、もう消えちまったってんじゃ、どうせたいしたことないやつだっただろうし、今さらどうしようもないわな」
「魔方陣はそいつが?」
「さあなあ。もう分からん。人間がやった可能性の方が高いと思うけど」
師匠は溜め息をついた。
この場をどうやって収めるのか、なんだか心配になってきた。
これだけ依頼人たちに時間を取らせて、結局なにも分かりませんでした、というのでは気まずい。気まずすぎる。
今も背中に無言のプレッシャーを感じる。
「とりあえず、もう悪霊の類はいなくなっていますから、これからは大丈夫です、とでも言いますか」
口先だけではまずそうなので、なにか小芝居の一つでもいるかも知れない。
しかし師匠は頭を掻きながら、「でもなにか引っかかるんだよな」とぶつぶつ言う。
そうしてしばらく考え込んでいたかと思うと、「んん?」と唸って外に飛び出した。
園庭の中ほどで立ち止まり、周囲を見回す。そして正面のフェンス際の木と、園舎とを交互に指さしてしきりに頷いている。
「ああ、そうか」
少し遅れて駆け寄った僕の耳にそんな言葉が入ってきた。
349保育園 中編:2012/06/08(金) 21:15:33.85 ID:WMI9l70o0
「おい、タオルを借りて来い」
師匠から僕に指示が飛ぶ。
「緑色のですか、青色のですか」
そう確認すると、「何色でもいい」という答え。その瞬間、僕は師匠がなにか掴んだということを感じた。
僕はすぐさま五歳児室に戻り、先生たちにタオルを貸して欲しいと頼む。
「これでいいですか」
悦子先生から渡された白いタオルを手に園庭へとって返すと、そのまま「あの木の枝に引っかけてこい」と言われる。
ちょうど五歳児室の正面の木だ。
僕は木の下に立つと、登れそうにないことを見て取り、タオルを丸めて幹に近い枝をめがけて投げつけた。
最初はそのまま落ちて来たが、何度か繰り返すと上手い具合に引っかかってくれた。
「これでいいですか」
と振り返ると、師匠が親指で園舎をさしながら頷いている。
二人して五歳児室に戻り、四人の保育士たちが見守る中でフローリングの床に腰を下ろした。
「さて」
視線を集めながら師匠が落ち着き払った態度でそう切り出す。
350保育園 中編:2012/06/08(金) 21:17:29.35 ID:WMI9l70o0
「雷が鳴った時に見たという、緑のタオルのことですが、あんな感じで木の枝に引っかかってたんですね」
保育士たちは、いったい何を言い出すのだろう、という怪訝な表情で見つめている。
「悦子先生、そうですね」
念押しをされてようやく悦子先生は頷いた。
「由衣先生、そうですね」
由衣先生も恐々、という様子で神妙に頷く。
「麻美先生、そうですね」
話を振られた麻美先生は、驚いたように「私は見ていません」と言った。
「洋子先生、そうですね」
洋子先生も、「私も見ていませんから」と返事をする。
全員の答えを聞き終えてから、師匠はもう一度その中の一人に向かってこう言った。
「由衣先生、あなたが犯人ですね」
ええ?
どよめきが走った。
僕にしてもそうだ。
「ち、違います」
怯えた表情で由衣先生が否定する。
351保育園 中編:2012/06/08(金) 21:21:28.43 ID:WMI9l70o0
「では少し思い出しましょうか。事件当日のことではありません。
つい先ほどの証言です。悦子先生が『外が光って雷が鳴って、ガラス戸のところまで歩いて、カーテンの隙間から外を覗いたら、緑色のタオルみたいなものがフェンス際の木の枝に引っかかっているのが見えた』と言ったあと、由衣先生はこう言いました。
『雷が鳴って驚いて振り向いたら、あの辺の木の枝にタオルが引っかかってるのが見た』と」
師匠の言葉に誰も怪訝な表情を崩さない。
一体なにを言いたいのか、さっぱり分からないのだ。
「この二人の証言には決定的な違いがあります。雷が鳴った後の行動です。
悦子先生は、ガラス戸のところまで歩いて、カーテンの隙間から外を覗いたら、タオルが見えました。
しかし由衣先生は、驚いて、振り向いたらタオルが見えています。分かりますか。カーテンの隙間から覗いていないんですよ。
さらに言えばガラス戸に近づいてもいない」
師匠は自信満々という表情でそんなことを言う。
352保育園 中編:2012/06/08(金) 21:22:02.85 ID:WMI9l70o0
「いいですか。雨が降っている間、園舎のすべてのガラス戸や窓にはカーテンが掛けられていました。このことはこれまでの証言から確かなはずです。
カーテンを開けず、また隙間から覗き込みもしないで、園庭のあの木の枝にかかったタオルを見ることはできないはずなんです。もちろん……」
はじめから外にいた人を除いて。
師匠の目が細められる。芝居掛かっているが、ゾクリとするような色気があった。
しかし……
「そんなの、ただの言葉の綾じゃないですか」
由衣先生ではなく、悦子先生が気色ばんでそう抗弁する。疑われた本人の方は真っ青になって小刻みに震えている。
「いいえ。彼女はカーテンから外を覗いていない。雷に驚いて振り向いたとき、そのまま木の枝のタオルが見えたんです。
証言の通りのことが起きたのです。それを今から証明して見せます」
そう言って師匠が立ち上がった。
353本当にあった怖い名無し:2012/06/09(土) 00:15:55.21 ID:VhRKFflN0
>>336
コテトリをつけずに他人の書いたものをコピペするから過去に投下されたものがたどりにくいんだよ
354本当にあった怖い名無し:2012/06/09(土) 06:10:37.97 ID:jvRKDvbt0
話が途中から変わってないか?
355本当にあった怖い名無し:2012/06/09(土) 08:01:26.58 ID:dJ3DgEq30
>>335
人の作品を勝手に投稿しといて、なんでそんなに偉そうなの?

ウニは自分で投稿してくれるし、待ちきれずに読みたいならpixiv行けばいいだろ

なに勝手に投稿して優越感感じてんだよ糞が
356本当にあった怖い名無し:2012/06/09(土) 09:33:45.47 ID:iN8ut8R00
>>353
コテトリつけようがつけまいが、コピペだろうがなんだろうがスレをちゃんと読んでたら簡単に見つけられるだろ。アホかおまえ
自分の怠慢を差し置いて見当違いな批判してんじゃねーよカス
357本当にあった怖い名無し:2012/06/09(土) 09:41:10.34 ID:iN8ut8R00
>>355
>人の作品を勝手に投稿しといて、なんでそんなに偉そうなの?

論点ずらすなよカス。過去ログも読めないカスが意見スンナよカス

>ウニは自分で投稿してくれるし、待ちきれずに読みたいならpixiv行けばいいだろ

ウニの負担減らしてるんだよ糞が
忍法帖の規制がきつくて投下するの大変ってこぼして他の知らないのか?ほんとクズだなお前
ただふんぞり返って投下された話読んでるだけの分際で(過去ログさえ読めないクズか)一人前に人に意見スンナよ
358本当にあった怖い名無し:2012/06/09(土) 11:05:51.72 ID:dJ3DgEq30
>>357
マジレスする

忍法帳のことがあったとしても、前に他スレで書き込んでレベルあげてウニも投稿してたし、したこともあったし、
むしろお前が「代わりに投稿してやってるんだ」っていうのはおこがましいよ
ありがたく思えよ?とでも思ってんの?

いくらウニがそう愚痴を漏らしてたからといっても、いままでウニ自身が自分の意志で投稿してきたんだよ
お前が投稿するのはお門違い
なに自分を正当化してんの?
なに考えてんの?
図々しいにもほどがあるわ
359本当にあった怖い名無し:2012/06/09(土) 11:08:05.57 ID:dJ3DgEq30
それと投稿された話は読んでないから
スレではウニ自身が投稿した話は読む
なんで踏ん反り返ってる汚ないお前の投稿を読まないといけないの?
内容は同じでも、ウニ自身が投稿した話を読む!
360本当にあった怖い名無し:2012/06/09(土) 11:09:24.31 ID:dJ3DgEq30
これ以上はいい加減スレ違いになるから控える

気分を害した人いたらごめんな
361本当にあった怖い名無し:2012/06/09(土) 11:23:09.79 ID:rqra3ow90
まあまあモチツケ(AA略
362本当にあった怖い名無し:2012/06/09(土) 11:38:32.03 ID:rqra3ow90
途中で送信しちまった。すまん。
自分もウニの投稿じゃないと読む気がしなかったんだ。

でも>>357
ウニの負担を減らしたいのなら本人にそう伝えてからした方がいいんじゃねえか。
>>358の言うようにウニは自分でレベル上げても
ここに投下する努力をしている。
それはここの住人も嬉しく思っている筈だからな。
それを変えようとするなら手順を踏まなくちゃ。
でないとおまいの負担を減らしたいという気持ちは空回りしちゃうよ。

あと>>358
おまいの言うことは至極尤もなんだが、口が悪すぎるよ。
もっと落ち着けよ。な。

なんか自治厨みたいになってすまんかった。
自分は>>357はただの荒らしだと思っていたんで
不器用なりにウニの負担を減らそうとしてるなら
申し訳なくて謝りたかったんだ。
長文&スレ違いすまんかった。
363本当にあった怖い名無し:2012/06/09(土) 15:06:32.92 ID:K6MEOnGK0
とりあえず赤緑乙

ウニのコピペしてる奴はウニにかこつけて赤緑の投下を流してるだけじゃねえか
ウニを口実に使うなよ
364本当にあった怖い名無し:2012/06/09(土) 16:36:40.38 ID:iN8ut8R00
信者ってほんと気持ち悪いな
たかがコピペでこれだけ憎しみの感情をぶつけるとか恐いわ
こういう輩が盲目的な犯罪とか犯すんだよな

お前らさ、忍法帖のレベル上げってやったことないだろ絶対
あれだけの長文を投下できるようになるまで何日かかると思ってるの?はっきり言って苦痛なんだよ
で、そんな苦労して上げたレベルもある日突然リセットされるなんてザラ。ウニもそういう目に遭ってる
そんな苦労、いや苦痛から助けてやってんだよ。だからウニも苦情なんて言わないだろ
俺はそれが嫌で●買ったからそんな心配はない。

おまえら自分勝手なんだよ。そんな苦労何もしないくせに文句ばっかりは立派だな。心底おまえらカスだと思うよ

365本当にあった怖い名無し:2012/06/09(土) 16:40:11.65 ID:iN8ut8R00
>忍法帳のことがあったとしても、前に他スレで書き込んでレベルあげてウニも投稿してたし、したこともあったし、
むしろお前が「代わりに投稿してやってるんだ」っていうのはおこがましいよ
ありがたく思えよ?とでも思ってんの?


これほんとむかつくなあ。何がおこがましい、だよ。ウニがせっせとレベル上げしないで済むことないかなと思う事なんて微塵もないんだろうな。
俺は「そんなコピペで時間つぶすことはないよ、俺が代わりにやってあげるから」って献身的な事思ってやってるんだよ。何もしないお前に言われたくねーんだよ
366本当にあった怖い名無し:2012/06/09(土) 16:42:26.28 ID:iN8ut8R00
>それと投稿された話は読んでないから
スレではウニ自身が投稿した話は読む
なんで踏ん反り返ってる汚ないお前の投稿を読まないといけないの?
内容は同じでも、ウニ自身が投稿した話を読む!

あー、信者ってこんな基地外ばかりなのか?
読まない宣言知らんがな。つーかpixivがあるのにわざわざここに投稿するまで読まないのか?頭おかしいだろ
367本当にあった怖い名無し:2012/06/09(土) 16:49:12.83 ID:iN8ut8R00
>>358の言うようにウニは自分でレベル上げても
ここに投下する努力をしている。
それはここの住人も嬉しく思っている筈だからな。

人の善意に乗っかってるだけじゃねーか。だから糞なんだよおまえらは。ただ読んでるだけしかやってないおまえらが俺に文句言う資格ないんだよ

あと何が「努力」だよ。忍法帖のレベル上げが努力?頭腐ってるのかお前
あんなもん、やらなくても良い作業なんだよ。じゃあおまえらはその努力とやらをやってるのか?
都合の良いように言い換えるな。あれは負担でしかない。ウニも嘆いてるだろ。

もうおまえら何も言うな。ウニが本来やらなくても良い作業(レベル上げ、ここにコピペ)の手助けを俺はやってるだけだ
タダふんぞり返って与えられたモノを読んでるだけで気に入らないと文句を言うだけのカスは黙っとけ
368本当にあった怖い名無し:2012/06/09(土) 16:50:14.92 ID:iN8ut8R00
本当にウニの事を思うんならpixivだけで十分です、ここへのコピペはいりませんと言ってみろ
369本当にあった怖い名無し:2012/06/09(土) 18:14:15.66 ID:IQ+uaQT/0
赤縁乙
コピペはどうでも良いよ、ウニはPIXIVに書いてるしもう皆後編も読んだろ
ここに貼られてもウゼエなで終りw
370本当にあった怖い名無し:2012/06/09(土) 18:45:03.51 ID:kirXrcxuP
単にpixivは流れたのが読めない人用だろうし
貼り付けた人もウニの負担減らすためだろうし

別に争うことは無い
371本当にあった怖い名無し:2012/06/09(土) 22:51:11.50 ID:ZBSEL/D/O
372本当にあった怖い名無し:2012/06/10(日) 02:24:41.74 ID:sn3/Hsbo0
黙って張ってるだけならまだしも……
373本当にあった怖い名無し:2012/06/10(日) 08:16:53.62 ID:YArt36u/0
>>364
最低
考えかたが自分勝手すぎない?
忍法帳は、利用者全員が苦労してるわけじゃん
それを、なんでそういう横暴な言いかたして、責めるの?
私だったら、理由はどうでも、知らない人に私の作品を、勝手に投稿されたくないよ
374本当にあった怖い名無し:2012/06/10(日) 08:20:42.88 ID:YArt36u/0
「ウニの負担をへらす」ってなに?

意味わかんない
375本当にあった怖い名無し:2012/06/10(日) 08:24:41.62 ID:hSy+bONcP
無断転載は鬼の所業だが
過去ログでウニがレベル1になったとき、
本人が誰か投稿してくれないかなとか言ってたと思うが

まぁ、でもウニ本人じゃない第3者達がお前は勝手だとか最低だとか罵り合ってるの見ると
何しにきてるんだろこの人達とかは思う
376本当にあった怖い名無し:2012/06/10(日) 09:52:08.21 ID:TVIfea2j0
>本人が誰か投稿してくれないかなとか言ってたと思うが

都合の悪い事は見えないんだろうな
こんなこと言われても誰も「俺がやります」って名乗り出なかったんだよな。
377本当にあった怖い名無し:2012/06/10(日) 13:41:03.76 ID:sn3/Hsbo0
俺がやりますって言ってウニにOKされてやってるなら誰も文句言ってないんじゃない?
378本当にあった怖い名無し:2012/06/10(日) 13:53:23.55 ID:TVIfea2j0
だから、ウニが「誰かやってくれないかな」って言ってるんだろ?これでOKだろ。
それに対して「俺やります」って宣言して、それに対してウニが「どうぞどうぞ」っていう流れがないとやっちゃ駄目なのか?
お前がウニでもあるまいしめんどくせえ
379本当にあった怖い名無し:2012/06/10(日) 13:59:40.88 ID:oafwszFB0
そうやって揉めさせて、無駄にスレが埋まるのが目的なんだから…
380本当にあった怖い名無し:2012/06/10(日) 15:15:56.49 ID:+DmxQuSp0
過去スレでウニが忍法帖関係の書き込みをしてるのってこれくらいかな?
去年の12月の時点で「どうするか考える」とは言ってるけど「投稿してくれないかなと」は言ってないね。

287 :ウニ  ◆oJUBn2VTGE [mail] :2011/12/24(土) 22:43:08.82 ID:CEmZxyJu0
投下しようとしたら、知らない間に忍法帖とかいうシステムが導入されていて驚きました。
この仕様だと、めったに書き込みをしない自分のような人間は長文は書き込めないのですね。
夏の『食べる』は普通に書き込めた気がするんですが。
ピクシブはあくまで2ch投下前の完全版確認用のつもりだったのですが、本格的に2chから撤退しないといけないような感じになってきました。
本当に残念です。

288 :ウニ  ◆oJUBn2VTGE [mail] :2011/12/24(土) 22:46:56.06 ID:CEmZxyJu0
この程度の長さの文でも2回に分けないといけないのか…orz
どなたかにこっちへ代理投下をお願いするか、あるいは少しづつでも自分で忍者?レベルを上げるかするといいのかも知れませんが。
どうすべきか考えてみます。今夜はもう寝ます。

370 :ウニ ◆oJUBn2VTGE [mail] :2012/01/02(月) 23:56:30.73 ID:93PkLSJW0 (28/28) [PC]
日夜、テスト用のスレに「ninja!」と叫び続けてようやく一人前の忍者になれました。
おやすみなさい。

771 :ウニ  ◆oJUBn2VTGE [mail] :2012/02/10(金) 23:03:43.85 ID:0VW1t0FY0
ウニです。どうもこんばんわ。

巨人の研究の中編を投下しようと2chにやってきましたが、なんでか忍者レベルが1になっていました。

心当たりは・・・ある。

でもショックです。

またレベルをコツコツあげるのでしばらくさようなら。
381本当にあった怖い名無し:2012/06/10(日) 15:59:39.90 ID:YArt36u/0
>>378
ウニの承諾がなきゃダメに決まってるじゃん
382本当にあった怖い名無し:2012/06/10(日) 16:03:20.35 ID:YArt36u/0
ウニにだって、この話はまだ投下したくないとか、こっちが先にとかあるだろうし、変わりで投稿してもらうには、ウニとちゃんと話せて、打ち合わせ出来る人じゃないと無理だろうね
383本当にあった怖い名無し:2012/06/10(日) 17:39:21.85 ID:sn3/Hsbo0
>>378
どなたかに(略)お願いするか(略)するといいのかも……なら、「お願い」されてない以上駄目なんじゃねえの?
384本当にあった怖い名無し:2012/06/10(日) 19:31:06.11 ID:TVIfea2j0
顔真っ赤にして必死にウニの発言探してきて何がしたいんだかww
385本当にあった怖い名無し:2012/06/10(日) 19:32:46.34 ID:TVIfea2j0
>ウニにだって、この話はまだ投下したくないとか、こっちが先にとかあるだろうし

あるだろうし?お前の妄想どうでも良いんだが?投下したくないのにpixivには投下してんの?頭悪すぎるだろお前
386本当にあった怖い名無し:2012/06/10(日) 19:34:25.03 ID:TVIfea2j0
>ウニとちゃんと話せて、打ち合わせ出来る人じゃないと無理だろうね

ウニの連絡先分かるの?
387本当にあった怖い名無し:2012/06/10(日) 19:38:35.67 ID:TVIfea2j0
>どなたかに(略)お願いするか(略)するといいのかも……なら、「お願い」されてない以上駄目なんじゃねえの?

どうやってウニがお願いする人間を特定するんだよ?ネット上の赤の他人ばかりなのに選り好みするとでも?
不特定多数の人間、それも匿名の人間が集まる掲示板でどうやって特定す・る・ん・だ・よ?
ちょっとは頭使ってモノ言えよ
388本当にあった怖い名無し:2012/06/10(日) 20:44:06.15 ID:sn3/Hsbo0
>>387
むしろなんで特定する方法がないと思ったのかわからんのだが、Pixivで接触した後酉付きで投下するでもなんでもいいんじゃないのか?
389本当にあった怖い名無し:2012/06/10(日) 21:02:05.55 ID:Vhd3QlbSi
コピペする人はコテトリ付けて欲しい
390本当にあった怖い名無し:2012/06/11(月) 12:41:02.67 ID:7g6TLJDG0
>>387
いちいち自分以外のカキコに難癖つけるの、いい加減にしろ
貴方だけのスレじゃないんだよ
そろそろ消えろ
391本当にあった怖い名無し:2012/06/11(月) 12:54:07.11 ID:VGg04Gtu0
>>389
同意
追うのが難しくて困る
文中に師匠って文字が出てこないと師匠シリーズかどうかも分からんし
392本当にあった怖い名無し:2012/06/11(月) 13:43:51.52 ID:PgcDVf0ci
作品自体はpixivでもまとめサイトでも読めるし、投下前後のウニの一言二言のコメントやレスも楽しみだったりするんだよね
コピペに対してウニがなんの反応も示さないってのは、他ならぬウニ自身が>>387を荒らし認定してるからだろ
393本当にあった怖い名無し:2012/06/11(月) 15:30:02.53 ID:w/rax7an0
>>390
ずいぶん都合の良い考え方だなおい
難癖つけられてるからレス返してるんだろうが。俺に難癖つけてる奴にも同じ事言えよ偽善者
394本当にあった怖い名無し:2012/06/11(月) 15:31:40.02 ID:w/rax7an0
>貴方だけのスレじゃないんだよ
そろそろ消えろ

ははワロスw
そっくり返すわ。お前だけのスレでもねーだろ。お前に消えろって言う権利あるのかよ?

お・ま・え・の・ス・レ・な・の・か?
395本当にあった怖い名無し:2012/06/11(月) 15:35:07.75 ID:w/rax7an0
>コピペに対してウニがなんの反応も示さないってのは、他ならぬウニ自身が>>387を荒らし認定してるからだろ

へー、じゃあコピペされた後になぜ改めてコピペしないんだ?
ウニ以外の投下じゃないと読まない!って狂信者ばかりなのになあ
つか、ウニ本人でもねーのに勝手に決めつけるなよばーか
反論しないってのは容認してるって認識されるんだよはげ
396本当にあった怖い名無し:2012/06/11(月) 16:52:45.93 ID:/x0luWct0
コピペしてんのが奴ってことはハッキリしたわ
やっぱ荒らし目的だったようだ
悲しいけど放置するしかないのよねえ

コピペがあった時点でウニコテトリお借りしてアンカーでまとめておくとか
現実的な対応をしましょ
397本当にあった怖い名無し:2012/06/11(月) 16:53:21.78 ID:/x0luWct0
ウニと赤緑乙
398本当にあった怖い名無し:2012/06/11(月) 19:20:33.50 ID:cqiK2T2w0
>>396
やはりアイツなのか、このコピー荒らし


荒らし認定だな
スルーしとくわ
399本当にあった怖い名無し:2012/06/11(月) 21:53:03.10 ID:w/rax7an0
ひねくれた奴らだなまったく
ここまでこじれてもまだ「俺が正式にウニの許可を取ってコピペします」って言うやつ皆無とか凄いわ
あんだけウニを崇めておいて、ウニが暗に協力してくれと頼んでも無視か。

ウニの負担を減らせる
荒しの好きにはさせない

一石二鳥なのに、しない。面倒くさいからしない。長年あれだけの作品を楽しませてくれたウニにお返ししようという考えは・・・・ない!
ただ荒しがー荒しがーと吠えまくるだけ。罵倒するだけ。煽りに乗って争うことだけ。
400本当にあった怖い名無し:2012/06/11(月) 22:33:13.77 ID:lp76p/AX0
今まで全レスしてたくせに都合悪くなったらスルーってまた随分とお約束な……
401本当にあった怖い名無し:2012/06/12(火) 06:16:41.33 ID:L1HjneQp0
そのウニもお前さんのことをスルーしているよ
402本当にあった怖い名無し:2012/06/12(火) 10:21:00.64 ID:XbAwoLVY0
>>400
は?都合が悪くなるようなレスって何よ?「お前は荒しと認定する」って戯れ言にどうレスすればいいわけ?コピペの話題と何の関係もないだろ
反論できなくなったら荒らし認定という勝利宣言して逃亡、というのはお前らのいつものパターンだろw
「都合が悪くなるとスルー」ってお前らの事なのにそれをそっくり相手に投げ返すって、まるでチョン並の思考回路だな。恐ろしいわ

むしろおまえらの方が>>399の内容についてスルーしてんじゃん
>>381>>383>>388>>390>>392見てみ?ここまでちゃんと反論してんのに>>400には反論できない

早くウニを助けるために誰かコピペ代行として名乗り出て見ろよ。ただコピペするだけの簡単なのに面倒くさがってやらないカス共が
それでも「ウニが投下するのが読みたい」「ウニが自ら投下してるから必要ないだろ」「まだウニが正式にお願いしてない」とか言って切り捨てるんだろ
どんなにウニの「どなたかにこっちへ代理投下をお願いするか、〜」という発言聞いても知らん顔なんだろ?
403本当にあった怖い名無し:2012/06/12(火) 10:22:51.00 ID:XbAwoLVY0
>>402
>反論してんのに>>400には反論できない

>>400じゃなくて>>399な。
訂正しないとまた肝心の事には触れずこういう所ばかり突くからな。
404本当にあった怖い名無し:2012/06/12(火) 13:49:50.06 ID:XmqJVDmai
いつの話してんだ?
ウニ普通に投下してんじゃんw
今はもう代理ないでしょ
405本当にあった怖い名無し:2012/06/12(火) 14:04:32.98 ID:Uk+xSXtN0
コピペして作り手側気分かw
406本当にあった怖い名無し:2012/06/12(火) 14:25:23.88 ID:W/tv/MmY0
荒らしの一種だと思ってたけど、ウニを助ける為だったのか……泣ける
407本当にあった怖い名無し:2012/06/12(火) 15:12:10.33 ID:TaMaKVWoi
隆ラブいいかげんにしろ
408本当にあった怖い名無し:2012/06/13(水) 21:56:47.66 ID:WEfjwhlI0
>>402
マジレスすると、お前がその「ちゃんとした反論」に対して何も言わないから反論することがないだけです
409本当にあった怖い名無し:2012/06/14(木) 13:44:48.46 ID:6bdjLZjKi
しょせん三流の荒らしのいう事ですから
410本当にあった怖い名無し:2012/06/15(金) 20:20:21.34 ID:wWyGbg7+0
蒸し返す馬鹿は死ねよ
411保育園後編:2012/06/16(土) 19:39:09.27 ID:a0GyUdbC0
キッ、となって悦子先生も立ち上がる。麻美先生も肩を怒らせながら立ち上がった。
それに遅れて洋子先生と由衣先生もおずおずと腰を浮かせる。
外へ出るのだと早合点した悦子先生がガラス戸の方へ向かいかけるのを、師匠が止める。
「こっちです」
そうして廊下へ出た師匠は玄関の方へ進んでいった。
三・四歳児の部屋の前を通り、事務室の前を通り抜け、玄関の奥にある階段の前で立ち止まった。
「上ります」
そう言ってから階段に足を踏み出す。僕らもそれに続いて階段を上っていく。
二階の廊下にたどり着くと、右手側に戸が四つ並んでいる。
遊戯室、0歳児室、一歳児室、二歳児室。
412保育園後編:2012/06/16(土) 19:40:21.86 ID:a0GyUdbC0
師匠は三番目の一歳児室の戸を開けた。由衣先生が担任をしている部屋だ。
一階と同じようにフローリングの床が広がっている。五歳児室よりも少し狭いようだ。位置で言うと、一階の三・四歳児室の真上ということになる。
休園日のためか、窓のカーテンが閉められていて少し薄暗い。
全員が部屋に入ったことを確認してから師匠がその窓際に近づいていく。
「仮に、です。雷が鳴った瞬間、たまたま窓際にいたとしましょう。それも窓に背を向けて。そして外が光る。雷が鳴る。驚いた由衣先生は振り向く」
師匠はそう喋りながら振り向いて、窓のカーテンに手を突く。
「おっと、まだ外は見えませんね」
嫌らしくそう言ってから、カーテンの裾をつかんで開け放つ。ジャッ、というレールを走る音がして、外の光が飛び込んでくる。
「さあ、カーテンは開きましたよ! タオルはどこに見えます?」
師匠は声を張った。
413保育園後編:2012/06/16(土) 19:41:34.81 ID:a0GyUdbC0
僕らは思わず窓際に近寄って、同じように外を見下ろす。
なんの変哲もない園庭の光景が眼下に広がっている。
タオルは五歳児室の正面の木に引っかけたはずなので、隣の三・四歳児室の真上に位置するこの部屋からは少し左斜め前方に見えるはずだ。
みんなそちらの方向を見つめる。
しかし白いタオルは見えなかった。
先生の誰かが言った。
「ここからじゃ、角度が」
そしてハッと息を飲む。
師匠が写真を掲げて見せる。
魔方陣が写った園庭の写真だ。
414保育園後編:2012/06/16(土) 19:43:11.84 ID:a0GyUdbC0
「二階の部屋、正確には隣の二歳児室から撮影されたこの写真は、フェンス際の木まで写ってはいますが、葉が茂っているせいで、幹に近い枝にかかったタオルは見えません。
悦子先生の証言では、魔方陣が見つかった時にもタオルはあったということでしたね。ちょうどこの写真が撮られた時です。
なのに、写真には写っていない。葉が邪魔して見えないんですよ。二階の窓から構えたカメラからは」
師匠は両手の親指と人差し指でファインダーを作り、ニヤリと笑った。
「つまり、二階の窓からの視線ではね」
こんな風に。
そう言って、僕がさっき白いタオルをかけたはずの木に向かって「カシャッ」と口でシャッターを切った。
415保育園後編:2012/06/16(土) 19:44:42.34 ID:a0GyUdbC0
みんな驚いた顔で師匠を見ている。そしてその視線がやがて由衣先生に集まる。
「私じゃない!」
由衣先生はそう言ってその場にへたり込んだ。顔を覆ってわなわなと震えている。
「外には出ました。でも私じゃない」
そう呻いて、啜り泣きを始めた。
他の先生が「落ち着いて、ね?」と言いながら背中をさすっている。
師匠はその様子を冷淡に見下ろしている。
しばらくそうして啜り泣いていたが、ようやくぽつぽつと語り始めた。自分の口から、あの日あったことを。

416保育園後編:2012/06/16(土) 19:46:23.47 ID:a0GyUdbC0
きっかけはその事件の数日前だった。
園児たちがみんな帰宅し、他の先生たちも順次帰っていった後、由衣先生は一人で園に残って、書きかけの書類を仕上げていた。七時を過ぎ、その残業にもようやく目処がついたころ、ふいに来客があった。
スーツを着て、立派な身なりをしていたので、保護者が忘れ物でも取りに来たのかも知れないと思い、門のところまで出て行くと、その男性は頭を下げながら『沼田ちかの父です』と言うのだ。
沼田ちか。
その時初めて不審な思いが湧いた。
とっさにそんな子はうちにはいませんが、と口にしそうになった瞬間、その名前とそれにまつわる事件のことを思い出した。
数年前、この保育園に通っていた沼田ちかちゃんという女の子がいたことを。
片親だったその子は他の子と家庭環境が違うことを敏感に感じ取り、園でもあまりなじめなかったそうだ。
417保育園後編:2012/06/16(土) 19:48:00.48 ID:a0GyUdbC0
そして五歳児、つまり年長組になったころから、ようやく友だちの輪にも入れるようになり、毎日だんだんと笑顔が増えていった。
そんなおり、ある週末にお祖母ちゃんにつれられて、買い物に行こうとしていた時、歩道に乗り上げてきたダンプカーに二人とも跳ねられてしまった。
居眠り運転だった。お祖母ちゃんの方は助かったが、ちかちゃんは内臓を深く傷つけていて、治療の甲斐なく亡くなってしまった。
当時担任だったという先輩の保育士からそのことを聞いて、とても胸が痛んだことを覚えている。
由衣先生は緊張して、『ちかちゃんのお父さんですか』と言った。
男性は静かに目礼して、懐からぬいぐるみを取り出した。
小さなクマのぬぐるみだった。
418保育園後編:2012/06/16(土) 19:49:30.01 ID:a0GyUdbC0
『ちかの好きだったぬいぐるみです』
これを、園庭に埋めてもらえないだろうか。
男性は深く頭を下げてそう頼むのだった。
『私は明日この街を去ります。せめてちかが、この街で生きていた証に』
由衣先生は最初断った。
しかし、繰り返される男性の懇願についに折れてしまった。
『ありがとう。ありがとう。きっとちかもお友だちと遊べて幸せでしょう』
涙を拭う男性の姿に、思わずもらい泣きをしてしまいそうになったが、男性が去ったあと、託されたぬいぐるみを手にして由衣先生は少し薄気味が悪くなった。
最後の言葉。まるであのお父さんは、このぬいぐるみがちかちゃん自身であるかのように話していた気がする。
どうしよう。
捨ててしまおうか。
そう思わないでもなかった。
419保育園後編:2012/06/16(土) 19:50:46.47 ID:a0GyUdbC0
しかし結局、由衣先生は、男性の想いのとおりそのクマのぬいぐるみを園庭に埋めてあげることにした。
捨ててしまうことで、お父さんの、あるいはちかちゃんの恨みが自分自身に降りかかって来るような気がしたのだ。
花壇の方へ埋めようかとも思ったが、誰かに掘り返されるかも知れない。
それにお父さんは『園庭に』と言いながら、園庭の真ん中を指差して頼んでいたのだ。
フェンスの根元のあたりなどではなく、園児たちが遊ぶその園庭の真っ只中に埋めて欲しい。そういう希望なのだった。
由衣先生はその夜、苦労してスコップで穴を掘り、園庭の真ん中にぬいぐるみを埋めた。そして上から土を被せ、何度も踏んでその土を固めた。
最後に物置から出してきたトンボで地ならしをして、ようやくその作業が終わった。どっと疲れが出て、残っていた書類も仕上げないまま、家路についた。
そんなことがあった数日後だ。
420保育園後編:2012/06/16(土) 19:52:41.51 ID:a0GyUdbC0
十一時ごろに雨が降り始め、わあわあ騒ぎながら子どもたちが園舎に駆け込んでいくのを二階の一歳児の窓から見ていた。
雨脚は強くなり、やがて土砂降りになった。
受け持ちの子どもたちに食事をさせ、そして寝かしつけている間も気はそぞろだった。
『雨でぬいぐるみが土から出てきたらどうしよう』
しっかり踏み固めたつもりでも、やっぱり周りの地面より柔らかくて土が流されてしまうのではないだろうか。
そう思うといてもたってもいられなかった。
もし園庭に埋めたぬいぐるみが園長先生にでも見つかったら、大目玉だ。
ちかちゃんのお父さんにどうしてもと頼まれた、と言ってもそんな言い訳が通じないことはこれまでの付き合いでよく分かっている。
子どもがみんな寝てしまった後もしばらく迷っていたが、とうとう由衣先生は決意して部屋を出る。
421保育園後編:2012/06/16(土) 19:54:12.44 ID:a0GyUdbC0
二階から階段で降りると、すぐに玄関の方へ向かうと事務室からは見つからない。
傘立てから自分の青い傘を手に取り、それを広げながらサンダルをつっかけて外へ出る。
外はまだ黒い雲に覆われて薄暗いが、雨脚は少し弱まって来ているようだ。
ぬかるんだ土に足を取られながらもようやく園庭の中ほどまでやってくる。ぬいぐるみを埋めたあたりだ。
しばらく傘をさしたまま、その場で無数の雨が叩く地面を見回していたが、どうやらぬいぐるみは土から出てきてはいないようだと判断する。
大丈夫かな。
422保育園後編:2012/06/16(土) 19:55:18.77 ID:a0GyUdbC0
少しホッとして玄関の方へ戻っていく。雨に多少濡れても早足でだ。もしこの大雨の中、外に出ていることを他の先生に見つかると、言い訳が面倒だ。
もし見つかったら、鍵かなにかを落としてしまって探しにいったことにしよう。
そう考えながら歩いていると、ふいに視界に白い光が走り、間髪いれずに雷が鳴った。
それほど音は大きくなかったが、かなり近かった気がして思わず振り向いた。
しかし特に異変はなかった。
園舎に早く戻ろうと、玄関に足を向けかけたとき、一瞬、視界の端にあった木の枝に緑色のタオルがかかっているのが見えた……

423保育園後編:2012/06/16(土) 19:57:04.53 ID:a0GyUdbC0
「私じゃないんです」
もう一度そう言って由衣先生は啜り上げた。
部屋に戻って、しばらく経ってから悦子先生の悲鳴に驚いて外を見てみると、雨が上がった園庭に魔方陣が描かれていたのだという。
さっき外に見に行った時には、そんなもの影も形もなかったのに!
そう思うと怖くなってしまった。
自分が外へ出ていたことを話してしまうと、ぬいぐるみのことがバレてしまうかも知れない。まして魔方陣を描いた犯人に疑われてしまうかも知れないのだ。
由衣先生は、外へ出たことを黙っていようと心に決めた。
悦子先生たちが怪奇現象専門の探偵にこの事件のことを依頼するといって盛り上がっていても、そっとしておいて欲しい、という気持ちだったが仲間はずれにされることが怖くて、流されるままにお金も出し、こうして休みの日に園へ出て来ているのだった。
424保育園後編:2012/06/16(土) 19:58:51.06 ID:a0GyUdbC0
「でも私じゃないんです」
声を震わせる由衣先生を見下ろしながら、師匠は困ったような顔をした。
あの顔は、謎が解けてないな。
僕はそう推測する。
そもそもこの事件には、魔方陣を描いた犯人が保育士の誰かであれ、園児であれ、また門扉やフェンスをよじ登った侵入者であれ、大雨の後、魔方陣がくっきり残っているのに、足跡が残っていないという重大な問題がある。
結局そのことはたな晒しにしたままだが、師匠的には雨の中外へ出ていた人物が見つかれば、そのあたりも勝手に告白してくれるだろうと踏んでいたに違いない。
しかし由衣先生は、自分ではないと言い張っている。
425保育園後編:2012/06/16(土) 19:59:39.63 ID:a0GyUdbC0
辻褄は一応は合っているし、ちかちゃんのお父さんのお願いから始まるあの話がとっさの作り話とも思えない。
おおむね本当のことを言いながら、魔方陣を描いた部分だけを上手く端折って話したにしても、その動機や、足跡を残さずに魔法陣だけ残してその場を去ったウルトラCに関するエピソードがこっそり入り込む余地があるようにはとても思えなかった。
「うーん」
師匠は頭を掻いている。
そう言えば、ここ数日風呂に入っていないと言っていたことを思い出した。
困った末なのか、単に頭が痒いのか分からないが、しかめ面をして唸っている。
泣いている由衣先生の背中をさすっている他の先生たちも、困惑したような表情をしている。麻美先生など、露骨に不審げな顔だ。
「今の話が本当だとするとですよ」
師匠はようやく口を開く。
426保育園後編:2012/06/16(土) 20:00:20.93 ID:a0GyUdbC0
「雷が鳴って、五歳児の部屋から悦子先生がカーテン越しに外を見た時、まだ由衣先生は外にいたことになる。
どうして見つからなかったのかという問題が…… ああ、いや、そうか。玄関の近くまで戻っていたら、角度的に五歳児室からは見えないか。
ううん。まあとにかく、雨が弱まり始めたころ、まだ魔方陣は現れていなかったわけですよね。
雷が鳴って、由衣先生が園舎に戻り、しばらくして雨が止む。その雨が止んだ二時ごろに悦子先生が外に出る。あまり時間がありませんね。一体誰がどのタイミングで、どうやって?」
後半はほとんど独り言のようになりながら、師匠がなにげなく窓の外を見た時、その動きがピタリと止まった。
「なにっ」
緊迫したその声に、思わず視線を追って窓の外を見下ろす。
園庭の真ん中。
さっきまでなんの異変もなかったその園庭の真ん中に、なにかがあった。
師匠が窓から飛び出しそうな勢いで身を乗り出す。
427保育園後編:2012/06/16(土) 20:03:48.85 ID:a0GyUdbC0
「うそだろ」
そんな言葉が僕の口をついた。
魔方陣だ。
魔方陣が、園庭の真ん中に忽然と現れていた。
馬鹿な。
タオルはどこに見えます?
師匠がそう言った時、みんな外を見ている。ついさっきのことだ。その時は間違いなくそんなものはなかった。
だが今、眼下に間違いなく魔方陣は存在している。
写真に写っているものにそっくりだ。
場所も、この部屋からは左斜め。つまり、五歳児室の正面のあたりであり、九日前に現れたというその場所とまったく同じだ。
背筋に怖気が走った。
なんだこれは。
保育士たちも言葉を失って悲鳴を飲み込んでいる。
由衣先生など、ほとんど気絶しかかっている。
428保育園後編:2012/06/16(土) 20:06:36.22 ID:a0GyUdbC0
「下に行け。誰も見逃すな」
師匠から短い指示が飛ぶ。
あれを地面に描いたやつのことか。
しかし今この園にはこの部屋にいる六人の他、誰もいないはずだ。誰かずっと隠れていたというのか。それとも侵入者? このタイミングで?
おかしい。明らかにおかしい。
僕たちの誰にも見られず、あの一瞬であんなものを園庭の真ん中に描くなんて、尋常じゃない。
ゾクゾクと寒気が全身を駆け回る。
しかしそんな僕を尻目に、身を乗り出していた師匠が窓枠に足を掛け、「早く行け」と叫んでそのまま窓の外へ消えた。
落ちた?
そう思って窓へ駆け寄ったが、その真下で砂埃の中、師匠が立ち上がるところが見えた。
429保育園後編:2012/06/16(土) 20:14:13.31 ID:a0GyUdbC0
受身を取ったのか。とんでもないことをする人だ。
だがそれを見てまだぐずぐずしているわけにはいかなかった。すぐさま部屋から出て廊下を抜けて階段を駆け下りる。
一階に降り立ったが、廊下側にも玄関側にも人の姿はなかった。視界の隅、それぞれの部屋に誰が消えていく瞬間にも出会わなかった。
すぐに下駄箱の前を走り抜け、スリッパのまま外に出る。
左前方に師匠の姿が見える。
そちらに駆け寄ろうとするが、とっさに右手側の門扉を確認する。閉まったままだ。誰かが逃げていった様子もない。
あらためて師匠のいる方へ走り出すと、すぐさま怒鳴り声が飛んでくる。
「待て、うかつに近寄るな」
師匠が右手の手のひらだけをこちらに向けて、顔も見せずにそう言うのだ。
僕は思わずダッシュをランニングぐらいに落とす。
430保育園後編:2012/06/16(土) 20:14:41.11 ID:a0GyUdbC0
「誰も外へ出すな」
次の指示を聞いて、振り向くと玄関から保育士たちがおっかなびっくり顔を覗かせている。
「出ないでください」
僕がそう叫ぶと、びくりとしてみんな玄関に引っ込んだ。そしてまた顔だけを伸ばしてこちらを見つめる。
その様子を見てから、僕はゆっくりと師匠の方へ目を向ける。
足跡が乱されるのを恐れているのか、と一瞬思った。が、雨の日とは違い、もとから薄っすらとした無数の足跡で園庭は埋め尽くされている。
これでは足跡は追えないだろう。
そう思ってまた師匠の方へ近づいていくと、その背中が異様な緊張を帯びていることに気づいた。気配で分かる。
あの緊張は、師匠が会いたくてたまらないものに出会えた時の、そして畏れてやまないものに出会えた時の……
「静かに、こっちに来い」
そろそろとした声でそう言う。
431保育園後編:2012/06/16(土) 20:19:43.45 ID:a0GyUdbC0
僕はそれに従う。
師匠の足元に魔方陣がある。
だんだんと近づいていく。
大きな円の中に、三角形が二つ交互に重なって収まっている。ダビデの星だ。
だんだんと近づいてくる。
そしてその星と円周の間になにか奇妙な文字のようなものがあり、ぐるりと円を一周している。
魔方陣。
魔方陣だ。
写真で見たものと同じ。
だが、僕はその地面に描かれた姿に、一瞬、言葉に言い表せない奇怪なものを感じた。
432保育園後編:2012/06/16(土) 20:24:31.93 ID:a0GyUdbC0
それがなんなのか。
何故なのか。
知りたい。
いや知りたくない。
足は止まらない。
師匠の背中が迫る。
キリキリと空気の中に刃物が混ざっているような感じ。
「見ろ」
師匠がそう言う。
僕はその横に並び、足元に描かれたその模様を見下ろす。
心臓を、誰かに掴まれたような気がした。
足跡が、残っていなかったわけがわかった。
師匠が異様に緊張しているわけがわかった。
あの一瞬で、誰にも見られずにこれが描かれたわけがわかった。
433保育園後編:2012/06/16(土) 20:30:08.73 ID:a0GyUdbC0
傘じゃない。
傘の先なんかで描かれたんじゃなかった。
写真で見ただけじゃわからなかったことが、ここまで近づくとよくわかった。
その円は、重なった二つの三角形は、そして何処のものとも知れない文字は。
地面を抉ってはいなかった。
その逆。
土が盛り上がって作られている。
まるで誰かが、土の底、地面の内側から大きな指でなぞったかのように。
「うっ」
吐き気を、手で押さえる。
ついさっきまで、なにも感じなかったはずの園庭に、今は異常な気配が満ちている。
とても『残りカス』などと評されたものとは思えない。全く異なる、底知れない気配。
地中から湧き上がって来る悪意のようなもの。
434保育園後編:2012/06/16(土) 20:31:02.87 ID:a0GyUdbC0
僕は地の底から巨大な誰かの顔が、こちらを見ているような錯覚に陥る。
そしてその視線は、気配は、すべて、緊張し顔を強張らせる師匠に向かって流れている。
その凍てついたような空気の中、師匠は滑るように動き出し、腰に巻いていたポシェットから小さなスコップを取り出した。そして魔方陣の中に足を踏み入れ、その刃先を円の真ん中に突き立てた。動けないでいる僕の目の前で、師匠は土を掘る。
ガシガシ、という音だけが響く。
やがてその手が止まり、左手が地面の奥へ差し入れられる。
左手がゆっくりと何かを掴んで地表に出てくる。
人の手。
黒く、腐った人間の手。
ゾクリとした。
誰の手。
誰の。
435保育園後編:2012/06/16(土) 20:43:29.33 ID:a0GyUdbC0
だが師匠がそれを胸の高さまで持ち上げた瞬間、それが人形の手であることに気づく。
マネキンの手か。
土で汚れた黒い肌に、かすかな光沢が見える。肘までしかない、マネキンの手。
クマのぬいぐるみなどではなかった。どういうことなのか。
「トンボ」
師匠がボソリと言う。そして僕を促すように反対の手で招くような仕草をする。
意図を知って僕は振り向き、園舎の方へ走り出す。その場を離れたかった、という気持ちがないと言えば嘘になる。
地面の内側から描かれたような魔方陣。立ち込める異様な気配。魔方陣の中に埋められたマネキンの手。
ただごとではなかった。その場に立ち会うには、僕はまだ早すぎる。そんな直感に襲われたのだ。
436保育園後編:2012/06/16(土) 20:50:34.47 ID:a0GyUdbC0
走ってくる僕に、怯えたような表情をした保育士たちだったが、「トンボを借ります」と言うと、玄関から出てきて、裏手の物置へ案内してくれた。
取っ手の錆びついたトンボを引きずりながら園庭に出てくると、煙が立っているのが見える。師匠が魔方陣の上で、マネキンの手を燃やしているのだ。
黒い煙がゆらゆらと立ち上っている。
ポシェットに入っていたらしい小型のガスボンベにノズルを取り付けて、ライターで火をつけ、バーナーのように使っていた。
煙を吸わないように服のそでを口元に当てながら、師匠はそうしてマネキンの手を燃やしていった。
やがて燃えカスを蹴飛ばし、僕に向かって「トンボ」と言う。手渡すと師匠はためらいもなく魔方陣を消した。ワイパーで汚れを取るように。
地面がすっかりならされ、魔方陣など跡形もなくなったころ、師匠は僕に顔を向けた。
437保育園後編:2012/06/16(土) 20:51:22.17 ID:a0GyUdbC0
「解決」
そうして笑った。
だがその顔はどこか強張り、額から落ちる汗で一面が濡れている。
地中深くから湧き上ってくるようなプレッシャーもいつの間にか霧散していた。
それからまた僕らは園舎に戻り、五歳児室で車座に座った。
保育士たちは、忽然と現れた魔方陣とそこから出土したマネキンの手に、今でも信じられないという様子で生唾を呑んでいる。
やがてクマのぬいぐるみを埋めた、と証言した由衣先生が、あんなものは知らないと喚いた。だが、現実に出てきたのはマネキンの手だ。
落ち着かせようと優しい言葉をかける悦子先生の横で、麻美先生が口を開く。
「私も聞いた話で、自信がなかったんだけど。やっぱり間違いない。沼田ちかちゃんは、確か母子家庭だったはず」
父子家庭じゃなくて。
438保育園後編:2012/06/16(土) 20:51:59.39 ID:a0GyUdbC0
それも蒸発などではなく、死別だったはずだ、と言うのだ。
ではあの夜、由衣先生の前に現れてぬいぐるみを託したの男は誰なのだ。そもそもそれは本当にぬいぐるみだったのか。
疑いの目が由衣先生に集まる。
「知らない。私知らない」
錯乱してそう繰り返すだけの由衣先生に、師匠は取り成すように告げる。
「記憶の混乱ですね。この園に巣食っていた霊の仕業でしょう。ですがそれももう終わったことです。元凶はさっき私が燃やしてしまいましたから。もう何も霊的なものは感じられません。これでおかしなことは起こらないはずです」
きっぱりとそう言った師匠に、先生たちはどこか安堵したような顔になった。
「もしなにかあったら、アフターサービスで駆けつけますよ。いつでも呼んでください」
その笑顔に、みんなころりと騙されたのだ。
解決などしていなかった。
439保育園後編:2012/06/16(土) 20:52:34.26 ID:a0GyUdbC0
これまでにこの保育園で起こっていた怪奇現象の原因は恐らく、師匠が感じていた『残りカス』の方だろう。
だがそれはもう消え去っている。
いつ?
たぶん、魔方陣が最初に現れた日。いや、ちかちゃんの父親を名乗る男が得体の知れないなにかを携えてやって来た日かも知れない。
それは、そんなごく普通の悪霊など、近づいただけで吹き飛ばされて消えてしまうような、底知れない力を持ったものだったのだろうか。
だが師匠はなにも言わなかった。
ただ僕たちはお礼を言われて、その保育園を出た。去り際、悦子先生がまだ泣いている由衣先生を叱咤して、「ほら、しっかりして。もう大丈夫だから」と肩を抱いてあげていた。
まあ、これはこれで良かったのかな、と僕は思った。
440保育園後編:2012/06/16(土) 20:53:24.53 ID:a0GyUdbC0
その帰り道、事務所へ向かう途中で、師匠は文具屋に立ち寄り、市内の地図を買った。
かなり詳細な地図だ。
そしてその場でそれを広げ、さっきの保育園が載っている場所に、マーカーで印をつけた。日付と、魔方陣の絵。そしてマネキンの手の図案を添えて。
「それをどうするんですか」
僕が訊くと、師匠ははぐらかすように言った。
「どうもしないよ。けど、なんとなく、な」
その時の師匠の目の奥の光を、僕は今も覚えている。なんだか暗く、深い光だ。
それを見た時の僕は、なんとも言えない不安な気持ちになった。
死の兆し。
それをはっきり意識したのは、その時が最初だったのかも知れない。

(完)
441本当にあった怖い名無し:2012/06/16(土) 22:18:40.03 ID:RN38RLyi0
もう赤緑もピクシブで発表すればいいんじゃねえかな?
442本当にあった怖い名無し:2012/06/16(土) 23:46:01.18 ID:O1hq0n7e0
しかるべき処置をとらせてもらいます。
443本当にあった怖い名無し:2012/06/19(火) 17:58:01.93 ID:Q9wmVH330
今更だけどPixivってイラスト投稿サイトですよね?
Pixiv ウニ でググっても何も出てこないんだけど、ウニ氏はどこへ投稿してるのでしょうか?
444本当にあった怖い名無し:2012/06/19(火) 20:24:52.04 ID:XlwMqhtg0
http://www.google.co.jp/search?q=Pixiv%E3%80%80%E3%82%A6%E3%83%8B
ここからですらキーボードに触れずとも2クリックでウニのアカウントまでたどり着けるんだが……
445本当にあった怖い名無し:2012/06/19(火) 20:48:11.83 ID:bOnCzGJu0
釣りだろ
446本当にあった怖い名無し:2012/06/20(水) 03:50:15.71 ID:jzdXH5390
ですよね〜
447443:2012/06/20(水) 12:37:09.86 ID:UmTOdhKa0
それは分かります
どこに師匠シリーズが書かれているのかって事です
そもそもイラスト投稿サイトに師匠シリーズってのがよく分からないんですが…何か間違ってる?
448本当にあった怖い名無し:2012/06/20(水) 20:01:16.19 ID:KbXiDgRg0
あえて釣られてみるけど、こんなとこで質問するよりピクシブのヘルプ見るのが先じゃないの?
調べりゃ分かることを手抜きしようとしても、そりゃ相手にして貰えないよ
449本当にあった怖い名無し:2012/06/21(木) 22:37:37.98 ID:yO6t9XHj0
>>447
絶対わかってないと思うけど一応親切に教えてやると、ウニのアカウントページの投稿した小説ってとこの右下にある「もっと見る」を押せば全部出てくるよ?
450本当にあった怖い名無し:2012/06/22(金) 02:44:53.00 ID:mpJYy6Gj0
PIXIV 師匠シリーズ でググれ、それしか出て来んわアホか
451本当にあった怖い名無し:2012/06/22(金) 07:24:52.86 ID:MD4TOYU10
みんな親切だな…
452本当にあった怖い名無し:2012/06/22(金) 20:19:33.14 ID:/vewyKIM0
ただの布教活動だろ
現実の活動もこんなもんだよ。親切して近づいてくるんだよあいつら
453本当にあった怖い名無し:2012/06/22(金) 20:47:27.34 ID:MD4TOYU10
なるほどね
自分が興味のあること位自分で調べたらいいのに、と思う方が実は優しいって言う
454本当にあった怖い名無し:2012/06/22(金) 22:31:07.43 ID:fyEB3Kts0
親を切ると書いて親切……
455443:2012/06/23(土) 19:34:05.71 ID:7nwwffJq0
ありがとうございました
456本当にあった怖い名無し:2012/07/01(日) 21:11:45.97 ID:xKfNt5vw0
o(・ω・ = ・ω・)o
457本当にあった怖い名無し:2012/07/09(月) 08:38:13.27 ID:ahEZZvZt0
夏だぞ
458本当にあった怖い名無し:2012/07/09(月) 23:05:58.74 ID:8+PHI93i0
一ヶ月以上まともな投稿無いのに上げんなよ
もうこのスレ落とせよ。完全に機能してないじゃん
459本当にあった怖い名無し:2012/07/10(火) 22:06:31.37 ID:bXdpEXtSO
赤緑は忍法帖のレベルが上がったらまた投稿するみたいだよ。
460本当にあった怖い名無し:2012/07/11(水) 21:02:32.34 ID:xZC7WkWL0
( ̄д ̄)エー
461赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/07/15(日) 01:49:36.91 ID:1kTAaaIK0
[2人は見つける]

1/13
川原で古乃羽と話をした後、私たちは来た時とは別の道を通って帰っていた。

ぽろぽろと泣いてしまって、ちょっと恥ずかしかったけど…
思っていたことを打ち明けることができて、スッキリした気分だ。
古乃羽にはホント、感謝しないといけない。
昔っから、お世話になりっぱなしだなぁ…

なんてことを考えながら歩いていると、道は十字路に差し掛かる。
明らかに車の通りはないけれど、私は優良歩行者よろしく右を見て左を見て――

私「ん?」

そこに、あるものを見つける。

歩いてきた道の左手には林があり、ここを左に曲がれば当然その林に入っていくことになる。
その分け入った道――林の道に面して、ひっそりと佇んでいるもの。

それはとても小さな、古びたお社だった。
462赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/07/15(日) 01:50:48.62 ID:1kTAaaIK0
2/13
私「古乃羽」

私は古乃羽に一声掛けてから道を曲がり、お社のもとへ行く。

古乃羽「どうしたの?」
あとをついて来る古乃羽。

私「うん。これ――」
古乃羽「あ」

私が言うが早く、お社に気付く古乃羽。その目がキラリと輝く。
こういったものは、古乃羽の”大好物”だ。

古乃羽「へぇ…知らなかったな」
私「そうなんだ」
古乃羽「あんまりこっちの道、通らないからね」

そう言いながら、興味深そうにお社を調べる古乃羽。

大きさは小学校にあった百葉箱くらいで、土台となる石が私の腰くらいまで積まれている。
お社はその上に載っているため、全体の背の高さは丁度私と同じくらいだ。
立派な棟飾りが付いていて「ミニ神社」といった感じだけど、大分古いものらしく、原型は留めているものの外見はボロボロになっている。

古乃羽「中に銅鏡があるよ」
私「へぇ…」
463赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/07/15(日) 01:52:03.28 ID:1kTAaaIK0
3/13
古乃羽「ニ…ノ…モリ?」
私「ん?」

お社を覗き込んでいた古乃羽が、何事か呟く。

古乃羽「銅鏡に書いてあるの。数字の二の、守るって」
私「ふーん…」

古乃羽に退いてもらい、どれどれと覗いてみると確かに書いてある。
内部の台座に鎮座している銅鏡の下部に、「二乃守」と。

古乃羽「なんだろう」

なんだろうと言いながらも、どことなく嬉しそうな古乃羽。
こういった物も、彼女は大好きだ。

私「二ってことは、どこかに一とか三もあるのかな」

ピコーンと思いついたことを言ってみる。

古乃羽「あ、そうかも。すごい、美加」
私「むふふ…」

まったく単純な話で、しかもそれが正解という訳ではないだろうけど、褒められると鼻高々だ。
464赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/07/15(日) 01:53:14.75 ID:1kTAaaIK0
4/13
私「しっかし、見事にボロボロねぇ」

私はお社から少し離れ、全体を見てみる。
…まったくもって、見事な朽ち方だ。
長い年月、雨風に曝されてきた結果だろう。

古乃羽「ほんとね。誰か修繕しないのかな」
肩を並べてくる古乃羽。

私「相当古そうだけど、誰もなーんもしないみたいね」
古乃羽「ね。仮にも神様を奉っているのに――…」

…と、言葉を切る古乃羽。
ん?と思い横を見ると、首を傾げている。

私「どうかした?」

古乃羽「鳥居が無い」

私「鳥居?」
そう言われて改めて見てみると、確かにそのお社には鳥居が無い。

…でも、それが何か?
465赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/07/15(日) 01:55:06.32 ID:1kTAaaIK0
5/13
私「鳥居が無いお社って何か変なの?たまに見かけない?」

古乃羽「鳥居の意味を考えると、あまりない筈よ。無いように見えても、お社と一体になっていたりするかな」
私「意味って?」

古乃羽「境界。人が住んでいる場所と、神様が住んでいる場所の境目」
私「へぇ…」

ってことは、このお社には境界がない訳だ。

古乃羽「神様を奉るなら、普通は鳥居があるものだけど…」
私「なるほどね」

あ、じゃあ…、と言い掛けて、頭の中に嫌な考えが浮かぶ。

じゃあ…ということは、何?

古乃羽を見ると、真剣な表情でお社を見つめている。
きっと私と同じ考えを持ったのだろう。

じゃあ、このお社は何?

ボロボロのこのお社は、何を奉っているの…?
466赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/07/15(日) 01:56:30.21 ID:1kTAaaIK0
6/13
風が吹き、ざわざわと林が鳴る。

急に目の前のお社が”良いもの”ではないように思えてきた。
その朽ち方もなんだか嫌な雰囲気で、見ていると少し肌寒さすら感じてくる…。

私「まさかさ、何か悪いものを奉っている訳じゃない…よね」
古乃羽「うん…。ないと思う…」

自信なさげに古乃羽が答える。
しかしそう思うということは、少なくとも古乃羽の目に嫌なものは見えていない、ということだろう。

古乃羽「鳥居が無いお社ってね、まったくない訳じゃないの」
まっすぐ前を見据えながら古乃羽が言う。

私「そうなんだ」
私も前を見ながら答える。
お互いに、何故かそのお社から目が離せないでいる。

古乃羽「むしろ、人にとっては良いものだったりするのよ」
私「へぇ…」
古乃羽「境界がない訳だから、より近くに神様を感じられる…って」
私「あぁ、そっか」
身近な存在として、人と隔てなくそこに居てくれる訳だ。
467赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/07/15(日) 01:57:21.83 ID:1kTAaaIK0
7/13
古乃羽「でもこれは…」
私「…」

違う。これは違う。
徐々に、そう確信できてくる。
これは身近な神様とか、そういうものではない。
そもそもそういった類のものなら、こんなボロボロになる程放置されることはないだろう。
こんなところに、ひっそりと――

…こんなところ。

こんなところ?

私「ここって、どの辺だろ」
古乃羽「ん?」
私「ここ、町のどの辺りになるのかな」
古乃羽「あぁ。えーっと…」
道の前後に首を伸ばす古乃羽。

古乃羽「…うー、知らない道だから分からないや」
…あら、残念。

古乃羽「帰って地図でも見てみようか」
私「うん」

確かにそれが手っ取り早い。
それに、そろそろお昼の時間に遅れそうだ。
私たちは取りあえず、そのお社をあとにした。
468赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/07/15(日) 01:58:38.36 ID:1kTAaaIK0
8/13
――
家に戻りお昼ご飯を済ませた後、私は叔母さんから借りた地図を美加と2人で広げていた。
借りたのは大縮尺の大きな地図で、町の細かい道まで分かるものだ。

私「この家がここね」
畳の上、美加と向かい合って屈み込みながら地図の一点を指差す。

美加「あの川原はどこだろ」
私「えーっとぉ…」
地図上、家からの道を辿っていく。
町の地図を見るのは実はこれが初めてで、こうしないと上手く目的地を探せない。

私「あった、ここ」
美加「…結構遠かったのねぇ」
私「そうだね」
特に気にせず歩いていたけど、地図で見てみると意外と家から離れているのが分かる。

美加「で、ここから…」
私「こっちの道だね」
そこからの帰り道――来た時とは違う道を、指で辿っていく。

私「こう行って…十字路は、っと…ここね」
十字路発見。
ここを左に曲がってすぐの道沿いに、あのお社があったのだ。
469赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/07/15(日) 02:00:21.78 ID:1kTAaaIK0
9/13
美加「ここ、町の出入り口だね」
お社があった道を指差して、美加が言う。

私「うん」
確かにその道を少し行くと、町の外に出ることになる。

美加「だから、「守」なのかな」
私「ん?」
美加が何かしらの考えに行きついたみたいだけど、私にはサッパリだ。
そもそも場所を気にする事も、私には無かった。

私「何か分かった?」
美加「うーん、分かったって言うか、単純な発想なんだけど――」
地図から顔を上げる美加。

美加「ニ乃守ってことは、何かを守っていたのかなって。
で、例えば外敵から町を守っていたものだとすると、それは町の入口にあるのが普通だろうな、ってね」
私「なるほどぉ」
入口で外敵の侵入を防ぐためのもの、って訳だ。

私「昔の外敵って言うと何だろう?」
美加「うーん…」
時代が分からないけど、どんなものが――…あ。

私「病気とか?」
美加「あ、そうね」
悪い病気が入ってこないように、といったものだ。
お社があったところで「人」の侵入は防げないだろうから、この辺が正解に思える…けど。
470赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/07/15(日) 02:01:31.09 ID:1kTAaaIK0
10/13
美加「…でもそれじゃあ、説明にならないよねぇ」
私「だよね…」

病気などの外部の災いから、町を守るためのお社。
――でもそんな大事なお社なら、あんなにボロボロになる程放置されているのは何故?

美加「うーん…」
腕を組んで考え込む美加。
分からないことがあって、モヤッとしている状態が嫌いだからな。
…学校の勉強でもそうであれば良いのに。なんて、また偉そうなことを考えてしまう。

私「お婆ちゃんに聞いてみようか」
美加「…うん。ちょっと分かりそうにないや」

この土地に長く住んでいるお婆ちゃんなら、きっと何か知っているだろう。
自力で何かしら納得のいく答えを出したかったけど、流石にこれは分からない。
なかなか上手い具合に「手頃な謎」は無いものだ。

…いや。
そもそもこれは何の謎でも無いかもしれない。
あれは、ただ単にあの辺に住んでいた人が作ったもので、その人が亡くなってからは放置されている…という事かもしれないのだ。
鳥居だって、別に無くたってそんなにおかしい事ではないだろう。

なのに…何故か気になってしまう…?
471赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/07/15(日) 02:02:31.56 ID:1kTAaaIK0
11/13
祖母「あぁ、あのお社」

私たちは早速お婆ちゃんの部屋に行き、お社のことを聞いてみる。

私「うん。ちょっと気になって」
祖母「…」
少し眉間にしわを寄せるお婆ちゃん。何か知っているのかな?

祖母「あれは、私が小さい頃からずっとあんなでね」
私「うん」
祖母「昔、私も気になって母に――古乃羽のひいお婆さんに聞いたことがあるんだよ」
私「あのお社は何、って?」
祖母「そう。今の古乃羽と同じようにね」

ふむふむ、血は争えないなぁ、なんて思ってしまう。
ひいお婆ちゃんには会ったことはないけれど、きっと私達と同じように霊感を持っていたのだろうな、と何となく思う。

私「そうしたら、何て?」
祖母「…」

少し言いよどむお婆ちゃん。
どうしたのかな…?
472赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/07/15(日) 02:03:42.99 ID:1kTAaaIK0
12/13
祖母「古乃羽たちが見つけたのは、二乃守って言ったね」
私「うん」
祖母「この家の近くに一乃守があってね。他にも、全部で6つあるんだよ。六乃守まで」
私「へぇ…」

美加「それは、全部町の入口に?」
横で話を聞いていた美加が質問する。
祖母「そう、よく気が付いたねぇ…。その通りだよ。この町の入口、全てにあのお社があるね」

町の入口全てにお社がある。
じゃあ、あれはやっぱり…

祖母「名前からして分かったかい?あれは町を守るためのものだよ、ってひいお婆ちゃんは言っていたね」
私「やっぱり、そうなんだぁ」

予想通りで、なんだかつまらない気がしてしまう。
でも…

私「でもそうだとしたら、何であんな風に放置されているの?」

さっき美加と話していた疑問。
当然、それが気になってしまう。
473赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/07/15(日) 02:04:51.54 ID:1kTAaaIK0
13/13
祖母「ふむ…」
また少し、眉間にしわを寄せるお婆ちゃん。

祖母「やっぱり、古乃羽も同じように考えるのだね」
私「同じ?」
祖母「私も疑問に思ってね。なぜって聞いてみたのよ」
私「そうなんだ」

小さい頃のお婆ちゃんと同じように考え、同じように動いていることが、なんだか不思議に思える。

祖母「そうしたら、変なことを言われたよ」
私「変なこと?」
祖母「そう。何の説明も無くね」
私「…何て?」

ちょっともったいぶる様な…いや、言うのを躊躇うような素振りを見せるお婆ちゃん。
でも少し間を置いた後、ゆっくりと口を開き、こう言った。

祖母「お社に近付いてはいけない。近付けば祟りが起きるってね」



474本当にあった怖い名無し:2012/07/15(日) 05:19:47.98 ID:gQySkLnk0
乙。
珍しい時間ですね。
475本当にあった怖い名無し:2012/07/16(月) 02:12:42.06 ID:YrX4mzG3O
赤緑乙。
476本当にあった怖い名無し:2012/07/16(月) 19:37:57.97 ID:HwOhr5XT0
477本当にあった怖い名無し:2012/07/17(火) 12:54:56.02 ID:rNEU99wl0
こいつとウニの専用スレになっとるなあ
迷惑な話だ
478本当にあった怖い名無し:2012/07/17(火) 19:45:11.84 ID:EreRbUWN0
何が迷惑?
479本当にあった怖い名無し:2012/07/17(火) 19:56:08.30 ID:rNEU99wl0
は?
鯖はただじゃ無いんだよガキ
480本当にあった怖い名無し:2012/07/17(火) 19:56:25.61 ID:VH/VEfbw0
だれが投稿してもいいんだよ?
481本当にあった怖い名無し:2012/07/17(火) 20:28:05.99 ID:EreRbUWN0
なんだいつもの変なのだったか
482本当にあった怖い名無し:2012/07/18(水) 05:48:23.81 ID:e4fdIQi7O
うわコイツまだ台本書いてたよw
成長なしかよw
483本当にあった怖い名無し:2012/07/18(水) 19:13:32.45 ID:vNsQ/jSw0
赤緑乙!
484本当にあった怖い名無し:2012/07/18(水) 19:32:25.90 ID:y3+j7fuX0
2chで成長wwwww
485あぼーん:あぼーん
あぼーん
486本当にあった怖い名無し:2012/07/22(日) 18:19:35.50 ID:o9Y2zWCNO
↑やっぱ消されてるw
487本当にあった怖い名無し:2012/07/22(日) 20:31:33.12 ID:FisnxcAL0
上げて行こう!
488本当にあった怖い名無し:2012/07/23(月) 00:40:28.32 ID:VIHV/oGS0
ageるのにageと書く必要はない
豆な
489本当にあった怖い名無し:2012/07/29(日) 20:41:14.76 ID:OpfL7NjW0
夏休み
心霊スポットツアーを敢行する奴らもいるだろう
期待!
490本当にあった怖い名無し:2012/07/30(月) 19:42:33.75 ID:Xbs5/MIR0
意味も無くあげてんじゃねーよカス
491本当にあった怖い名無し:2012/07/30(月) 23:57:01.50 ID:v82RbwXk0
ウニは田舎に帰るのか?
492本当にあった怖い名無し:2012/08/02(木) 23:14:48.95 ID:p7Eo286wO
>>491
金儲けのために必死で書いてるみたいよ。
493本当にあった怖い名無し:2012/08/04(土) 20:43:36.53 ID:E7KlaoCe0
信者が必死にプロ並み(以上)だろと持ち上げるも、同人作家止まりでどこの出版社からも相手にされてないのが現実
494本当にあった怖い名無し:2012/08/05(日) 00:52:43.05 ID:Mp14m9Dx0
社会人野球チームの試合を見て「どこのプロ球団にも相手にされてない」
みたいな。
495本当にあった怖い名無し:2012/08/05(日) 15:29:01.06 ID:OGIzl86K0
一部のプロ以上だとは認める
下を見てもしょうがないが
496本当にあった怖い名無し:2012/08/05(日) 16:51:56.09 ID:DYWjgeRHO
ウニさん待ちです
497本当にあった怖い名無し:2012/08/05(日) 20:51:24.24 ID:Ppz2PdAM0
>>494
ウニは同人サークルという組織と契約してるのか?
実力あれば小学生でも出版出来る世界なのにアホみたいな例えしてんなwww
498本当にあった怖い名無し:2012/08/06(月) 10:18:05.07 ID:d6MRU8+m0
63 名前:さようなら 投稿日:03/05/01 00:30
>隠れコテハンのウニです。
>以前ちらっと触れた由加山皆殺しの家の話をこれから貼っつけようと
>思っていたんですが、さっき親父が言うことには
>今朝、親父の箸がテーブルの上で割れていたそうです。
>こうしたことはバカにできないので、師匠との話をこれ以上書くのは
>やめようと思います。
>僕の箸だったら屁でもないんですが、親父になにかあったら凹むので・・・


この断筆宣言のあと、なぜ何も無かったかのように説明してみろよ
あと「由加山皆殺しの家の話」なるものもとっとと書いてみろ
499本当にあった怖い名無し:2012/08/06(月) 10:19:14.68 ID:d6MRU8+m0
>なぜ何も無かったかのように説明してみろよ
なぜ何も無かったかのように再開したのか説明してみろよ

訂正
500本当にあった怖い名無し:2012/08/06(月) 23:57:19.01 ID:VcfNbxSS0
【社会】 わいせつ「日本一のカリスマ祈祷師」、某テレビにも出演…通院歴あるので悪事では名前は公表されません…東京
http://uni.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1344217246/

★<準強制わいせつ>容疑で僧侶逮捕 「除霊」とわいせつ行為

・「除霊をする」と信じ込ませて女性にわいせつな行為をしたとして、警視庁昭島署は5日、
 東京都昭島市の僧侶(58)を準強制わいせつ容疑で逮捕したと発表した。

 逮捕容疑は11年9月下旬、市内にある男の自宅兼祈とう所で、人生相談に訪れた30代女性を
 寝かせ、「除霊」と信じ込ませて抵抗できないようにし、服の上から胸を触るなどのわいせつな
 行為をしたとされる。調べに黙秘しているという。

 僧侶はうつ病などで通院歴があるとして氏名は未公表だが、捜査関係者らによると、ホームページを
 開設して「山内日豊」と名乗り「日本一のカリスマ祈とう師」と自称。民放テレビのバラエティー番組にも
 「霊媒師」などとして出演歴があった。08年にも別の女性から同署に「祈とうを頼んだら胸を触られた」と
 同様の相談が寄せられていたという。
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120805-00000045-mai-soci%3E%3E

※元ニューススレ
・【社会】除霊と称し体触った容疑 僧侶逮捕、調べに黙秘
 http://uni.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1344154234/
501本当にあった怖い名無し:2012/08/07(火) 15:38:22.77 ID:ERRxpjDv0
霊感の強いことで定評のある友人A
誕生日当日に旅行に行っててプレゼントを渡せなかったBが帰ってきた翌日、
プレゼントを渡した。AはBに「本当は◯◯(有名店)のケーキに
しようと思ったけど、家族の誰かが用意するだろうと思ってやめた」と言うと
そこにBの娘が親にプレゼントを渡そうと現れた。Bの娘はAが言及したばかりの
◯◯のケーキを手にしていた

こういうAのちょっとしたことだけどピンポイントの予想が当たるのが多々ある
502本当にあった怖い名無し:2012/08/07(火) 16:55:17.12 ID:Yph+s9RP0
やたらと勘の良い奴はいるな
一種の霊感なんだろうな
503本当にあった怖い名無し:2012/08/07(火) 22:19:31.00 ID:GYJOhjA40
>>501
単発ものはスレ違いなんだよ馬鹿が スレタイも読めないのか?ん?
504本当にあった怖い名無し:2012/08/07(火) 23:58:07.54 ID:39Iq/WWw0
>>501
2話目以降ヨロ。
505本当にあった怖い名無し:2012/08/08(水) 00:17:08.90 ID:2u85wh/70
シリーズなんだから導入というかプロローグみたいなのがあるわけじゃん
一話二話と次々間を開けず投稿するのがここのルールなの?
506本当にあった怖い名無し:2012/08/08(水) 01:14:00.02 ID:/BcAOqZg0
特にそんなのはない
変なのが一人いるだけ
507赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/08/08(水) 18:49:15.63 ID:PCSwmOEE0
[罪の意識を感じる]

1/14
10月の終わり。
大分寒さも増してきた頃、うちの大学では学園祭が行われていた。

何のサークルにも入っていない俺は学園祭では"お客側"で、古乃羽が法事で田舎に帰っていることもあり、朝から1人で友達の催し物などを見て回っていた。

やがて昼時になり、同じ学科の友達がやっている露店で焼きソバを買った俺は、
キャンバスの外れまで行き、ベンチに腰掛けて昼飯をいただくことにする。
そしてパックの蓋が意味を成さないくらい超大盛りに盛られた焼きソバに挑もうとしたとき、聞きなれた声が聞こえてくる。

「おーい、雨月ー」

北上だ。
俺と同じようにパックを持ってこちらにやってくる。

…あれはたこ焼きか。
こちらに負けないくらい大量に盛られているな。
508赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/08/08(水) 18:53:40.51 ID:PCSwmOEE0
2/14
北上「2人は鮎川さんの田舎か」

隣に座りながら、たこ焼きが言う。

俺「あぁ。この前から行っているな」
北上「せっかくの学祭なのになぁ…」

残念そうなたこ焼き。
神尾さんと一緒に学祭を楽しみたいと思っていたのだろう。

俺「法事じゃ仕方ないだろ」
焼きソバを頬張りながら答える。
神尾さんの家の法事って訳では無いので、何の理由にもなっていないが。

北上「まぁなぁ…」

なぜかそれで納得した様子のたこ焼…くどいか。北上。
相変わらず変な奴だなと思って見てみると、北上は俺の焼きソバをジッと見つめている。

俺「…俺の昼飯に何か用か?」
北上「良い盛りっぷりだな」
俺「サービスだとさ。旨いぞ、これ」
北上「みたいだな」
509赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/08/08(水) 18:55:07.70 ID:PCSwmOEE0
3/14
北上「俺、実はさ、ちょっと大きな悩みを抱えていてな」
俺「ほぉ」
何だ、何か相談事か。

北上「昼飯を焼きソバにするか、たこ焼きにするか、と」
俺「…それは大変だな」
…まぁ、そんなとこか。

北上「そこに丁度お前が通りかかってな」
俺「…」
北上「颯爽と山盛りの焼きソバを買っていった訳だ」
俺「…」
北上「そして俺は今、同じく山盛りのたこ焼きを買ってここに居る――」
俺「分かった分かった」

お互いのものを仲良く半分分け合い、並んで昼飯を食べる。
傍目には、男同士で気持ち悪いとか思われそうだ。

北上「――ふぅ。で、本題だ」
ものの数分でそれらを食い尽くしたところで、北上が言う。

俺「本題?」
北上「本当の悩みはこっちなんだよ」
俺「へぇ…」
北上「俺は今、世の多くの人間が悩むであろう、人生の命題とも言える問題を抱えていてな」
俺「…何だよ」
北上「愛だよ、愛」

…またか。
510赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/08/08(水) 18:56:36.39 ID:PCSwmOEE0
4/14
北上「お前今、またか、と思ったろ」
俺「すごいな、鋭いじゃないか」
北上「俺も成長しているのさ…」

色々ツッコミたいが、まぁ良いか。

北上「話は他でもない、神尾さんのことなんだ」

俺が「またか」と思い、北上もそう思うであろうと想像できるくらい、この話はよく聞いている。
このまま友達としているだけでいいのか、友達から恋人になるきっかけ、条件、男女の友情云々。
まぁ確かに、今の関係を考えると悩みは尽きないだろうなとは思う。

少し前に、俺−古乃羽−神尾さんの繋がりを使って、古乃羽から北上を推すようにお願いしようかと提案したことがある。
だが、北上はスパッとそれを断ってきた。
「何だか姑息で嫌だ」と言って。

自分の力で何とかしたいらしく、なかなか男らしいなと思ったのだが…
最近、悩み事の相談回数が増えているのも事実だったりする。

俺「で、今日は何かね?北上君」
北上「今日のは、いつもよりヤバ目なんだ」
俺「ほぉ」
511赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/08/08(水) 18:58:34.08 ID:PCSwmOEE0
5/14
相談の内容は、神尾さんの"人気"についてだった。

同じ学科、違う学科問わず、同期は勿論、先輩や後輩、教授や助教授。
彼女の性格の良さと顔の広さ、「現在フリー」というステータスもあって、あらゆる男性(女性も、らしい)が狙っているという話だ。

しかしまぁ…これについての答えはもう出ている。
それは北上も分かっているだろう。

誰が彼女に近付こうとも、北上がするべきことは変わらない。
問題は彼女の気持ち1つだ。
ライバルが居たからダメでしたというのなら、元々上手くいくものでもないだろうし、
先を越されるという心配ならむしろ逆で、今最も彼女に"近い"のは北上に間違いない。

俺「神尾さんの好みは置いておいて、相性ならピッタリだと思うけどな」
北上「あぁ。自分で言うのも何だが、俺もそう思っている」

本当に、自分で言うのも何だがな事だ。

北上「お前と鮎川さんもピッタリだよな。霊感もあるし」
俺「おかげさまで」
古乃羽と出会えたのは北上のお陰だ。その点はとても感謝している。

北上「しかしお前が霊感持ちとは、ずっと気付かなかったなぁ」
それなりに長い付き合いの俺たち。だが…

俺「それだけど、古乃羽と会うまでは何もなかったと思うんだ」
北上「ん?」
512赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/08/08(水) 18:59:44.42 ID:PCSwmOEE0
6/14
北上「霊感のことか?」
俺「そ。俺も古乃羽も、お互いに会うまで持ってなかったと思うよ」
北上「へぇ…何でだ?」

俺「姉貴に聞いたんだが――」
…我ながら、俺の話には姉貴の受け売りが多い。

俺「霊感の有無には素質があって、俺たちはきっかけを待っている状態だったみたいでな」
北上「ほぉ」
俺「で、そのきっかけとなるもので一番多いのが"出会い"らしく、それで…ってことらしいよ」
北上「…運命の出会いってやつか」
俺「そういう言い方もあるかな?」
運命というのも、ちょっと仰々しい気がするが。

北上「でも、お前はお姉さんの事もあるから何となく分かるけど、鮎川さんもなんだな」
俺「そういった素質みたいのは、誰にでもあるんじゃないか?」
北上「俺にはなさそうだけどな…」
俺「…だな」

実は姉貴からは、古乃羽は”血筋”のため、俺より素質があったということも聞いていた。
しかしそれを北上に話すのは止めておいた。
たとえ相手が神尾さんでも、話すつもりはない。

彼女の秘密――というと大げさかもしれないが、その家の秘密めいたことを勝手に話すことに抵抗があるからだ。
それと、ひょっとすると古乃羽自身がその事を知らない可能性もある。
…いや、彼女の様子からすると恐らく知らないだろう。

それを何故姉貴が知っているのか、不思議ではあるが…
少なくとも古乃羽が自分から話してくるまで、この事は黙っていようと思っている。
513赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/08/08(水) 19:01:56.47 ID:PCSwmOEE0
7/14
俺「さ、ってと」
話が終わったところで、俺はベンチから立ち上がる。

北上「お帰りか?」
俺「そうだなぁ…目ぼしいところは大体行ったし。そっちは?」
北上「俺はもうちょっと顔を出していくよ」
神尾さんに負けず劣らず、北上も知り合いが多い。

北上「明日も来るか?」
よいしょと立ち上がりながら北上が言う。
学祭は明後日の金曜までやっている訳で、こいつもきっと暇なのだろうが…

俺「あー…明日からちょっと遠出の予定でな」
北上「ほぉ?どこに?」
俺「A県」
北上「…そらまた遠いな。遥か北まで1人旅か?」
俺「いや――」

実は、姉貴に呼ばれたのだ。
「明日の夜、迎えに来てほしい」と。

昨日の晩に連絡が来て、わざわざ迎えが必要な理由も、なぜそこに居るのかも、一応聞いてみたが説明は無かった。
まぁ、実は何となく察しはついているのだが…行った先で話を聞けば良いと、俺はこの時そう考えていた。

…それと頭の片隅で、古乃羽の故郷とは逆方向だなと、何となく思っていた。
514赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/08/08(水) 19:04:45.43 ID:PCSwmOEE0
8/14
――
私「しっかし、祟りとはねぇ…」

古乃羽のお婆さんと話をした後、私たちは再び外出。
目的地は――杵島の家の近くにあるという、一乃守。
お婆さんに場所を教えてもらい、2人で行ってみることにしたのだ。

古乃羽「ちょっと穏やかじゃないよね」
私「ほーんと」

祟り云々と言われたのに、何で行くの?
と思うかも知れないが、言われたからこそ、というのもある。

…別に、自ら危険に飛び込もうという訳ではない。
お婆さんの話では、祟りと言ったものの、今まで特に何かが起こったことはないそうだ。
お婆さん自身もあれこれ調べたらしいし、地元の子供なんかも平気で近付いているとのこと。
「古くなって危ないから、そんな風に言ったのじゃないか」というのが、お婆さんの見解だけど…

私「確かに古いけど、それで危ないことなんかないよねぇ」
ある日突然崩れたとしても、近くに居たらちょっと擦り傷ができるかなくらいのものだ。
515赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/08/08(水) 19:06:16.78 ID:PCSwmOEE0
9/14
そもそも本当に危ないもの――祟りが起きるようなものなら、それこそ放置しておくのもどうかと思う。
山奥にひっそりと佇んでいるという訳ではなく、簡単に目に留まるような場所にあるお社。
何も知らない人が近付く可能性は高いだろうし、好奇心旺盛な子供なら尚更だ。

結局どうにも釈然としなかったので、私たちはもう少し調べてみようと思い、一番近い一乃守に行くことにしたのだった。
そして何かあるにしろ無いにしろ、ここから帰ったらいつものメンツ――雨月君や北上に話してみようかとも思っている。
…勿論、何かあった場合には舞さんにも。

私「あ、あった」

杵島の家の裏手にある、竹林に沿った細い通り。
その道を少し歩いていった所に一乃守はあった。

古乃羽「二乃守と同じだね」
私「うん」
竹林を切り分けて、道に面して佇むお社。
土台を含めた外観も、その傷み方も、二乃守とまったく同じだ。

私「中も同じかな…?」
一乃守と同様、やはり銅鏡が置いてあるのかなと思い、お社に近付く。
と――

古乃羽「美加」
私「ん?」

不意に古乃羽に呼び止められる。
516赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/08/08(水) 19:08:12.87 ID:PCSwmOEE0
10/14
私「何か、危ない?」

二乃守では既に近付いて調べているものの、やっぱり気になるのかな?

古乃羽「そういう訳じゃないけど、何か…」
私「何か変だったら、止めとくよ」
古乃羽「…」

何か感じるところがあるみたいだ。
近付くのはちょっと止めておこうかな?

古乃羽「危ないって感じじゃないのだけど…」
私「何か引っ掛かった?」
古乃羽「うん…何でだろう。二乃守は何ともなかったのに」

得体の知れない感覚なのだろう、不安そうな顔をする古乃羽。

私「まぁ、場所によって違いはあるんじゃない?」
勿論そんなことは分からないけど、思ったことを言ってみる。

古乃羽「そうね…。お婆ちゃんは何も無かったみたいなのになぁ」
私「お婆さん?」
古乃羽「あ、うん。あのね、杵島の家って――」
517赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/08/08(水) 19:10:44.02 ID:PCSwmOEE0
11/14
私「――へぇー」

一乃守を前にして、古乃羽から杵島家の話を聞く。
杵島家の女性に関する…”伝わる”って言ったほうがいいのかな?霊感の話を。

私「古乃羽のそれは、血筋だったのね」
古乃羽「そうみたい。私もずっと知らなかったの」

突然降って湧いたモノ、というものではない訳だ。
元々素質はあって、きっと何かのきっかけで…えーっと、確かあの頃だから…雨月君の影響かな?

私「あぁ、そっか。だから、お婆さんも霊感あるのに、このお社からは何も感じなかった訳で…」
古乃羽「うん」
なるほどなるほど。
古乃羽「油断していたから、びっくりしちゃった」
私「ふふふ、油断大敵ネ」

…古乃羽、変わったな、と思う。
昔の古乃羽だったら、きっとそうは思わなかっただろう。
「お婆ちゃんに見えなかったものが、自分に見えるわけが無い」と、そんな風に考えていただろうなと思う。

自分に自信が持てないでいた古乃羽。
すっかり成長しちゃって、と、ちょっと眩しく思う。
518赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/08/08(水) 19:13:07.34 ID:PCSwmOEE0
12/14
私「…んで、どんな感じなの?」
危ない訳ではないと言っていたけど、ではどういう事なのだろう。

古乃羽「うーん…」
ちょっと困ったような顔をする古乃羽。

昔から、古乃羽の困り顔は可愛いなと思っている。
実は密かに真似てみようとしたけれど、私には無理だったという悲しい過去があったり…何てことは、ともかく。

私「複雑そう?」
古乃羽「そうじゃないのだけど、意味が分からなくて」
私「意味とな」

古乃羽「うん。何て言うか…悪いことをしたみたいな、罪悪感があるの」

私「ザイアクカン?」
何だか意外なものが出てきた。

古乃羽「うん。変でしょ?」
私「…」

町の全ての入口にあるお社。
昔は町――当時は村かな?を、守っていたもの。
でも今は近付くと祟られると言われ、放置され…そこからは罪悪感が伝わってくる。

うーん、サッパリだ。
519赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/08/08(水) 19:15:51.81 ID:PCSwmOEE0
13/14
適当な話ならいくらでも考えられるけど、分からないことだらけで何ともだ。
例えば…このお社はいつ作られたのか。何年前のものなのか。

古乃羽のお婆さんが小さい頃からあったということは、少なくとも50年以上前だろうけど…
このお社が作られて放置されるようになって、この有様になるまで。
その期間がどれくらいなのか想像も出来ない。
記念碑みたいに、どこかに施工した年とか書いて…

私「…あったりして」

古乃羽「ん?」
私「近付いても危なくはない、よね?」
古乃羽「うん」
ヨシヨシと思いながらお社に近付き、その土台の石を調べてみる。
書いてあるとしたらこの辺りだろう。

古乃羽「何か探しているの?」
私「うーん、ほら、施工年とか書いて無いかなぁって…」
古乃羽「あぁ…、あるかな?」
と言いながら、古乃羽も一緒に探してくれる。

土台の裏側を調べるには竹林に入らないといけないので、取りあえず表側と側面の見えるところだけを探してみる。
すると――

私「あった…」
腰を落として土台の側面、下段を見てみると、意外なことに施工年らしきものが刻まれていた。
520赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/08/08(水) 19:18:20.38 ID:PCSwmOEE0
14/14
私「えーっと、17…85…?うわ、古っ…」
まさか本当に見つかるとは思っていなかったけど、それよりも予想以上の古さに驚く。

古乃羽「歴史がある、って言いなさいよ」
私「えへへ…そうね」
でも古いものは古いもん。

古乃羽「1785年だと、江戸時代ね」
私「そうなんだ。天明って書いてあったよ」
よいしょと立ち上がりながら古乃羽に言う。

私「何かあった年だったりして」
古乃羽「さぁ…帰って調べてみようか?」
私「だね――」

声「教えてあげましょうか?」

突然背後から聞こえた声に、え?と思いながら2人で振り向く。

するとそこには――

――舞さん?

…いや、違う。

似ているけど違う、1人の女の人が立っていた。



521本当にあった怖い名無し:2012/08/08(水) 19:52:32.56 ID:f5k7zNHo0
赤緑乙
だいぶこなれてきたね
522本当にあった怖い名無し:2012/08/09(木) 05:13:29.74 ID:hEeu6/gDO
赤緑乙
523本当にあった怖い名無し:2012/08/10(金) 16:43:56.56 ID:cDRLUWwG0
萌えないラノベとか誰得なの?
524本当にあった怖い名無し:2012/08/10(金) 22:34:58.86 ID:CwunwRND0
赤緑って一切話の内容には触れてもらえないよねww
こんだけ続けてもブログなどに転載されることも一切無い。
ほんと、ここの数人の住人に「乙」と言われるだけ。
525本当にあった怖い名無し:2012/08/10(金) 23:59:43.88 ID:/MRXvhjT0
otu
526本当にあった怖い名無し:2012/08/11(土) 05:55:56.45 ID:eC52NG2h0
>>1も読めない馬鹿が湧いてるな
とりあえず赤緑乙
527本当にあった怖い名無し:2012/08/12(日) 12:48:44.95 ID:OukAvGY30
なるべく、という日本語も理解できず、話の内容が語れない免罪符にしてる馬鹿が湧いてるな
528本当にあった怖い名無し:2012/08/13(月) 18:48:00.15 ID:RfahyL+S0
韓国も馬鹿極まれりって感じだな
こっちとしては躊躇することなく、各国各状況でそのアイデンティティを惜しみなく開放してくれと思うが
529本当にあった怖い名無し:2012/08/13(月) 19:07:58.49 ID:GjWSZeE20
>>527
お前こそ日本語勉強したら?wwwww
免罪符ってwww
ちゃんと意味理解して使おうねwwwゆとり君wwwww


免wwwwww罪wwwwwwww符wwwwwwwwwwプッ
530本当にあった怖い名無し:2012/08/13(月) 21:07:17.15 ID:cvsrPTFM0
え?普通に免罪符の使い方としては問題ないと思うけど
何が間違ってるのか説明してよ
531本当にあった怖い名無し:2012/08/14(火) 08:36:40.63 ID:b6K1E9CF0
投下された話に感想レスを入れない、ってのは罪なのか?って事だよ
突っかかる前に辞書でも引いたら?
532本当にあった怖い名無し:2012/08/14(火) 11:29:39.44 ID:nQ9AHpFh0
ウニさん待ちです
533本当にあった怖い名無し:2012/08/14(火) 13:11:31.65 ID:g3Lwcn8s0
新シリーズ待ちです
534本当にあった怖い名無し:2012/08/14(火) 16:07:41.98 ID:fHWFKLVv0
おk
535本当にあった怖い名無し:2012/08/14(火) 21:30:07.66 ID:/HzX/Osc0
俺は幸いなことに霊感がまったくないけど
それでも今までの人生で一度か二度くらいは不思議なちょっと怖い体験をしたことがある

霊感持ってて普段から幽霊を見たり悪霊に絡まれたりする人は大変だろうなぁ
536本当にあった怖い名無し:2012/08/15(水) 00:02:18.91 ID:r/tjq57n0
なんだいつもの人か
537本当にあった怖い名無し:2012/08/16(木) 08:39:53.62 ID:N0gCncWl0
おk
538本当にあった怖い名無し:2012/08/16(木) 12:20:50.19 ID:bebBlPEx0
>>531
アホw
539本当にあった怖い名無し:2012/08/16(木) 14:55:43.32 ID:ZRvcNxNL0
>>538
アホはお前だろ
恥の上塗り乙www
540本当にあった怖い名無し:2012/08/17(金) 23:11:21.85 ID:l5AHNL+R0
いやいや、普通に使い方としては間違ってないよ
541連想T  ◆oJUBn2VTGE :2012/08/18(土) 22:32:27.18 ID:qKV0Rmwv0
師匠から聞いた話だ。



「二年くらい前だったかな。ある旧家のお嬢さんからの依頼で、その家に行ったことがあってな」
オイルランプが照らす暗闇の中、加奈子さんが囁くように口を動かす。
「その家はかなり大きな敷地の真ん中に本宅があって、そこで家族五人と住み込みの家政婦一人の計六人が暮してたんだ。家族構成は、まず依頼人の真奈美さん。
彼女は二十六歳で、家事手伝いをしていた。それから妹の貴子さんは大学生。あとお父さんとお母さん、それに八十過ぎのおばあちゃんがいた。
敷地内にはけっこう大きな離れもあったんだけど、昔よりも家族が減ったせいで物置としてしか使っていないらしかった。その一帯の地主の一族でね。
一家の大黒柱のお父さんは今や普通の勤め人だったし、先祖伝来の土地だけは売るほどあるけど生活自体はそれほど裕福というわけでもなかったみたいだ。
その敷地の隅は駐車場になってて、車が四台も置けるスペースがあった。今はそんな更地だけど、戦前にはその一角にも屋敷の一部が伸びていた」
蔵がね……
あったんだ。
ランプの明かりが一瞬、ゆらりと身をくねらせる。

            ◆

大学二回生の夏だった。
その日僕はオカルト道の師匠である加奈子さんの秘密基地に招かれていた。
郊外の小さな川に面した寂しげな場所に、貸しガレージがいくつも連なっており、その中の一つが師匠の借りているガレージ、すなわち秘密基地だった。
そこには彼女のボロアパートの一室には置けないようなカサ張るものから、別のおどろおどろしい理由で置けない忌まわしいものなど、様々な蒐集品が所狭しと並べられていた。
542連想T  ◆oJUBn2VTGE :2012/08/18(土) 22:34:20.21 ID:qKV0Rmwv0
その量たるや想像以上で、ただの一学生が集めたとは思えないほどだった。興信所のバイトでそこそこ稼いでいるはずなのに、いつも食べるものにも困っているのは明らかにこのコレクションのためだった。
扉の鍵を開けてガレージの中に入る時、師匠は僕にこう言った。「お前、最近お守りをつけてたろ」
「はい」胸元に手をやる。
すると師匠は手のひらを広げて「出せ」と命じた。
「え? どうしてです」
「そんな生半可なものつけてると、逆効果だ」
死ぬぞ。
真顔でそんなことを言うのだ。たかが賃貸ガレージの中に入るだけなのに。僕は息を飲んでお守りを首から外した。
「普通にしてろ」
そう言って扉の奥へ消えて行く師匠の背中を追った。
どぶん。
油の中に全身を沈めたような。
そんな感覚が一瞬だけあり、息が止まった。やがてその粘度の高い空間は、様々に折り重なった濃密な気配によって形作られていると気づく。
見られている。そう直感する。
真夜中の一時を回ったころだった。ガレージの中には僕と師匠以外、誰もいない。それでもその暗闇の中に、無数の視線が交差している。
例えば、師匠の取り出した古いオイルランプの明かりに浮かび上がる、大きな柱時計の中から。綺麗な刺繍を施された一つの袋を描いただけの絵から。あるいは、両目を刳り貫かれたグロテスクな骨格標本からも。
「まあ座れ」
ガレージの中央にわずかにあいたスペースにソファが置かれている。師匠はそこを指さし、自身はそのすぐそばにあった真っ黒な西洋風の墓石の上に片膝を立てて腰掛けた。墓石の表面には、人の名前らしき横文字が全体を覆い尽くさんばかりにびっしりと彫り込まれている。
どれもこれも、ただごとではなかった。このガレージの中のものはすべて。どろどろとした気配が、粘性の気流となって僕らの周囲を回っている。
543連想T  ◆oJUBn2VTGE :2012/08/18(土) 22:37:03.36 ID:qKV0Rmwv0
師匠がこの中から、世にも恐ろしい謂れを持つ古い仮面を出してきたのはつい先日のことだった。
あんな怖すぎるものが、他にもたくさんあるのだろうか。
恐る恐るそう訊いてみると、師匠は「そういや、言ってなかったな」と呟いて背後に腕を伸ばし、一つの木箱を引っ張り出した。見覚えがある。その古い仮面を収めていた箱だ。
もうあんな恐ろしいものを見たくなかった僕は咄嗟に身構えた。しかし師匠は妙に嬉しそうに木箱の封印を解き、その中身をランプの明かりにかざす。
「見ろよ」
その言葉に、僕の目は釘付けになる。箱の中の仮面はその鼻のあたりを中心に、こなごなに砕かれていた。
「凄いだろ」
なぜ嬉しそうなのか分からない。「洒落になってないですよ」ようやくそう口にすると、「そうだな」と言ってまた木箱の蓋を戻す。
師匠自身が『国宝級に祟り神すぎる』と評したモノが壊れた。いや、自壊するはずもない。壊されたのだ。鍵の掛かったガレージの中で。一体なにが起こったのか分からないが、ただごとではないはずだった。
「これと相打ち、いやひょっとして一方的に破壊するような何かが、この街にいるってことだ」
怖いねえ。
師匠はそう言って笑った。そして箱を戻すと、気を取りなおしたように「さあ。なにか楽しい話でもしよう」楽しげに笑う。
それからいくつかの体験談を語り始めたのだ。もちろん怪談じみた話ばかりだ。
最初の話は興信所のバイトで引き受けた、ある旧家の蔵にまつわる奇妙な出来事についてだった。

            ◆

かつて、本宅とその脇に立つ大きな土蔵との間には二つの通路があった。一つは本宅の玄関横から土蔵の扉までの間の六間(ろっけん)ほどの石畳。
544連想T  ◆oJUBn2VTGE :2012/08/18(土) 22:40:30.83 ID:qKV0Rmwv0
そしてもう一つは本宅の地下から土蔵の地下へと伸びる、同じ距離の狭く暗い廊下。
何故二つの道を作る必要があったのかは昭和に暦が変わった時点ですでに分からなくなっていた。
ただかつて土蔵の地下には座敷牢があり、そこへ至る手段は本宅の地下にあった当主の部屋の秘密の扉だけだったと、そんな噂が一族の間には囁かれていた。
「あながち嘘じゃないと思うがな」
真奈美の父はよくそんなことを言って一人で頷いていた。
「あそこにはなんだか異様な雰囲気があるよ」
家族の中で、土蔵の地下へ平気で足を踏み入れるのは祖父だけだった。
かつて当主の部屋があったという本宅の地下も、今やめったに使うことのないものばかりを押し込めた物置になっている。
その埃を被った家具類に覆い隠されるように土蔵の地下へと続く通路がひっそりと暗い口を開けていた。
そこを通り抜けると、最後は鉄製の門扉が待っていて、錆びて酷い音を立てるそれを押し開けると、再び様々な物が所狭しと積み重ねられた空間に至る。
座敷牢があった、とされるその場所も今では物置きとして使われていた。ただ、本宅の地下と違い、本来蔵に納められるべき、古い家伝の骨董品などが置かれていたのだ。
土蔵の地上部分は戦時中の失火により焼け落ち、再建もせずにそのまま更地にしてしまっていた。
元々構造が違ったためか、地下は炎の災禍を免れ、そして地上部分に保管されていた物を、すでにその時使われていなかったその地下に移し変えたのだった。
一階部分が失われ、駐車場にするため舗装で塗り固められてしまったがために、その地下の土蔵に出入りするには、本宅の地下から六間の狭い通路を通る以外に道はなかった。
真奈美の祖父はその地下の土蔵を好み、いつも一人でそこに篭っては、燭台の明かりを頼りに古い書物を読んだり、書き物をしたりしていた。
真奈美はその土蔵が怖かった。父の言う、『異様な雰囲気』は確かに感じられたし、土蔵へ至るまでの暗く狭い通路も嫌で堪らなかった。
距離にしてわずか十メートルほどのはずだったが、時にそれが長く感じることがあった。途中で通路が二回、稲妻のように折れており、先が見通せない構造になっているのが、余計に不安を掻き立てた。
545連想T  ◆oJUBn2VTGE :2012/08/18(土) 22:44:11.83 ID:qKV0Rmwv0
本宅から向かうと、まず右に折れ、すぐに左に折れるはずだった。しかし、一族の歴史の暗部に折り重なる、煤や埃が充満したその通路は、真奈美の幼心に幻想のような記憶を植え付けていた。
右に折れ、左に折れ、次にまた右に折れる。
ないはずの角がひとつ、どこからともなく現れていた。
怖くなって引き返そうとしたら、行き止まりから右へ通路は曲がっていた。さっき右に折れたばかりなのに、戻ろうとすると、逆向きになっているのだ。
その時、どうやって外へ出たのか。何故か覚えてはいなかった。
そればかりではない。たった十メートルの通路を通り抜けるのに、十分以上の時間が経っていたこともあった。幼いころの記憶とは言え、そんなことは一度や二度ではなかった。
そんな恐ろしい道を潜って、何故土蔵へ向かうのか。それは祖父がそこにいたからだ。真奈美はその変わり者の祖父が好きで、地下の土蔵で読書をしているのを邪魔しては、お話をせがんだり、お菓子をせがんだりした。
祖父も嫌な顔一つせず、むしろ相好を崩して幼い真奈美の相手をしてくれた。
その祖父は真奈美が小学校五年生の時に死んだ。胃癌だった。
死ぬ間際、もはやモルヒネも効かない疼痛の中、祖父がうわ言のように願ったのは、自分の骨をあの地下の土蔵に納めてくれ、というものだった。
祖父が死に、残された親族で相談した結果、祖父の身体は荼毘に付した後、先祖代々の墓に入った。ただ、その骨のひと欠片を小さな壷に納めて土蔵の奥にひっそりと仕舞ったのだった。
それ以来、土蔵の地下はよほどのことがない限り家族の誰一人として足を踏み入れない、死せる空間となった。
先祖代々伝わる書物や骨董品の類は、それらすべてが祖父の死の副葬品となったかのように、暗い蔵の中で眠っている。
墳墓。
そんな言葉が思い浮かぶ場所だった。

祖父の死から十五年が経った。
その日、真奈美は半年ぶりにその地下の土蔵へ足を運ぶ羽目になっていた。叔父が、電話でどうしてもと頼むので仕方なくだ。
546連想T  ◆oJUBn2VTGE :2012/08/18(土) 22:48:08.39 ID:qKV0Rmwv0
どうやら何かのテレビ番組で、江戸時代のある大家の作った茶壷が高値で落札されているのを見たらしい。
その茶壷とそっくりなものを、昔その土蔵で見たことがある気がするというのだ。
今は県外に住んでいる叔父は、お金に意地汚いところがあり真奈美は好きではなかったのだが、とにかくその茶壷がもし大家の作ったものだったとしたら親族会議モノだから、とりあえず探してくれ、と一方的に言うのだ。
親族会議もなにも、家を出た叔父になんの権利があるのか、と憤ったが、父に言うと「どうせそんな凄い壷なんてないよ。あいつも勘違いだと分かったら気が済むだろう」と笑うのだ。
それで真奈美は土蔵へ茶壷を探しに行かされることになったのだった。
本宅の地下に降り、黄色い電燈に照らされた畳敷きの部屋を通って、その奥にある小さな出入り口に身体を滑り込ませる。
そこから通常の半分程度の長さの階段がさらに地下へ伸びており、降りた先に土蔵へと伸びる通路があった。饐えたような空気の流れが鼻腔に微かに感じられる。
手探りで電燈のスイッチを探す。指先に触ったものを押し込むと、ジン……という音とともに白熱灯の光が天井からのそりと広がった。
壁を漆喰で固められた薄暗い通路は、なにかひんやりとしたものが足元から上ってくるようで薄気味悪かった。かつてはランプや手燭を明かりにしてここを通ったそうだが、今では安全のために電気を通している。
だが湿気がいけないのか、白熱灯の玉がよく切れた。そのたびに父や自分が懐中電灯を手に、薄気味悪い思いをしながら玉の交換をしたものだった。
今も真奈美の頭上で、白熱灯のフィラメントがまばたきをしている。
いやだ。まただわ。戻ったら、父に直してもらうように言わなければ……
今の家政婦の千鶴子さんは、どうしてもこの地下の通路には入りたくない、と言ってはばからなかった。
『わたし、昔から霊感が強いたちでして、あそこだけはなんだかゾッとしますのよ』
そう言って身震いしてみせるのだ。おかげでこの通路とその先の土蔵の最低限の掃除は家族が交代でやることになっていた。
547本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 22:49:15.10 ID:zqKEtHipP
ウニさんきたああああ
支援!
548連想T  ◆oJUBn2VTGE :2012/08/18(土) 22:50:37.18 ID:qKV0Rmwv0
頼りなくまたたいている明かりの下、最初の曲がり角を越えると土蔵の入り口が見えた。そろそろと歩み寄り、小さな鉄製の扉を手前に引く。
きぃ……
耳障りな音がして、同時に真っ暗な扉の奥からどこか生ぬるい?
549連想T  ◆oJUBn2VTGE :2012/08/18(土) 22:54:48.74 ID:qKV0Rmwv0
頼りなくまたたいている明かりの下、最初の曲がり角を越えると土蔵の入り口が見えた。そろそろと歩み寄り、小さな鉄製の扉を手前に引く。
きぃ……
耳障りな音がして、同時に真っ暗な扉の奥からどこか生ぬるいような空気が漏れ出てくる。扉は狭く、それほど大柄でもない真奈美でも、身を屈めないと入ることが出来ない。
真奈美は身体を半分だけ扉の中に入れ、腕を回りこませて壁際を探る。白熱灯の光が、暗かった土蔵の中に広がった。ホッと人心地がつく。
もはやそれを手に取る主のいない骨董品や古民具の類が、四方の壁に並べられた棚や箪笥の上にひっそりと置かれている。
本当に値打ちのあるものは終戦の前後に処分したと聞いているので、今残っているのはそれを代々受け継いできた自分たちの一族にしか価値のないもののはずだった。
真奈美は懐から写真を取り出す。ご丁寧にも叔父が、くだんの茶壷が紹介された雑誌の切抜きを送ってきたのだった。
それと見比べながら、壷などが並べられている一角を往復していると、どうやらこのことらしい、というものを見つけることが出来た。
なるほど、形や色合いは確かに似ている。しかし手に取ってみるとやけに軽く、まじまじと表面を眺めると造作も安っぽく思われた。
やはり叔父の思い違いだ。そう思うと少し楽しくなった。
茶壷を片手に、唯一の出入り口へ向かう。狭い扉をなんとか潜ると、一瞬心の中が冷えた気がした。
通路の白熱灯が切れている。
漆喰に囲まれた道の先が闇に飲まれるように見通せなくなっている。消そうとした土蔵の中の明かりはつけたままにしたが、それでも小さな扉から漏れてくる光はあまりにか細かった。
いやだ。
ここが地の底なのだということを思い出してしまった。こんな時のために土蔵の中に懐中電灯を置いてなかっただろうか。振り返って探しに戻ろうかと思ったが、面倒な気がして止めた。
たかだか十メートルていどの通路だ。障害物もない一本道だし、自分ももう子どもではないのだから、なにをそんなに怖がることがあるだろう。
550連想T  ◆oJUBn2VTGE :2012/08/18(土) 22:57:27.58 ID:qKV0Rmwv0
我知らず自分にそう言い聞かせ、真奈美は茶壷を胸に抱えて進み始めた。静かだ。耳の奥に静寂が甲高い音を立てている。
ほんの数メートル歩くと曲がり角があった。そこを右に曲がると、今度はすぐに左へ折れる。そこから先は直進するだけで元の入り口だ。けれど、そっと覗いたその先は光の届かない真っ暗闇だった。
ぞくりと肌が粟立つ。
口元が強張りそうになるのを必死で抑え、なるべく自然な歩調で前へ進んだ。左手を壁に沿わせながら、真っ直ぐに。
なんてことはない。なんてことはない。暗くたって大丈夫。
ほら。すぐに元の入り口だ。

ドシン

え……
ぶつかった。
誰かに。うそ。
全身に寒気が走った。
暗くて何も見えない。そこに誰がいるのかも分からない。
気配だけが通り過ぎていく。土蔵の方へ向かっているようだ。
真奈美はその場に根を張りそうだった足を叱咤して、小走りに入り口の階段の下まで進んだ。
そこまで来ると、頭上から微かな明かりが漏れてきていた。茶壷を抱えたまま階段を上り、ようやく物置部屋まで戻ってきた。
ここもまだ地下なのだと思うと、後ろも振り返らずに部屋を横断して一階へ上がる階段を駆けのぼった。
階段を上がった先にある居間では、父と母がテーブルを囲んでお茶を飲んでいた。
「お。あったか。お宝が」
こちらを見ながら、のん気そうに父がそう言った。
「ねえ、ここ今誰か降りてった?」
真奈美が早口にそう訊くと、父と母は怪訝そうな顔をしてかぶりを振った。
「貴子は?」続けて訊こうとしたが、隣の部屋からテレビの音とともに、その妹の笑い声が聞えてきた。
551連想T  ◆oJUBn2VTGE :2012/08/18(土) 23:06:34.39 ID:qKV0Rmwv0
悪寒がする。
家政婦の千鶴子さんは今日は来ない日だ。そして祖母は風邪を引いて一昨日から入院中だった。いつものことで、大した風邪ではないのだが。
ではさっき地下の通路でぶつかったのは誰なのか。
「ちょっと、気持ち悪いこと言わないでよ」
母が頬を引きつらせながら、無理に笑った。
「泥棒か?」
父が気色ばんで椅子から立ち上がろうとしたが、母が困ったように半笑いをしながらそれを諌める。
「ちょっと、お父さんも。わたしたち、ずっとここにいたじゃない」
そうして地下の物置へ降りる階段を指さす。
そうだ。物置には他に出入り口はない。父と母がずっといたこの居間からしか。その二人が見ていないのだ。誰も降りられたはずはない。ではさっき暗闇の中でぶつかったのは誰なのだ。
誤って壁にぶつかったのではない。壁にはしっかりと左手をついて歩いていたのだから。
震えてしゃがみ込んだ真奈美の背中を母がさすり、父は騒ぎを聞きつけて居間にやってきた貴子と二人で懐中電灯を手に地下に降りていった。
結局、小一時間ほど地下の物置と通路、そしてその先の土蔵をしらみつぶしに探索したが、異変はなにも見つからなかった。家族以外の誰かがいたような痕跡も。
最後に地下通路の白熱灯の玉を交換してきた父が、疲れたような表情で居間に戻ってくると家族四人がテーブルに顔をつき合わせて座った。
そして沈黙に耐えられなくなったように、妹の貴子が口を開いた。
「実はあたしもぶつかったこと、ある」
驚いた。さっき起きたことと全く同じような出来事が二年ほど前にあったと言うのだ。妹の場合は何の前触れもなく地下の明かりが消え、手探りで通路を引き返そうとしたら、得体の知れない『なにか』に肩が触れたのだと。
552連想T  ◆oJUBn2VTGE :2012/08/18(土) 23:10:19.67 ID:qKV0Rmwv0
さらに驚いたことに、それから父と母も気持ちが悪そうにしながら、それぞれ似た体験をした話を続けた。数年前の話だ。
みんな気のせいだと思い込むようにしていたのだった。そんなことがあるわけはないと。しかしこうして家族が誰も同じ体験をしていると知った今、ただの気のせいで済むはずはなった。
「お祓い、してもらった方がいいかしら」
母がおずおずとそう切り出すと、父が「なにを馬鹿な」と怒りかけ、しかしその勢いもあっさりとしぼんだ。みんな自分の身に起きた体験を思い出し、背筋を冷たくさせていた。
そんな中、妹の貴子がぽつりと言った。
「おじいちゃんじゃないかな」
「え?」
「いや、だから、あそこにいたの、おじいちゃんじゃないかな」
地下の暗闇の中でぶつかったのは十五年前に死んだ祖父ではないかと言うのだ。
その言葉を聞いた瞬間、父と母の顔が明るくなった。
そのくせ口調はしんみりとしながら、「そうね。おじいちゃんかも知れないわね」「そうか。親父かも知れないな。親父は土蔵のヌシだったからな」と頷き合っている。
確かに祖父はあの土蔵が第二の家だと言っても過言ではないほどそこへ入り浸っていたし、死んだ後は自分の骨もそこへ葬ってくれと願ったのだ。
そして実際に遺骨の一部は小さな骨壷に納められて土蔵の隅に眠っている。
「おじいちゃんか」
真奈美もそう呟いてみる。皺だらけの懐かしい顔が脳裏に浮かんだ。
そして祖父との思い出の断片がさらさらと自然に蘇ってくる。
「おじいちゃん……」貴子が涙ぐみながら笑った。
幽霊を恐ろしいと思う気持ちより、優しかった祖父の魂が今もそこにいるのだと思う、やわらかな気持ちの方が勝っていたのだった。さっきまでの凍りついたような空気がほんのりと暖かくなった気がした。
しかし。
祖父の思い出を語り始めた父と母と妹を尻目に、真奈美は自分の中に蘇った奇妙な記憶に意識を囚われていた。
553本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:10:59.97 ID:5I6P4YxX0
「私メリーさんの後ろの人の後ろにいるの」
554本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:11:20.89 ID:5I6P4YxX0
「私メリーさん。メリーさんのうしろにいる人のうしろにいるのは誰なの?」
555本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:11:53.54 ID:5I6P4YxX0
「私クラインのメリーさん。メリーさんはメリーさんからいでてメリーさんに終わるの」
556本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:12:20.44 ID:5I6P4YxX0
「私メリーさん。電話を着信拒否にされてから二日が経ちました。そろそろここから動きたいです。」
557連想T  ◆oJUBn2VTGE :2012/08/18(土) 23:12:25.00 ID:qKV0Rmwv0
あれは真奈美がまだ小学校に上がったばかりのころ。いつものように祖父に本を読んでもらおうと、あの薄暗い地下の道を通って土蔵へやってきた時のことだ。
文机に向かって古文書のようなものを熱心に読んでいた祖父が、真奈美に気づいて顔を上げた。そして手招きをしてかわいい孫を膝の上に座らせ、あやすように身体を揺すりながらぽつりと言った。
『誰かにぶつからなかったかい?』
幼い真奈美は顔を祖父の顔を見上げ、そこに不可解な表情を見た。頬は緩んで笑っているのに、目は凍りついたように見開かれている。
『ぶつかるって、だれに?』
真奈美はこわごわとそう訊き返した。
祖父は孫を見下ろしながら薄い氷を吐くように、そっと囁いた。
『誰だかわからない誰かにだよ……』

           ◆

オイルランプの明かりに照らされ、加奈子さんの顔が闇の中に浮かんでいる。黒い墓石の上に腰掛けたまま、足をぶらぶらと前後に揺らしながら。
「それで真奈美さんは我が小川調査事務所に依頼したわけだ。人づてに、『オバケ』の専門家がいるって聞いて」
「どんな、依頼なんです」
「調査に決まってるだろう。その誰だかわからない誰かが、誰なのかってことをだ」
加奈子さんは背後の木箱の中から黒い厚手の布を取り出し、ランプの上に被せた。その瞬間、辺りが完全な暗闇に覆われる。
締め切られたガレージの中は、夜の中に作られた夜のようだ。
うつろに声だけが響く。
「昔の飛行機乗りは、ファントムロックってやつを恐れたらしい。機体が雲の中に入ると一気に視界が利かなくなる。でもしょせん雲は微小な水滴の塊だ。
その中で、『なにか』にぶつかることなんてない。ないはずなのに、怖いんだ。見えないってことは。
558本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:12:54.98 ID:5I6P4YxX0
「わたしメリーさん。携帯止められたの」
559本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:13:49.29 ID:5I6P4YxX0
メリー「マッドガッサーさんも素敵なの」
そう言って誉めてくれた
嬉しくてしょうがない
あまりにも嬉し過ぎて死んでもいいくらいだ

するとメリーはマッドガッサーに
メリー「マッドガッサーさんにお願いがあるの?」

マッドガッサー「ん?なんだい?」
と、何時もより凛々しい顔で返事をする

メリーは照れながらマッドガッサーの耳元でゴニョゴニョと話しだす

すると…

マッドガッサー「あああああああああああああああああああーーー!!!!!!!!!!」

私は我慢出来なくなっていた…

メリーが欲しかった
メリーを自分の者にしたかった
足の爪先から、髪の毛一本残さず自分の者にしたかった
メリーが愛しくなっていた
メリーさえ手に入れられれば何も要らなかった

我を失い我が夢中で叫び、走り続けた

商店街の入り口まで走り続けていた…

誰も居ない真っ暗な商店街
朝や夕日が落ちるまでの時間、人で賑わっているが、全ての店が閉まり誰もが寝静まっている時は、まるでゴーストタウンの様子……
しかし、真っ暗で不気味な商店街の中に1人、誰かが立っていた
560本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:14:27.77 ID:5I6P4YxX0
メリーだった

マッドガッサーはメリーの所まで一歩一歩と歩み寄る
しかし、メリーは逃げるように走って行ってしまった
メリーさん「私を掴まえて欲しいの…掴まえられたら付き合ってあげるの…」
と、一言マッドガッサーに告げて…

それを聞いたマッドガッサーも走ってメリーを追う

マッドガッサー「はぁ…はぁ…はぁ…」

メリーを追いかけながら暫く走っていると何かに気がついた

マッドガッサー「(遠回りしながらアパートに戻ってる!?…いや、そんなのはどうでもいい。今は愛しきメリーと追いかけっこしてるんだから…)」

マッドガッサーは幸せそうに走っていた
10分後、
マッドガッサー「はぁ…はぁ…はぁ…」
体力的にバテてフラフラになりながらもメリーによる愛と気力でメリーを追っていたマッドガッサー
1先にはメリーがピンピンして立っていた

マッドガッサーは今すぐ愛しきメリーを掴まえ抱きつきたかった
メリーと付き合いたかった
マッドガッサーの目も危なくなってきている
麻薬中毒者というよりメリー中毒者といった方がいいだろう
マッドガッサーがメリーに近づくとメリーはある建物に向かって行く
その建物はマッドガッサーが住む向かい側にある、マンションだった
メリーはそのままマンションへ行ってしまい、マッドガッサーを手招きで誘う
マッドガッサーも誘われるかの如くフラフラとゆっくりと歩きながらマンションへ向かう
メリーはマンションの階段を使い、一階上がると天使の笑みでマッドガッサーを手招きし、また一階上がると笑みで手招きして行った
マッドガッサーの体力は完全底をついており、倒れていてもおかしくない
もう、マッドガッサーはメリーにへの愛の力でどうにかなっていた
561本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:14:49.70 ID:5I6P4YxX0
マッドガッサー「はぁー…はぁー…」

遂にマッドガッサーは屋上まで辿り着きドアを開く、するとメリーは金網の奥に居た
マッドガッサーは何も考えず、メリーの名を呼びながら、無我夢中でメリーに歩んで行く

……真っ逆さまに落ちるまで



マッドガッサー
真BAD END
562本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:15:22.59 ID:5I6P4YxX0
「私メリーさん 今あなたの後ろに居るの」
「近っ、メリーさん近いよ」
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいわ。ところで、何か言う事があるんじゃないかしら」
「えっ」
「何か当たってない?」
「いや、何にも」
「そんなはずないでしょう。こんなに密着してるのに」
「こういう時のお約束ったらアレなんですけど、当たりませんね。 あっ、首に冷たいものが当たt」
563本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:15:42.66 ID:5I6P4YxX0
「私メリーさん。今、鏡の前にいるの。鏡の前にめりーさんがいるの。」
564本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:16:08.43 ID:5I6P4YxX0
ガシャーン。
メリーさんは恐怖のあまり鏡を叩き割った。
565連想T  ◆oJUBn2VTGE :2012/08/18(土) 23:16:29.89 ID:qKV0Rmwv0
白い闇の中で、目に見えない一寸先に自分と愛機の命を奪う危険な物体が浮かんでいるのではないか…… その想像が、熟練の飛行機乗りたちの心を苛むんだ。
その雲の中にある『なにか』がファントムロック、つまり『幻の岩』だ。自転車に乗っていて、目を瞑ったことがあるかい。
見通しのいい一本道で、前から人も車もなにもやってきていない状態で、自転車を漕ぎながら目を閉じるんだ。さっきまで見えていた風景から想像できる、数秒後の道。
絶対に何にもぶつかることはない。ぶつかることなんてないはずなのに、目を閉じたままではいられない。必ず恐怖心が目を開けさせる。人間は、闇の中に『幻の岩』を夢想する生き物なんだ」
くくく、と笑うような声が僕の前方から漏れてくる。
では、その旧家の地下に伸びる古い隧道で起きた出来事は、いったいなんだったのだろうね?
師匠は光の失われたガレージの中でその依頼の顛末を語った。
真奈美さんはそんなことがあった後、地下通路でぶつかったのは死んだ祖父なのだと結論付けた他の家族に、祖父自身もそれを体験したらしいということを告げずにいた。
そして自分以外の家族が旅行などで全員家から出払う日を選んで、小川調査事務所の『オバケ』の専門家である師匠を呼んだのだ。
ここで言う『オバケ』とはこの界隈の興信所業界の隠語であり、不可解で無茶な依頼内容を馬鹿にした表現なのだが、師匠はその呼称を楽しんでいる風だった。
真奈美さんからも「オバケの専門家だと伺いましたが」と言われ、苦笑したという。
ともあれ師匠は真奈美さんの導きで、本宅の地下の物置から地下通路に入り、その奥の土蔵に潜入した。その間、なにか異様な気配を感じたそうだが、何者かの姿を見ることはなかった。
土蔵には代々家に伝わる古文書の類や、真奈美さんの祖父がそれに関して綴った文書が残されていた。今の家族には読める者がいないというその江戸時代の古文書を、師匠は片っ端から読んでいった。
かつてそうしていたという真奈美さんの祖父にならい、一人で土蔵に篭り、燭台の明かりだけを頼りに本を紐解いていったのだ。
そしてその作業にまる一晩を費やして、次の日真奈美さんを呼んだ。
566本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:16:31.29 ID:5I6P4YxX0
メリーさんは思った……。
(わたしってこんなにコワカワイイ顔だったんだ……。例えて言うなら、えーと、なんだっけ。……そう小悪魔よ!小悪魔!)
メリーさんは生まれて初めて鏡を目にしたのだ。


ぼ く の 家 で 。



〜小悪魔メリー〜
567本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:16:53.86 ID:5I6P4YxX0
ヒロヤ「ただいま〜。うぃうぃ〜っとおお!?!?!?」
無残に散らばった鏡。
ヒロヤの脳裏をよぎった2文字。
――どろぼう!!


メリーさんはというと、びっくりして押入れの中に体育座りで隠れていた。
(あ、あれがうわさに聞いてた“鏡”なのね。こわかったー。)
568本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:17:19.69 ID:5I6P4YxX0
ススーっ。
気になったメリーさんは押入れのドアをあけた。
メリーさん「(だれだろう。ちょっとかっこいいかも……ってうわっ!)」

びたん!

メリーさんはヒロヤにみとれてこけた。

ヒロヤ「!!」
569本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:17:26.70 ID:PFMDrunr0
ウニさん支援〜
570本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:17:46.00 ID:5I6P4YxX0
ヒロヤはびっくり。

………………。

沈黙に耐え切れなくなったメリーさんが口をひらいた。
「わ、わたしメリーさん。ぐすっ。今、あなたの目の前にいるのっ。」
ヒロヤは、正直ドキドキした。
571本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:18:35.86 ID:5I6P4YxX0
>>569
俺が支援してんだから良いんだよ
572連想T  ◆oJUBn2VTGE :2012/08/18(土) 23:18:41.95 ID:qKV0Rmwv0
            ◆

「結論から言うと、わかりません」
「わからない、というと……」
「あなたがその先の地下通路でぶつかったという誰かのことです」
文机の前に座ったまま向き直った師匠がそう告げると、真奈美さんは不満そうな顔をした。霊能力者という触れ込みを聞いて依頼をしたのに、あっさりと匙を投げるなんて。そういう言葉を口にしようとした彼女を、師匠は押しとどめた。
「まあわかった部分もあるので、まずそれを聞いてください。これは江戸後期、天保年間に記された当時のこの家の当主の覚え書きです」
師匠はシミだらけの黄色く変色した書物を掲げて見せた。
「これによると、彼の二代前の当主であった祖父には息子が三人おり、そのうちの次男が家督を継いでいるのですが、それが先代であり彼の父です。
そして長子継続の時代でありながら家督を弟に譲った形の長男は、ある理由からこの土蔵に幽閉されていたようなのです」
「幽閉、ですか」
真奈美さんは眉をしかめる。
「あなた自身おっしゃっていたでしょう。かつてここには座敷牢があったと。家の噂話のような伝でしたが、それは史実のようです。
この地下の土蔵……いえ、そのころは地上部分があったので、土蔵の地下という方が正確かも知れません。ともかく土蔵の地下にはその長男を幽閉するために作られた座敷牢がありました。
その地下空間は座敷牢ができる前から存在していましたが、もともとなんのための地下室なのかは不明なようです。
この覚え書きを記した当主は、自分の伯父にあたる人物を評して、『ものぐるいなりけり』としています。気が狂ってしまった一族の恥を世間へ出すことをはばかった、ということでしょう。
結局、座敷牢の住人は外へ出ることもなく、牢死します。その最後は自分自身の顔の皮をすべて爪で引き剥がし、血まみれになって昏倒して果てたのだと伝えられています」
遠い先祖の悲惨な死に様を知り、真奈美さんは息を飲んだ。それも、自分は今その血の流れた場所にいるのだ。不安げに周囲を見回し始める。
573本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:18:50.95 ID:5I6P4YxX0
ヒロヤ「(メリーさんてアレか?今うしろにいるっていう都市伝説の。まぁ。目の前にいんだけど。)」
メリーさん「うしろ向いて!」
ヒロヤ「あ、わかりました。」
ひょいっ。
メリーさん「わたしメリーさん。今、あなたの後ろにいるの。(よし!)」
ヒロヤ「……。」
ぎゅっ。
ヒロヤ「えっ?」
なんとメリーさんが後ろから抱きついてきたのだ!
メリーさん「ウフフ(いーっぱい怖がらせちゃうもんね!)」
574本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:19:09.46 ID:5I6P4YxX0
ヒロヤ「(え〜と、状況を整理するんだ。この子はメリーさん。メリーさんは都市伝説で、かわいくて、抱きついt。)」
ヒロヤはわけがわからなくなっていた。
ムリもないだろう。年齢=彼女いない歴のヒロヤには刺激がつよすぎたのだ。
575本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:19:29.19 ID:5I6P4YxX0
ぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅっ。
メリーさんはさらに体を密着させてくる。
メリーさん「ウフ(こわいでしょう!こわいでしょう!)」
ヒロヤ「(メリーさんは胸はぺったんこで、かわいくt)」
ヒロヤはますますパニクっていた。
576本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:19:48.39 ID:5I6P4YxX0
ハァ……ハァっ……。
パニックになったヒロヤは過呼吸におちいった。

このままではヒロヤが死んでしまう!

メリーさん「(やった!こわがってる!)」


がくん。

ヒロヤの意識はここで途切れた。
577本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:20:10.47 ID:5I6P4YxX0
目覚めるとメリーさんは洗面所の前で、先ほど割れた鏡でパズル遊びをしていた。

メリーさん「んーと、これは……ここねっ!」
578本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:20:47.77 ID:5I6P4YxX0
ヒロヤもパズル遊びに加わった。
その光景ははたから見ると仲のよい“兄妹”そのものだった。
579連想T  ◆oJUBn2VTGE :2012/08/18(土) 23:21:00.63 ID:qKV0Rmwv0
「座敷牢で死んだ伯父は密かに葬られたようですが、その後彼の怨念はこの地下室に満ち、そして六間の通路に溢れ出し、やがて本宅をも蝕んで多くの凶事、災いをもたらしたとされています」
師匠は机の上に積み重ねられた古文書を叩いて見せた。
その時、真奈美さんの顔色が変わった。そして自分の両手で肩を抱き、怯えた表情をして小刻みに震え始めたのだ。
「わたしが………… ぶつかったのは…………」
ごくりと唾を飲みながら硬直した顔から眼球だけを動かして、入ってきた狭い扉の方を盗み見るような様子だった。
その扉の先の、地下通路を目線の端に捕らえようとして、そしてそうしてしまうことを畏れているのだ。
師匠は頷いて一冊のノートを取り出した。
「あなたのお祖父さんも、何度か真っ暗なこの通路でなにか得体の知れないものにぶつかり、そのことに恐怖と興味を抱いて色々と調べていたようです。
このノートは失礼ながら読ませていただいたお祖父さんの日記です。
やはり座敷牢で狂死した先祖の存在に行き着いたようなのですが、その幽霊や怨念のなす仕業であるという結論に至りかけたところで筆をピタリと止めています」
師匠は訝しげな真奈美さんを尻目に立ち上がり、一夜にして散らかった土蔵の中を歩き回り始めた。
「この土蔵には確かに異様な気配を感じることがあります。お父さんなど、あなたのご家族も感じているとおりです。亡くなったお祖父さんもそのことをしきりと書いています。
気配。気配。気配…… しかしその気配の主の姿は誰も見ていません。なにかが起こりそうな嫌な感じはしても、この世のものではない誰かの姿を見ることはなかったのです。
ただ、暗闇の中で誰かにぶつかったことを除いて」
どこかで拾った孫の手を突き出して、たった一つの扉を指し示す。その向こうには白熱灯の明かりが照らす、地下の道が伸びている。明かりが微かに瞬いている。また、玉が切れかかっているのだ。
それに気づいた真奈美さんの口からくぐもったような悲鳴が漏れた。交換したばかりなのに、どうして。呆然とそう呻いたのだ。
580本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:21:12.50 ID:5I6P4YxX0
ヒロヤ&メリーさん『『できたっ!!!!』』
二人はすっかり仲良し。どうみても兄妹だ。
そしてヒロヤもそう思っていた。

ヒロヤ「(やっぱりおれたちって兄妹にしか見えないんだろうなぁ……。)」

恋心。
ヒロヤの心の中を埋め尽くしているものはそれだった。
581本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:21:34.17 ID:5I6P4YxX0
鏡のピースをはめ込んでいるうちにヒロヤは気づいてしまったのだ。
胸を高ぶる感情に。

メリー!
582本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:21:51.68 ID:5I6P4YxX0
メリーさん「かざろうっと♪」
ヒロヤ「手伝うよ。」
2人の共同作業。2人の時間が積み重なっていく。思い出は、こうして作られる。
583本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:22:07.93 ID:5I6P4YxX0
だが、これはヒロヤの一方的な感情だ。
ヒロヤ「(メリーは……メリーさんはぼくのことをどう思っているんだろう?)」

そして、ヒロヤは尋ねた。

ヒロヤ「メリーさんはなぜおれの家に入れたの?」
584本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:22:32.32 ID:5I6P4YxX0
メリーさん「知りたいの?」

ただならぬ雰囲気に鳥肌が止まらない。
ごくり。

ヒロヤ「おれ、メリーさんこと何でも知りたい。」
585本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:22:55.08 ID:5I6P4YxX0
メリーさん「それじゃあ、聞いてちょうだい。」

ごくり。
586本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:23:13.94 ID:5I6P4YxX0
話を聞き終わったおれは、正直どうしたらいいのかわkらなかった。そして、ますますメリーへの恋心はふくらんでいった。

まとめるとこうだ。
メリーさんは、今日初めて鏡を目にした。
メリーさんは鏡がとってもこわい><。(ただし、一度割れた鏡は平気らしい。)
メリーさんは小悪魔のようなかわいらしさ。
587連想T  ◆oJUBn2VTGE :2012/08/18(土) 23:23:17.47 ID:qKV0Rmwv0
「あなたのお祖父さんはこう考えました。本当にこの家を祟る怨念であれば、もっとなんらかの恐ろしいことを起こすのではないかと。
確かにそのようなことがあったとされる記録は古文書の中に散見されます。しかし今ではそれらしい祟りもありません。にも関わらず、依然として異様な気配が満ちていくような時があります。
これはいったいどういうことなのか。そう思っていた時、お祖父さんはある古文書の記述を見つけるのです」
師匠は文机に戻り、その引き出しから一冊の古びた本を取り出した。
「これは、お祖父さんが見つけたもので、死んだ座敷牢の住人を葬った、当主の弟にあたる人物が残した記録です」
やけにしんなりとした古い紙を慎重に捲りながら、ある頁に差し掛かったところで手を止める。
「彼はこの文書の中で、伯父の無残な死の有り様を克明に描写しているのですが、その死の間際にしきりに口走っていたという言葉も書き記しています。ここです」
真奈美さんの方を見ながら、確かめるようにゆっくりと指を紙の上に這わせた。
「ここにはこう書いています。『誰かがいる。誰かがいる』と」
その時、すぅっ、と扉の向こうの地下道から明かりが消えた。
真奈美さんは身体を震わせながら地下道への扉と、師匠の掲げる古文書とを交互に見やっている。泣き出しそうな顔で。
「あなたにぶつかったのは、誰だかわからない誰か…… あなたのお祖父さんも言っていたように、わたしのたどり着いた結論もそれです。それ以上のことを、どうしても知りたいのですか?」
師匠は静かにそう言って真奈美さんの目を正面から見つめた。

           ◆

淡々と語り終えた師匠の声の余韻が微かに耳に残る。
俺は鼻を摘まれても分からない暗闇の中で、ぞくぞくするような寒気を感じていた。
そしてまた声。
588本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:23:50.83 ID:5I6P4YxX0
ヒロヤ「で、なんで入れたの?」
メリーさん「それはお化けだから。他に理由がいるの?」
ヒロヤ「なるほどね。」
589本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:23:57.96 ID:K1TuG3930
メリーさんいい紫煙・・・w
590本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:24:22.08 ID:5I6P4YxX0
ヒロヤ「うん。話はよーくわかった。ぼくに任せて」
メリーさん「どうするの?」

ガシっ。

メリーさん「なっ、なに!?」
ヒロヤ「ぼくの目を見て」
2人は見つめあった。そして酔いしれる。今の二人は“男と女”。それだけだ。

……カッ!!!!
ヒロヤは目を大きく見開くと念仏を唱え始めた。
メリーさんもつられて目を大きく見開く。
ヒロヤ「ブツブツ……」
メリーさん「ヒロヤ……?」
ヒロヤ「うん。わかった。もう大丈夫だ、メリーさん」
メリーさん「どういうことなの?」
ヒロヤ「うん、どこから話せばいいかな……。メリーさんは昔、鏡をみてるね。」
メリーさん「ええっ?」
ヒロヤ「それもただの鏡じゃあない。……“三面鏡”だ。」

実は、メリーさんは小さい頃に一度だけ鏡を使っていたのだ。
そう、メリーさんは三面鏡を使いセルフカットをした。
だが、大失敗。
致命的な失敗だを犯したメリーさんは外に出られなくなった。これでは、電話をかけても会いに行けない。
そのトラウマが、メリーさんを無意識に鏡と引き離した。

ヒロヤ「三面鏡を克服すればただの鏡も平気になるかもしれない」
メリーさん「でも……コワイ」
ヒロヤ「ぼくがついてる。トライしよう?」
591本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:25:09.44 ID:5I6P4YxX0
ヒロヤ「いくよ」
メリーさん「うん……」
さらっ。三面鏡を覆う布をはずす。
メリーさん「イ゛ヤ゛ア゛ア゛ア゛バア゛アアアアアア!!!!!」
三面鏡を直視したメリーさんが叫びだす。ものすごい勢いで背中をのけぞらせ暴れだす。

尋常じゃない。ぼくは直ちに110番通報をした。

ヒロヤ「助けてください!メリーさんが急に暴れだしたんです!早くぶちこんでくれ!」
警官「わかりました!今すぐメリーさんから離れてください!」
ヒロヤ「うわあああああああ!!!!」
ばたん!
警官「どうしました!?大丈夫で――」

ガチャッ。ツーツー。

ヒロヤ「(くっ、こんな時にこけるなんて!)」
メリーさん「ちょっと」
ヒロヤ「大丈夫メリーさん?」
メリーさん「今のはなに」
ヒロヤ「メリーさんしっかり!」
メリーさん「おい」
ヒロヤ「大丈夫だよメリーさん!ぼくがついてるからね!」
メリーさん「話しを聞――グバア゛ッ!!」
ヒロヤ「メリーさん!」
メリーさん「ハア゛ハア゛……大丈夫よ゛」

すごい鼻声だ。ぜんぜん大丈夫そうじゃない。
これは一刻を争う事態だ。
ぼくは一心不乱に祈り始めた。

(メリーさん!メリーさん!メリーさん!大好き!)
592本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:25:30.59 ID:5I6P4YxX0
いや、祈ってちゃダメだ。現実を見るんだ。前を向け。メリーさんを見ろ。
どうすればメリーさんを救える!?どうすれば!!

そうか!!!

ガシャーン。

何でもっと早く気づかなかったんだ。これでもう――
メリーさん「グバアアアアアアアア!!!!」
ヒロヤ「メリーさん!?」
メリーさんの体が徐々に変色していく。赤、青、緑、黄色、オレンジ――

これは――――虹色だ!!

なんてこった!メリーさんの体が虹色になってしまった!
ヒロヤ「綺麗だよ。メリーさん」
メリーさん「あ゛り゛がどう゛」
ヒロヤ「……このまま虹色として生きていくのはどうだろう?」
メリーさん「ヒロヤはそれでもいいの?」
ヒロヤ「メリーさんが、好きだから」
ヒロヤのこの言葉は、メリーさんの心の奥深くの“三面鏡のトラウマ”をかき消した。

シュウッ。ボッ。

ヒロヤ「あっ!三面鏡が消えていく!」
メリーさん「すごい!」

こうして2人は、手をとりあい末長く電話をして暮らしました。
593本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:25:58.23 ID:5I6P4YxX0
こうして2人は、手をとりあい末長く電話をして暮らしました。

大事なことなので2度言いました。





が、そんなことはあるわけもなく2人の間にはさらなる困難が待ち受けているのです。

ヒロヤ  「これでもう大丈夫だね。鏡を見てごらん」
サッ。
僕は右手を差し出しメリーさんを洗面所の前に促した。
メリーさん「わたし……カワイイ」
ヒロヤ  「そうだろう」
メリーさんはうっとりと鏡を見つめている。そんなメリーさんを僕もうっとりと見つめている。

メリーさん「ヒロヤぁっ……!ヒロヤァっ……!」

鏡を克服したメリーさんは歓喜のあまり叫ぶ。
僕たちは抱き合い鏡に見守られながら眠りについた。
594本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:26:24.63 ID:5I6P4YxX0
翌日早朝。洗面所に朝日は射し込まない。
う〜ん、とけのびをしながら今日のメリーさんの第一声。
メリーさん「ん……むにゃむにゃ、でんきでんきでんわ」
パチッ、気持ちよく朝を迎えたメリーさんが電気をつけると、

メリーさん「キャーーーーーーーーー」

けたたましい叫び声。
この世のものとは思えない!

がばっ。ヒロヤ起床。
  ヒロヤ「メリーさん!?なっ、なんだこれは!」
メリーさん「か、鏡がっ!あたしがっ!……鏡がっ……!!」
2人が目覚めると洗面所一帯が鏡で埋め尽くされている!
上も下も、右も左もメリーさんも鏡。
  ヒロヤ「一体どういうことなんだ」
メリーさん「あっ……あ、あ、あ……あああ!!」
  ヒロヤ「メリーさん落ち着いて!」
メリーさん「ハァハァっ、ああああ!?ヒロヤっ」
ヒロヤはメリーさんを安心させようと優しく手を握ろうとするが、メリーさんは鏡になってしまったので、握れない。

つるんつるん。

ヒロヤの手が鏡をすべる音が洗面所に響く。
メリーさん「ヒロヤ、もういいよ……」
つるんつるん。だがむなしいかな、どれだけ鏡に手を伸ばしても、メリーさんには触れられない。
メリーさん「ヒロヤっ!ムリしないでっ」
  ヒロヤ「くっ……!」
ガンガン!!
595連想T  ◆oJUBn2VTGE :2012/08/18(土) 23:28:49.50 ID:qKV0Rmwv0
「土蔵から出ようとした時、地下道の白熱灯は消えたままだった。土蔵の中はたよりない燭台の明かりしかなかったので、入り口のそばの照明のスイッチを押したが、なぜかそれまでつかなかった。
カチカチという音だけが響いて、地の底で光を奪われる恐怖がじわじわと迫ってきた。代真奈美さんが持ってきていた懐中電灯で照らしながら進もうとしたら、いきなりその明かりまで消えたんだ。
叩いても、電池をぐりぐり動かしてもダメ。地面の底で真っ暗闇。さすがに気持ちが悪かったね。で、悲鳴を上げる真奈美さんをなだめて、なんとか手探りで進み始めたんだ。
怖くてたまらないって言うから、手を握ってあげた。最初の角を右に曲がってすぐにまた左に折れると、あとほんの五メートルかそこらで本宅の地下の物置へ通じる階段にたどり着くはずだ。
だけど…… 長いんだ。やけに。暗闇が人間の時間感覚を狂わせるのか。それでもなんとか奥までたどり着いたさ。突き当たりの壁に。壁だったんだ。そこにあったのは。
階段がないんだよ。上りの階段が。暗闇の中で壁をペタペタ触ってると、右手側になにか空間を感じるんだ。手を伸ばしてみたら、なにもない。通路の右側の壁がない。
そこは行き止まりじゃなく、角だったんだ。ないはずの三つ目の曲がり角。さすがにやばいと思ったね。真奈美さんも泣き喚き始めるし。泣きながら、『戻ろう』っていうんだ。
一度土蔵の方へ戻ろうって。そう言いながら握った手を引っ張ろうとした。その、三つ目の曲がり角の方へ。わけが分からなくなってきた。戻るんなら逆のはずだ。
回れ右して真後ろへ進まなくてはならない。なのに今忽然と現れたばかりの曲がり角の先が戻る道だと言う。彼女が錯乱しているのか。わたしの頭がどうかしてるのか。なんだか嫌な予感がした。
いつまでもここにいてはまずい予感が。真奈美さんの手を握ったまま、わたしは言った。『いや、進もう。土蔵には戻らないほうがいい』 それで強引に手を引いて回り右をしたんだ。
回れ右だと、土蔵に戻るんじゃないかって? 違う。その時わたしは直感した。
どういうわけかわからないが、わたしたちは全く光のない通路で知らず知らずのうちにある地点から引き返し始めていたんだ。三つ目の曲がり角はそのせいだ。
596本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:29:05.60 ID:5I6P4YxX0
メリーさん「ヒロヤっ、割れちゃう!」
  ヒロヤ「くそぉっ!!」
メリーさん「ヒロヤ。リラックス、リラックス」
メリーさんの助言で冷静さを取り戻したヒロヤは、落ち着いて辺りを見回す。
  ヒロヤ「こんな時だからこそ、落ち着かなきゃいけないと思う」
メリーさん「そうね」
  ヒロヤ「まず、メリーさんの体を調べてみようと思う」
メリーさん「えっ」
つるつる。ぺたぺた。きゅっきゅっ。
  ヒロヤ「(見事だ……)」
メリーさん「……ちょっとヒロヤっ!どこさわってんのっ!」
  ヒロヤ「ご、ごめん!気づかなかった!」
メリーさん「それどういう意味かしら?」
  ヒロヤ「小さくて、かわいいよ」
メリーさん「氏ね」
  ヒロヤ「どうやったら戻せるんだろう?」
メリーさん「しらないわよ」
  ヒロヤ「……そうだ!ペロペロしてみよう!」
メリーさん「なにそれ」
  ヒロヤ「ほら、動物ってケガしたらなめるじゃない?」
メリーさん「変なとこなめたらコロス」
  ヒロヤ「ぺろぺろ。ん、どうかな」
メリーさん「あったかい///」
597本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:30:07.12 ID:5I6P4YxX0
ヒロヤのこの行為は、冷たい鏡になって“人のぬくもり”をを忘れていたメリーさんの心に深く深くしみわたった。
メリーさんのわだかまりがとけていく。

シュウッ。ポッ!

ぱりん!
洗面所の鏡がくだけちる。鏡になったメリーさんもくだけちる。
メリーさん「ぐあ!」
ところが驚くことなかれ、くだけちった鏡の中からメリーさんが飛び出してきたのだ。
  ヒロヤ「人肌むけたようだね」
メリーさん「ヒロヤのおかげ」

2人は完全に“鏡”を克服したようだ。
598本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:30:53.79 ID:5I6P4YxX0
「私メリーさん、今あなたの街の駅にいるの」

「え゙っ?」

「私メリーさん、今あなたの街の駅にいるの」

「え゙っ?」

「……私メリーさん、」

「わしゃ耳が遠いんじゃ、もうちっとゆっくり喋ってくれんかの」

「わたし、メリーさん! 今、おじいさんの、街の、駅にいるの!」

「あぁ、マリか、元気だったか? 正月以来じゃの」

「……私……」

「おーい、ばあさんや、マリから電話だぞー」

「……ガチャ」
599本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:32:10.47 ID:5I6P4YxX0
「……私メリーさん。あいはぶあどりーむ」
「何故キング牧師」
「貴方なら、この夢叶えてくれると思ったの――でも」
「いや、今は無理でも、いつかは叶える……さ!」

 その瞬間、僕は前触れも無く振り返った!
 だが――

「私メリーさん。今貴方の後ろにいるの……いてしまうの」
「……ダメ、か」

 全く、視界の端にすら、その瞬間までは確かに僕の後ろにいたはずの
メリーさんの姿は映らず、そして、何事もなかったかのように、僕の後ろにいる。
 ……何を言っているか、理解してもらえているだろうか。
 要するに、僕はメリーさんを見る事ができないのだ。すぐ後ろにいるのに。肩に
置かれた手の温もりも感じるのに。それでも、見る事ができない。おそらくは、
悲しい顔をしているだろう、彼女を。

「ごめんなさい、なの……」
「いやまあ、種族的特性じゃあ、仕方ないと思うよ……」

 どんな時でも相手の後ろに現れ、常に背後をキープし続けるという、その特性。
それはメリーさんに限らず、彼女の一族誰もが持っているらしい。
600連想T  ◆oJUBn2VTGE :2012/08/18(土) 23:32:38.41 ID:qKV0Rmwv0
本宅と土蔵をつなぐ通路には、どちらから進んでも右へ折れる角と左へ折れる角が一つずつしかない。そしてその順番は同じだ。最初に右、次に左だ。
土蔵から出たわたしたちはまず最初の角を右、次の角を左に曲がった。そして今、さらに右へ折れる角にたどり着いてしまった。
通路の構造が空間ごと捻じ曲がってでもいない限り、真っ直ぐ進んでいるつもりが、本宅側の出口へ向かう直線でUターンしてしまったとしか考えられない。心理の迷宮だ。
だったらもう一度回れ右をして戻れば、本宅の方へ帰れる。『来るんだ』って強引に手を引いてね、戻り始めたんだよ。ゆっくり、ゆっくりと。壁に手を触れたまま絶対に真っ直ぐ前に進むように。
その間、誰かにぶつかりそうな気がしていた。誰だかわからない誰かに。でもそんなことは起こらなかった。わたしがこの家の人間じゃなかったからなのか。でもその代わりに奇妙なことが起きた。
土蔵に戻ろう、土蔵に戻ろうと言って抵抗する真奈美さんの声がやけに虚ろになっていくんだ。ぼそぼそと、どこか遠くで呟いているような。そして握っている手がどんどん軽くなっていった。
ぷらん、ぷらんと。まるでその手首から先になにもついていないみたいだった。楽しかったね。最高の気分だ。笑ってしまったよ。そうして濃霧を振り払うみたいに暗闇を抜け、階段にたどり着いた。
上りの階段だ。本宅へ戻ったんだ。真奈美さんの手の感触も、重さもいつの間にか戻っていた」
チリチリ……
黒い布の下でオイルランプが微かな音を立てている。酸素を奪われて呻いているかのようだ。
奇妙な出来事を語り終えた師匠は口をつぐむ。僕の意識も暗闇の中に戻される。息苦しい。
「その依頼は結局どうなったんです」
口を閉じたままの闇に向かって問い掛ける。
601本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:32:43.90 ID:5I6P4YxX0
「……私がもっと頑張れたら……」
「いや、それは無し。君が頑張ってどうにかしなきゃいけない問題じゃない」
「でも……」
「前も言ったろ? 僕がなんとかするって。させて欲しいんだ、って」
「……うん」
 きゅ、っと。彼女の腕が、僕の身体を抱きしめる。
 身体の前に回った手は、今にも折れてしまいそうな程に細く、か弱い。でも、
僕の身体に触れている部分は、暖かく、優しい。
 ……こんな女性(ひと)に、無理をさせるわけにはいかない。彼女がどうにか
しなきゃいけないんじゃない。僕がどうにかしなきゃいけないんだ。
 じゃなきゃ……それが出来なきゃ、僕には彼女の前に立つ資格は、ない!
「……じゃあ、行ってくるよ」
「今日も、なの?」
「鍛錬は、一日怠れば取り戻すのに三日かかるからね……だから、明日も、だ」
「……なの」
「ん? なんだい?」
「夜には、帰ってきてほしいの。一緒に……Dynamite見ましょ、なの」
「……ああ、約束するよ」

 そう言って、僕は一度だけ、身体に回された彼女の腕に自分の腕を重ね、そして
それをゆっくりと解いた。

「いってらっしゃい、なの」

 彼女の、寂しそうな声を背に、僕は家を出る。師である、かつて高名なマスクマンと
して名を馳せた、ニールという男が待つ、郊外の森へと。
 今日もまた、彼女を目の前で見る為の修行が始まるのだ。
 いつか――いつか僕は、彼女の夢を叶えてやる。

「彼女を……メリーさんをお姫様抱っこしてあげるのは、この僕だぁああああああ!!!」

 それは既に、僕の夢でもあるのだ――
602本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:33:37.51 ID:5I6P4YxX0
ある電車が運転士の不注意により、停まるべき駅を大幅にオーバーランしてしまった。
しまった、と顔をしかめる運転士のところに車掌から連絡が入ってくる。

「運転士さん!行きすぎてますよ!」

「えーっと、そうですね。ブレーキの効きが悪くて、ハハハ……」

運転士は笑って誤魔化すが、車掌の盛大なため息を聞いて慌てて付け加える。

「じゃあ戻らないといけませんね」

「そうですね」

その時、運転席の窓ガラスがバンバンと叩かれた。

「運転士さん!降ろしてくれよ」

お客さんからのクレームである。

「じゃあ今すぐ戻りましょう」

運転士は車掌にそう告げる。

ところが

「ちゃんと輸送司令に許可を取らないと」

と車掌が言ってきたのだ。
603本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:34:05.69 ID:5I6P4YxX0
これに運転士は困った。
ボケーっとしていたせいでオーバーランしてしまいました、だなんて口が裂けても言えない。

「お互い黙ってればばれませんよ。ね?じゃあ後退させますから!」

運転士は車掌に有無を言わせずに連絡を切った。
すると再び連絡が来たので、運転士はしぶしぶと受ける。

「私メリーさん。今あなたたちの後ろにいるの」

聞き慣れない女の声に一瞬ドキッとした運転士だったが、車掌が自分を恐がらせて思い止めさせるために裏声を使っているのだと判断して一方的に切る。
そして電車を後退させ始めた。
車掌は慌てて非常ブレーキをかけるも、踏切のところで電車を凝視していた少女を引いてしまった。
数週間後、二人とも左遷されたのは言うまでもない。
やはりメリーさんは恐ろしい。

メリーさん『無断後退編』完
604連想T  ◆oJUBn2VTGE :2012/08/18(土) 23:34:33.10 ID:qKV0Rmwv0
「分からないということが分かったわけだから、達成されたことになる。正規の料金をもらったよ。まあ、金払いの悪いような家じゃないし。それどころか、料金以外にも良い物をもらっちゃった」
ガサガサという音。
「あった。土蔵で見つけたもう一つの古文書だよ」
何かが掲げられる気配。
「これは、そこに存在していたこと自体、真奈美さんには教えていない。彼女の祖父はもちろん知っていたようだけど」
 それはもらったんじゃなくて勝手に取ってきたんじゃないか。
「なんですかそれは」
「なんだと思う?」
くくく……
闇が口を薄く広げて笑う。
「座敷牢に幽閉されていたその男自身が記した文書だよ」
紙をめくる音。
「聡明で明瞭な文章だ。あの土蔵で起こったことを克明に記録している。明瞭であるがゆえに、確かに『ものぐるいなりけり』と言うほかない。それほどありえないことばかり書いている。
彼は三日に一度、寝ている間に右手と左手を入れ替えられたと言っている。何者かに、だ。左腕についている右手の機能について詳細に観察し、記述してある。
それだけじゃない。ある時には、右手と左足を。ある時には、右足と首を。そしてまたある時には文机の上の蝋燭と、自分の顔を、入れ替えられたと書いている」
師匠の言葉に、奇怪な想像が脳裏をよぎる。
「わたしがこの古文書を持ち出したのは正しかったと思っている。危険すぎるからだ。これがある限り、あの家の怪異は終わらないと思う。そしてなにかもっと恐ろしいことが起こった可能性もある。
その座敷牢の住人は、最後には自分の顔と書き留めてきた記録とを入れ替えられたと言っている」
書き留めてきた記録? それは今師匠が手にしているであろう古文書のことではないのか。
605本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:34:49.66 ID:5I6P4YxX0
「あけましておめでとうなの」
「もう三が日も終わって仕事始めだよ!? 今更あけおめって、お前こんな所でも
 ダメなのかよ! もはや駄メリーさんっていうかただのダメな人だろ!?」
「ツッコミ初めなの」
「嘘つけー! 正月一日にツッコミいれただろうが! お前がクリスマスから
 ぶっ続けでネトゲしてたから! なんだよ新春イベントでレアアイテムゲット
 確率アップって! 意味わかんねーよ!」
「新年を記念して、敵を撃破した時のレアアイテムドロップ確率が10%もアップ
 する、お得なイベントだったの。通常のそれが0.1%な事を考えたら、運営も
 大盤振る舞いしたものなの」
「意味がわからねえってそういう意味でわからねえって言ってんじゃねえよ!
 なんで正月早々からどころか、クリスマスからずっとネトゲし通してるんだよ!?」
「そこに期間限定クエストアイテムがあるからなの」
「お前みたいなのがいるからネトゲの運営は謙虚な姿勢を持てないんだな……」
「何かトラウマでもあるの? なの」
「いや、俺の話じゃないんだけどな……実は、俺の友人が」
「あら、友人いたの? なの」
「いるよ!? 超いるよ!? なんでいない設定なんだよ!?」
「私みたいな駄メリーさんの相手を律儀にしてくれてるから、てっきり友達の
 いない寂しい人なのかと思ってたの。暇つぶし、なの?」
「暇を潰す前に、俺はお前に穀を潰されてるんだがな……」
606本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:35:13.04 ID:5I6P4YxX0
「だれうま、なの」
「上手いこと言いたくて言ってんじゃねえよ!? 現実にそうだろうが! ネトゲの
 課金が何故かやってもいない自分の口座から引かれていく俺の気持ちが
 お前にわかるか!? 俺怒っていいよな? 怒っていいよな!?」
「その代わり、こんなに可愛い私をいつも見られるんだから、眼福なの」
「眼福ってそういう時に、見られる方が言う言葉じゃねえだろうが! っていうか
 さっきから何なんだよこれは!? ツッコミ所が多すぎて話が進まねえよ!」
「貴方もだいぶキャラが変わったの……私の愛したあの人は、どこへ……なの」
「お前は一貫して駄目だけどな!」
「それが私の正義(ジャスティス)なの!」
「決めポーズ取ってんじゃねえ!?」
「……で、何の話だったの?」
「ああ、そうだよ、ネトゲ好きな友人の話だよ……ようやく話が戻せる……」
「とか言って、実は自分の体験談、なの?」
「ちげえよ!? 俺はネトゲとかやらない人なんだよ! やったら一発で廃人に
 なるのがわかってるからな!」
「ある意味駄目人間なの」
「駄目妖怪に言われたくねええええええ!!??」
607本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:35:59.79 ID:5I6P4YxX0
「閑話休題、なの」
「……それも口で言う言葉じゃないと思うが……まあ、これ見てくれよ」

ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm12150626

「……FF14なの?」
「ああ、酷いだろ? もう最近のFF、俺は見限ってたんだけどな……友人は、
 結構楽しみにしてたんだ、14。前の11もやりこんでたみたいだったしな。
 スクエアエニックスっていう大手でもご覧の有様かよ、っていう……」
「……で? なの」
「……それだけ、だけど」
「後日談というか今回のオチは? なの」
「特に、無いけど」
「……とんだ時間の無駄だったの」
「……なんだろう、この敗北感は……」
「話はそれで終わりなの?」
「そうだよ! 終わりだよ! 悪いか!?」
「じゃあ、新年の挨拶も終わったし、私はこれから狩りに行くの」
「……狩りって……ああ!? なんでお前PSPなんか持ってんだよ!?」
「PS3と光回線で、アドホックパーティーもばっちりなの」
「……うち、ADSL回線だったはずなんですけど? PSも、2のままだったはずなんですけど?」
「人類の進化は、目に見えない所で行われる物なの……」
「人外が人類の進化を語るなぁああああああ!!!???」

 今年もどうやらこんな感じのようである。
 トホホ……。

「……っていうか、もはや語尾にしかメリーさんらしさが残ってないって、どうなんだよ……」
「たまにはこんなメリーさんがいてもいいの」
「自分で言うなよっ!?」
608本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:36:16.68 ID:5I6P4YxX0
電話がかかって来た。
『もしもし…私、……メリー………さ…ん』
なんだか死にそうな声だったので、とりあえず大丈夫かと聞いてみた。
『えへ…心配、してくれるんだ……嬉しい。……実はね……今、………貴方のうちの、近所の公園にギャーー(ドサドサドサドサ)』
それきり、通話状態のまま電話は沈黙してしまった。
不思議に思いつつも通話を終了したのだが、それから数ヵ月して春になって、近所の公園の屋根雪の溜まりから少女の遺体が発見された。
あのとき、俺がメリーさんを探していれば、あるいは助かっていたかも……と考えると、身を引き裂かれる思いだ。
やはりメリーさんは恐ろしい。
609連想T ラスト ◆oJUBn2VTGE :2012/08/18(土) 23:36:36.02 ID:qKV0Rmwv0
「そうだ。彼はそこに至り、ついに自分の書き記してきた記録を破棄しようとした。忌まわしきものとして、自らの手で破こうとしたんだ。最後に冷静な筆致でそのことが書かれている。
それは成功したのだろうか。彼は顔の皮を自分で引き剥がして死んでいる。彼が破いたものはいったいなんだったのか。そして、現代にまで残るこの古文書は、いったい……」
ゆがむ。闇がゆがむ。
異様な気配が渦を巻いている。
「それからだ。わたしはよくぶつかるようになった。あの地下道ではなく、明かりを消した自分の部屋や、その辺のちょっとした暗がりで。誰だかわからない誰かと……」
ぐにゃぐにゃとゆがむ闇の向こうから、師匠の声が流れてくる。いや、それは本当に師匠の声なのか。
川沿いに立つ賃貸ガレージの中のはずなのに、地面の下に埋もれた空洞の中にいるような気がしてくる。
「そこで立って歩いてみろよ」
囁くようにそんな声が聞こえる。
僕は凍りついたように動かない自分の足を見下ろす。見えないけれど、そこにあるはずの足を。
今は無理だ。
ぶつかる。ぶつかってしまう。
ここがどこだかも分からなくなりそうな暗闇の中、誰だか分からない誰かと。
そんな妖しい妄想に囚われる。
沈黙の時間が流れ、やがて目の前にランプの明りが灯される。覆っていた布を取が取り払われたのだ。黒い墓石に腰掛ける師匠の手にはもう古文書は握られていない。
「この話はおしまいだ」
指の背を顎の下にあて、挑むような目つきをしている。
そして口を開き「おじいちゃんじゃないかな、と言えばこんな話もある」と次の話を始めた。その言葉に反応したように、またまた別の不気味な気配がガレージの隅の一角から漂い始める。
降り積もるように静かに夜は更けていった。

(完)
610本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:36:49.15 ID:5I6P4YxX0
しかしその遺体は検死を前に忽然と消えたらしい。
俺はそんな事を考えながら刺身にタンポポを載せる仕事を続けていた。
仕事の休み時間に製造ラインから弾かれた刺身を喰いながらモバゲーをしていると、着信があった。
『もしもし(モグモグ)私メリーさん(モグモグ)今あなたの家に居るんだけど(モグモグ)、なんで貴方、留守なのよ馬鹿』
何かを喰っているらしい少女の声。
どこかで会ったような聞いたことがあるような気がしたけど、どんな知り合いだったか聞くのも失礼だ。
こちらも刺身をクチャクチャ食べながら弁解する。
正月は刺身を食う人間が多いから滅菌生花の盛り付けも忙しく、元旦から働いていること、
クリスマス用の料理すら冷蔵庫から片付けていないことを述べた。
『ふーん……って、ちょっ……クリスマス用の料理!?』
冷蔵庫にはクリスマスからこっち三週間は経過したパストラミチキンやケーキ、刺身がはいったままだ。
それをありのまま伝えると、みるみるうちに電話の声が小さくなった。
『そんな……あかん………食べてもうた…完全に食べてもうた。パストラミとケーキ食べてもうた……』
少女はいきなり関西弁でうわごとのように呟くと、少女のほうから電話を切ってしまった。
俺は滅菌生花盛り付け担当のラインに戻った。
611本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:37:42.26 ID:5I6P4YxX0
俺はボロめのアパートの前に立っていた。
服装は探検隊風で、ジャングルにだって泊まれそうな感じだ。
なぜこんな恰好でアパート前に立っているかといえば、これも数ある掛け持ちバイトのひとつで、探検助手と言う仕事なのだった。
俺の前には地図を持った妙なオッサンが立っている。
彼の服装も探検隊風で、自称オカルト探検家かつ俺の雇い主なのだ。
「うーむ、ここに妖怪メリーさんの住み処があると、ウィキリークスの日本政府流出資料に書かれておったのじゃが」
ジュリアンアサンジにかまされましたかね、とか相槌を打っておく。
「とにかく入ってみるぞい。助手君、荷物を頼む」
了解しました隊長、と決められた符丁を返しながら、全く必要なさそうな大荷物を背負う。
そこで携帯が鳴った。
「助手君!仕事中は携帯を切るんじゃ!馬鹿たれめ!」
怒られ、すいませんと言いつつ電話に出る。
『私メリーさん。あなたこんなところでアルバイトしているのね』
その言葉に、俺は思わず辺りを見回した。
だが、隊長が”めりい”と言う表札が掛けられた部屋の鍵穴をガチャガチャやっているだけで、誰も見当たらない。
612本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:38:25.37 ID:5I6P4YxX0
『刺身に花を載せるバイトなんて、本当にあるのねぇ』
なんだ、別の日のバイト先か。
俺は他のバイトの最中で今は話せない旨を伝えた。
『えー、他にもバイトしているの?今日会って呪い殺す予定だったのに』
全然こちらの話しを聞いていない。
そこへ隊長の歓声が轟いた。
「おお!開いたぞ助手君!妖怪メリーの住み処に突入じゃ!」
よかったですね隊長!不法進入の責は自分で取ってくださいね!と力強く返す。
すると電話の向こうの声が急に強張った。
『な、何してるの?!今メリーの住み処がどうとか…』
ピッ。
俺は通話終了ボタンを押し、携帯の電源を切った。
613連想Tについて ◆oJUBn2VTGE :2012/08/18(土) 23:40:47.89 ID:qKV0Rmwv0
『T』となっていますが、『U』以降は別のお話です。
そしてまだ書いていませんorz
ので、全裸で待っていただいてもまだしばらくは出てきませんので、あしからずご了承ください。
おやすみなさい。
614本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:42:38.67 ID:PFMDrunr0
じゃあ服を着てのんびり待ってる〜
お疲れさまです。
615本当にあった怖い名無し:2012/08/18(土) 23:47:14.52 ID:K1TuG3930
>>541-552,557,565,572,579,587,595,600,604,609,613
ウニ 乙っす。
616本当にあった怖い名無し:2012/08/19(日) 00:45:27.02 ID:xglRho1U0
乙です

が、一つだけ言わせてください。
適度に改行した方が読みやすいかと・・・横に長すぎるので読みにくいです
617本当にあった怖い名無し:2012/08/19(日) 05:45:16.83 ID:RGOkoOzS0
ウニ乙。
いや〜トリップってこういう時便利だなあ。
618本当にあった怖い名無し:2012/08/19(日) 09:26:21.81 ID:bVR0gTEpO
ウニさん乙です!
深々と怖い話ですわー
2は別のお話とのことですが、楽しみにしています!
619本当にあった怖い名無し:2012/08/19(日) 15:30:29.94 ID:Rj4KI5Xg0
わーお
620本当にあった怖い名無し:2012/08/19(日) 19:41:30.14 ID:nnHaTaUF0
おk
621本当にあった怖い名無し:2012/08/19(日) 20:12:55.86 ID:Kh9UgqbpO
ウニさん、同人誌宣伝のためにどさ回り乙で〜す!
622本当にあった怖い名無し:2012/08/19(日) 20:22:30.76 ID:MUiuNCbqO
ウニ来てたんだ 乙

半裸で次を待つ
623本当にあった怖い名無し:2012/08/19(日) 23:28:19.06 ID:GeaG7row0
ウニさん乙
なかなか興味深い話ですた
624本当にあった怖い名無し:2012/08/20(月) 13:08:55.25 ID:L7HRvdvw0
>2011年の冬コミで出した同人誌『師匠シリーズの2』に載せたお話です。
『T』となっていますが、現在まだUはありません。Uは秘密クラブのお話、Vは水族館のお話なのですが、全然手がついていません。

実話のはずなのに「まだありません」「手がついてません」とかww
あったことをそのまま書けば良いんじゃ無いの〜?
625本当にあった怖い名無し:2012/08/20(月) 14:26:45.53 ID:b4iWu4Oi0
そういや、今まで散々「実話(笑)」ってケチつけられてたけど、実話って明言したことあったっけ
まさかとは思いますが、「実話のはず」というのは、あなたの想像上の設定に過ぎないのではないのでしょうか。
626本当にあった怖い名無し:2012/08/20(月) 22:26:55.68 ID:L7HRvdvw0
明言してるわぼけが
そんな事も知らないカスがどや顔で「想像上の設定似すぎない」とか抜かすなはげが

ウニの発言発掘してる信者いただろ。こいつに見せてやれよ
あ、同じ信者の立場悪くなることはできないかww
とりあえずお前は謝れよカス。ほんとにカスだなお前

「いままで散々」って言っておきながらウニが実話って明言したことは知らないとか頭おかしいだろ
627本当にあった怖い名無し:2012/08/21(火) 18:29:45.86 ID:p6Cu5SCGO
じゃあ稲川淳二が「これは昨日考えた怖い話なんですけど…」って話すかwwww
常識で考えてみろwww
「ほ ん と に あった怖い話」が実話かどうか判断するのは受け手
テレビ局に「あれって、ほんとにあった、っていってるけどほんとにあんなことあるわけねーだろ!ぼけ 嘘つくな!」って噛み付くか?


628本当にあった怖い名無し:2012/08/21(火) 21:12:53.22 ID:3eLzgS0C0
暗黙の了解が分からないと、実社会で苦労するよ。
629本当にあった怖い名無し:2012/08/21(火) 22:39:32.75 ID:p6Cu5SCGO
スルーしたいとこだけど、少しだけ

自分はウニが実話だといった初期の頃の話は実話に基づいてたんだと思う

その後、投下してたらネタがつき、そして書くことが楽しくなって創作になっていったんじゃないかな。その中にもまた実話ベースがあるのかもしれないが


630629:2012/08/21(火) 22:42:19.61 ID:p6Cu5SCGO
この論争は定期的に起こってるんだけど、じゃあウニが出てきて「あの話とあの話は実話ですが、それ以外は創作です」っていったら興ざめじゃね?前出の稲川の話じゃないが。だからウニは沈黙をまもっているんじゃないかな。実話かどうかはウニのみぞ知る

自分としてはネタがつきて終わりじゃなくてウニが書き続けてくれるのはうれしいんだけど


631本当にあった怖い名無し:2012/08/21(火) 23:09:57.22 ID:3eLzgS0C0
そうそう。
創作と思えば創作。
実話と思えば実話。
読み手の判断で良いんだよ。
632本当にあった怖い名無し:2012/08/21(火) 23:14:11.93 ID:ClOBPAxZ0
おいおい謝罪まだかよチンカスウニ信者の糞馬鹿野郎が
不確かな情報で粋がるから恥かくんだよばーーか

とっとと出てこいよチキン
また忘れた頃にのこのこ出てきて何も無かったかのようにウニ賛美するんだろ
ほんとカスだな
633本当にあった怖い名無し:2012/08/21(火) 23:18:40.66 ID:ClOBPAxZ0
>>627
馬鹿じゃねーのお前?
ウニ本人が創作だろ?って意見に「否定」してまで「実話です」と明言してんだよばーか
何が常識だよ。お前が常識無いだけだろカス

>テレビ局に「あれって、ほんとにあった、っていってるけどほんとにあんなことあるわけねーだろ!ぼけ 嘘つくな!」って噛み付くか?
その番組が「完全なノンフィクションです」と謳ってたらかみつくこともあるだろうが、そんな番組いままであったのか?

実話認定前提の話で何見当違いの話してんの?日本語分かりますか?
634本当にあった怖い名無し:2012/08/21(火) 23:20:12.52 ID:ClOBPAxZ0
>>628
お前も日本語不自由なようだな

暗黙の了解の意味辞書で調べてみろよ

実話ですと明言してんのになんで暗黙の了解がでてくんだよ
本気で頭悪いだろ。読解力ないと実社会で苦労するよ
635本当にあった怖い名無し:2012/08/21(火) 23:21:38.75 ID:ClOBPAxZ0
>>629
残念ながら、実話と明言したのはほんの数年前。かなりの作品が投下された後なんだよ
636本当にあった怖い名無し:2012/08/21(火) 23:24:34.53 ID:ClOBPAxZ0
>>630
次から次へとなんでこんな馬鹿が出てくるんだろう

>じゃあウニが出てきて「あの話とあの話は実話ですが、それ以外は創作です」っていったら興ざめじゃね?

何回も言ってるようにウニが創作という指摘を否定して、その上で「全て実話です」と言い放ったんだよ
なんでこんな簡単な一行の日本語すら理解できないの?馬鹿なの?本気で聞きたい、理解できないの?
それとも認めたくないから目に見えてないのか?恋は盲目だなおいww
637本当にあった怖い名無し:2012/08/21(火) 23:45:11.88 ID:P3M8Svrh0
>>632
>不確かな情報で粋がるから恥かくんだよばーーか

>>636
>何回も言ってるようにウニが創作という指摘を否定して、その上で「全て実話です」と言い放ったんだよ



とりあえず確かな情報ソースを提示してからじゃないか?

>>626
>ウニの発言発掘してる信者いただろ。こいつに見せてやれよ

からすると、自分では持ってないっぽいけど。
まあなにかしらそれらしいものを見たんだろうから、とりえあずそれを探すなりして提示して。

さもないと冒頭が自分に戻るだけ。
638本当にあった怖い名無し:2012/08/22(水) 19:53:17.14 ID:PjjEknS60
お前ら何度同じ展開やったら気が済むんだよ
いい加減スルーを覚えろ
639本当にあった怖い名無し:2012/08/22(水) 20:03:33.43 ID:QMUFhyaX0
荒らしに来てる奴の相手してマトモな返答返って来るわけねーだろ……
640本当にあった怖い名無し:2012/08/22(水) 21:21:51.95 ID:LcwfkpTL0
どっちにしろ皆さんそんなの承知で弄ってるものと見てたんだけど・・・
641本当にあった怖い名無し:2012/08/22(水) 21:59:19.21 ID:9oPbBLWn0
>>637
はあ?過去ログ漁れば見つかるんだからてめえで探せよばーか
あんな膨大なログ漁ってまでおまえら情弱に提示してやるほど親切じゃねーんだよ馬鹿が

>からすると、自分では持ってないっぽいけど。

持ってる持ってないんじゃ何だよぼけ。探せばあるんだから探せはげ
探そうともしないで勝手に妄想だと決めつけるキチガイが
642本当にあった怖い名無し:2012/08/22(水) 22:02:02.94 ID:9oPbBLWn0
.>639
何が荒らしだよ。難癖つけてきたのはおまえら情弱信者だろ糞
自分で煽っておいて逆に荒らし呼ばわりかよ。ロンドン五輪の韓国かよ
ほんと質悪いなおまえらは

>>625
文句はこいつに言えや
643本当にあった怖い名無し:2012/08/22(水) 22:56:58.78 ID:tF6KcTQq0
おおうに来てたのか
乙です
644本当にあった怖い名無し:2012/08/23(木) 20:03:32.68 ID:GU094YAG0
こんな過疎スレにも夏が来るとはウニ様々だな
645本当にあった怖い名無し:2012/08/23(木) 20:18:40.16 ID:qp3OfCcE0
ウニが実話ですって言ったのはここに来る人は知ってると思ってたけどそうじゃないのか
646本当にあった怖い名無し:2012/08/23(木) 20:27:16.47 ID:uHqodkEi0
何年か師匠シリーズ追ってるけど作品以外に殆ど興味無いからウニの発言ほぼ覚えてないな
647本当にあった怖い名無し:2012/08/24(金) 07:28:25.45 ID:KDSySW3pO
>>645
ウニは本当に実話といったのかなあ
定期的にこのループが来るからここの住民は、ウニが実話といった、と思い込んでる気がする



648本当にあった怖い名無し:2012/08/24(金) 08:58:58.19 ID:SDOJdjv40
誰かがレス引っ張ってこれば解決なんだけそな
できるならな
649本当にあった怖い名無し:2012/08/24(金) 22:34:52.49 ID:ZvqtJqRK0
前回は根拠のレスが出てきて、

これのどこを深読みすればそう取れるんだ!

みたいな流れで、妄想君はぷっつり来なくなったはず。

忘れたころにまたやって来たけど、住民が忘れてるころと思っているのか
それとも本人自身が忘れているのか微妙なところ。

650本当にあった怖い名無し:2012/08/25(土) 22:06:48.19 ID:kAHo1GAT0
ほう、その流れのログ持ってきてくれ。お前の妄想じゃなかったらな
651本当にあった怖い名無し:2012/08/26(日) 08:05:04.41 ID:oNLLt+jr0
その流れのレスはこれ。
ウニは滅多にレスしないからこれに間違いない。

ウニは「創作ではない」といってるんじゃなくて
「パクリではない」と答えてる

812 質問に ◆oJUBn2VTGE ウニ
2008/07/10(木) 22:04:09 ID: lK8rj6z40
少し答えます。
将棋はパクリだという指摘。
偶然です。2ch上で証明など出来ませんが。
ただかなり似てると思います。驚きました。

デッドマンズQのパクリだという指摘。
読んだことがありせん。気になって古本屋で探しましたが手に入りません。
どの話と似ているのかもわかりません。

何代目だ?という指摘。
以前トリ付きで回答しています。
トリ無し時代の一部の偽者を除いて同じ人間が書いてます。
652本当にあった怖い名無し:2012/08/26(日) 17:13:24.10 ID:UdM4bdTR0
つまりパクったと・・・・
653本当にあった怖い名無し:2012/08/26(日) 18:18:34.41 ID:pfMOYgRD0
>>651
はい、卑怯な印象操作来ましたよこれ
一つずつ説明していこうか
まず、今の流れは「実話と明言したか否か」と言うこと。これを念頭においとけ
で、

>ウニは「創作ではない」といってるんじゃなくて
「パクリではない」と答えてる

812 質問に ◆oJUBn2VTGE ウニ
2008/07/10(木) 22:04:09 ID: lK8rj6z40
少し答えます。
将棋はパクリだという指摘。

↑このウニは「パクリだ」という指摘に反論しているのであって、創作かと言う指摘に反論してる訳
ではない。
なぜお前は「創作ではないと言ってるんじゃ無くてパクリではないと答えてる」と歪曲してるんだ?
はっきり「将棋はぱくりと言う指摘」と言ってるだろが
654本当にあった怖い名無し:2012/08/26(日) 18:28:51.93 ID:pfMOYgRD0
二つ目
>>649
>これのどこを深読みすればそう取れるんだ!
みたいな流れで、妄想君はぷっつり来なくなったはず。

実際のこのくだりを省いたのはわざとか?
その妄想君が「創作だろ」と指摘してウニが「パクリじゃない」というレスをしたから
お前はそれを深読みだろ、とったんだろ?
ちゃんとその流れもコピペしろよ

まあ、ないだろうがなw
普通に読み取れば「パクリだろ」「何代目だ?」という指摘に答えてるのであって、「創作だろ」or「実話なの?」
という指摘に対して答えてるわけではないのは明白
妄想なのはお前だろww
655本当にあった怖い名無し:2012/08/26(日) 19:20:31.41 ID:jQdkHggJO
だからウニは実話かどうかについてはなんにも言ってないってことだろ?
はい終わり終わり

656本当にあった怖い名無し:2012/08/26(日) 23:27:57.43 ID:DqrAkbOy0
世の中に星の数ほど物語があれば似た話が出てくるのは当然
パクリ連呼厨は消えろ
ウニは神!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
657本当にあった怖い名無し:2012/08/27(月) 12:28:35.09 ID:EB9mOjuh0
ウニさん待ちです
658本当にあった怖い名無し:2012/08/27(月) 13:26:16.02 ID:1sYNnUIq0
>>655
勝利宣言キタw
パクリ指摘への反論を実話とは言ってない、とねつ造しておきながら勝利宣言かよw
実話です、と明言してるのは事実なんだから頑張って探せよ
かなーり面倒だろうけどな

というかさ、ウニここ見てるんだから答えろよ
659本当にあった怖い名無し:2012/08/27(月) 13:40:00.39 ID:EB9mOjuh0
おk
660本当にあった怖い名無し:2012/08/27(月) 19:40:21.78 ID:1sYNnUIq0
>これのどこを深読みすればそう取れるんだ!
みたいな流れで、妄想君はぷっつり来なくなったはず。


見事なブーメランだなww
「パクリの指摘への反論」をどう深読みすれば創作という指摘への反論と読み取れるんだ?

なあ、妄想君答えてくれよ〜
人にはぷっつり来なくなった、と言ってるんだからお前は来るんだろうなあ?
661本当にあった怖い名無し:2012/08/27(月) 22:16:02.24 ID:IFT/2Wsc0
ウニが大嫌いなのにウニに構ってほしくて仕方ないんですね
朝鮮の方?
662本当にあった怖い名無し:2012/08/28(火) 16:52:18.28 ID:NJvojOVB0
アホは放置で
663本当にあった怖い名無し:2012/08/29(水) 11:33:09.30 ID:72BCcpzi0
何時ものことだけど、反論できないと途端に話しそらすな〜
早く答えろよ歪曲野郎
664本当にあった怖い名無し:2012/08/31(金) 11:43:06.99 ID:6HYFQG+c0
信者が煽る→激しいやりとり→旗色が悪くなる→ねつ造してまでも勝利宣言→相手を荒らし扱いで「スルーしよう」呼びかけ、逃亡


このパターン何回目だ?w
早く>>660に答えてくれよ〜妄想君
665本当にあった怖い名無し:2012/09/01(土) 01:14:57.68 ID:TpeSvGzA0
師匠シリーズが実話かどうかってのは「怪物」にあった少女が母親に殺されて
ゴミ袋に入れられるって話で判るだろ
そんな事件あったら20年前でも忘れねぇよ
地方ローカル紙でおさまる事件じゃねぇ

登場人物や話にモデルがあったかもしれんが、その殆どの大半は発表向けの創作だ
666本当にあった怖い名無し:2012/09/01(土) 01:19:25.69 ID:JQD2B7700
師匠の話はまぁ置いておくとして、「師匠の師匠」は創作だろうね
667本当にあった怖い名無し:2012/09/01(土) 09:53:15.99 ID:7CzXjtiN0
「将棋」が似ているのは偶然というのは無理がありすぎだろ
裁判になったら簡単に負けるレベル
元ネタのブログどこかで読んだけどまだ残ってるのかなあ
668空を歩く男  ◆oJUBn2VTGE :2012/09/01(土) 23:03:50.75 ID:itFWmvQ50
(この話は、2011年の夏コミの時に、別サークルの同人誌に寄稿したものです)


師匠から聞いた話だ。


大学一回生の春だった。
そのころ僕は、同じ大学の先輩だったある女性につきまとっていた。もちろんストーカーとしてではない。
初めて街なかで見かけたとき、彼女は無数の霊を連れて歩いていた。子どもの頃から霊感が強く、様々な恐ろしい体験をしてきた僕でも、その超然とした姿には真似の出来ない底知れないものを感じた。
そしてほどなくして大学のキャンパスで彼女と再会したときに、僕の大学生活が、いや、人生が決まったと言っても過言ではなかった。しかし言葉を交わしたはずの僕のことは、全く覚えてはいなかったのだが。
『どこかで見たような幽霊だな』
顔を見ながら、そんなことを言われたものだった。
そして、綿が水を吸うように、気がつくと僕は彼女の撒き散らす独特の、そして強烈な個性に、思想に、思考に、そして無軌道な行動に心酔していた。
いや、心酔というと少し違うかも知れない。ある意味で、僕の、すべてだった。
師匠と呼んでつきまとっていたその彼女に、ある日こんなことを言われた。
「空を歩く男を見てこい」
そらをあるくおとこ?
一瞬きょとんとした。そんな映画をやっていただろうか。いや、師匠の言うことだ。なにか怪談じみた話に違いない。
その空を歩く男とやらを見つければいいのか。
「どこに行けばいいんですか」と訊いてみたが、答えてくれない。なにかのテストのような気がした。ヒントはもらえないということか。
「わかりました」
そう言って街に出たものの、全く心当たりはなかった。
空を歩く男、というその名前だけでたどりつけるということは、そんな噂や怪談話がある程度は知られているということだろう。
正式な配属はまだだが、すでに出入りしていた大学の研究室で訊き込みをしてみた。
669空を歩く男  ◆oJUBn2VTGE :2012/09/01(土) 23:06:25.24 ID:itFWmvQ50
地元出身者が多くないこの大学で、同じ一回生に訊いても駄目だ。地元出身ではなくとも、何年もこの土地に住んでいる先輩たちならば、そんな噂を聞き及んでいるかも知れない。
「空を歩く男、ねえ」
何人かの先輩をつかまえたが、成果はあまり芳しくなった。なにかそんな名前の怪談を聞いたことがある、というその程度だった。内容までは分からない。
所属していたサークルにも顔を出してみたが、やはり結果は似たりよったりだった。
さっそく行き詰った僕は思案した。
空を歩く、ということは空を飛ぶ類の幽霊や妖怪とは少しニュアンスが違う。しかも男、というからには人間型だ。他の化け物じみた容姿が伴っているなら、その特徴が名前にも現れているはずだからだ。
想像する。
直立で、なにもない宙空を進む男。
それは、なにか害をもたらすことで恐れられているようなものではなく、ただこの世の理のなかではありえない様に対してつけられた畏怖の象徴としての名前。
空を歩く男か。
それはどこに行けば見られるのだろう。空を見上げて、街じゅうを歩けばいつかは出会えるのだろうか。
近い怪談はある。例えば部屋の窓の外に人間の顔があって、ニタニタ笑っている。あるいはなにごとか訴えている。
しかしそこは二階や三階の高い窓で、下に足場など無く、人間の顔がそんな場所あっていいはずがなかった、というもの。
かなりメジャーで、類例の多い怪談だ。
しかし、空を歩く男、という名前の響きからは、なにか別の要素を感じるのだ。
結果的に空を歩いていたとしか思えない、というものではなく、空を歩いている、というまさにその瞬間をとらえたような直接的な感じがする。
…………
そらをあるくおとこ。
そんな言葉をつぶやきながら、数日間を悶々として過ごした。

            ◆

「知ってるやつがいたよ」
と教えてくれたのは、サークルの先輩だった。同じ研究室に、たまたまその話を知っている後輩がいたらしい。
670空を歩く男  ◆oJUBn2VTGE :2012/09/01(土) 23:09:40.92 ID:itFWmvQ50
さっそく勢いこんで研究室に乗り込んだ。
「ああ、空を歩く男ですよね」
「知ってる知ってる」
僕と同じ一回生の女の子だった。それも二人も。どちらも地元出身で、しかも市内の実家に今も住んでいるらしい。
優秀なのだろう。うちの大学の学生で、地元出身の女性はたいてい頭がいいと相場決まっている。女の子だと、親があまり遠くにやりたくないと、近場の大学を受けさせる傾向がある。
その場合、本来もう少し高い偏差値の大学を狙えても、地元を優先するというパターンが多い。そんな子ばかりが来ているのだ。つまりワンランク上の偏差値の頭を持っている子が多いということになる。
「なんだっけ。幸町の方だったよね」
「そうそう。うちの高校、見たって子がいた」
「高校に出るんですか」
「違う違う。幸町だって。高校の同級生がそのあたりで見たの」
バカを見る眼で見られた。説明の仕方にも問題がある気がするのだが。
とにかく聞いた話を総合すると、このようになる。
『空を歩く男』はとある繁華街で、夜にだけ見られる。
なにげなく夜空を見上げていると、ビルに囲まれた狭い空の上に人影が見えるのだ。
おや、と目を凝らすとどうやらその人影は動いている。商店のアドバルーンなどではない。ちゃんと、足を動かして歩いているのだ。
しかしその人影のいる位置は周囲のビルよりさらに高い。ビルの間に張られたロープで綱渡りしているわけでもなさそうだった。
やがてその人影はゆっくりと虚空を進み続け、ビルの上に消えて見えなくなってしまった。明らかにこの世のものではない。
その空を歩く男を見てしまった人には呪いがかかり、その後、高いところから落ちて怪我をしたり、もしくは高いところから落ちてきたものが頭に当たったりして怪我をするのだという。
「その見たっていう同級生も怪我をした?」
「さあ。どうだったかなあ」
首を捻っている。
どうやら最後の呪い云々は怪談につきもののオマケようなものか。
671空を歩く男  ◆oJUBn2VTGE :2012/09/01(土) 23:11:05.06 ID:itFWmvQ50
伝え聞いた人が誰かに話すとき、そういう怪異があるということだけでは物足りないと思えば、大した良心の呵責もなく、ほんのサービス精神でそんな部分を付け足してしまうものだ。
ツタンカーメン王の墓を暴いた調査隊のメンバーが次々と怪死を遂げたという『ファラオの呪い』は有名だが、実際には調査隊員の死因のみならず、死んだということさえ架空の話である。
その『呪い』はただの付け足された創作なのだ。発掘調査に関わった二十三人のその後の生死を調査したグループの研究では、発掘後の平均余命二十四年、死亡時の平均年齢七十三歳という結果が出ている。
なにも面白いことのない数字だ。
しかし、そんな怪異譚を盛り上げるための誇張やデタラメはあったとしても、ハワード・カーターを中心に彼らが発掘したツタンカーメン王の墓だけは真実である。
空を歩く男はどうだろうか。
そんな人影を見た、ということ自体は十分に怪談的だけれども、どこか妙な感じがする。
因縁話も絡まず、教訓めいた話の作りでもない。そこから感じられる恐ろしさは、その後のとってつけたような怪我にまつわる後日談からくるものではないだろうか。
なんだか本末転倒だ。つまり肝心の前半部分が、創作される必然性がないのである。
すべての要素が、こう告げている。
『空を歩く男は、実際に観測された』と。
その事実から生まれた怪談なのではないだろうか。
錯覚や、なにかのトリックがそこにはあるのかも知れない。
話を聞かせてくれた二人に礼を言って、僕は実際にその場所へ行ってみることにした。

            ◆

平日の昼間にその場所に立っていると変な感じだ。
繁華街の中でも飲み屋の多いあたりだ。研究室やサークルの先輩につれられて夜にうろつくことはあったが、昼間はまた別の顔をしているように感じられた。
表通りと比べて人通りも少なく、店もシャッターが閉まっている所が多い。道幅も狭く、少し寂しい通りだった。
なるほど。どのビルも大通りにあるビルほどは高くない。良くて四階、五階というところか。
672空を歩く男  ◆oJUBn2VTGE :2012/09/01(土) 23:13:47.16 ID:itFWmvQ50
聞いた話から想像すると、この東西の通りの上空を斜めに横断する形で男は歩いている。恐らくは北東から南西へ抜けるように。
その周囲を観察したが、特に人間と見間違えそうなアドバルーンや看板の類は見当たらなかった。
当然昼間からそれらしいものが見えるわけもなく、僕は近くの喫茶店や本屋で日が暮れるまでの間、時間をつぶした。
太陽が沈み、会社員たちが仕事を終えて街に繰り出し始めると、このあたりは俄かに活気づいてくる。店の軒先に明かりが灯り、陽気な話し声が往来に響き始める。
その行き交う人々の群の中で一人立ち止まり、じっと空を見ていた。
曇っているのか月の光はほとんどなく、夜空の向こうにそれらしい影はまったく見えなかった。
仮に…… と想像する。
この東西の通りでヘリウムが充満した風船を持ち、その紐が十メートル以上あったら。その風船が人間を模した形をしていたら。そして紐が一本ではなく両足の先に一本ずつそれぞれくっついていたとしたら。
下から紐を操ることで人型の風船がまるで歩いているよう見えないだろうか。
今日と同じように月明かりもなく、下から強烈に照らすような光源もなければ、周囲のビルよりも遥かに高い場所にあるその風船を、本物の人影のように錯覚してしまうことがあるのではないだろうか。
その人影に気づいた人は驚くだろう。そしてそちらにばかり気をとられ、その真下の雑踏で不審な動きをしている人物には気づかないに違いない。
誰がなぜそんなことを? という新たな疑問が発生するが、とりあえずはこれで再現が可能だという目星はついた。
結局その後小一時間ほどうろうろしてから、飽きてしまったのでその日はそれで帰ったのだった。
次の日、師匠にそのことを報告すると、呆れた顔をされた。
「情報収集が足らないな」
「え?」
「風船かも知れないなんて、誰でも思いつくよ」
師匠は自分のこめかみをトントンと指で叩いて見せる。
「だいたい人影は最終的に通りのビルを越えてその向こうに消えてるんだ。下から操っている風船でどう再現する?」
673本当にあった怖い名無し:2012/09/01(土) 23:15:40.24 ID:lRZDfxj+O
ウニきたー!
674空を歩く男  ◆oJUBn2VTGE :2012/09/01(土) 23:16:30.24 ID:itFWmvQ50
あ。
そのことを失念していた。今さらそれを思い出して焦る。
「ちゃんと噂を集めていけば、その人影を見た人間が呪われて、高い所から落ちて怪我をするというテンプレートな後日譚が、別の噂が変形して生まれたものだと気がつくはずなんだ」
「別の噂?」
空を歩く男の話にはいくつかのバージョンがあるのだろうか。
「あの通りでは、転落死した人が多いんだよ。飲み屋街の雑居ビルばかりだ。酔っ払って階段から足を踏み外したり、低い手すりから身を乗り出して下の道路に落下したり。
何年かに一度はそんなことがある。そんな死に方をした人間の霊が、夜の街の空をさまよっているんだと、そういう噂があるんだ」
しまった。
たった二人から聞いて、それがすべてだと思ってしまった。怪談話など、様々なバリエーションがあってしかるべきなのに。
あと一度しか言わないぞ。
そう前置きして、師匠は「空を歩く男をみてこい」と言った。
「はい」情けない気持ちで、そう返事をするしかなかった。

             ◆

それから一週間、調べに調べた。
最初に話を聞かせてくれた同じ一回生の子に無理を言って、その空を歩く男を見たという同級生に会わせてもらったり、他のつても総動員してその怪談話を知っている人に片っ端から話を聞いた。
確かに師匠の言うとおり、あの辺りでは転落事故が多いという噂で、それがこの話の前振りとして語られるパターンが多かった。
実際に自分が目撃したという人は、その最初の子の同級生だけだったが、あまり芳しい情報は得られなかった。
夜にその東西の通りでふと空を見上げたときに、そういう人影を見てしまって怖かった、というだけの話だ。
それがどうして男だと分かったのか、と訊くと『空を歩く男』の怪談を知っていたからだという。
675空を歩く男  ◆oJUBn2VTGE :2012/09/01(土) 23:19:22.75 ID:itFWmvQ50
最初から思い込みがあったということだ。暗くて遠いので顔までは当然見えないし、服装もはっきり分からなかった。ただスカートじゃなかったから……
そんな程度だ。見てしまった後に、呪いによる怪我もしていない。
ただ記憶自体はわりとはっきりしていて、彼女自身が創作した線もなさそうだった。その正体がなんにせよ、彼女は確かになにかそういうものを見たのだろう。
これはいったいなんだろうか。
本物の幽霊だとしたら、どうしてそんな出方をするのだろう。地上ではなく、そんな上空にどうして?
霊の道。
そんな単語が頭に浮かんだ。霊道があるというのだろうか。なぜ、そんな場所に? 少しぞくりとした。見るしかない。自分の目で。考えても答えは出ない。
僕はその通りに張り付いた。日暮れから、飲み屋が閉まっていく一時、二時過ぎまで。しかし同じ場所に張っていても、周囲を練り歩いても、それらしいものは見えなかった。
焦りだけが募った。
死者の気持ちになろうともしてみた。あんなところを歩かないといけない、その気持ちを。
気持ちよさそうだな。
思ったのはそれだけだった。
目に見えない細い細い道が、暗い空に一本だけ伸びていて、その道から落ちないようにバランスをとりながら歩く……
落ちれば地獄だ。かつて自分が死んだ、汚れた雑踏へ急降下し、その死を再び繰り返すことになる。
落ちてはいけない。
では落ちなければ?
落ちずに道を進むことができれば、その先には?
人の世界から離れ、彼岸へ行くことができるということか。そんな寓意が垣間見えた気がした。
その通りに張り付いて二日目。
僕は少し作戦を変えて、飲み屋街のバーに客として入った。そこで店を出している人たちならば、この空を歩く男の噂をもっとよく知っているかも知れないと思ったのだ。
676空を歩く男  ◆oJUBn2VTGE :2012/09/01(土) 23:23:22.41 ID:itFWmvQ50
仕送りをしてもらっている学生の身分だったので、あまり高い店には行けない。
女の子がつくような店ではなく、カウンターがあって、そこに座りながらカクテルなどを注文し、飲んでいるあいだカウンター越しにマスターと世間話が出来る。そんな店がいい。
このあたりでは居酒屋にしか入ったことがなかったので、行き当たりばったりだ。とにかくそれっぽい店構えのドアを開けて中に入った。
薄暗い店内には古臭い横文字のポスターがそこかしこに張られていて、気取った感じもなくなかなか居心地が良さそうだった。控えめの音量でオールディーズと思しき曲がかかっている。
お気に入りのコロナビールがあったのでそれを注文し、気さくそうな初老のマスターにこのあたりで起こる怪談話について水を向けてみた。
聞いたことはある、という返事だったが実際に見たことはないという。入店したときにはいた、もう一人の客もいつの間にかいなくなっていたので、仕方なくビール一杯でその店を出る。
それから何軒かの店をハシゴした。
マスターやママ自身が見たことがある、という店はなかったが、従業員の中に一人だけ目撃者がいた。そしてそれとなく店内の常連客に話を振ってくれて、「そう言えば、昔見たことがあるなあ」という客も一人見つけることができた。
しかし話を聞いても、どれも似たり寄ったりの話で、結局その空を歩く男の正体もなにも分からないままだった。
せめて、どういう条件下で現れるのか推測する材料になれば良かったが、話を聞いた二人とも日付や天気の状況などの記憶が曖昧で、見た場所も人影が進んだ方角もはっきりとしなかった。
ただ、夜中に足場もなにもない非常に高い上空を歩く人影を見た、ということだけが一致していた。そして特にその後、事故などには遭わなかったということも。
一軒一軒ではそれほど量を飲まずに話だけ聞いて退散したのだが、聞き込みの結果が思わしくなく、ハシゴを重ねるごとに酔いが回り始めた。
何軒目の店だったか、それも分からなくなり、かなり酩酊した僕がその地下にあったロカビリーな店を出た頃にはもう日付が変わっていた。
「ちくしょう」
677本当にあった怖い名無し:2012/09/01(土) 23:24:52.41 ID:lRZDfxj+O
支援
678空を歩く男  ◆oJUBn2VTGE :2012/09/01(土) 23:24:58.38 ID:itFWmvQ50
という、酔っ払いが良く口にする言葉を誰にともなく吐き出しながら、ふらふらと狭い階段を上り、地上に出る。
空を見上げても暗闇がどこまでも広がっているだけで、何の影も見当たらなかった。そのときだった。
「にいさん、にいさん」
そう後ろから声を掛けられた。
振り返ると、よれよれのジャケットを着た赤ら顔の男が手のひらでこちらを招く仕草をしている。
「なんです」
このあたりでは尺屋、という民家の一室を使った非合法の水商売があるのだが、一瞬、その客引きではないかと思ったが、しかしこう酔っ払っていては仕事になるまい。
「さっき、中であの怪談の話をしてたろう」
ああ、なんださっきの店にいた客か。しかしどうしてわざわざ店を出てから声をかけてくるんだ?
そんなことを考えたが、それ以上頭が回らなかった。
「だったら、なんれす」ろれつも回っていない。
「知りてえか」
「なにお」
「空の、歩きかた」
男は酒焼けしたような赤い顔を近づけてきて、確かにそう言った。
「いいですねえ。歩きましょう!」
「そうか。じゃあついてきな」
ふらふらとしながら男は、まだ酔客の引かない通りを先導して歩き出した。五十歳くらい、いやもう少し上だろうか。
変なおっさんだ。
さっきロカビリーな髪型のマスターが他の客に声をかけても、誰もそんな怪談話を知らなかったのに。なんであのとき黙ってたんだ。あれ? そもそもあんなオッサン、店にいたかな。
そんなことを考えていると、おっさんが急に立ち止まり、また顔を近づけてきてこう言った。
「あそこにはな、道があるんだ。目に見えない道が。でも普通の人じゃあ、まずたどり着けないのさあ」
679空を歩く男  ◆oJUBn2VTGE :2012/09/01(土) 23:26:43.71 ID:itFWmvQ50
おや?
おっさんの言葉ではなく、なにか別の、違和感があった気がした。
正面から顔を見ると、頬は肉がタブついていて、はみ出した鼻毛と相まってだらしない印象だった。しかしどこか愛嬌のある顔立ちだ。
そのどこに違和感があったのだろう。まあ、いいや。
アルコールがいい感じに脳みそを痺れさせている。
「周りのビルより高い場所だ。そんなところに道なんてあるわけがない。そう思うだろ。でもなあ、そうじゃあないんだ。あの道はな……」
「北の通りの、高層ビルからでしょう」
おっさんは驚いた顔をした。
「おおよぅ。わかってんじゃねえか兄ちゃん」
そうなのだ。
この東西の通りに面したビルは高くとも四、五階だ。しかし離れた通りのビルにはもっと高いものがある。その北の通りに面した高層ビルから伸びているのだ。その空の道は。
酔いにかき回された頭が、ようやくそんな単純な答えにたどり着いていた。
そしてもっと南の通りにも高いビルがある。そこまで伸びているのか。あるいは、そのまま人の世界ではない、虚空へと伸びていく道なのか。
「霊道なんでしょう」
負けじと顔をおっさんの鼻先に突き出す。しかしおっさんは、にやりと笑うと「違うねえ」と言った。
「本当に道があるんだよ。いいからついてきな。知ってるやつじゃなきゃ絶対に分からない、あそこへ行く道が、一本だけあるんだ」
そしてまた頼りない足取りで繁華街を進んでいく。
なんだこのおっさんは。意味がわからない。しかしなんだか楽しくなってきた。
「さあ、こっちだ」
おっさんは三叉路で南に折れようとした。
「ちょっとちょっと、北の通りでしょ。そっちは南」
たぶん目的地は北の大通りの、屋上でビアガーデンをやっているビルだ。方向が違う。
しかしおっさんは不敵な笑みを浮かべて人差し指を左右に振った。
「北に向かうのに、そのまま北へ向かうってぇ常識的な発想が、この道を見えなくしてんだよ」
680本当にあった怖い名無し:2012/09/01(土) 23:30:12.40 ID:saRQQO7WP
ウニさんきたああああああ
支援!支援!
681本当にあった怖い名無し:2012/09/01(土) 23:33:53.87 ID:mm1Og2tn0
支援とか阿呆か
682空を歩く男  ◆oJUBn2VTGE :2012/09/02(日) 00:04:30.97 ID:xOvjnYct0
そんなことを言いながらふらふらと南の筋に入り、やがてその通りにあったビルとビルの隙間の細い路地へ身体をねじ込み始めた。太り気味の身体にはいかにも窮屈そうだった。
だめだ。酔っ払いすぎだ、これは。
「いいから、ついてこい。世界は折り重なってんだ。同じ道に立っていても、どこからどうやってそこへたどり着いたかで、まったく違う、別の道の先が開けるってこともあるんだ」
うおおおおおおおおお。
そんなことを勢い良くわめきながら、おっさんは雑居ビルの狭間へ消えていった。なんだか心魅かれるものがあった僕も、酒の勢いを駆ってついていく。
それから僕とおっさんは、廃工場の敷地の中を通ったり、古いアパートの階段を上って、二階の通路を通ってから反対側の階段から降りたり、
居酒屋に入ったかと思うと、なにも注文せずにそのまま奥のトイレの窓から抜け出したりと、無茶苦茶なルートを進みながら少しずつまた北へ向かい始めた。
ますます楽しくなってきた。街のネオンがキラキラと輝いて、すべてが夢の中にいるようだった。
気がつくと、また最初の幸町の東西の通りに戻っていた。随分と遠回りしたものだ。
「どうやって知ったんですか、この空への道」
「ああん?」
先を歩くおっさんの背中に問い掛ける。
「おれも、教えてもらったのよ」
「誰から」
「知らねえよ。酔っ払った、別の誰かさぁ」
おっさんも別の酔っ払いから聞いたわけだ。その酔っ払いも別の酔っ払いから聞いたに違いない。空を歩く道を!
その連鎖の中に僕も取りこまれたって、わけだ。光栄だなあ。僕も空を歩くことができたら、今度は師匠にもその道を教えてやろう。
そんなことを考えてほくそ笑んでいると、おっさんは薄汚れた雑居ビルの階段をよっちらよっちらと上り始めた。ほとんどテナントが入っていない、古い建物だった。
最上階である四階のフロアまで上がると、奥へ伸びる通路を汚らしいソファーやらなにかの廃材などが塞いでいた。
683空を歩く男  ◆oJUBn2VTGE :2012/09/02(日) 00:05:27.69 ID:itFWmvQ50
「おい、通れねえぞ」
おっさんがわめいて僕に顎をしゃくって見せるので、仕方なく力仕事を買って出て、障害物を取り除いた。
また気分よくおっさんは鼻歌をうたいながら通路を進む。やけに長い通路だった。さっきの東西の通りから、一本奥の通りまでぶち抜いているビルなのかも知れない。
その鼻歌はなにか、酒に関する歌だった。どこかで聞いたことはあるが、世代の古い歌だったので、タイトルまでは思い出せなかった。
なんだっけ?
酒の、酒が、酒と。
そんなことを考えていると、ふいに、頭に電流が走ったような衝撃があった。
あ。
そうか。
違和感の正体が分かった。
急に立ち止まった僕に、おっさんは振り返ると「どうした、にいちゃん」と声をかけてくる。
そうか。あの時感じた違和感。おっさんが僕に顔を近づけて、あそこには目に見えない道がある、と言ったときの。
あれは……
足が震え出した。そしてアルコールが頭から急に抜け始める。
「どうしたぁ。先に行っちまうぞ」
その暗い通路は左右を安っぽいモルタル壁に囲まれ、遠くの非常灯の緑色の明かりだけがうっすらと闇を照らしていた。
おっさんはじりじりとして、一歩進んで振り返り、二歩進んで振り返り、という動きしている。
僕はアルコールが抜けていくごとに体温も奪われていくのか、猛烈な寒気に襲われていた。
そうだ。
おっさんは、息がかかるほど顔を突き出したのに、酒の匂いがしなかった。あの赤ら顔で、千鳥足で、バーから出てきたばかりなのに。そのバーに、そもそもあのおっさんはいなかった。
今日ハシゴした他の店にも。客からあの話を訊くことも目的だったので、すべての店でどんな客がいるか観察していたはずなのだ。
なのに、おっさんは僕が空を歩く男の話を訊いて回っていたことを知っていた。まるで目に見えない客として、あのいずれかのバーにいたかのように。
684空を歩く男  ◆oJUBn2VTGE :2012/09/02(日) 00:07:40.66 ID:xOvjnYct0
「どうした」
声が変わっていた。
おっさんは冷え切ったような声色で、「きなさい」と囁いた。
ガタガタ震えながら、首を左右に振る。
通路の暗闇の奥で、おっさんの顔だけが浮かんで見える。
沈黙があった。
そうか。
小さな声がすうっと空気に溶けていき、その顔がこちらを向いたまま暗闇の奥へと消えていった。
それからどれくらいの時間が経ったのか分からない。
金縛りにあったかのようにその場で動けなかった僕も、外から若者の叫び声が聞こえた瞬間に、ハッと我に返った。酔っ払った仲間がゲロを吐いた、という意味の、囃し立てるような声だった。
僕は気配の消えた通路の奥に目を凝らす。
そのとき、頬に触れるかすかな風に気がついた。その空気の流れは前方からきていた。
三メートルほど進むと、その先には通路の床がなかった。一メートルほどの断絶があり、その先からまた通路が伸びていた。
ビルとビルの隙間に、狭い路地があった。長く感じた通路は、一つのビルではなく二つのビルから出来ていた。
崖になっている通路の先端には、手すりのようなものの跡があったが、壊されて原型を留めていなかった。向こう側の通路の先も同じような状態だった。
知らずに手探りのまま足を踏み出していれば、この下の路地へ落下していただろう。四階の高さから。
生唾を飲み込む。
最後に「きなさい」と言ったおっさんの顔は、あの断絶の向こう側にあった。
そうか。僕は導かれていたのだ。折り重なった、異なる世界へ。
ビルとビルの狭間へ転落する僕。そして別の僕は、自分が死んだことにも気づかず、そのまま通路を通り抜け、導かれるままに秘密の道を潜り、あの空への道へと至るのだ。高層ビルの屋上から、足を踏み出し……
そこは壮観な世界だろう。
遥か足元にはネオンの群れ。大小の雑居ビルのさらに上を通り、酔客たちの歩く頭上を、気分良く歩いて進む。
685空を歩く男 ラスト  ◆oJUBn2VTGE :2012/09/02(日) 00:08:48.45 ID:xOvjnYct0
夜の闇の中に、目に見えない一筋の道がある。それは折り重なった別の世界の住民だけにたどることの出来る道なのだ。
はあ。
闇の中に冷たい息を吐いた。
僕はビルの階段を降り、通行人の減り始めた通りに立った。もう夜の底にわだかまった熱気が消えていく時間。人々がそれぞれの家へ足を向け、ねぐらへと帰る時間だ。遠くで二度三度と勢いをつけながらシャッターを閉めている音が聞こえる。
そして僕は振り仰いだ星の見えない夜空に、空を歩く男の影を見た。

           ◆

「殺す気だったんですか」
師匠にそう問い掛けた。
そうとしか思えなかった。師匠はすべて知っていたはずなのだ。かつての死者が新しい死者を呼ぶ、空へ続く道の真相を。
いくらなんでも酷い。
そう憤って詰め寄ったが、そ知らぬ顔で「まあそう怒るな」と返された。
「まあ、ちゃんと見たんだから合格だよ。優良可でいうなら、良をあげよう」
なんだ偉そうにこの人は。ムカッとして思わず睨むと、逆に寒気のするような眼に射すくめられた。
「じゃあ、優はなんだっていうんですか」
僕がなんとか言い返すと、師匠は暗い、光を失ったような瞳をこちらに向けて、ぼそりと囁く。
「わたしは、空を歩いたよ」
そして両手を、両手を羽ばたくように広げて見せた。
うそでしょう。そんな言葉を口の中で転がす。
「臨死体験でもしたって言うんですか」
僕が訊くと、師匠は「どうかな」と言って笑った。
686本当にあった怖い名無し:2012/09/02(日) 00:20:08.75 ID:h+7cY2I20
おつうううううううううううううう!!!
687本当にあった怖い名無し:2012/09/02(日) 03:02:15.67 ID:Xr4uA89Z0
あ、ウニさんだ♪拝読拝読〜
688本当にあった怖い名無し:2012/09/02(日) 05:46:02.11 ID:dO4h3p200
>>668-685
ウニさん乙っす。
689本当にあった怖い名無し:2012/09/02(日) 13:13:17.33 ID:9wNDdzbE0
おk
690本当にあった怖い名無し:2012/09/02(日) 13:25:35.83 ID:uGb2FiD90
ウニおつ
691本当にあった怖い名無し:2012/09/03(月) 15:59:19.85 ID:hQHaglvQ0
ウニさん待ちです
692本当にあった怖い名無し:2012/09/03(月) 18:00:57.52 ID:OL2Q2Y0p0
もう本物は来ないよ
693本当にあった怖い名無し:2012/09/03(月) 23:22:59.54 ID:A3M3e2R70
おk
694本当にあった怖い名無し:2012/09/04(火) 14:13:07.65 ID:n1rfaEil0
ウニ、はっきり創作かどうかもう一度宣言してくれよ
695本当にあった怖い名無し:2012/09/04(火) 17:40:17.17 ID:lOP8CJk70
ウニさん待ちです
696本当にあった怖い名無し:2012/09/05(水) 14:40:51.48 ID:J+1Pn3Eq0
亀だけど>>651みたいな人って迷惑だわ
荒らしにかまうし、的外れな指摘して反撃に遭って涙目で逃亡するし
散々やり合った後で「アホは放置で」ってそれこそアホだし
放置なら放置、やり合うなら徹底的に論破するかどっちかにしてくれ
697赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/09/07(金) 15:46:56.76 ID:M9IbaX240
[話をしてはいけない]

1/11
いけない――

遅めの昼食後、自室で本を読み、少しまどろんでいた時に"それ"は降りてきた。
心の片隅で気にかけていた事が幸いだったのかもしれない。
とにかく急がないと――

そう思い、私は部屋の呼び鈴を鳴らす。
…と、すぐに彼が来てくれる。

明「紗希、どうした?」
滅多に使わない、ベッド脇の呼び鈴。
それが鳴った事で心配そうな顔をしている。

私「すぐに一乃守に行って」
明「一乃守?…分かった!」
何かしらの緊急事態だと察してくれたのだろう。
理由も聞かず、急いで部屋を出て行く明君。

説明は後でも出来る。
今はとにかく急いでほしい。

そうしないと、2人が――
698赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/09/07(金) 15:49:35.10 ID:M9IbaX240
2/11
――
舞さんに似ているな、と思った。
美加も同じように思ったみたいで、隣で一瞬息を呑んだのが分かった。

レザーのロングコートを着た、髪の長い女性。
紗希ちゃんと同じくらいの長さかな…と思い、そういえば紗希ちゃんにも似ているな、と気付く。

美加「あの…」
女性「ごめんなさいね、突然会話に割り込んじゃって」

ゆっくり近付いて来ながら、その女性が言う。
2つ3つ年上かな?背丈は私たちと同じくらいで…紛れもなく美人さんだ。

美加「あぁ、いえ…えっと、このお社のことですか?」
女性「そうよ。1785年に造られたものよね」
美加「そうみたいです。何かご存知なんですか?」
1人で普通に受け答えをする美加。

女性「先日ここを通ったときに見つけて、ちょっと気になったから調べてみたの」
美加「あ、じゃあ私たちと同じですね」

私を置いて話をする美加。
何だかいつもと違うなと思い、すぐにその意図に気付く。
美加はきっと、こう考えているのだ。
「私が話をしているから、古乃羽はよく見ていてね」と。
699赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/09/07(金) 15:50:42.95 ID:M9IbaX240
3/11
美加「私、美加って言います。彼女は古乃羽。2人で散歩していて、これを見つけたんです」
自分の名前くらい自分で言うよぉと思いつつ、私は変に思われない程度に目の前に立ったその女性を見つめる。

うーん、どこから見ても普通の人だけど――

女性「私は、舞」

…えっ?

その瞬間、目の前の空気がゆらりと揺れた。
風が吹いた訳ではなく、その女性の周りの空気が蜃気楼のように一瞬だけ揺れるのが見えた。

美加「え…」

舞「何か?」
そう言って、小首を傾げる…舞さん。

やだ、この仕草もまるで――

美加「あ…っと…、あの、すみません。知り合いと同じ名前だったので…」
動揺を隠せず、たどたどしく答える美加。
700赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/09/07(金) 15:52:46.94 ID:M9IbaX240
4/11
舞「あら、そうなの」

…何の他意も感じない。異常も見えない。

舞という名前も、小首を傾げる仕草も、珍しいものではない。
外見もよくよく見てみるとそっくりということもなく…やはりどちらかと言うと、紗希ちゃんに似ている気がする。

…何でもないのかな?

見ず知らずの人を変に疑って、疑惑の目を向けるのも悪い気がする。
少しだけ注意はして…こちらも普通に接するべきだろうな。

私「あの、お社について何か?」
舞「えぇ。造られた…建てられた、って言った方がいいのかしら?その年に何があったのか調べてみたの」
私たちが、丁度しようと思っていたことだ。

舞「そうしたら――1785年天明5年、その年に始まった訳ではないのだけど、2,3年ほど前から全国である厄災が起きていたの」
美加「…どんな?」

舞「飢饉よ」
701赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/09/07(金) 15:54:56.19 ID:M9IbaX240
5/11
飢饉…?

…あ。

私「天明の大飢饉?」
舞「そう言われているわね」
美加「聞いたことがあるような、無いような…」
私「中学で習ったでしょ?」
美加「あぁ…あれ、ね。うんうん」
確実に分かっていないナ。

天明の大飢饉は、江戸時代に起きた、全国各地で多数の死者が出た大飢饉だ。
…でもその時にこのお社が建てられたとして、その理由は?

私「あの、このお社、一乃守と言って…この町には他に六乃守まであるそうなのですけど、それは…」
舞「そうね。町の出入り口にそれぞれあるわね」
調べたというのだから、流石にそれは知っているか。

私「えっと、その町の出入り口にあるというのが、「町を守るため」って聞いて…」
舞「そうみたいね」
私「その…飢饉があったときに町を守るため、って言うと、理由は…?」
702赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/09/07(金) 15:56:46.59 ID:M9IbaX240
6/11
美加「食糧難だし、単純に町の食べ物を守るためじゃない?」
何が疑問なの?という感じで美加が言う。

私「うーん…」
食糧難の時代。
当然、食べ物を巡っての争いはあっただろうし、この町にも略奪目的で人が来ることがあっただろうとは思う。
でも――

私「お社で守れるものなのかなぁ…」

悪い病気が入ってこないように祈りを込めて作った、というのなら分かる。
でも、人が入ってこないように作ったというのは、ちょっと理解し難い。
食べ物が無くて生きるか死ぬかという時に、このお社を見て、町に入るのは止めようという人が居るとは思えない。

美加「あぁ、そっか。神頼みで何とかなるものでもないよねぇ」
美加も同じように考えたみたいだ。

私「うーん…」
美加「うーん…」
何だか余計分からなくなってきて、2人して悩んでしまう。
…というところで、舞さんがこんな事を言った。

舞「神頼みではなく、人頼みだったのよ」
703赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/09/07(金) 15:58:46.12 ID:M9IbaX240
7/11
私「人頼み?」
何だかあまり聞きなれない言葉だ。

舞「そう。このお社は、人が使うために建てられたのよ」
…使う?
お社に対して、それを"使う"何て…普通は言わない気がする。

私「それは、どんな…?」
私が問い掛けると、舞さん(やっぱり何だか、こう呼ぶのは抵抗がある…)は、ニコリと微笑む。
その笑顔は…いや、この"微笑み方"は、あの舞さんに似ている――

舞「ここは当時、食糧難にはならなかったの」
私「え?」
舞「なぜなら、飢饉が来ることが分かっていたから」

…分かっていた?

舞「だから予め食糧を貯めこんでいて…それ故に、それを守らなければならなかった」

淡々と話をする舞さん。
その様子は…似ている。

何だろう。
別人であることは確かなのに、その雰囲気や仕草、微笑み方や話し方はそっくりだ。
704赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/09/07(金) 16:00:35.39 ID:M9IbaX240
8/11
「本物と偽物」
そんな言葉が頭に浮かぶ。

こんなことは、人に対して考えてはいけないことだけど――
私はこーくんのお姉さんに先に会っているから、目の前の舞さんは「似ている人」で、「偽物」に見える。
でももし、目の前の舞さんに先に会っていたら?
この人が「本物」で、お姉さんは…

そんな悪い考えが頭に浮かんでくる。
すごく嫌な考え方で、自己嫌悪に陥りそうな――

美加「何故、分かっていたのですか?」
黙ってしまった私を見てか、美加が質問をする。

…そうだ。今はその話だ。
何故、飢饉が来ることが分かっていたのか。

舞「それについては少し特別な事があって…信じてもらえると良いのだけど」
美加「…どんな?」
少し困ったような顔をする舞さんに、美加が聞く。
705赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/09/07(金) 16:02:14.92 ID:M9IbaX240
9/11
そのときまた、”揺れ”が見えた。
ほんの一瞬だけ、ゆらりと空気が揺れる。
ただの眩暈なのか、何なのか…

舞「この町には、昔から――」
軽く微笑んでから口を開く舞さん。
注目する私と美加。

――しかしその言葉はすぐに途切れ…舞さんは少し首を上げ、遠くを見るような目をする。
どうしたのかな…?

舞「やっぱり、駄目ね…」
??
駄目…?

舞「2人とも…」
こちらに向き直る舞さん。

舞「本当の事は、私が教えてあげるからね」
そしてそう言うと、クルリと後ろを向いて去っていく。

あまりに急なことに、私たち2人はポカーンとしてそれを見送った。
706赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/09/07(金) 16:04:09.13 ID:M9IbaX240
10/11
――
私「えーっと…」
思わず首をひねってしまう。

美加「うーん…」
美加も同じように、ハテナといった表情。

話を聞かせてくれると思いきや、突然去っていってしまった。
なんだか狐につままれたような感じで、一体…

声「おーい」

美加「ん?」
後ろから…舞さんが立ち去った方向とは、逆の方向から声が聞こえてくる。
今の声は?と思い振り返ってみると、道の先から明君が駆けてくる。

私「明君?」
明「2人とも、いた、か…」
駆け寄ってきて、ゼーゼーと息を切らせる明君。

私「どうしたの?」
明「あぁ…。ちょっと…待って」
そう言って明君は携帯を取り出し、どこかに掛ける。

明「今、着いたよ。…あぁ、居たよ。2人…ん?…聞いてみる」
こちらを向く明君。

明「ここには2人だけ?他に誰か居なかった?」
私「え…?」
707赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/09/07(金) 16:06:27.32 ID:M9IbaX240
11/11
私「ついさっきまで、もう1人居たけど…」
…何で?

明「そうか。…あぁ、居たみたいだ。…そうだな。…話を?…分かった」

今ここに居たあの人のことを、何か知っている…?

明「ごめんね、2人とも…。俺からじゃ上手く説明出来なくて」
美加「何かあったの?」
明「あぁ。それについて、紗希が話をしたいって言っているのだけど…今から時間平気かな?」

時間は…時計を見ると、15時前になっている。

私「うん、平気。美加も良いよね?」
美加「もちろん。何だかさっぱりだもん」
明「よかった。じゃあ…」
その旨、紗希ちゃんに連絡する明君。

そして私たちは再び、堀塚邸に行くことになった。



708本当にあった怖い名無し:2012/09/07(金) 19:05:09.80 ID:yq3ByA6K0
しねカス
709本当にあった怖い名無し:2012/09/07(金) 21:11:54.80 ID:oWOpjycGO
赤緑乙です
710本当にあった怖い名無し:2012/09/08(土) 01:43:22.04 ID:IkVjdabj0
上に同じ。
711本当にあった怖い名無し:2012/09/08(土) 07:04:43.27 ID:3dwXohSXO
>>708
ウニ乙
712本当にあった怖い名無し:2012/09/08(土) 07:12:04.49 ID:UFSw/sX1O
実話が読みたいわ
713本当にあった怖い名無し:2012/09/08(土) 11:33:56.90 ID:gAoFKqKwO
実生活でも2ちゃんでも他でも必ずいるんだけど霊なんか存在しないのに実話とか言う輩は全員死ねばいいよ
714本当にあった怖い名無し:2012/09/08(土) 14:10:16.36 ID:HJcoxR7s0
ここの住人8割女だろ
同人作家の取り巻きがこんな感じじゃん
715本当にあった怖い名無し:2012/09/08(土) 14:20:58.46 ID:UFSw/sX1O
オカ板のしかも存在討論スレでもないスレで霊信じない奴がどうたら言う奴が死ねばいいよ
716本当にあった怖い名無し:2012/09/08(土) 14:56:20.57 ID:gAoFKqKwO
いやいついかなる時状況場所場面話題においても常に百%絶対に正しいのは俺だけだから惨めな反論する輩は死ねばいいよ
717本当にあった怖い名無し:2012/09/08(土) 20:54:57.07 ID:BtYK9XUU0
公募の締め切りが近いのでしばらくお前らクズどもの相手はできません。
ウニ
718本当にあった怖い名無し:2012/09/08(土) 21:21:10.64 ID:FRsoVmz10
ウニさん待ちです
719本当にあった怖い名無し:2012/09/10(月) 20:26:03.29 ID:XlFgcKNw0
赤緑乙
720本当にあった怖い名無し:2012/09/15(土) 18:13:23.43 ID:VHV5UlPV0
単発早くきて
721本当にあった怖い名無し:2012/09/15(土) 18:23:37.42 ID:VHV5UlPV0
おk
722本当にあった怖い名無し:2012/09/15(土) 23:11:09.54 ID:Est+ff110
ウニさん待ちです
723本当にあった怖い名無し:2012/09/17(月) 01:22:43.42 ID:bRMzojXf0
長文書きこめりゃなぁ…
724本当にあった怖い名無し:2012/09/20(木) 00:33:10.43 ID:Gizv2iTe0
おk
725稲男 ◆W8nV3n4fZ. :2012/09/29(土) 21:49:11.02 ID:A/vSlwH30
酉これであってたっけ?お久しぶりです。

凡そ五年が経った。
俺は高校を出て、二年大学に通い、色んな事情で中退し、知り合いの占い師の所に本式にお世話になり始め。
不思議な事はまだ起こっていたが、あの頃よりは随分と大人しくなり、というか大人になり。
日常ってこういうのだっけ、とか、何年かぶりにそう思っていた頃。
あの男が帰って来た。
俺の心配もどこ吹く風、へらへら笑いながら家を訪ねてきたその人は、またしばらくこっちで暮らすから、とそう言った。

「ああ、もうなんて言えばいいのか。いろいろありすぎて言葉になりませんよ」

「そうかそうか。寂しい思いさせて悪かったな」

「いや、まぁいいですよ。とりあえず、お帰りなさいでいいんですかね?先輩」

「おう、ただいま」

至極あっさりとした再会だった。
失踪が死亡になったんじゃなく、失踪がただの旅行だった事がわかったのだから当然といえば当然だが。
こうして再び、俺と先輩はつるむようになったのだった。

で、それから数日後のお話。
726稲男 ◆W8nV3n4fZ. :2012/09/29(土) 21:50:04.84 ID:A/vSlwH30
「よし、高知行こう」

「なんですか突然」

先輩が突然やってきてそういった。
この人が突然なのはそういえばいつもの事だったのだが、久しぶりだと流石に面食らう。

「なんですかって、お前が言ったんだろ?」

「ええ?……ああ」

そういえばそうだった。
親父の同僚が心霊現象らしき物に悩まされていると聞いて、その話を先輩にしたのだった。
そして、その親父の同僚が住んでいるのが高知県なのだ。

「え、マジで行くんですか」

「お前が向こうさんに許可取ればすぐにでもな。休みは貰えるんだろ?」

「はぁ、まぁ……」

高知ならそう遠く無いし、二日か三日休みをもらって旅行するのもいいかもしれないな、とぼんやり思った。

「って言っても俺のじゃなくて親父の同僚の人なんで、どうなるかわかんないですよ」

「大丈夫だろ。本当に悩んでるなら縋ってくると思う。そこまで悩んでないなら、こぼしたりもしないだろうし」

先輩は笑った。
ちくしょう、久しぶりだなこの展開。
だけど、その日の夜にはさくっと許可を取った。
……俺も、楽しみだったのだ。
727稲男 ◆W8nV3n4fZ. :2012/09/29(土) 21:50:46.59 ID:A/vSlwH30
「なんで俺運転なんすか」

「免許取ったんだろ?」

「まぁ、一応は」

「なら大丈夫だ」

普通免許は取ったが、普段はバイクばかり乗っているので運転に若干不安があったりするのだが、この人には関係無いのだろう。
親父の箱バンを借りて高知へ。
助手席の先輩が走り始めて30分で爆睡してしまったため、沈黙のまま高知へ入る。
先輩は結局目的地に着くまでそのまま眠っていた。

「先輩、着きましたよ」

「……お?おお、ついたか。いやしかし田舎だな高知」

「俺らの住んでるとこも対して変わんないじゃないですか」

「そりゃそうか」

さて、当の怪現象の具体的な内容はこうだ。
親父の同僚……仮にOさんとする。
Oさんは既婚で、件の家はその奥さんの実家だそうだ。
これまで関西の方に住んでいたのが、今の支部に転勤になった為、新しい家が必要になった。
Oさんの両親は既に亡くなっていて、妻の両親はもう老齢。
せっかくだから多少職場から遠くても同居しようと考え、今の家に越してきた。
ところが、だ。
728稲男 ◆W8nV3n4fZ. :2012/09/29(土) 21:51:17.88 ID:A/vSlwH30
「悪夢、か」

「はい。悪夢を見るようになったそうです」

「で、内容が?」

「狭い所に閉じ込められる夢。まるで現実のような閉塞感があるそうです。明晰夢のように夢である事がわかるし、自分の体を動かす事もできるそうなんですが……」

「不思議と、立てないし歩けない。ずりずり芋虫みたいに動くしか出来ないと」

先輩が引き継いで言った。
ああ、久しぶりだ。
先輩のこの笑顔。
本人は最高に楽しそうで、見ているこっちはすごく不安になる笑顔。

「Oさん以外だと、Oさんの同僚がたまたま一泊した時に同じ夢を見たそうです」

「なるほどな。さて、何が出るか」

田舎特有の大きな一軒家だった。
外から見る限りでは作りに違和感はない。
……ん?

「あれ、窓ですよね」

明らかに一階ではない高さに窓が開いている。
ガラス窓じゃなく、木の格子がはまっている格子窓だ。

「よく気付いたな。多分屋根裏だ」

「あ、そうか。物置か何かですかね」
729稲男 ◆W8nV3n4fZ. :2012/09/29(土) 21:53:17.21 ID:A/vSlwH30
「……さぁな」

「あれ、ここの子でしょうか。こっち見てるの」

女の子だろうか?窓からこちらを見ている。
ちょうど屋根裏で遊んでいたんだろうか?

「いいからほら、行くぞ。もう大体見当はついた」

「はい。ええと……チャイムは無いよな、やっぱり。すみませーん!ごめんくださーい!」

それなりに大きな声で呼んでみる。
しばらく待つと玄関の引き戸が開いた。

「はい……?」

「あ、すみません。あの……」

「ああ、はいはい。君がそうね。ええと、息子さんと……そちらは?」

「僕というか、こっちが本命でして。そういうのに詳しい人です」

「どうも、初めまして。Oさんでしょうか?」

先輩が笑顔を作る。
無闇に処世術に長けた人だなぁ、と毎度思う。

「ええ、俺がそうです。今家族は出かけてるので、見たい所とか遠慮無しに言ってもらってかまいませんよ」

どうぞ、と奥に招かれて、ようやく回転の遅い頭が動き始める。
今、なんと言った?
家族は出かけている……?
730稲男 ◆W8nV3n4fZ. :2012/09/29(土) 21:54:06.81 ID:A/vSlwH30
「それじゃ、屋根裏見せてもらえます?」

俺の思考が答えに辿り着くより早く、先輩が言う。

「屋根裏?いいけど、俺も入った事ないんですよ。物置にしてたらしいけど、今はもう何も無いし……」

「という事は、Oさんは屋根裏がどうなっているか知らない?」

「ええ、そうなりますね。それが関係あるのでしょうか?」

家族が全員出かけているなら、さっき見ていた女の子は誰だ?

「恐らく、大いに関係あると思います。とにかく入り口を」

「はぁ……」

Oさんは怪訝な顔をしながら俺たちを案内する。
家の奥に細い階段があり、この上が屋根裏だと説明を受ける。

「どうします?Oさんも入りますか?」

先輩は笑顔で言うが、Oさんは一つ身震いをして拒否をした。
もう俺にもわかる。
原因はここだ。
先輩が一度こっちを見る。
俺は黙って頷いた。

「よいしょっと」

先輩が軽いノリで木製の扉を開くと、階下と違う少し暑い空気が流れ込んできた。
この夏場、瓦屋根の直下と考えると、下よりも室温は高そうだ。
731稲男 ◆W8nV3n4fZ. :2012/09/29(土) 21:55:08.81 ID:A/vSlwH30
「ああ、だろうな」

先輩が小さく呟いた。
そのまま屋根裏に入っていく。
心配そうなOさんを置いて、俺も追従する。

「お前、漫画好きだろ」

「え?ええ、まあ」

「手塚治虫の奇子って漫画、読んだ事あるか」

「一応は。ああ、って事は……」

「そういう事だ」

屋根裏は埃っぽいなんてもんじゃなく埃が積もっていて、鼻粘膜の敏感な俺には厳しい環境だった。
が、そんな事どうでも良くなるくらいに奇妙な状態だった。
入ってすぐ目についたのは格子だった。
これも木製ながら、かなり頑丈なのはすぐわかる。
屋根裏の一角を区切るようにして設置されているそれの向こうは、板張りではなく畳敷きになっていて、少し過ごしやすくなっているようだ。
そう、過ごしていたのだ。
この頑丈な格子の向こう、恐らくはこの家の親族の誰かが。
歴史がありそうな家だな、とは思ったが、こんな物にお目にかかれるとは思ってもみなかった。

座敷牢だ。
732稲男 ◆W8nV3n4fZ. :2012/09/29(土) 22:05:05.01 ID:A/vSlwH30
「見ろ、あの窓。お前が女の子がどうこう言ってた窓だぞ」

確かにそのようだが、窓の位置がおかしい。
180ある俺でも頭すら出ないような高さ。
2mと少しといった所だろうか?

「俺が見た年頃の女の子じゃ、跳んだ所で覗くのは無理ですね。台になるような物もない」

「長年ここで過ごして足が弱っているなら尚更な」

ああ……それで、歩けない夢だったのか。
先輩は格子に取り付けられた戸を眺めている。

「やっぱりだ。ほら」

南京錠だろうか、錆びきっていてよくわからないが、間違いなく鍵がかかっている。
ここまで錆びても朽ちていないのだから、それはもう頑丈なのだろう。

「出たかったんですかね」

「だろうな。……木も朽ちかけてるし、鍵もボロボロ。ほら、力仕事要員」

俺は先輩と位置を入れ替える。
鍵を思い切り引っ張ってみると、留めていた金具がずぼっと取れた。

「これで戸は開きますよね」

「ああ。俺達の仕事は終わりだ」
733稲男 ◆W8nV3n4fZ. :2012/09/29(土) 22:06:04.59 ID:A/vSlwH30
「……あれで良かったのか?」

「え?」

観光でも、と言った俺の申し出を蹴って先輩が言う。
救われない少女を救出した気分だった俺の心に暗雲が垂れこめる。

「悪夢に関しては解決だろうな。けど、これからどうなるかはわからない」

「なんでです?俺達はちゃんと……」

「何故、あの人だけ悪夢を見ていたと思う?」

Oさんだけ夢を見ていた理由……?

「ええと……別の家の人間だから、でしょうか」

「正解。それがわかってるならあと一歩だ」

先輩が笑う。例の黒い笑み。
ああそうだ。久しぶりすぎて忘れていた。
この人がただの善行を行うはずがないのだ。
例え人の命が、あるいは自分の命がかかっていても、面白くなるならば良いと言い切るような人なのだ。
何かある。
そしてそれは、あの家筋に関係する事なのだ。

「……わからないか」

悔しいが、首肯するより無かった。
734稲男 ◆W8nV3n4fZ. :2012/09/29(土) 22:07:14.00 ID:A/vSlwH30
訂正。>>733の前にこの部分入ります。

俺は、座敷牢に向かって手を合わせた。
きっと、さっき見た女の子はこの中で死んだのだろう。
そして、今も……。
事情はわからないまでも、ひどく憐れに思えた。
急に人が動いたからか、足元を鼠が逃げるように走った。
俺と先輩は、屋根裏から降りる事にした。

「あの、どうでした?」

階段の下で待っていたOさんに笑いかける。

「もう大丈夫だと思います。ただ、たまには屋根裏の掃除くらいした方がいいかもしれませんね」

「そ、そうですか」

「とりあえず様子見で、また何かあったら連絡ください」

Oさんは不思議そうな顔をしているが、一人では屋根裏に入る勇気が無いのだろう。
多分、わからないなりに原因に触れる恐怖を感じているのだ。
俺達はOさんに挨拶して、また箱バンに乗り込んだ。
735稲男 ◆W8nV3n4fZ. :2012/09/29(土) 22:08:41.49 ID:A/vSlwH30
「ここ、高知は……というか、四国全土なんだが、狐がいない。そのせいか、管狐信仰の変形のような呪術が土着していた」

あ、と思った。
そうだ、高知、それから徳島なんかは特に有名。
あれだ。

「犬神筋……!」

「その通り。高知で家筋に関係があるとなれば、まずそこだろう。特にあの苗字、高知じゃ珍しくもないが他所じゃ少ない。まず間違いなく犬神持ちだ」

「でも、流石にもう廃れてると思うんですが……」

「不勉強だぞ。犬神っていうのは、管狐なんかと違って祭ってやれば加護を得られるもんじゃない。子々孫々受け継がれて行く呪いなんだ」

先輩の喉が鳴った。
久しぶりに俺の驚く顔が見れて嬉しいのだろう。

「あの座敷牢、お前は女の子を見た。勿論それは俺も見た。だけど、あの女の子はいわば生贄だ。一緒に閉じ込められていたのが何だったか、お前には見えなかったのか?」

「何だったんですか?」

「鼠みたいな、イタチみたいな、小さい獣だよ。それも一匹二匹じゃない」

俺の足元を走った獣。
あれは、まさか。

「なら、何故Oさんに夢を?自分がここにいる事を知って欲しかったんじゃないですか?」

「あの顔はそうじゃない。あの女の子は、幼いながらも役割を理解していた。恐らく、あれは救助信号じゃなく警告だ。ここを出ろ、ってな」
736稲男 ◆W8nV3n4fZ. :2012/09/29(土) 22:10:36.88 ID:A/vSlwH30
ポケットの中にごりっとした感触がある。
もぎ取った鍵をそのまま持ってきてしまった事を思い出す。
犬神は管狐と違って呪いとして扱われる事が多い。
それは何故か。俺は知っている。
飼い主であろうと噛み付く、その扱いにくさが原因だ。

「俺、言った方がいいんですかね」

「さぁな。犬神は富をもたらす側面もある。Oさんの顔を見たろ?あれが参ってる人間の顔か?」

確かに、そう言われればそんな気もする。
これは空想に過ぎないが、あの家は代々犬神によって栄えていて、しかしある代で犬神の呪いが身内に振りかかる。
娘を生贄になんとか封印し、呪いから逃れはしたが同時に犬神の力も失った。
そして、寂れていく一方だったお家の再興を誰かが望んだとしたら。
例えばOさんの奥さん、あるいはその両親。
Oさんは体の良い人身御供として扱われたのではないか。
閉じ込めた家筋の者と無関係な俺達が犬神を開放する事で、その呪いから逃れられるのではないか?
いや、支離滅裂すぎる。ありえない。
俺は頭をぶんぶんと振る。

「こらこら、前見て運転しろ。お前が何を空想したか知らんが、俺のだってただの仮定の話だ。気にするな、多分俺達は正しい事をしたのさ」

しかしその表情は正義の味方には程遠い。
また来よう、と言う先輩を、俺は無視した。
その晩、俺の夢に例の少女が出てきた。
ひどく悲しそうな顔をしていたが、それが本当に彼女からのメッセージだったのか、あるいは俺の心配が夢に顕れたのかはわからない。

Oさんはすぐに転勤し、連絡先もわからなくなった。

先輩と犬神 終
737本当にあった怖い名無し:2012/09/29(土) 22:11:37.30 ID:TUGO+CGCO
738稲男 ◆W8nV3n4fZ. :2012/09/29(土) 22:14:37.53 ID:A/vSlwH30
久々すぎて最初sage忘れてました。失礼。
739本当にあった怖い名無し:2012/09/29(土) 22:30:35.19 ID:7Lvy8eWy0
稲男シリーズ
キタコレ
740本当にあった怖い名無し:2012/09/30(日) 18:31:26.62 ID:RFzLbjhw0
誰だよこいつ
お前が来なけりゃそろそろスレ墜ちてたのに
741本当にあった怖い名無し:2012/09/30(日) 18:46:24.56 ID:1pc4Venn0
稲男久しぶりだな
742本当にあった怖い名無し:2012/10/08(月) 21:56:38.08 ID:WDTz6QDr0
おk
743本当にあった怖い名無し:2012/10/08(月) 21:59:34.20 ID:WDTz6QDr0
ウニさん待ちです
744本当にあった怖い名無し:2012/10/09(火) 00:52:44.33 ID:nOZDgqmJO
ウニって誰?あの素人のくせにしょーもない本売ってる人?
745赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/10/09(火) 13:44:16.19 ID:oA5E6Haf0
[手を合わせる]

1/15
明君からの電話を切り、私はしばしベッドに身を沈める。

…2人に話すことを考えなきゃいけない。

古乃羽さんと美加さん。
私の大切な――数少ない、大切なお友達。
その2人に嘘を付くことなんて、絶対にしたくない。

でも…。

それ以上に、誰も傷付けたくない。
今は何とか防げたみたいだけど…必要の無いことまで話して、傷付けるようなことをしたくない。

これから――ここで何が起きようとしているのか、それが分かれば、ちゃんと判断できるのに。

それがどうしても分からない。
唯一分かっているのは、私の予知の"外"に、誰かが居るということ。

そして、何かをしようとしている。
私のことを知っている誰かが、何かを…。
746赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/10/09(火) 13:46:01.65 ID:oA5E6Haf0
2/15
――
私「急にお呼びしてしまって、ごめんなさい」

明君と一緒に部屋に入ってきた2人に、頭を下げる。

古乃羽「良いの良いの。ね」
美加「うん。こっちから来たかったくらいだもん」
私「…ありがとう」

昨日と同じように座ってもらい、明君がお茶を出してくれる。

私「どうしても、お話しておきたい事があったの」
古乃羽「うん」
私「いくつかあって…最初に、堀塚家のことから」
美加「堀塚家?」
きっと、あのお社の話だと思ったのだろう、美加さんが意外そうな声を出す。

私「はい。それが、あのお社に関係しているので…」
美加「あ、そうなんだ。ごめんごめん」
私「いえ…。それじゃ――」

そう言って、私は話を始める。
747赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/10/09(火) 13:48:09.69 ID:oA5E6Haf0
3/15
――
この土地に古くから住んでいる家には、ある特別な事象があった。

それは、霊感を持つ可能性が極めて高いという事。

それはその家の「女性」に限られ、目覚める可能性があるのは成人するまでであり、
また、血を分けた兄弟が居る場合にはその可能性は低くなるか、家によってはゼロになるというものだった。

霊感の"型"は家ごとに決まっており、大昔この土地には様々な霊能力者が居たが、
時が経つにつれ、この土地を離れる者や逆に外から来た者が増えていき、
やがてこの土地に歴史を持つ家は、今では2つのみ――堀塚家と杵島家のみとなっていた。

堀塚家は予知の力を持ち、ある者は数年先の事まで知ることができた。
杵島家は霊視の力を持ち、ある者は遥か千里先まで見渡す事ができた――。

私「――古乃羽さんはこの事、ご存知でしたか?」
一旦話を切り、聞いてみる。

古乃羽「杵島の事はこの前聞いたばかりで、美加にも話したけど…」
うんうん、と横で頷く美加さん。

古乃羽「それ以外は知らなかったな」
私「そうでしたか…」

堀塚と杵島では、やはり事情が少し違うのだろう。
この堀塚家とは…。
748赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/10/09(火) 13:50:09.93 ID:oA5E6Haf0
4/15
美加「でも、予知ってスゴイね。紗希ちゃんも分かっちゃうの?」
私「はい、少し…」
美加「へぇ〜」
羨ましそうな声を出す美加さん。

私「でも、制約も多いのです」
美加「制約?」
私「予知した事は、必ずその通りになる訳ではないのです…」

――予知は外れる事がある。
…いや、"外す事が出来る"と言った方が良いのかもしれない。
ある条件を満たすと、外れる可能性が生まれるのだ。

その条件とは、「自身が干渉すること」。
私が何らかの干渉をすることで、予知した事が絶対では無くなる…。

私「例えば…、これからダイエットをしようという人が居て、私がその人に「あなたは1年後に5キロ痩せています」と言ったとします」
美加「うん」
私「でもその人が「予知で分かっているなら」と言って何もしなかったら、その人が痩せる事はありません」
美加「…そりゃ、そうね」

そう。当たり前の事だ。
749赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/10/09(火) 13:52:27.77 ID:oA5E6Haf0
5/15
私「私が直接口を挟んだり、自ら行動を起こしたりすると、外れる可能性があるのです」
2人を見つめながら、私は改めて言う。
大切な事だから。
今、伝えておかなければならない事だから。

美加「ってことはさ。予知しても、自分では何も出来ないってこと?」
私「そういう訳でもありません。例えば…今日は1日中、晴れますね」
美加「晴れ?…あ、なるほど」

天気のように、私が何を言っても変わらないものは存在する。
私1人の力では、どうにもならない事も…。

古乃羽「あ、だから…もしかしてこの前、明君が傘を持っていたのって…」
明「そう、あの時ね。紗希が「雨が降る」って言うからさ」

古乃羽さんが明君に会った日のことだろう。
あの時は、2人が林の道で再会する事も、私には分かっていた。

明「予知した事がその通りになるためには、何もしないことが一番でね」
明君が私の代わりに説明をしてくれる。

明「でも介在する必要がある場合には、直接ではなく、第三者を立てるのが良いんだ」

明君はいつでも私の力になってくれる。
いつでも、どんな時でも。
…どんな相手でも。
750赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/10/09(火) 13:54:34.18 ID:oA5E6Haf0
6/15
――
紗希ちゃんと明君の話を聞きながら、昔、この村で起きたことが分かってくる。

古乃羽「だから、平気だったのね」
明「…ん?」
古乃羽も分かったみたいだ。

古乃羽「飢饉。天明の大飢饉を逃れた理由」
明「あぁ…。そういうことさ」
逃れた理由は、予知のお陰だろう。
でも、それだけじゃまだ解決しない。

私「飢饉が来る事を予知していて、だから食糧を貯めこんでいて。…でも、それを守るためにお社?」
どうにもこのことがピンと来ない。お社で、どうやって?

明「あのお社は…見張りだったんだ」
私「見張り?あれで?」
明「あれを使っていたのは、杵島家なんだよ」

古乃羽「え?」

杵島家?
あ、そうか――

私「千里眼?」
明「そう。それで…見張っていたんだ」
751赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/10/09(火) 13:56:46.36 ID:oA5E6Haf0
7/15
古乃羽「そっかぁ。ビックリした…」

あれこれ調べていたけど、結局あのお社は古乃羽の――杵島の家にまつわるものだった訳だ。

古乃羽「お婆ちゃんも知らなかったみたいだしなぁ…」
明「ずっと昔の事だからね」
お婆ちゃん。古乃羽のお婆さん。
…あ。

私「じゃあ、あれは…何なのかな?」
古乃羽「ん?」
私「ほら、祟りのこと」
古乃羽「あ、そうだ」
明「祟り?」
何の事かと明君が聞いてくる。
まぁ、気になるフレーズではあるだろう。

古乃羽「お婆ちゃんが小さい頃に、ひいお婆ちゃんに言われたらしいの。あのお社に近付くと祟りが起きる、って」

明「えっ?」
一瞬驚いた表情をして、紗希ちゃんと顔をあわせる明君。

明「それは…お社が古くて危ないから、近寄らないように…とか?」
古乃羽のお婆さんと同じ考えを言う明君。
古乃羽「うん。多分…そういう意味だと思う」
752赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/10/09(火) 13:57:54.92 ID:oA5E6Haf0
8/15
明「…あのさ、さっき飢饉の事を言っていたけど――それも古乃羽ちゃんのお婆さんが?」
明君が私たちに聞いてきて、今度は私と古乃羽が顔をあわせてしまう。

古乃羽「ううん。お婆ちゃんはお社の事は知らないみたいで…他の人から聞いたの」
明君に答える古乃羽。

明「それは、俺が行く前に居た人?」
古乃羽「うん、女の人。初めて会った…」
明「…」

再び紗希ちゃんと顔をあわせる明君。

…何だろう。
何か知っているのかな?

紗希「あの、出来ればその方の事、詳しく教えて頂けませんか?」
古乃羽「良いけど、あんまり…。えっと――」

古乃羽があの人の説明を始める。
…と言っても、知っている事は少ししかない。

名前が「舞」であること(古乃羽もそうだろうけど、ここはどうしても気になってしまう)。
私たちより2、3年上っぽいこと。
ロングコートを着ていたこと。
綺麗な人で、髪が長く、背丈は私と古乃羽と同じくらいであること…。
753赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/10/09(火) 13:59:34.48 ID:oA5E6Haf0
9/15
古乃羽「お社に興味を持ったみたいで、色々調べていたみたい」
紗希「…」
古乃羽の話を聞いて、何事か考え込む紗希ちゃん。
何か思い当たるところがあるのか、それとも…?

…っと。それより、私からこれも言っておかなきゃ。

私「それと補足で、見た目のことなんだけど」
紗希「はい」
私「印象って言うか、よくよく見てもそうだったのだけど、紗希ちゃんに似ている感じだったよ」
紗希「…私に?」
私「うん。ね?」
古乃羽「そうだね。そっくりって訳じゃないけど」
紗希「私に…」

再び考え込む紗希ちゃん。
うーん、何事なのか、ちょっと話が見えないナ…。
…よし。

私「紗希ちゃん。明君も…何かあったの?」
ズバッと聞いてしまえ。
754赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/10/09(火) 14:00:49.07 ID:oA5E6Haf0
10/15
紗希「…はい。ちょっと変な話なのですけど」
私「変な話なら得意よ。古乃羽もね」
古乃羽「うん。私の周り、変な話だらけだもの」

そう聞いて、クスリと笑う紗希ちゃん。
あぁ、可愛いなぁ。
でもきっと今の、冗談として受け取ったのだろうなぁ…。

紗希「あの…実は昨日、この家に――」
そして紗希ちゃんが、昨日あった話をしてくれる。
深夜に強盗が入ったという、物騒な話を。

紗希「――そうして、何も得られないまま家を出て、坂を下りたところで捕まる筈だったのですが…」
私「家を出てから行方が分からなくなった、と」
紗希「はい」
私「ふーん…」
紗希「それで考えたのですが…もしかして、私の予知の範囲外に誰かが居るのでは?、と」
私「誰か?」
紗希「はい。予知が外れるときは、必ず人為的な要因が絡んでいるので…」

その「誰か」が干渉した、って考えたわけか。
紗希ちゃんの予知の外にいた、誰かが。
755赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/10/09(火) 14:05:20.42 ID:oA5E6Haf0
11/15
紗希「それから、そういった人の事を少し気に留めていたら、お二人が一乃守で見知らぬ女性と出会う事が分かって…」
古乃羽「その人に違いない、って思ったのね」
紗希「はい。まるで印象を掴めない、影のようなイメージの人で…きっとそうだと」
私「…」

うーん。

誰かしらの干渉で予知が外れたという話。
でも、私にはそれがそんなに重大な事なのかな、と思えてしまう。
きっと、紗希ちゃんにとっては大事な事なのだろうけど…ちょっと分からない。

私「紗希ちゃん」
紗希「はい」
私「紗希ちゃんには、予知が絶対に外れてはいけない理由があるの?」
紗希「っ…」
私の言葉に、ビクッとする紗希ちゃん。
責めているように聞こえちゃったかな?

私「あぁ、えっと…ほら、予知だってたまーに外れる事はある、ってのはダメなのかな?って」
紗希「…」
私がそう言うと、紗希ちゃんは少し辛そうな顔をして俯いてしまう。
あらら…何か触れてはいけない事だった…?
756赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/10/09(火) 14:07:06.42 ID:oA5E6Haf0
12/15
私「あー…あの、ゴメンね?適当な事言っちゃって…」
紗希「あ、いえ…」
力なく答える紗希ちゃん。
なんだか悪い事しちゃった…?

古乃羽「あの女の人の事が、不安に思えるの?」
そんな紗希ちゃんに、古乃羽が質問をする。

紗希「あ、そうなのです。何か、ハッキリした予知では無いのですけど…」
お、さすが古乃羽。

古乃羽「良くない予知が出ちゃったとか?」
紗希「はい。予知というより予感で、具体的にこれとは分からないのですが…」
古乃羽「内容が分からないし、相手が特別っぽいから、どうした良いか分からない」
紗希「はい」
我が意を得た、とばかりに答える紗希ちゃん。
うぅ、フォローありがとう、古乃羽。一生付いていくよぅ。

明「…あの、ちょっと良いかな」
すると、少し話が見えたところで明君が声をあげる。
そして、とても急な話ではあるけれど、ある提案をしてきた――。
757赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/10/09(火) 14:08:16.24 ID:oA5E6Haf0
13/15
――
堀塚邸からの帰り道。
昨日と同じように、美加と2人であれこれ話をしながらの帰り道。

明君の提案は、「今日、泊まりに来ないか」ということだった。

紗希ちゃんもそれを望んでいて、私たちともっとお話をしたい、と言う。
でもお婆さん――雅代さんにご迷惑じゃ…と思ったけれど、いつも私が紗希ちゃんを訪ねてくる事を喜んでいた雅代さんが、この事を嫌がるわけもなかった。
ちなみに、紗希ちゃんのご両親は今日帰ってくる予定だったけど、それが少し延期になったそうだ。

私たちも久しぶりに会った2人とはもっと話したい事もあり、一旦杵島の家に戻ってから荷物をまとめて、再び来る事にした。
その旨、叔母さんには既に連絡済みだ。

美加「しかし、予知って凄いよねぇ」
率直な感想を言う美加。

私「制約とか、色々あるみたいだけどね」
美加「うん。でもさ、あれって…悪い予知があったら、それを回避できるって事よね」
私「そうだね」
美加「で、良い予知の場合は何もしないで居ればバッチリ」
私「美加の場合、ジッとして居られなそうね」
美加「アハハ…分かる?うん。きっとソワソワしちゃうな」
私「ふふ、私もダメかも」
それで変に干渉しちゃって、良い話が無くなっちゃったら、ガッカリだ。
758赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/10/09(火) 14:09:36.28 ID:oA5E6Haf0
14/15
美加「ところで…古乃羽はさ、あれ、どう思った?」
坂を下り、麓の道に入ったところで美加が聞いてくる。

私「あれって?」
美加「…祟り」
私「あぁ…」
やっぱり、気になっていたか。
美加が祟りの話をしたときの、紗希ちゃんと明君の反応だ。

私「何かあるのかなー、とは思ったけど…何だろうね」
あの反応は、祟りと聞いて「何のこと?」というものではなかった。
あれは、「何でそれを?」という驚きの反応にしか見えなかった。

美加「あと、あの女の人が言っていた事も気になる…」

「女の人」。
名前は「舞」と名乗っていたけど…その名前で呼ばない美加。
私も同じだ。何だか、そう呼びたくない…。

私「あの人が言っていた事って、あれ?「本当の事は私が」って」
美加「うん、それ。フフフ、古乃羽もやっぱり?」
私「それはまぁ…気になるわよ」

「本当の事は、私が教えてあげるからね」

そう、あれはまるで…あの後私たちが、紗希ちゃんから話を聞く事を知っているかのような言い分だった。
しかもそれが、本当の事ではない、と…。
759赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/10/09(火) 14:10:31.01 ID:oA5E6Haf0
15/15
――
杵島の家に着いた私たちは、改めて叔母さんに事情を話し、荷物をまとめる。
明日にはここから帰る予定だったので、それが1日早くなった訳だ。

今夜は一緒に居られないと知って、唯ちゃんが悲しげな表情をしたけど、
紗希ちゃんの家に泊まった後、もう一度挨拶に来る事を伝え、私たちは杵島の家を出る。

そして紗希ちゃんの家に向かう――前に、2人で何となく一乃守に行く。

ボロボロの佇まいの一乃守。
村を守るために、杵島家が使っていたというお社。
そこでふと、ある事を思い出す。

罪悪感。
このお社から感じたものだ。

その理由が、ちょっと分かった気がする。
きっと、飢饉の時、自分たちだけが助かった事に対するものだろう。
食べ物を求めてくる人を見張り、それを追い払ったか、あるいは…。

私は美加と2人でお社に手を合わせる。

辺りは既に暗くなってきていた。



760本当にあった怖い名無し:2012/10/09(火) 18:13:36.21 ID:nrkXyv5sO
赤緑乙
761本当にあった怖い名無し:2012/10/10(水) 18:00:02.71 ID:Du31qjl80
赤緑&稲男乙!
762本当にあった怖い名無し:2012/10/21(日) 00:15:02.40 ID:uNmIxKXT0
ホシュage
763本当にあった怖い名無し:2012/10/22(月) 19:32:09.61 ID:QIgGMg3l0
うぜえな・・・・
機能してないんならもう落とせよ
ほんのりでも何怖にでも投下しろって
764本当にあった怖い名無し:2012/10/22(月) 21:46:30.80 ID:nZnaQ+LyO
機能してないと思うなら来る必要無くね?
765本当にあった怖い名無し:2012/10/23(火) 16:42:54.78 ID:ixCD3gon0
763 :本当にあった怖い名無し:2012/10/22(月) 19:32:09.61 ID:QIgGMg3l0
うぜえな・・・・
機能してないんならもう落とせよ
ほんのりでも何怖にでも投下しろって




11 :本当にあった怖い名無し:2012/10/22(月) 19:20:16.28 ID:QIgGMg3l0
>>8
卒業おめでとう。お前がここ覗かなければ済む問題なのは分かるよな?
766本当にあった怖い名無し:2012/10/24(水) 19:40:09.38 ID:4xy/Oqtb0
>>764
保守されたからだろ。それぐらい分かれ頭空っぽかよw
767本当にあった怖い名無し:2012/10/24(水) 21:39:41.22 ID:EEl0HGcJO
機能してないなら、有ろうが無かろうが関係なくね?って話
見なきゃいいだけ

768本当にあった怖い名無し:2012/10/25(木) 01:15:08.14 ID:byDMRufrO
おk
769本当にあった怖い名無し:2012/10/25(木) 01:20:10.44 ID:byDMRufrO
イクラさん待ちです
770本当にあった怖い名無し:2012/10/25(木) 12:17:16.85 ID:p1GUPS3X0
テンプレ参照
・『このスレと住人を許さない』系の荒らしがしつこく荒らしています 徹底無視で


機能してるしてないは関係ない
存在そのものが許せないキチガイに言葉は通じない
771本当にあった怖い名無し:2012/10/27(土) 00:24:52.38 ID:UOl56AC+O
自治厨うざ
772本当にあった怖い名無し:2012/10/27(土) 01:26:02.28 ID:BVRkpMjD0
嵐でさえ伸びねーよ
773本当にあった怖い名無し:2012/11/02(金) 14:58:45.16 ID:/v7vLPWH0
一時期ウニのコピー(霊感餅とその師匠)が流行ったけど
ウニのクオリティがあがっちゃったから早々簡単にコピーできなくなったのが投下激減の要因でもあるかもね
774本当にあった怖い名無し:2012/11/02(金) 20:52:09.57 ID:T9d8JEI1O
ウニのクオリティ?めっちゃウケるわwwwwww
775赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/11/05(月) 10:51:14.31 ID:GEYL8n930
[憩いの時間を過ごす]

1/15
町の中心位置、林に囲まれた中に、ポツンと一戸前の土蔵がある。
この蔵は相当に古く、何百年も前のものだそうだ。
…まぁ、蔵と言えば大体そうか?

夕暮れ時、俺は隣町で仕入れた荷物を背負い、その蔵を訪れる。
目的はたいした事じゃない。…掃除だ。
「蔵の中を綺麗に掃除しておいて」と、あの女――舞に頼まれた訳だ。

一体何の目的だか知らないが、俺は蔵の入口に立ち、ゆっくりと扉を開けて中に入る。
蔵の中は8畳程の広さで、四方の壁の高窓からは薄日が差している。
窓の数は多く、扉を閉めてもそれなりに明るそうだ。

…しかし、その広さや明るさの事などどうでもよくなるようなものが、蔵の中にはあった。

蔵の半分程を占める、その空間。
2面の壁と、2面の頑丈そうな木の格子で区切られた、その空間。

それは、座敷牢だった。
776赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/11/05(月) 10:52:22.45 ID:GEYL8n930
2/15
何だ、これは…。

町のど真ん中の蔵の中に、座敷牢がある?

この蔵の扉には、鍵は掛かっていなかった。
誰だって入れる場所だ。
そこにこんなものがあったら…

…いや。
普段は鍵が掛かっていて、今はあの女が開けておいたのか?
つまり、この蔵はあの女の物で、この牢も…

でも、こんな特異なものが誰にも知られずにおけるものか?
そもそも何年前のものだ?
何百年も前の蔵だと言っていたが、それがずっと…?

…あぁ。

ダメだ。
考えたって、何も分かるものじゃない。

あの女の事を考えると、頭が混乱してくる。
奴がこれから何をしようとしているかなんて、ただの駒である俺が考えるべきじゃない。
今日はまだ、他にも頼まれた「仕事」があるのだ…。
777赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/11/05(月) 10:53:37.21 ID:GEYL8n930
3/15
――
泊まり来ないかという、急な誘い。
俺からの勝手な提案だったけど、快く来てくれた2人。
今は夕食を済ませ、紗希と3人で入浴中――裸の付き合い中だ。

紗希はいつも、母親の匡子さんとお風呂に入っている。
入浴用の車椅子と専用に作られた湯船で、紗希1人でも入る事は出来るが、
「何かあったら心配」と言って、匡子さんが一緒に入りたがるのだ。
紗希も、特にそれを嫌がっている様子は無い。

堀塚家は仲の良い家庭だ。
当主である真人さんは厳格な性格と言われているが、紗希には存外に優しく、俺にも良くしてくれる。
匡子さんも雅代さんも、勿論そうだ。
常に紗希の事を気に掛け、優しく接してくれる。

…だが、それだけではダメだ。

今、紗希の世界はこの町だけだ。
外の世界に興味を持ってはいるが、彼女は自分で枷を作って、外に出られないでいる。
778赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/11/05(月) 10:56:19.02 ID:GEYL8n930
4/15
コンコン。

部屋のドアがノックされ、返事をすると古乃羽ちゃんが顔を覗かせる。

古乃羽「明君、お風呂出たよ〜」
俺「おう、ありがとう」
3人ともあがったようだ。
俺は準備していた着替えを持って、部屋を出る。

古乃羽「大きいお風呂、びっくりしちゃった」
俺「俺も最初は驚いたなぁ」
紗希のためにスロープ等が付いていることもあり、風呂全体、湯船も含めてかなりの広さだ。

古乃羽「じゃあ、紗希ちゃんの部屋に居るから、後で来てね」
俺「あぁ。出たら行くよ」
古乃羽「待っているねー」
そう言って紗希の部屋へ行く古乃羽ちゃん。

…紗希の、数少ない同世代の友人。
古乃羽ちゃんも美加ちゃんも、どちらもとても感じが良く…信頼できる人物だ。

彼女達になら、紗希を任せられる。
“外に出た”紗希にも、きっと力になってくれるだろう。

例え、俺が――…
779赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/11/05(月) 10:57:11.87 ID:GEYL8n930
5/15
――
古乃羽「明君、お風呂出たら来るって」
明君に伝えに行き、部屋に戻ってきた古乃羽さんが言う。

私「はい。ありがとうございます」
今日は眠くなるまでお話していよう(美加さんの言では「ダベっていよう」)という事になり、皆が私の部屋に集まってくれることになった。
こういうことは初めてで…何だか嬉しい。

美加「ふふふ、美女3人に囲まれにくるのね」
古乃羽「あれ、美女って3人もいたっけな?」
美加「まさか…私だけだなんて…」
古乃羽「…」

以前来た時のように、椅子に座る2人。
本当はもっと楽にくつろげる場所が良いのでは、と思ったけれど、私に気を使ってか、ここが良いと言ってくれる。
そんなことも、ちょっと嬉しい。

動く事に不自由な私は、周りの人から親切にして貰える事が多い。
小さい頃はそれを疎ましく思う事もあったけど、
「好意は素直に受け、自分もまた優しく在りなさい」
と母に諭されてから、考えは変わった。
780赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/11/05(月) 10:58:34.45 ID:GEYL8n930
6/15
美加「んーじゃあ、明君が来る前に聞いちゃおっかな〜」
ニコニコしながら私を見る美加さん。
何かな?

美加「紗希ちゃんはどうなの?明君のこと。…今更だけど」

明君のこと?

…あ。

何の事か分かり、顔が赤くなってしまう。

古乃羽「紗希ちゃん、顔真っ赤」
美加「もう分かっちゃったねぇ」
私「だって…」
そんな事、滅多に聞かれたことがない。

美加「愛し合う2人がひとつ屋根の下ですよ、古乃羽さん」
古乃羽「うーん、これはいけませんねぇ」
私「アハハ…」
781赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/11/05(月) 11:00:20.66 ID:GEYL8n930
7/15
美加「明君とは、いつ会ったの?」
私「えっと…」
もう随分昔だけど、あれは確か――

私「私が8歳の頃に、明君のお父さんが来たから…その時です」
古乃羽「あ、そうなんだ」
美加「へぇ。その時だと明君は…11歳?」
私「はい」

父が新しい使用人として明君のお父さんを紹介してくれたとき、一緒に明君と奈々ちゃんにも会ったのだ。

美加「じゃあそれから…11年のお付き合いなのね」
私「え?いえ、そんな…告白してくれたのは、それから――」
美加「告白?」

私「あ…」
しまった、と思い、また顔が赤くなるのを感じる。

美加「ふふ〜ん、その”付き合う”って意味じゃ無かったんだけどな〜」
古乃羽「可愛いなぁ、もう…」
私「う〜…」

慣れない話なので、どうにも上手く受け答えができない。
782赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/11/05(月) 11:02:28.00 ID:GEYL8n930
8/15
その後も私達の関係について色々聞かれ…私は聞かれるままに、あれこれ答えてしまう。

と言っても、さすがにそれは答えられない、というような質問をしてくる訳ではなく、
2人がしてくるのは、当たり障りのない…でもちょっと照れてしまうような質問だ。

…実は、こういった話をするのは初めてで、それも何だか嬉しかった。
古乃羽さんも自身の恋の話をしてくれて…聞いていて、なぜかドキドキしてしまい、
一般に言われている「恋愛話の楽しさ」というものが、少し分かった気分だ。

そうして暫く話をしていると――
ドアをノックする音がして、明君がティーポットを載せたワゴンと共に入ってくる。

明「やぁ、遅くなって」
美加「来た来た」
古乃羽「手伝うよー」
そう言って古乃羽さんが立ち、明君がお茶を淹れるのを手伝ってくれる。

古乃羽「ん、良い香り」
明「夜だし、ハーブティーが良いと思ってね」
私の好きなお茶で、明君が時々淹れてくれるものだ。
783赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/11/05(月) 11:04:03.49 ID:GEYL8n930
9/15
美加「――明君、11の時にこっちに来たんだってね」
お茶を飲みながら、美加さんが明君に聞く。

明「あぁ。そうだね」
美加「それまではどこに?」
明「物部の本家だよ」
古乃羽「本家?」
明「うん。S県にあるんだ」

明君の――物部の本家が隣のS県にあることは、私も知っている。

明「母が病気で亡くなってすぐ、何かと不自由だろうからって、親子3人そこでお世話になっていたんだ」
古乃羽「へぇ…」
美加「それで…どういうツテでここに?」
明「俺もよくは知らないのだけど、堀塚と物部は昔から親交があったみたいでね」
古乃羽「…あ、何か聞いたことある気がする」
何か思い出したように、古乃羽さんが言う。

古乃羽「お婆ちゃんに聞いたのかな?むかーし、物部さんもこの町に居たとかって」
784赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/11/05(月) 11:06:02.21 ID:GEYL8n930
10/15
明「…あぁ、そうみたいだね。随分昔みたいだけど」
美加「そっか、なるほど…。そこで決まっていたのね」
明「え?」

美加「いやさ、明君と紗希ちゃんの出会いよ。縁もゆかりもない2人が、突然ポーンと会った訳じゃないのだなぁって」
古乃羽「…その擬音は謎だけど、縁もゆかりもあったのね」
明「あぁ、アハハ…そういうことね」

2人のやりとりに笑う明君。

…私は今の会話に、少し緊張してしまっていた。
他意のない、恋愛話の延長だったようだけど…きっと明君も緊張していたと思う。

――もし”そこ”に触れてきたら…と。

私にとって、大切な2人の友人。
嘘は付きたくない。
もし聞かれたら…素直に話をする。

そのことは明君にも言ってあり、彼もそうするべきだと言ってくれている。
でも決して良い話ではないから、こちらからはしない。

きっと、気持ちを沈ませてしまうだけだから…。
785赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/11/05(月) 11:08:20.76 ID:GEYL8n930
11/15
――
「それじゃ、おやすみなさーい」

時刻は1時をまわっていた。

私は紗希ちゃんと明君におやすみの挨拶をして、古乃羽と2人で客間に戻る。
そして、2つ並んだ片方のベッドにボフンとダイブ。

私「いやん、もう…お熱い2人だねぇ、まったく」
古乃羽「そうだね」
隣のベッドに座りながら、古乃羽が言う。

私「ふぅ…」
何となく溜息。
古乃羽「当てられて、恋愛したくなった?」
私「…ちょっとね」
古乃羽「よしよし」
満足そうに言ってベッドに入る古乃羽。

私「…明かり、消すね」
古乃羽「うん」
立ち上がり、パチッと電気を消して私もベッドに入る。
786赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/11/05(月) 11:10:23.97 ID:GEYL8n930
12/15
私「…明日、帰るんだよね」
暗く、見慣れない天井を見つめながらポツリと言う。

古乃羽「…」

大学の学祭が明後日までやっているので、その最終日には行こうかなと思い、予定では明日帰ることにしていた。

でも、何て言うか――

古乃羽「やっぱり、気になっちゃう?」

…古乃羽も、か。

私「なる」
古乃羽「私でもそうだから、美加は相当だろうね」
私「なーるよぉ〜」
そう言いながらゴロリと横を向き、古乃羽の方を見ると…古乃羽もこちらを向いていた。

古乃羽「どんなこと?」
私「んー…もう、いっぱい」
787赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/11/05(月) 11:12:09.39 ID:GEYL8n930
13/15
お社。
あれについての「本当の事」って何?
それを知っているという、あの女の人は何者?
名前――舞という名前と、仕草の一致は偶然?

紗希ちゃんと明君は「本当の事」を知っているの?
それは古乃羽のお婆さんの言う、「祟り」に関係したこと?
もし何かを知っているなら、話してくれない理由は?

それと、それ以外にも何かを隠している…?

古乃羽「何か隠している…」
私「うん。だって、さっきもさ…」
古乃羽「昔の話をしたときの事だよね」
私「そうそう」
古乃羽も分かっていたみたいだ。

古乃羽「奈々ちゃんの事かな、って思ったのだけど…」
私「その話かなぁ」
その事なら既に1度話しているし、あんな風に緊張した様子になることも無いと思うけど…

古乃羽「でも、奈々ちゃんの事じゃないとしたら…」
私「何かある?」
古乃羽「私ね…、明君のお父さんが亡くなった原因とか、よく知らないの」
788赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/11/05(月) 11:14:07.09 ID:GEYL8n930
14/15
私「あ、そうなんだ…」
古乃羽「うん。事故とも病気とも聞いていなくて」

私「どちらが先にかは?」
古乃羽「先?…あぁ、えーっと…」
記憶を探るように考え込む古乃羽。

古乃羽「お父さんが亡くなって、明君が独りになった様なことを聞いたから…奈々ちゃんが先、かな」
私「そっか…奈々ちゃんの事も知らない?」
古乃羽「うん。聞いてないと思う」

親子どちらも、死因が不明…?

いや、古乃羽が聞いていないだけ?
当時古乃羽はまだ小さかったから、亡くなった原因についてまでは言わなかった、ということも…

…無い、かなぁ。

事故とか病気とかなら、普通は言うように思える。
子供にその怖さを教え、注意させるためにも。

だから、もし言わないとしたら、それは”言えないような事”だったとか…?
789赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/11/05(月) 11:15:32.48 ID:GEYL8n930
15/15
古乃羽「明日、聞いてみようか」
私「…誰に?」
さすがに明君には聞けないし、紗希ちゃんにも何だか聞けない感じだ。

古乃羽「雅代さん」

私「あぁ…」
あのお婆ちゃんか。
そういえばこの家に来てから、夕食時にしか姿を見ていないな。

古乃羽「何か変なタイミングだけど、帰る前に聞いて…それで良いよね?」
私「うん」
まさか勝手に予定を変更して、もう1日くらい、こちらか杵島さんの家にお世話に…なんて事は言えない。
それだけ聞いて、真っ直ぐ帰って…他の事は後で考えよう。
…と、この時はそう思っていた。

しかし翌日、私たちは帰るわけにはいかなくなっていた。

なぜなら、古乃羽の従姉妹の唯ちゃんが、突然姿を消してしまったからだった。



790本当にあった怖い名無し:2012/11/05(月) 18:12:47.09 ID:ktNycWC70
乙です
791本当にあった怖い名無し:2012/11/07(水) 11:31:19.90 ID:NR71JfYjO
赤緑乙
792本当にあった怖い名無し:2012/11/12(月) 23:21:58.57 ID:qmz58tfv0

さて、次回はどうなるか
793本当にあった怖い名無し:2012/11/20(火) 23:36:03.54 ID:bBnjXNo20
乙と共にホシュ
794本当にあった怖い名無し:2012/11/23(金) 02:08:19.10 ID:zx36UpdH0
1年ぶりに来たがこっちはこっちで安定してるようだな
洒落怖スレにくんなよせっかく隔離したんだから
795本当にあった怖い名無し:2012/11/29(木) 20:43:35.42 ID:d3OFXi9H0
そもそも洒落コワから師匠系無くなったよね
ここにもなくて洒落コワにもないとすると一時期あれだけいた霊能キャラとその上位互換はどこに消えたのか
まさにオカルト
796赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/12/03(月) 09:25:32.29 ID:bJq9mOh80
[その目には何も見えない]

1/9
「あ、古乃羽ちゃん、美加ちゃん…」

朝早く、美加と2人で杵島の家に駆けつけると、玄関前で落ち着かない様子の叔母さんに声を掛けられる。

私「おばさん、唯ちゃんが?」
叔母「そうなの、もう、何が何だか…」

堀塚邸で一夜明けた朝、携帯に連絡があり、私は唯ちゃんが居なくなった事を知った。
しかも、どこかに出掛けていて、という事ではなく、「朝起きたら、隣で寝ているはずの唯が居なかった」と言うのだ。

叔母「すぐに警察に電話して、来てもらって…色々調べてくれているみたいだけど…」
家の周りにはパトカーと野次馬が集まっており、少し離れたところでは叔父さんが警察の人と話をしている。

叔母「戸締りとか、ちゃんと…でも自分からって…あの子がそんなこと…」
普段元気一杯の叔母さんも、流石に弱り切っている。

私「どういう状況だったか、話を聞かせて?私も美加も協力するから、お願い」
叔母「えぇ…あぁ、ごめんなさいねぇ…」

取りあえず叔母さんが座れる所を探して裏庭に行き、縁側が開いていたので3人でそこに落ち着く。
797赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/12/03(月) 09:27:09.28 ID:bJq9mOh80
2/9
美加と2人で質問をしながら、幾分落ち着きを取り戻してきた叔母さんから話を聞く。
その内容は、こんな感じであった。

昨夜、いつものように3人で川の字になって寝ていた。
朝6時に目が覚めると、間に寝ている唯が居なかった。
お手洗いかと思ったけど、そちらにも居ない。
夫を起こして2人で家中を探したけど居ない。
昨夜、玄関や勝手口、窓の戸締りはしっかりしていた。
だが、調べてみると玄関のカギだけが開いていて、唯の靴もなくなっていた。
祖母は5時前に起きていたようだけど、玄関が開いた音は聞いていない。

と、これだけ聞くと、これは…

叔母「警察の方の話だと、深夜か朝の早い時間に、唯が自分で玄関から出ていったのじゃないか、って…」

そうなるだろうな。

美加「何か無くなっているものとかは?」
叔母「靴と、あとはいつも着ているコートが無いだけでね…」

自分でコートを羽織って、靴を履いて出て行った…と思われそうだ。
798赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/12/03(月) 09:29:08.86 ID:bJq9mOh80
3/9
叔母「警察は、家出じゃないか、って…」
力無く、叔母さんが言う。

私「唯ちゃんが家出なんて、ありえないよ」
叔母「そうよね?そんなこと、する訳ないのに…」
私「私からも言っておくね」

今日帰る予定だった私たちは、唯ちゃんにも挨拶に来る約束をしていた。
それだけでも、このタイミングで家出をするとは考えられない…というのは、通らないだろうか?
良い様にとってくれないかも知れないけれど、警察の方にこの事は話しておこう。

私「お婆ちゃんは2階?」
叔母「あぁ、部屋にいると思うよ」
私「じゃあ、お婆ちゃんにも話を聞いてみて、それから探しに行くね」
叔母「あぁ…私も行きたいのだけど、家に居るように、って…」
私「うん。帰ってくるかもしれないから、おばさんは家で待っていてあげないとダメよ」
叔母「そうだねぇ…うん」

この様子で探しに行ったら、逆に叔母さんが心配で仕方ない。
799赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/12/03(月) 09:30:43.94 ID:bJq9mOh80
4/9
美加と2階に上がり、お婆ちゃんの部屋へ行く。
ノックをして入ってみると、お婆ちゃんはベッドに腰掛けて俯いていた。

私「お婆ちゃん」
祖母「あぁ、古乃羽…来たね」
私「…うん」

お婆ちゃんは…既に試したのだろうか。
…きっとそうだろう。
でも、それが上手くいかなかったので、俯いていたのだろうと思う。

祖母「あたしじゃ駄目だったよ。…古乃羽はどうだろうね」
私「やってみる」
そのために来たのだ。

美加「…あ、そういうことね」
私「うん」

お婆ちゃんと私に出来る事――それは、霊視だ。
唯ちゃんを、霊視で探す。
行方が分からなくなったと聞いたときから、そのつもりだった。

ただ、私はこの町の地理に詳しくないので、霊視で見えたものからその場所を知るため、町に詳しいお婆ちゃんの所に来たのだ。
800赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/12/03(月) 09:32:25.73 ID:bJq9mOh80
5/9
私は部屋の椅子に座り、霊視を始める。

深く息を吐き、目を閉じる。
全身の力を抜き、頭に唯ちゃんの事を思い浮かべる。

そして目に意識を集中して…別の目を開く――

――……

……



なぜ…?

ハッと息を付き、目を開ける。

美加「どう?」
祖母「見えたかい?」

2人の問いに、私は首を振る。

何で…?

私の目には何一つ…何も見えなかった。
801赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/12/03(月) 09:34:10.89 ID:bJq9mOh80
6/9
祖母「やっぱり、こういうのに頼っていたら駄目だね」
私「…」
祖母「気にすることは無いよ、古乃羽」
私「あ、うん…」
でも、これは…この見え方は…

美加「古乃羽、探しに行こう?」
美加が声を掛けてくれる。
私「そうだね…行こう」
祖母「気を付けてね」

美加に手を引かれるように、私は祖母の部屋を出る。
そして、階段を降りたところで――

美加「で、どうだったの?」

再び美加に聞かれる。
流石にお見通しみたいだ。

私「何も見えなかったの」
美加「うん」
私「普通、そんなことないのに…」
802赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/12/03(月) 09:36:21.92 ID:bJq9mOh80
7/9
まったく何も見えなかった。
遠すぎてぼやけるという事でもなく、まったく、何も。
その場合…今考えられるのは、2つの事だ。

その1つは――

美加「最悪の事は、考えないで」

――と、先に釘を刺される。

最悪の事。
1つの考え。
…それは、「既にこの世に居ない」ということ。

でも、それは無い。
無いと信じたい。

だから、この場合はもう1つの方だ。

私「――誰かに隠されている、かな」

何者かが、唯ちゃんを隠している。
その方法は分からないけれど、まったく見えないというのは、逆にそういう事だと思える。
803赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/12/03(月) 09:38:12.99 ID:bJq9mOh80
8/9
美加「それって、霊視されることを知っているからだよね」
私「うん」
美加「唯ちゃんが自分から隠れる、っていうのは考え難いから…」
私「杵島の事を知っている人に、隠された」
美加「…だね」

隠した「誰か」は、霊視の事を知っていて…それから隠れる術も分かっている。
どうやらこれは、容易には見つけられなそうだ。

美加「紗希ちゃんの所に戻ってみようか」
私「紗希ちゃん?」
美加「予知で何か分かるかも」

――今朝、叔母さんから連絡があって、私たちは荷物を置いたまま、すぐに堀塚邸を出てきた。
電話の内容…唯ちゃんが居なくなった、という話は、あの2人にはしていない。
ハッキリした事が分かっていなかった事と、変に心配させてはいけないと思い、何か急用が出来たみたいだからと言って出てきたのだ。

そう…確かに、そうだ。
予知で何か分かるかもしれない。
これから起きる事から、今の居場所が――

と思ったところで、ある考えが浮かぶ。
804赤緑 ◆kJAS6iN932 :2012/12/03(月) 09:39:30.61 ID:bJq9mOh80
9/9
私「美加、先に行ってくれる?」
美加「ん?古乃羽は?」
私「ちょっと行ってみたいところがあるの」
正確には、行って試したいことがある、だ。

美加「良いけど…」
私「ごめんね。後からすぐに行くから」
美加「危ないことしちゃ、ダメよ?」
私「うん。大丈夫」

いつも私が美加に言っていることを、逆に言われてしまった。

美加「じゃあ、先に行っているね」
そう言って、急ぎ足で出ていく美加。

突然こんな事が起きるなんて、美加が来てくれていて良かった。
頼りにしているよ、と心の中で感謝してから、私も急いで行くことにする。

行き先は――この家の近くにある、一乃守だ。
805本当にあった怖い名無し:2012/12/03(月) 17:35:13.51 ID:ch2zNWpYO
806本当にあった怖い名無し
乙だが
半年書き溜めて一気に書いてくれ