857 :
849:2013/09/16(月) 02:17:36.70 ID:0rO9pe0l0
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『ある街で』1/7
立体パズルの様に幾重にも組み合わせられた木造建築から木の匂いを漂わせるその街は、
昼過ぎから人が多くなってきた。
その人込を避けるように一人の老人がこの界隈をふらりふらりと歩いてくる。
やがて公園の近くにあった一つの長椅子を見つけるとおもむろに腰掛けた。
年の頃は八十位、白くて量の多い髪の毛と、年を重ねている為か落ち窪んだ目と対照的に
跳ね上がった白い眉毛が特徴的だ。
名を結城源之助と言う。
源之助は少し周りを見回した。子供が親御さんらしき人に連れ添われてはしゃぎながらボール
遊びに興じているのを見て源之助は少し悲しそうな顔をしている。彼がいたたまれない表情で
子供達を眺めているとふわりとした風と共に隣に人の気配を感じた。
源之助はふとそれに気付くとそちらに目を向けた。
「ここ宜しいでしょうか」
その老婆は高い品格を漂わせ、雰囲気を裏切らない声質と話し方で源之助に断りを入れた。
年の頃は源之助と同じくらいだろうか。白い髪に若干黒いモノが混じっている髪の毛はよく
手入れされており年の割には艶やかな印象を受ける。顔の方も小奇麗にされているものの
年齢には勝てないらしく、小皺が顔全体に及んでいる。
「ええ、どうぞ」源之助はそう言いながら少し右に移動し、座れる場所を確保した。
「どうも有難う御座います」
長椅子に腰掛けた老婆は空を眩しそうに見上げると
「今日はいい天気ですね」
「そうですね。願わくばこんなのんびりした天気が続いて欲しいものですな」
「私の思い出の日は激しい雨だったわね」
「雨・・・でしたか。珍しいですな」
源之助も空を仰ぎながら老婆の話に相槌を打つ。
だが少し引っ掛かりもあった。源之助にとって雨と言うと未だに鮮明に思い出す事がある。
「ええ・・・今でも思い出します。雨と共に私の大切な男の人が消えていくのを」
「下世話な話ですが失恋でもされたのですか」
「そうじゃありません。明治神宮外苑の国立競技場と言えばお分かりでしょうか」
源之助は体の中に電流が走る感覚を覚えた。
忘れたくても忘れるはずが無い。
太平洋戦争真っ只中。日中戦争や連合軍との度重なる戦争で戦死者は増大した。
昭和17年頃から戦況の悪化により徐々に学徒の徴兵猶予が引き下げられていく。ついに昭和18年
『在学徴集延期臨時特例』なるものが公布される。これは理工学系や教員養成系を除く諸学校学生以外の
文科系学徒徴兵猶予を停止される物であった。
これにより徴兵要請が源之助の身にも降り掛かり学徒出陣として戦地に赴く事になる。
戦地はソ連軍との激戦区であった南樺太。民間人をも巻き込んだソ連軍の攻撃は熾烈を極め、多くの
地獄を見てきた彼にとって国立競技場での学徒出陣壮行会は地獄の始まりと捉えていた。
「そこに大切な人が・・・かくいう私も国立競技場には壮絶とした思い出がありまして」
「出陣した後の配属は南樺太の激戦区だったのでしょう」
源之助は唖然とした顔で老婆の顔を覗き込んだ。何処かで会っているのかと思いまじまじと見つめていると
「何故知っているのかって顔をしてらっしゃるわね。結城源之助さん」
老婆はおもむろに溜めをつくりこう切り出した。
「こう言えば分かりやすいかしら。時計屋の源ちゃん」
昭和の始め頃、東京にて家業の時計屋を手伝いながら学校に通っていた源之助は隣に住む四つ下の女の子を
とても可愛がっていた。名を神崎うねといった。
当時妹の居ない源之助はうねを妹のように可愛がり、また兄の居ないうねは源之助を兄のように慕っていた。
やがて年頃になってくると彼等は何時しか微妙で淡い恋心を抱き始め少しずつ関係が近くなってきていた。
その折、戦況が悪化し昭和18年旧制高等学校に入学していた源之助は徴兵猶予を撤廃され兵隊にとられる事と
なった。
南樺太で日ソ不可侵条約を破り侵攻してきたソ連軍を相手に激戦を繰り広げた後、終戦後にはまだ若いからと
当時の将校に国にどうしても国に帰るように勧められた。しかしその将校を始め主な幹部達はラーゲリと呼ばれる
シベリア強制収容所に送り込まれた。ソ連軍の追撃をかわして命からがら東京に逃げてきた源之助を待っていた
ものは全てが黒く彩られた何も残っていない大地だった。
1945年3月10日の東京大空襲の爪痕である。
「うねちゃん?うねちゃんなのか」
「ええ。そうですよ。気付くのが遅いです」
うねは半ば膨れるような口調で返してきた。
「久しぶりだね。」
源之助は言葉にならない言葉を搾り出すようにつぶやく。自分でも無意識に震えていたのかも知れない。
「あら泣いているの?」
「いや泣いてはいない。嬉しいだけだ」
「うふふ。そう言えば源ちゃんあれからどうしてたの?ソ連軍に侵攻されて大抵の捕虜は強制収容所に
送られたって聞いたけど。源ちゃん助かってたんだ」
「俺は強制収容所には行ってない。まだ若かった俺達数人は上官から巧みに存在を隠され帰国を促された。
だが上官たちは進んで収容所に収容されていかれた。上官の意を無駄にしないために帰国をしたわけだが」
「東京に帰ってきて空襲の後を見たわけね」
「ああ、家族ももうダメだと思った」
源之助は遠い目をしながらその光景を思い出していた。結局戦争は何処へ行っても地獄だと思いながら。
「それからどうしてたの」
「あれから東京の復興まで親戚筋を頼り、地方で時計職人を探して貰って弟子入りさせて頂いた。
技術がある一定の水準に達した頃東京へ帰る事にしたんだ。東京に暫く店を構え、店が軌道に乗ってきた所
で親戚筋から結婚の話を持ち込まれたんだ」
「奥さんいらっしゃったわけね」
「子供もな。三人出来てみんな出て行っちまいやがった」
「子供ってそんなものですよね。何時までも居て欲しいけどそれではあの子達の為にならないしね」
「うねちゃんは子供居たのか?うねちゃんは今までどう過ごしてきたんだ?」
「私は東京の空襲が多くなった辺りから家族で地方に住んでいる知り合いの所にお世話になってたわね」
「縁故疎開って奴か」
「そうね」
うねはそう言いながら突如吹き付けた風に飛ばされそうになる髪の毛を抑えた。
その仕草は品のある彫像が動けば彼女の様な仕草になるであろう事を思わせる動きであった。
「そしてそのままもう東京に帰ってくることはなかったね、地方で家族ごと移住し移住先で両親が勧めた
見合い相手と結婚したわ。子供は二人授かったわね」
「そうか、そちらも大変だったんだな」
その言葉を最後に二人の間に沈黙が訪れた。周りの喧騒は大きいのにも関わらず二人の空間には全ての
音が遮断されているかのようだ。
「ねえ」
ふいにうねが口を開いた。
「あの時戦争が起こらなければ私達結婚していたんでしょうかね」
「どうだろう。少なくともうねちゃんとは駆け落ちしていたかもしれん」
「私の事を好きでいてくださっていたんだね」
「間違いなく好きだった」
「そう・・・・私も」
うねは源之助の顔をじっと眺めた。今しばらく沈黙が訪れる。
次に二人の沈黙を破ったのは街中に響き渡る大きな鐘の音だった。
鐘の音を聞いた源之助は長椅子から腰を上げる素振りを始めた。
「そろそろ時間だ」
「今日行くの?」
「ああ 今日の予定でね。この街の最後の見納めと思って街中をぶらぶらとしていたのだが思わぬところで
うねちゃんに出会うとは思わなかった。うねちゃんと別れるのは名残惜しいが行かねばならん」
「折角会えたのにね。今度生まれ変わったら貴方と一緒になれるかしら」
「是非一緒になりたいな。いや、なれるだろう」
「そうね。私もそう願っているわ」
「ではまた何処かで」
源之助は振り向きもせず後方にいるうねに手を振って別れの合図とした。
うねは静かにその姿を見送っていた。
2011年8月15日
某田舎町の病院にて。
「もう少しですよ。もう少しでお母さんになれますよ。頑張って下さい」
産婦人科の分娩室で出産を鼓舞するような看護士の声が響き渡る。慌しい雰囲気の中で微かなはずのお産の
呼吸音が喧騒を縫って聞こえている。
「赤ちゃんの頭見えました。もう少しですよ」
数分後、臍の緒を切断し然るべき処置を行った看護士の腕に抱かれた赤子が大きな産声を上げた。
「お母さん、よく頑張りましたね。元気な男の子ですよ」
2012年3月10日
一年前に産まれた男の子の隣の家で赤子を出産したと言う。
その赤子は女の子であった。
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867 :
本当にあった怖い名無し:2013/09/18(水) 22:55:51.63 ID:hRNqz3LtO
今年はテレビで面白い怪談番組があんまり無かった気がするなあ。
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ホラーテラーが検索しても、
出てこない、
どうなってるの?
>>869 荒らし投稿で埋め尽くされてとっくの昔に閉鎖
そうなの、ざんねん
ホラーテラーの復活を希望
873 :
本当にあった怖い名無し:2013/09/24(火) 23:33:02.83 ID:e2mT7uuVO
874 :
ジロウ ◆BoekPmqSGU :2013/09/27(金) 22:28:11.62 ID:BFOqnKM70
875 :
本当にあった怖い名無し:2013/09/29(日) 21:15:07.14 ID:VGy6dcBd0
877 :
本当にあった怖い名無し:2013/09/30(月) 08:22:23.61 ID:rkpeiBwxO
粘着だったかゴメン。
でも、調べるったってなあ…
>>877 サイト自体が閉鎖したし、個人の事だから無視が一番
要は荒らし荒らされてた場所ってこと
879 :
本当にあった怖い名無し:2013/10/01(火) 01:09:28.45 ID:JBUt/1JY0
ホラテラって、マヂで終わったの?
ショック(;_;)/~~~
ホラテラみたいなサイトってナイ?
882 :
本当にあった怖い名無し:2013/10/06(日) 19:54:38.11 ID:PLo/Axp50
ひょえー怖い話ばっかだな・・
ほんとおっかねぇ〜や・・そういえば・・
呪われている怖い話とかあるらしいけど・・
ああいうの知ってないの?誰か
885 :
ジロウ ◆BoekPmqSGU :2013/10/11(金) 22:55:34.43 ID:6SG5H3vI0
>>884 ジロウのお話はひとつも無いのだ〜!(たぶん)
からくりの話もないし、名無しだった奴の名作良作もない
888 :
いやぁ名無しって本当に良いもんですね:2013/10/13(日) 13:39:56.06 ID:1I7PCgcJ0
好きなホラー大量にコピーしといて良かった
重くなるからG●EEの日記に全部貼って纏めたった
>>884 ここ勝手に転載してるし、商用禁止だったのにアフィやってるブログだし、色々最悪だろ
>>891 あそこは掲示板常連の民度の低さが嫌だ
誹謗中傷、煽り、揚げ足取り何でもござれ状態
893 :
本当にあった怖い名無し:2013/10/17(木) 20:10:47.23 ID:aksIMzCxi
月凪さんの話を纏めてる人いない?
また読み返したい
895 :
本当にあった怖い名無し:2013/10/20(日) 17:20:03.56 ID:XwC+Q0730
ホラテラマジでなくなったの?
ショックm(。≧Д≦。)m
896 :
本当にあった怖い名無し:2013/10/25(金) 21:33:49.53 ID:PN98CqyXi
まんまん野郎がつぶした
もう読めないのが勿体ないよ
名作もたくさんあったのに・・・・・投稿できなくていいから、読めるようにしてほしい
誰かが引きついてくれたりしないのかな。
マンマン野郎はマヂで許さない
900 :
本当にあった怖い名無し:2013/11/09(土) 23:48:12.73 ID:nec4cxZ5O
お腹すいた!
スイーツ食べたい!
君の脳ミソをお食べ
ほらテラ復活希望
>>902 管理人が管理を放棄したサイトになってまで復活してほしくはない
>>903 だから、誰かが引き継いでくれないものかと
このさい、アフィ貼ってあっても文句は言わない。
>>904 引き継ぎねぇ・・・
ホラテラ並の投稿型サイトとなると難儀だな