90 :
本当にあった怖い名無し:
●人生最大の夢だった父との再会
四十歳になった年の六月のある日、父方の従妹から突然電話がありました。
私の生みの父が危篤なので、「会わせてあげる」と言うのです。但し、その
従妹の姉として―つまり父の兄の娘として、父の家族に紹介するというのです。
だから病院では一言も口をきいてはいけないと厳命されました。
実を言えば、その従妹をはじめとした父の親族たちに、それまで何回も父の
行方を尋ねていたのですが、父の家族をおもんばかって誰も何も教えては
くれなかったのです。仕方なく私は、違うルートを使って父がどこに住んで
いるのか、どんなことをしているのかを、ずいぶん探ってきましたが、何の
情報も得る事ができない状態だったのです。それで、潜在意識に「四十歳に
なったら父に会う」と刻み込み、父に会える人夢見ていました。というより、
父と会う事そのものが、私の人生の目的でした。そして、父に会った時に
恥ずかしくないような人間でありたいと、どんなに辛い環境であっても、
道を踏み外す事なく生きてきたのです。
91 :
本当にあった怖い名無し:2011/09/02(金) 16:35:01.65 ID:sTfCTYMr0
―それが、その夢がかなう、という知らせに受話器を持つ手が震えました。
それも私が決めた<四十歳>という年にかなうという不思議さに、宇宙の力
を感じ、しばらくは身動きできませんでした。
ただ、父が危篤状態にある、ということだけがどうしても信じらません
でした。ですが、東京にある病院に駆けつけると、集中治療室で何本もの
管につながれた父がベッドに横たわっていました。顔も酸素マスクで覆われ
ておりよく分かりません。意識もない様子です。
もはや、生命の分水嶺を越えて、死の領域に近づいていることは見て取れ
ました。集中治療室ですから、生死の境にいる人が多いのでしょう。限られた
面会時間内でも、誰も何も話そうとしていないのが印象的でした。まるで
テレビを消音にして観ているような感じです。リアリティが、完全に欠如して
いる・・・と、思いました。
92 :
本当にあった怖い名無し:2011/09/02(金) 16:35:26.47 ID:sTfCTYMr0
それにしても、私の前で横たわっている人が父だとは、とうてい信じられません
でした。「これが、お父さんなの・・・」というのが、正直な感想でした。
なぜなら、私の宝物であった父の二十代の頃の写真(たった一枚でしたが)と、
目の前に瀕死の状態で横たわっている初老の男性は、どう見ても別人だったから
です。「父と会う」というのは、四十年間かけての私の夢だったのです。それ
なのに、実現したら、何の感動もないなんて、あんまりです。「こんなハズでは
ない」と、いくら自分を叱咤激励してみても、心は石のように固まってしまい、
喜びも悲しみも寂しささえも感じませんでした。ショック状態というのとも、
違うと思います。なぜなら、その翌日に、四十本の赤いバラを持って見舞った
ときも、同じように無感動だったからです。
93 :
本当にあった怖い名無し:2011/09/02(金) 16:35:52.02 ID:sTfCTYMr0
そして一週間後に父は亡くなりました。享年六十二。葬式はとても立派なもので
したが、私は親族の席には座れず、一般の参列席に連なりました。父は私の事を
どう想っていたのか、いまだに謎です。一度は訊いてみたかったのに・・・。
父との再会は思いもかけぬ結果となりましたが、私は、そこから大きなことを
学びました。それは、潜在意識に夢を刻み込む時は、五感(視覚・聴覚・嗅覚・
味覚・触覚)の全てを駆使して、かなった時の詳細をイメージする、という事です。
それまでの私は、ただ「四十歳になったら父に会う」という夢を描き、それを
潜在意識に叩き込んできたため、危篤状態の父にしか会えなかったわけです。
でも私が「四十歳になったら、元気な父に会う」とか、「四十歳になったら、
父と会って抱きしめてもらう」という夢を抱いていれば、その通りになったに
違いありません。
94 :
本当にあった怖い名無し:2011/09/02(金) 16:36:16.01 ID:sTfCTYMr0
潜在意識の事を知らない人は「そんなバカな―」と思うでしょうが、潜在意識
というのは、私たちが考えるよりはるかに大きな力を持っているのです。
その力がどれほどのものか、本書を読まれる方も、いずれは体験するでしょう。
幼いころから夢にすがって生きてきた、そして未来も夢を実現させることに
より生きていこうとする私に、父は、その死をもって、夢をかなえるために
一番大切な事を教えてくれたのだと、私は亡き父に深く感謝しました。
「夢を言いまくってかなえた男 ノートに書きまくってかなえた女」
北原 照久・藤川清美著 出版文化社刊 P189〜193