1680年代のこと
あの高尾太夫と同じ「三浦屋」に もう一人「薄雲」という太夫がいました
この薄雲太夫 大変な猫好きで 寝るも起きるも猫といっしょ
もてないお客は 「猫になりたや 三毛猫に」と なげいたくらいです
猫のほうでも 常に太夫にまとわりつき 片時も離れようとしませんでした
そんな様子を見て ひとは「太夫は猫に魅こまれた」と 噂しました
ある日のこと 厠(かわや)に入ろうとする薄雲のあとを
猫が執拗に追いかけるのを見た楼主は 「この化け猫!」と
一刀の元に 首をはねてしまいます
すると 猫の首は厠の天井まで 飛んでいき そこで薄雲をねらっていた
大蛇にくらいつき みごと討ち果たして 息絶えました
自分を助けようとした猫を 殺された太夫の悲しみようは 大変なもの
楼主や客は かの道哲の寺に この忠義の猫の供養塔を建て
手厚く 葬りました 「猫塚」といって 西方寺に近年まであったそうですよ
こうして 吉原では猫を飼うものが増え
太夫といっしょに 花魁道中する猫もたくさんいました