>>12の続き
いずれの場合でも、熱量は広島の場合爆心で1平方センチあたりおよそ100カロリーほどで、
到底被爆者の身体全体を一瞬で蒸発させたりはできない熱量です。
しかし、国際会議をふくめ、近年開かれる各種の反核・平和大会で、「ピカッと光った瞬間
消え去った」、「一瞬にして蒸発した」などの発言がみうけられます。広島市の行政資料に
位置づけられている『広島原爆戦災史』にも「ほとんど蒸発的即死に近く」とあり、
『平和教育実践辞典』にも「一瞬に壊滅し」「ほとんど蒸発的即死」
「直後に暁部隊の救援隊が入ったとき、地表は死体も骨片も余り見当たらないほど焼きつくされており」
などと記述されています。
しかし、「瞬時に蒸発」のたぐいは度はずれた膨張であり、数千人の被爆者の実際の記録とも
違います。これらの記述は被爆の実相の解明に逆行するものです。何よりも、爆心地でも被爆直後には
数時間であれ、大部分の被爆者は生きていた事実が覆い隠されてしまいます。
生きながらに焼かれ、火傷や打撲、重傷、放射線による内蔵の荒廃などによる想像を
絶する苦痛をなめさせられ、多くは肉親に看取られることなく死んでいったことなど、
全人類が心すべき被爆のディテール(細部)が考慮の外におかれてしまうのです。
*木村一治らの「広島原子爆弾の熱輻射線の強さと閃光時間の決定」
(日本学術会議『原子爆弾災害調査報告書』90ページ、1953年)
「爆央と爆心 1945年8月6日 ヒロシマで何が起きたのか」武田寛 学習の友社 P17-20