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焼き立てのホカホカ
友人から聞いた話ですが、生きている人間の方が怖いと感じた話です。
Sの叔父が、闘病の末、癌で亡くなった時のこと。
当然Sも親族なので、お葬式に出席して、裏方として手伝いをしていました。
白いお棺に納められた叔父は、生前の印象より痩せて2回りほど小さくなった
ように感じられたそうです。
残された叔母も従妹も、お棺にすがって号泣しっぱなし。
式の最中も憔悴しきった様子で、Sもなんと声を掛けてよいやら戸惑うくらい
だったそうです。
火葬場へ向かい、最後のお別れを済ませる場面になっても、叔母も従妹も
叔父のお棺からなかなか離れようとしなくて、親族一同で引き剥がすように
して、無理矢理お別れを済ませました。
しばらくのち、Sも皆にならってお骨を拾い骨壷に納め、続けて初七日を行う
ために、家に戻ることになりました。
家に戻る車の中で、叔母は小さな骨壷を納めた白い箱を愛おしそうに抱きしめ、
時折なでては涙を流していたそうです。
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初七日の準備やお坊さんが来るまで、しばらく時間が開くということで、
Sも自分の親や親族と共に別室で控えていた時、親族の一人がSに準備が
整ったかどうか祭壇を見てきてくれ、と頼んできました。
いいですよ、とSは別室を出て祭壇の作られている仏間へ向かいました。
仏間の前まで来ると、中から押し殺したような叔母と従妹の声が聴こえて
きたそうです。
まだ二人して泣いているのかな・・と、仏間に入るの躊躇していると、
「くすくす・・っ」
と従妹の含み笑い。
「ねぇママ。パパ、焼き立てホカホカ・・・」
続いて叔母の
「そうねぇ〜・・、焼き立てで、まだアツアツやねぇ。ふふっ」
というひそひそ声。
いけない会話を聞いてしまったようで、Sは仏間の前で凍りついたように
動けなくなってしまい、そのまま足音を忍ばせて別室に戻ったそうです。
仏間で聴いた出来事は、親にも親族にも一切話せなかったと言います。
自分が言った事がバレたら、恐ろしいことが起きる気がしたそうです。
この一件以来、叔母と従妹がとても怖くてたまらないのだと、Sは言っていました。
−完−