【今夜】百物語2009本スレ【恐怖】

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455葛 ◆LqpGksAEaRdT
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うちの父親は自転車が趣味で、休日の朝早くに出かけては、
「今朝はどこどこの山登ってきた」とか「県境越えてきた」とか、
いい年してハッスルしまくってるおっさんだから、何かとひやひやしてた。

ある日、いつものように父親がその小旅行から帰ってきた。
また「何何を見て来た!とか」どうでもいい話につき合わされるのかな、と思って、
なんとか逃げ出す言い訳を考えていたのだが、
珠玉の言い訳を思いついたその日に限って、父は何も話さない。
いつもうざいなーと思ってた自分だったが、何だか落ち着かなくて、
「今日はどこに言ったの?」と何気ない風に訊ねてみた。
その時、父は曖昧に答えただけだった。
夜になって、父が「ちょっと来い」とこっそり自室に招いてきた。
ひょうきんな父らしからぬその声色に少し不安になりながらも、
「どしたの?」と訊ねると、
「M山には行くな、絶対に行くな!」
456葛 ◆LqpGksAEaRdT :2009/08/08(土) 03:19:25 ID:FMgeaTV50
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M山は、私が住んでいる市の隣にある山だった。
紅葉と滝が有名で、秋には多くの観光客で賑わう。
標高も高くない身近な山なので、自分も何度か登ったことがある。
何を言っているんだろう、と不思議に思っていると、
父は「母さんには内緒な」と前置きをして、今朝見たものについて話してくれた。

M山は、前述の通り身近なのもあって、父の小旅行先としてよく採用されていた。
その日も父は山に登ったのだ。
いつもの登山道を自転車で(逆にしんどいのでは?)登り、
滝へたどり着くと小休止、山を下り始めたのだが、
その登山道で、見慣れない小路を見つけたらしいのだ。
今日は趣向を変えてこっちから下りてみようかと思いついた父は、その道を下りたらしい。
しかし、舗装されていた道はどんどん細くなっていって、ついには獣道になってしまった。
戻らないとな、と思いつつも、好奇心には抗えず、
父はどんどん道無き道を進んでゆく。
457葛 ◆LqpGksAEaRdT :2009/08/08(土) 03:20:41 ID:FMgeaTV50
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しばらく進むと、急に道が開けて、広場にたどり着いたらしい。
その広場には、高床倉庫?みたいな前時代的な建物がいくつかと、人がちらほら。
勿論父も自分もそんなところの存在は知らない。
それに、そこにいた人たちも妙だった。
服装は自分たちみたいな、ごく一般的なTシャツなどだったのだが、
皆、顔にはヴェールのようなもの(丁度イスラム教の女性のような)をしていて、
まるでマネキンのようにじっと立っているのだ。
さすがに薄ら寒いものを感じたらしい父は、急いで道を戻って帰宅したのだが、
その山について検索しても上記のような集落?についての情報は存在しなかった。
「俺はどこに行ったんだろうな」
それから程なくして地方へ単身赴任した父は、時々思い出したようにそう語る。
今でも父は自転車に乗り、「どこどこへ行った」といちいちメールで報告してくる。
かつては鬱陶しかった父の報告だが、今は無ければ心配するようになった。
ひょっとしたら、父はどこかへ行ってしまうかもしれない・・・
そんな漠然とした不安が、自分の中で燻っているからだ。