僕は見えてしまうけど対処出来ない、そんな感じの人間です。
この度書かせていただくのは、ひと月ほど前から約2週間程度職場の理容室にいた髪の毛がない地を這う女の事です。
誰もが存じている事でしょうが、理容室には大量の鏡と水辺があります。
これがどう関係あるのかと申しますと、オカルトが好きな人ならば一度は耳にした事があるだろうとお察ししますが、共に霊が集まる場所として知られています。
これが近因だと思うのですが、ちょくちょくと霊が通り過ぎたり、居座ったりしています。
もちろん自宅に連れて帰りたい気など毛頭無い為、必ず気付いていない振りをしています。
普通の霊達は知らぬ間に流れているのですが、冒頭にも書いた「髪の毛のない地を這う女」こいつだけは例外でした。
客時で多少店内が賑わう明るい状況かでも、あいつは地面を這っています。このまま放置しておいてもいなくなる気配はないと思わせるほどです。
必死に髪の毛を集めようとしているのですが、触れられぬもどかしさからでしょうか、時折駄々をこねる子供のように暴れていました。
あまりにも哀れで見ていられないので、あいつが現れてから10日程経った日の閉店後にウィッグを置いて帰りました。
その日を境に、あいつから暖かいながらも助けを求めるような眼差しを感じました。
同情の為か次の日もその次の日もそのまた次の日もウィッグを置きっぱなしにしておいたのです。
そしたらあいつが店内からいなくなった日の朝出勤した時は、店内中ウィッグの飛び散った毛で大汚れ。
あいつはつけられない事にいらだちを覚え、ウィッグを壊してからいなくなったのでしょうか。
それともウィッグをつけれたことにより満足し、ウィッグを壊していったのでしょうか。
僕には通信手段が身振り手振りしかないので、知る由も知る術もないのですが。
その当時周りの社員たちは不気味がっていましたが、今思えばあいつはなかなか可愛いやつだったのかもしれないと、僕だけが一人胸の中で思いました。
今回は僕はこのあたりで失礼させていただきます。
可愛いあいつが今横にいますので。
完