39 :
にる ◆7JzvfzvpNY :
第五話 「ひらひら」
母が高校生の頃に体験した話だというから、もう四十年も昔のこと。
当時は本の虫で、三年間ずっと図書委員を務めていた。
毎日同じ顔ぶれでおしゃべりしながら、下校時間までのんびりやっていたらしい。
ある日のこと。いつものように七人くらいでだらだらと片付けていた。
「ちょっと休憩しようよ」と誰かが言った。
これもお決まりで、面倒な作業がひと段落つくと、図書室内の大きな机に集まって、
やっぱりひたすらしゃべる。
母も話題に興じていたが、ふと天井が気になって顔を上げた。
「あっ」
電灯と電灯の隙間から青白い腕が伸びて、ひらひらと揺れていた。
腕は透けて、天井の板目が見えている。
「えっ」
そこにいた全員が母の声に天井を見上げて、ひらひら揺れている腕を見てしまった。
次の瞬間、腕は上の階へ引っ込むようにスーッと消えた。
悲鳴をあげながら慌てて職員室まで担当の先生を呼びに行った。
「気のせいに決まってるわよ」と言いながら、先生も、時折腕が生えていたあたりを
ちらちらと見ては気にしている。
それからは必ず先生に同席してもらうようになり、片付ける時間も早くなったという。
このひらひら揺れる腕、図書室以外の場所でも目撃されているらしい。
母が通っていた高校は今も東京都下にある。
【完】