「流星群がやってきた夜」 1/2
小学生の夏休みだった。
テレビを見てたら「今日の夜中から明け方にかけて流星群がやって来る」ってニュース
が流れた。
やっぱり当時はお子様だったもんで、たとえ夜更かししても22時ぐらいが関の山だっ
た。日付が変わる瞬間まで起きてるなんて絶対無理。
でも、たくさんの流れ星が見られるって言うし、理科の自由研究にもなりそうだしで、
生まれて初めての本格的な夜更かしに挑戦してみよう! と思い立った。
で、ちゃっちい双眼鏡とか、流れ星の数を記録するためのノートとかを準備して、母親
に頼んでブラックコーヒーを淹れてもらったりして、部屋でずーっと待ってた。
でもダメだった。やっぱり22時ごろには眠くなってきて、それでもがんばって起きて
たんだけど、23時ごろにはもう限界。流れ星のピークはまだ先なのに。
こっくりこっくりしながら、それでも意地張って起きてたら、母親が部屋にやって来て、
「眠いなら無理しなさんな。自由研究なら代わりにプラネタリウム連れてってあげるか
ら」
って言ってくれた。もう眠くてわけがわかんなかったもんで、その提案に乗ることにし
て、あきらめて寝ることにした。
母親が部屋を出て行って、私は用意した双眼鏡やノートを片づけて、部屋の電気を消そ
うと立ち上がった。
そしたら、
「もう寝るの? もったいないなあ」
って聞かれた。ほんっとその通りだし、流れ星見られなくて悔しいって思ってたから、
「うん。残念だけどね」
って答えて、電気消して、すぐ眠りについた。
2/2
朝起きて思い返したら、あの会話ってありえない。
母親はすでに部屋を出て行ってしまった後だったし、部屋には私一人しかいなかったん
だから。父親と弟はおばあちゃんの家に泊まりに行ってる最中だし。
不思議と怖いとは思わなくて、あの声は誰だったんだろう、おかしいなあ、オバケかな
あ? でもすごく眠かったから単に寝ぼけてただけなのかなあって首をひねりつつ、ふと、
ゆうべ用意してたノートを開いたのね。流れ星の数を数えて記録しようって思って用意し
てたノート。
そしたらそこに書いてあった。真っ白なノートの1ページ目に。知らない筆跡で。
「もったいなかったね」
もちろん私はこんなこと書いた覚えはない。
これはさすがに気味が悪かった。このノートはしばらく保管していたけれど、引越しの
時にどさくさに紛れて捨ててしまったみたいで、もう手元にはない。
何の後日談もなく、本当にたったこれだけの出来事。
なんだったんだろう。夏に流星群が来るたびに思い出す。