丸◆5.J..rdUpoさん代理投下
「繁盛している店」
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3年前、市営バスに乗って移動している時のこと。
後部座席の端に陣取り、怪談の本を読んでいると、聞くとはなしに前の席に座っている男性二人組の会話が耳に入ってきた。
最初は気にも留めてなかったが、話のなかに「幽霊」や「心霊スポット」という単語が混じっていたため、失礼とは思いながらも盗み聞きをしてしまった。
話の内容はこんな感じだった。
二人の住んでいるT市には、店構えは小さいが味が良いと評判のパン屋が二軒ある。
そのうち一軒はごく一般的なパン屋だったが、もう一軒のパン屋は味も良いし清潔で、客も常にいるのに何故か奇妙なうわさがあった。
店の外から数えた時と店内に入って数えた時では、店内にいる人数が違うのだという。
店のショーウインドウから店内をのぞいた時には3人いるように見えても、実際に店内に入ると2人しかいないと、そういった体験をした人が何人もいるらしいと二人組の片方のA氏は言った。
するともう一人のB氏はこんなことを言い始めた。
「その店なら友人のCがよく行ってるよ。噂みたいなことはたまにあるそうだ。ただ、実際は噂よりもいろんなことが起きているみたいだけど」
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ある日、C氏が問題のパン屋に行くと、外から見た時は店内に4人いると思ったのに、中に入ると、店員を合わせても3人しかいなかった。
不思議に思ったC氏だったが、たまにあることだったため特に気にしなかった。トレイを持ってパンを選びながら店内を歩いていると、背後に気配があり、肘に何か当たった感触があった。
とっさに「すいません」と謝りながら振り返ると、自分の周囲には誰もいなかった。
店内はパンを並べた机で仕切られていて動きずらいため、そんなに早く移動することができず、ついさっきまで背後にいた人が別の場所に移動したとは考え難かった。
益々不思議に思いながらも買い物を終えてC氏が帰ろうとしたとき、前方から来たお客さんがすれ違いざまに声をかけてきた。
「お久しぶりです」
「あ、お久しぶりです」
とっさに挨拶を返し振り返るC氏。そこには知り合いのD氏がいて、こちらに向って会釈したあと店の奥のほうに歩いて行った。
「Dさんだったのか、そういえばDさんもこの店によく来ていたな。あれ?でもDさんって2、3年前に亡くなったような・・・」
振り返ってもう一度確かめたが、D氏は店内にいなかった。
どうやら噂の原因はD氏だったようだ。
完