【今夜】百物語2009本スレ【恐怖】

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354絞 ◆9k2LofrJ5w
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会社の話。

私の働いている会社は金物の卸をやっているのですが、結構歴史があって創業170年以上。
社屋も歴史があって古いけど、適度に古くガラス張りの大きな窓があって明るく良い雰囲気。
働く社員もやる気に溢れていて、今時珍しいくらい優良企業だと思います。

けど、ただひとつ、入社当時からずっと不思議に思っていた場所があるんです。
社屋の一番端にあるトイレです。

トイレは入口のドアを開けると個室が二つあり、入口からむかって正面は洋式でその右に和式。
和式の向かいには鏡と洗面台があります。
そして、洋式側には大きな窓があり、トイレの中はいつもとても明るいんです。
何故か、洋式の扉は常に閉まっていて、和式の扉は常に開いている仕様になっていました。
問題は和式のトイレです。

丁度、用を足し終わって立ち上がると目線の高さに取っ手のついた小窓があるんです。
それは、B5サイズくらいの白い木でできており、タイルの壁からは完全に浮いていました。
誰に聞いても、なぜあるのかは分からないんです。
立ち上がってスカートを上げる僅かな時間だけいつも疑問に思い、結局忘れてしまう、それはそんな些細な存在でした。
それが恐怖の対象に変わったのは、今みたいに少しじめじめした夏だったと思います。
355絞 ◆9k2LofrJ5w :2009/08/08(土) 01:20:00 ID:XMjPRB+C0

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その日和式のトイレに入り、用を足し終わって立ち上がった私は、いつものように小窓を見ながらストッキングを上げていました。
なんでそう思ったのか、今はもう思い出せませんが、「そういえばまだ開けたことなかったな」と不意に思ったんです。
真昼間ですし、その日の天気は晴れ、少しもこわいなんて思いませんでした。
私は軽い気持ちで、取っ手を引きました。

そこには、壁があるだけでなにもありませんでした。
なんだ、なにもないじゃないか、と私は特に落胆もせず「やっぱりな」と思い、白い小窓を閉めて洗面台のところに行きました。
石鹸で手を洗いながら、ふと鏡を見ました。

小窓が少し開いていました。

「あれ、きちんと閉めなかったのかな」と思いながらも、気にせず視線を落とし水で泡を落としました。
ハンカチで手を拭きながら、もう一度鏡を見ました。

小窓が大きく開いていました。

壁があったはずの場所には、小窓の中いっぱいの大きな人間の口がありました。
すごい速さで滅茶苦茶に唇をゆがめて、歯茎が見えるくらい激しく何か叫んでいるように見えました。
歯には血がついているように見えました。
こわかったのは、それほど激しく動いているのにもかかわらず何も音が聞こえなかったことです。
356絞 ◆9k2LofrJ5w :2009/08/08(土) 01:21:01 ID:XMjPRB+C0

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私は声もあげずに、トイレを飛び出しました。
振り返るなんて、とてもじゃないけどできませんでした。

その後、誰に話しても信じてもらえなかったので、今ではもう夢か何かかと思うことにしています。
それでも時々、あの口は何か言いたいことがあったのだろうか、と考えることがあります。
たとえ、声が聞こえたとしても私には伝わらなかったとは思いますが。

だってあの口、刃物か何かで舌を切り取られているようだったので。
会社が金物屋(当然刃物も取り扱ってます)だということと何か関係があるのでしょうか。
今も何もわからないままです。


【完】