第38話【 同衾(どうきん) 】 [ 1/2 ]
出張先のホテルでのこと。
リフォームしたて、が売りなだけあって、すごい綺麗な部屋だった。
仕事の報告書を上げ、翌日に備えてさっさとベッドに入った。
寝心地上等。よしよし。
最近のビジネスホテルは、寝心地にこだわったベッドが多くて助かる。
…ふと、目が覚めた。
どうやら寝ていたようだ。
おかしい。
自分は一度寝たら、朝まで滅多なことでは起きないはずなのに。
つ、と立ち上る匂い。
ポマードのような、「オードムーゲ」のような、
定年間際の親父が好んでつけそうな匂い。
禁煙室だというのに煙草(ヤニ)の臭(にお)いも。
どこから?自分ではない。
枕の匂いをかいで見た。
寝る前には気づかなかったが、少し臭(にお)う。
これか、と思って仰向けに姿勢を直した。寝なおす。
…臭いが強くなった。
ふと、違和感を感じた。
掛けていた布団をすこし、持ち上げた。
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そこに、「何か」があった。
いや、「居た」という方が正しいか。
上半身裸で四つんばいの、白目をむき、舌をだらしなく伸ばしきった、
餓鬼のようなハゲ親父が。
「うお!」
飛び起きた。
心臓が早鐘(はやがね)のように鳴っている。
少し落ち着いてから布団をめくってみた。
…何も、ない。
枕の臭いをかいでみた。
あれほど強く臭ってたはずなのに、何も。
部屋を見回しても、綺麗な部屋のまま。寝る前と変わった様子は、
地酒と、つまみにしていた「塩」がバラけてた。
持ってきた経本(きょうほん)に、何かを包(くる)んだような形の
皺(しわ)が出来、挙句(あげく)、バラバラになっていた。
【了】