デート (1/2)
その昔JeのS駅は今のように東西をつなぐ自由通路がなく、
ホームに行くのにも地下通路を歩いてました。
(東<>西の往来は入場券を買って駅抜けて行っていたんですよ)
ある日の残業後に食事を兼ねて軽く飲んだ僕達がその地下通路を歩いていると、
いつもは人通りの多いその通路を歩いている人がいないのに気づきました。
T口に向かって歩いているのは僕達だけ。
遅くまで飲み過ぎたかな?と時計を見ても午後11時をすこし回った頃。
みんなまだ働いているんだろうなと話しながら歩いていると
T口側から靴音が聞こえてきました。
カツーン、カツーンと靴音をたてながら誰かがこっちに向かってくる。
薄暗い通路の向こうから歩いてきたのは年の頃30前の女性でした。
しかしなんだか様子がただ者じゃないなと感じられる人でした。
顔を下に向け気だるそうにそうに歩いて来るわけです。
通り過ぎた後、僕達は「あの人自殺でもするんじゃないか」
とか冗談交じりに話していたのですが、
中の一人が真っ青な顔をして震えていました。
どうしたんだ?飲み過ぎか?と笑っていると
彼が「あいつの顔みたか?」と震えながら言うわけです。
下向いていたから見えるわけないだろと言うと同僚は
「お前ら見てないのか!あいつの顔・・・・牛だった!」
と言って今来た東口改札側へ走り出しました。
しばらくそこで待っていたのですが同僚がなかなか帰ってこない。
気になった僕達が東口に向かっていくと改札口で人だかりがしていました。
そこで見たのは倒れた同僚が駅員や会社員達に介抱されている姿でした。
同僚は救急車で病院へ運ばれ、僕達は急いで会社へ報告へ戻りました。
デート (2/2)
まだ残っていた総務課長に顛末を話すと
「お前らデートを見たのか……女は何人いた?」
一人ですと答えると「一人か…今夜は全員タクシーで帰れ」
とタクシー券を払い出してくれました。
そして僕達に向かって「明日は出社するな」と。
残業するほど忙しいのになんだかなーと思いつつ翌日は喜んで休みました。
その次の日僕達は普通に仕事に戻りましたが、
件の同僚は一月後に会社を辞めたとの話を聞きました。
そしてあの日あの場にいた僕達は全員異動となりました。
時は流れて…つい最近。
当時の総務課長が退職される際に集まった僕達はあの日のことを聞いてみたのです。
「あれはデートさ、たまにいるんだよ、あのへんに。
自分一匹で屠られたくなくて誰かを連れてくのが…」
「JeS駅がわざと不便に作られていたのもそんな理由があったんだよ」
そう、東口にはそんな場所があったのです。
そして、今でもあの場所にあれはあるのです。
了