第28話 【 夏は生(なま)。 】 [ 1/2 ]
高校以来の友人が遊びに来た。
「おまえ、一体何ぶら下げているんだよ」
「開口一番それかい。何ってスイカだスイカ。
冷え冷えの熟れ熟れの切り分ければ甘い汁したたるスイカ。」
「違う。178cm位、痩せ型、30半ば位のなまっちろい男。」
「これか。こんな男か。」
勝手知ったる俺の本棚から卒業アルバムを奴は抜き取り、見せてくる。
「あ、こいつだ。生霊かよ。性質(たち)悪い。落とせ。」
「どの辺だよ。」
「この辺。お前のみぞおちに手ぇ回してすがり付いてる。」
「この辺だな。」そう呟くと、スイカを床に置く。
「うざいんだよ、おめーは!」
低く吼(ほ)え叫び、体重が十分に乗った、綺麗な後ろ回し蹴り一閃(いっせん)。
すかさず低く腰をかがめ、ボディにラッシュ。チャランボ(膝蹴り)。
手刀。持てる全ての技を真言と共にこれでもかと叩き込み続ける。
生霊にもダメージが行くのか、徐々に、姿がゆがみ薄れていく。
「付きまとうなって言うたろうが!お前に興味は無い!去(い)ね!」
低い声で、牙をむいた状態で吐き捨てる。
「…消えたな。また来るだろうが。」
「ありがたくねえなあ。ってか、思いっきり断って罵倒してまだ来るかよ。」
「備えとけ。」
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だが、「次」はなかった。
この些細(ささい)な事件の1週間後。
生霊として訪れた奴が、急激な衰弱により血反吐(ちへど)を
吐きながら、亡くなったそうだ。
「俺のせい、かねえ」
「さあね。元クラスメイト、ってだけでノンケの男にしつこく
まとわり付く奴は、どっかで恨みを買ってても不思議じゃねえよ。」
「ま、幽霊とかなら実害はないし、対処法知ってるからいいけどよ。
生きている人間の時が一番怖かったさ。」
友人の居場所は、実体があるか、よほどの力が無ければ入れるような場所ではない。
その後49日以上経ったが、友人に今のところ実害はないようだ。
とりあえず。
今は。
【了】