【小説】ZOMBIE ゾンビ その25【創作】

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591たんく ◆cKuSCdGrdM :2009/10/09(金) 20:42:49 ID:DE6L2tVV0
こんばんは!
ゾンビハンター4 投下です

「ゾンビハンター 4」
(1)
アザミとノブアキは、廃屋になった整備工場にいた。 自動車用バッテリーがいくつも並べられ、工業用のカンテラが昼間のような明るさを創り出していた。
ノブアキは、仰向けになって古い映画に出てくるような古めかしいデザインのバイクの下に潜り込んでいた。

ーーロイヤルエンフィールド バレット500
1930年代に英国で設計された名車だ。
吸排気系を少しばかり弄って、寒冷地でも走りやすいようにチューニングを施してある。ノブアキがバイクの下から這い出てきた。
「よし!...とサイドカー付けたし、後は荷物だね」
アザミがバイクの周りをぶらぶらと歩き回る。明らかに不満そうな顔でつぶやく。頬が少し膨らんでいる。
「あたし... 前のやつのほうがよかったな...」
「はぁっ!?」
ノブアキは、機械油で黒くなった顔を拭う手を休めて、アザミに向き直った。
「あのねぇ.. 6000cc、V8、400馬力なんて、どんな燃費だよ。 二輪のコルベットだぜ? あいつは。
それに比べてこいつは、燃費もいいし、サイドカー用右シフトチェンジだし、メンテも楽。
満タンで400kmはいけるじゃん」
「 あたし最近の機械弱いから、ノブアキにおまかせするわ」
ーー最近の機械か... ノブアキは、頬を歪めて苦笑した。

二人が目指すのは、秋田県秋田市。
自衛隊の駐屯地。
それほど過密でない人口。
大型のショッピングセンター。
これらの条件を満たす地域では、生き残っている人間がいるケースが多いことを、ノブアキは経験上知っていた。

592たんく ◆cKuSCdGrdM :2009/10/09(金) 20:44:34 ID:DE6L2tVV0
ーーまた何人か死ぬことになるな...

その死を、ノブアキに止める術はない。むしろノブアキ自身が、死神を乗せて走る青白い馬<ペイルホース>ーー死の運び手、なのだ。

ノブアキは自身を嫌悪している。
何も感じなくなりつつあることを。

ーー生き残ることが、それほど大切なのか? いっそゾンビの仲間に入ったほうがいいんじゃないか...

何度も繰り返した問いに、未だ答えは出ない。

ーーオレの征く道は... 生き残って何をするんだ...
593たんく ◆cKuSCdGrdM :2009/10/09(金) 20:45:34 ID:DE6L2tVV0
(2)

ボボボボボッッ

短気筒エンジン特有の振動が、サドルシートからノブアキの脊椎を駆け上っていく。
リアサスペンションの無いリジットの車体は、路面の小さなギャップをも拾い、乗り手をガツンと突き上げる。
しかしノブアキは、この振動が好きだった。
先ほどまでの鬱屈とした気持ちを吹き飛ばしていく。純粋な闘争心に火をつける。

地面を蹴る一匹の獣。青銅色の毛皮をまとった野性。背に負うのは、黒き甲冑をまとった破壊の女神だ。
躊躇なく、容赦なく、冷酷で、美しい。

アザミが、サイドカーの座席から立ち上がった。
左脚を縁に掛け、右手を真っ直ぐ前方に差し向ける。時速150kmを超えるスピードの中で、まるで彫像のように微動だにしない。目に見えない軍勢に、突撃を命じるような姿勢だ。

ノブアキは、高周波発生装置のスイッチを入れた。
街路樹の梢にとまっていカラスが一斉に飛び立つ。
蒼みがかった黒い羽が舞うなか、ノブアキはゾンビの集団を見つけた。
594たんく ◆cKuSCdGrdM :2009/10/09(金) 20:46:48 ID:DE6L2tVV0
(3)

ノブアキは、サイドカーの側面のフックから軍用ライフルを取り上げた。

右足の甲で、ギアをコツンとニュートラルに入れた。
肩付けで軍用ライフルのトリガーを握りこむように絞る。

バババババババッッ

衝撃が肩に食い込む。
わずか直径5mm程度の円錐が回転しながら、カラスの羽を貫き、彼方のゾンビの体に小さな穴を穿つ。
体内で暴れながら進んだ弾丸が、握り拳くらいの肉塊を引き千切りながらゾンビの体を抜ける。

ほんの数秒で二本の弾倉を撃ち尽くし、ノブアキは軍用ライフルを捨てた。
頭蓋を撃ち抜かれたゾンビが、数体崩れ落ちる。
ゾンビの群れが甲高い絶叫で応える。

ノブアキはギアをセカンドに入れ、ゾンビの群れの手前で急速に右にハンドルを切った。
慣性の法則で、アザミが宙に放り出される。

膝を抱えたアザミの躯が、空中で回転しながらゾンビの群れに飛んでいく。
跳躍の頂点で、アザミは羽ばたくように両手を広げた。

シャリーン

鈴の転がる音を立てて、鞘から抜かれた鋼刃が白く光った。
背中から交差するように引き抜かれた刀が、アザミの両手に握られている。
595たんく ◆cKuSCdGrdM :2009/10/09(金) 20:56:16 ID:DE6L2tVV0
ふぅ
アクションシーンは行数食いますねぇ
サクサク進めたい気持ちもありますが、描写がくどいところは、映画のスローモーション(マトリックスみたいなの)を想像してくださいー

>>590
ありがとうございます!
誠意を込めてうpしますね
596セイレーン ◆lOzQ6cITxI :2009/10/11(日) 12:39:15 ID:U54unMY40
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597たんく ◆cKuSCdGrdM :2009/10/11(日) 20:22:43 ID:am/YWeFa0
こんばんわ!
今日飲みなので、二話だけですがうpしますねー
尻切れですが、御容赦をば...

(4)

鋼の翼が、闇の中で羽ばたいた。
獲物を捕らえた猛禽類が、上昇しようとするように。
アザミはゾンビの頭頂を蹴って、更に跳躍する。ゾンビの頭は半ば肩に埋め込まれた。
宙を飛んだアザミが、刀を振払い血糊を飛ばす。
それを待っていたかのように、ゾンビの顔にプツプツと血の点が現れた。点が線になった時、ズルリと顔の半分が斜めに滑り落ちる。

アザミが宙を舞うたびに、ゾンビはその数を減らしていった。
だが、アザミは妙な違和感を感じていた。

ーー何だろう? ...イヤな感じ
今までアザミが、闘いの最中に感じたことの無い感覚だった。
考えるより速く斬る、飛ぶ。それだけに、集中して来た。今日に限って、なぜ雑念が混じるのか。アザミ自身にも理解出来なかった。
また、そうした事を考えてしまうこと自体が、アザミの違和感を不安に変えていた。

ゾンビの頭を踏み付けが、若干浅かったような気がした。
頸骨を折られたゾンビの両腕がアザミの足首を掴んだ。工作機械のような、凄まじい力で。
アザミの刀が一閃する。
ゾンビの二の腕を切り飛ばして、アザミは左脚で飛んだ。
598たんく ◆cKuSCdGrdM :2009/10/11(日) 20:23:33 ID:am/YWeFa0
(5)

ーー低いっ!
アザミの思考と同時に、空中のアザミの左足首が掴まれた。刀が、白い帯のような残像を残して振られた。
右の蹴り足は十分だった。
だが、ゾンビの二の腕が怨念のように絡みついていた。それをゾンビに掴まれる。二本、四本、八本と腕が伸びた。

空中の見えない壁に激突するように、アザミの飛行が止まった。
突き出された無数の腕。決して満たされることのない、絶望的な飢餓。屍人に残っているのは、本能ではない。
あらゆる感情がない、荒野の地平線。蠢き、のたうち、食い尽くす。ヒトには理解することすら不可能な、真の狂気がそこにあった。

アザミは、躊躇なく自分の右脛を切り落とす。
左脚で三度飛ぶ。飛ぶたびに、右脚から大量の血液がほとばしる。
ゾンビの群れを越え、着地する。バランスを崩したアザミは、転がりながらガードレールに激突する。衝撃で鉄板が歪んだ。

何十分の一秒が、アザミには止まったかのように感じた。
数え切れないほどの白濁した目が、星明かりで光っている。
599たんく ◆cKuSCdGrdM :2009/10/11(日) 20:24:39 ID:am/YWeFa0
すいません
続きます
推考が追いつきません
んじゃまたー
600本当にあった怖い名無し:2009/10/11(日) 20:58:26 ID:ooX5WLZ60
ノブアキと逃げた大学生はどうなったんだ?
601たんく ◆cKuSCdGrdM :2009/10/11(日) 21:04:55 ID:am/YWeFa0
>>600

あ、すません
それはまた後ほどのノブアキの回想で

取り合えず追加うp
この次はアザミの回想→ノブアキ奮闘→ノブアキ回想(アザミとの出会い、大学生のエピソードも)→すったもんだ→ラストシーン
という予定です

このスレで完結したいなぁ
無理かなぁーw
602たんく ◆cKuSCdGrdM :2009/10/11(日) 21:05:54 ID:am/YWeFa0
(6)

ーーズガァァン!
閃光が辺りを包む。
アザミが、放棄された自衛隊基地から調達した手榴弾だ。二発目、三発目と立て続けに爆発する。
巻き上がった砂埃を切り裂くように、ノブアキが操るロイヤルエンフィールドが駆けてくる。

「アザミ!」
ノブアキが鋭く叫びながら手を差し出す。
「掴まれ!」
スピードを緩めるわけにはいかない。ノブアキの声が上ずった。
左手でアクセルを抑えつつ、右手を地面すれすれに伸ばす。チャンスは一度きりだ。
ーー神様!
ノブアキは、産まれて初めて祈った。

ガシッと、アザミとノブアキの腕が交差する。
「うおおおぉっ!」
ノブアキの口から、自然と気合が発せられた。力まかせにアザミの体を引き上げる。
「放すなよ!」
左手をアザミの腰にまわして、ノブアキは叫んだ。奥歯を割れそうなほど噛み締めていた。
ゾンビの群れの甲高い絶叫が、風に乗ってノブアキの耳に届いた。
「畜生っ!」
ノブアキは吐き捨てると、アクセルをひねった。

ーーあぁ... 寒い
アザミは朦朧とした意識で、ノブアキの叫びを聞いていた。何もかもがスローモーションで、音はくぐもって遠かった。

ーー雪がふりそう... そういえば、あの日も寒かったっけ

アザミは眠るように、意識を失った。
603セイレーン ◆lOzQ6cITxI :2009/10/13(火) 07:05:38 ID:i4DVMBIe0
            ___
         /::::::::::::::::::\へ
        冂::::::::::::::::::::::::::::::ヽΤ」
      Σ厂:::::Nノレレ-V::):ノ:::|
       |:::::::/ ( ●)(●)  i::::|/⌒_)
        |::::::|   (__人__)  }:::ノ  ノ  
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      Nvレ|      .  |∧NV     
         i      ̄\ ./    
         \_     |/
          _ノ \___)
         (    _/
          |_ノ''
きのうあるアクシデントがあってとても小説書ける精神状態じゃなかったです
ファンのかたごめんなさい。今日の夜か明日には投稿します
604たんく ◆cKuSCdGrdM :2009/10/13(火) 19:30:08 ID:nc0iRFhQ0
こんばんは!!
アザミの回想、シーン5になります
ゾンビ出ないので退屈かな?
まぁ許してたもんせっ
そいだば投下〜

「ゾンビハンター5」
(1)

水野九郎衛門の娘、阿左美は、深川にある屋敷の日向で白猫と遊んでいた。

阿左美、この年十八になる。慶応四年、一月の末である。
もちろん、屋敷と言っても八畳が二間に六畳間の簡素なものだ。庭も狭い。
とは言え、この時世の貧乏旗本としては、暮らしぶりは良いほうかも知れない。十四石という父の禄が、高いのか低いのか、阿左美にはわからない。
しかし、吐く息が白くなるこの時期に、火鉢の炭が買えるのはありがたいことだ。もっともそれは、阿左美の許嫁である家からの見舞金のお陰でもある。
605たんく ◆cKuSCdGrdM :2009/10/13(火) 19:33:11 ID:nc0iRFhQ0
(2)

桑名蕃士であった堀木家の次男右京が、京の鳥羽口で長州の軍勢に破れ戦死したとの報を受けたのは、ほんの十日前である。
それ以来、阿左美は黒い喪服を纏って暮らしている。一度もあったことが無い許嫁。夫となり、子供の父となるべく定められた人。
何の感情も無い、といえば嘘になる。まるで自分の運命が、ぷつりと切られたような気持ちになってくる。
人としての一つの幸せの形から、はじき出された寂しさ。逆に言えば、もう世間と関わらなくてもいいと言うような開放感。

ーーどんな方だったんだろう...?
阿左美は、白猫の柔らかい腹をくすぐりながら考えた。
ーー 歳は二つ上。論語漢詩をよくし、藩きっての佑筆。武芸...特に弓術の腕前が高く。縁談をまとめた伯父によれば「なかなか凛々しい」顔立ちらしい。

阿左美が許嫁について知っているのは、この程度であった。

ーー 京か...
阿左美の住む屋敷から、そう遠くない場所で大老が暗殺されてから、世間は血生臭いことばかりになっていた。
阿左美の遠い京での出来事など、海の向こうの話しのように感じていた。

しかし、幕府軍が三分に一の手勢の長州軍に破れたことは、多感な阿左美の心にいくばかりかの衝撃をもたらした。
ーー とは言え、幕府が無くなったとしても、人の世が終わるわけではない。

幕府の御家人である父には決して言えないことだった。
606たんく ◆cKuSCdGrdM :2009/10/13(火) 19:34:07 ID:nc0iRFhQ0
(3)

ーー 京にいってみたいな...
阿左美の気持ちは日ごとに高まっていた。
許嫁のことを想った、というのもあっただろう。
しかし、気持ちの大部分は違った。
阿左美は、見たかったのだ。自分の運命が終わった場所を。幕府の世が終わった場所を。
硝煙と血と汗の匂いのけぶる戦場で、累々たる屍を見渡しながら、凛とした冷たい空気の中で立ち尽くす...
その荒涼とした景色の中で、たった一人。
想い、寂寥、そして静寂。静かに、眺めたかった。

ーー 弥勒の世... この世の終わり...
五十六億七千万年後に下生する弥勒菩薩は、そんな世界に現れるではないだろうか。

ーー ならば、自分もその場にいたい。
居てはいけない法はない。だが手だてもない。
ーー だからせめて...
京に上りたい。

阿左美は、ゆっくり顔を上げた。
柔らかい頬に赤味が差し、恍惚とした微笑みは、凄絶な迫力に満ちていた。
607たんく ◆cKuSCdGrdM :2009/10/13(火) 19:40:07 ID:nc0iRFhQ0
かったるいですね。ええ、わかります。
まぁアザミの自己紹介だと思って読み飛ばして下さい

更に続きますが....明日にでも
608本当にあった怖い名無し:2009/10/13(火) 20:33:55 ID:up5xkLQV0
>>607
全然かったるくないですよ。
この調子で明日もお願いします。
609セイレーン ◆B/kjYNqf0w :2009/10/13(火) 22:07:46 ID:kszZlb43P
ちょっと新型インフル・・・ではなく普通の風邪でダウンしてました。
ではゾンビ官渡の続きをどうぞ。
610セイレーン ◆B/kjYNqf0w :2009/10/13(火) 22:09:21 ID:kszZlb43P
ゾンビ・オブ・ザ・官渡(145)

前日の夜、李典は郭図と枕を並べて眠った。
眠る前に、郭図がぽつりと漏らした。
「まさか、審配以外とこんな寝方をするとは思いませんでしたよ。」
その言葉を聞いた時は、李典も郭図と審配は仲が良いのだと思った。
だって、同じ床で枕を並べて眠るなんて、よほど心を許した相手か、今回のようにやむを得ない場合にしかないだろうから。
李典の口から、自然にこの言葉が出た。
「そうですか・・・やはり審配殿とはとても仲がよろしいのですね。」
すると、郭図は笑って答えた。
「いえ、そうでもありませんよ。
私は審配と仲良くなんかありません。」
「え?」
意外な返答に、李典は思わず食い下がった。
「で、でも、友達なんですよね?」
慌てる李典を見て、郭図はおかしそうに笑った。
「友達なんかじゃありません。
政治的には仲間かもしれませんけど、あの男の事は好きになれません。だいたい、袁紹様の後継者の事でも、あの男とは意見を異にしていますし。
ただ、私が殿のために献策してそれを聞いてもらうためには、あの男の賛成票とマシンガン説法が必要なんです。」
李典は耳を疑った。
昨日からずっと見ている限り、郭図と審配は信頼し合っているようにしか見えないのに。
それよりも、審配は郭図の事を信じてかなり力を貸しているのに・・・それをこんな風にしか思っていないなんて。
郭図には、人の情というものがないのか。
李典の胸に、ふつふつと怒りがこみ上げてきた。
「あなた、なんてひどい事を!!」
李典は思わず柔らかい布団に拳をたたきつけた。
611セイレーン ◆B/kjYNqf0w :2009/10/13(火) 22:10:24 ID:kszZlb43P
ゾンビ・オブ・ザ・官渡(146)

しかし、それを見ても郭図は大して驚かなかった。
むしろ、あきれたようにふーっとため息をついた。
「な、何がおかしいんですか?」
李典が聞くと、郭図はうんざりしたようにぼやいた。
「ひどいってあなた・・・何も知らないあなたが何を言うのですか?
だいたい、私は審配にいい思いをさせてあげる代償に、審配の力を借りているのですよ。これは公正な取引なんです。」
「いい思い・・・?」
「ええ、お友達のふりをしてあげる事です。あの男は友達がいないんですよ。」
それを聞いたとたん、李典は不覚にも納得してしまった。
審配の性格が上記を逸している事は、李典にもよく分かる。
しかも審配は郭図と違って思っている事を隠せないため、大勢の前でもすぐそれが表に出る。おそらく、昨日曹仁と徐晃にやったような事を頻繁に起こすのだろう。
これでは友達がいないのもうなずける。
何も言えなくなった李典に、郭図は一人で話を続けた。
「あの男は感情が激しい上に、人との付き合い方もおかしいんです。
興味を持った人には、相手の都合などお構い無しに近付こうとやっきになるんですよ。
私も味方するような振りを見せたとたん、二人で飲みに行こうって熱烈に誘われました。誰でも逃げたくなるでしょう?
私はそれを受け入れたんです!それだけ犠牲を払ったんです!!
だから、私はあの男を殿のために利用していいんです!!」
「殿のために・・・ですか?」
李典は正直、審配の話から抜けられるキーワードを見つけてほっとした。
郭図と審配の仲については、これ以上聞くと頭がおかしくなりそうだ。
李典はこういうドロドロした世界が大嫌いだ・・・武将に転向したのも、一つはそれが理由だ。
李典は少し呼吸を整えると、できるだけ穏やかな口調で言った。
「あなたは、本当に袁紹殿が大好きなのですね。」
その瞬間、郭図の顔から笑みが消えた。
612セイレーン ◆B/kjYNqf0w :2009/10/13(火) 22:11:21 ID:kszZlb43P
ゾンビ・オブ・ザ・官渡(147)

李典はぎくりとして身構えた。
今のは、逆鱗に触れたかもしれない。
郭図がキレるとどんな恐ろしい事になるか、もしかしたら手首をつないでいる縄で首を絞められるかも・・・李典は思わず縄のたるんだ部分をたぐり寄せた。
「ええ、大好きです・・・何よりも。」
郭図は意外にも、何もしてこなかった。
ただ身を縮めて、思いのたけを吐き出した。
「私は、殿のために生まれてきたのだと信じていました。
殿のあの気品ある物腰、整った容貌、大らかな笑顔・・・その全てが私を惹きつけて止まないんです。だから私は、一生あの方に尽くそうと決めました!
殿のためなら火の中水の中、針の山でも血の池でも・・・。
たとえそれで誰かを踏みにじって罰を受けても、それが殿のためなら私は・・・!!
実際、今までそうやって人を陥れても、後悔なんてありませんでした。ただ、殿のために事がうまく運ぶなら、審配との煩わしい付き合いも沮授への讒言も全て快感に昇華し・・・!!」
(ひいいいぃ!!!)
李典は心の中で絶叫した。
気持ち悪いなどというレベルではない、心の底から関わりたくないレベルだ。
これならまだ、さっきの審配の話の方がましだった。
ただ、郭図が狂おしい程に袁紹を慕っている事だけは、嫌でも伝わってきた。郭図にとっては、世界の全てが袁紹のために動かすべきものだったのだろう。
一しきり話し終えると、郭図はベッドに倒れこんで目を閉じた。
「聞いてくれて、ありがとうございます。
少し楽になりました。」
聞かされた李典は、精神的にすさまじく疲れた。
李典は意地悪く、郭図の耳元でささやいた。
「いいんですか、そんな大事な事をぺらぺらしゃべってしまって。」
「いいんです。私は負けたのです。
私の役目は終わりました、もう私にできる事はありませんから。」
郭図はすがすがしい程の笑みを浮かべ、眠りについた。
613セイレーン ◆B/kjYNqf0w :2009/10/13(火) 22:12:34 ID:kszZlb43P
ゾンビ・オブ・ザ・官渡(148)

思えば、その時に気付くべきだった。
死に侵された城内を走りながら、李典は己を責めた。
(私は、何と愚かなのだ!!
あんなに近くにいて、あんなに話を聞いておいて、気付かなかったなんて!!)
審配の事は郭図にとって、絶対に秘すべき事項のはずだ。
それに自分の心を吐露する事は、普通は腹を割った相手にしかしない。
軍師があんなに大切な事をぺらぺらしゃべる時点で、おかしかったのだ。
眠る前の言葉も、今なら意味が分かる。
(私の役目は終わりました、もう私にできる事はありませんから。)
つまり郭図は、自分はもう生きる気がないと言っていたのだ。そのうえで李典に自分の事を話し、こういう人物がいたと伝えてくださいねと暗に頼んでいたのだ。
すがすがしい程の笑みは、命を絶つからこその安堵の笑みだった。
「私は・・・私がもっとちゃんと彼を見ていれば・・・。」
涙声になりかけている李典を、于禁が叱りつけた。
「過ぎた事は仕方ない!
今は前を見ろ、前!!」
李典が前をにらみつけると、一人の兵士が一人の死者に襲われていた。
兵士はすでに腕を食いちぎられ、死者と壁に挟まれてもがいている。泣き叫ぶ兵士の顔の肉を、死者が少しずつ削り取っていく。
于禁が隣で槍を構えた。
「噛まれてる方はおれがやる、ゾンビは頼んだぞ。」
「了解!」
李典は走りながら槍を構え、死者の頭に狙いを定めた。
ゾンビが足音に気付いて頭を向けた時には、すでに白銀の穂先が眼前に迫っていた。ゾンビが反応する間もなく、李典の槍が鼻の骨を折り、脳をぶすりと貫いた。
噛まれていた兵も、于禁の槍で一瞬にして楽になった。
于禁と李典は動きを止めずに槍を引き抜き、並んだまま走り抜けた。
「なあ李典、知略で助けられなくても、おまえには武力がある!
知略でだめなら武で突破、そうだろ?」
于禁の激励に、李典は前を向いたまま無言でうなずいた。
614セイレーン ◆B/kjYNqf0w :2009/10/13(火) 22:13:47 ID:kszZlb43P
ゾンビ・オブ・ザ・官渡(149)

郭図はゆらゆらと近付いてくる死者を、一人見つめていた。
障害物の一部が崩れて、一人、また一人と死者が入ってくる。
両手を前に突き出して、郭図を死に引き込もうとやって来る。
郭図は矢をつがえた弩を持ち上げ、体を壁に押し付けて固定した。
「まあ、すぐに殺される気はありませんよ。」
独り言をつぶやいて、先頭の死者に狙いを定める。照準の向こうに、皮をはがれた真っ赤な顔と、そこにぽつんと二つ白い眼球が見える。
ふしぎと、恐ろしくはなかった。
「私と引き換えに最低一体、できれば五体は倒したいですねえ・・・。」
また一人でつぶやいて、引き金を引く。
びいんと音がして、一瞬遅れて死者の右目を矢が貫く。
「おや、私は眉間を狙ったんですけど・・・もっと近づけた方が良いですね。」
少し残念そうにほおをかく郭図の前で、先頭の死者がどうと倒れる。
郭図は小走りに少しだけ後ろに下がり、また弩に矢をつがえた。幸い死者の動きはのろいので、恐れて慌てなければ文官でもそのくらいの動作はできる。
郭図が弩を上げた時には、次の死者が三メートルの距離まで迫っていた。
「このくらいなら・・・どうでしょうか?」
またびいんと弦が鳴り、次の死者が鼻の頭に矢を受けて倒れる。
それでもまだ上下にずれるのかと、郭図は苦笑した。
弩は本来、十メートル以上先の的に正確に矢を当てるためのものである。それが三メートルでこうでは・・・自分がいかにひどい使い手であるか、よく分かる。
弓だったら、ほぼ頭には当たらないだろう。
「知も使えなければ武もなし・・・やっぱり、私は要りませんね。」
ようやく眉間に当てた三体目が倒れた。
距離は一メートルだ。
すぐ次が、そこまで来ていた。
「さようなら、殿・・・曹操殿とお幸せに。」
郭図は一粒涙をこぼし、弩を下げた。
615セイレーン ◆B/kjYNqf0w :2009/10/13(火) 22:16:10 ID:kszZlb43P
ゾンビ・オブ・ザ・官渡(150)

後ろから抱きしめられたのには、あまり驚かなかった。
きっと後ろにも死者が来ていたのだ、今に腐汁まみれの歯が首を裂くに違いない。
だがその指が自分の肌に触れ、温かいと気付いたとたん、郭図は驚愕した。
「三度目の正直だ、この野郎!!」
怒鳴るような声とともに、郭図の体は後ろに引きずられた。
しかし、死者たちは未練がましく郭図に手を伸ばしてくる。
「させません!」
突如として、先頭の死者の体ががくりと崩れた。
頭に槍が刺さったのだと気付くには、少し時間がかかった。そしてさらに槍の持ち主に気付いたのは、李典が二体目への攻撃に移ってからだった。
「ええ?李典殿・・・なぜ?」
戸惑う郭図のほおを、ごつごつした手がバシンと打った。
「おまえの殿がな、おまえを助けろって言ったんだよ!
だから、つべこべ言わずについて来い!」
胸ぐらをつかまれて横を向かされると、于禁の顔がすぐそばにあった。
だが郭図には、于禁の口から出た言葉の方が衝撃だった。
「殿が、私を・・・うそでしょう。
私は、あんなに殿を・・・。」
思わず反論すると、またほおをたたかれた。
「そんなに信じられないなら、実際に袁紹に会って聞いてみろ。それでもしいらないって言われたら、後は好きにしたらいい。
今はとにかく、おれたちについて来い!!」
郭図には、逆らう事などできなかった。
いろいろな気持ちが頭の中でぐるぐる回って、何も言えないままに、両側から手を引かれて走った。
ただ、于禁と李典の手だけがいやに熱かった。
途中何度も死者と出くわし、そのたびに于禁と李典が見事な武で倒すのをぼんやり眺めながら、それでも郭図の足は袁紹のもとへ向かっていた。
616たんく ◆cKuSCdGrdM :2009/10/14(水) 21:17:17 ID:3/uzsohA0
こんばんはー!
最近酔いの回りがすっかり早くなりました

さて今宵も投下でござる

(4)

ーー 亡き許嫁、堀木右京の落命せし京に参り、桑名藩御家中の陣中見舞い願いの義。御心に留め何卒御寛容なる裁可賜りたく御座候。ーー

この時代、女が旅をするなどよほどの事がない限り、許可されることはない。しかしながら、あっさりと手形が届いた。あっけない...というか、不安になるくらいだった。
事実上、京、大阪は薩長土の連合軍の支配下である。京にいくなど、雲をつかむような話であったはずだ。

「実際のところ... もうどうにでもなれ、ということではないかな」
江戸城で、勘定方にいる伯父がいった。
東海道を進む連合軍の噂を聞き、江戸は早くも抗戦派と恭順派に分かれ、いがみあっていた。
伯父は、理に聡いだけあって恭順派に加わっていたが、武辺者である阿左美の父は、徹底抗戦の意思を固めていた。

父が引っぱり出して来た、年代物の鎧兜や、刀槍、火縄銃をみて、阿左美は悲しくなった。伯父から連合軍の装備を聞いていたからだ。

「エゲレスの最新銃だよ。幕府軍のゲベール銃や火縄銃なんて話しにならんほどの性能だ」
幕府軍は負けるだろう、と思った。それも無惨に負けるだろうと...
617たんく ◆cKuSCdGrdM :2009/10/14(水) 21:18:11 ID:3/uzsohA0
(5)

ひと月後、阿左美は伏見にいた。
幕府軍と連合軍が激しい戦いを繰り広げた場所だ。
暮れ六つごろだろうか。冬の空気は、体の芯を凍らせる。だが、阿左美はそれを好ましく想った。
共の中間に駄賃を渡して、阿左美は一人になった。

想像していたような荒涼とした雰囲気ではなかった。立ち木の幹からほじくり出した椎の実のような銃弾を、弄びながら考えた。

自分が見たいのは、こんなものじゃない、と。
徳川の時代が終わって、薩長土の時代が始まるだけだ。
父も母も、徳川の世を守ってきたのではない。しがみ付いて来たのだ。
阿左美の思いつきは、その滑稽ともいえるこだわりに少しばかり反抗し、冒険をしてみたかった... そんなところなのかも知れなかった。
618たんく ◆cKuSCdGrdM :2009/10/14(水) 21:19:20 ID:3/uzsohA0
(6)

「夜更けにどうされたのですか」
不意に、阿左美の背後から声が掛かった。
はっと息を呑みながら、阿左美は振り返った。懐の守刀に、無意識に手が伸びる。

金モールの着いた紺色の装束に、膝までの長靴。麦藁のような髪の毛を撫で付けた、背の高い男。羽飾りの着いた帽子を脇に抱え、意匠の凝ったサーベルを下げている。

ーー 仏蘭西のかたかしら...?
江戸には幕府が、遥かフランス帝国から招いた軍事顧問として、何名かの外国人がいた。
もちろん、阿左美の記憶にあるはずもない。ただ何となく、そう思っただけである。
流暢な日本語と、外見がちぐはぐだ。阿左美は目をこらして、男を見た。
月の明かりを背にした男の顔は、暗い影を落としていたが、目だけが爛として輝いている。まるで、それ自体が光りを発しているように。

「ご心配なら無用で願います。咎めるつもりはありません。ただ...」
男は、言葉を切ったが和かに微笑んでいる。阿左美の表情を伺っている。
「ただ、あなたが何故ここに来たいと思ったのか... それが知りたいだけです」
619たんく ◆cKuSCdGrdM :2009/10/14(水) 21:20:15 ID:3/uzsohA0
(7)

阿左美は思った。この男になら話してもいいのではないか、と。どの道、彼方に去る人間だ。年頃の娘の夢想を、この男が誰かに話したとしても、一笑されるだけだろう、と。
阿左美の独白を聞いた男は、始終穏やかだった。言葉が解らないのではないか、と勘ぐるぐらいに 。

「ミロク... というのは、面白いですね。 私の国にはいない神です」
阿左美はちょっとした優越感を感じながら、饒舌になった。
ーー ルソンからきた商人が連れた、浅黒い肌の男が言った...
天竺には破壊の神がいる。全てを破壊し、その後の再生をも司る神がいる、と。そうして世界は何度も再生しながら続いて来た、とその男は言った。
阿左美は顔を上気させながら語った。
ーー 輪廻の末の、その最後の世界を見たい、と。
620たんく ◆cKuSCdGrdM :2009/10/14(水) 21:21:10 ID:3/uzsohA0
(8)

「本当に?」
男が一歩近付いた。
「もしあなたが望むなら... 私は、それを与えられます。 全てはあなた次第です」

阿左美は...
「世界の終わりを...?」
...と、つぶやいた。得体の知れない恐怖と同時に、淡い期待もあった。この男の故郷に、此処ではない何処かに連れて行ってもらえるかも知れない...

男にそっと抱き寄せられる。
「ミロクとは... 」
男の顎が、人にはあり得ないほど開いた。異常に長い犬歯が、白く光る。
「あなたの事かもしれない...」
ぶつっと皮膚の破れる音を聞きながら、阿左美は産まれて初めての絶頂を感じた。
急激に意識が朦朧としてくる。自分の血液を吸われていると認識出来た時には、反攻する力すら失っていた。

ーー この男は違う! 将校でもない... 人間でもない...
暴れて逃れようとしたが、男の力は強い。異常なほど、強い。
不意に男の腕の拘束が緩み、阿左美は地面に崩れ落ちた。
阿左美は浅く息をついた。呼吸が続かない。地面が大きく歪んで見える。
阿左美は死を予感した。男の言う世界の終わりとは、死後の世界のことなのだろうか。
621たんく ◆cKuSCdGrdM :2009/10/14(水) 21:21:56 ID:3/uzsohA0
(9)

阿左美の唇に、男の手首が押し当てられた。切られた傷から大量の鮮血が流れ込んでくる。
「飲みなさい。 それであなたは永遠に生きる。 世界が終わるまで...」

ーー あ...
阿左美の視界にぼんやりとした光りが漂って来た。
ーー 雪だわ...
しめやかに降り積もる雪。消えようとしていく命。
ーー 綺麗...
そして、新たな命。
622たんく ◆cKuSCdGrdM :2009/10/14(水) 21:23:48 ID:3/uzsohA0
ふーアザミの回想終了です
つかゾンビ出てコネー

次回はノブアキ奮闘編です
それではまたー
623本当にあった怖い名無し:2009/10/15(木) 15:46:25 ID:Uc6AGutN0
ゾンビってか吸血鬼モノっスね
624本当にあった怖い名無し:2009/10/16(金) 17:33:29 ID:h9OWh3WEO
書き手の皆さん、このスレッド読むのいつも楽しみです、ありがとうございます。
625本当にあった怖い名無し:2009/10/16(金) 23:13:42 ID:UqkFLFdS0
読み手の中には
「ボ、ボクチンの知らない設定の作品が、ボクチンの常駐するスレに存在するなんて、許さないぞ〜〜」
という、真性厨房も存在するので、注意な。
ちなみにそういった真性厨房は、テキトーな糞理屈をひり出して反論モドキをするから注意な。
626本当にあった怖い名無し:2009/10/18(日) 01:06:11 ID:wgOaJ2PW0
>>625
いつだったか住民から総叩きにあった糞ファンタジー小説作者乙です^^
アナタの理屈の方が余程無茶苦茶な反論モドキだったのは内緒ですね!
627セイレーン ◆B/kjYNqf0w :2009/10/18(日) 20:16:00 ID:Ixzo3kkUP
ゾンビ官渡は200までには一区切り終わらせて、
それから少し趣変えに違う話をはさみたいと思います。

とりあえず、偽者が去って万歳!

田豊ファンの方はだいぶ遅くなってしまいますが、ごめんなさい。
完結させるという約束は果たす気でいますので。
628セイレーン ◆B/kjYNqf0w :2009/10/18(日) 20:17:08 ID:Ixzo3kkUP
ゾンビ・オブ・ザ・官渡(151)

曹操たちは、北玄関で于禁たちの帰りを待っていた。
と、通路の奥から武将が二人、数人の兵とともに駆け寄ってきた。
「おお、張郃!」
「あれは、曹仁か!」
曹操と袁紹の声が重なった。
期待していた者ではないが、これでまた一人ずつ将の消息が分かった。曹操と袁紹はそろって、二人の猛将のもとに駆け寄った。
しかし、どうも様子がおかしい。
曹仁は連れてきた数人の兵ににらみをきかせているし、張郃はといえば大急ぎでしゃがみこんでずれかけの鎧を直し始めた。
連れてこられた兵たちは、皆気まずそうにおろおろしている。
曹仁はその兵たちを怒鳴りつけて並ばせると、曹操の前にひざまずいて報告した。
「遅れまして申し訳ありませぬ。
張郃の救出に少々手間取りましたゆえ。」
「救出?」
曹操はいぶかしそうに首をかしげた。
ゾンビに襲われていたにしては、張郃の着衣は汚れていない。
それに張郃はなかなかに強い武将だ、ゾンビ相手にそう簡単に窮地に陥るとは思えない。
「張郃は、縄でがんじがらめに縛られて、ベッドの下に転がされておりました!」
「何だと!?」
曹仁の報告に、曹操は驚愕した。
「拙者が張郃の部屋の近くを通りかかった時、この兵たちが助けてくれと泣きついてまいりました。しかし様子がおかしいので一発脅してみたら、張郃の事をしゃべりましたので。」
そう言って曹仁は連れてきた兵の首をつかみ、曹操の前に引き出した。
「おい、吐くなら一緒に連れて行ってやるぞ!!」
「ひいい、は、吐きますう!!
門を開いたのは、逢紀様と高覧様です!!」
「まことか!?」
全員の視線が、その兵士に集まった。
脱出計画を台無しにして今のこの危機を招いたのは、逢紀と高覧だったのだ。
629セイレーン ◆B/kjYNqf0w :2009/10/18(日) 20:18:00 ID:Ixzo3kkUP
ゾンビ・オブ・ザ・官渡(152)

「なぜだ、なぜこうなった!?」
袁紹は大慌てで兵士の胸座をつかみ、体を揺すった。
裏切り者が二人とも自軍の将だったのだから、無理もない。
それをたしなめるように、張郃が袁紹にひざまずいて言った。
「その兵どもは、命令に従っていただけで罪は軽うございます。おそらく逆らえば私のように拘束されるか殺されるか・・・止むを得なかったのでございましょう。
詳しくは、私の口から説明いたします。」
張郃の言葉を聞くと、袁紹はどうにか落ち着こうと息を整え始めた。
さすがにこの状況で理性をなくしてわめき散らすほど、袁紹は愚かではない。
曹操もここは話を聞こうと思って、ふと気付いて外の見張りに声をかけた。
「ゾンビは見えるか!」
「建物の両側から、ちらほら来てます!」
曹操は思わず拳を握り締めた。
そろそろだとは思っていたが・・・曹操は周りにいる将兵に命令を下した。
「皆の者、脱出の準備だ!
夏侯惇と許褚は外に出て、建物の両側から来るゾンビを倒し、退路を確保せよ。曹洪と曹仁は夏侯淵と徐晃のもとへ走り、彼らを退かせよ。
夏侯淵と徐晃が合流した時点で、この建物を出て北門へ向かう!」
呼ばれた将たちが十人ほどの兵を率い、それぞれ持ち場に走った。
于禁と李典の事は気にかかるが、ゾンビが迫っている以上決断するしかない。
防ぎきれない事はとうに分かっているのだ。
ただ、夏侯淵と徐晃が到着するまでは、張郃の話を聞いてやろうと思った。曹操にとって、逢紀と高覧が門を開けてしまったことは予想外のできごとだった。
その原因を聞いておけば、これから起こる同じ事を予防できるかもしれない。
それに、味方の中に裏切り者がいる可能性も完全には否定できない。こうして味方の武将を遠ざけておけば、そういう事は話しやすいだろう。
張郃は鎧を直しながら、こうなった訳を話し始めた。
630セイレーン ◆B/kjYNqf0w :2009/10/18(日) 20:19:05 ID:Ixzo3kkUP
ゾンビ・オブ・ザ・官渡(153)

事の発端は前日の夕刻、舌戦の後の事である。
逢紀は、張郃と高覧に逃げてくる間の事を話していた。
郭図と審配が別室にいるせいで、逢紀はその二人を徹底的にこき下ろしていた。
「全く、あの二人ときたら!
ゾンビに囲まれてもぎゃあぎゃあ騒ぐばかりで足を引っ張るしか頭にない。
殿を守ろうとなど、みじんも思っておらんな。あいつらが守りたいのは、結局のところ自分だけなのですよ。」
高覧は笑ってそれを聞いていた。
張郃は気分を害して、ずっとそっぽを向いている。
誰も異議を口に出さないせいで、逢紀はますます得意になって続ける。
「だいたいあの二人は、殿をゾンビに襲わせておいて、自分は戦いもしないのですよ。戦えないなら身を守るのに徹して、大人しくしてろって話です。
私は、ちゃんと静かにしてましたよ。」
それを聞くと、高覧はおもしろそうに言った。
「へえ、全然戦わなかったのか。
豚もおだてりゃ木に登るって言うが、そりゃ豚以下だな。
証拠はあるのか?」
その問に、逢紀は自信たっぷりに腰から下げた剣を外した。
「あるとも、この剣が証拠です。
道中、殿の命令で私と審配は剣を交換したのですよ。
それから私も使っていないんで、この剣はピカピカのはずです。
それにしても・・・使わないくせに悪趣味な剣ですね。」
逢紀はそう言って、手にした剣をしげしげと見つめた。
剣の柄は真鍮でよく磨かれており、鞘も全体的には地味ながら先端に手のこんだ細工の飾りがついている。
それに逢紀曰く、その剣は逢紀の剣より重いのだという。
あの体力がないくせに自己主張が激しい審配がこんな剣を持っていたとは・・・張郃と高覧にはかなり意外だった。
「さあ、よーく見られい!」
逢紀は勢いよく剣を抜き放った。
631セイレーン ◆B/kjYNqf0w :2009/10/18(日) 20:20:01 ID:Ixzo3kkUP
ゾンビ・オブ・ザ・官渡(154)

「あ、あれ・・・?」
剣の刃は、ピカピカにはほど遠かった。
抜き放ったとたんにゾンビと同じ臭いが広がり、刃は腐った血と肉がまとわりついてひどく汚れていた。
明らかに、この剣でゾンビを斬った跡だ。
逢紀はそれが信じられず、目を丸くした。
「な、なぜだ・・・?
審配は確かに戦ってないはず・・・。」
張郃と高覧にも、それはひどく意外だった。
武将である彼らには分かる、この汚れ具合でいくと、使い手はかなり踏み込んで深く斬ったはずだ。それからおそらく、戦って斬りつけたのは一体ではない。
あの鉄板文官の審配にそんな事ができる訳がない。
もちろん逢紀にも。
どうにも信じられず剣を凝視するうちに、張郃はある大変な事に気付いた。
「逢紀・・・それは、殿の剣ではないか?」
「何だって!?」
逢紀はすっとんきょうな声をあげた。
「確かに、これは殿の剣だな。」
高覧も言う。
逢紀は混乱した。なぜ審配が君主の剣を持たされていたのか。
(わしが有効に使ってやる。)
思い出した、袁紹は自分の剣の切れ味が鈍ったため、審配のピカピカの剣を取り上げた。
代わりに、自分の剣を審配に持たせていたのだ。
「そ、そういう事だったのか!
つまり殿は、捨てられては困る自分の剣を、この私に託したかったと。」
逢紀は即座に都合よく解釈し、満面の笑みを浮かべた。
しかし、張郃と高覧は目をぱちくりして顔を見合わせた。
「何か文句でも?」
逢紀が言うと、張郃は恐る恐る口に出した。
「それは・・・逆なんじゃないか?」
632本当にあった怖い名無し:2009/10/18(日) 21:07:25 ID:YZmv9m7U0
       .,,_  _,,=-、                     
       '、  ̄_  _.,! __       .r-,.  _   r −、 
      _/  _!」 .└ 、( `┐   .,,=! └, !、 .ヽ ヽ  丿
     .(.     ┌-'( ヽ~ ,.-┐ `┐ .r'  r.、''" r' ./ 
      ゛,フ .,.  |   `j .`" .,/ .r'" ヽ  | .l  '、ヽ、 
     ,,-.'  , 〈.|  |  i' .__i'"  .( .、i .{,_ノ ヽ  ヽ \
  、_ニ-一''~ ヽ   |  \_`i   丶,,,,、     }  ヽ_丿
         ヽ__,/            ~''''''''''''″     

          ,,―‐.                  r-、    _,--,、
     ,―-、 .| ./''i、│  r-,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,―ー.    ゙l, `"゙゙゙゙゙ ̄^   \
    /   \ ヽ,゙'゙_,/   .゙l、         `i、   \ _,,―ー'''/  .,r'"
.,,,、.,,i´ .,/^'i、 `'i、``     `--‐'''''''''''''''"'''''''''''゙     `゛   .丿  .,/
{ ""  ,/`  ヽ、 `'i、                        丿  .,/`
.ヽ、 丿    \  .\                      ,/′ 、ヽ,,、
  ゙'ー'"      ゙'i、  ‘i、.r-、      __,,,,,,,,--、     / .,/\ `'-,、
           ヽ  .]゙l `゙゙゙゙"゙゙゙゙ ̄ ̄     `'i、  ,/ .,,/   .ヽ  \
            ゙ヽ_/ .ヽ_.,,,,--―――――ー-ノ_,/゙,,/′     ゙l   ,"
                 `             ゙‐''"`        ゙'ー'"
633たんく ◆cKuSCdGrdM :2009/10/19(月) 22:02:25 ID:P0y6oU1A0
今晩は!
最近、やたらめったら忙しくて、やたらめったらマンですよ

ちょと投下速度落ちますが、よろしくおつき合い下さい
634たんく ◆cKuSCdGrdM :2009/10/19(月) 22:02:36 ID:P0y6oU1A0
「ゾンビハンター 6」
(1)

ノブアキとアザミは、郊外の水質試験場の跡地にいた。
ゾンビの発生以前に遺棄されたものらしく、コンクリートの壁に切られた窓には、サッシすらはまっていない。
ノブアキは煙草に火をつけ、ゆっくりと紫煙を吐き出した。これからの行動を必死に考えていた。アザミの戦闘力を期待できない状況で、どうやって生き残るか... そればかり考えていた。

ーー 夜明けまでに、日光を遮断できる場所を探す。
その場所のゾンビを掃討する。
そこを拠点にして周辺のゾンビを殲滅する。
北に移動する。

これだけのことを、ノブアキ一人でこなさなければならない。
ーー 不可能だ。
と言うのが、ノブアキの結論だった。

「ん....」
アザミが薄く目を開けた。
「アザミ... 」
ノブアキは、何か言おうとして口をつぐんだ。何と声をかければいいのか分からない。
「...長い夢を見てたわ。あたしが...」
「血が止まらないんだ」
ノブアキは、アザミを遮って言った。なるべく感情を抑えたつもりだった。
635たんく ◆cKuSCdGrdM :2009/10/19(月) 22:03:56 ID:P0y6oU1A0
(2)

アザミは開きかけた唇を閉じると、薄く力なく微笑んだ。
「......そうなの」
「圧迫包帯も止血剤も使った!でも止まらないんだ!俺はっ... 俺が...」
握り締められたノブアキの両拳が白くなっている。
「いいのよ、気にしないで。自分で切ったんだから」
アザミの声は、子供を諭すように優しい。
「どうすれば治る?」
「さぁ..? あたしもこれは初めてだから... ただ...」
「ただ?」
「あたしの本質は血なの。体はただの入れ物。ちょっとぐらいの傷なら治るのよ」
アザミの言葉は何気なかったが、ノブアキの直感が何かを知らせた。
636たんく ◆cKuSCdGrdM :2009/10/19(月) 22:04:57 ID:P0y6oU1A0
(3)

「アザミ。今まで一番ひどかったケガは?」
「火傷かな?曇りの日なら大丈夫かと思って、昼間に外に出たの。皮がベロベロになったけど、いっぱい飲んだら一週間くらいで治ったかな」
「わかった、ありがとう。少し休め」

ノブアキはバイクに戻ると、装備を確認した。

上下二連式の猟銃、一艇。
警察官用5連発拳銃、二丁。
手榴弾、二個。
縁を研いだシャベル。
鉈。
弾薬は装弾してある分だけだ。

サイドカーをばらす。出来るだけ軽くしたかった。バイクのタンクからガソリンを抜いた。リザーブだけでも50kmくらいは走れるだろう。
食用油や牛乳などの瓶の中身を捨てる。ガソリンを半分入れ、砂や洗剤などを半分入れた。
大きさはまちまちだが、8本ほど出来た。

安心できる量でないことは、元より承知していた。持ちきれないほどの、銃器があっても無事に帰れる保障はない。

ーー 考えること、勇気をもつこと...それがオレの剣だ

ゾンビが地上に溢れだしてから、半年。ノブアキの中で何かが変わろうとしていた。
637本当にあった怖い名無し:2009/10/20(火) 04:40:43 ID:ayQiJ7SU0
横須賀のひと最近書かないね
忙しいのかな
正直さびしいわ
638本当にあった怖い名無し:2009/10/20(火) 08:20:21 ID:HLQaxQRi0
話し合いでスレがkskしたら、スレが終了して誘導すらできなくなるので新スレ立ててみますた。
次は早めに話し合いませう。

次スレ誘導
【小説】ZOMBIE ゾンビ その26【創作】
http://anchorage.2ch.net/test/read.cgi/occult/1255993754/
639本当にあった怖い名無し:2009/10/20(火) 09:45:16 ID:wsiP7FtqO
あー
640本当にあった怖い名無し
             ,...、 .,.. i'⌒Yヽ
          __/⌒′ ヽ′     !
        /              L
         |   た こ   あ    !
   , _z-='l   て い     l     !
 ィャ' ' ´    !   て つ   っ  `l
(ヘ=       l  る      !?   ノ
ミ   , ィ rっノ>, !!         ィ′
クi,爪(ヽゝ(`ー´~ヽ、   _ ,人   ,ノ
 |_,_     r.ニニ-`'フf ,.-_、ー'‐' }
 ヾ'ァヽ    ´fjt`'  .} L「、l',   !
  l 「リ    .└'-   l ,〉,_リノ  i
.  |,,´!  ,_  """   '‐/,/   〉
   l  `ー, --- 、     ,「!ィ ォ  ヽ
.   l  l′   ヽ   ノ `ヘK   !
   丶 '、___,,...__ノ   'l{   ''ク_l) `!
.    \  ==  ,/ l  l}   'ーャ
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