56 :
1/2:
有名過ぎてアレだが
スタインベックの『ハツカネズミと人間』
恐慌下のアメリカに、ジョージとレニーという二人組がおりました。当時多くの人が
そうしていたように、適当な農場で働き口を見つけて、低い賃金をもらって糊口を
しのいでいたのですが、なんせレニーは頭が弱い。
「おで、おで、デヘヘ」という具合。
行く先々でトラブルを起こして追い出されては、ジョージもそれに付き合わされるので、
二人は転々とせざるを得なかったのです。でもジョージはレニーを仲間だと思い、
大事にしていました。二人には夢があったのです。
「自分たちの家をもって、レニーの好きなウサギを飼って暮らす」という夢が。
レニーは動物が大好きだけれど、馬鹿で馬鹿力なので、そこら辺のネズミを捕まえては
「デヘヘ、カワイイなあ、おで、好きだあ」
と撫でながら死なせてしまうのです。ジョージに叱られる度に
「デヘヘ、ごめんよ、おで馬鹿だから。なあジョージ、あの話してくれよ、あの話、
俺たちの家の話だよ」と自分たちの家の夢をジョージに語らせたがり、ジョージも
「本当に、どうしようもねえ馬鹿だなあ」と悪態をつきながらも
「俺たちゃ他の貧乏人とはちげえ、互いに心配しあえる相棒がいるんだ。いつか
二人で金を貯めて、小さな家と、ちょっとした土地と−」と語りなれた夢を語り、レニーは
「ああ、それで?それで?豪勢に暮らすんだろ?」とはしゃぎまわります。
二人は物語の中で、新たな働き口を見つけます。
そこの農場主の嫁が美人を鼻にかけた悪女でして、馬鹿で純朴で大男のレニーを
からかおうと、色っぽいイタズラを仕掛けてくるんですね。トラブルが起きたら事だ、
ってんでジョージはレニーに
「おい、あの女と口を利いたら、俺たちの家にウサギ小屋を建ててやんねーからな」
と釘をさします。
57 :
2/2:2009/05/15(金) 04:04:03 ID:xevMYGJn0
ある晩、レニーが馬小屋に居ると件の女が入ってきます。レニーはウサギ小屋が
欲しいので相手にしないようにするのですが、しつこく話しかけるので
「おで、馬鹿だから好きな生き物をなでてると止まらねーんだよね・・・・・・」とこぼしてしまいます。
性悪女はそれを聞いて面白がり、レニーに自分の髪をなでさせます。レニーはやはり
止まらなくなる。髪が乱されるのを嫌がり、レニーが離してくれないことを恐れた女は
悲鳴を上げます。
「あばば、静かにしてくれ・・・・・・ジョージに聞こえちまう。ウサギの世話ができなくなっちまう」
女は叫ぶのを止めず、うろたえたレニーは勢い余って女を殺してしまいます。レニーは逃げます。
女の死を知った男達は殺気立ち、われ先にと銃を持って飛び出していきます。
ジョージはレニーを見つけます。トラブルを起こして逃げ出した時、落ち合うための場所を事前に
教えておいたのです。
「おで、また困ったことしてしまったんだ・・・・・・」
「いいんだよ、そんなことは」
「おでのこと、怒らねえのか?いつもみてえに、「お前さえいなきゃ楽なのによー」って」
「お前は馬鹿のくせに、俺のいったことだけは全部おぼえてんだから、しょうがねえな」
「なあ、話してくれよ。あの話。俺たちの話だよ」
「いいぜ。じゃああの川向こうを眺めてなよ。目に浮かぶように話してやるぜ。」
−俺たちゃ他の貧乏人とはちげえ
「デヘヘ、そうだよ、ちげえんだ!」
−いつか二人で金を貯めて、小さな家と
「デヘヘヘヘ、ちょっとした土地を買うんだよな!」
男たちの足音が近づいてくるのを聞き、ジョージはレニーの後頭部に銃口をあてて、引き金を引く。
ジョージとレニーの二人を良く知る男が近づき、声をかける。
「しょうがないさ、やらなきゃいけん時もある。だがジョージ、飲もう。飲まずにおれんだろう」
去っていく二人を見て他の男たちが囁きあう。
「おい、あの二人、いったいなにを気にしているんだろうな?」