ラーメン屋でバイトしてた頃、常連の一人にジイさんがいた。
その店は俺の近所で、客層も近所の人や近所にある会社が中心。
つまり、ほとんどの客は近所で見覚えのある人だったんだが、ジイさんだけは
近所でも見覚えのない客だったので逆に覚えていた。
週に1〜2回、土日の開店して間もない時間に来ていた。
俺がバイト辞める日に丁度来ていて、今日で最後ですって言ったら急に泣いて
「さびしくなる」って何回も言ってくれた。
帰り際に小さい手鏡をくれたんだけど、曇りガラスみたいに映らない鏡だった。
中指サイズの長方形の手鏡で、俺が(゚д゚)?な顔してるとジイさんが手鏡をスッと
指で撫でて、「この世には見なくていいものが多いけど、それを見なきゃならん
時も来る。その時はコレを見て、頼りなさい。」と言って帰った。
「その時」ってのが一度だけあって、たまたま家で手鏡の事を思い出して見ると
曇りガラスだったのが普通に映ってた。
でも、そこには俺が映っていない。
映ってる部屋の様子も変わっていて、別の部屋にいる様な感覚になった。
部屋の中を鏡越しに見てると、また少しずつ曇って元通りになって行ったんだが
その時に鏡越しに窓の外の景色が見えて、近所の家とかなくなってた。
北斗の拳みたいな廃墟と荒野になってて、ポツポツとプレハブみたいのがあった。
あちこちで煙が昇ってて動く人影もあったんだが、明らかに別の世界だった。