【小説】ZOMBIE ゾンビ その24【創作】

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660本当にあった怖い名無し:2009/05/31(日) 23:44:31 ID:QDINX/S80
「軍のヘリ」用語
ゾンビものでオチをもたらす存在。
都合よく登場して主人公達を救出したり、ナパームで周囲一帯を焼き尽くす、あるいはその両方を行う存在。
類義語「デウセクスマキナ」
661本当にあった怖い名無し:2009/06/01(月) 00:04:58 ID:MG1BxVlF0
>>657
ハムって何でしょう…?
662本当にあった怖い名無し:2009/06/01(月) 00:17:49 ID:rJQlbwrX0
ググれ。
アマチュア無線の事だ。
663本当にあった怖い名無し:2009/06/01(月) 02:55:46 ID:p8l63b0WO
>>659
現実感は説得力ってニュアンスで使ったんだけど
お前には、難しかったか?
664本当にあった怖い名無し:2009/06/01(月) 03:33:51 ID:zw39tF47O
説得力ってww
素人の娯楽作品にケチつける。おまえが言うなと!
おまえ金払って購読してるのか?
もしくは、何かの課題で強制的に読まされ、ケチをつけろと言われてるのか?
つまらんと思うなら読むなよww
もしくはこうした方が自分好みとか言う理由でケチを付けてるなら、お前がチラシの裏にでも書いてろ!カスww
66530 ◆RPG8JNHiII :2009/06/01(月) 03:45:39 ID:3X5JcF530
いや、理由あるケチのつけ方なら
俺としてはありがたい

>>657
それね…俺も不思議なんだよ

この話は映画のバイオハザード2を下敷きにして書いてるから
映画のほうでも、隠蔽工作してたけど
先に解放した住人からゾンビ騒動が漏れたらどうするんだろうか?

>>658
まぁ見ていてくださいよ^^
文章自体はもうすべて書き終わってますから
666本当にあった怖い名無し:2009/06/01(月) 06:00:16 ID:fnUuxGrVO
面白い自演の仕方だなぁ
携帯で噛み付いた後にPCでフォローか
667本当にあった怖い名無し:2009/06/01(月) 07:59:00 ID:4OZP12cKO
とりあえず、早く最後まで読みたい
668本当にあった怖い名無し:2009/06/01(月) 17:14:44 ID:WD+mCB+u0
小説の続きwktk

しかし投下が順調の時ほど来る荒らしがいるねぇ
奴らの目的は作者さんに難癖つけて、投下する気を削ぐことだと思う
これに対してどうするかは作者さん達しだいだけれど、そんな奴らには負けないでほしいっす
669本当にあった怖い名無し:2009/06/01(月) 21:27:01 ID:WJAnRYFa0
>>666
エスパー乙と言わざるを得ない
670本当にあった怖い名無し:2009/06/02(火) 03:30:25 ID:/pTb7lEe0
読者も大概だけど、作者も作者。沸点低い奴多すぎ。リア厨リア工ばかりって感じ
671本当にあった怖い名無し:2009/06/02(火) 15:06:49 ID:bn3C4fXN0
>>670
みんな保守で頑張ってんだよ

あと>>1
672本当にあった怖い名無し:2009/06/02(火) 18:06:38 ID:ayJqC1in0
もうちょっと投稿ペースあげて欲しいよね〜。
私超忙しくて、その合間にわざわざ見に来てるのに
何も書かれてなかったら超ガッカリだし。
673本当にあった怖い名無し:2009/06/03(水) 04:15:04 ID:EQJaqHnKO
>>672
釣り針が見える……
ララァ、わたしにも見えるぞ
674本当にあった怖い名無し:2009/06/03(水) 12:39:11 ID:ef6G4CoT0
なんともまあ、気持ち悪いレスだなぁ。
作者はただただ稚拙な、ろくっすっぽ推敲もしてないような物を落として、
読者はそれを褒め称える事しか認めないってか。
どちらにしろ向上心が無さ過ぎだし、正義の味方気取りならそもそもお前が言うことじゃない。
無能な働き者になるくらいならROMってろ。
675本当にあった怖い名無し:2009/06/03(水) 14:08:33 ID:P3Sbi9Sb0
>>674はどれに対するレスなの?
676本当にあった怖い名無し:2009/06/03(水) 18:12:19 ID:T89aVcyj0
もう一人の自分
677セイレーン:2009/06/03(水) 20:56:26 ID:CGgeMArfP
ゾンビ・オブ・ザ・官渡(22)

袁紹は愕然とした。
合流して自分を守ってくれるはずだった頼もしい武将たちが、すでに自分を見捨てていたなんて。
(肝心な時に役に立たぬ奴らめ!!)
「全く、一番大事な仕事をしてくれない方々です。」
郭図が袁紹の気持ちを代弁してくれた。
しかし、いくら降ってしまった武将を恨んでもこの状況がどうにかなる訳ではない。
袁紹の周りにいるのは非力な文官が三人と兵が三十人程度、郭図と逢紀が兵を多めに連れてきたのがせめてもの救いだ。
しかし、よく見ると彼らの中には、噛み傷と思しき傷のある兵が数人いる。
「お、おい・・・そやつらは、死体に噛まれたのではないか?」
袁紹が指摘すると、郭図はあっさりうなずいた。
「ええ、そうです。」
そのとたんに、審配が郭図を怒鳴りつけた。
「そうですじゃないだろう!!
噛まれたということはな、そいつらも死んだらあの動く死体になるんだぞ!?私たちを襲ってくるんだぞ!?
そんな事も気付かんのか、おまえ本当に軍師かあぁ!!」
郭図は指で耳栓をしながら、馬鹿にするように言い返した。
「知ってます、そんな事ぐらい。
いいですか、軍師というのは物事をよく観察して、情報に基づいて行動するものですよ。私は噛まれた者たちを観察しているんです。
命に別状のない噛み傷を負った者がどれくらいで死体になるのか、それを知るために。」
「だからって、そんな危険なものを・・・!」
「この者たちはまだ人の意識があります。私たちを噛みません。
それどころか、まだ死体と戦えるのですよ。ならばせめて人としての意識が明らかなうちは、一人でも護衛が多い方がいいのでは?」
「黙れええぇ!!」
678セイレーン:2009/06/03(水) 20:57:34 ID:CGgeMArfP
ゾンビ・オブ・ザ・官渡(23)

出会って早速口論を始めてしまった文官たちに、袁紹は頭を抱えた。
袁紹に仕える文官たちは皆それなりに才能があるが、どうにも仲が良くないのが難点だ。
政策を論じる時も一人がこうだと言えば他が違うと言い、それぞれが一方的に主張をぶつけ合って大激論になってしまう。
自己主張が強すぎるのだろうか。
(それにしても、今はこんなことをしている場合じゃないだろう!
誰か止めぬのか!?)
袁紹は不安げな視線を周りに送ったが、誰も口を挟む者はいない。
兵士たちは自分たちの不安で手一杯だし、逢紀はといえば面白そうに笑いながら二人の論戦を観戦している。
そうしている間に、二人の論戦はうるさいほどヒートアップしている。
そしてついに、恐れていたことが起こった。
「うぁあ〜・・・。」
かすかな呻き声(審配がうるさくて聞こえづらい)とともに、死者の一団が姿を現した。
はっと気付いて周りを見れば、十人はいるようだ。しかも囲まれている。
「逃げるぞ!」
袁紹はすぐさま、死者が一人しかいない方向に走り出した。
死者が手を伸ばすより早く、踏み込んで剣を首筋に当てる。
そのまま、美しい半月の軌道を描いて振り抜く。
死者の首がぼとりと落ちた。
それに勇気付けられたように、動けなかった兵士たちも一斉に袁紹に続く。郭図と審配も我に返って、待ってくれと言いながら走ってくる。逢紀はといえば、ちゃっかりと兵士たちの真ん中にいる。
(くそっ武将がいればあの口論も一喝して止めてくれるものを!)
口論で息が上がっていたせいでいつもの二割増しくらい速度が落ちている文官どもを尻目に、袁紹はまた前方を塞ぐ死者を斬りつけた。
今度はうまく首が飛ばなかった。飛んだのは腕だ。
しかしそのせいで死者は袁紹の袖をつかめず、横から兵士の槍に頭を貫かれた。
「よし、このまま突っ切るぞ!」
どうにか、逃げ切れそうだ。
兵士たちは何よりも、袁紹が武将であったことに感謝した。
679セイレーン:2009/06/03(水) 20:59:36 ID:CGgeMArfP
ゾンビ・オブ・ザ・官渡(24)

どこをどう走ったのか分からないが、とにかく死者の群は振り切ったようだ。
逃走がかなり長い時間に渡ったため、今度はさすがに袁紹の息もだいぶ荒くなっていた。
文官たちはといえば、途中からは三人とも兵士が背負うはめになってしまった。まず審配がダウンし、次に郭図がもうだめと言い、逢紀はいつの間にか兵におぶさっていた。
彼らの剣は良いものにも関わらずピカピカのままだったので、袁紹は死者の血で汚れた自分の剣を審配のと取り替えてやった。
「うむ、これならよく切れそうだ。わしが有効に使ってやる。」
「はい・・・申し訳ありません。」
審配がかすれた声でつぶやく。
後ろで逢紀がプッと笑ったので、袁紹は他の二人にも聞こえるように言ってやった。
「ああ、武器の心配はないぞ。
まだおろしたてのがあと二本あるからな!」
「・・・申し訳ありませ・・・。」「・・・お役に立てず・・・。」
蚊の鳴くような声で、郭図と逢紀が謝罪した。
袁紹が「武器の」というところを強調したので分かってもらえたと思うが、今は武器より命が心配だ。
一人になるのが嫌なので連れてきてはいるが、この文官たちは足手まといになるばかりで自分の命すら守れていない。まあ、敵を倒すのが仕事でない以上仕方がないのかもしれないが。
しかし、文官なら文官なりにこの事態を防ぐ手立てがあったのではないか。
「だいたい、おぬしら三人のうち、誰一人として許攸の兵器に何も言わなかったではないか。
勝てればそれでいいなどとほざきおって!
不明な点を調べるのもおぬしらの仕事だろうがぁ!!」
袁紹に怒鳴りつけられて、審配は思わず目をつぶった。
審配としては、自分は主の命令に忠実に従っていたのだから、そんな風に言われるのは理不尽だと思った。袁紹自身が調査せよと自分に命令を下したら、間違いなくしらみつぶしに調査していたはずだ。
だいたい、許攸の兵器を危険視する意見を無視し続けたのは、君主たる袁紹ではないか。
(で、誰がその意見を出していたんだっけ?)
680本当にあった怖い名無し:2009/06/05(金) 09:57:27 ID:u4g+DDaG0
>>679
>(で、誰がその意見を出していたんだっけ?)

いよいよ彼が出てくるのかなwktk

長期規制中につきレスできないけど
いつも楽しく読ませて貰ってますよ。>all

シベリアより愛を込めて
681セイレーン:2009/06/05(金) 22:51:13 ID:wkyMknmtP
ゾンビ・オブ・ザ・官渡(25)

「我々は確かに見落としていました。
しかし、見落とさずに忠告してくれた方は覚えていますよ。
沮授殿と、田豊殿でしょう。」
審配が頭の中の検索を終える前に、郭図が発言してしまった。
しかも、記録をとるのも文官の仕事ですから、などと気取った一言までつけて。
「うむ・・・田豊と、沮授か・・・。」
袁紹が苦虫を噛み潰したような顔になった。
それもそのはず、田豊と沮授は袁紹の気に障る意見を言い続けたせいで、袁紹自身の命令により牢にぶちこまれてしまったのだから。
あの二人に食い下がられた時、袁紹がどんな憎たらしい顔をしていたか・・・審配たちもそれはよく覚えている。そもそも、田豊の時は彼らの目の前で田豊が引きずられて退場したのだ。
冀州城を出発する前のことである。
つまり、この陣に田豊はいない、いるのは沮授の方だ。
「とにかく、沮授を助けに行きましょう。
さすれば、我々では見えなかった道が開けるかもしれませぬ。」
「そ、そうだな・・・今はやむを得ぬ・・・。」
審配が強く言ってやると、袁紹はしぶしぶうなずいた。
袁紹も自分の過ちを認めるのはしぶっているが、命には替えられない。審配とて郭図の手柄に便乗する形になるのは不本意だが、今はそんなしがらみを気にしている場合ではない。そもそも審配と郭図は、元々それほど仲が悪い訳ではない。
しかし、逢紀は袁紹のその答えにあからさまに難色を示した。
「恐れながら、沮授がそれほど役に立つとは思えませぬが?
事が起こる前ならともかく、すでに起こってしまったのですからね。
それに、これ以上文官が増えて、守りきれるとお思いか?」
思えば、逢紀は田豊や沮授とすこぶる仲が悪かった。
文官同士で仲の良くない組み合わせは袁紹軍には両手に余るほどあったが、逢紀とその二人は中でもとびっきりと言えるほど険悪だった。
生死の瀬戸際でまだそちらを優先するのかと、審配はあきれかえった。
「言うな、わしが決めたのだ。沮授は助ける!
死にたくなければ、大人しくついて来い。」
逢紀のくだらない意見は、袁紹が一蹴した。審配と郭図はほっと胸をなで下ろした。
682セイレーン:2009/06/05(金) 22:53:22 ID:wkyMknmtP
ゾンビ・オブ・ザ・官渡(26)

沮授の檻車への道を歩きながら、審配の胸にはある暗雲が渦を巻いていた。
先程逢紀が言ったセリフの一部が、どうにも嫌な予感を放っている。
(これ以上文官が増えて、守りきれるとお思いか?)
当初は沮授と一緒になりたくない言い訳だと思っていたが、よく考えるとこの言葉はかなり正しい気がする。
死者の不意討ちを食らって兵が半分になってしまった時、その予感はさらに増した。
袁紹の奮闘でどうにか逃げ切れたものの、兵が減ってしまったのは大きな痛手だ。文官三人を守らなければならないため、戦える者の負担はどんどん増してきている。
その負担はもう限界に近い、これ以上負担が増えたら、全員が共倒れになるか誰かを捨てて生き残るかの二つに一つだ。
その時捨てられるのは、審配、郭図、逢紀のうちの誰かである。
沮授が加わることになれば、確実に誰かが・・・。
「よろしいのですか、審配殿?」
逢紀が後ろから声をかけてきた。
「あなた方が余計なことを言ったせいで、あなた方の寿命がひどく縮んだようですが?
ねえ審配殿、あなたは走れば真っ先にダウンするし、おまけに周りも気にせず大声で舌戦を始めて、死者を呼び寄せるし。
ご自分の命が惜しくないようですな。」
いつもなら軽く跳ね返す逢紀の嫌味が、今日は鉄の鎖のように心臓を締め付ける。
いつもなら強気で言い返して屈服させてしまうのに、今日は喉がつまって声が出ない。
理由は決まっている、逢紀の言葉の一つ一つに、死神を感じるからだ。
(嫌だ、私は死にたくない!!)
審配は心の中で叫んだ。
自分は今日まで袁紹に忠実に尽くしてきた。今日も袁紹に兵をまとめておくよう進言して、おそらくは命を救った。
それなのに、その袁紹の口が自分を捨てろと命令を下すなんて、あまりにひどすぎる。
突然、袁紹が振り向いて審配と目を合わせた。
審配は魂が口から飛び出しそうなほどショックを受けた。
683セイレーン:2009/06/05(金) 22:55:12 ID:wkyMknmtP
ゾンビ・オブ・ザ・官渡(27)

「審配、そなたの剣と逢紀の剣を交換しておけ。」
袁紹はそれだけ言うと、またすぐ前を向いてしまった。
審配は一瞬、何を言われたのか分からなかった。
しかし、とりあえず命令だからと剣を腰から外して持ち上げる。
すると・・・あの忌まわしい死者と同じ臭いがつんと鼻をついた。それを感じたとたん、審配は飛び上がるほどの喜びを感じた。
(捨てられるのは、貴様だぞ逢紀!!)
審配が腰から下げていたのは、袁紹が死者を斬って切れ味が鈍った剣である。袁紹は審配のおろしたての剣を、使わないならよこせと取り上げ、代わりに使えなくなった自分の剣を渡していた。
袁紹はどうにも戦いで使えない文官に、使える武器を保持する役目を無理やり与えていた。
剣を交換することで、審配はおろしたての使える剣を、逢紀は腐汁まみれの使えない剣を持つことになる。
捨てられるのは、使えない剣を入れたケースに決まっている。
思えば、審配と郭図は失敗こそあれ、袁紹を救おうとあれこれ考えてそれを行動に移してきた。
かたや逢紀は自分を守るために行動するばかりで、失敗もないが功は全くない。
行動力のない者は、サバイバルではお荷物にしかならない。
それでなくとも、自分たちは戦えないだけで十分迷惑だというのに。
(私たちは皆、「足手まとい」なんだよ!)
逢紀の考えでは、審配と郭図には罪があって逢紀にはないから、助かるのは逢紀なのだ。
しかしそれは重大なことを忘れている。審配が今思ったように、文官三人には皆「足手まとい」という特大の罪があるのだ。
その超重量の鉄球を引きずりながら、それでも審配と郭図には小さな翼がある。殿のための行動力という翼が。逢紀にはそれがない、だからいざという時は捨てられるのだ。
逢紀自身はそれに気付かぬようだった。
審配もそれに気付かれぬよう、ふしぎそうな顔を作って逢紀と剣を取り替える。
ふと気付くと、郭図が逢紀の方を見てかすかに冷笑している。
地獄に舞い降りた勝利の女神、もとい君主は審配と郭図に微笑んだのだ。
684本当にあった怖い名無し:2009/06/06(土) 16:19:32 ID:Hn0xTMm/0
>>683
いいよーーー
おもしろくなってまいりました
wktk
685セイレーン:2009/06/07(日) 15:43:37 ID:lVTies1ZP
ゾンビ・オブ・ザ・官渡(28)

官渡城の地下で、李典は降ってきた将兵らの監視をしていた。
ずっと立っていると疲れるし、座ったらそれはそれでお尻に冷気がしみこんでくる。そのため、李典はさっきから立ったり座ったりを繰り返していた。
降ってきた将兵らは、今のところ非常におとなしい。
少し前に昼飯の匂いをかいだ高覧が、お腹がぺこぺこだと言ったので、李典は曹操の許可をとってこの将兵らに粥を与えた。
その時の将兵たちの反応といったら、もう・・・ある者は椀を奪い取るようにして夢中になって貪り、ある者は涙を流して李典に何度も頭を下げ、それはなかなかに壮絶な光景だった。
ともかく、これで降ってきた者たちが本当に朝食を食べていないことが分かった。
それを荀攸に知らせると、荀攸は気の毒そうに首を振った。
「そうか・・・彼らもまた、許攸の兵器の被害者なのだな。
かわいそうに、彼らには何の罪もなかろうに。」
聞いていると長くなりそうだったので、李典は一礼して立ち去ろうとした。
すると、荀攸はとっさに李典を呼び止めた。
「待つのだ李典!」
李典は嫌な予感がした。
「高覧たちが降ってきた時、おまえはわしの命令を遂行できなんだな。
わしはおまえに、許攸がもし新兵器の事で口を割ったら、周りの武将たちを黙らせてわしの発言を促すように言っておいたはずだぞ。」
「は、はい・・・あの時は、私も混乱していて・・・。」
李典がしどろもどろと答えると、荀攸はひどく残念そうな顔をした。
「それでは前と変わらぬではないか!
おぬしは何のために武将に転向したのだ、おぬしにはその自覚が・・・。」
思ったとおり、これは長くなりそうだ。
李典は長い話を聞くのは別に嫌ではなかった。しかし、それが自分を責める説教なら話しは別だ。
それにこの説教は、結局自分が変われていないことをつきつけるものだから・・・。
結局、李典は一時間近く荀攸の説教を聞くはめになった。
686セイレーン:2009/06/07(日) 15:44:56 ID:lVTies1ZP
ゾンビ・オブ・ザ・官渡(29)

そういう訳で、地下牢に戻るころには李典はすっかり疲れていた。
疲れた顔で立ったり座ったりを繰り返す李典を見かねたのか、張郃が牢の中から声をかけてきた。
「そうしていると、余計に疲れるぞ。
尻を下ろせる場所はあるのだから、座って休んだらいいだろう。」
そう言う張郃は、湿った地面にむしろをしいただけの床にごろりと寝転がっている。
以前、夏侯淵や徐晃がそういうことをしていたなと、李典はぼんやり思い出した。彼らはほぼどこででも寝られるようだ。
ごつごつした岩肌の上でも、腐りかけた木の上に寝そべっても、最悪死体がごろごろ転がっている真ん中でも平気で眠りにつく。
それが武将というものなのだろうか・・・李典はますますみじめになった。
「死体が歩いてなきゃ、それでいいさ。」
高覧が吐き捨てる。
「見ろよ、この頑丈な檻。
この中に入ってれば、あのゾンビどもには襲われずにすみそうだからな。こんな特等席を用意してもらえたなら、大歓迎だ。」
「その通りだ、ここなら安心して休める。」
張郃も嬉しそうにつぶやいた。
李典は、少し背中が寒くなった。
普通、牢に入れられてこんなに嬉しそうにしている者はいない。しかも、わざわざ降伏してきたのに牢に入れられたなら、もっと激怒して文句を垂れてもいいはずだ。
それを大喜びで受け入れるとは、どういうことか・・・。
城門を開けろと叫んだ時の彼らは、何かにひどく怯えていた。牢の中に入ることでそれから逃れられるなら、今のこの態度の説明がつく。
しかし、それを認めてしまうと、許攸や彼らが言っていたゾンビという怖いものが、本当に近くで大発生していることになってしまう。誰しも、そんな恐ろしいことが現実にあってほしい訳がない。
李典はその可能性を打ち消すように、必死で他の可能性を考えていた。
687セイレーン:2009/06/07(日) 15:46:12 ID:lVTies1ZP
ゾンビ・オブ・ザ・官渡(30)

どのくらい時間がたったのだろうか、悩む李典のもとに牢番の一人が報告しに来た。
「奥の牢に入れた者たちの一人が、息絶えたようでございます。」
「何、本当か!
すぐ曹操様に報告するのだ。」
奥の牢に入れた者とは、降ってきた将兵たちのうち、負傷していた者である。
許攸は負傷者がいるのを見て、けがをした者と元気で無傷の者は別々の牢に入れろと言った。そしてもし負傷兵が牢の中で息絶えたら、すぐに報告しろとも言っていた。
それが意味するところはまだ分からないが、おそらく許攸の兵器に関係することだろう。
李典は槍を取って立ち上がり、奥の牢へと走った。
奥の牢では、ちょっとした騒ぎが起こっていた。
中で一人が死んだとたん、他の負傷兵たちが出してくれと騒ぎ出したのである。もっともいくら騒いだとて、檻が壊れる訳ではないのでそう心配する事はないが、死亡を確認するための衛生兵を中に入れるのには手こずった。
李典がその牢の前に行くと、衛生兵が天窓の明かりの下で死亡した兵を診ているところだった。
「脈なし、呼吸なし、死亡確認しました。」
衛生兵は死亡した兵を手際よく観察し、結果を報告した。
特に何も起こらなかったことに、李典はほっと胸をなで下ろした。
しかし、異様なのは中にいる兵たちの反応である。負傷兵たちは一人残らず死体から離れ、壁や檻に張り付いている。中には座り込んで大声でわんわん泣いている者もいる。
一人は口から大量の血を流して、呻き声をあげて苦しんでいた。牢番の話しによると、武器を取り上げたので舌を噛んで自殺しようとしたという。
李典はそれを聞いて胸を痛めたが、出してやる訳にはいかない。
非情なようだが、こちらを策にはめる疑いのある者を出すことはできないのだ。
衛生兵が診察具を小さな包みにまとめている。
どうやら、何事もなく終わりそうだ。
李典はほっとして牢に背を向け、集まっていた牢番たちに持ち場に戻るよう指示した・・・その刹那、背後に恐ろしい悲鳴を聞いた。
李典が振り返ると、真紅の血煙が上がっていた。
688セイレーン:2009/06/07(日) 15:47:20 ID:lVTies1ZP
ゾンビ・オブ・ザ・官渡(31)

李典は、自分の見ている光景が信じられなかった。
衛生兵の首筋から、噴水のように血が噴き出している。
衛生兵の悲鳴がとぎれ、体が地に伏す。
その向こうには死んだはずの負傷兵が、たった今死亡を確認された者が、顔を血で真っ赤に染めて起き上がっていた。
ごげげっと喉を鳴らして、死んだはずの兵は大きく口を開き・・・人目もはばからず衛生兵の体にかぶりついた。
獣のように肉を食いちぎり、ぐちゃぐちゃと咀嚼する。
その肉を飲み込むごくりという音が聞こえた瞬間、李典は悲鳴を上げていた。
「ひぃいやあぁー!!!」
武将とは思えない、甲高い悲鳴がこだまする。
「何だ!」
「どうした!?」
その悲鳴を聞きつけて、外にいた曹仁と于禁がかけつけてきた。
しかしその二人も、牢の中で繰り広げられる凄惨な光景に凍りついた。
死んだ兵は衛生兵の腹に顔を突っ込み、腸を貪っている。死んだ兵が顔を動かすたびに、衛生兵の腹からぎゅっぎゅっと内臓がはみ出す。
「ひ、人を・・・食っている・・・!!」
于禁がひきつった声でつぶやいた。
いくら歴戦の猛者でも、人が人を食う場面に出くわすことは滅多にない。
食糧が尽きた城などでは時々あることだが、それでもこんな残酷な食い方はしない。生きた人間にかぶりつき、公衆の前面で腸を引きずり出すような食べ方は。
「お、おい・・・何なんだあいつは!?」
曹仁が青くなって李典に聞いた。
李典は、分かっていることだけ答えた。
「分かりません・・・あの兵は、食われている衛生兵が死亡を確認したはずなんです!!」
689本当にあった怖い名無し:2009/06/10(水) 08:59:30 ID:wd97jcC20
続きwktk

としか書けない不甲斐ない私
よし、こうなったら!
「俺、このゾンビ小説が書けたら投下するんだ……」
690本当にあった怖い名無し:2009/06/10(水) 12:56:47 ID:KsSkeabq0

沮授ktkr
つか田豊こねえええええええええええええええええ

続きを早く書くんだ!!!!!

>>689
戦国ゾンビでも何でもいいから書いてくれw

以上、シベリアから愛を込めて
691セイレーン:2009/06/10(水) 22:18:27 ID:NyK8+qfnP
ゾンビ・オブ・ザ・官渡(32)

突然、まだ生きている負傷兵たちが牢の戸に殺到した。
「出してくれえぇ!」
「おれたちは、まだ生きてるぞ!!」
それを聞いて牢番の一人が鍵を開けようとしたが、鍵は曹仁に取り上げられた。
「だめだ、開ければあの食人鬼が出てくるぞ!」
李典は思わず異議を唱えかけたが、恐怖がそれを制した。
あんな恐ろしいものが外に出たら、自分たちの身が危険にさらされることになる。負傷兵たちを見殺しにするのは心苦しいが、被害を拡大させない方が大切だ。
もしこれが許攸の言っていたゾンビというものであるなら、特に・・・。
再び、断末魔の悲鳴が上がった。
死んだ兵が生きている負傷兵に噛み付いたのだ。
戸のある一角に固まって身動きがとれない負傷兵たちに、死んだ兵は手当たりしだい噛みついた。何度も真紅の血が噴き上がり、悲惨な声がこだまする。
李典たちには、どうすることもできなかった。どうしていいか分からなかった。
死んだ兵が檻のすぐ側までやって来て、李典の方に手を伸ばした。
「ひい!?」
後ずさる李典と入れ替わりに、曹仁が格子の隙間から槍を突き入れる。
「くらえ!!」
槍はぶっすりと死んだ兵の胸に刺さり、寸分の狂いなく心臓を貫いた。
曹仁の顔に笑みが浮かぶ。
しかしその数秒後、死んだ兵は無表情のまま、槍を外そうと体を揺らし始めた。
「な、なぜ死なない!?」
人間でも動物でも、心臓を貫かれれば死ぬのはごく当たり前のことだ。しかしこの食人鬼は死なないだけでなく、苦痛すらも感じていないように見える。
李典は自嘲気味に思った。
(死なない、だって?
あいつはもう一度死んだのに?もう、死んでいるのに・・・?)
つい数分前、李典の目の前であの兵の死亡は確認されたのだ。
若くて真面目な、おそらく死亡判定の誤りなどしないであろう衛生兵の手で。
その衛生兵は今、血の海の中に横たわっている。まだ若いのに悪いことをしてしまったと、李典は彼の死を悼んだ。
692セイレーン:2009/06/10(水) 22:19:50 ID:NyK8+qfnP
ゾンビ・オブ・ザ・官渡(33)

冥福を祈るために手を合わせた李典の前で、衛生兵の体が動いた。
「え・・・?」
あっけにとられている李典を横目に、衛生兵はむくりと起き上がり・・・驚いたことに立ち上がった。
そして、李典の方を向いた。
生きていた、助けないと・・・李典は反射的にそう思ってしまった。
「動かないで、今助けに・・・。」
とたんに、李典の体は何者かに拘束されて自由を失った。
于禁が後ろからはがいじめにしたのだ。
「落ち着け、あいつの体をよく見ろ!
あんな傷を負って、生きていられる訳がないだろう!?」
于禁に言われて、李典は怖いながらも衛生兵の体を直視した。
衛生兵は先程死んだ兵に噛まれたせいで、血の気を失い青白い肌をしている。李典に向けられた目は、死んだ兵と同じように白く濁っている。そして先程腹を食いちぎられたせいで・・・内臓が傷口からはみ出している。
衛生兵が一歩踏み出すと、腹から内臓が押し出されてだらりと垂れ下がった。
しかし、衛生兵はそんな事まるで気にする様子はなく、フラフラと歩き出した。その先には、足を噛まれて動けない負傷兵が横たわって苦しんでいる。
衛生兵はその負傷兵の側にかがみ込み、口を大きく開いた。
「や、やめ・・・。」
李典の呼びかけも虚しく、衛生兵は負傷兵の腕に噛み付き、食いちぎった。
最初に死んだ兵が衛生兵にしたのと同じように。
絶望にうなだれる李典の後ろで、于禁が早口でまくしたてる。
「見ろ、あいつもあれの仲間になったんだ!
奴らはもう死んでる、もう助けられない!」
牢の中では、殺された兵が次々と起き上がり、まだ生きている兵を噛み始めた。

「何ということだ・・・。」
その時になってやっと到着した曹操と夏侯惇たちも、想像を絶する惨状に呆然と立ちすくむしかなかった。
693セイレーン:2009/06/10(水) 22:21:14 ID:NyK8+qfnP
ゾンビ・オブ・ザ・官渡(34)

程なくして、牢の中にいた兵は皆死に、起き上がって歩き始めた。
牢の外にいる生きた人間を食おうとして、ひたすら檻に体をぶつけている。
「どうです、これがゾンビというものです。
お分かりになられましたか?」
許攸はその化け物たちを指差し、得意げに呼びかけた。
曹操は吐き気をこらえるのに精一杯で、無言でうなずく事しかできなかった。
代わりに、曹操の一族である曹仁が激怒して言い放つ。
「分かりましたか、じゃないだろう!?
こんな恐ろしいものを作っておいて、よくも平気な顔をしていられるな。
こいつらは死なないんだぞ!?槍で心臓を一突きにしても平気で動き続けるんだ。不死身の怪物を、どうやって処理しろって言うんだ!?」
曹仁につめ寄られて、許攸はうっとうしげに手を払うしぐさをした。
「将軍、ゾンビは不死身ではありませんよ。
頭を突くか、首の骨を折れば死にます。すぐ、お試しあれ。」
「ああ、試すとも!」
許攸に諭されたのは腹が立つが、まずはゾンビを処理する方が先だ。
曹仁を始め、夏侯惇、夏侯淵、于禁、許褚といった猛将たちが武器をとって牢の前に出る。ゾンビどもは肉を欲して檻に張り付いているので、長い武器を使えばいい的だ。
「それっ!」
格子の隙間から、ゾンビの頭を狙って何本もの槍が突き出される。それぞれの槍は狂いなく一体ずつ頭を貫き、ゾンビを動かぬ死体に戻した。
ゾンビの数が減ると、李典も槍をとって加わった。
あの若い衛生兵はせめてもの償いに、自分の手で安らかに眠らせたかった。
悲鳴もあげることなく、死に拒まれた者たちが一人一人本当の死に落ちていく。
全てのゾンビが倒れた時、曹操は張郃と高覧を牢から出すよう指示した。彼らの言っていたことは、不幸にして真実だったのだ。
今はどうにも気分が悪いが、少し休んだら彼らも交えて軍議を開かねばならない。
これは非常に大変な事態になりそうな、そんな気がした。
694empty ◆M21AkfQGck :2009/06/10(水) 23:19:16 ID:3wcQ7g7r0
>>689
そうレスして貰えるだけで随分違うと思いますよ。
読んでくれてるって実感が持てますし。

こっちも今週末に投下できるかなー、と。
事態がちょっとだけ進展。
695本当にあった怖い名無し:2009/06/11(木) 00:05:59 ID:fvQcOpAy0
中国なら、せめてキョンシーといって欲しかった……
696セイレーン:2009/06/11(木) 19:37:11 ID:sbB9iDlzP
いつも応援ありがとうございます!

>>695
お言葉ですが、キョンシーはゾンビとはだいぶ違う感じだと思ってあえてゾンビにしました。
日中は活動しないし、道師に退治してもらうとか宗教的イメージが強いし、
時間が経つと空を飛んだり旱魃を起こす怪物に進化したりして大変です。

生存の難易度的にも、very hard になるかと。
697本当にあった怖い名無し:2009/06/11(木) 21:31:51 ID:N/2yknT50
>>696
>生存の難易度的にも、very hard になるかと。

尿を嫌がるから、プライドを捨てられればそうでもないかもしれんとか言ってみる。
698本当にあった怖い名無し:2009/06/12(金) 14:36:38 ID:dbgWZZuN0
>>696
最近の楽しみの一つです
wktkしてます
数十万のゾンビ(屮゚Д゚)屮 カモーン
699本当にあった怖い名無し:2009/06/12(金) 23:24:42 ID:fBfZE9x90
>696
>宗教的イメージが強いし、
ええっと、これが噂に聞く誘い受けという奴ですか?
「ゾンビ」ってのもブードゥー教の司祭によって作られる生きる屍なんだから、充分過ぎるほど宗教的イメージが強いでしょ。
食人をしないし、感染もしない、口に塩か銀貨を詰めれば止まるゾンビを、グールだの吸血鬼だのを取り入れて改変してるのに、キョンシーだけは元のままなんて、言われても、その、なんだ、今一説得力がな……
(あと、余計な突っ込みだけど、ゾンビは新大陸発見後の16世紀以降に、黒人奴隷+原住民+白人の宗教が混じってできたヴードゥー教の用語だし)

ただ、別にストーリーは面白いから楽しんで読んでます。
ナパームもないこの時代、ゾンビを作り出した側も別に制御出来てなさそうなのに、どう収集をつけるのか興味津々です。
下手すると、卑弥呼の時代に人類滅亡とか充分ありそうだよな。
700689:2009/06/13(土) 01:50:34 ID:20av9ILM0
>>694
せっかくレスしてもらったのに、亀レスでスマソ
作品の投下を楽しみにしています
私もゾンビ小説を書きたいなーと構想は練っているのですが、登場人物を動かすのが難しいです
なので、小説を投下している作者さん方は凄いと思ってます
701本当にあった怖い名無し:2009/06/13(土) 02:54:36 ID:gJKbvAnWO
sage
702セイレーン:2009/06/13(土) 22:58:30 ID:FKOOLxbuP
キョンシーの件については、一般的にゾンビが動く死体として有名になっているのに対し、
キョンシーは一般的に霊幻道士とかのイメージが強いので分かりにくいかなと思っただけです。
荒らしそうになったなら申し訳ありませぬ。

おっしゃる通り三国時代には強力な武器がないので、人間以外のゾンビと戦うには武器創作が不可欠でしょう。
ボウガンをハンドガンの代わりにし、そこから
複数の威力の高い矢を飛ばす→ショットボウガン
矢に火薬爆薬を巻きつける→グレネードボウガン(?)
くらいなら許されるかと。
703セイレーン:2009/06/13(土) 23:00:40 ID:FKOOLxbuP
ゾンビ・オブ・ザ・官渡(35)

「ここはどの辺りか分かるか?」
袁紹は、すぐ後ろをついて来る文官たちに聞いた。
素早く周りに視線を走らせて、郭図が答える。
「旗印からして、辛評殿の陣でしょう。
このまま行けば、沮授殿の檻車に着くはずです。」
袁紹は振り返らぬまま、かすかにうなずいた。
辛評にも暴動鎮圧の動員をかけたため、陣はもぬけの空になっており死者はほとんどいない。しかし生きた人間にも、さっぱり出会わない。
もしかしたら、この陣で生きている者はもう自分たちだけかもしれない・・・そんな暗い予感が袁紹の頭をよぎった。
袁紹は慌ててそれを修正した。
(馬鹿な、70万の将兵の中で生きているのがわしらだけだと?
そのような事、ある訳がない。)
無理にでもそう思わないと生きていけないほど、ひどい事態だった。
もし周りが全て死者に変わってしまったなら、自慢の大陣営がそっくり死者のものになってしまったなら、せめて人として自害した方がましだと思えてしまう。
袁紹はその死の誘惑に抗って、必死に歩き続けた。
ふと、目の前を何かが横切った。
それはびいんと音を立てて、すぐ側の木に突き刺さった。
それは、弩の矢だった。
「くそっ外したか!」
どこからか、声が聞こえる。人の声だ。
郭図が慌てて袁紹の前に出て、声のした方に呼びかける。
「待て、撃つな!私たちは死者ではない!
我らが君、袁紹様がここにおられる。姿を現し、迎えよ!」
声はかなりかすれていたが、相手には届いたようだ。テントの影から数人の兵がわらわらと現れ、慌てて頭を下げる。
生きた人間がいた・・・袁紹の心の中で、希望が勢いを盛り返した。
704セイレーン:2009/06/13(土) 23:02:13 ID:FKOOLxbuP
ゾンビ・オブ・ザ・官渡(36)

袁紹たちに矢を射かけたのは、弩隊の兵士だった。
弩は威力は高いが矢をつがえるのに時間がかかり、しかも弓よりはるかに重いため乱戦に適さない。そのため弩隊は暴動の鎮圧に使われず、空になった陣を守っていた。
そのうち人を食う死者が現れて襲い掛かってきたため、弩隊は隊長の指揮のもと、近付く死者を全て射殺して身を守っていたのだ。
袁紹たちが射られたのも、死者と間違えられたからに他ならない。
弩隊の隊長は、袁紹に深々と頭を下げた。
「申し訳ありませぬ。
まだ他に生きている者がいるとは思わなかったもので・・・。」
「ああ、良い。わしとて同じだ。」
袁紹はいつもからは考えられないほどあっさりと、弩隊を許した。
もう他に生きている仲間がいるか分からない。しかもこんな強力な武器を持っている者を、敵に回すことはならない。
それにもしあの矢が当たっていたとしても、死者に生きたまま食われるよりは、弩で頭をぶち抜かれた方がはるかに楽に死ねるだろう。
貫通力の高い弩の矢は、距離が近ければ兜も貫通する。
そもそも、袁紹がそのようにデザインして改良させたのだ。
袁紹が治めている冀州には、元々北から来る騎馬民族を防ぐために、強力な弩隊が配置されていた。(冀州強弩の守りと言われる)
その対匈奴用の弩を、袁紹は宿敵であった公孫瓚と戦うために改良した。
公孫瓚は騎馬兵を多く用い、特に白馬で揃えた精鋭の「白馬陣」による突進を得意としていた。速さを売りにするうえに兵の数もそこそこ多いため、射撃間隔の長い従来の弩では押し切られる恐れがあった。
そのため、袁紹は弩を簡単かつ短時間で撃てるよう、改良に改良を重ねた。
その改良型の弩で、袁紹は公孫瓚を打ち破った。
力任せに突進してくる公孫瓚の騎兵隊を弩で掃射した時、袁紹はこれまでになく胸がすく思いだった。
その弩が、死者からも自軍の兵を救ってくれたのだ。
705セイレーン:2009/06/13(土) 23:03:57 ID:FKOOLxbuP
ゾンビ・オブ・ザ・官渡(37)

袁紹はそこの弩兵の一部を、沮授を救出するために連れて行くことにした。
代わりに、歩き疲れて、死者につかまれて精神的にも参ってしまった審配を弩隊に預けることにした。
弩隊はなんと馬も十頭ほど保持していたので、退却は楽になりそうだ。
しかし沮授のことを聞くと、弩隊の隊長は顔を曇らせた。
「沮授殿ですか・・・恐れながら、それは止めた方が宜しいかと存じます。」
「うむ、死者に襲われることは覚悟のうえだ。
それとも、他に何か理由があるのか?」
「ええ、死者には変わりありませんが・・・。」
弩隊の隊長によると、辛評軍の本隊と死者が激突した前線が、まさに沮授の檻車がある辺りなのだという。
それから辛評軍の本隊は、数えるほどしか帰ってこなかった。
つまり、本隊の大部分は死者となって、檻車の周辺をうろついている可能性が高い。
「しかし・・・少しでも可能性があるなら、わしは行ってやらねばならぬ。」
沮授を無視して陣をこんなにしてしまったのは、他ならぬ自分なのだから・・・袁紹の目には、強い決意がみなぎっていた。
それを見ると、隊長はかすかに微笑んで袁紹に弩を差し出した。
「拙者に殿を止める権利はありませぬが・・・せめてこれをお持ちください。
ご武運をお祈りいたします。」
「うむ・・・もしわしが戻らなければ、審配だけでも冀州に返せ。
後は、頼んだぞ。」
袁紹は自らの腰にも矢筒を装着すると、郭図にも弩を持たせて操作を教えた。
しつこいほど改良を重ねたおかげで、その弩は文官でも簡単に矢をつがえられる。郭図に準備をさせて、袁紹が射ればいいのだ。袁紹も弓の腕は悪くない。
逢紀はここにいたいと少しごねたが、袁紹は逢紀に大量の矢を持たせて同行させた。
それから弩隊の兵を二十名ほど連れて、袁紹は地獄へと踏み出した。
706本当にあった怖い名無し:2009/06/14(日) 15:45:46 ID:J7nPc3NHO
袁招カコイイ!
707本当にあった怖い名無し:2009/06/16(火) 11:14:46 ID:EzpPNd430

袁紹をこんなに格好良いと思ったことは初めてだw
そういや袁紹が主役の創作物自体初じゃなかろうか。
早く続きを!
あと他の作家さんも待ってますよ!

・・・シベリアから愛を込めて
708empty ◆M21AkfQGck :2009/06/17(水) 00:50:18 ID:T6R+eP9N0
『電話に出ることができません。発信音の後にメッセージを――』
「…」
ぴーっ、という音が鳴る。
ドキドキした割にはあまりの結果。
そのまま切るのも癪なので、とりあえずメッセージを入れておくことにする。
「えっと、もしもし? こちら生存者です。少なくとも現時点では。
 そちらは生きてますか? 無事なら折り返し電話下さい。それでは」
ぽち。
ツー、ツー。
切れたのを確認してから携帯電話をズボンのポケットに突っ込む。
成果は無かった。これでまた振り出しに戻ったわけだ。

「とりあえず今日はここに泊まるかなぁ…」
食料と水はあるし、寝苦しくなったら冷凍庫から氷を持ち出せば良い。
着替え――特に下着類が無いのが残念だけど、安全で快適な寝床が確保できただけで万々歳だ、しばらくはここで暮らせるかもしれない。
「毛布があった。奥に休憩室があったからそこで寝れるよ」
どさ、とカウンターに毛布を置く友人。ぱっと見、あまり使われたことのない感じがする。
カウンターチェアをくるくると回しながら、ここの食料が尽きた後のことを考える。
水に関しては出る内にできるだけ多く冷凍保存しておく、という方針で固まった。
現に、今も冷凍庫の中ではペットボトルに入れられた水が冷やされている。
食料は腐るのが早いものから食べていけば良い。缶詰などの保存食もあるにはあるが、期待できる量じゃなかった――二人だと尚更。
食料に関しては一週間もしないうちに尽きるはず。尽きそうになったら、凍らせた水と保存食を出来るだけ、なおかつ機動力を削がない程度に持ってここを離れる。
ここを離れたら、次に食料がありそうな場所を探す。それまではひたすら保存食をちまちま食べるしかない。
709empty ◆M21AkfQGck
―――キツいなぁ。
生鮮食料品は簡単に生み出せるものじゃない。
それに、簡単に腐ったりして駄目になってしまう。
保存食だけだと、どうしても味でも栄養面でも偏りが出ると思うのだけど…。
と、そこで我ながら名案が思いついた。
スーパーマーケットだ。
大通りに沿って歩いていれば、割とすぐに見つかるに違いない。そうでなければ売り上げが見込めないだろうし。
ここの冷蔵庫がまだ動くことからして、電気はきちんと通っているはず。あの混乱の中でいちいち電源を切っていくとも思えない。
「よし、スーパーに行こう」
「何を唐突に」
ぽかんとした顔だった。
「あそこなら食料品が沢山ある。出入り口を補強すれば、しばらくは篭城できるはず」
「………それって囲まれて脱出できなくなる典型的なパターンだよね」
む。
アレが知能を持っていることは明らか。
だとしたら、兵糧攻めは勿論様々な方法で攻めてくるだろう。
そして武器は無いし大抵のスーパーには生憎と置いていない。
「………立てこもるのなら、スーパーもあってその他色々も入手できる場所じゃないと。そう、ショッピングモールとか!」
急に熱くなりやがった。
しかし、そんな都合のいい場所――。
「――あった」
「ん?」
「ほら、何本か道を挟んだところに」
「………あぁ!」
ぽん、と手を叩く。
あそこならば、侵入経路は限られているしスーパーはあるし家電量販店はあるしゲーセンはあるし100円ショップがある。
100円ショップや家電量販店でなら、良い感じの武器になりそうな何かが置いてあるはず。