有名な怖い話をクールに反撃する話に改変しよう 16

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82口裂け1
ある日の夕方のことだ。
帰宅途中、ある男が赤いコートを着て白い大きなマスクを口につけた女性に出会った。女は男に近づくと一言、こう尋ねた。
「私綺麗?」
言いようのない妙な空気が流れた。
マスクで顔の下半分が隠れていたのではっきりとはわからないものの、その女性はなかなかの美人であるようだ。
しかし、一方の男も黒ずくめの上、コートの襟を高く立てていて、顔がはっきりとは見えない。その男は振り向きもせず適当にこう答えた。
「まぁまぁキレイなんじゃないか?」
女性は一瞬とまどったようだったが、男をタダのサラリーマンだと思ったのかマスクを剥ぎ取りながらこう言った。
「こ、これでも・・・キレイかー!」
耳元まで口が裂けたその女性は、鎌を抜いて男に襲い掛かろうとしたが…。

男「おまえは自分だけが一生不幸をしょって苦しんでる、と思ってるのか!!!」
女「な、なにぃー」」
男「苦しみにたえぬいて生きのびた子だっているんだ!!」
初めて男は、女のほうに顔を向けた。男の顔には縦断する醜い傷跡があった。
男「わたしもそのひとりだ!!!」
男は自分の顔の傷跡を指さした。

男「私は医者だ。本気で幸せになりたいと思うなら、私がアンタのその口を手術してやる。」
女は鎌を落とし、泣き崩れた。
女「いままでどんな医者も治せなかったのよ!!幸せになれるなら、私だって幸せになりたかったわよっ!!!」
男「私ならできる。ただし、5千万だ。本気で幸せになりたいと思うならそれぐらい安いものだ。その気になれば、いつでも私のところに連絡しろ。」

そう言うと、男は去っていった。
女は泣き続けていたが、ひとつの決心が芽生えつつあった。(私、幸せになりたい。5千万円だってなんとかする。だから、幸せになりたい。)


次回『手術失敗! 再び迫る口裂けの鎌!!』に・・・・・・続きません。
83口裂け2:2008/10/12(日) 21:46:45 ID:NBJ866k90
 その部屋で意識が醒めた時、私は両頬部にいいようのない違和感を感じたが、不思議と痛みは感じなかった。
 部屋に入ってきたその子は、痛み止めが効いているからだと言った。手術後、安静のために私は2日間まるまる
眠らされていたとも言っていた。

 私が横たわるその部屋は、あの不思議な黒い男の家であった。男は医者であったのでそこは医院ということに
なるはずだが、どちらかというと(口裂け女の私が言うのもなんだが)『おばけ屋敷』という方が相応しい家だった。

 その家は人里離れた荒涼とした岬の突端にある古びた木造の小さな洋館で、その佇まいは廃墟マニアや
心霊スポットマニアの間でひそかに有名になっていそうだな、と思わせられるぐらいだった。しかも、雨風の強い夜は
激しい波の音で寝付けないぐらいで、入院して手術を待つ私はベッドの上で孤独な気持ちに震えていた。
84口裂け3:2008/10/12(日) 21:47:51 ID:NBJ866k90
 この家の主は、もちろんあの男だ。裏の世界の者なら一度は聞いたことがある、伝説的な凄腕の無免許外科医らしい。しかも、法外な報酬を要求する冷酷な男だと聞いていた。
 最初に見た時に私でさえ怯んだ顔の凄まじい傷跡は、彼が『顔裂け男』として世間に無差別な復讐をして都市伝説に
なったっておかしくない。実際、私はそうやって『口裂け女』となった。しかし、彼はそうしなかったのであり、そのことは
私にとっては屈辱的であったが、同時に私に「幸せになりたい!!」という希望を芽生えさせた。

 そして、もう一人の住人、自称18歳のその子もまたオカルトそのものだった。どうみても5、6歳の女の子にしか見えない。
それで18歳だなんて、まるで山岸涼子の『汐の声』のようだ、と初めてその子を見た私は、私がまだ普通の「人間」だった
時に読んだマンガのことを思い出した。
 入院して手術を待つまでのしばらくの間、毎日その子と接しているとますます不気味さを感じた。パッと見は普通の
5、6歳児なのだが、ごくごく近寄るとその肌は緻密な繊維だった。これにはさすがの私もゾッとした。この子もまた、
私よりずっと都市伝説に相応しい。だが、その子の屈託のない笑顔は都市伝説から程遠く、この子の存在もまた
私の「幸せになりたい!!」という気持ちを強めさせた。
85口裂け4:2008/10/12(日) 21:48:56 ID:NBJ866k90
 術後の日々は退屈のひとことだった。毎日テープ交換などの簡単な処置と点滴以外はこれといった処置もない。
それでも男の診療には心のこもったものを感じるし、私は安心して任せているだけでよかった。
 夕刻になると時々この男に会うまでの毎日を思い出す。夜な夜な愛しい、そして今となっては忌まわしいあの鎌を
持って街を彷徨よった日々を。それも術後のベッドの上では、もはや現実味を持たなかった。

 抜糸も済み普通なら通院でいい程度になってもまだ私は入院していた。
 もともとどこにも身寄りはなく、というより口の大きな傷が出来た時、両親・兄弟からもそして恋人からも見捨てられ、
私は『口裂け女』となったのだ。だから抜糸が済んだとはいえ、顔の傷はまだ残っている間は社会復帰出来ないだろう
からそれが消えるまでは入院を、と勧められ、その言葉に甘えることにしたのだ。
 だが、元々首から下に問題があったわけではないし顔だって抜糸がすんでいるので、この家を訪れる患者の目に
触れない範囲でちょっとした家事やなんかを手伝って過ごしていた。社会復帰後に必要だから、と今まで私が触った
ことのなかったパソコンも貸してもらい、いろいろ教わったりもした。
86口裂け5:2008/10/12(日) 21:50:07 ID:NBJ866k90
 いよいよ、退院の日になった。入院した日に私の希望でこの家の鏡は私の目のつかないところにしまってもらって
いたので、実は私は術後の自分の顔を知らない。ガラスや水面に映りそうな時もあったが、そんな時は顔を背けて
やり過ごした。だが、男から退院を言い渡された以上、私はいよいよ見なくてはならない。
 『鏡はあそこにある。』男は昨日まで鏡を外していた洗面台を指差した。今まで毎日使っていた洗面台。
でも、鏡があるのは今日が初めてだし、…使うのも最後のはずだ。

 『…』私の頬を熱い液体が伝うのが分かる。抜糸後毎日毎日、あの子に冗談半分で『私キレイ?』と聞いていた。
あの子はいつも『お姉ちゃん、キレ〜なのよさ〜。昨日よりも傷もずぅ〜っとずぅ〜っとキレ〜になってるのよさ〜。』
と言ってくれた。
 そして今…、私は鏡を見てこの世に『口裂け女』が存在しなくなったことを知った。
 そういえば手術前にあの異常な俊足を生み出していた、体中に漲る病的な興奮状態も沈静化しているのを感じる。

 いよいよ別れの時が近づいてきた。男とあの子は、車で私を駅まで送ってくれた。私は『5千万、私にとっては重い
足かせだけど、…幸せになれると思います。5千万、必ず返します。』と素直な気持ちを伝えた。『5千万なんて言ったかな。
まあ、いろいろ手伝ってもらったのにその報酬払ってなかったから、半額の2千5百万でいいよ。その代わり、月々100円の
ローンだ。これは必ず払ってもらうからね。忘れるなよ。』運転する男の顔は分からなかったが、助手席のあの子が
振り向いてニッコリと聖母のような笑みを浮かべた。それも私の溢れる涙でぼやけていった…。
87本当にあった怖い名無し:2008/10/12(日) 22:10:31 ID:NBJ866k90
男の声は大塚明夫、女の子の声は水谷優子でおねがいします。
もちろんうただ声のピ○コはそれ自体がオカルトなので、不可です。

口裂けは皆さんそれぞれのイメージでどうぞ。