【じわ…】じわじわ来る怖い話14じわ目【…わじ】

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149本当にあった怖い名無し
Q外国のカブトムシを逃がしてはいけないと聞きましたどうしてですか?A1外国のカブトムシは環境の異なる日本では生きていけないから。A2逆に適応力が強く繁殖してしまった場合、もともといた日本の虫たちの食べ物を奪ったりして生態系に悪影響を与えてしまうから。
地方の農村は慢性的な嫁不足で、例に漏れず私も四十を間近に結婚のあてもありませんでした。
私は農家の長男で両親に毎日結婚しろ結婚しろといわれていました、結婚相談所の紹介で嫁さんを貰ったのは私が三十九歳、妻はまだ二十歳になったばかりの時でした。
彼女はカバン一つを持ってフィリッピンからやってきましたが、近所からは好奇の目で見られあれほど結婚を求めていた両親でさえ彼女を心から歓迎してはいませんでした。
それでも私は彼女を愛していました。日本語が満足に話せなくても、料理にスパイスが効きすぎていても、そんなことは問題ではありませんでした。
彼女の笑顔が私は好きでした、笑って傍に居てくれればそれだけで良かったんです。
実際彼女は努力もしてくれていました。つたない日本語で一生懸命話し、料理の味付けを勉強し、小言の耐えない姑に嫌な顔一つもせず日本の習慣や田舎のしきたりを身につけ家や村に馴染もうと精一杯努力をしていました。
しかし彼女はなかなか受け入れられませんでした、姑の小言はやまず近隣の人にはありもしない卑猥な噂をたてられました。やがて姑は彼女が出歩くのを禁じるようになりました。掃除や洗濯など家の中のことだけをやるように命じました。
孫ができれば姑の態度も変わったのかもしれませんが、何故かその機会は訪れませんでした。やがて、私の愛したあの笑顔も、太陽のような笑顔も見られなくなりました。そして、ついに私は離婚をきりだしました。
「もう、もう、もうこんな家に縛られることはないよ。君は自由に生きていい。」
結婚して一年が過ぎた頃でした。
東京で彼女を見たという話を聞いた時、私は五十になっていました。出稼ぎに云っていた男が彼女を見たというのは錦糸町のフィリピンパブでした。
迷いつつ私は東京に向かいました。教わった店は繁華街からいくらか離れた細い路地の奥にありました。
150本当にあった怖い名無し:2008/04/14(月) 03:14:37 ID:Es3IJX2p0
店の前まで行きながらどんな顔して会ったらいいのか、何を話したらいいのか、そもそも会っていいのか……
色々考えていると突然ドアが開きました。「アリガットウ、ゴッザイマシタ、マッタァキッテネェ」投げキッスをしてお客を送り出したのが彼女でした。
ドアの前に立ち尽くす私に怪訝そうな目を向けた彼女の表情が一瞬で驚きに変わりました。けっしてけっして嬉しそうな顔ではありませんでした。
しばらく言葉も無く二人で見つめ合っていました。私は思慕織り出すように声を出しました。
「っん、久しぶりだねぇ」「イラッシャイマセェ……ドゾー」一番奥のボックス席に案内され向かいに彼女は座りました。
「ビール、ビールデヨカッタァネ」「っああ、はい」かける言葉が見つかりませんでした。
やがてぽつりぽつりと彼女は話し始めました、流暢な日本語でした。
「ワタシネ、アナタノコトウランデナイネ。オカアサンモウランデナイ。イロンナコトオソワッテ、ソレガトテモヤクニタッテイル。アリガアカッタトオモッテルヨ……ダレモワルクナイ…タダチョット、カンキョウガ…ソウカンキョウガアッテナカッタソレダケ」
俯いて話していた彼女が顔上げました、目元の化粧が滲んでいました。
「ワタシネ、イマイッショニクラシテイルヒトガイルノ、トテモイイヒト。オカネハアマリナイカラワタシモハタラカナキャイケナインダケドモワタシヲタイセツニシテクレル。リョウリオイシイテホメテクレルゥ、オカアサンニカンシャシナキャネェ。」
「ーっそう、よかった。」「コドモモイルノ。」
「っえ、男の子女の子?」
「イチバンウエガオトコノコデハッサイ、ソレカラオンナノコオンナノコオトコノコオンナノコデゴニンキョウダイ、イマオナカノナカニモイルノ」
151本当にあった怖い名無し:2008/04/14(月) 03:15:23 ID:Es3IJX2p0
――店を出た私を見送る彼女はあの笑顔で笑っていました、これでよかった彼女は幸せに暮らしている。田舎へ帰る高速バスの中彼女の笑顔が瞼を離れませんでした。
本当に彼女は……本当に彼女は……!……幸せになれたんだろうか…。

濃い化粧を見たか…
きわどい衣装を見たか……
荒れた肌を見たか………
こけた頬を見たか!
化粧で隠した痣を見たか!!
目つきの悪いボーイを見たか!!!
下衆に笑う客どもを見たか!!!!
彼女の涙を!!!!!!
私は…見なかったのか……



……
………
…………
……………


彼女を守れなかった負い目のせいで…
無意識に見たくないところから目を反らしてはいなかったか?
それが彼女の幸せだとか…虫のいいことを云って責任を逃れのではないのか?







カブトムシは最後まで世話をしなければいけません!