アポロ計画と月の俗説・異説

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392本当にあった怖い名無し
御参考までに。
「月面に立った男 ある宇宙飛行士の回想 ジーン・サーナン」(P349〜353)
飛鳥新社 より (続き)
採取した二十個のサンプルのうち、いくつかは大きすぎて用意された袋に入らなかった。私はその
一つを手のひらで転がしながら観察したのである。少なくとも三十億年前から真空状態
で太陽光線にさらされていた冷たい岩石が、月の石として地球に運ばれようとしていた
のだ。しかし、その石はあまりにも平凡に見えた。グリーンランドでの地質調査で見た
岩石と同じだった。沢山の穴が空いた結晶質で、それは大昔にガスが抜けた跡らしかっ
た。そしてちょっと触れるか揺するだけで飛び散る。火薬のようなにおいのする黒い土
埃に覆われていた。夢中で観察しているうちに、私の爪の先にはいつのまにか庭いじり
でもしたかのように真っ黒な土が詰まっていた。

 ジャックは不満そうだった。実験装置の設置に時間を取られたせいで、最初の探査時
間中に本格的な地質調査がほとんど出来なかったと思っていたのだ。もし何らかの理由
で、私達がいまこの場を離れなければならないとしたら、長年の準備の代償として示せ
るものは一握りの玄武岩のかけらでしかなかった。(中略)

 ジャックと私はハンモックを斜めに交差させて、ジャックは床すれすれに、私はその
上に吊った。私の足は計器板にぶつかりそうなほどで、うっかりスイッチを蹴らないよ
うに気をつけねばならなかった。顔はドッキング用トンネルを見上げる姿勢になり、背
中には、エンジンカバーの上に置いた宇宙服がぶつかった。宇宙船内は実に狭く、私は
はじめて訓練航海をしたロアノーク号の船室を思い出した。

 二人とも疲れ果てていた。窓をグラスファイバーのシェードで覆い、船内を暗くして
夜の状態にしておいたので、すぐにも熟睡できるはずだった。しかし眠りは浅く、私は
宇宙船の環境装置の静かで優しい音や、ジャックの規則正しい寝息とそれをときどき中
断させるくしゃみに耳を澄ましていた。外の静けさは不気味なほどだった。風のそよぎ
も、雨粒の落ちる音も、コオロギやカエルの声もなく、空気さえなかった。』
「月面に立った男 ある宇宙飛行士の回想 ジーン・サーナン」(P349〜353)
飛鳥新社