『我慢しなさい』
死ぬほど納得できなかったその言葉と。
「死ぬよりはマシ」と言いかけた僕の言葉と。
では一体何が違うと言うのだろう?
思わずのび太は考えこむ。
しかしのび太の幼い頭では、頭のどこを突いても答えは出てきそうになかった。
「心配してくれてるんだね。ありがとう。でも、大丈夫だよ。トリユの人たちは強い。それに……」
すっかりぬるくなった日本茶の器を手の中で弄びながら、ロイは一つ息を継いだ。
「トリユには、タカベがいるからね」
「タカベさん……?」
「うん、君たちは聞いてないかもしれないけれど、タカベは兵士の中でも別格なんだ。ヒストリアの歴史は聞いたかい?」
「ええ、それは。30年前にパルスタが独立した、って」
「そう。それと前後して、この星では大きな戦争があった。
小国同士が潰しあい、大国が小国を取り込んだ。血で血を洗い、更にまた新しい血が大地に流れる。
僕の生まれるずっと前の話だけどね、それはもの凄い戦いだったらしい。
ま、その辺はどうでもいいんだけど、のび太くん。タカベの父親は、その長く続く戦いの中で『伝説の傭兵』として名を馳せていたんだ」
「ヨーヘイ?」
「雇われ兵士のことさ。それぞれの国が全部軍隊を持ってるわけじゃないからね。
戦争ってのは金食い虫なんだ。小さい国なら、軍隊のない方が普通だ。
だから、戦争になれば兵士を雇う。雇われた兵士は、金を貰って戦場に赴く。戦争が終わればまた違う国に行く。
『戦争はありませんか?』って言いながらね」
平和な日本に住むのび太には、その『傭兵』という職業の存在をにわかには信じがたい気持ちだった。
お金を貰うために戦争に行く?なんでそんなことを?どれだけ考えても、のび太にはその気持ちは理解できそうになかった。
「タカベの父親は先の戦乱の中で、あらゆる国を渡り歩いた。
その実力は各国の間に響き渡り、どの国もこぞって彼を欲しがった。
そして終戦の1年前、タカベの父親はパルスタの前身・クレキガへとその身を預けたのさ」
ナシータの中で淡々とこの国の歴史を語っていたタカベの口からは、そんな話は一言も出てこなかった。
あそこまで詳細に歴史を話しておきながら、どうしてそのことを話してくれなかったのか?
色んなことが頭を巡ったけれど、とにかく今はロイの話に集中することにした。
「一進一退だった戦況は一変したらしい。タカベの父は固体の兵士としても優秀な能力を擁していたけれど、その真価はむしろ戦術や師団を指揮する部分にあったそうだ。
少数の兵を率いてその何倍もの数の兵力を打ち破る……とにかく凄まじい実力だったらしいよ。
それに、噂っていうのは一人歩きするものだからね。『クレキガにはタカベがいるらしい』っていう噂が広まるにつれ、敵軍の兵士の士気は相対的に下がっていって、クレキガの勝利はどんどんと数を増していった。
そしてタカベの父がクレキガに付いて1年後、ついに統一国家パルスタが誕生したってわけさ」
長い話だった。けれどのび太は一言も口を差し挟まずに聞いた。理由の一つには、単純な好奇心から。
もう一つには、あの優しいタカベにそんな獰猛な血が流れていたのか、という思いからだった。
「でも、その話とタカベさんと一体どんな関係が……」
「一つには、彼に流れる最強のDNA。そんな親父さんの子供だからね。
普通の兵士とは違って当たり前さ。それともう一つは、タカベに施された英才教育だ」
「英才教育?」
「そう。確かに戦争は終わったけれど、タカベの父親の中には戦闘の血が流れ続けた。
父親はしきりと言っていたそうだよ、『このパルスタには再び必ず戦争が起こる。その時に必要なのは、人をどう殺すか……そのスキルだ』って。
タカベにしても小さい頃から戦場を転々としながら育ったんだ、父親のその言葉にも、タカベは特に疑問を持たずに格闘術や戦術のあれこれを学んだらしい」
タカベは見たところ30代中ごろの年かさだ。ということは、今ののび太よりもずっと幼い頃から戦争を経験していたことになる。
小学校に上がるよりも幼い子供が――と思わないでもなかったけれど、あの時ナシータで静に見せた刺すような殺気の理由が分かった気がした。
707 :
シズカちゃん:2007/03/22(木) 22:08:14 ID:gJ3f+jU00
「英才教育?」
「それが、どうしてトリユに?」
「……最初はタカベも優遇されたらしい。戦勝の最大の立役者と言っても過言ではなかったからね。
けれど国が安定し、最早戦争が起こることもないだろうと分かり始めた頃から周りの見る目が変わり始めた。
『あの親子は殺人しか取り柄がない』『いつか何かをやらかすに決まってる』ってね。それでトリユに、ってわけさ」
「え?でもおかしいじゃない。そんなに実力のある兵士なら、パルスタの軍だって放っておかなかったんじゃないの?是非来てください!ってのが普通だと思うんだけど」
「その辺のことはよく分からないんだけど、タカベが言うには『軍人っていうのはプライドの塊なんですよ』って。
どうも傭兵上がりが軍隊の将校に上り詰めたりするのは、軍のお偉いさんが認めなかったらしいんだ。
タカベの父親にしても自分より実力のない上官の下に就くのは耐えられなかったらしく、そうこうしているうちにどんどんと溝が生まれた……ってことだそうだよ」
軍人にもなれず、平民にもなれなかった最強の男。
功を立てたはずなのに、年を追うごとに嫌われ、疎外されて。
それは一体どういう気持ちだったのだろうか?
「そういう訳で、タカベの実力は折り紙付きってわけさ。確かに戦力に劣るトリユの軍勢だけど、タカベがいればあるいは……そんな風に僕は考えているんだ」
「……もしくは、その最強のタカベさんの首を差し出してパルスタに命乞いをしよう、とか?」
突然、おだやかでないことをのび太が言う。その言葉にロイがぎくり、とした顔を浮かべた。
-続-
ヒステリアっていう爆弾魔を思い出した
「……何のことだい?」
「さっき!僕はドアの外で聞いたんだ!ミヤイさんが『タカベの首を』って言ってるのを!
あれは、パルスタも恐れるタカベさんを向こうに差し出して戦争を止めさせようとか、そういうことを話してたんでしょ?!ねえ、ロイさん!」
「何を言ってるのか、よく分からないな……僕はタカベにそんなこと……しないよ」
ロイは悲しそうな顔で呟いた。自分の顔を鏡で見たようなその表情に、のび太は感情的になり過ぎていた自分の胸中を恥じる。
「ごめん、ちょっと言い過ぎた……」
「いや、いいんだ。さあ、じきに外も真っ暗になる。
そうなると足元も危ない。食事、本当にありがとう。気をつけて帰ってね」
ロイが椅子から腰を上げると、それにつられて4人も席を立つ。
ふと会議室に設えられた大枠の窓を見ると、外は薄っすら西の空が明るくなっているばかりでもうほとんど夜だった。
「じゃあ僕たちはこれで」
スネオが代表して挨拶すると、ロイは笑顔を浮かべながら軽く手を上げた。
のび太はテーブルかけをギュっと握り閉めながら会議室のドアをくぐる。
「どうしたの、のび太さん?」
そこで足が止まった。
瞼の裏に、タカベの煤けた背中がフラッシュバックする。
戦争の因果、と悲しい顔で語ったタカベ。死ぬことも恐れずにナシータから外に出ようとしたタカベ。
優しい顔でスネオの頭をくしゃくしゃと撫でたタカベ。
一緒にいた時間を越えて、いつの間にかタカベはのび太の心に深い足跡を残していた。
「ロイ!」
振り返ってのび太が叫ぶ。薄暗い会議室の中で、ロイは黙ってのび太を見つめた。
「君が守りたいのは、トリユっていう国なの?それとも、トリユの国に住む人たちなの?ロイ、答えてくれよ!」
「のび太くん……」
「ロイ、どうなんだ!?ロイ!」
「おい、お前ら!何を大声出してるんだ!」
会議場の入り口から咎めるような声が響いた。4人が一斉に振り返ると、そこにはミヤイが立っていた。
「国王への無礼は許さんぞ!」
「おいのび太、行くぞ!」
強い力でのび太を引っ張るジャイアン。それでものび太はロイから視線を外さない。
「ロイ、ロイ!人も何もないところで、自由もへったくれもないじゃない!なあロイ、そうだろ!ロイ!」
静寂に包まれた図書館に、のび太の声だけが木霊する。
その様子をギロリと睨み付けるミヤイの脇を抜けて、のび太はずるずると会議場から外に引っ張り出された。
「国王、この危難の時にあのような者たちと……慎んでいただきたいものですな」
「うん、分かってる。すまない。ところでミヤイ、何かあったのか?」
「はい。先ほど伝令が来まして……ケンジュにて、交戦が開始された模様です」
「そうか……」
ロイの脳裏に、先ほどののび太の叫び声が蘇る。人か、国か――か。
(それは択一的に選ばなければならないのだろうか?)
ロイは考える。
できることなら、人も国も一緒に守りたい、そう考えてしまうのは自分のエゴなのだろうか、そんなことを。
それでもどちらかを選ばなければならないのだとしたら……。
(父さん……)
「国王、どうしますか?」
「よし、まず公民館に傷病兵を受け入れる体制を整えよう。そこに手の空いた者を集めて、それから――」
こうして、ついにパルスタとトリユ、両軍勢による本格的な激突が開始されたのである。
・・・
「のび太、あれはまずいよ。いくらフランクだって言っても、仮にも一国の王様なんだからさあ」
「そうそう。せめて『さん』くらいは付けないと。お前、客商売と出世には向いてないぞ!」
ジャイアンが商売人の息子らしい言葉でのび太をたしなめる。
のび太も口を尖らせながら、そんなこと分かってるけどさ、などとブツブツ呟いた。
「でも私も気になってたわ。私たちが会議室に入る前にロイさんとミヤイさんが話していたことは、確かに不穏な感じがしたもの」
「そ、そうだよね!」
静が賛同してくれたことで、のび太は元気を取り戻した思いだった。
スネオとジャイアンも「まあそれはそうだけどさ」と言った表情を浮かべる。
「それでもさ、結局僕たちにできることなんて何もないんじゃないの?
友達のケンカじゃなくて、これは戦争なんだよ?第一トリユとパルスタの戦争なんて、僕たちには何の関係もないじゃない」
「それを言っちゃあおしまいだけどさあ……」
あれこれと言っているうちにタカベの家に着いた。ドアを開けると部屋は真っ暗だった。
「ちょっと誰か電気点けてよー」
「あるのか?そんなもん」
「えっ、ないの?!」
「ちょっと、足踏まないで!!」
「うわ、何か踏んだ!」
「あーもう、うるさいうるさい!」
暗闇に広がる喧騒がようやく収まったころ、タカベの家は暖かな明かりに包まれた。
「電気もないんだな……」
ジャイアンがぽつりと言った。テレビもない、と嘆いていた彼だったけれど、それどころか電気すらなかったのである。
思わずタカベの言葉を思い出した。
『戦争ばかりしてきた民族だから』
ナシータで聞いたあの爆発音。あれは確かに大きな兵器のそれだった。
そんな技術力はあるのに、反面、人民は電気すらも享受できない文化、社会。
「考えちゃうよなあ」
パルスタでは各国家独特の知識を抽出して、それを体系的に教育していると言っていた。
勉強、という言葉の字面に囚われてネガティブな印象しか抱いていなかった4人だけれど、
もしかしたらそういう教育の結果として色んな文化というのは生まれるものなのかもしれない。
もちろん、勉強を無理やり押し付けられるのはまっぴらだけど。
「おっし!カラオケでも歌おうぜ!」
ジャイアンがベッドから飛び起きた。
その言葉に3人は一瞬ギクリとした様子になる。ジャイアンの歌……
それは説教よりも宿題よりも、何よりも大きい災厄のようの思われた。
「えーと、カラオケキングはっと……」
「ジ、ジャイアン!こんな非常時に歌なんて!歌なんて非常識だよ!」
「馬鹿野郎!こんな時だからこそ、だろうが!元気がない時は歌を歌う!
歌を聴く!これが一番なんだよ!俺の歌を聴けば争いも一発で解決だぜガハハハハ!」
違う意味で解決しそうだけれど……と3人は思ったが、それは口には出さなかった。
「そうだ!いきなり歌ったら喉に悪いって!とりあえずこのアメ、喉によく利くアメだから舐めてみてよ」
「おうスネオ、気が利くじゃねえかガハハハハ」
ジャイアンは機嫌よさそうにアメを口に放り込む。スネオのやつ、調子いいよな……
と思いながらため息をつくのび太。ふとスネオの方を見ると、にやりと笑ってのび太に近づいてきた。
「あれ、声のキャンディーなんだよ。だからジャイアンの音痴も問題ないってわけさ」
さすがスネオ、である。
「ところで、誰の声紋をコピーしたの?」
「まあ聞けば分かるさ」
「それでは剛田武、心を込めて歌います。お聞きください、『少年期』」
-----
悲しいときには町のはずれで
電信柱の明かり見てた
七つの僕には不思議だった
涙浮かべて見上げたら虹のかけらがキラキラ光る
瞬きするたびに形を変えて
夕闇にひとり夢見るようで
しかられるまでたたずんでいた
ああ 僕はどうして大人になるんだろう
ああ 僕はいつごろ大人になるんだろう――
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「よっ!日本一!」
歌が終わるとスネオが大声ではやし立てた。ジャイアンもまんざらではない様子で手を上げる。
「これ、ピリカ星で聞いた曲かあ!」
「そ。懐かしいでしょ?あの後、この曲を日本でも発売したみたいだよ」
目を閉じると、ピリカ星での光景が瞼に浮かぶ。そう言えばあの星でもクーデターが起きたんだよな……
パピ君、元気かな……のび太は遥か遠く、ピリカ星の友人に思いを馳せた。
「えー、それでは次の曲です――」
勢いに乗ったジャイアンは、更に次のナンバーをカラオケに打ち込んだ。
・・・
「あのう、さすがにもうそろそろ苦情がくるんじゃないかなあ?」
カラオケを始めて一時間半。途中スネオが声のキャンディーを継ぎ足したりしながら、
延々とジャイアンのリサイタルが催されていた。いくら道具のおかげで音痴ではないとは言え、
一時間半も同じ人間の歌を聴かされてはたまったものじゃない。3人はうんざりとした表情を浮かべていた。
「ん?そうか?まあ夜も更けたしな。いくら俺の美声でも、さすがに睡眠の邪魔になっちまうかなガハハハハ」
気分よく笑うジャイアン。ようやくカラオケから解放されるのかと思うと、一同は揃って安堵のため息を付いた。
「それじゃ、〆の一曲を歌って……」
予想外の言葉に3人がぎくりとした、その時のことだった。
「こっちだ!こっちに運べ!」
「あまり動かすな!もっと慎重に!」
喧騒、怒号。家の外で大きな声が飛び交っている。
「何かあったんだ!」
言葉より先にのび太が家を飛び出すと、残りの3人も後に続いた。
通りには先ほどまで存在していなかった松明があちこちに立てられていた。そしてあちこちで散見される人、人、人。
空気はすこぶる緊張しており、みな気ぜわしく動き回っていた。4人はとりわけ人の声のする方角に向かう。
「何かあったんですか?!」
走りながら、のび太が途中にいた人を捕まえて尋ねた。
「戦闘だよ!ついにパルスタとの戦闘が始まったんだよ!」
のび太に掴まれた腕を振りほどくと、その女性は再び走り始める。遂に交戦が始まった――
その言葉がのび太の頭の中で空転する。しばらく動けないまま、その場に立ち尽くした。
「もっと!もっとお湯を沸かして!」
公民館は騒然としていた。中にいた大半の人は女性だった。
体育館ほどの広さの公民館には所狭しと布団が敷かれている。
その上には幾人かの負傷した兵士。
まだ全体の二割程度の布団しか埋まっていないけれども、このままいけばここが満杯になるのもそう先のことではないのかもしれない――
のび太はそんなことを思った。
「邪魔だよ!」
どん、と背中を突き飛ばされる。女性も皆険しい顔をしていた。
おそらく彼女たちも戦争に参加している意識があるのだろう。
たとえ直接的な参加はできなくとも、彼女たちもたしかに戦争に参加しているのだ。
その自負は彼女たちの表情を見ればよく分かった。
「あんたたち、ぼーっと突っ立てるくらいなら何か手伝いな!」
女性の一人がのび太たちに向かって叫ぶ。
ここには何もしない人間がいてはいけないのだ。公民館の中に目を遣る。血を流しながら呻く兵士が横たわっていた。
「ううっ……」
初めて見る光景。
胃の中からこみ上げてくるものがあった。
手近に洗面器がないか探すが、どこにもなかった。のび太は慌ててトイレに駆け込むと、胃の中の物を全て吐いた。
「う、うう……」
嗚咽を漏らしながら顔を洗う。どうしてこんなことに――
誰も戦争なんて望んでないはずだろ――
自問自答を繰り返すけれど、答えはどこにも見つからない。
(ドラえもん……助けてくれよ……)
心の中で呟く。今は遥か遠い、故郷の親友。少し前まで毎日顔を合わせていたはずなのに、その顔をばかに懐かしく感じる。
帰りたい、帰りたい、何もかも見なかったフリをして、今すぐにここから逃げ出したい――口の中で呟いて、のび太は顔を上げた。
『守りたいのは国なの?人なの?』
「ロイ?!」
見上げた先には一枚の鏡。土気色になったのび太の顔が映し出されていた。
その表情が国王ロイのそれと、そして――先ほど発したのび太の言葉とリンクする。
『……るよ!』
ねえタカベさん。
あの時、あなたが言おうとしたことは一体何だったんですか?
ねえタカベさん、教えて下さいよ。
ねえ、タカベさん。
ねえ、僕はもっとあなたと色んなことを話したいですよ。
タカベさん、タカベさん……。
『しずかちゃん!包帯とお医者さんカバンを持ってくるんだ!』
『はい!』
トイレの外から、スネオたちの声が聞こえた。
『強いな』、ジャイアンの背中で穏やかに呟いたタカベさんの声も、少し。
のび太は自分の顔を両手で叩くと、トイレを外に出た。
「ジャイアン!スネオ!」
外で慌しく動き回っていた二人の姿を見つけると声を掛ける。
タカベさん、僕は、僕らは強くなんてありません。
学校からも逃げようとしました。
朝は寝坊してばかりです。
立派な大人になれるのか、いつだって不安です。
でも、それでも――
「僕はタカベさんのところに行ってくる!二人がどうするかは任せる!」
僕は人を、あなたを、守りたいと思ったんです。
-続-
中学生のレス入らなくても続編きた!
730 :
本当にあった怖い名無し:2007/03/24(土) 11:21:43 ID:Ig3h78/fO
のび太と傭兵で検索しる
731 :
本当にあった怖い名無し:2007/03/27(火) 12:50:38 ID:Antoa0KY0
誰か凸しないの??
732 :
本当にあった怖い名無し:2007/03/27(火) 17:55:05 ID:7GLFNf6uO
しない。
733 :
シズカちゃん:2007/03/27(火) 18:51:38 ID:A2Eb55c/0
まだあたぁーーー
734 :
本当にあった怖い名無し:2007/03/30(金) 03:56:18 ID:xuWVosNL0
のび太は公民館から全力で駆け出した。
松明の薄暗い明かりでは足元が覚束ず、何度もコケそうになった。
けれどその度に足を踏ん張ってタカベの家まで駆け抜けた。
「のび太さん!」
入り口のところで静が驚いたような声を上げる。
のび太はハアハアと荒い息をつきながら、少しだけ深呼吸すると静に向かって笑顔を見せる。
「僕は今から、タカベさんのところに行ってくる。
スネオとジャイアンは、どうするか分からない。
しずかちゃんは公民館で傷ついた人の手当を手伝ってて欲しい」
「そんな!無茶よ!本当に死んじゃうかもしれないのよ!」
「分かってるよそんなの!
でも、僕にだって分からないけど、分からないけど、ここでじっとはしてられないんだ!
助けたいんだよ、タカベさんを!トリユの人たちを!」
735 :
本当にあった怖い名無し:2007/03/30(金) 03:57:32 ID:xuWVosNL0
のび太は大声で叫びながら、どうしてこんなに自分が必死なのかを考えた。ふと、今日の昼間のことを思い出す。
『タカベさんの守りたい自由と、そして僕が求めた自由と
そこの間には、きっと何の違いもない
それだったらタカベさんを守ることは
僕の自由を守ることなんだ』
ああ、そうなのか
タカベさんはきっと、僕だ
そんなことを言ったらタカベさんは嫌がるかもしれないけれど
ごめんなさいタカベさん
今はそう思わせて下さいね
タカベさんは僕で、僕はタカベさんで
そういう風に思ったら何だか勇気が湧いてくるんだ――
736 :
本当にあった怖い名無し:2007/03/30(金) 03:58:25 ID:xuWVosNL0
「のび太ぁー!」
背中から聞こえる聞きなれた声。
振り返らなくても誰かは分かる。
のび太は静に向かって無言で頷くと、タカベの家の中に入った。
部屋の奥に入ったのび太は手早く道具の山に手を突っ込んだ。
まず手にするのはショックガン、次にタケコプター。
念のためにグッスリガスも持っていくことにした。それと――
「のび太!空気砲も出せ!」
背後でジャイアンが叫んだ。
頷いたのび太は、空気砲と瞬間接着銃、それとタケコプターを2つ取り出す。
のび太はその他にもいるものはないか、と道具の山を漁った。
「ジャイアン!のび太!こっち向いて!」
振り返った瞬間にバチン、とこの星に来て何度も耳にした音が鳴った。
思わず自分の体を見る。
そこにはタカベが着ていたのとほとんど同じデザインの戦闘服があった。
737 :
本当にあった怖い名無し:2007/03/30(金) 03:59:19 ID:xuWVosNL0
「やっぱこういうのは、形からも入らないとね」
そう言ってスネオがはにかむように笑う。
タカベと同じ格好になると、一層力が湧いてくるような気持ちになった。
「おいスネオ、この頭に付いてるのはなんだ?」
「それは暗視ゴーグルだよ。夜でも周りが見えるようになるんだ。
て言っても見よう見まねで描いたから、上手く作動するかは分からないけどさ」
「スネオ!後の道具は適当に見繕っといて!」
残りの仕事をスネオに任せると、のび太はタケコプターを頭に付けて夜空に飛び立った。
行く先は、中央会議場。
暗視ゴーグルはスネオの心配とは裏腹に、きちんと作動してくれた。
眼下に会議場を見る。
うっすらとではあるが、明かりが漏れていた。
おそらくロイはあそこにいる……のび太は高度を落とし着地すると、
走って会議場の中に入った。
738 :
本当にあった怖い名無し:2007/03/30(金) 04:01:08 ID:xuWVosNL0
「ロイ!」
会議室ではロイとミヤイが地図を広げて話し込んでいた。
その方にのび太はつかつかと近づいて行く。
「何だ貴様は!今は会議中だぞ!」
ミヤイの怒声を無視して、のび太は地図を覗き込んだ。
「タカベさんは!」
「え?」
「トユリの軍隊は、今どこにいるんだ!」
のび太は一気にまくし立てた。
あまりの剣幕に怖気づいたのか、ロイは「ここに」と呟いて地図の一点を指差す。
ケンジュからウガクスの森に少し入ったところ、そこにトリユの軍本部が展開されているとのことだった。
「分かった!」
それだけ確認すると、のび太は会議室を後にする。
呆然としていたロイだったけれど、去り行くのび太の姿にようやく平静を取り戻したのか、
慌ててのび太の後ろ姿に声を掛けた。
739 :
本当にあった怖い名無し:2007/03/30(金) 04:01:50 ID:xuWVosNL0
「の、のび太くん!まさかそこまで行こうってんじゃないだろうね!」
「ああ、その通りさ!」
「無茶だ!子供の遊びじゃないんだぞ!」
唾を飛ばしてロイが叫ぶ。
ミヤイは口の端を持ち上げて侮蔑的に笑っていた。
「……無茶でもなんでも、僕には守りたい人がいるんだ!」
それだけ言ってのび太は会議室を後にした。
「馬鹿な子供だ」
「……」
「国王。とにかく先ほど申し上げた通りです。
パルスタの密使の言うことに従いましょう」
開戦から既に6時間。
それぞれの思惑が、静かにゆっくりと動いていく
740 :
本当にあった怖い名無し:2007/03/30(金) 04:03:16 ID:XGN70QJn0
・・・
「のび太、早く行くぞ!」
タカベの家の前に戻ると、スネオとジャイアンはすっかり準備を整え終えていた。
「本当にいいのかい?無理して君らまで僕に付き合わなくても」
「バーカ、それはこっちのセリフだっつーの」
「そうそう、のびちゃん一人で何ができるって言うの?
運動神経も全くないくせに!」
2人は軽い調子で言い合って、のび太を笑い飛ばした。
普段なら腹を立ててしまうようなその言葉は、今日だけは妙に嬉しい。
のび太は笑いながら「うるさいなあ!」と言うと、拳を上げる素振りを見せてまた笑った。
「行くか……」
ひとしきり笑い合った後にジャイアンが静かに呟く。
のび太とスネオも無言で頷いた。
741 :
本当にあった怖い名無し:2007/03/30(金) 04:04:00 ID:XGN70QJn0
「スネオ、この暗視ゴーグルちゃんと使えたよ!」
「よし、じゃあそれを着けて出発だ!」
トリユの夜空に、地球から来た小さな兵士が3人、勇ましく飛び立った。
「方角はどっちだ!」
「タカベさんの家があそこで、僕らが抜けてきた森の出口があそこだから……左だ!」
「本当に大丈夫かよ、のび太のナビで!」
自信があるとは言えなかったけれど、さっき見た地図は必死で頭に叩き込んだはずだ。
それに戦闘が繰り広げられているのならば、嫌でもそのマズルファイヤーは目に付くはずだった。
3人は無言で速度を上げる。
「スネオ、ジャイアン!あそこ!」
叫んだのび太が指し示した先、森の中。
おそらくトリユの野営であろうか、うすぼんやりと光っている部分があった。
暗視ゴーグルでその光が増幅され、とりわけ目立った。
「降りよう!」
742 :
本当にあった怖い名無し:2007/03/30(金) 04:04:49 ID:XGN70QJn0
「待て、のび太!このまま降りたら僕らが敵と間違われない保障もない。
これ、被れ!」
そう言ってスネオが2人に何かを手渡す。見ると、それは石ころ帽子だった。
「よくこんな物持って来てたなあ」
「かくれんぼの時にでも、一人でこっそり使おうと思ってたんだよね」
この時ばかりは、のび太はスネオのこすい考えに感謝した。
姿を消してトリユ軍本部に降り立つ。
ピリピリとした空気が辺りを包んでいた。テントの入り口には見張りと思しき兵士が2人立っていた。3人はその間を堂々と歩いてテントの中に入る。
中では、タカベが難しい顔をして地図を睨んでいた。
その顔を見ると、のび太の胸にじんわりと暖かいものが広がっていく。
「タカベさん……」
思わず声が出た。
タカベがその声に即座に反応すると、脇においてあった小銃を目にも止まらない速さで構える。
「誰だ!」
743 :
本当にあった怖い名無し:2007/03/30(金) 04:06:06 ID:cy+NGE080
「ぼ、僕です、のび太です……」
「のび太くん……?」
そこでのび太はようやく自分が石ころ帽子を被ったままだと気が付いた。
相変わらず小銃を構えたままのタカベを前にしてのび太、そしてスネオとジャイアンは帽子を脱ぐ。
「タカベさん、来ちゃいました……」
そう言ってえへへ、と笑うのび太。
突然現れた3人の姿に一瞬ぽかんとした表情になったタカベだったが、
すぐに怒ったような表情になって怒鳴った。
「何をやっているんだ!こんな所で!
いいか、これは遊びじゃないんだ!戦争なんだぞ!すぐにここから帰れ!」
744 :
本当にあった怖い名無し:2007/03/30(金) 04:06:52 ID:cy+NGE080
「そ、そんなことは分かってます!戦争だってことくらい、分かってます!
それでも僕はタカベさんを守りたくって!」
「俺を守る?ふん、俺も見くびられたものだ。
こんな子供に守られようなんてな」
タカベは自嘲気味に笑った。その様子にショックを覚えるのび太。
自分たちがやって来たら喜んで迎え入れてくれるに違いない、そんな思いがどこかにあったのだろう。
けれど実際に目の前に出てきたタカベは、昼間見せた表情とは全く違う、軍人の佇まいだった。
最強の傭兵の息子の顔だった。
「気持ちは嬉しい。けれどな、戦況は君たちがやって来たくらいでは変わらないんだ。
それに君たちはトリユとは何の関係もない」
「関係なくなんてない!」
タカベの言葉を遮ってのび太は言った。
745 :
本当にあった怖い名無し:2007/03/30(金) 04:07:40 ID:cy+NGE080
「トリユの人たちが目指した社会は、僕が地球で夢見た社会と全く同じものでした。
そして今、それが脅かされようとしている。
それだけじゃ理由になりませんか?理由にならないんだとしたら、
じゃあ、タカベさんが戦う理由って、一体何ですか?」
「俺が戦う理由……」
「隊長!一次防衛ラインが突破されました!」
テントの中に兵士が飛び込んでくる。
のび太たちのことを見て一瞬怪訝な顔をしたが、今はそれどころではないのだろう。
荒い息を付きながらタカベの指示を待った。
「残りの兵の数は?」
「正確には把握できませんが、3000は割っています!」
「パルスタの兵は?」
「およそ10000です!」
「分かった、これより前線は俺が指揮を執る!お前もすぐに戻れ!」
やって来た兵に指示を飛ばし、タカベはその場から立ち上がる。
もう一度地図を睨み付けると、足早にテントの出口に向かった。
746 :
本当にあった怖い名無し:2007/03/30(金) 04:08:41 ID:uR13hHay0
「タカベさん!」
「血、だよ」
「え?」
不意に発せられたタカベの言葉に、思わずのび太が頓狂な声を上げた。
「戦う理由、それは俺の中に流れる血だ。
騒ぐんだよ、戦え戦えってな。だから、それが俺の理由だ。
自由も、トリユもパルスタも関係ない。俺はただ戦うことが――
好きなんだよ」
それだけ言ってタカベはテントを後にした。
スネオとジャイアンと、そしてのび太は、冷たく言い放たれたタカベの言葉を
聞いてしばらくその場から動けなかった。
・・・
747 :
本当にあった怖い名無し:2007/03/30(金) 04:09:19 ID:uR13hHay0
「反撃が止んだな」
パルスタの先行部隊がケンジュに掘った塹壕に身を隠しながら呟いた。
「元々戦力ではこちらがずっと勝ってるんだ。
敵さんが黙り込むのも当たり前だろ。
ちょっと時間が掛かりすぎたぐらいだな」
「違いないな」
蛸壺の中で兵士が軽口を叩き合う。
隣の塹壕から二、三発ほどぱん、ぱんと乾いた発砲音が聞こえたが
それも少しのことで、すぐにまた静寂が闇を包んだ。
「こりゃ、本格的に降参したんじゃないのか?」
「既にウガクスから撤退したかもな」
748 :
本当にあった怖い名無し:2007/03/30(金) 04:09:57 ID:uR13hHay0
言いながら兵士たちがククク、と声を絞って笑った。その刹那。
ドオオオオ……ン!
「なんだ?!」
「ウガクスからだぞ!」
兵士が素早く蛸壺から顔を出した。
再び轟音が鼓膜に突き刺さる。視界の端に鈍い光を捉えた。
次いで、また轟音。
「おい、ウガクスにすげえ爆撃が起こってんぞ!」
「ウガクスに砲撃!?どこの部隊だ?!」
「知るか!けどこれで決定的だろ。
直に突撃命令が来るはずだ!」
「そんなの待つ必要ねえよ!
おい、手柄は取ったモン勝ちだ!行くぞ!」
「おい!上官の指示を待てって!」
749 :
本当にあった怖い名無し:2007/03/30(金) 04:11:16 ID:KCELqjqW0
しかし昂ぶり切った兵士は制止を聞くこともなく、うおお、
と雄たけびをを上げると蛸壺から飛び出した。
見るとケンジュの平原には、暗闇に紛れて数多くのパルスタ兵がウガクスに向かって疾走している。彼はそれを見て苦々しい気持ちになりながらも、
功を立てたい気持ちは同じであるらしく蛸壺から飛び出すと前を走る兵士の後に続いた。
「全軍!進軍を止めろ!」
ケンジュの草原に立ち、指揮官が叫ぶ。
先ほどから胸騒ぎが止まない。
おかしい、そもそもあのような爆撃の指示すら出していないのだ。
しかし実際にウガクスの森に三発の爆発が発生した。
そして突然起こったトリユ軍の静寂。できすぎている、あまりにも。
「止まれ!止まらんか!」
野生の動物は火を恐れる、と言うが人間はどうなのだろうか。
この夜、ケンジュ草原に潜伏していたパルスタの兵士はただでさえ大量に分泌されていたアドレナリンが、先のウガクスの大爆発を見ることによって一気に臨界点に達した。爆発、そして発光。その光景は兵をすくませるのではなく、
殺人の本能を一気に鼓舞したのだ。
指揮官の声はもはや遥か遠く、どの兵士の耳にも届かなかった。
「一番乗りだ!」
750 :
本当にあった怖い名無し:2007/03/30(金) 04:12:15 ID:KCELqjqW0
喚声を上げながらパルスタ兵がウガクスの森に足を踏み入れた。
せめてもの頼りである月の光も高く生い茂った木々の葉が遮り、
森の中は漆黒そのものに包まれている。
その後に2人、3人10人とパルスタの兵が続いた。
先ほど起こった突然の爆撃、その閃光。
そしてケンジュよりも更に深い闇を孕んだウガクスの森。
様々な要素が相まって、パルスタの兵士は完全に夜目が利かなくなっていた。
だから彼らには見えようはずもない、暗闇の中に潜んだトリユの兵・数百の姿が。
―続く―
751 :
本当にあった怖い名無し:
誰か凸しないの??