540 :
本当にあった怖い名無し:
実は俺、子供の頃にクジラを見た事がある。
いや、あるかも知れない、と言うべきか。
俺が4歳の時、家族旅行で小笠原に行ったんだ。両親、兄、俺の4人で。
その帰りの船での話。船のすぐ傍をイルカが泳いでいて、俺と兄は大喜びで見ていた。
ふと顔を上げると、水平線の辺りに、何やら大きな物体が。
最初は島か何かかな、と思ったんだが、よく見るとそれは動いてる、というか
俺らの船と同じ方向に進んでいるんだ。
潜水艦か何かかとも思ったが、動き的に何か生き物の様だった。
でも、距離とかを大きさとか考えて、そんな大きな生き物が海に居るとも思えない。
兄もそれに気付いて、「あれ何だろ?」って呟きながら、我を忘れて凝視してて。
その時俺が「怪獣だ!」って言ったら、兄はハッと我に帰り、
「大変だ、怪獣が居るよ!」と大騒ぎしながら、慌てて親を呼びに行った。
俺はその巨大な物体から目を離す事ができず、食い入るように見ていたんだが、
やがてそいつは波間に消えて行った。
その直後、母親が兄に手を引かれながら、困った様な笑顔を浮かべながら甲板に現れた。
「ほら、あそこだよ、見てよ、ねぇ、ほら、怪獣が居るんだよ!」と興奮気味に話す兄。
でもその時はもう何も見えない。
「兄ちゃん、怪獣どっか行っちゃったよ!」「何でだよ、どこに行ったんだよ?」
そんな会話を聞きながら、母は「はいはい、それは大変だわねぇ」と笑っていた。
俺らが幾ら必死で説明しても聞いてはくれなかった。
後で船長さんにその事を話したんだが、船長さんは
「ははは、坊やたち、それはきっと ”クジラ” かも知れないね」と
優しく教えてくれた。
俺達はそこで初めて ”クジラ” という架空の生き物の話を知った。
あれから25年が経ったが、俺も兄もその出来事をハッキリ憶えていて、
「あれは絶対クジラだ」と未だに2人で言い続けてる。