死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?143

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428本当にあった怖い名無し
誰でも。―1

これは師匠が失踪してしまった
後に気付かされた事だ。

師匠が行方知れずになった後も
京介さん達とは付き合いがある。
あいかわらずスポット巡りを
したり集まって話しをしたり。
師匠がいなくなっても
ここは変わらないままだ。
京介さんは師匠が失踪した事に
ついては全くといっていい程
尋ねてくる事はない。
京介さんは師匠とは犬猿の仲
だった事がその理由なのだろう。
失踪した事は俺も言わないが
師匠から聞いた事を京介さんに
話す事はよくあった。
京介さんの反応が面白かったと
いうのが最大の理由。

その日も呑んだ後いつものように
京介さんに車で家に送ってもらった。
俺は酒に弱い。
429本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 22:18:23 ID:kRYEjcJb0
誰でも。―2

道中、繁華街を通った時
何気なく
「ほんと、繁華街って人が多いですね〜。」
と京介さんに言った。
明らかに酔っている。気分がよくなって
くだらない事を言うようになっている俺。
今思えば言わなければ良かったな、なんても思う。
それに対し京介さんは
「…そうだな。」
と一言。そっけない。
毎回酔った俺の相手なんかするようなタイプの
人間じゃあない。
「なんでこんなに多いんですかね〜。」
酔った勢いでさらにどうでもいい事を言ってしまう俺。
しかし、この言葉に京介さんはめずらしく反応した。
「…おまえはほんとに平和なやつだな。」
と、意味不明な事を言われた。
「あいつと長い事一緒なのにな。」
俺にはまだ京介さんの意図がわからないが
あいつ、とは師匠の事だろう。
そして、京介さんは少し考えていた様子だったが
「お前は人ごみというものをどう考えているんだ。」
と逆に聞かれた。
430本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 22:18:52 ID:kRYEjcJb0
誰でも。―3

俺は思わずハァ?と聞き返してしまった。
いやだって人ごみは人ごみじゃないか。
それ以外に何があるって言うんだこの人は。
しかし、答えない事には会話が続かないので
「人の集まり、じゃないんですか。」
と、そのまんま返した。
すると京介さんは
「だから、その人の集まりってものをどう
捉えているんだ。」
とこうくる。
俺はますます意味がわからない。
まして酔っているし頭が回らない。
人の集まりってのもそのままの意味じゃないか?
違うのか?
わけがわからないまま自問自答していると
京介さんが話しだした。
「あいつは本当に性悪だな。そこをお前に話していない
なんて、あいつらしい。」
そこ?
どこの事だ?
ますます意味がわからん。
431本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 22:20:14 ID:kRYEjcJb0
誰でも。―4

意味がわからん俺を無視して京介さんは続ける。
「うちらもそうだが、いつも心霊スポットとかに行ってるだろう。」
そうだ。そんな所ばかり行っている。
「大抵、おかしな体験するよな。」
そりゃそうだ。
面子が面子だし、何より師匠と京介さんが強烈すぎる。
「あれは、あそこだからそう思うんだ。」
あそこ?
「そう。心霊スポットだから、だ。」
???
心霊スポットに行って不思議な体験をするのは心霊スポット
だから当たり前だって事か?
でもな。
そう思うってなんだよ。
だめだ、酒で頭が回らない。
回らないのでまたそっくりそのまま京介さんに言った。
「それは、心霊スポットだからそれが普通、って事ですか?」
すると京介さんがぷっと笑った。
珍しい。
笑みを浮かべながら
「呑まれているな、本当に。」
と言う。
それはそうなのだが俺が何かおかしな事でも言ったのか?
さっぱりわからん。
もって回った言い方をするのは師匠も京介さんも本当に
似ている、俺がいつも困惑する所だ。
432本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 22:20:46 ID:kRYEjcJb0
誰でも。―5

俺は酒の勢いもあり、まったく意味がわからないので
ちょっとキレ気味に京介さんに言った。
「じゃあなんなんすか!」
普段なら恐ろしくてこんな口調で言えない所。
呑まれている。
それを聞いてますます京介さんはニコニコしながら
「違う。逆だ。」
と言う。
逆?
心霊スポットに行くと普通は不思議な体験をしないものなのか?
いやそんなバカな。
いつも何かしら体験してるじゃないか。



……

………

「…わ か ら ん!」
433本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 22:21:27 ID:kRYEjcJb0
誰でも。―6

ついに俺はブチ切れてしまった。
京介さんは大爆笑している。
しばらく笑って京介さんは
「すまんすまん、これじゃああいつと変わらないな。」
と言い
「お前、心霊写真とかたくさん見ているだろう。」
と続けた。
見ている。
師匠に散々見せられた。
嫌な思い出もある。
それと人の集まりと何の関係があるのだろう。
なおも京介さんは続ける。
「怖い写真も沢山あっただろうな。」
こくこく俺は頷く。
「それは、初めから心霊写真だと思っているからだ、
と思った事はないか?」



ん?
初めから?

そう言えば。
434本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 22:22:36 ID:kRYEjcJb0
誰でも。―7

そうだ。
師匠が見てる写真やネットで見る写真は初めから
心霊写真、とほぼ自分の中で思っている。
そう言われれば…そうだ。
怖い、と自分の中で思ったものや
おかしいなと思ったものは大抵オカルティックな
ものになっている。
心霊スポットだってそうだ。
鉄塔にも行ってみたがあの時は自分がおかしい
部分を感じなかった事にむしろ疑問を感じた
くらいだ。
俺はそれと人ごみについて考えてみた。



そして少しわかったような気がする。
この人、とんでもない事を俺に言おうと
してるんじゃないか、って事に。
そう思って俺は京介さんの方を見ると京介さんは
「そうだ。」
俺はこの二人には本当におもちゃ扱いされる。
「お前が疑問さえ持たなければそれはおかしな事にはならない。」
435本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 22:23:27 ID:kRYEjcJb0
誰でも。―完

俺は京介さんにそう言われて
ちょっと目眩を覚えた。
「何かおかしいと思う事があるからそんな事を人は言うんだ
それがオカルティックな事かどうかは関係ない。」
俺はそれで悟った。
そして言った。
「それが全部人間だとは言えないって事ですね。」
それを聞いて京介さんは
「あいつは本当に性悪だったな。」
とだけ言ってその後は喋る事は無かった。
いつもの京介さんに戻っていた。
俺も何も言わなかった。
二人とも何も言わない車内で
俺は師匠のこんな言葉を思い出していた。

そこにただ在るだけだ―