【エロ】山形先生Part3【オカルト】

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1本当にあった怖い名無し
前スレが、

>ERROR!
>ERROR:このスレッドは512kを超えているので書けません!

状態なので新スレです。


エロオカルトでありながらも、数多くのファンを魅了し続けている
『山形先生』シリーズ。

ここはそんな『山形先生』の降臨を待つスレです。


■前スレ同様、作者氏宛てのネタの投下・作品の感想など、このスレをご利用ください。

■作者氏との交流・雑談スレも用意しました。気軽にどうぞ☆


前々スレ
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1151240630/

前スレ
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1154276597/

避難・雑談所(ほのぼの板)
http://human5.2ch.net/test/read.cgi/honobono/1154250415/
2本当にあった怖い名無し:2006/08/27(日) 23:58:40 ID:F6WBm2AO0
まとめサイト
http://yamagatasensei.12.dtiblog.com/

携帯はこちらからどうぞ
http://yamagatasensei.12.dtiblog.com/?m
3本当にあった怖い名無し:2006/08/28(月) 00:07:01 ID:8ccmLnvX0
さて、ここらで怖い話でもするか。

十月が直前に迫っていた。
オカルト同好会は揉めに揉めていた。


つづく
4本当にあった怖い名無し:2006/08/28(月) 00:07:07 ID:YHxyR8OBO
乙です!
新スレおめでとうございます^^
5作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/28(月) 00:07:32 ID:8ccmLnvX0
軽子沢中学では、迫る高校受験に備えて、各部や各同好会に
所属する三年生は原則十月で引退、ということになっていた。

同好会の必要最低人数は七名。うち三名が三年生のオカルト
同好会的には壊滅の危機だった。

ぎりぎりの七名での活動。うち二人は幽霊部員で、更に三人が
三年生。十月に入ってその三人がやめれば実際活動するメンバーは
二年の霧原トオルと一年の雪野カエデのたった二人。

当然『解散』という運び。せめて残りが五、六人いれば、『十月で三年生
が一気に減ってしまったので新入生が入る四月まで解散は差し止めて
欲しい』という要望は通るだろうが、さすがに二人、幽霊部員を何とか
足しても四人では『即解散』の可能性が高い。

と、始めはそんな話だったのだが、

「霧原、イケメンだから少しナンパすれば女はついて来るだろう」

というサエの無責任な一言で事態は急転する。

「引退するんなら最期になんかドーンと大きいことやりたいよね」

「悪魔、UFOと来たけど幽霊を見てない」

「心霊スポットツアー!」

「行きたい!」


つづく
6作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/28(月) 00:08:07 ID:8ccmLnvX0
こうなるともう女子ペースである。トオルは何か口を出すタイプ
でもないし、ユウジロウも生徒の自主性を重んじる教師だ。

「そこで…ばばーん!」

「おぉー!」

アヤが何やら小さいぬいぐるみのキーホルダーが無闇についた
バッグから取り出したのは『関東近県怨霊マップ』という本だった。

「近場であるかな?」

「チェック済み〜」

「読んで読んで!!」

話によれば、ここからクルマで二時間ほど走った所にある、杜野峠と
いう峠が有名な心霊スポットらしい。そこは付近の走り屋や暴走族の
メッカだったのだが、今から六年前のある日、大きな事故があり、大勢
の暴走族が死んだのだという。その亡霊が毎週土曜の夜になると現れ、
峠をバイクで暴走するらしいのだ。

「すげー大量にでるのかな?」

「一人二人じゃないでしょ?」

「だって暴走族の幽霊だよ?」


つづく
7作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/28(月) 00:08:39 ID:8ccmLnvX0
盛り上がる女子にユウジロウが口を挟んだ。

「おい暴走族ってそんなにビュンビュン飛ばさないぞ。あいつら
ゆっくりうるさく走るのが仕事だ。大体峠で事故があって大勢の
人間が同時に死ぬっておかしくないか?暴走族ならバイクがメイン。
事故で死ぬなら二、三人ってところだろ?」

少し見当違いな反論のような気がするが要するにユウジロウとしては
行かせたくないのだ。何かあれば監督責任は顧問の自分の肩に
かかってくる。面倒事は御免だった。

幽霊となれば夜、しかもそんな暴走族のメッカとされる峠などへ、
中学生を行かせるわけにはいかない。

「ちょっとまってちょっとまって」

まだ未練が残っているのか今度はリョウコが携帯サイトで何やら調べ
始めた。

「あった!あったよ!杜野峠で検索したらヒット!!」

「すごい!CIAみたい!」

「NASAだよNASA!」

もうFBIでもCIAでも何でもいい。ユウジロウは呆れた。

「で、何だって?」

「ちょっと待ってね…おぉお…なるほどぉ…」

つづく
8作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/28(月) 00:09:09 ID:8ccmLnvX0
話は七年前にさかのぼる。

女がリーダーを務める暴走族があった。かと言ってレディースではない。
男女混合の立派なチームで、当時この辺りでは最大最強と謳われ、
恐れられていた。活動範囲も広く、関東を統一する勢いとまで言われる。

その名も『愚麗死威(グレイシー)』思わず吹き出す名前だが、そのリーダー
の女、『紅暴走天女(クレナイボウソウテンニョ)』が適当につけた名前らしい。

つまりその女、たった一人、一代にしてそのグループを作り上げたのだ。

当初の本拠地は杜野峠を越え、山の向こうに出て、更にクルマで三時間程
走った田舎町。毎週土曜を集会の日として一晩かけてその田舎町と杜野
峠を往復していた。

やがて杜野峠に集まる他のグループとの抗争が始まり、結果、
『愚麗死威(グレイシー)』は他のグループを圧倒。次々に吸収し、一年で
巨大な組織に成長した。その勢力は今、軽子沢中学がある辺りまで及んで
いたというから凄まじい。

そして、ちょうど今の季節である。『愚麗死威(グレイシー)』初代総長、
『紅暴走天女(クレナイボウソウテンニョ)』の誕生日だった。原点回帰という
ことで、彼女たちは再び杜野峠に戻ってくる。あちらこちらに遠征しては
地元の暴走族を潰し、吸収していたから、杜野に戻るのは久しぶりだった。

しかし生憎その日は雨だった。


つづく
9作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/28(月) 00:09:41 ID:8ccmLnvX0
『愚麗死威』元々の地元である田舎町に終結した暴走族の
大軍団は悲嘆に暮れた。

せっかく総長の誕生日を祝おうと言うのに…。

と、深夜には雨が上がったのである。幸運。『愚麗死威』は
『紅暴走天女』を先頭に走り出した。その長い行列は、たどりついた
杜野峠全体を覆いつくさんばかりだったと言う。

しかし悲劇は起こった。

大規模な土砂崩れである。雨で地盤が緩んでいたのだ。固まって
走っていた為甚大な被害が出た。特に先頭付近を走っていた幹部
たちの多くが生き埋めとなり、死んだ。更に流れ落ち、積み上がった
土砂に後続のバイクが次々に突っ込み、更にそれを避けようとした
者は崖をバイクごと転げ落ち大惨事となった。

一方で、リーダーは生き残った。

直後、『愚麗死威』は解散した。幹部なしでは巨大に膨れ上がった
組織を統率し切れなかったという話もある。

これが六年前の事件のあらましである。そして生き埋めとなり死んだ、
『愚麗死威』のメンバーの霊が、今も土曜日になると杜野峠を走るのだ。


「すっげぇ話…」

「信じらんないね」


つづく
10作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/28(月) 00:10:11 ID:8ccmLnvX0
「でも出るってさ。しかもそのリーダーの誕生日って…」

「あ!来週の土曜日じゃん」

「土曜日の上に『紅暴走天女』の誕生日だよ…」

「先生!行こう!」

ついに決まってしまった…。サエがそう言い出したらもう決定
なのだ。何を言っても無駄だ。

「…しかし土曜日なのはいいとしてどうやっていくんだ?杜野峠は
電車じゃ無理だぞ」

「先生のクルマ!」

「四人乗りだよ」

「えー最悪。クルマ買いなよ。でっかいの」

「妹と二人暮らしでデカいクルマなんぞいらん!」

「あ、じゃウチの使っていいよ?」

今まで大人しかったトオルが言った。余計なこというなこの馬鹿!

「七人乗りだし」

「お前の家族って三人じゃなかったっけ?」


つづく
11作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/28(月) 00:10:49 ID:8ccmLnvX0
「でもクルマは七人乗りだよ」

もうユウジロウは好きなように巻き込まれるしかなかった。


「お前も行く?」

「行かない。怖いし。『愚麗死威』でしょ?知ってるよ。聞いたこと
あるもん。学生の時」

「へー…」

「極悪非道、喧嘩上等、少年院がナンボのもんじゃの超武闘派。
あたしの学校じゃ土曜の夜は原付乗ってブラつくのもみんな
怖がってたよ。そんなののお化けってすごいタチ悪そう。お兄ちゃん
も気をつけてね」

散々ビビらせてアカネはユウジロウを見送った。表に出るなり
ユウジロウはラッキーストライクを大きく吸った。気分は憂鬱である。


赤いポンコツの軽自動車で霧原家に着くと、既にみんな集合している
様子だった。各自の自転車が広い庭に並んでいる。玄関のチャイム
を押すと、ダンディズム溢れるトオルの父が出迎えてくれた。

「やぁ山形先生。はじめまして。トオルがいつもお世話になっています」

「いえいえこちらこそ霧原君には…」


つづく
12作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/28(月) 00:11:24 ID:8ccmLnvX0
まさか父親がいるとは思わなかった。身なりのいい紳士で、
パイプを咥えている。

西洋趣味の余りに分かりやすいタイプの金持ちだ。

それにしても教師が生徒の父親のクルマを借りて、心霊スポット
に連れて行く…問題にならないだろうか。ユウジロウはかなり心配
だったが、霧原の父は笑顔で認めてくれた。ちなみに、『心霊スポットに
行く』ということだけは伝えていない。あくまで『夜景を見に行く』という
ことになっている。

「ポンコツですし、保険にも入っているので気にせず運転して下さい。
実際、余り国内にいないものですから、たまには走らせないとといつも
気になっていたんです。助けると思って乗ってやって下さい」

そういって霧原の父は愛車、日産エルグランドのキーを渡した。そう
言われると助かる。しかし随分とデカい。まるで小型のバスだ。こんな
クルマ運転できるのだろうか。ユウジロウは少し不安だった。

「まぁ次の車検には買い換える予定ですから遠慮なくぶつけて下さい。
ははは」

車検のシールを見ると次の車検は今年の冬ということになっている。
なんだあと何ヶ月かで買い換えるのか。じゃ、ま、いいか。

生徒たちを乗せると丁重に礼と別れを述べてエンジンをかけた。

カーナビゲーション付きの快適な車内。まだ新車の匂いがする。これを
もう買い換えてしまうのか。


つづく
13作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/28(月) 00:11:55 ID:8ccmLnvX0
静かに白のエルグランドは走り出した。全く新車といった
感じの乗り心地だ。試乗車のように、全くクセがない。

「…多分買ってから五回も乗ってないよ」

オドメーター(距離計)を見ると、まだ一万キロも走っていない。
十三万キロ走っている自分の赤い軽自動車とは大違いだ。

「これもう売っちまうのか?」

「売るっていうか、あげちゃうんだよ。適当な人に」

「金持ちだなぁ…」

「金だけ、ね」

助手席でトオルはカーナビゲーションシステムの操作をしている。
件の杜野峠を出そうとしてくれているらしい。後部座席の女子は
広い車内にはしゃいでいる。

二十二時。ナビゲーションシステムの適切な指示で杜野峠到着。

そこはトオルの姉、リエが死んだ天高山(第四十一話 『亡姉渇仰』 参照)
に程近かった。

「おい、もうこの辺りだぞ」

「…出るのかな…?」


つづく
14本当にあった怖い名無し:2006/08/28(月) 00:26:40 ID:8ccmLnvX0
土曜日ということで、他の走り屋や暴走族の存在が懸念
されたが不思議といない。静かな峠だ。アスファルトの地面には
時折スリップ痕のようなものが見受けられる。

「随分静かだな…」

「あの後調べたんですけど、やっぱり幽霊暴走族が出て、事故が
多発したんで他の暴走族とかは近寄らないらしいですよ。特に
土曜日は」

カエデが言う。確かに走るにはちょうどいい峠のように感じる。

それが土曜日になると誰も来ない。休日前だというのに。窓を開けるが
外は無音の世界だ。少し気味が悪くなって、ユウジロウは一度身震い
した。

何か不気味な気配を察しているのか賑やかだった女連中も静かに身を
寄せ合っている。

幽霊暴走族とはいうがどのように出るのだろう。音を伴うのだろうか。
音もさせずにただ行列をなすのだろうか。

音もさせず静かに背後にいるかもしれない。ユウジロウはバックミラー
を見た。闇が広がっている。

何か、すっと空気が変わった気がする。不気味だ。『落石注意』の標識が
あって、右手に切れ上がった山の側面はコンクリートで固められている。

土砂崩れ防止…。当時の事件からの処置だろうか。


つづく
15本当にあった怖い名無し:2006/08/28(月) 00:35:48 ID:8ccmLnvX0
バックミラーに何かが映った。ライトだ。一つ。二つ。三つ…。

大量のライトが道路を右往左往しながらついてくる。

まともじゃない。暴走族だ。窓は開いている。音は聞こえない。

「おいでなすった!」

ユウジロウには見えるが他の連中はどうか。と、後ろの女子も
異常に気付いたようだ。見えている。音がない以上、普通じゃ
ない。この世にあらざるもの。ついに『愚麗死威』が現れたのだ。

「どうする?逃げるか?」

「もうちょっと近づく!写真撮りたい!」

「…いい度胸だ…」

エルグランドが減速する。『愚麗死威』はゆっくりと近づいてくる。
振り返るがすごい数だ。凄まじい数のヘッドライトが追ってくる。

不気味だった。音もなく。灯りだけで。しかもその灯り、明るいが
決して眩しくない。不思議な幻灯だった。

普通のバイクのヘッドライトなら直視すればたちまち目が眩む。
確かに明るい。充分に明るいが、目は何故か眩まないのだ。

一台目が横につける。バイクの後尾に『愚麗死威』と染め上げた
ノボリを掲げている。ライダーはといえば、首が不自然に曲がっ
ている。

つづく
16本当にあった怖い名無し:2006/08/28(月) 00:42:08 ID:8ccmLnvX0
完全に首が折れている。それでも必死でこちらを威嚇している。
次々バイクが追いついてくる。

どれもが敵意に満ちた態度だ。通常の暴走族と変わらない。

ただ音もなく、乗っている人間たちはいずれも腕がもげていたり、
ヘルメットごと頭が潰れていたり、血に染まっていたりする。

完全に囲まれた。

「先生!この先カーブだよ!」

「!?」

カーナビゲーションをたまたま見たトオルが言って助かる。確かに
道は蛇行していた。

「この先カーブだらけだ!」

ユウジロウも画面を見たがたしかにこの先は九十九折になっている。
しかし『愚麗死威』の連中はそんな道を無視して縦横無尽に走っている。

じっと観察していたサエが気付いた。

「こいつら…浮いてる…」

ガードレールもなく、道を踏み外せば崖。その崖の上の何もない空間を
バイクは走っている。


つづく
17本当にあった怖い名無し:2006/08/28(月) 00:49:29 ID:8ccmLnvX0
惑わされればこちらが落ちる。バイクは数台でエルグランド
の前を左右に車体を揺らし視界を奪う。

呪いや祟りではない。単に危険だ。

リョウコは写真を撮っている。アヤは頭を伏せて怯えていた。

次々バイクは追い越していくが後ろから次々に現れる。

一体何台いるのか。ユウジロウは道路の曲がりを把握するので
精一杯だ。しかしバイクを運転する暴走族たちはいずれも無残に
死んだ時の姿のまま。

不自然に潰れ、折れ、砕かれ。その不気味な姿にリョウコも写真
を撮ってはいるが目を伏せて闇雲にシャッターを押しているだけ
だった。男のトオルでさえその不気味さに圧倒されている。

これ以上走り続けるのは危険だ。止まろう。しかし止まったら
どうなるのだろう。判断ができない。

「と…止まるか?」

「止まっちゃだめ!!」

一番年下のカエデが泣き叫んだ。

「先生…これはヤバいよ…」


つづく
18本当にあった怖い名無し:2006/08/28(月) 00:57:23 ID:8ccmLnvX0
走り続ければ事故の可能性が高く、止まれば何が起こるか
わからない。二人乗りをしていたバイクの後部座席に乗って
いた女らしい化け物が、エルグランドに飛びついた。

目玉を失っているのかぽっかりと開いた眼窩で車内を見回
している。

力なく開いた口の中には土砂が詰まっていた。そして血まみれ
の手で窓を叩き、やがて力尽きるとズルズルと落ちていった。
窓には五本の指の血の筋だけが残る。

状況は悪化している。『愚麗死威』の連中が何となく本気で怒り
はじめている。ユウジロウは感じた。

と、今度は正面からヘッドライトが近づいてきた。眩しい。これは
現実の物だ。ライトは一つ。バイクらしい。向こうから見れば、
こちらがどのように見えるのだろう。

とにかく正面衝突だけは避けなければ。

…と、『愚麗死威』の動きが止まった。前を走ってエルグランドの
進路を邪魔していたバイクも止まったからこちらも止まらざるを
得ない。

『愚麗死威』のバイクのライトが次々に消えていく。闇の中に薄
ぼんやりとその姿だけは見える。

そして、正面のバイクのライトだけが残った。


つづく
19本当にあった怖い名無し:2006/08/28(月) 01:06:12 ID:8ccmLnvX0
光がゆっくり近づいてくる。バイクの音だ。間違いない。
現実の物だ。

やたらとエンジンをふかしながら正面のバイクが近づいてくる。
音は暴走族のそれだ。

その一人の暴走族は散々バイクをふかすと、

「てめぇら!集会は終わりだ!解散だよ!解散!」

と一喝した。意外にも女の声だった。気付けば、『愚麗死威』の
バイクは全て消えて、正面に煌々と明るいヘッドライトが一つ
あるばかりだった。

ライトが近づく。目の前で止まった。誰かがバイクから降りたが
逆光で見えない。女は長い髪をなびかせてこちらへ歩いてきた。

それは余りに意外な人物だった。

「ふ…福岡先生!!」

そこに立っていたのは、いわゆる特攻服。暴走族スタイルの福岡
ユウコだった。その特攻服は所々血に染まっている。

隅にクルマを寄せて、ユウジロウとオカルト同好会の面々、福岡先生
が対面した。

「怖くなかった?大丈夫?」


つづく
20本当にあった怖い名無し:2006/08/28(月) 01:20:41 ID:8ccmLnvX0
まだ涙の枯れきらない同好会の女子たちを気にする
優しい笑顔は普段の彼女のそれだった。

「…一体何がどういう…」

「『愚麗死威』初代総長、『紅暴走天女』…よろしくぅ!」

凄みを効かせて『自己紹介』すると一転して笑顔で舌を出した。

「工エエエエェ(゜Д゜;) ェエエエエ工!!」

資産家ではあったが田舎での窮屈な暮らしに飽き飽きしていた
若き日の福岡ユウコはバイクに目覚め、特に暴走するつもりもなく
友達数人で遊んでいるうちに自然発生的に『愚麗死威』が結成
され、その統率力が買われてリーダーの座についたらしい。

後は先に書いた通りである。

「山形先生が今日杜野峠に行くっていうから気になって…。あたしも
あの土砂崩れ以来、来てもいないし…一応ケジメつけとこうかなって」

照れくさそうに笑う。それにしてもあの福岡先生が関東一円に名を
轟かせた女リーダーだったとは…。人間分からないものである。

一応峠を走ることでみんなを追悼したいと、福岡先生は愛車、
ホンダ、ドリームCB400FOURを駆って峠に消えた。


つづく
21本当にあった怖い名無し:2006/08/28(月) 01:21:31 ID:8ccmLnvX0
帰りの車中、普通ならすごいネタを仕入れた!と息巻くだろう女子
たちだったが、帰り際

「他の生徒に喋ったらてめぇら全員ぶっ殺すからな」

と福岡ユウコに凄まれ、それどころではなかった。

トオルは少しおしっこをチビったが少しだったのでバレずに済んだ。


  終
22本当にあった怖い名無し:2006/08/28(月) 01:21:44 ID:YHxyR8OBO
Σ(゚Д゚;)!!
23本当にあった怖い名無し:2006/08/28(月) 01:25:29 ID:YHxyR8OBO
福岡先生がwwwww
なんとまぁ意外な展開w
24作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/28(月) 01:26:11 ID:8ccmLnvX0
あぁぁぁぁ大失敗…。。。

途中、杜野峠に行く話が決まった後、職員室でユウジロウが福岡先生に
愚痴半分にその話をする部分を書き忘れた…。それを聞いて、気になった
福岡先生が助けに来てくれるっていう伏線張りたかったのに…。

ってかそこがメインの仕掛けになるはずだったのにな…

途中で気付いて一気にテンション下がったので幽霊『愚麗死威』の描写
に気合が足りません。すまんかった!


ちきしょー!T_T
25本当にあった怖い名無し:2006/08/28(月) 01:32:26 ID:YHxyR8OBO
いやいや充分面白(怖)かったですよ!
女性が車に飛び付いて来るシーンなんか想像してガクブルでしたよ。
口に砂利っていうのがまた…((((((;゚Д゚))))))
それにしても福岡先生、意外だったけれどカッコヨスw
乗ってるバイクがまた渋いw
26作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/28(月) 01:43:01 ID:8ccmLnvX0
>>25
そう?ならいいんだけど…エルグランド借りた辺りで
気付いて今読み返すと線を引いたようにテンションが
下がってるのが文に出ちゃってる…

これまとめサイトに入る…よね…あー悔しい!マジで
悔しい。あと3倍は面白くなったはずなのに!

ただオチの一行だけは最高に好きなんだよなぁ。やっと
『人間・霧原トオル』が書けた。やっとトオルと友達に
なれた気がする。次辺りトオルのスピンオフいくかも。
わかんないけど。
27本当にあった怖い名無し:2006/08/28(月) 01:47:25 ID:qakXSVdnO
福岡先生かっこいい!
ただ特攻服着ると別人?になるのかな!?

作者さん昨日の今日?でお疲れ様です。
28作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/28(月) 02:02:11 ID:8ccmLnvX0
>>27
おぉ…まだ読んでくれた人が…。ずっと読んでた?
途中色々ゴタゴタあってすいませんでした。

そうですね。特攻服着るとというか、『そういう面もある』というふうに見て
頂けると嬉しいです。でもアイテムとして特攻服は必要かな?
なんか決まったキャラクターを作って『この人はこういう人です』という
人物作りは余り好きじゃないんですよね。

人間それぞれ色んな面がある。イライラしてる時とか機嫌のいい時とか。
ユウジロウにしてもただエロい時もあれば変に渋味もある時もある。

そういう人間的な厚み、人として生きてきた歴史みたいのを表現できたら
いいなといつも思って書いてます。ギミックのカタマリではなくて本当にいる
人みたいに人間を描きたいです。それが時としてファンの人を裏切る結果に
なるとしても。普段いい人でも何かの拍子に殺人者になってしまう人間の
危うさ、アンバランスさを、作品として成立するギリギリの線で上手に
書けたらいいなと思います。

お気遣い頂いてありがとうございます。もっと良質な作品を安定して提供できる
ように頑張りたいです。
29本当にあった怖い名無し:2006/08/28(月) 05:09:19 ID:7xGsJkc70
こっちだったのか
作者さん乙

みやすのんきの「やるっきゃ騎士」にもそんな女教師いたよね
歳がバレる・・・w
30本当にあった怖い名無し:2006/08/28(月) 08:44:35 ID:Fzc3rgca0
>>24
じゃぁ、まとめサイトにはその部分を加筆してもらえばいいのでは?
作者的には不本意なところもあるでしょうが、読む側にとっては2度おいしいw
例えば小説だって、発表されてから書籍になるとき加筆修正されてるし、
手直しを加えながら熟成されていく…F1エンジンみたいなもんですよ。
31本当にあった怖い名無し:2006/08/28(月) 09:24:42 ID:YHxyR8OBO
>>30
いいこというなぁ。
賛成!二度おいしい思いがしたいですw
32作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/28(月) 11:54:34 ID:8ccmLnvX0
>>30-31

ありがとうございます。そうすることは簡単ですが、いつも『ライブ感を大事にしている』と
いう私のルールに反します。

『取り返しがつかいない』というリスクもまた『ライブ感』の一部なんです。紅白歌合戦で
歌詞や演奏を間違えて悔しがっても取り返しがつかない。スポーツなんかでもそうです。

『あの時ああしておけば』と思ってももう『あの時』には戻れない。

『ライブ』のスピード感や、今後の展開がどうなるのか?というワクワク感といった、いい
部分だけを取って、逆に失敗するかもしれない、タイミングを誤るかもしれないという悪い
部分については、まとめサイトで直せばいいというのは私のやり方に反します。

映画のエンディングが評判が悪かったからといってDVDのエンディングを変えちゃうのは
変でしょう。だから、このまま、次はこういった失敗がないように精進します。

ありがとうございました。
33作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/28(月) 12:05:09 ID:8ccmLnvX0
>>29
「うる星やつら」と同じく、タイトルを読み間違えて大端を書いた漫画だな…ww

「ヤルッキャナイト」と読むんですよね。挿入とかそういう行為なしの軽いエロが
かえってスケベだった気がする。

俺の方が少〜し下の世代かも。周りに読んでる人はいないけど、兄貴がいる
友達の家なんかに行くと単行本があって、こっそり読んでハァハァしてた記憶…。

あーなんかこの頃、遊人さんとか、エッチっぽい漫画の作者さんの画力というか、
質が急激にアップした時代だった気がする…。当時のエロ漫画家ってこれでプロ
かよ!?みたいなひどい絵の人が結構いた気がする…。

悪質なのだし表紙だけ別の人が書いてる、みたいなwwww

でもそのキャラクターは存じ上げませんでした。元不良の教師というアイデアは、
東京で日中再放送していたドラマ『GTO』から頂きました。鬼塚先生が女でもいいん
じゃね?と。じゃ福岡先生にやらせてみようと。。もうネタがないので見境なしですww
34作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/28(月) 12:11:26 ID:8ccmLnvX0
慌てて書いたら誤字、誤変換だらけだ…スマソ…
35本当にあった怖い名無し:2006/08/28(月) 12:23:11 ID:WzS13Zqk0
遅ればせながら新スレオメです!
前スレが突然書き込めなくなったんでびっくりしちゃいました。
次からはちょい早めに新スレ作らないとだめですね・・・
36作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/28(月) 13:15:19 ID:8ccmLnvX0
>>35
ありがとうございます。もう5年以上ここにいますが自分でスレを立てたことや
積極的に書き込んだりしたことがないので、とにかく1000までなら幾らでも
書き込めると思ってました…。

多分前スレがブチ切れてるのでわざわざ探して来てくれたんだと思います。

御迷惑おかけしました。来てくれてありがとです。
37本当にあった怖い名無し:2006/08/28(月) 23:27:18 ID:8ccmLnvX0
さてここらで怖い話でもするか。

九月も末。十月になれば三年生は高校受験の為に、部活動や
同好会は引退という決まりになっていた。


つづく
38本当にあった怖い名無し:2006/08/28(月) 23:51:49 ID:8ccmLnvX0
オカルト同好会は月、水、金曜日が活動日だった。九月二九日。
金曜日。

会の大部分を占める三年生、最後の同好会だった。

岡崎リョウコ、草壁アヤ、木下サエ。オカルト同好会結成のキッカケ
を作ったメンバー引退、いや、勇退の日である。

特に挨拶はない。ただ、会長であるリョウコからは、会長職を、二年、
霧原トオルに譲る内容の話があった。しかしトオルは聞き流していた。

三年生の三人が引退すれば幽霊部員を含めても部員は四人。『同好会』と
して学校に認められるには人数が足りなかった。

顧問の山形ユウジロウ含め、自分も会員を増やす努力をするつもりは
ない。そのまま解散となることは目に見えていた。

そもそもトオルも実の姉の死を巡るユウジロウへの復讐の為(第四十夜
 『塗炭』 参照)に同好会に参加したのである。

元々大人しい性格だ。新入会員を勧誘するなど、同好会を維持する活動
はしないつもりだった。

一年生のカエデには少々災難な話だ。しかしあくまで指名された次期会長
はトオルだった。年功序列といった意味でもこれは仕方ない。


つづく


39本当にあった怖い名無し:2006/08/29(火) 00:01:23 ID:Fzc3rgca0
第五十三夜 巨星勃つ
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1154276597/799
ホークといえばAV界の重鎮ですが、それをも凌駕する山形先生。
山形ユウジロウに追いつき、そして追い越す。これを目標にホーク有吉は再び立ち上がりました。
しかしながら、恐れすら抱ける相手と戦えるのがどれほど素晴らしいことか。
それほどの相手にめぐり合えるのがどれほど嬉しいことか。
ホーク有吉46歳、まだまだ老け込むには早そうです。

第五十四夜 澱の呪法
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1154276597/829
山形先生の闇の部分を湛えた少年。
しかしながら陰の部分も陽の部分も併せて山形ユウジロウですから、
陰の部分だけで山形先生には太刀打ちできないでしょう。
案の定勝負を挑むも、山形先生を護るものたちの前に敗れ去ったようです。
果たしてその少年の正体はユウジロウの慙愧の念が生み出したものか、
それとも人間の持つ汚い部分が澱固まった怨念でしょうか…

第五十五夜 彼岸峠
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1156690689/3
此岸と彼岸を隔てる河を三途の川といいます。
不運にも愚麗死威にとってはこの杜野峠が三途の川となってしまいました。
一般の人には迷惑この上ない走り屋たちも、福岡先生にとっては掛替えの無い仲間たちだったはずです。
多くの友を失い、そして自ら築き上げた牙城をも崩さずにはいられなかった一人の少女。
死んでいった仲間たちは彼女のために賽の河原で石を積み上げていたかもしれません。
「解散だよ!」と叫んだ彼女。それは彼らへの供養の言葉だったのでしょう。
40本当にあった怖い名無し:2006/08/29(火) 00:02:21 ID:Fzc3rgca0
やべぇ〜リロードし忘れた。

ゴメン(´・ω・`)
41本当にあった怖い名無し:2006/08/29(火) 00:24:13 ID:2r8dp+vS0
特に別れの挨拶があるわけでもなく、引退する先輩への
労いの言葉があるわけでもなく、今日の同好会も終わろうとしていた。

余りに寂しい最後だが、顧問や後輩の性格からすれば、そうなる
ことは目に見えていた。

逆に言えば、引退する者にしてもこれでいいのだ。

大袈裟にされるわけでもなく、身を引くことができる。

それはそれである意味楽だった。元々がオカルト同好会を創った
少女たちである。明るく振舞ってはいるが、独特の暗さを持っていた。

一人きりでいるのは寂しいが、決して人が好きなわけでもない。

複雑な心理がそこにあった。

いずれにせよ、これでいい。静かに去ることは、彼女たちが求めている
ことでもある。

福岡先生の話(第五十五話 『彼岸峠』 参照)などで盛り上がって、
そのまま解散となった。

しかし木下サエだけは残っていた。人嫌いが激しく、会員全員が帰るの
を待ってから一人こっそりと帰る霧原トオルも必然的に残っていた。


つづく

42本当にあった怖い名無し:2006/08/29(火) 00:54:43 ID:2r8dp+vS0
何となく、気配を察したユウジロウは、

「俺、先に帰るぞ。窓の鍵だけ、ちゃんと確認しろよ」

とだけ告げて、教室を出て行った。

サエとトオルだけが残った。サエは自分の手帳に何か書いている
ようだ。トオルは特に何も気にしなかった。

なかなか帰りそうにないサエに、仕方なく先に帰ろうとしたトオルを
サエの声が呼び止めた。

「霧原。あたし、今日最後なんだ」

何と返答していいのか分からず、トオルは

「…お疲れ様でした」

とだけ言った。

「ねぇ、霧原の超能力…。最後にもう一回やってみてくれないかな?」

夕焼けの光に赤く染まる教室で、サエは言った。その言葉に覚悟めいた
何かをトオルは敏感に感じ取っていた。


つづく


43作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/29(火) 00:58:07 ID:2r8dp+vS0
すいません。『バイバイさるさん』対策にかなりゆっくり書き込んで
投稿しているのですが、睡魔に襲われました。

作品の質を考え今日は途中ですがここで中止とします。

続きは明日投下しますのでどうか御容赦下さい。

頭の中ではどんどん話が進んでいるのにゆっくり投下しなくては
ならないのが苦痛です。

本当に申し訳ありません…。
44本当にあった怖い名無し:2006/08/29(火) 01:18:55 ID:ODYjUVrR0

おやすみぃ〜
続きを楽しみにしてるぜぃ
45作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/29(火) 11:40:42 ID:2r8dp+vS0
うわ〜またこんなの書いた覚えねぇよ…しかも途中だし…どうすんだこの後?

教えろ昨夜の俺…とりあえずすごい時間ですが続き投下します。
46本当にあった怖い名無し:2006/08/29(火) 11:48:28 ID:uh6rGgiZO
また覚えてないの━━━━━(゚д゚;)━━━━━!?
でもオカルト同好会がらみの話しが好きなので、期待しちゃおw
47作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/29(火) 12:13:11 ID:2r8dp+vS0
「…なんで?」

「あ、いや…もうそんな能力のある人、滅多に…絶対出会えないだろうし…
記念に、と思って…」

いつものサエにしては妙に歯切れの悪い物言いだった。

二人の長い影が教室に伸びている。

サエが座っている席に、帰りかけたトオルが近づいた。まだ手が届かない距離。

迎えるように立ち上がったサエは少し顔を伏せて右手を差し出した。

少しの間があった。

三歩歩いて、手を出す。

放課後。夕焼け。男女。影。握手。一方通行につながる心。流れ出す。感情と、想い。

いつもダルそうに、薄ぼんやりと開いているトオルの目が見開かれた。

サエはただうつむいて。やり方はしらないが心を開く努力をしていた。

覗かれている妙な感覚はある。実感。したしたと床を何かが叩いていた。サエの涙だった。

手のひらの上を滑るように、二人の手は離れた。


つづく
48本当にあった怖い名無し:2006/08/29(火) 12:19:31 ID:PplWf29l0
作者氏の記憶の飛び様はまさにオカルトwww
ライブ始まったよ〜!!
49作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/29(火) 12:25:36 ID:2r8dp+vS0
「…見たよ。全部…」

音を立てて鼻をすすりながら上げたサエの顔は涙に濡れていた。複雑な顔をしている。

一度見つめ合って、また顔を伏せて。無言。


その頃、廊下にはユウジロウがいた。ドアから顔半分出して中の様子を伺っている。その
口は半開きで、目は期待感と好奇心で少年のように輝いていた。

『 こ…恋の予感!(;゚∀゚)=3 ムッハー!』


「…霧原…」

長い沈黙があって、困惑しながらトオルは

「…はい」

とだけ答えた。かしこまったわけではない。返答のしようがなかったのだ。何も適切な返事が
ない。サエは距離を詰めて、トオルの右手を取ると、驚いて見開かれたトオルの目を見返して
言った。

「好きだ」


つづく
50本当にあった怖い名無し:2006/08/29(火) 12:29:39 ID:Jb18hK3h0
お昼休みに初ライブ!
甘酸っぱい予感・・・
51作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/29(火) 12:55:32 ID:2r8dp+vS0
『キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!』

廊下。山形、早くも、勃起。

放課後+男女+告白=キス 
キス+二人きり+情熱=セックス

来るか!来るのか、校内射精!
あ!よく考えたらサエ、ツンデレの可能性!

『も…萌え…』


「…え…」

対処の仕方が分からない。確かに霧原トオル、美少年である。
しかし、性格が暗く、人嫌いという致命的な欠点を持っていた。その不利
から直接、告白を受けたことは未経験だった。下駄箱や、自分のカバンに
こっそりラブレターは忍ばされた経験はあるが中身も見ずに捨てていた。

ひどい話かもしれないが、それ以上に恥ずかしかったのだ。

人が苦手なことは彼のシャイな部分も表している。

同時にある強い人間不信。これは自分に目もくれず我武者羅に働く両親に
起因するものか。愛や恋というものに対する強烈な憧れと裏腹に、その存在
自体に疑問を持っていた。不純な気持ち。下心。トオルにとって、愛や恋という
言葉は絶えずそういったネガティブなニュアンスと共にあった。


つづく
52作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/29(火) 13:10:17 ID:2r8dp+vS0
覗いたサエの心はどうか。勇気と強い信念があった。
そして、怯え。照れ。恥ずかしさ。

愛する人に全てをさらけ出す勇気。サエはずっとトオルを見ていた。
だから知っていた。言葉だけで信用してくれる人間ではないこと。

表面だけの告白では無視されるか逃げられるのが関の山。

だから敢えて選択した方法。霧原トオルのみに有効な戦略。

それは余りにリスキーで。全てを見せる。何もかも。

「…受験で忙しくなる時期になんだけどさ…つきあって、くんないかな…」


突付き合って!ナニヲカナ!?抑えろ!抑えるのだユウジロウ!

いよいよズボンのジッパーに手がかかる。待て!まだ何も始まっていない!

アダルトビデオでいうところの、セールスマンが訪問してくるシーン辺り。

まだまだ本番は遠い。そこから家に入り込んで、奥さんに欲情し、奥さんが
お茶を用意している間にソファの影に隠してあった奥さんのバイブレーターを
発見。お茶を持ってきた奥さんにバイブレーターを見せつつ
『奥さん、溜まってるんだろ?』
と言いながら背後に回って乳を揉みしだく。いやがる人妻だが次第に欲情に
かられてセールスマンを受け入れてしまう。いけない!あたしには夫が…
でも…止まらない…あぁ…ごめんなさい、あなた…

人妻は快楽の底へ堕ちていった…。

  終
53本当にあった怖い名無し:2006/08/29(火) 13:12:05 ID:z7IBvYRQO
ぐはっwこんな時間に続きキテタ!(゚∀゚)
54作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/29(火) 13:23:46 ID:2r8dp+vS0
まてまて終わるな!コレカラジャナイカ!!


決して嫌いではなかった。性格はさっぱりしていて、どちらかと
いえば男っぽい。少し乱暴で大雑把だが面倒見はよかった。

一応会長はリョウコで、同好会を仕切っていたが、実際に引っ張って
いたのはサエだ。女子だけで暴走して、トオルが置いてけぼりになる時、
気にかけてくれたのはいつもサエ一人だった。

女子だけで菓子を食べていても、『霧原、食べるか?』と言葉こそ乱暴だが
ぽつんとしているトオルに菓子を持ってきてくれる。

しかし、それはトオルに恋心を抱く以前からのことだということは、記憶を
読んで分かった。

文化祭の準備で、女子並に非力なのに彼なりに一生懸命頑張ったり、
いやいやながらもイラストを描いたり、その辺りでサエはトオルを意識する
ようになったようだ。(第五十話 『狩猟の歌』 参照)

確かに同好会にいる理由はなかった。ユウジロウへの復讐が『完了』した
時点でやめてもよかったのだ。自分がやめたら定員割れで同好会が存続
できなくなるということもあったが、なにより何となく居心地がよかった。

誰もべたべたとかまってくるわけでもないし、だかといって無視されるわけ
でもない。適度な人間的、距離。その環境を与えてくれた同好会に、トオル
はある種の感謝を覚えていた。だから文化祭についても、素直に、
とまではいかないが手伝い、協力したのだ。


つづく
55作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/29(火) 13:42:44 ID:2r8dp+vS0
その不器用な健気に木下サエは惚れてしまった。最近では余り
聞かなくなった言葉だが、それが本当にあるのかないのかは
別として、母性本能を強烈に刺激されてしまったのだ。

長い時間、トオルは迷っていた。せっかちなサエとしては堪らない
時間だ。

「…他に、好きな子とか、いるの?」

「…ううん…いない…」

「あたしじゃ、だめ、かな…」

「だめなんかじゃないよ!」

迷っているということは完全否定ではないということだ。駄目というのは
否定的なイメージが強すぎる。トオルの中にあるサエへの今までの
感謝の気持ちが声を荒げさせた。ただ、それは、感謝、なのだ。それを
愛や恋と同意と見ていいのか。何か違う気がする。この気持ちは、
『ありがとう』なのか『好き』なのか。


ナニヤッテルンダ!ジレッタイゾ!

既に全裸のユウジロウは焦れていた。しかもここは廊下だ。早くして
くれないと誰かに見つかってしまう。果たしてユウジロウが全裸になる
必要性がどこにあるのか。


つづく
56作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/29(火) 14:10:41 ID:2r8dp+vS0
夕に赤く染まる校舎に全裸の男。それは余りに不釣合いだ。

ユウジロウの中では既に変化が始まっている。将軍家御付艶事指南役。
山形の血。戦後最凶最悪の連続強姦魔。岩手ノリオの血。その人類史上
最強のド変態グランドクロスの交差点に生まれたユウジロウの血が、
ふつふつと煮え始めていた。

ここは広大なコロシアム。凄まじい数の観客が彼を待ちわびている。会場が
ふと暗くなる。ざわつく観客。突如、色取り取りの照明が瞬き、レーザー光線
が飛び交い、花火が派手にあがる。

そしてジョーサトリアーニの『CROWD CHANT』か、Deep Purpleの『Burn』か、
ロッシーニの『ウィリアムテル序曲』か、フォーリーブスの『ブルドッグ』か、
とにかく何でもいい。勇ましく観客を鼓舞する音楽が大音量で流れ始める。

そして光の中、ユウジロウが全裸で登場。湧き上がる歓声。その歓声に応える
ようにユウジロウは両手を挙げ、吼える。

会場の中央のリングまでは花道が作られ、ユウジロウは勇壮な音楽に導かれ
リングに向かう。リングの上には裸の木下サエと霧原トオルが彼を今や遅しと
待ち受けている。

そうこれから世界最高のセックス(まな板)ショーが始まるのだ!

「人類史上最凶!地上最強の超オス!快楽の権化!地球代表の種馬!
セックスマシーン銀河系代表!ヤマガタっっ!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ユウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥジロオオオオォォォォォォォォォォォォォォッ!」

大歓声と共にリングイン!

つづく
57作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/29(火) 14:22:33 ID:2r8dp+vS0
サエは余りの衝撃に声も出せない。

「おいおら霧原!ツープラトンだ!合体技だ!いくぞおぉ!」

「…なにやってんだよ先生!」

「合体技だ!お前も脱げ!3Pだ3P!うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

狂人。ユウジロウ。よりによって教え子の告白現場に全裸で大登場。

「…最悪…」

サエは床に突っ伏して泣き出した。恐怖の涙ではない。遺恨の涙だ。

今まで彼女には歴代三人の彼氏がいた。しかしいずれもアプローチは
男からだった。自分から告白したことはない。大雑把で度胸もあるように
思われているが、強がって振舞っている部分もある。

ましてや色恋沙汰となれば、一人の少女である。告白にいる勇気は人と
変わらない。度胸が据わっているからといって簡単にできるわけではない。

今日だってやっとの思いだった。特にトオルに手を取られている間は頭が
ふらりとして倒れる思いだった。

そこへ飛び込んできたのは恋のキューピッドではなく、全裸の変態教師だ。
泣きたくもなる。


つづく
58本当にあった怖い名無し:2006/08/29(火) 14:29:01 ID:cRZVudr40
リングインしてしまったのかぁぁぁΣ(゚Д゚;)!
59作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/29(火) 14:32:24 ID:2r8dp+vS0
らしくなく、わんわんと大泣きするサエにユウジロウの理性が戻った。

「しまった!早まった!!」

衣服は廊下に置いてきた。とりあえず陰部を手で隠す。

「よぉ、先生…」

「ア、キリハラクン。コレハダネ…」

「てめぇぇっ!俺のオンナに何晒してんだコラアァッ!!」

振りかぶって強烈な右フック。股を隠しているユウジロウには防御する
ことすらできず教室の端まで吹っ飛んで猛烈な勢いで壁に激突。
そのまま失神した。

「大丈夫?もう大丈夫だから…」

ぼろぼろと泣くサエの肩を抱いて、立ち上がらせるとそのまま近場に
あった適当な椅子に座らせて泣き止むまで、トオルは背中をさすり続けた。

「…もう…大丈夫…ありがと…」

気丈なサエだったが落ち着くまで数分かかった。背中をさすっている間中、
トオルにはサエの心が見えていた。勝手に見えてしまうのだから仕方ない。
普通ならそんなことはないのだがサエの想いが強すぎたのだ。その感情は
勝手に流れ込んできた。


つづく
60作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/29(火) 14:52:07 ID:2r8dp+vS0
心配そうに顔を覗き込むトオルと、サエの顔の距離は、
かなり近かった。

泣きやんでサエはその事実に気付く。トオルもそうだった。

二人して一瞬離れかけて、やめる。その顔はむしろ近づいた。

長く伸びる影がちょうど『人』という字のようになり、それはしばらく
続いた。


やがて校舎は闇に包まれて、二人の姿は教室になかった。ただ
ユウジロウが気を失っていた。

廊下に脱ぎ捨てられた衣類。用務員鈴木ヒデヨシはそれを見つけ
て只ならぬものを感じ恐る恐る教室内に入っていた。

「山形先生、あんたまた裸かね!?」(第二十一話 『六尺降臨』 参照)


何とか言い訳をして、家に帰る。ふと携帯電話を見ると、不在着信が
大量に残っている。アカネからだった。遅いから心配して何度もかけて
きたのだろう。

慌てて帰り、アカネにそのまま素直に事情を説明した。

「な、霧原の奴ひどいだろ?教師を殴るんだぜ?」

ユウジロウは散々『馬鹿兄貴』と罵られ、晩飯抜きの懲罰を受けた。


  終
61本当にあった怖い名無し:2006/08/29(火) 15:01:56 ID:zbhXFvBy0
作者さん乙です!久々にライブで読めてラッキー

ついにカップル成立!トオルおめでと!

裸になってばっかりでいいかげんユウジロウは
懲戒免職されそうで心配だwwww
62本当にあった怖い名無し:2006/08/29(火) 15:09:07 ID:z7IBvYRQO
ちょwユウジロウwww
用務員さんワロスw
いいなー、学生時代の恋愛…(´Д`*)

それにしても、ユウジロウのいる学生生活って楽しそう!
事情を知らなければ只の変体教師にしか見えないんだろうけれど(^^;
オカルト同好会に入りたいw
63本当にあった怖い名無し:2006/08/29(火) 15:43:00 ID:2r8dp+vS0
とりあえず昨日の分投下完了〜。やっと落ち着いた…。

しかしびっくりした。書いた記憶ない上に何だかしらんけど途中だしww

何とか書いたけど昨晩の俺は一体どんな続きにするつもりだったん
だろう…。

でも今回は途中ライブのお客さんもいっぱい合いの手くれてノリノリ
でいけて楽しかった。

『 こ…恋の予感!(;゚∀゚)=3 ムッハー!』 『廊下。山形、早くも、勃起。』

『霧原トオルのみに有効な戦略』 『その不器用な健気』

『「おいおら霧原!ツープラトンだ!合体技だ!いくぞおぉ!」』

『狂人。ユウジロウ。よりによって教え子の告白現場に全裸で大登場。』

『「しまった!早まった!!」』

『「ア、キリハラクン。コレハダネ…」』 『「山形先生、あんたまた裸かね!?」』

『「な、霧原の奴ひどいだろ?教師を殴るんだぜ?」』

と意味もなくチョイスする作者的ベストセンテンス。リングインに至るまでの
入場シーンもかなり気に入っている。リズムもよかった。

読んでくれた皆さんにありがとうです!夜帰ってきてから読んでくれる人の
感想も今日は素直に楽しみだ。
64作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/29(火) 15:44:07 ID:2r8dp+vS0
>>63
う…ごめん避難所に書くレスでした…。誤爆です…ある意味あり
だけど…ごめん。
65本当にあった怖い名無し:2006/08/29(火) 17:26:21 ID:PplWf29l0
>>62
たしかに楽しそうだが、
ユウジロウのいる学校に自分の娘は入れたくないなwww

作者さん、今回も爆笑させていただきました!
オカルト同好会、俺も入りたいっす。
リクなんですが・・・
文化祭の時にでてきた色っぽいテニス部の話をお願いします(´Д`*) ハァハァ
いつでも思いついたときでかまいませんからね〜
66本当にあった怖い名無し:2006/08/29(火) 17:28:21 ID:uh6rGgiZO
乙です!胸キュンですた!!(*゚∀゚)=3
甘酸っぱいひとときを過ごさせてもらいました。
てか、全裸でリングインしてしまった山形先生バロスww

サエとトオルのハァハァ、禿げあがる位キボンヌ!
67作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/29(火) 19:35:00 ID:2r8dp+vS0
>>65
女子テニス部!!すごい所からのスピンオフ!wwww

あの時限りと思い、キャラクターの一人も考えてないのでこれから
考えねば…しかもどこにオカルトを絡めるか…。

これはちょっとした勝負ですよ…。一応『今日の分は書いたー』と安心
していたんですが、実は『昨日の分を仕上げた』に過ぎないんですよねー。T_T

今からキャラクター立ててなるべく今夜中に投下したいと思います…。

あくまで、『なるべく』…。
68本当にあった怖い名無し:2006/08/29(火) 20:40:59 ID:qY7/IdOP0
>>67 そうですよ、ユウジロウは毎回女子テニス部の写真に
たくさんお金つかってるんですよね。上得意様だw
そりゃぁ関わりがあってもおかしくないwwww
絶対色々、女子テニス部のコらをチェックしてるはずだw

ユウジロウの学校ってまだ新しいんでしたよね、
自分の学校は古くて部室とか最悪でした。でもよく溜まっていたなぁw

投下、楽しみにしています^^
69本当にあった怖い名無し:2006/08/30(水) 00:41:50 ID:VPGDEuTK0
さてここらで怖い話でもするか。

岡崎リョウコは苦手の数学の参考書を眺めて溜息をついたいた。
少し、本気で受験に取り組むのが遅すぎたと感じている。

つづく
70本当にあった怖い名無し:2006/08/30(水) 00:58:55 ID:VPGDEuTK0
三年C組の教室。昼休みである。窓の外に目を移して公式を
思い出すが頭に入っていない。

リョウコはまた大きく溜息をついた。

「忙しそうだね」

目を上げると嫌な顔が合った。五十嵐ヒトミ。女子テニス部の主将だった。

「ヒトミ…」

余り話したくない相手。リョウコはオカルト同好会を結成する前、正確には
一学期の末までテニス部に在籍していた。二年の頃から次期主将と
目されていたが、急速に権力を強めたこの五十嵐ヒトミとの権力闘争に
破れ、主将にはなれず、それどころかテニス部を追い出し同然で辞めた。

「リョウコ、オカルト同好会とかいうの創ったんでしょ?」
「…だから?」
「ちょっと手伝って欲しいんだよね」
「でもあたし、もう関係ないから。十月入ったから引退したし」

「…まだ根に持ってるの?」

何となく邪険な態度のリョウコにヒトミが言った。

「そんなんじゃないけど。実際もう同好会とは関係ないの」

「でも顔は効くんでしょ?何とかしてよ」


つづく
71本当にあった怖い名無し:2006/08/30(水) 01:00:44 ID:RMkdB/7AO
テニス部部長キタ――――(゚∀゚)――――!!
72本当にあった怖い名無し:2006/08/30(水) 01:14:20 ID:VPGDEuTK0
自分も在籍していたから何とも言えないがひどい部だった。

顧問はやる気がなく、完全に部は部員の所有物。女子テニス部を
謳っているいるがまともにテニスなどしていない。勝手に自分達を
『軽子沢中学のアイドル』と位置づけ、力を入れていることといえば
男漁りに、女を武器にした金漁り。

部員として入部しても残るのは『自分が一番美人』『自分が一番可愛い』
と思い込んでいる女子ばかり。純粋にテニスを楽しみたくて入部した
部員は、その現状に呆れて辞め、部内にはイジメと嫌がらせが横行
していた。

それでも外見だけは取り繕って、可愛い子ばかりの仲良しクラブを
装う。『自分はいい子』という思い込み以上に『いい子と思われたい』
という根性も人一倍の連中が揃っていた。

それぞれ彼氏といえば美男子として有名か、運動部の英雄か、
成績優秀な秀才か、実家が金持ちか。

リョウコも在籍していた頃は雰囲気に流され必死だったが、辞めて、
外側から見て分かった。

彼女たちの醜さ。唾棄すべき存在。今では在籍したいた過去が
恥ずかしい。

そのトップ。五十嵐ヒトミが何ヶ月かぶりに声をかけてきた。

手伝って欲しい。損得勘定で動く人間だ。何を企んでいるのか。


つづく
73本当にあった怖い名無し:2006/08/30(水) 01:28:52 ID:VPGDEuTK0
「…で、何?」

参考書を閉じてヒトミの方に向き直った。整った顔。
認めたくないが、可愛い。

「あたしってテニス部じゃん」

言われなくたって知っている。あたしはあんたに追い出されたんだ。
大体テニス部だから何?自分たちのこと、まるでアイドルグループ
みたいに。馬鹿じゃん。ただの部活でしょ?

「知ってるけど?」

「十月になったから引退なんだけど。最後に部室を片付けないと
いけなくてさ。引退する三年みんなで片付けたんだよね」

運動部は校庭に長く伸びている長屋状の『クラブハウス』を一室
ずつ部室として与えられている。テニス部もそうだった。巨大な
プレハブ小屋を壁一枚で仕切っただけのもので、狭く、ロッカーが
林立し、部活動で使う道具がそこかしこに転がっている。どの部室
も乱雑で、それほど清潔ではない。

女子テニス部の部室もそうだった。汗の匂いに混じって、制汗料の
香りが漂っている。乱雑でテニス用具に混じってファッション雑誌や
CDのジャケットが転がっていた。他人に見えなければどうでもいい。
他人には清潔感や清涼感を求めるくせに、ひどい部室だったことを
リョウコは覚えている。


つづく
74本当にあった怖い名無し:2006/08/30(水) 01:40:53 ID:VPGDEuTK0
「でもさー、『開けちゃいけないロッカー』ってのがあってさ」

ああ、リョウコは思い当たった。確かにあった。開けてはいけない
ロッカー。軽子沢中学のわずかな歴史の中で、女子テニス部に
伝えられてきたこと。入り口を入って一番奥から二番目。窓から
二番目、右側のロッカーは決して開けてはいけない。そんな話を
先輩から聞かされていた。

「…あのさ、あたしも一応テニス部だったんだけど」

「…あ、あぁ!そうだったね!ごめんごめん。忘れてた!」

大袈裟に驚いて見せる。忘れてるもんか。追い出したのはあんた
じゃないか。でもヒトミはそういう女。いや女子テニス部はそんなの
ばかりだ。底意地が悪い。

「まぁその話はいいとして、その『開けちゃいけないロッカー』って、
リョウコんトコの同好会で開けて欲しいんだ」

「は?」

「オカルトでしょ?専門家じゃん。なんか後輩が気味悪いって
うるさくてさ。祟りとか怖いし。やっぱ専門家に頼もうって話になって」

「…ちょ、ヒトミ、専門家ってあたしたちお坊さんとか神主さんとは
違うんだよ?ただそういうのが好きで…」

「好きならいいじゃん。開けてよ」


つづく
75本当にあった怖い名無し:2006/08/30(水) 01:50:34 ID:RMkdB/7AO
テニス部長の身に悪い事が起きますように(-人-)
76本当にあった怖い名無し:2006/08/30(水) 01:54:36 ID:VPGDEuTK0
馬鹿にしつつ、軽んじつつ、それでも利用できることは全て
利用する。引っ叩きたい怒りに駆られたが以前は自分も
そうだった。追い出され、全てを失って、過ちに気付いた。

何もいう資格は自分にはない。リョウコは手にしていたノック式
のボールペンの尻を力一杯に一度、親指で押し込んだ。

「でもあたしもう引退したし、現役の子に…」

「リョウコの口から伝えといてよ。お願いね」

「だから…」

「おい、ヒトミ、まだかよ?」

教室の外から聞こえる男の声にリョウコの言葉は途切れた。
教室のドアに男が立っている。確かバスケットボール部の主将だ。

「あ、ごめん彼氏と約束あるから。あと、お願いね」

きれいに軽いウェーブのかかった髪をなびかせながら、ヒトミは
教室を出て行った。ドアをくぐった瞬間には男の肘にまとわりついている。

教師を見回すと何人かの男子がその光景を羨ましそうに見ていた。

『怒ったら負け』皮肉なことに女子テニス部で学んだ処世術の一つだ。

深呼吸するとリョウコは今一度参考書に向かった。


つづく
77本当にあった怖い名無し:2006/08/30(水) 02:11:52 ID:VPGDEuTK0
五時間目、六時間目と散々考えて、放課後、リョウコは職員室に
向かった。

「山形先生…」

既に引退したはずの生徒が顧問に声をかける理由は一つだ。

早速ズボンのベルトを外すユウジロウをリョウコが制した。

「先生。違います」

何だ違うのか。ベルトを締めなおし、座る。

「で、何かね?」

リョウコは相談混じりに一部始終を話した。ユウジロウに女子テニス部の
話を出すのもどうかと思ったが出す他ない。その内容には、女子テニス部
の赤裸々な内情も含まれていた。

思いの外ユウジロウは話を真面目に聞いた。

「ちょっといいか。岡崎」

立ち上がって、何処かへ歩いていく。ヒト気のない所へ連れ込まれて
犯されるのかと思ったが、ユウジロウが向かった先は、職員室の片隅の
喫煙ブースだった。


つづく
78本当にあった怖い名無し:2006/08/30(水) 02:24:06 ID:VPGDEuTK0
ラッキーストライクに火を着け、ゆったりと吸いながら、
白いテープで仕切られているだけの簡素な喫煙ブース内に
リョウコが立ち入らないように注意した。

喫煙ブースには強力な集煙機能と空気清浄フィルターを
備えた灰皿が設置されている。

煙を吐き出しながらユウジロウは言った。

「確かに同好会が専門家とはお笑い種だな…」

今日の先生は頼りがいのある山形先生だ。リョウコは作者に
感謝した。

「同好会を持ち出すまでもあるまい。俺が開けよう。その、
『開かずのロッカー』を開ければ、問題解決だろう?」

喫煙ブースの外で静かに立っているリョウコが答えた

「…そうですけど…祟りがあるとか…怨霊が封印されてるとか…」

「お前さんの話を聞く限り、テニス部員の方がよっぽど怨霊だ…」

他の教師の手前もあってか、少し声を沈めて山形先生は言った。

短くなった煙草を中指と親指で弾き飛ばす。吸殻は見事水を張った灰皿に
吸い込まれ、じゅぅと音を立てた。


つづく
79本当にあった怖い名無し:2006/08/30(水) 02:34:16 ID:1geZrgdu0
ライブ遭遇!!しかもリクしたテニス部の話!(´Д`*) ハァハァ
80本当にあった怖い名無し:2006/08/30(水) 02:41:25 ID:VPGDEuTK0
「そんなことより…受験。頑張れよ」

山形はそのまま職員室を出て行った。

玄関を出て、校庭へ。見回したが女子テニス部は見当たらない。
そのまま、校庭の端に沿うように建てられたクラブハウスに向かった。

正に長屋である。土足厳禁の長い廊下があり、それぞれの部室の
ドアが並んでいた。上を見上げるとその廊下には安っぽい
プラスチック製の波板でできた屋根がついている。

土足厳禁とあるが廊下は土で汚れていた。山形は構わず土足で
廊下を進む。各ドア毎に部の名前が表札になってかかっている。

中央辺りに、『女子テニス部』の表札を見つけた。

「御免」

ノックもせずドアを開け放つ。埃と汗と制汗剤の匂いが混じった異様な
臭気が鼻を付く。

談笑していたらしい部員たちの注目が集まった。彼が教師であることは
知っている。だから突然ドアを開けられたからといって文句をいうわけにも
いかず戸惑っている。

見れば彼女たちが手にしているのはファッション雑誌に菓子、化粧品、
mp3プレーヤー、携帯電話。いずれもテニスとは無関係の代物。いずれも
校則違反の品だが、無視した。

「オカルト同好会の代表として、五十嵐ヒトミ主将に依頼されて来た」

つづく
81本当にあった怖い名無し:2006/08/30(水) 02:56:58 ID:VPGDEuTK0
既に引退している五十嵐ヒトミ本人はこの場にいない。

新しく主将となった須藤アリサが座りながら言った。

「なんだ先輩本気にしちゃったんだ?」

他の部員が続く。

「あぁ、あの話?馬っ鹿みたい」

「なんだぁ霧原クンが来てくれるんじゃないんだ」

「あ!そういえば霧原ってオンナできたらしいよ!」

「マジ?だれだれ?」

「オカルト同好会の一コ上のヒトって噂」

「げーオバサンかよ?」

「しかもオカルト同好会って」

「キモ過ぎ」

「あはは」

いずれも美少女揃い。それが教師を前にこの下卑た語り口。
伏魔殿。山形は怒りを呑んだ。

「俺はロッカーを開けに来たのだが」

つづく
82本当にあった怖い名無し:2006/08/30(水) 03:10:06 ID:VPGDEuTK0
「ついでだから開けてもらおうよ。キショいし」

「あれです。先生」

左右の壁に沿って並んだロッカーの右側、奥から二番目
のロッカーが問題のそれらしい。確かに他のロッカーには
プリクラや、色々とシールやポスターの切抜きがベタベタと
貼ってあるのに、そのロッカーだけは変にきれいだ。

怒りに任せて山形はロッカーを開けた。躊躇いも恐れもない。

開けたロッカーはがらんとしている。中には紙ごみのような
モノやノートや手帳が数冊あるだけだった。

一応気になるのだろう。いつの間にか女子たちは集まって、
山形の肩越しにロッカーの中を見ている。

「なんだ。なーんもないじゃん」

「ほらぁやっぱり」

ロッカーに残されている紙片、ノート、手帳を山形は見た。

そこにあった内容はいずれも女子テニス部に対する恨みの言葉
だった。純粋にテニスをやりたくて入ったのに追い出された者、
顔が少し不細工というだけで『部の質が落ちる』と陰湿な虐めを
受けて退部した者、逆に抜きに出た美貌から妬まれ、退部に
追いやられた者…。そんな伏魔殿に潜む鬼に心を食われた女の
憎しみの言葉がつづられていた。


つづく
83本当にあった怖い名無し:2006/08/30(水) 03:18:47 ID:VPGDEuTK0
理由は分からない。何故このロッカーにそういったモノが集まったのか。
合理的な説明をしようと思えばできないことはない。例えば大掃除の際に
誰の物か分からない持ち主不明の荷物の中でも、手帳やノートといった
捨ててはマズそうなものをこの『開かずのロッカー』に内容も見ずに
押し込めたのかもしれない。

またはテニス部で被害にあった者が、過去に被害にあった者からロッカー
の話を聞いて、そこを恨みの封印所として代々使ってきたのかもしれない。

それは分からない。しかし確実なことがある。

『女子テニス部に人は無し。いるのは鬼ばかり也』

振り向いた山形はにやついていた。

「ロッカーを開けた先生は勇気があるとおもわないカナ?」

「え?何ですか突然」

「勇気のある先生とエッチしてみないか?」

「なにそれ?」

「やらしーさいてー」

「お金なら幾らでもあるよ!可愛いテニス部の子たちとエッチしたいな!」


つづく
84本当にあった怖い名無し:2006/08/30(水) 03:21:20 ID:uth1HjSh0
おしおきタイムだ!やってしまえゆうじろう!!
85本当にあった怖い名無し:2006/08/30(水) 03:25:42 ID:VPGDEuTK0
「あはは…あたしたち、高いですよ?」

「特に先生みたいなキモいおっさん相手だと割高になったりして」

「あはは超ウケる」

「おいおい先生は真剣だぞ。幾らでも払う。全員面倒見ちゃうよ!」

「…マジっすか…?」

「だったら一人十万とかで」

「安いよ。二十」

「そうだね。相場だね」

「一人二十で、十五人」

「うわっ!三百万とか?ありえねぇー!」

「…分かった三百万。明日、持ってこよう!」

新主将、須藤アリサの目が光った。

「ちょい待ち。あと口止め料が百万。さすがにバレたらヤバいっしょ?」

「確かにヤバい…。合計四百万?」

「あたしらクラスの未成年十五人。安いと思うけど」


つづく
86本当にあった怖い名無し:2006/08/30(水) 03:33:58 ID:VPGDEuTK0
山形は部室を飛び出していった。ロッカーにあった紙片や
ノート、手帳の類は袋に入れて持ち出した。

「マジで持ってくると思う?」

「ぜってーこねー」

「持ってきたらどうする?」

「二十万でしょ?デカいよ」

「悪いけどあたしはハメるよ」

「ハメるって?もし本当に四百持ってきたらお得意様にするって
こと」

「あーカモるって?」

「絞れるだけ絞るでしょ。やっぱ」

「でもキャプテンすごいですよ。百二十」

「え!百って山分けじゃないの?口止めでしょ?」

うっかりそう言った女子はアリサに前髪を鷲づかみにされ、
ロッカーに後頭部をしたたかに叩きつけられて、そのまま押さえられた。

「…あたしが提案したんだから百はあたしの。分かる?」


つづく
87作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/30(水) 03:47:48 ID:VPGDEuTK0
半泣きで答える。

「…すいませんでしたぁ!」

須藤アリサはせーラムライトをバッグから取り出すと、
部室の窓を大きく開けて、吸い始めた。何となく分かっていた。

あの男は本気だ。ヤリたがってる。借金してでも四百万作って
明日、やって来る。何が教師か。所詮は男。しかも確か独身。
みっともない。かっこわるい。十五人の中学生相手にどこまで
頑張れるかな?ヤレてもせいぜい二、三人。あ。童貞だったりして。
だったら笑ってやろう。上手くすれば一人ともさせないで四百
頂きかも。だったら美味しすぎ。


「アカネ。お前四百万持ってるか?」

「…ん?」

とんでもない発言だが、そういう時に限って兄が真剣なのは知っている。
悪い冗談は嫌いな人だ。夕食にも手をつけず、火を着けない煙草を
咥えている。

その横顔。アカネはぞくりと女を刺激された。決して恰好良いわけではない。
ただその迫力は他の誰にも見たことがない。アカネは見た瞬間、自身が
濡れるのを感じた。


つづく

88作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/30(水) 04:02:01 ID:VPGDEuTK0
「…お兄ちゃん…」

女が耐えられない。

「今日は駄目だ」

問答無用。その微妙な言葉の響きから女の求めを察した。
しかし今それどころではない。更にアカネはそれで察する。

闇に生き、不純にまみれて生きる兄弟の絆は察し合いだ。
それでいい。それは言語を遥かに越える。

「…貯金と言わず、資産というなら、三億はある。四百ぐらい
余裕だよ…」

「…明日、使いたい…」

「ベッドの下に五百万あるよ」

「使いたい」

「お兄ちゃんが使うなら」

「すまない」

その金額、一介の中学校教師が簡単に支払える額ではない。
全てがアカネの稼ぎだ。それでもアカネは構わなかった。もっとも
山形アカネ、政財界の大物を顧客に持つ売春婦兼半愛人でもある。
稼ぐ気になれば四百万など午前中、いや電話一本で稼げた。

つづく
89作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/30(水) 04:13:27 ID:VPGDEuTK0
翌日放課後。山形ユウジロウは女子テニス部部室を訪れていた。

「約束の四百…」

横取るように部員に取られる。主将、須藤アリサの腹心の部下と
いった風情だ。丁寧に札を数えるがさすがに紙幣四百枚。
手こずっている。

「確かにあるみたいだよ」

「…本当に来るとはね…先生も好きだね」


全裸のユウジロウを見て驚く。その肉体美。齢四十を超えた男の
腹筋がはっきり六つに割れている。その肉体だけ見ればどう見ても
二十台。そして反り上がるイチモツ。

幾度となく援助交際と称して四十男のペニスを見てきたがこんな
モノではなかったはずだ。

「金は払った。始めようか…」

陰行流艶術、『連斬り』において、一晩に十八名の女を犯した
ユウジロウ。(第三十九話 『炉火純青』 参照)

しかし今回は違う。自分が絶頂を迎える必要はない。クソガキ十五人
余裕過ぎて精子も出ない。


つづく
90作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/30(水) 04:24:54 ID:VPGDEuTK0
数百年の歴史が女子テニス部の前に立ち塞がる。

童貞などとんでもない。

この意味が分かるだろうか。プロ第一戦と思って挑んだ
相手が世界チャンピオンだったのだ。その脅威。

どれほどの経験があるのか既に少女たちの性機能は成熟
していた。ユウジロウにとっては望むところである。

いじられ、舐められ、しゃぶられて、散々もてあそばれて、
翻弄され、ほじくられる。

「あぁっ!!先生っ!だめっ!だめえぇっ!!」

「…既に四百払っている。途中退場は勘弁してもらおうか…」

ペニス、両手、口を使って四人を同時に相手にする。正に
超高性能、高機能、世界最高のセックスマシーン。それが山形
ユウジロウだ。

それでいて、全く果てる気配なし。射精はいくらでもコントロール
できない。次々に女子は果てていく。失神。

「あっ!だめっそこっ!先生っっ!いいっ!!」

不自然な形に骸のように転がった十四人の少女。舞い散る札束の中、
ユウジロウとアリサだけが残った。


つづく
91作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/30(水) 04:39:11 ID:VPGDEuTK0
「あんた一体何なんだ!」

「…山形ユウジロウさ…」

逃げようとするアリサを取り押さえる。陰行流艶術、『裏捕り』から、
『横払い』、『下段の口』、『逆さ蓮華』…。

現存する全てのセックステクニック。全てを陰行流艶術は網羅
していた。全て型に収められ、効率化され、名もついている。

それぞれがどういった技術かは筆舌に尽くし難い。いずれにせよ
いくら成熟しているとはいえ素人相手に使う技術を超えていた。

更に『牡丹』、『腹中の獅子』から身を返して『鬼車』からの『一輪挿し』。

「…っ…っ…っ…!」

こうなると息を吐けなくなる。吸うばかりでそのまま続ければ死ぬ。

ペニスを抜いて胸を叩くと、咳き込みながらも呼吸は復活する。しかし
しばらく立ち上がることはできない。

狭苦しい部室に、十五の鬼の美しい裸体が転がっている。


つづく


92作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/30(水) 04:55:11 ID:VPGDEuTK0
ユウジロウが今回施した術は、全て『止め抑え』、もしくは『打止め』
と呼ばれる一連の技法である。これは歴代の山形家の人間でも
マスターした者は少ない。

それはその名が表す通り、セックスで快感を得ることをなくして
しまう技術である。即ち、女性自身に対する一種の機能破壊だ。

その超高度な技を十五の鬼全てに叩き込んだ。

「悦びを失い、憐れの心を知れ…」

しかし『止め抑え』、『打止め』は完璧なものではない。幾度もセックスを
繰り返すうちに少しずつその機能は回復する。しかし完全に機能が回復
する頃、彼女らの年齢はおそらく四十を超えているはずだ。

「これから歩むは地獄道。金は冥土の旅への餞別だ…」

ただ一人意識を残しているアリサは自らのヴァギナに異変を感じ、そっと
指を這わせてみた。何も感じない。麻酔を打ったように、触れられている
ことすら分からない。

ウェーブのかかったロングヘアを身体にまとい、札束にまみれて、床に
舞い落ちる金をかき集め、金に顔を埋めて泣いた。


つづく
93作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/30(水) 05:02:58 ID:VPGDEuTK0
満足気に部室を後にするユウジロウ。鬼の絶叫でバレは
しないかと思ったが、女子テニス部以外の部は、校庭なり
体育館なりで真面目に活動している。

クラブハウスは無人の状態で、野球部やサッカー部の威勢
のいい掛け声に女子テニス部の喘ぎはかき消された。

運動部もいいものだ。校庭をぐるりと回りながら歩くユウジロウを
みんなが注目する。

時間が止まったように、みんなが見ている。

やはり、全裸だったからだ。


  終
94作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/30(水) 05:06:04 ID:VPGDEuTK0
おい、もう朝じゃねぇか!!ガ━━(゚Д゚;)━━━ン!!!!!
95本当にあった怖い名無し:2006/08/30(水) 05:09:21 ID:RMkdB/7AO
服着てから出ろよwwwww

作者さんお疲れ!太陽が上り鳥がないてますよ!!
96作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/30(水) 05:15:41 ID:VPGDEuTK0
>>95
ずっと読んでてくれたの??嬉しいなぁ。寝れる?大丈夫?
ありがとう。嬉しいです^^
97本当にあった怖い名無し:2006/08/30(水) 05:24:47 ID:RMkdB/7AO
いろいろやりながら読んでましたよw
今から仕事だからちょうどよかったです。
作者さんはゆっくり休んで下さいね!ノシ
98本当にあった怖い名無し:2006/08/30(水) 06:03:54 ID:gNvl37k/O
作者さん乙です!
こんな時間までお疲れさまでしたw
今日はめずらしく遅くまで起きていたので最後までライブに参加する事が出来ましたw
ユウジロウカッコヨスwww
いまだかつて無い快感を覚えさせる事によって女子テニス部員達をユウジロウのいいなりにし、
その行いや考えを改めさせるのかと思いきや…。

なんというか気分爽快ですね。
少し気の毒な気もしますが、快感を味わえなくなる前に
かつて無いほどの快感を味わわせて貰った事ですしね…w

それにしてもユウジロウ全裸で出没しすぎwwwww
99作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/30(水) 12:52:14 ID:VPGDEuTK0
>>98
うん。今読み返してちょっと裸オチ、全裸ネタに逃げてる自分が見えたから
しばらく控える。
100本当にあった怖い名無し:2006/08/30(水) 13:09:40 ID:3L/fySih0
リクエストした者です!今回は何とも痛快な話でしたね。
ユウジロウの様々な「技法」の名前が面白かったです。
逆さ蓮華とか、どんな技なんだろう・・・www
101作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/30(水) 18:28:07 ID:VPGDEuTK0
>>100
もっと可愛い話…ってかエロい話期待してたんじゃないかな?
あんまりハァハァできる話じゃなくてごめんね。
102本当にあった怖い名無し:2006/08/30(水) 18:48:12 ID:pV44uHgKO
ユウジロウがケンシロウに思えてきたw
103本当にあった怖い名無し:2006/08/30(水) 19:01:38 ID:gNvl37k/O
>>99
エーッ!(´Д`)控えちゃうんですか??
なんか寂しいな…
たまには全裸のユウジロウも登場させてくださいねw
104作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/30(水) 19:38:40 ID:VPGDEuTK0
>>103
あ、いや全裸にはなりますよ^^;;

ただ、最後に全裸だったことをオチにしたり、あり得ない状況(校内とか人前とか)
で突然全裸したりするのは、1,2回控えようかなと。

たとえば、

さてここらで短い話でもするか。

ユウジロウはアカネとヨドバシカメラに行った。自宅の洗濯機が故障したのだ。

「もう十五年も使ってるしね」

「おい、これは洗剤なしでも綺麗になるらしいぞ」

既に全裸。


つづく

みたいな。こういうのはやめようかな、と。(笑)
105作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/30(水) 21:33:15 ID:VPGDEuTK0
>>66

>サエとトオルのハァハァ、禿げあがる位キボンヌ!

お待たせしました。珍しくリクが連発したので、お待ち頂きました。
リクと明記してあるわけではありませんがリク扱いとさせて頂きます。

今から考えて投下します。ただの恋愛話もアレなんで一応トオルの
超能力以外にもちょっとオカルト風味を足したく、お時間頂きます。

少々お待ち下さい。なるべく日付が変わる前に投下します。
また終わったら朝とかちょっとイヤなんで(笑)
106本当にあった怖い名無し:2006/08/30(水) 23:36:50 ID:VPGDEuTK0
さて、ここらで怖い話でもするか。

土曜日。山形家の朝は早い。中学教師山形ユウジロウ、その直接の娘
であり妹の山形アカネ。


つづく
107本当にあった怖い名無し:2006/08/30(水) 23:40:57 ID:VPGDEuTK0
両名とも六時には目覚めている。お互いに短時間で熟睡できるタイプで
休日だからといって、ゆっくり寝る、という習慣はない。

目覚ましをかけるわけでもなく自然と目覚める。

休日の食事はユウジロウが作るか、外食と決められていた。

朝からユウジロウはパスタを茹でていた。こだわりの1.7ミリの麺。土曜の
朝食はユウジロウのぺペロンチーノでほぼ決まっていた。

麺を茹でながら、フライパンにオリーブオイルを垂らし、スライスしたニンニクと
タカノツメをそのオイルに浸けておく。唯一の具であるベーコンをスライスすると
麺が茹で上がるまで一服する。

基本的に禁煙だが、ユウジロウの書斎と、窓と換気扇がある台所は喫煙ポイント
だった。ラッキーストライクをふかし、鍋の中をゆっくりとかき回しながら
ユウジロウは言った。

「おいアカネ、ビデオ見ようぜ」

返事をするわけでもなく、アカネは昨夜ユウジロウが借りてきたビデオをデッキに
セットして再生した。しばらくするとタイトルが現れた。

『倖田 くるみの24時間イキっぱなし』

タイトルから分かるとおりアダルトビデオだ。


つづく

108本当にあった怖い名無し:2006/08/30(水) 23:52:37 ID:VPGDEuTK0
セックスシーンまで早送り。始まった時点で、アカネの解説が始まる。

それは台所にいるユウジロウに届く。

「…『乳時雨』から『霧雨』…まだ『霧雨』。あ、微妙だけど…『さぐり』かな。
それから…『岩打ち』…『花つぶて』…」

全て陰行流艶術に用いられる技名である。相当無理矢理なセックスで
なければ大概説明はつく。セックスの技術はなかなか言葉にし辛い部分が
あるが陰行流においてはほぼ全てに技として名がついていた。

台所でラッキーストライクを深く吸っているユウジロウは言った。

「『岩打ち』からの『花つぶて』?男優は有吉か?」

「正解。男優はホーク有吉さんだよ」

「…ふん。奴はまだ現役か…。だとすれば…そろそろ『手取り』から『横払い』
に入る頃だ」

「お見事」

「相変わらず見え透いた手だな。次は『テコ入れ』から、『露切り』…」

「ん?ちょっと違うよ。テコは入ったけど次は、『ザクロ割り』だよ」

「なに!?『ザクロ割り』…?あの歳でまだ進化するつもりかあの男!」

「あー確かにいつもより上手い運びかもしれないね」


つづく
109本当にあった怖い名無し:2006/08/30(水) 23:55:56 ID:CSOFpkoBO
…朝からパスタ、、
(-o-;)ボェー
110本当にあった怖い名無し:2006/08/31(木) 00:03:08 ID:4PZk0lKl0
「『二の段』に入って…あ!すごいかも。『二人渡り』から『逆さ十字』…」

鍋から麺をザルにあげながらも、ユウジロウの頭の中にはほぼ正確に
アカネが見ているビデオの映像が浮かんでいた。

麺が茹で上がる一分三十秒前からフライパンには火が入れられ、少し
厚めに切ったベーコンが黒コショウと共に炒まっている。

ザルで湯をきった麺がフライパンに大胆に投入される。もうもうと立ち上がる
大量の水蒸気に隠れながら、ユウジロウはホーク有吉の明らかな成長を見た。

少量のバジルを加えて、塩だけで仕上げる。後の味はオリーブオイルに
染み出たニンニクとタカノツメのエキス、そしてベーコンの旨みに任せてある。

後は時間の勝負。手早く炒めてオイルがからまるとすぐに皿に盛り付ける。

たちまち食卓に二皿のぺペロンチーノがあった。

アダルトビデオを鑑賞しながらの食事に嫌悪感を示す者もいるかもしれないが、
山形家ではごく普通の光景である。

「…有吉…上手くなってるな…」

「うん。ちょっと気持ちよさそう」

「お前が見てもそう思うか?」

「ちょっとね」

つづく

111本当にあった怖い名無し:2006/08/31(木) 00:10:51 ID:8afSbYrJO
ホーク有吉キタキター(゚∀゚≡゚∀゚)ー!
112本当にあった怖い名無し:2006/08/31(木) 00:13:21 ID:4PZk0lKl0
「…まぁ…素人では最高レベルに達したか…」

「プロだよ」

「プロと呼ぶにはやや未熟…」

「自分と比べちゃだめだよー」

ユウジロウの朝食用のぺペンチーノはやや味気ない。オイルが
かなり少なめなのだ。一応朝食用に気を使っているが、朝から
ステーキを食えるアカネにとっては無用な心配だった。

少しもそもそとする麺を頬張りながら、黙々とビデオを見続けた。

と、玄関のチャイムが鳴った。午前九時。早い来客だ。

誰かと思えば霧原トオルだった。

鍵を開け、アカネが出迎えた。

「久しぶり。早いね。今日は」

「うん。ちょっと…」

「まだゴハン食べてるんだけど入りなよ」

「うん」


つづく
113本当にあった怖い名無し:2006/08/31(木) 00:18:02 ID:4PZk0lKl0
トオルはよく山形家を訪れたが、例の一件があってからは
来なかった。

久しぶりにユウジロウを見る。

きまずい。

「…霧原…いや…」

「あぁ、もういいよ。気にしてない。先生のことは理解してるつもり」

「…申し訳ない…」

「ごめんね…お兄ちゃん、病気みたいなもんだから…」

「…うん。もう気にしてない」

「聞いたけど…」

「…彼女のこと?」

「うん…おめでとうって言えばいいのかな?」

「…別に結婚するわけじゃないけど…」

「初めての彼女?」

トオルは照れくさそうにうなずいた。

つづく

114本当にあった怖い名無し:2006/08/31(木) 00:24:11 ID:4PZk0lKl0
「サエちゃんって言うんだっけ?」

「詳しいね」

「お兄ちゃんおしゃべりだから」

居づらくなったユウジロウはパスタの皿を持って二階に上がって
いった。自分の書斎で食べるつもりなのだろう。

「ただ来ただけ?」

「…ってかビデオ消してくれると嬉しい」

「あ、ごめん」

テレビを消す。ホーク有吉の姿は消えた。

「…アカネ。彼女できたのはいいんだけど…どうしていいのか
分からなくて…」

「あぁ…中学生だもんね…。とりあえずデートとかしたら?」

「彼女、もう受験なんだよ。一コ上で」

「先輩と付き合ってるのかぁ」

「うん…。どこに連れて行こうにも受験の邪魔しちゃ悪いし、
こっちが下だから勉強教えてあげることもできないし…」


つづく
115本当にあった怖い名無し:2006/08/31(木) 00:35:14 ID:4PZk0lKl0
どうも今日も午後から会うことになっているらしい。

「どうしていいか分からなくて…」

「うん。普通にしてれば?適当にマックとか入ってお喋りとか…」

「…ってかひればっかなんだ」

「あー…そっか…」

「家とか、呼んだら変に思うかな?」

「家…って自宅?早過ぎない?だって御両親いないんでしょ?」

「…うん…やっぱ駄目かな…。ゲームとか色々あるんだけど…」

「でもまた中学生だよね…ありかなぁ…どうなんだろ…大人になると、
やっぱ自宅とか家に直接ってやっぱりエッチなこととか絡んでくる
からさ。ちょっと女としては覚悟がいるというか何と言うか…」

「でも彼女も来たがってるんだ。もう一回来てるし」(杜野峠に行った時。
あの暴走族の。今何かしらんけどまとめサイト落ちてて参照できない…)

「…そか…一回来てるならいいんじゃない…とは思うけど…でもゴメン。
いい加減なこと言えないよ…それぞれの関係もあるし…」

「そうだよね。相談することが間違ってるよね。ごめん」

「謝ることないけどさ…」


つづく
116本当にあった怖い名無し:2006/08/31(木) 00:49:59 ID:4PZk0lKl0
「…変なこと聞いていい…?」

「…彼女は経験済みだって」

「…あ…そっか…ごめん変なこと聞いて…」

不器用な者同士の会話。全く話の核心が見えてこない。
意外とこういう時に核心を見抜くのはユウジロウだった。

やはり必要だったのだ。しかし生憎、今、彼はいない。

お互い変に『ごめん』の多い会話は終わって、トオルは一度
自宅に戻った。アカネは、力になれなくて申し訳ないと詫びたが、
力になれるわけがない。自分たちで何とかするしかないことは
トオルも知っていた。

携帯が鳴る。サエからだった。

「…今日は霧原の家に行きたいんだけど」

彼氏になっても変わらない呼び方。態度。トオルは

「じゃあ家で待ってる」

と電話を切った。掃除は定期的に金で雇われている何者かが
やって来てはやっていくから片付けるものもない。

庭で何となく飼っているネコと遊んでいると、サエの声がした。

「霧原…」

つづく
117本当にあった怖い名無し:2006/08/31(木) 01:00:36 ID:4PZk0lKl0
「…うん」

自宅に遊びに来るだけだから人目など気にすることも
ないのにいつもよりめかし込んで見える。カーゴパンツに
派手な金色の英字のプリントが入ったタンクトップ。それに
黒のパーカー。

簡単な恰好だが似合っている。いつもはジャージとか、更に
簡単ないでたちだった。

「…今日、親とかいるの?」

「今日もいない。俺だけ」

「そう…」

ゲームをしても盛り上がらない。パーカーを脱いで、タンクトップ
から覗く胸の谷間が気になった。

触れれば全てが分かる。サエが考えていること、求めていること。

ただ距離があり過ぎるし、サエはトオルのその能力を知りすぎていた。

触って、求めていることがわかって、してもらって。それでは我慢できない
昂ぶり。


つづく

118本当にあった怖い名無し:2006/08/31(木) 01:11:55 ID:4PZk0lKl0
無意味にゲームのコントローラーを叩く音だけが響いた。

時間だけが過ぎていく。

気付けば顔が近づいて。キス。ここまでは慣れている。
いつものこと。ここからもう一歩。

唾液が糸を引いて二人をつなぐ。その糸をサエは恥ずかしそうに
手で切った。

それが合図。不器用な愛撫。無理矢理な喘ぎ。単なる恥と快感の
錯覚。

「…霧原…」

後は吐息だけ。汗ばんで、べとついた手。不快感はない。それでいい。

とりあえず何処でもいいから舌を這わせて。

馬鹿に明るいゲームの音楽が気になる。サエはコンセントのコードを
引き抜く。無音の世界。

ねちゃねちゃと粘つく音だけがする。後は吐息。

気持ちいいの?分からない。何だか分からない感じ。余裕がない。

とにかく好きな人と肌が触れ合って、それだけ。


つづく
119本当にあった怖い名無し:2006/08/31(木) 01:33:41 ID:4PZk0lKl0
脱いだのか、脱がされたのか、二人、はだか。

舐められるところは舐めて。触れるところはさわって。

勃起。濡れて。一つに。

未熟。お互い果てずに。それでも一つになれた満足。

快感はなくても、その満足だけで、満ちる。

恥ずかしくて、わけがわからなくて。人の身体の中に
自分の一部が入るなんて想像もできなくて。

身体に触れる手に集中すると、とてつもない快感があった。

恥辱と快感、満足。罪悪感。全てが流れてくる。

一見不潔で、神聖。快楽と悦。それは女だけに与えられたもの。

覗いてはならない場所。トオルはその強烈に耐えられず。

そのまま快楽の底。深い闇に堕ちていった。


気付けばサエの姿があった。服をきちんと着ている。

「霧原…手、あったんだよね…」


つづく
120本当にあった怖い名無し:2006/08/31(木) 01:34:22 ID:4PZk0lKl0
この手の能力。記憶、心、思考を読み取る能力。

それは感情の流入。初めて知る危険性。

下手に使えば相手の激情に流されて自分が保てなくなる。

一つになって、自分と彼女の境界線が消えた。

快楽は一つになってもうそれはどちらのものでもない。

結局流されて、耐えられない。

自分が相手に快楽を与える際、どれだけその行為が相手に
有効か、気になるのは人の性。しかしトオルはその手があれば
その真実を見ることができた。

果たしてそれは真に便利で得な道具となり得るのか。

知らないから幸せ。分からないからいいこともあるのではないか。

手を切り離したい想いに駆られながら、トオルは苦悩するのである。

近づけば近づくほどに人は遠く。はっきりと見えれば見えるほど、
人はおぼろだった。

その後のサエの優しいキスがどれだけトオルの救いとなったか。

初体験の失敗に、彼はサエの肩にしがみついて泣いた。

サエは優しく、彼を抱いた。

  終
121作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/31(木) 01:54:03 ID:4PZk0lKl0
なんだこりゃ…自分で読み返してもよくわからん。

ごめん。

寝る。
122作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/31(木) 01:55:01 ID:4PZk0lKl0
>>109
え…変!?俺的にはいつものことなんだが…。
123本当にあった怖い名無し:2006/08/31(木) 01:56:33 ID:8afSbYrJO
作者さん乙です!
初体験!懐かしい…(遠い目)
トオルも無事(?)初体験を済ませてよかったよかった。
初体験に失敗はつきものですよね…(^^;
トオルは手の能力でこっち方面でも色々と苦労する事になりそうですね。
124作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/31(木) 02:05:45 ID:4PZk0lKl0
>>123
ごめん。避難所見てもらえば分かると想うけど
かなり酔ってるんだ。作品として成り立ってるか
どうか…。

一応曖昧で文学的な表現で交わしてる気がするけど…。

トオルに悪いことしたなぁ…。
125作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/31(木) 02:13:41 ID:4PZk0lKl0
私の信愛なる人へ。

今日は、人間として成長した貴方に負けぬよう、最高の作品を
描くつもりだったけれど、そのプレッシャーからアルコールに負けて
自分でも評価できない、妙な作品になってしまったよ。

申し訳ない。貴方に比べて、まだ私は弱いらしい。

許して欲しい。しかし私はまだ諦めない。
126本当にあった怖い名無し:2006/08/31(木) 04:26:20 ID:v5qVkEdZO
作者さん、自分自身に反省文(?_?)
でも、大丈夫ですよ。トオルのもどかしいモヤモヤした気持ちや情けなさは伝わりましたよ(^-^)
飲み過ぎにはお気を付けてw
127本当にあった怖い名無し:2006/08/31(木) 18:19:42 ID:mP9IPVvW0
>>101
亀レススマソ。
見透かされてますねw
コスフェチとしては、テニスウェアの乱れる描写などがあるともっと楽しめたかもしれませんねw
リクネタまだありますんで、必要だったら一声くださいね〜。
128作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/08/31(木) 18:23:49 ID:4PZk0lKl0
>>124
>一応曖昧で文学的な表現で交わしてる気がするけど…。

記憶とんでるんだけどコイツは絶対馬鹿じゃないかと思う。
どこが文学的なんだボケ。俺だけど。
129本当にあった怖い名無し:2006/09/01(金) 00:15:31 ID:TMKJutHLO
作者様、>>115
>「うん。普通にしてれば?適当にマックとか入ってお喋りとか…」
> 「…ってかひればっかなんだ」
のトオルのセリフが良く分かりません。。
フカヒレ?な訳ないですね。
上のレス、一瞬、嵐?かと思ってしまいましたよー。
トオルの苦悩と試行錯誤する所など青い春な雰囲気が溢れてて、もどかしくて微笑ましくて、私はよかったと思います。
130本当にあった怖い名無し:2006/09/01(金) 00:35:06 ID:WpCiZjpnO
>>129
作者さんじゃありませんが、
「…ってかそればっかなんだ」
と、私は解釈しました。
違ってたらごめんなさいです^^;
131作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/01(金) 00:52:23 ID:XytSX1Gx0
>>129
> 作者様、>>115
> >「うん。普通にしてれば?適当にマックとか入ってお喋りとか…」
> > 「…ってかひればっかなんだ」

ごめん。タイプミス。別の人にも直接聞かれた。正しくは

「…ってか『そ』ればっかなんだ」

です。ローマ字入力ではなく、昔からの癖で仮名入力なもので、ローマ字入力では
考えられないタイプミスが発生します。たまにあるので『ん?』と思ったらキーボード
を見て頂けるとヒントになるかと思います。『ひ』と『そ』は隣り合ってるんです。
すいませんでした。

>>130
フォロー感謝します。ありがとう。


あと読者の皆様にお知らせします。いつも夜投下していましたが仕事の関係で
明日の日中投下することになりました。時間はちょっと分かりません。最悪の
ケースでは明日も投下不可能かもしれません。

また、明後日、土曜日はほぼ確実に投下不可能です。

よろしくお願いします。待ってて起きててくれた方、いらっしゃったらお詫び致します。
申し訳ありませんでした。二連休には余りしたくないのでなるべく明日は投下できる
よう善処します。
132作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/01(金) 15:11:00 ID:XytSX1Gx0
さてここらで怖い話でもするか。

軽子沢中学一年、雪野カエデは、いつも通り、二年A組にいた。
賑やかだった頃はもう遠く。無口で頼りない男が一人。


つづく
133作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/01(金) 15:22:58 ID:XytSX1Gx0
特に交わす言葉もなく、思い出す。

大人びて、しっかりしていそうで、でも少どこか抜けていた岡崎リョウコ。
綺麗な人だったな。受験が大変みたいだけど大丈夫かな。

大きな目で、いつも明るい。童顔で一番親しみやすかった草壁アヤ。
高校には行かず、アイドルになるって。でも本当になっちゃいそうな魅力ある人。

男っぽくて大雑把。度胸もあって整った顔立ちの木下サエ。
宝塚みたいにカッコイイ人。知ってるんだ。今は霧原先輩と付き合ってる。

一見ばらばらで、でも妙に噛みあっていた。その三年生に混じって、自分。でも
対等に扱ってくれた。始めは敬語も使ってたけど、最後は友達みたいに。

あと一年ぐらい一緒にいたかったな。

オカルト同好会。七名いた会員のうち、十月に入り、受験に向けて三人の三年生が
抜けた。名簿上残りは四名。うち二人は幽霊部員の男子だった。

実際に動いているのは霧原トオル現会長と、一年のカエデのたった二人。

特に嫌いとか苦手というわけではなかったが、喋ることもない。特に霧原トオルは、
人嫌いで孤独が好きな大人しい人間だった。

カエデは賑やかな環境が好きだが、異性は少し苦手だった。ましてや年上。自分が
世話になった先輩の恋人。なかなか話しかけづらい。何か罪悪感めいたものを感じて
しまう。


つづく
134作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/01(金) 15:41:00 ID:XytSX1Gx0
教室のドアが開いて、顧問の山形ユウジロウが現れた。

見たことのない表情をしている。二人は察した。そして少し、寂しい。

「悪い。今色々校長と話していたんだが…。やはり同好会としての存続は
認められないらしい…」

「…解散ですね…?」

「すまん…」

かなりエッチで、たくさんセクハラみたいなことをしてくるけど、優しい山形先生。
はじめ大嫌いだったけど、今は嫌いじゃないよ。セクハラもなんか楽しいし、
本気で怒るとヘコんでやめちゃうし、そうなるとなんかちっちゃい子みたいで。
少し可愛いんだ。いじけて。でも先生とは大丈夫。来年になって、二年生に
なったら『情報倫理学』の授業が始まる。担当は山形先生だから、お別れって
わけじゃない。

今日も定員割れした同好会を何とか続けさせようと校長先生と話し合って来て
くれた。でもやっぱり駄目だったみたい。仕方ないね。二人しかいないし。

色々友達誘ったけど、信じてない子は馬鹿にするだけだし、信じてる子も、
『あまりそういうことやると逆に悪い霊が集まって来て祟られるんだよ』
とか言って怖がって入ってくれなかった。

実際活動したのって一ヶ月ちょっと?信じられない。その間にUFOも見たし
(第四十二話 『不惑知らず』 参照) 、変な悪魔みたいのが出てきて一人先輩が亡くなって
(第三十六話 『紅蓮栄華』 参照)、こないだは暴走族の幽霊見て、絶対内緒だけど
福岡先生が元ヤンキーだったって知った。(第五十五話 『彼岸峠』 参照)

つづく
135本当にあった怖い名無し:2006/09/01(金) 16:03:33 ID:R5a7oHqO0
オカルト同好会がピーンチヽ(´Д`;≡;´Д`)丿
136作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/01(金) 16:09:20 ID:XytSX1Gx0
文化祭も準備してる時から不思議なことがいっぱいで、霧原
先輩の死んだおじいちゃんとおばあちゃんも来たんだって。
第五十話 『狩猟の歌』〜 第五十一話 『雪解』 参照)


「先生が謝ることじゃないよ!」

カエデは言った。ユウジロウは救われた気がしたが、何となく
自分のふがいなさを感じるのである。何かもっとできることは
あったのではないか。自分に怠慢はなかったか。

いっそ女子テニス部を全員虜にして、こっちに全員ブチ込んじまえば
よかった…。

「…俺も、ごめん…。友達とか、あんまいないから…」

一応会長としてトオルも責任を感じていた。優秀な同好会であったとは
思う。それが自分が会長職を担っている時に解散してしまう。気分が
いいものではない。しかし、かつて同好会を創った時に、三年の三人娘
が行ったように、校内を行脚して会員を集める度胸は自分にはなかった。

「…まぁ…仕方ない。俺も残念だ。いい同好会だったと思うよ。誰が悪い
わけじゃない」

窓を大きく開けてラッキーストライクを吸う。勿論禁止されている行為だ。
校舎内で喫煙を許されているのは、職員室にある喫煙ブースのみ。

もし発覚するとかなりの問題になると思われるのだが、ユウジロウは
その辺り豪快である。


つづく
137作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/01(金) 16:21:59 ID:XytSX1Gx0
霧原トオル。雪野カエデ。同好会を運営していく上で余りに
頼りない二人。

両者とも友達はいない。カエデも口を聞ける程度の友人はいたが、
気の置けない親友というわけではない。

トオルにおいては正に孤独。彼女がいるのが奇跡的な程だ。下手を
すれば登校から下校まで、全く口を開かない日もあった。

「会長から何か、言葉はあるか?」

「…別に…」

顧問と会長に黙ってカエデは流されることにした。どうしようもない所
まできている。解散もやむなし。ただまだ一年生である。次どの部に
入ろうか悩んだ。

どこに入り込んでも中途採用みたいなもので、既に出来上がった人の輪に
上手く溶け込めるだろうか。ここに入った理由も、オカルトに興味があったと
いうより、全く新しい同好会ということで、その点が楽そうだったということが
大きい。

個人相手ならば臆することもないが、集団を相手にするのは少し怖かった。
村八分になりはしないか。虐められはしないか。仲間はずれにならないか。

小学生の頃のイジメの記憶。彼女は地方都市からの転校生だった。

クラスには既に幾つかのグループがあって、そのどれにも所属できない孤独。
特に虐げられたわけではないが、誰にも相手にされないことが苦痛だった。


つづく
138作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/01(金) 16:35:15 ID:XytSX1Gx0
学校を休んでも次の日誰も心配してくれるわけじゃない。

先生に指名されて、質問に答えられず困っていると、近くにいた
仲間がアシストしてくれる。

カエデにはそれもない。ただ答えられず立ち尽くして、好奇の目に
晒され、教師からは小言を言われ、笑われる。

意識したことはないがプライドのようなものは確かにあって、ひどく
悔しい思いをした。それを虐められていると思い込んでいた時期も
ある。

その記憶が彼女の引っ込み思案を生んだ。無理に部活に入る必要も
ないが、内申書的にも部活をしていた方が何かと有利だと聞かされている。

そのタバコっていつも何か困った時に吸ってるけど、悩みがすぅって
消えるものなの?だったらあたしも吸ってみたいな。気持ちよくなれるなら。
憂鬱ってこういうことなのかな。

相談する相手もいない。相談すれば多分、『じゃあウチの部活においでよ』
って言ってくれる人はいる。でも後が続かない。どういうわけかそういう誘いに
乗って動くと、ろくなことがないんだ。

その誘ってくれた人は面倒を見てくれるわけでもなく、誰に紹介してくれるわけ
でもなく、無責任で。そしてまた、あたしは、一人。

いつもそんな感じ。男子ばっかで思いっきり地味な電算機同好会にでも
入ろうか。でもあそこはエッチなゲームばかりしてるオタクの集まりって聞いた。
でもそれはそれでいいかも。別にどうでもいいし。虐めなそうだし。


つづく
139作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/01(金) 16:46:56 ID:XytSX1Gx0
「…しかし霧原も雪野も放り出されちまうわけだな…。何か
他に入りたい部活とかあるのか?」

「…俺はいいよ別に。部活なんか」

「あたしも今のところないです」

「何処かに所属しておいた方が後々なにかといいぞ。思い出も
できる」

「充分作ったからいいよ…でも雪野さんはまだ一年生だから…」

初めてトオルがカエデを気にする言動をした。カエデは驚いた。
へえ、そういう神経もあるのかこの人は…。名前を呼ばれるのも
初めてだった。

「そうだよな…でもとりあえずオカルト同好会は一度解散だ。そればかり
はどうしようもなかった。また新しい同好会を創りたいとか、改めてオカルト
同好会を復活させたいと言うなら、相談に来てくれ。考えるから。今日は
帰って、少し考えてみよう」

先生のそういうトコ、好きだよ。考えさせてくれる。何も無理に押し付けない。
あたしたちを子供扱いしない。間違ってたらそっと直してくれるけど、自分で
考える余裕みたいのをくれる。協力もしてくれるけど、必要最低限。それも
なんかいい。全部やられちゃうと、ちょっとつまらないんだ。

霧原先輩はいつも最後に帰ってたけど最近は一番に教室を出て行く。彼女
が出来たからかな。木下先輩と会うのかな。どんな付き合い方してるんだろ。


つづく
140作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/01(金) 16:55:38 ID:XytSX1Gx0
「…雪野、帰らないのか?」

「あ、もうちょっとここにいたいんです」

「…そうか…悪かったな。力になれなくて…」

「全然気にしてないですよ!」

「すまない…窓の鍵だけ確認してくれな」

教室に一人。結局言えなかった、真実。先生は幽霊を見る目があって、
霧原先輩は触ると人の心が読める。不思議な力。でも二人だけじゃない。

あたしにも。

『あれ、オカルト同好会で終わっちゃうの?』

『二人きりじゃしょうがないね』

『寂しいなー』

机とか黒板とか、窓とか。全部喋るんだ。声が聞こえる。おばあちゃんは、
『ヤオヨロズ』って言ってたけど、なんか合ってない感じがして、勝手に
『妖精さん』って呼んでるけど。その声が聞こえる能力。内緒の力。

木でも石でも、人が作ったものでもそこに『妖精さん』はいる。頭オカシイって
思われるのイヤだから、誰にも言わない。でも聞こえるんだ。


つづく
141本当にあった怖い名無し:2006/09/01(金) 16:58:04 ID:Ne/nR1h8O
能力者揃い踏みw
142作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/01(金) 17:04:12 ID:XytSX1Gx0
『あーよかったー。あのトールとかいう奴いつも俺に座るんだもん。
俺机なのに!』

『うーん。俺はやっぱり寂しいぞ』

『お前はいいよリョーコが座ってた。あの子のお尻は柔らかそうだ』

『サエのお尻も柔らかいよ』

『でもサエは乱暴にするんだ。すぐ蹴ったりする』

『そーそー』

『でももう同好会は終わりだってさ』

『ホーカゴは寂しいね』

『カエデは平気?』

「…ううん。あんま平気じゃない。寂しい」

『でも俺たちの仲間と話せる』

『そーそー寂しくない。俺たちいつも一緒』

不思議なこと。『妖精さん』は全てバラバラなようで、でもつながっていて、
全体で一つだ。ちょっと理解できない。家にいる机の『妖精さん』も、学校
の椅子の『妖精さん』と別物のようで一つらしい。だからよく『俺たち』、
『わたしたち』という表現をする。


つづく
143作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/01(金) 17:18:58 ID:XytSX1Gx0
だからどこに行っても『妖精さん』はあたしのことを知っている。

初めて行く場所の初めて見る木でも。ただ姿は見えない。お話
だけ。

全てがつながっているから、地球の裏側の話も聞こうと思えば
聞ける。木下先輩が霧原先輩とつきあってるってことも『妖精さん』が
教えてくれた。

そう。あの時。小学生の頃の先生はあたしが嫌いだったのか、それとも
面白がってたのか、よく難しい問題を出してはあたしを指名した。

答えられず固まる。『分かりません』というのは自分で許せなかった。
でも分からないものはやっぱり分からなくて。結局小馬鹿にされて
笑われて。

あたしから嫌な顔をしないでヘラヘラしてたから、先生もウケを狙う
つもりでやってたのかな。分からないけど。

でも嫌だったなぁ。みんなに笑われて。先生はそれをあたしが人気がある
証拠、クラスに溶け込んだ証拠って思ってたみたい。信じらんないよね。
馬鹿にされて笑われてるのに。先生から見ればクラスの団欒、みたいな。

そしたら突然聞こえたんだ。『妖精さん』の声。答えを教えてくれたり、先生
を非難したり。味方してくれた。

ホント、頭おかしくなったのかと思ったけど、ある日お婆ちゃんにだけ聞いたんだ。
そしたらおばあちゃんも昔は聞こえたって。『ヤオヨロズ』って言うんだってさ。


つづく
144作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/01(金) 17:29:46 ID:XytSX1Gx0
ただその『ヤオヨロズ』にお願い事をしちゃいけないよって言った。

何となくよく分かって、『妖精さん』とはお話するだけにした。

六年生になって、あたしはだいぶ落ち着いた。『妖精さん』がいつでも
どこでも側にいてくれたから。

何があっても恥ずかしい目にあってもへらへらしてるあたしが、気に
入らないらしい子もいた。ある日呼び出されて、頭から水かけられたり、
蹴られたり。それでも『妖精さん』は近くにいて、

『頑張れ』とか『負けるな』とか。だからほっといたんだけど。そのうち、
ホースで首絞められて。苦しかったなー。死ぬと思って。つい、お願い
しちゃったんだよね。『助けて。こいつをやっつけて』って。『助けて』だけ
だったらよかったかも。

長いホースがどういうわけかその子の首に巻きついて、呆気なく死んじゃった。

『これでいい?』

『やっつけたよ!』

あたしが『妖精さん』にお礼言ったらみんな喜んでたっけ。死んでるその子
見てたら何か怖くなって、逃げて。帰って。それっきり。

それからは何もお願いしたことはない。少し怖いと思いながら適当な距離を
とって『妖精さん』とはつきあってる。


つづく
145作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/01(金) 17:41:55 ID:XytSX1Gx0
「どの部活に入ったら上手くやっていけるかな?」

『電算機同好会はダメだよ!あそこはヘンタイばっかり!』

『吹奏楽部はいいよ。みんなナカヨシ!イジメたりしないよ!』

『そうだ吹奏楽部はいいね!』

『イーヨイーヨ』

そうか。全部で一つ。『妖精さん』に聞けば全部分かるんだ。
早速明日入部希望を出してみよう。吹奏楽かぁ。楽器って
やったことないなぁ。楽しいかな。

『タノシイよ!楽器オモシロイ!』

「そっかぁ。ありがとう。じゃやるだけやってみるね」

『ガンバッテ!』


少しあって、二年A組の電灯は消された。オカルト同好会は完全に
解散である。ユウジロウが職員室の喫煙ブースで煙草を吸っていると
校庭を校門に向かって歩くカエデの姿が見えた。

『山形センセーが見てるよ!』

振り返って大きく手を振るカエデが見えたが、何故自分がカエデの姿を
見ていることが彼女に分かったのか、ユウジロウには分からず不思議
だった。オカルト同好会最後の小さい出来事だった。

  終
146作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/01(金) 17:46:37 ID:XytSX1Gx0
なんか最近スピンオフ作品っぽいのが多いですが、オカルト同好会
にあって恐らく最も地味だった一年生、雪野カエデのお話でした。

解散にあたって、やはり地味だった彼女に光を当てるべきだと思い
ました。いかがだったでしょうか。

実は『ヤオヨロズ』との交信が可能だったカエデ。この特殊能力に
より、また登場する機会もあるのではないかと思います。

ファンは少なそうだけどww

読んでくれた皆さんへ、ありがとう。
147本当にあった怖い名無し:2006/09/01(金) 18:49:19 ID:Ne/nR1h8O
乙でした!
カエデ、素直な子だからよかった。だからこそヤオヨロズと話せるのかな?
性格が最悪だったら怖いな…。何でも知れる、してもらえる事になるよね…。
148作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/02(土) 00:09:46 ID:t5n/6El80
さてここらで短い話でもするか。

山形アカネは自宅で退屈だった。最近めっきり出番がないのである。
たまにあったと思ったら理由も知らされず四百万円を兄に持ち出されたり
アダルトビデオの実況をやらされたり…。

現時点でレスは百四七。試しに『アカネ』で検索したら抽出されたレスは
なんとたったの十二。

アカネは凹んでいた。全然出てないじゃんあたし…。

財政界の大物が並ぶ携帯電話のアドレス帳から『作者 ◆xDdCPf7i9g』
を探し出し電話した。

「はい。もしもし?」

「あ…山形アカネですけど…」

「はあ?」

自分が書いた作品の登場人物からの電話。ドキュメンタリーではない。
空想小説だ。ありえる訳がない。誰かの悪質な悪戯か。『作者 ◆xDdCPf7i9g』
は問答無用で電話を切り、『タモリ倶楽部』鑑賞の邪魔をされたらたまらないと
そのまま携帯の電源を切った。

「お客様のおかけになった電話番号は電波の届かない所に…」

おのれ!山形アカネ。将軍家御付艶事指南役の血を引く誇り高き女である。
涙で枕を濡らすまでもない。明日の主役はあたしなんだから!眠るアカネで
あったが残念ながら明日は休載日なのであった。頑張れアカネ!!

  終
149本当にあった怖い名無し:2006/09/02(土) 00:19:09 ID:L01rbtg0O
キター(゚∀゚)ー!!
150作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/02(土) 00:19:37 ID:t5n/6El80
>>149
ごめんもう終わってるwww
151本当にあった怖い名無し:2006/09/02(土) 00:26:08 ID:L01rbtg0O
あれ?wwwww
携帯なもので、全部読む前にレスしてしまいますたorz
次回はアカネのお話という事で楽しみにしています^^;
152本当にあった怖い名無し:2006/09/02(土) 00:31:57 ID:L01rbtg0O
ああ、しかもアカネのお話になるとは一言も書いてないしorz
テンパり杉orz
じゃあアカネが頑張る様に応援していますw
153作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/02(土) 00:55:55 ID:t5n/6El80
>>151-152

ごめんごめん。本当に『タモリ倶楽部』見たさにヒマツブシで書いたから
混乱させちゃいました。ごめん。
154本当にあった怖い名無し:2006/09/02(土) 17:53:12 ID:yqDtqMaw0
>>153

最初の頃の強烈なアカネ(中学生を犯してユウジロウビデオ撮影してましたよね)
に比べたらここんとこ出番も少ないし大人しいと思っていたので
アカネもそう思ってるんなら是非、頑張ってくれ〜!

まとめサイト見れないんですがどうしちゃったんだろ?
155本当にあった怖い名無し:2006/09/03(日) 14:02:31 ID:Rk8KcDAi0
↑すみません、見れましたorz

まとめサイト改めて読むとすごいなぁ、きっちり整理されて。
みなさん乙ですorz
156作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/03(日) 21:35:36 ID:ew4/HxNT0
>>155
> ↑すみません、見れましたorz
> まとめサイト改めて読むとすごいなぁ、きっちり整理されて。
> みなさん乙ですorz

ちょwww最後なんでヘコんじゃうのよwwww

あ…土下座してるのか…?そういう使い方もアリなの?orzって。
157本当にあった怖い名無し:2006/09/03(日) 23:56:14 ID:ew4/HxNT0
さてここらで怖い話でもするか。

「…え、じゃあオカルト同好会って解散なの?」
「…結局そういうことになっちまったな…」

つづく
158本当にあった怖い名無し:2006/09/04(月) 00:01:10 ID:ew4/HxNT0
「へー…なんかアッという間だったね…。そんなすぐ終わっちゃうなら
文化祭行けばよかった」

「ほら見ろ。誘ったのに」

「だって…」

「まぁそれはいいけど」

「じゃあみんなバラバラになっちゃったの?」

「うーん…でも霧原と木下は付き合ってるからなぁ。木下はみんなと仲が
良かったし」

「またみんなで集まれたらいいね」

「三年は受験があるから。あ、そうそう草壁だけは高校受けないらしい」

「就職?」

「いや、芸能人になるんだとさ」

「へー…大変そう…。草壁さんって…アヤちゃん…だっけ?」

「そうそう」

「へー。見たことないけど…」

「確かに可愛らしい顔をしてるよ。歌も上手いらしいし。バレエかなんか、
ずっとやってるそうだよ」

つづく
159本当にあった怖い名無し:2006/09/04(月) 00:07:35 ID:C9kUiuia0
「歌と踊りはイケるんだね。だったら大丈夫そう…。まぁ何か
あったら声かけてよ」

「…ん?」

「お客さんにプロダクションの社長さんもいるから」

「…そんなのまでいるのか?」

「まあね」

「…おい、ちょっと待て、これって豚肉か?」

「…バレた?」

「やっぱり!牛肉使えよ」

「ウシは嫌いなの」

「…でも草壁ってやつは面白い娘でな。中三になってまだ自転車に
乗れないんだ」

「うそ!?」

「本当らしい」

「…芸能人になりたいなんていう人は変わった人が多いのかな」

「人としては別にかわってるわけじゃにないが」


つづく
160本当にあった怖い名無し:2006/09/04(月) 00:19:50 ID:C9kUiuia0
「…自転車かぁ…しばらく乗ってないなあ。そういえばあたしって、
いくつから自転車乗ってた?」

「お前も少し遅かったぞ。補助輪なしで乗れるようになったのは…
多分小学校に入ってからだな」

「それって遅いの?」

「…俺は幼稚園の頃から乗り回してたぞ。補助輪なしで」

「…そういえば自転車ってあんまり興味なかったな。歩くのが好きだった」

「今でもそうだろ。歩くの好きだろ?」

「うん。まぁ…そうだけど」

「よくもまぁチョコチョコあっちこっち行っちゃ心配かけたよ。お前は」

「心配することないのに」

「するだろ普通。どこで遊んでたんだ?」

「色んなトコ。ドーナツ池とかよく行ったなぁ懐かしい」

「…は?ドーナツ池?真ん中にヤシロのある?」

「ヤシロだかホコラだかわからないけど、ドーナツの形した池」


つづく
161本当にあった怖い名無し:2006/09/04(月) 00:28:02 ID:C9kUiuia0
「…いつ?」

「うーん…4つとか5つとか。まだ小学校に上がる前」

「あはは…そりゃ記憶違いだ。自転車乗るようになってからだろ」

「ううん。歩いて行ってたよ」

「アカネお前あそこまでどんぐらいあると思ってるんだ?駅越えた
向こうだぞ?三キロはある。幼稚園の子が歩いて行ける距離じゃない」

「だって行ってたもん!周りがちょっと林で薄暗くて、丸くて…小さな橋が
かかってて、真ん中に神社の小さいのみたいのがある…」

「いや、ドーナツ池はみんなこの辺の子供らは遊びに行くよ。でも幼稚園の
頃じゃないだろうって」

「いや、幼稚園だった。歩いていった。ムネノリ君と一緒に」

「ムネノリ君…?」

「うん。ちょっと年上だったっけなぁ…あ…やっぱ豚肉じゃ美味しくないね。
これ失敗」

「ほら見ろ。で、誰だムネノリって?」

「チキンにすればよかった…失敗だ…。ムネノリ君って誰だろ…幼稚園で
一緒ってわけでもない気がする…友達?」


つづく
162本当にあった怖い名無し:2006/09/04(月) 00:28:13 ID:dkVFQalU0
ヤシロ?ホコラ?とにかくキター(゚∀゚)ー!!
163本当にあった怖い名無し:2006/09/04(月) 00:30:23 ID:2V/pTIR4O
柳生ムネノリ君
164本当にあった怖い名無し:2006/09/04(月) 00:33:07 ID:cpvQ7of40
作者さんのIDが何かに訳せそうで訳せない・・。駄目だ、気になる・・
165本当にあった怖い名無し:2006/09/04(月) 00:36:50 ID:C9kUiuia0
「…俺が知るか」

「友達だよ。よくウチに迎えに来て、一緒にでかけたもん」

「知らないぞ。そんな子…」

「知らないはずないよ。家の外で必ず声かけてたもん」

「声って?」

「アーカーネちゃん、あーそーぼーって」

「そんな声聞いたこともない。お前言っちゃ悪いけど友達なんて
ほとんどいなかったぞ」

「ひっどーい」

「事実だよ。母さんと一緒に心配してたんだから。友達が全然できない
から」

「でもムネノリ君は別。しょっちゅう一緒に遊んでた」

「どんなことして?」

「どんなことって…あ、お兄ちゃん、おかわりは?」

「あぁ、あと少しでいいや。あと味噌汁もう一杯。具、多目で」

「はーい」


つづく
166作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/04(月) 00:45:24 ID:C9kUiuia0
「お兄ちゃんってなんかあたしの友達関係気にするよね。特に
男。ヤキモチ?はいゴハン」

「そんなんじゃねぇや。ありがとう。あ、ちょっと多すぎるよ」

「…そういえば…ムネノリ君とは…ドーナツ池に行った記憶しかないな…」

「あんな池しかない所にばっか?」

「…ザリガニ釣ったり…」

「それぐらいしかすることないよ。あそこは」

「水遊びってできない?」

「おいおい…実際はしらないけど、あそこは池の底に水深より深い泥が
積もってて、下手に入れば出れなくなるって子供の間じゃ常識だったぞ」

「…そう…」

「だいたい岸から水辺までも随分あったろ。水も汚かったし、入って遊ぶ
ような池じゃない」

「そっか…」

「この辺じゃある程度の年齢になると必ず注意されるんだ。ドーナツ池で遊ぶな
って。危ないから。俺も母さんからよく言われたよ。内緒で行ってたけど」


つづく
167作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/04(月) 00:59:54 ID:C9kUiuia0
「よく覚えてるつもりだったけど…改めて聞かれるとあんまり
覚えてないなぁ…」

「大体何処で知り合った…というかどういう関係の友達なんだよ」

「うーん…ちょっと年上の人だった気もする…」

「自転車にも乗れないお前連れてドーナツ池まで行けるんだからそりゃ
年上だろうな。幼稚園同志じゃ絶対無理だよ」

「そんな遠かった?」

「遠いよ。今だって歩いて行けって言われたらちょっと面倒くさいぐらいだ。
ましてや当時はこの家じゃなくて母さんの家に住んでたんだぞ。尚更だ」

「そんなに…。確かに歩いた記憶があるよ…色んなこと話しながら」

「記憶違いだと思うけどな」

「そんなことないよ」

「じゃあムネノリってどこの子だったんだよ?その後は?」

「…知らない…迎えに来たらあたしが出て行くって感じで…。いつの間にか
疎遠になった。あたしが小学校に上がったぐらいからかな…?あ!」

「なんだよ急に大声出すなよ…あぁあ…豆腐落っことしちゃった…」


つづく
168作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/04(月) 01:14:30 ID:C9kUiuia0
「あたし、一人で帰ってたよ!」

「はぁ…?ちょっとティッシュ取ってくれ。豆腐落としちまったよ」

「…でも一緒に行った覚えはあるけど帰った覚えがない…はい」

「サンキュ…一人で帰るって…それこそ夢物語じゃないか。行きは一緒で
帰りは一人?」

「ドーナツ池の近所の子だったのかなぁ…?」

「でもわざわざ迎えには来てくれるのに、帰りはほったらかしかよ?」

「何か変だよねぇ…」

「変…だよなぁ…」

「でもドーナツ池の記憶ってそのムネノリ君と行った記憶しかないんだよ。
一人じゃ絶対行かないし、小学校上がってからも…行ってないんじゃない
かなぁ…。お兄ちゃん、連れて行ってくれたことある?」

「いや…さっきも行ったけど…ザリガニ釣りぐらいしか用ないからな。あそこ。
ただ、みんな、親に危ないから行くなって言われてて、そう言われると行きたく
なるのが心理じゃないか」

「うん」

「だからみんなよく行ったし、知らない連中もたくさんいたけど…お前が幼稚園
の頃には俺もう大学生か、教員始めてたからなぁ…。連れて行った記憶はない
な」

つづく
169作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/04(月) 01:25:11 ID:C9kUiuia0
「でも、市役所に抜ける道沿いの、ちょっと林があって、その中
にあったよね」

「あぁ、今は新庁舎になったけど、旧市役所通りな。場所は間違い
ない。そうそう。少し林があって、柵があって、その中に入っていくと、
ある」

「じゃあ間違いないよ。確かにしょっちゅう行った。市役所通りって、
歩道もなくて、クルマの通りも多くてムネノリ君と一緒だったけど、
ちょっと怖い記憶があるもん」

「…歩道…あーうんうん。今は道が広がってるけどお前が幼稚園
の頃まではそうだな。そんな感じだった」

「ほら。確かでしょ」

「でもその危ない道をムネノリは小さなアカネを放って一人で帰したの?」

「…そんなに無責任な人だったかな…でも行くのは一緒だったから
いいけど、帰りは結構必死だったよ。暗くなる前に帰らないといけないし」

「…三キロ…子供の脚でどれほどのもんだか…」

「結構歩いたよー」

「結構で済めばいいさ。線路越えて向こうって、小学生にとってもちょっと
未知の領域って感じで、大人の感覚で言えば海外旅行みたいなイメージ
があったぜ。大冒険、みたいな」


つづく
170作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/04(月) 01:35:46 ID:C9kUiuia0
「…うん。想像すれば分かる気がしてきた。幼稚園の女の子が一人
で行ったり来たりする場所じゃないよね…。今、マルトクがある辺り
だもんね…」

「マルトク?」

「ほら、スーパーの」

「あーそうそう。その辺りだ。俺が子供の頃はあっちまでドーナツ池の
林が広がってたんだ。それをいつだか切り開いてスーパーができた」

「気になるなぁ。ムネノリ君…今どうなってるんだろう…」

「でも池の近所の子で間違いないんじゃないか?帰りは面倒くさいから、
自分だけ近い家に帰って、アカネを一人で帰したんだろ」

「…そんなだったかなぁ…」

「無理に思い出しても出てこないこともあるよ。風呂入るぞ。ちょっと今日は
疲れた」

「あ、うん。もう沸いてるから…あ、ボディソープ残り少ないからあたしの分も
取っといてね。買い忘れた。

「あぁ。分かった」


つづく
171作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/04(月) 01:40:57 ID:C9kUiuia0
「ちょっと出かけていい?」

「ん?買い物か?」

「ううん…。散歩」

「どこまで?」

「ちょっと前、ドーナツ池の話したじゃん」

「あー何だっけ。トモノリ君」

「違うムネノリ。ムネノリ君」

「あぁ。そうだったそうだった」

「懐かしくなって。行ってみようかなって」

「歩きで?」

「うん。御一緒して頂けます?」

「…喜んで。お嬢様」

「まぁ嬉しい」

「…あまり嬉かないけどね」


つづく
172作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/04(月) 01:45:38 ID:C9kUiuia0


「…行く意味あるのか?」

「いや記憶通りかなって」

「もう二十年近く経つんだ随分変わってるよ」

「そうかな」

「…変わってないらしい…」

「すごい…当時のまんまだ…」

「当時はもっと子供だらけだったもんだがなぁ…」

「寂しいね。少子化かな」

「単に子供が少ないのか、それとも外で遊ぶ子供が少ないのか…」

「…お兄ちゃんちょっとまって何かいる…」

「…ん。…人だ…多分管理してる人だよ」

「…そか…びっくりした…本当だ。ホウキ持ってる…あれ?」

「なに?」

「あの人知ってる!」


つづく
173本当にあった怖い名無し:2006/09/04(月) 01:47:30 ID:UQL6yyweO
わっ!いつのまにかキテタ!(゚∀゚;)
今日は無いのかと思って油断してた(ノ∀`)
174作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/04(月) 01:52:48 ID:C9kUiuia0
「こんにちわ。ご苦労様です」

「…あぁ…どうも…珍しいな。人が来るなんて…」

「そうなんですか?」

「昔は随分と子供が来て遊んでいったものですが…最近は
めっきり…たまに地元の婆さんが賽銭くれに来るぐらいですよ」

「そうなんですか…」

「あの石碑は何か歴史があるものなんですか?」

「石碑…あぁ、あれは石碑というか…慰霊碑です…」

「慰霊…?」

「そうです。もう何十年経ちますかね。子供が溺れて亡くなったんです。
実際は浅い池なんですけどね。不運な事故でした」

「…その亡くなったお子さんって…」

「えぇ地元の子でなんと言ったかな…お名前が碑に彫ってありますよ。
もうこんなに苔むしちゃって…私が綺麗にするべきなんですが…ご覧の通りの
年寄りでなかなか身体が動かないもんで…」

「…お一人じゃ大変でしょうね…お手伝いしますよ」


つづく
175作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/04(月) 02:04:38 ID:C9kUiuia0
「あぁいやいや結構です。私の仕事ですから…あぁこれだこれだ。
そうそう。熊本ムネノリ君…もう亡くなって四十年以上経つんですね…。
以前は親族の方か、お知り合いの方か、お花やお菓子を備えに
来ましたが…そうか…もう四十年も経てば…誰も来やしませんよね…」

「そうですか…。色々お話伺えてよかったです」

「いえいえ…私もあの子を思い出すいい機会ができました」

「…アカネ…」

「…マルトク行こう…」

「…買い物?」

「うん。お菓子と…あとお花も売ってるかな…」



「やあ、どうも。少しこすってやったら苔も取れましたよ。だいぶ
綺麗になったでしょう…お供えですか?あーあの子も喜びますよ
きっと」

「また、来ます。お爺さんも頑張ってください」

「あぁ、はい。また遊びに来てやって下さい。ありがとうございます」

「御免下さい…」

つづく

176作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/04(月) 02:26:38 ID:C9kUiuia0
「あら…アカネ、何してるの?」

「あ、母さん」

「おやユウジロウも一緒かい。家の周りの草取りでもしようかと
思って…だいぶ涼しくなったね。身体は大丈夫?」

「二人とも元気だよ」

「そりゃよかった…何かあったの?」

「ん?あぁ今、ちょっと…」

「何だい…え?ドーナツ池?…ムネノリ…聞かない子だねぇ…。あぁ、
あすこの話…。あすこはホコラじゃないよ。神主さんこそいないけど、
歴とした神社だよ。そうそう。ユウジロウが生まれるのと同じ頃、男の子
が溺れて亡くなって…」

「知ってたのか…」

「知ってるも何も当時のこの辺りじゃ大きな事件だよ。だからユウジロウには
あすこに行ったら危ないって何度も行ったろ?」


つづく
177作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/04(月) 02:36:31 ID:C9kUiuia0
「それでか…」

「…それにしても妙な話もあるもんだね…でも覚えてることがあるよ。アカネが
小さい頃、ズブ濡れで帰ってきてね。驚いてワケを聞いたらお兄ちゃんに
連れてかれそうになったって。でもお兄ちゃんったってユウジロウはもう仕事に
就いていて学校に行っていたし何だろうって思ったことがあるよ」

「…」

「そんなことがあったのか…」

「あったのかってあなた、帰ってきて問いただしたら、『俺はそんなことしない。
第一仕事で忙しいんだ』とか言ってふてくされて…。まだ仕事に慣れてなくて
苦労していた頃だったからね…。構っていられなかったのかもしれないけど…」

「結局アカネは管理してるもう随分歳のいった方に助けられたみたいで。お礼に
行ったらアカネは一人で池に腰まで浸かって泣いていたって聞いたわよ」

「…じゃあ今あって来た人がそうか…?」

「助けてくれた人だったんだ…」

「しかしムネノリって…なんだ?悪霊か?」


つづく
178作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/04(月) 02:46:32 ID:C9kUiuia0
「駄目だよお兄ちゃん。ムネノリ君はちょっと寂しかっただけ…。そのことはよく
覚えてないけど…だって現にあたしは今こうしてここに生きてるるんだから…」

「しかしだなぁ!」

「ユウジロウ。そのムネノリって子も幼くして亡くなったんだ。子供のすることに
メクジラ立てるモンじゃないよ。オトナ気ない。寂しくて、少しばかり強引でも
友達が欲しい時だってあるだろうさね」

「きっとあたしが泣いたから、ビックリして悪い気がして、途中でやめて
くれたんだよ…」

「…そうか…」

「あたしら親がね…その子が亡くなったからって危ない危ないって子供を池から
遠ざけたから、尚のこと寂しかったのかも知れないね…」


「覚えてないのか?その溺れかけたというか、引き込まれたこと…?」

「うん。全然覚えてないなぁ…不思議。今でも海とかプールとか全然平気だよ!」

「だよなぁ…」

「多分、忘れるようにしてくれたんじゃないかな」

「そんなことできるのか?」


つづく

179作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/04(月) 02:53:28 ID:C9kUiuia0
「そう思うようにしとく」

「そっか…。あ、そうだ。あの子ってもう四十年も前に亡くなって…
俺より少し年上ぐらいだよなぁ。現代のお菓子が口に合うだろうか?」

「ん?」

「大福とかヨウカンの方が良かったかな?」

「お菓子のことは知らないよ!あたしお花買ってたし」

「そか…。美味しかったらいいな…カールとか、チョコレートは大丈夫
だよな?」

「チョコはOKでしょ」

「ところで、暴君ハバネロってなんだ?なんか絵が可愛いから買ってみたんだが」

「…!?供えたの!?」

「ン?イケナイノ?」

「そんなのいきなり食べたらムネノリ君ブッ飛んじゃうよ!万が一知らずにあの管理人の
お爺ちゃんが食べたら…」

「おいおいそんな物騒なモノ売ってるのか最近は!?」

「取りに戻るよ!」

「えー!!」

  終
180作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/04(月) 02:58:34 ID:C9kUiuia0
台詞だけの実験作でした。分かりにくかったらすいません。

ライブ参加してくれた人感謝です。

今思ったんですが、かなり私の近所のリアルな話に根ざして
書かれています。(ある部分)

たまたま私と近所の方が見たとして、『これってもしかしてXXX?』
みたいな質問はなしにして下さいね^^;;

本当前のスレで書いた外伝じゃないけど、そろそろ住所特定とか
分かる人ならピンときてされそうなんで(笑)
181作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/04(月) 03:28:42 ID:C9kUiuia0
>>162-164

もう寝ちゃっただろうけどありがとう。初の合いの手3連発。

嬉しかった!特に爆発力のある合いの手は>>163 

新陰流vs陰行流!話が変わるところでしたwww

でも絶対期待しないでね。歴史とか全然知らないし。
182本当にあった怖い名無し:2006/09/04(月) 14:57:05 ID:/ms1RzqA0
作者さん、忙しい中の投下乙です!
ハバネロは子供には洒落にならない辛さですよねw
それが一昔前の子供が口にしたら・・・これは何の嫌がらせだろうと思うこと必至。
昔はカラムーチョでも辛いと思ったものだけどなぁ。
意外とおじいちゃんがはまってたりしてw
183本当にあった怖い名無し:2006/09/04(月) 15:31:56 ID:2V/pTIR4O
爆発力ありました?
ムネノリと聞いて柳生しか浮かばなかったw
乙様でした!ノスタルジックなアカネ(*´Д`)ハァハァ
184作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/04(月) 17:01:23 ID:C9kUiuia0
>>182

うーん…そういえば死んだ私の祖父も死に際(といっても病気で苦しむわけでもなく
突然亡くなったので元気でしたが)は味覚がどうもおかしいらしく、「何を食べても
味がしない」と少し悲しそうだったのを思い出しました。美食家だったらしいので辛かった
でしょうね。当時ハバネロがあれば…どうだったんだろ…ww

>>183

いきなり名前だけとりあげて『柳生ムネノリ君』だけの合いの手っていうのは爆発力
でしょうww 実際ムネノリ君が柳生ムネノリだったらイヤ過ぎ(史実は知らないけど
色んな漫画や小説だと悪役なことが多いよね?)…。強そうだし…。しかし柳生ムネノリ
なのに子供の霊ってよく考えたらありえないな。

なんかで、インチキ骨董品屋が、『この頭蓋骨は源義経が6歳の時の頭蓋骨だ』
って骨売りつけるって話を思い出した。意味わからんって人は無視って下さいww


感想ありがとうでした^^
185作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/05(火) 00:49:21 ID:0OzB8/BC0
さてここらで怖い話でもするか。

その日、ホーク有吉の姿は、ある邸宅にあった。
元銀竜会会長、陣内レツザンの屋敷である。


つづく
186作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/05(火) 01:00:36 ID:0OzB8/BC0
陣内は自慢の庭を眺めて、茶をすすりながら言った。

「有吉…久しぶりだな…」

「…は…ご挨拶が遅れまして…申し訳ありません…」

かしこまる有吉の姿が陣内の目に入ることはない。彼は庭を訪れた
スズメの姿を追っていた。

「そう固くなるな…。私ももうカタギだ。畏れることもない…して、何用かな…」

「…人を探しております…」

雇っている女中が用意した有吉の茶はとうに冷めている。

「…人…」

「はい。山形ユウジロウを…」

和服姿の老体、陣内の目つきが変わった。瞬間、庭のスズメが逃げ飛んだ。

「…男が人生を賭けて求めるものは大概決まっている…。金か。女か。仕事に
精を出すのも、出世を望むのも、その二つのうち、どちらかの為だ…」

「は…」

「山形は…女を奪う者だ…」


つづく
187作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/05(火) 01:09:15 ID:0OzB8/BC0
陣内は静かに立ち上がると、静かに机に歩み寄って座すと、
机の脇に置かれていた小さな箱の蓋を開けた。

「キューバ産の葉巻だが。葉巻はやるかね?」

「いえ、私はこれで」

ハイライトを胸のポケットから取り出すと、有吉は吸い始めた。
合わせるように陣内は箱から一本、太い葉巻を取り出して、慣れた
手付きで火を着けた。

微妙に色の違う二色の煙が部屋を舞った。

「…やめておけ有吉…」

「誰を訪ねてもそう言われ、陣内様の元へ参りました」

「…妻、娘に限らず…男はどうしても女に弱味がある。愛人。姉。妹。そして、
母親…。幾ら歳をくって、女に未練はないといっても、それでも男から女を
すっかり切り離すことは難しい」

「…」

「山形はその全てを奪うぞ。金はなくしてもまた稼げばよいが、女を取り戻す
ことは困難だ」


つづく
188作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/05(火) 01:26:14 ID:0OzB8/BC0
「私は独身。母も既に鬼籍に入り、こだわる女もおりません。それは陣内様
も同様かと」

「確かに妻も死に、娘もおらず、愛人もおらぬ…」

「ならば是非お教え下さい…山形ユウジロウの居場所を!」

葉巻の濃く、重い煙を口から立ち昇らせて、しばらく陣内は思案した。

「奴を消す話もあったが…女に阻止された…。奴の手はどこまで及ぶか
想像もつかなんだ…」

「…?」

「私の経営していた店でも数多くの女を雇っていたが、全て山形の手に
落ちた。奴を消すにも、奴を消せば自分たちも店を辞めると女たちが
言う。それどころか奴の暗殺に関わった者の妻、娘、愛人までもが山形を
擁護する…我々の完敗だった。動けば女を失う。となれば男は動けない…。
つまらん性だ…」

「そのつまらぬ性、私が断ち切ってお見せします」

「…凝った趣向だな…」

「陣内様に御迷惑はおかけ致しません」


つづく



189作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/05(火) 01:48:53 ID:0OzB8/BC0
陣内家の冠木門をくぐり、有吉の紺のBMWが西へ向かう。

ハンドルを握りながら有吉は、咥えているハイライトのフィルターを
強く噛んだ。

四半世紀の歴史をたどり、やっと補えた。多忙の中、仕事の合間を
縫い、あらゆる人を訪ね、ついに政界とのつながりも太いという大物、
広域指定暴力団、銀竜会前会長、陣内レツザンからその答えを得た。

余り好きな相手ではなかったが、仕方がなかった。

それにしてもかつて、山形ユウジロウの暗殺計画があったことは驚き
である。

その時彼が死んでいたほうが自分にとって良かっただろうか。分からない。

そもそも自分は山形ユウジロウに会って何をしたいのか。それすら
分からない。

しかし、BMWは西へ向かった。

次第に高い建物は減り、緑が目立つようになる。ナビゲーションシステムの
的確な指示が山形家へ着実に彼を導く。

『山形』表札には間違いなくそうある。それほど古い家でもないようだが、
ごく普通の家屋だ。

その事実は有吉を失望させた。


つづく
190作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/05(火) 02:05:13 ID:0OzB8/BC0
ガレージはあるようだが、申し訳程度のモノで、とても自分の
BMWのような大型車は入れそうにない。

大金持ちというわけではないが、有吉は都内の高級マンションに
住んでいる。女を抱いて稼いだ金で購入した。

マンションと一戸建ての違いはあれど、明らかに山形家の方が格下。
郊外のこの程度の一軒屋なら高く見積もってもせいぜい二、三千万
といったところだろう。大して自分のマンションは億を超す。

既に落ち着いて、二十年の歳月を乗り越えられなんだかユウジロウ。

衰えたサラリーマンの姿が脳裏にちらついた。自分は何を求めていたの
だろう。そう自分は仕事としてセックスをする道を選んだ。ただの遊び人
ではないのだ。

諦めがついた。やはり自分がトップだ。そう。彼がまだ現役ならばこれ程
苦労して探すまでもなく、名を轟かせているはずだ。名を聞かなくなった
ということは、彼は消えたということだ。

今は何をしているかしらないが、妻でもめとり、静かに郊外のこの町で
暮らしているのだ。

憐れな。彼が二十年前を思い出すことはあるだろうか。日本中の色街を
狂わせていた自分を。

「ふ…ははは!」

笑いがこみあげてきた。


つづく
191作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/05(火) 02:18:29 ID:0OzB8/BC0
やはり俺がトップだ。二十年前の敗北は認めよう。しかしユウジロウは
勝負自体を『降りた』のだ。対して自分は闘い続けた。アダルトビデオ
男優として。そして全国区の名声を手に入れたのだ。

裏社会に通じるだけの名ではない。今やテレビのCMにも取り上げられ、
青少年の憧れの眼差しを受ける。お前はどうだ。裏社会の闇に隠れて、
決して陽が当たることはなかった。

俺は時に日の光を受ける。お前の目にも入っているだろう?どうだ。俺は
ここまで来た!逃げ出し、道を外れ、ひっそりと暮らす貴様とはワケが
違う!

住宅街にひっそりと佇む山形家が見える路上にクルマを止め、勝利の
祝いにハイライトを一本吸った。ビールの一杯でもやりたい気分だったが
さすがにクルマだ。マンションに帰ってからにするとした。

と、道の向こうから赤い軽自動車が来たと思うと、山形家のガレージへと
入っていった。ポンコツである。

「ユウジロウ…」

もう勝利の実感を得ている。しかし一度その、敗者の顔を拝んでおきたかった。
見た目は大したことがないと聞いているが、果たしてどこまで落ちぶれたものか。

BMWを降りて、ガレージの前に立つ。軽自動車のリアウィンドウから、後部座席に
乗せたカバンやら書類やらをもたもたとかき集めている冴えない中年男の姿が見えた。

視線に気付いたか、男が目を上げる。薄汚れたリアウィンドウ越しに相まみえる。


つづく
192作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/05(火) 02:27:36 ID:0OzB8/BC0
その目を見た瞬間、有吉は気付いた。違うこと。敵は『降りて』など
いない。いまだ現役。あの目は間違いない。

咥えていたハイライトから、長い灰が落ちた。ユウジロウが荷物を
無視してクルマから降りる。

会敵。

冴えない。全く冴えない男だ。驚く程普通だ。しかし違う。何かが
違う。圧力。そう圧力だ。職業柄、少々物騒な商売を生業とする連中
とはよく顔を合わせる。そんな連中を束ねる陣内のような人間には
独特の圧力がある。

自然と敬語が口をついて出てしまうような…。

このユウジロウという男にもそれがある。しかし半端ない。様々な
大物と接してきた有吉には分かった。その威圧感。

「…ホーク有吉…有吉健二だったか…」

「…山形…ユウジロウ…」

「へぇ…覚えていたかよ…もう二十年になるか…?お前も頑張ってる
ようだな。よく見るぜ」

「…」

言葉が出ない。有吉は完全に飲み込まれていた。

つづく

193作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/05(火) 02:38:13 ID:0OzB8/BC0
「何しに来た?」

分からない。勝負をつけに来た。しかしどう勝負をつけるべきか。
いやもう結果は分かってしまった。相手が悪すぎる。勝負どころ
ではない。

「…年上のあんたに言うのも何だが…お前には期待していた」

「!?」

「AV男優にでもなれば少しはマシになると思ったが…。驕ったな貴様!」

山形ユウジロウ。暴力団が、裏社会の人間が畏れる男。そういうことだったのか。
数々の忠告。『山形には手を出すな』、その真意。こういうことだったのか!

「思い上がるな!有吉!せいぜいそろそろ頃合かと突っかかってきたの
だろうが…。早すぎる!そして、遅すぎる!全てが手遅れだ!何の為に貴様を
男優にしたか!」

「…」

意味が分からず、無言。ユウジロウの口ぶりからすれば、まるで自分をアダルト
ビデオの世界に引き込んだのはユウジロウだと言っているようだ。


つづく

194作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/05(火) 02:49:53 ID:0OzB8/BC0
「母親はよかった。愛人を作り遊び呆け、息子がどうなろうが気にも
しない女だったな。ただ、姉が邪魔だった」

思い出す。二十年前。そう。母は奔放な女だった。有吉を生んで間もなく、
父親は耐え切れずに離婚。それでも母親は省みることなく様々な男と
遊び歩いた。時には息子である健二が寝ている横で大声で喘いでセックスに
いそしんだ。

一方で、ホーク有吉、有吉健二には姉がいた。自在に男を代え、遊び回る
母親を嫌い反面教師として、真面目に育った姉だった。健二が盛り場で遊び
歩いていた頃、姉には貿易会社に勤める恋人がいた。真面目な男だった。

姉は恋人と婚約したが、遊び歩いている弟、健二の存在が気になった。まだ
真面目で堅苦しい部分がある時代。母は既に歳がいって、遊び回ることも
なくなっていたが、実の親が離婚して片親だというだけで、婚約相手の親は
渋い顔をした。

その上で素行不良の弟の存在。

姉のことは好きだった。不出来な母の代わりに色々と世話をしてくれた姉。

有吉は思い出す。ちょうどアダルトビデオの男優にならないかと誘われた頃、
彼はそういったことから足を洗って真面目に暮らそうと決意したのだ。姉の
幸せの為に。

ところがしばらくあって、突然姉は婚約を破棄。詳しい事情は分からないが
夜の街に繰り出すようになり、健二にはそのままアダルトビデオ男優になる
ことを勧めたのだ。


つづく
195作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/05(火) 02:59:44 ID:0OzB8/BC0
それに従い有吉は再び夜の社会に入り浸りになり、そのまま
セックスを仕事として選んだ。

「なぜ姉さんのことを…」

「…お前の姉の婚約破棄は俺の仕事だ」

「…な…!」

「俺がお前の姉を犯し、婚約破棄に追い込んだ…あの頃、銀竜会は
組の儲け口にアダルトビデオを選んだ。そして特徴ある男が必要に
なった。男優として…。まず俺が選ばれたが俺は誘いを断った。次に
選ばれたのが、お前だ」

「…」

「しかしお前も誘いを断った。姉の婚約を期にまともになると。俺は
陣内会長から相談を受け、仕事としてお前の姉を犯した。計画通り
お前の姉は…」

「それ以上言うな!」

「…しかしお前の姉の将来は陣内に約束させたはずだ…」

確かに姉の婚約破棄の後、健二はアダルトビデオ男優となり、しばらく
して、姉は銀座のクラブのオーナーである男と出会い、結婚し今に至るも
幸せな人生を送っている。


つづく

196作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/05(火) 03:14:05 ID:0OzB8/BC0
「…ユウジロウ…!」

怒り。姉の幸せを奪い、自分の将来を奪った。しかし。

ユウジロウにとっては仕事だった。その黒幕は陣内会長だった。
よりによって。ユウジロウへ導いてくれた人物。若く、食えなかった
自分を育ててくれた人物。

常に自分の前を進み、絶えず敵であったユウジロウ。

そして、姉。そして、自分。

俺の人生は何だ!二十年間操られていたのか!姉を犯した男に!
そしてそれを指示した男に!しかしそれがなければ今の自分はない。
どうなっていた?足を洗い真面目に生きて、今の地位より高みを
目指せたか?姉は今より幸せだったか?

怒りと感謝。人生の選択はいつも一つのセレクトしかできない。
人生に仮定はない。あの時ああならなければ自分はもっと幸せだったか。
それは神のみぞ知る。いや人生の選択が神から許された唯一の自由と
するならば神すら知る由がない

俺は陣内会長とユウジロウに生かされたのか!?殺されたのか!?

姉は!?大好きな姉さんは!?


つづく
197作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/05(火) 03:41:41 ID:0OzB8/BC0
このBMWも、羨望の眼差しも、『魔法の指』、『黄金の腰』といった俺の人生を
彩る数々の異名も、CM出演も全て俺のセレクトではなかったのか!

「二十年。待っていた。やっと来たと思ったが…早過ぎだ…。話にならない…」

「…」

「最新作を見せてもらった。やっと少し進む気にはなったらしいが、気付くのが
遅すぎる。もってせいぜいあと四年。精進しろ。本も読んだ。六千人の女を
抱いたなどと…愚かな!数ではない。質だ!」

反論できない。頭を巡ることが多すぎる。結局は全て山形ユウジロウと陣内レツザン
の手の上。作られた二十年。そしてこれからもそれに依存する。自分も、姉も。
もう『降り』られない。全てを失うには遅すぎる。

「今夜もお前は俺が食うよりいいモノを食うだろう。だが、それで勝ったと思うなよ…。
上達したら、またおいで」

ユウジロウは自宅に消えた。鍵を閉める音。この家。明らかに自分の自宅より
劣る家に住み、劣るモノを食べ、劣る生活を送り、今や名もない男に完全に
叩きのめされた。何が『魔法の指』!何が『黄金の腰』!そんなもの!

しかしそれにホークの生活は支えられているのである。ホークはBMWの車内で
男泣きに泣いた。明日も仕事である。やっと泣きやんで、決意。

「…また来る…」

BMWは誇り高いエンジン音を静かに響かせ、東へと走り去った。


  終
198作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/05(火) 03:55:50 ID:0OzB8/BC0
ごめーんオカルト入れられなかった…。

でも何か怖いでしょ?自分の選択かと思った人生が全て他人に
操られていた…というか思うままに自然と自分が動いていた。
そういうところ。

そのへんをオカルトの一部ととってもらえると嬉しいです。
199本当にあった怖い名無し:2006/09/05(火) 09:57:20 ID:pnCN9SZP0
今回シブイ!
数じゃない質だ!って、カコイイ!!
ユウジロウ・・・惚れました。
200本当にあった怖い名無し:2006/09/05(火) 21:07:35 ID:0OzB8/BC0
さてここらで怖い話でもするか。

軽子沢中学三年、草壁アヤは家路を急いでいた。
中学生にはまだ早い、フランクミュラーの時計の針は既に22時を
回っていた。

つづく
201作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/05(火) 21:32:26 ID:0OzB8/BC0
高校受験をせずに、芸能界に身を投じるという挑戦。

ただ少し人より可愛いから、綺麗だからという理由ではなく、彼女は
努力家だった。プライドも高いが、そのプライドは内容のない高飛車を
生み出すものではなく、彼女にとっては努力の源だった。

プライドは絶えず彼女の上昇を求める。彼女はプライドにリードされ、
そのプライドを保つための努力を怠らない。

しかし今日は少しその努力が過ぎた。

兄が三人、姉が二人の大家族。一番上の姉とはちょうど二十、歳が離れている。
両親が四十を過ぎて儲けた子だった。

幼い頃、生活は苦しかったが、姉や兄が一人就職し二人就職し、また早くに
結婚して家を離れる度に経済的な負担は軽減された。今や両親の手が
かかっているのは大学生の三男と、三女のアヤだけである。

生活が楽になるにつれ、次第に両親は末っ子であるアヤを猫可愛がるよう
になり、少し渋ったとはいえ、高校を諦め、芸能界へ入ることにも理解を
示した。

困窮する生活に、上の子らの夢になど耳を貸さず、半ば強引に就職させた自責
の念もあった。そんな兄や姉たちもアヤの味方をしてくれた。

勿論無根拠だったわけではない。平凡な一家にあって、アヤは明らかに異質
だった。可愛がられたせいか甘え上手で、器量も良い。幼い頃から歌や踊りに
優れ、幼稚園や、小学校でもいつも目立っていた。


つづく
202作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/05(火) 21:53:08 ID:0OzB8/BC0
軽子沢中学に進学し、演劇部と心に決めていたが、部の存在自体がなく、
アヤは他の部活動に費やす時間は無駄と判断。もうその頃には自分は
芸能人になるという自覚があった。

部活動に参加しない分、バレエに通い、ボイストレーニングなども受け、
着々と準備を進め、チャンスとあらば子役のオーディションなどにも
参加した。

しかし迷いはあった。進学と、夢。結局夢を引きずりながらも勉学を
疎かにするわけにもいかず、三年生になり、他の同級生がいよいよ
具体的に受験に動き出してから彼女も心を決めた。

中学卒業までの義務化された勉強に関してはきちんと怠ることなく
学ぶこと。それが親から出された条件でもあり、自分に課した条件
でもある。だから受験こそしないが、中学卒業をしただけの学力は
いずれにしても身につけるつもりだった。

芸能人になる為の訓練をしつつ、かといって学校の勉強を放棄するつもり
はない。

だから成績は悪くはなく、担任からも、『もったいない』と声をかけられた。
平均以上の学力があり、進学も充分に望めるのだ。

芸能への道と勉学の両立は厳しいものであったが、何とかやっていた。

しかし今日は少し芸能に寄り過ぎた感がある。バレエの演技に納得がいかず、
八時に終わるものを一時間以上も追加で練習してしまった。

二学期の中間テスト直前である。普段、親は何も言わないが、テストに関して
だけはうるさい。テスト前一週間の門限は午後十時と決められていた。

つづく
203本当にあった怖い名無し:2006/09/05(火) 22:00:56 ID:GumNdiRA0
あ…アヤちゃん……も、萌え…w
204本当にあった怖い名無し:2006/09/05(火) 22:09:55 ID:0OzB8/BC0
堂坂公園(第二十九話 『招かざる過客』 参照)を通れば多少の
ショートカットにはなる。ただし、それも親に禁じられていた。

そんなに広くはない公園だが、夜は不良の溜まり場で、性犯罪も
度々起きていると聞く。しかし日中は平和で明るい公園で、アヤも
登下校の際にはよくここを通っていた。

公園を突っ切ればほぼ一直線で済むが、そうでなければぐるりと
公園の外周に沿った道を歩かされる羽目になるのだ。

慌てるアヤの足は迷わず公園内へ向いた。多くの子供を育てて
きた両親である。怒らせると怖い。『お前が可愛いから怒るんだ』
とはいうが、アヤには意味が分からなかった。

「カワイイなら怒るなよ…」

大人びたバーバリーのトレンチコートから伸びる長く細い足を忙しげ
に動かして、暗い公園を進む。平日だからか人の気配はない。幼い
顔立ちだがアンバランスにスタイルはよく、コートが似合っている。

と、木製のアスレチックの辺りに人影を見た。四人。タバコの火らしい
光も見える。声は若いが、上品な印象はない。夜の闇に響く笑い声も
何か卑しい。やはりいるのか。こういう輩が。

何かコンパがどうとか、女がどうとか、そんな話をしている。話に夢中に
なっているようだ。なるべく離れて通り過ぎる分には問題ないだろう。


つづく
205本当にあった怖い名無し:2006/09/05(火) 22:18:13 ID:GumNdiRA0
ああっ!もしかして俺のアヤちゃんがアブナイ!!!1Σ (゚Д゚;)
206本当にあった怖い名無し:2006/09/05(火) 22:29:34 ID:0OzB8/BC0
「お…ちょっとオネーサーン!」

声をかけられる。たまに賑やかな街を歩いていて、ナンパ
なのかそれとも何かの怪しいスカウトなのか声をかけられる
ことは度々あった。芸能人を目指す程の容姿である。
そういった面倒事も当然あるリスクだった。

可愛い女性、綺麗な女性、美しい女性が全てにおいて有利かと
思えば大間違いである。皆、その顔、その容姿、その器量、その美しさを
求めて寄ってくるだけのことも多い。

草壁アヤも確かに異性に人気があった。周囲には絶えず男がいた。しかし
それ故、同性からは疎まれ、嫌われている。仕方なしに異性とばかり一緒に
いれば、同性からのその風当たりは一層強いものとなる。

しかしその異性も所詮は光に群がる虫に過ぎない。ひどい言い方かも
しれないが少なくともアヤはそう思っていた。その懸命な愛に惹かれて
付き合えば、たちまち肉体を求められ、抱かれ、いずれ飽きれば棄てられる。

既に処女ではなかったが自分の処女喪失の記憶は脳から消したい位に
嫌なものだった。思い出すだけで吐き気がした。

優しいのはそれまで。しかしそれが単に男の問題かといえばそうでもない気も
する。美しさに高慢になっている自分。我がままに自分。男なんて幾らでもいる
という強い自信。それが自分に不利に働くケースもある。


つづく
207本当にあった怖い名無し:2006/09/05(火) 22:35:54 ID:0OzB8/BC0
ああ、何て面倒なのだ!しかしその自分のコンビニエンスストアの軒先に汚く
ぶらさがっている殺虫灯のような才能を最大限に利用しようとする人生。

それが芸能の道ではないか。所詮自分は殺虫灯。だとすればそれに群がる
男は虫か。

「ちょっとぉ、シカトしないでよぉ!」

しくじり。色々と考えている間に囲まれていた。そう。虫の動きは想像以上に
速いのだ。恐らく高校生だ。タバコを吸っている。不良…。しかも他に人はいない。
公園の中央。

「あれ…?学生?」

「年下じゃね?」

「ねーねー幾つ?」

「…中三…ですけど…」

答えるしかない。囲まれている進退もままならない。よりによって相手は四人。
前後左右を囲むフォーメーションが手馴れた感じを印象付ける。

「マジ?中三?」

「やっべーロリじゃん」

「俺たちロリコン?犯罪?」


つづく
208本当にあった怖い名無し:2006/09/05(火) 22:38:48 ID:bb6p+wUuO
ゆうじろう仮面はまだか!助けて!
209本当にあった怖い名無し:2006/09/05(火) 22:47:08 ID:0OzB8/BC0
「あの…すいません…急いでるんですけど…」

「俺たちはヒマなのよ。ちょっと付き合ってよ」

「年下は年上の言うこと聞くもんだよ。勉強教えてあげるよ勉強」

「お兄さんたち優しい高校生だからさー」

かなり強引にベッドに連れ込まれたことはある。しかしレイプという
程ではなかった。様々な男を見てきただけ勘は働く。この男たちの
次の行動。

犯されるのか。

意外と冷静な自分に驚いた。もしこのまま芸能人になって、売れて、
人気が出た頃、こいつらの目に止まって、『俺その女とヤリました』って
週刊誌か何かに情報漏らされたらどうしよう。

せっかく売れても水の泡じゃん。そういう時に週刊誌ってこいつらに
情報料です、とかってお金あげるのかな。

こいつらはあたしとヤッてお金もらって…あたしの足引っ張って…。

スキャンダルって怖いな…一発で人生おしまい。だから自分、芸能界に
入るって決めてから大事にしてきたつもりだけど…。


つづく
210本当にあった怖い名無し:2006/09/05(火) 22:56:35 ID:0OzB8/BC0
その全てを見ている男がいた。

「草壁か…!よりによって…!!」

山形ユウジロウである。堂坂公園で性犯罪多発と聞き、
ここ何日か覗きに来ていたのだ。ちなみに、『ノゾキ』という行為も
陰行流艶術では『忍び見(シノビミ)』と呼ばれ、特殊なプレイの
一つとされていた。当然その技術も存在し、ユウジロウは公園外周
に設けられた林の中にすっかり身を隠していた。

さすがに教え子が犯されるのを見て快感を得るほど堕ちてはいない。
いざ救出、と思ったところを何者かに制された。初老の男である。

いつの間にか隣にいたのか。彼もノゾキの常習犯らしい。

「あんたもノゾキならルールを守って欲しいね…」

ノゾキのルール。ノゾキは一種のメディアであり、鑑賞するもの。決して
覗いている対象に介入してはないない。ノゾキで許されることは、覗くこと。
そして自分の快感に酔うこと。眼前で行われる行為に関しては干渉しては
ならない。

ユウジロウにとっては余りに厳しい掟であった。

「仮にあの女があんたの娘でも、介入するのは御法度だよ…嫌ならハナから
覗かなければいいんだ。見ないで済む現実を敢えて見ようとする行為…その
代償は払わんと…」


つづく
211本当にあった怖い名無し:2006/09/05(火) 23:01:56 ID:GumNdiRA0
いかん!このままではアヤちゃんが5Pになってしまう!

そして>>208のIDは6P
212本当にあった怖い名無し:2006/09/05(火) 23:04:24 ID:0OzB8/BC0
その通りである。ユウジロウは一度現そうとした身をかがめた。

不良の手に落ち、アヤはされるがままだった。コートがはだけ、
黒いノースリーブのニットと、チェックのプリーツスカートを秋風に
晒されている。

「すっげぇエロ…こんな恰好で歩いてんの?」

「スカートすげぇ短いじゃん。おっぱいもあるし。マジで中三?」

「だめだ俺たまんなくなってきた」

「やっちゃう?」

「処女とかだったらすっげぇ嬉しいんだけど」

何も言わずにされるがまま。恐怖はあるが、どうせ男がすることなんて一緒
でしょう。アヤは諦めに入っていた。

その行動を見れば分かる。間違いなく、アヤはそのまま犯される。抵抗する
つもりもない。ユウジロウは歯軋りをした。

「うわっすげっ…おっぱいデカいね。何カップ?」

「…」

「答えろよ。おめぇさっきからシカトしてんじゃねぇよ。ガキのクセによ!」


つづく
213作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/05(火) 23:11:07 ID:0OzB8/BC0
黒いニット越しに胸を揉まれるが大した快感も恥ずかしさもない。

ただの肉だ。好きなだけ触れば?

しかし、男たちの手は『ただの肉』ではない箇所に及ぶ。プリーツスカートの
下から手を差し入れて、クリトリスを探るのは容易だった。

「…んっ…!」

アヤの身体がのけぞった。

「へへ…なんだコイツ?ここが好きなの?」

「すっげぇスケベ。おい、俺にも触らせろよ」

「触ってみ。すげぇビクッてすんの。面白ぇよ」

「ねぇねぇチューしようよ。大人のチュー教えてやっから」

暗い公園の中、舌を卑猥に動かす男の姿が見える。まずい。

「…始まったな…」

初老の男が自分のイチモツをシゴき始める。

「ゆっくり楽しみましょうや…ねぇ…」


つづく
214作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/05(火) 23:20:30 ID:0OzB8/BC0
四人の男に囲まれ、背後から胸を揉まれ、顔を背けてはいるがキスを
要求され、スカートには卑猥な手を差し込まれて逃げ場を全く失うアヤ。

身動きの取れないユウジロウ。同じ変態として、そのルールには従わなければ
ならない。

そしてそのアヤを見て衰えた陰茎をシゴく初老の男。

ユウジロウ決断の時であった。

「な…何をするっ…!?」

彼の選択した唯一の方法。陰行流艶術。『裏手』(第三十八話 『憧憬』 参照)
男色専用に開発された技術。無論ユウジロウの趣味ではない。ただ技術として
継承しているに過ぎない。

しかしその技術の凄まじさ。『裏手・手捻り』 手を用いて、男を快楽に導く技術。

「…アッー!」

まずはこの初老の男を絶頂に導き、その後にアヤを救出する。ただ一つ残された
方法。しかし相手は既に性の衰えを見せる。

「『手捻り』が効かぬか!」


つづく
215作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/05(火) 23:27:46 ID:0OzB8/BC0
そうしている間にも男たちの蹂躙は続く。どうも直接陰部を責められている
ようだ。

「…あっ!…だめ…やめて…ください…」

「すっげ。濡れちゃってんの」

「マジで?舐めちまおうか?」

「いいよ。脱がしちゃえ脱がしちゃえ」

「…いや…それだけは…」

ユウジロウは初老の男のイチモツを口に含んだ。

「おぅっ!いくっ!いきそうだっっ!」

いくな。しかしいけ。いけば救える。

ユウジロウセックス人生豊富なれど、初の顔射。自分に。

精液まみれになりながら、茂みから飛び出す。

「ゥオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」


つづく
216作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/05(火) 23:36:29 ID:0OzB8/BC0
「…なんだコイツ!」

「イ…イカ臭ぇ…!」

「ホモの強姦魔だっ!」

アヤを犯そうと、下半身をむき出した高校生にとって、全裸で精子に
まみれた中年男は衝撃であった。蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

「大丈夫か草壁!!」

「…え…あ…!山形先生!」

助けたとはいえ全裸の上に精子まみれである。下手をすればさっきの
不良の方が幾らかましだ。

「生徒の味方!山形ユウジロウ!見参!」

いくら恰好をつけても全裸。イチモツ丸出しの上に何か得体の知れぬ白濁
した液体にまみれている。

気付けばアヤもいなくなっていた。

余りに悲しい現実。虚しい行為。しゃぶりたくもない男のイチモツをしゃぶり、
必死で助けた結果がこれか!!


つづく
217本当にあった怖い名無し:2006/09/05(火) 23:42:56 ID:z/X7vctk0
ユウジロウ。・゚・(ノД`)・゚・。
218作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/05(火) 23:47:39 ID:0OzB8/BC0
周囲の茂みから次々と男が現れた。その中に、先の男の姿はない。

「…お、おいあんた…」

一同、憤慨の表情を見せるが全裸、精液まみれのユウジロウを見て
驚いたらしい。

「なんだ?」

「…いや、じゃ、邪魔すんなよ!いいトコだったのに!」

「そ、そうだそうだ!お前も覗いてただろうが!」

どうもかなりの数のノゾキがいたらしい。気付かなかった。責められながら
ユウジロウは事情を説明したが、袋叩きの目にあった。アザだらけに
なり、意識を失いかけながら、気になる話を聞いた。

「おいやっぱり出るんじゃないか?ここにそんな歳いったノゾキなんか
いないぜ…」

聞いた話。この公園が造成された頃からノゾキを続ける初老の男がいた。
しかしある晩、いつものように覗いていると、自分の娘が襲われているのを
見てしまった。ノゾキの禁を破り助けに入ったその男、強姦魔に刺され死んだ
そうだ。助けに入った男が父親と知り、怒り狂って反逆に及んだその娘も
同じく刺されて死亡。


つづく
219作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/06(水) 00:02:29 ID:FN1v8Duk0
取り乱した強姦魔も自分の咽をかっ切ってその場で自害。どういうわけか
警察は、娘と強姦魔が恋人同士で、その関係に反対した父親との三者による
トラブルとして片付けた。

ノゾキをしていた全ての者は真相を知っていたが誰も警察に届け出るわけ
でもなく、そのまま事件は終わった。

割と最近の話だが、警察が出した結果が余りにありきたりだったので、
マスコミも無視した小さな事件。

以来、夜、ノゾキをする初老の男の霊が目撃されるそうである。

精液顔射による悪霊退散(第十話 『性癖』 参照)を行い、自らも霊による
顔射で汚された男山形ユウジロウ。

早朝に全裸で倒れているところを警官によって発見される。しかしさすが
ユウジロウ。

「仕事がありますから」

とそのまま出勤。

「ぜ…全裸!」

徳島教頭は驚いたが、

「俺たっちゃ裸がっユニフォーム〜」

と唄いながらユウジロウは自分のロッカーからジャージを取り出し着込んで
事なきを得たのである。

  終
220作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/06(水) 00:03:06 ID:FN1v8Duk0
なんだ今日の話www
221本当にあった怖い名無し:2006/09/06(水) 00:08:57 ID:QZbHdn6i0
作者氏、乙です!萌えて悶えて、泣いてゾッとできてウーン満足w
ライヴ遭遇&アヤちゃん話に嬉しさ余って、鬱陶しいほど合いの手入れてスミマセンでした。
最後のユウジロウ、ナチュラル廃というやつでしょーか。男らしいっす。
てゆーかひょっとして覗く前からすでに全裸で待機!??

あと最初に「怖い話でも…」とあったから、どういう風に霊を絡めるのかと思いきやこうキタか!
しかもアッー!だし、顔出し、イカくさいしwww

そして焼酎のみながらスルメ食ってた俺の右手も今 イカくさい
222作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/06(水) 00:18:16 ID:FN1v8Duk0
>>221
日付変わってID変わったけど色々合いの手入れてくれたの
は貴方ですか?いや本当嬉しいです。

いつも『ライブ感』とか言いながらやっぱりレスないと誰が見てるか
分かりませんから。誰もライブ参加してないのに書いてるんじゃないかと
思うと結構寂しいんですよ。(笑)

あーユウジロウは書きませんでしたが始めッから全裸でしたwww

男性であればパリっとしたスーツを着たり、女性であればキッチリとメイクすれば
気合が入るようにユウジロウは全裸になると気合が入ります。だから彼の勝負
服は全裸。それには圧倒的な説得力があり警官でさえ見逃す程です。そう
思っといて下さい。

お付き合いくださってありがとうございました。感謝です^^
223本当にあった怖い名無し:2006/09/06(水) 00:46:35 ID:wE/U253eO
全裸キテターー(゚∀゚)ーー!!
224本当にあった怖い名無し:2006/09/06(水) 08:46:13 ID:N5JmQwOl0
アパッチ野球軍・・・?でしったけ?
225作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/06(水) 08:59:01 ID:FN1v8Duk0
>>224
そうですそうです。ただ世代ではないので内容もその部分
以外の歌詞も知らないです。恐らくユウジロウ世代のアニメ
だと思います。
226本当にあった怖い名無し:2006/09/06(水) 10:01:32 ID:LwPgfpea0
モロにユウジロウ世代です。
今も歌える。
子供の頃に好きだったアニソンって、妙に憶えてるんだよね。

今の子供達も30年以上たったとき、
子供の頃好きだったアニソン、歌えるのかな?

てか、でしったけ・・・orz
でしたっけ←○
早めに会社に着いたから、チラッと見て「わーい」って書いたら
上司が来て慌てて・・・言い訳です。

227本当にあった怖い名無し:2006/09/06(水) 10:49:25 ID:qY00Yxyz0
第五十六夜 花と騎士と
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1156690689/37
変態っぷりのマキシマムパワー全開って感じでしょうか。
「既に全裸」の山形ユウジロウ最高ですwww
しかし、中学生のカップルというのは微笑ましくてかわいいですね。
それを世界最高のマナ板ショウに仕立てようとは…
罰として晩飯抜きと共に今回のタイトルには山形先生の入る余地、全くナシですw

第五十七夜 陰の宴
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1156690689/69
仕置人ユウジロウの登場です。
のさばる悪といっても随分小物な連中ですが、当事者から見たら恨み辛みもあったというものです。
彼女たちも一時の快楽と引き換えに、これから長い茨の道を歩むことになりました。
しかし、彼女たちのことだから40越えても何かやらかしそうですね。
その前にも悪事を働きそうですが…性根の腐った奴ってのはそんなもんです。
そのときはまたユウジロウの出番ですかね。

第五十八夜 愛情と希望と
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1156690689/106
トオルをみていると「火田七瀬」を思い出します。特異な能力ゆえの苦悩。
しかしながら、サエの愛情に支えられてトオルも段々とコントロールできるようになるのでしょうか。
サエとトオルのお互いの信頼が能力を必要としない日も遠くなさそうです。
「はだか」というひらがなの表記が、山形ユウジロウの裸と一線を画しているように思えます。

第五十九夜 付喪神
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1156690689/132
物も長い年月を経ると、精霊などが宿って魂を持つといいます。
百年経って我々の目に見えるようになるのでは、元から彼らの姿が見える人もいるのでしょう。
元は捨てられた器物が人間に復讐する話ですが、
カエデは『妖精さん』と話ができるので、きっと物を大事にする性質なのでしょう。
それにしてもオカルト同好会、揃うべくして揃った面子だったのですね。
228本当にあった怖い名無し:2006/09/06(水) 10:50:51 ID:qY00Yxyz0
第六十夜 純真
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1156690689/157
子供が事故で亡くなるのは痛ましいですね。
作中にも寂しい想いをしている描写がありましたが、子供の素直な気持ちなのかもしれません。
ユウジロウもアカネも20年の時を経ていますが、ムネノリ君は40年前のままなのですね。
それにしても、アカネさんはやっぱり色んなモノに護られておりますな。

第六十一夜 天元
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1156690689/185
碁盤の中心を天元といいます。
上手く生きれば盤面全てを睨む有効な石になりますが、
生かされなければ何処にも作用しない石になるといわれております。
ユウジロウと陣内会長の対局で、天元に打たれた有吉。
生かすも殺すも2人の手管次第。それとも碁石が自ら動き出すのでしょうか。
三つ巴の戦いもまだまだ続きそうです。

第六十二夜 障壁
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1156690689/200
アヤちゃんもこれから先、色んな障害に立ち向かうことになるのでしょうな。
得体の知れない業界に身を投じるわけですから。
逆上した人間は何するか分かりませんね、殺すことも無かったろうに…って思っちゃいます。
まぁ覗いていた初老の男も悪いわけで、自業自得と言えばそれまでですが。
しかし霊体になっても覗き続けるとは、恐れ入る飽くなき性欲ですねwww
ユウジロウも袋叩きで済んでよかったですw
229本当にあった怖い名無し:2006/09/06(水) 13:26:12 ID:YtBRxJ9i0
タイトルの中のヒトいつもすごいですね〜。>>227-228
何かこういう関係(どんな関係??)のお仕事でも
されてるんですか?

ライブで見損ねましたけど面白かったです!
アヤチャンはどうなるかと冷や冷や。。ユウジロウ助けに行ってくれて
良かった〜。やっぱり助けに行かないと人間終わっちゃいますよ。
アヤチャンはその後芸能界に入ってくれるかなぁ。
アカネ頼むから助けてやってくれ〜。


ところでユウジロウに昇天させられた老人はそのとうり昇天(成仏)
できたんでしょうか?
しかし、ユウジロウそのうち公然ワイセツ罪で捕まりそうだwww

実は密かに徳島教頭の話がいつ出てくるのか期待しています^^
230作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/06(水) 13:41:32 ID:FN1v8Duk0
>>229
徳島!?渋過ぎ!あんな奴のスピンオフを…一応考えてみますね…
231作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/06(水) 20:37:20 ID:FN1v8Duk0
さてここらで怖い話でもするか。

軽子沢中学2年A組担任、山形ユウジロウは包丁がまな板を叩く音に
目覚めた。


つづく
232本当にあった怖い名無し:2006/09/06(水) 20:54:58 ID:p4hqnW5L0
開いた途端

キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!
233作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/06(水) 20:56:57 ID:FN1v8Duk0
狭い階段を降りる。結婚しているわけでもないのに無茶をして
若く手に入れた我が家。ローンはまだまだ残っている。

台所では妹、アカネが長ネギを刻んでいた。

ガスコンロには鍋が乗り、沸騰する湯にフタがかたかたと揺れている。

センターグリルも火が入り、換気扇に吸い込まれきれない香ばしい匂いが
ほのかに漂っていた。炊飯器から立ち昇る蒸気が激しい。

「おはよう」

「あー起きた?」

台所と一続きになっている居間の机の上には、既に朝刊が置かれている。
ふと、行き着けの居酒屋『枡や』の常連、ブンちゃんを思い出す。
(第五十二話 『切符』 参照)

余りに朝が早く出会うことはないが、彼が配達してくれた新聞だ。『枡や』の
店の様子が目に浮かんだ。カウンターに、『奥座敷』。マキさんを慰める花。
(第三十七話 『悔悟の神酒』 参照)

朝なら居酒屋のことを思い出すなど。しばらく顔を出していないからか。
しかし二学期の中間テストの採点もあり、今日は行けそうにない。週末に
でもアカネを連れて行ってみようか。

大きいニュースもない。テレビ欄を眺めていると、アカネが呼んだ。

「お兄ちゃん、手伝ってー」


つづく
234本当にあった怖い名無し:2006/09/06(水) 21:04:04 ID:qY00Yxyz0
今日はライブでキル*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!
235作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/06(水) 21:09:50 ID:FN1v8Duk0
「んー」

新聞を置いてキッチンへ。盆に乗った二人分のネギと豆腐とワカメの味噌汁と
焼いたアジの干物。

「そのアジ、母さんから」

「あぁどっかのお土産か」

「ちょっと焦げちゃった」

一人が好きというわけでもないだろうが、二人の母ツネコは一人旅によく出る。
戦後最凶最悪の強姦魔、岩手ノリオに犯され、心まで奪われた母。その愛は
貫かれ、以来独身。自ら『未婚の未亡人』と笑って言う。

その時に孕んだ子がユウジロウ。そして、そのユウジロウとも関係を持った。
その娘が、アカネ。数奇な運命の中で、売春を生業として二人の子を育てた。

相当溜め込んだようで、今では悠々自適の生活。幾つかの会社の大株主でも
ある。

そんな母の一人旅の土産。少し身が薄いが味はいいアジの干物をおかずに、
妹であり娘のアカネとの朝餉。

「今日は遅くなる?」

「…ん?何かあるのか?ちょっとテスト採点しようと思ったんだけど…持って
帰ってやってもいいぞ」

「あーいや、用があるならいいよ」

つづく
236作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/06(水) 21:32:19 ID:FN1v8Duk0
なんとなくつまらなそうな顔をするアカネ。何がしたいのか
しらないが今日は早く帰ろう。採点もどうせ一日じゃ終わらない。

家に持って帰って、ビールでも飲みながらやるか。

ユウジロウは心に思った。妹は寂しがりやだ。しかし決まった彼氏
を作るわけでもない。作りたくても作れないのだ。母が数奇な運命を
たどるならば、その娘である自分の生い立ちもまともではない。

彼女は知っている。実の父親が誰か。母と祖父が内縁の夫婦だという
奇妙な関係。欲に狂ってユウジロウと共に起こした一件(第一話 『七不思議』 参照)
で、人生は迷宮に迷い込んだ。

兄は一度死に、そして蘇った。(第十話 『性癖』 参照)

結局母ツネコと似たような道の選択。春を売り、決まった相手を作らず、誰も
愛さず、ただ愛と金を得る。禍々しくもどうしようもない不純な血。その穢れた血
を受け入れ身体を売る。

そんな不純な形でしか世間と接しない生活にも慣れてきた。争えない血。

しかしその血と同じ血が兄にも流れていると思うと心強く嬉しくもある。兄を
異性として愛してもいた。

食事を終え、少しニュースを見るとヨレたスーツに着替えたユウジロウは、
カバンの中身を確認して玄関に立った。

「いってらっしゃい。気をつけてね」


つづく
237作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/06(水) 21:44:59 ID:FN1v8Duk0
ふと、ユウジロウはアカネを抱き寄せて唇を重ねた。驚いて
見開いた目を、アカネはゆっくりと閉じた。

江戸の昔から伝えられる『陰行流艶術』を代々受け継ぎ伝承する
山形家の育った二人にあって余りに不器用なキス。

「…え…なに…どしたの…いきなり…」

「…何となく。したくなった」

「あ…そ…」

「…アカネ?」

「…はい?」

「いってくる」

言いたいことは違った。ただ兄弟間では決して許されない言葉だった。
アカネもそれはよく知っていた。

赤いポンコツの軽自動車のエンジンをかける。見た目はポンコツだし、
ろくな手入れもしていないのに、どういうわけか故障もなくエンジンも
快調だった。

勤務先の学校までは十分程度。

職員用の駐車場にクルマを収めると見慣れないバイクの姿があった。


つづく
238作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/06(水) 21:56:37 ID:FN1v8Duk0
ホンダドリームCB400FOUR。赤いライダースジャケットを着込んだ女性が
乗っている。フルフェイスのヘルメットを脱ぎ去って頭を一度振ると、長い
髪がなびいて整った顔があらわになった。

「おはようございます」

笑顔の福岡ユウコだった。普段の通勤はクルマか徒歩(ランニング)だ。
バイク通勤は始めて見る。しかしそのバイクをユウジロウは知っていた。
(第五十五話 『彼岸峠』 参照)

元はかなりの規模の暴走族を率いたらしいがその姿からは想像がつかない。
しかし確かにバイクとジャケットが様になっている。

「あぁ福岡先生!どうしたんですか今日は?」

「もうそろそろ寒くなって乗れなくなるから少し寂しくて」

プライベートではかなり乗り回しているらしい言い振りだ。二人並んで談笑
しながら校舎内へ。既に生徒の姿がある。

玄関では岡崎リョウコ、草壁アヤ、雪野カエデの元オカルト同好会のメンバー
が立ち話をしていた。

「受験勉強の調子、どうですか?」

「結構順調。でも滑り止めどこにしようか迷ってるんだぁ」

「リョウコも一緒にオーディション受けようよ。絶対いけるって」

「無理無理無理!」

つづく
239作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/06(水) 22:05:17 ID:FN1v8Duk0
(すいません。初めて読む方、最近読み始めた方の為に説明
不足の箇所には『参照』として、参考話数を示していましたが、
まとめサイトにまだタイトルが反映されていない部分もあり、また
作者記憶が定かでない部分が多い為、時間短縮の目的もあり
以降、今回の話に関しては、割愛いたします。その分、余りに
分かりにくい部分に関しましては本文中にてざっと説明させて
頂きます。御了承下さい)
240作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/06(水) 22:18:30 ID:FN1v8Duk0
美人ではあるがそれを驕るつもりはリョウコにはもうない。それは
かつて散々自分の美貌を武器に女子テニス部で色々と悪事めいた
ことをしてきた自戒でもある。きちんと勉強をして少しでもいい学校に
入り、ごく普通に、謙虚に生きようと決めていた。

一方でタレント志望のアヤにとってはリョウコの美貌が羨ましくもあり
もったいないとも思った。あの顔、あのスタイルならモデルも女優も
思うままだろうに。一緒に芸能活動ができたら心強いし、いいライバル
になれそうな気もしていた。

まだ十五歳。将来を決定しろという方が酷だ。まだ子供。ただやり直しも
効く。人生設計というより、むしろ夢。彼女たちはそれに向かって歩いていた。

一方でまだ一年生のカエデはチャランポランだ。未来も何もない。恐れもない。
どうにかなる。そうどうにでもなる。カエデの場合は『ヤオヨロズ』という強い味方
があった。神とも呼べる存在を使役できうる立場にいる。しかし彼女にとっては
そんな強力な存在もお友達の『妖精さん』。しかしそれを知る者はいない。

「お、みんな揃ってるな!」

「あ!先生!元気だった?」

「元気だよねー?」

アヤを皮肉をいう。さすがタレントになるというだけあって精神的な強さがあるのか
レイプしかかり、全裸のユウジロウに助けられたつい最近の記憶も既に笑える
過去だ。


つづく

241作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/06(水) 22:25:07 ID:FN1v8Duk0
「雪野、どうだ吹奏楽部は?」

「あぁすっごい楽しいですよ!」

「あーそうかぁカエデ吹奏楽部入ったんだぁ」

「サックス練習してるんです!」

「へーカッコイイねー」

「リョウコも受験勉強、しっかりな」

「先生も福岡先生としっかりね〜」

「あー同伴出勤!」

「そんなんじゃないよ!」

一緒に歩いてきたのでそう思われたらしい。福岡ユウコは少し顔を赤らめて
職員室へ向かった。

「見た見た?今の福岡先生!」

「なんか照れてた!」

「おい。あんまりからかうな」

まんざらでもないユウジロウ。今朝は随分賑やかな朝だ。


つづく
242作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/06(水) 22:32:39 ID:FN1v8Duk0
「あ!キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!」

何事かと見ると、木下サエと霧原トオルが変に不自然な距離を取って
校庭の彼方から歩いてくるのが見えた。

「いつも同時に来るのに離れてるの」

「超バレバレ…」

「なんかすっごいらしいよ」

「何が?」

「もう勉強手につかないって言ってた」

「えー!」

「先生!不純異性交遊ですよ!」

「懐かしい言葉使うなぁ。今時そんなのもないだろう。あんまり
人の恋路を邪魔するなよ」

「はーい」

少し待って、サエとトオルに別々に声をかける。二人とも元気らしい。
トオルはアカネと仲が良く、時折山形家にも訪れていたから、二人の
恋愛が順調なのは知っている。


つづく
243作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/06(水) 22:48:31 ID:FN1v8Duk0
少し早目に来たつもりがすっかり遅くなってしまった。慌てて職員室へ。
職員会議が既に始まっている。後で徳島教頭にイヤミの一つでも言われる
だろうが生徒に呼び止められて相談を受けていたとでも言っておけばいい
だろう。半分事実だ。

職員会議も終り、朝のホームルームまでのわずかな間、職員室の端に
併設されている喫煙ブースでラッキーストライクを吸う。考えることは同じで
喫煙者の教師たちが集まる。

若手の青木先生。彼から暗視装置を借りてカーセックスを覗きに行ったことを
思い出す。若い分、女性関係の話でユウジロウとよく会う。盛り場のいい店を
お互いに紹介し合う仲だ。

ショートピースを吸うのは野村先生。次期教頭候補。開校当時からいて、校内の
ことについて知らないことはないベテラン教師。無口だが悩み事を相談すれば
親身になって話を聞いてくれる。

ユウジロウは何か妙な空気を感じていた。何か今日は違う。いや周囲の環境では
なく、自分。何故こんなにも色々なことを敢えて思い出すのだろう。毎日会っている
人々、目新しくもない職場の連中と会うだけでなぜこうも色々と追想してしまうのか。

何か悲しいような、懐かしい感じがする。何か今日はおかしい。

そろそろホームルームの時刻が迫っていた。

職員室を出て、担任を務める二年A組のクラスに向かう。校舎。以前は畑であったが
それよりも昔はやはり学校だった。そこは母ツネコが卒業した学校であり、廃校になった
後は父ノリオが『狩場』にしていた。その場所に建てられた学校に今自分が勤めている。


つづく
244作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/06(水) 22:59:25 ID:FN1v8Duk0
用務員、鈴木ヒデヨシが階段を降りてくる。

「どうもお疲れ様です」

「今日はちゃんと服、着てますよ」

「ははは…」

そのまますれ違う。二階。二階の便所。思い出したくもないが
そこには先にすれ違ったヒデヨシの兄、マサムネの霊がいる。
彼に犯された記憶。

その記憶を抱いたまま三階へ。2−Aの教室。生徒。何故だろう。
何か懐かしく、遠い。

何かノスタルジックな夢でも見て、記憶はないがまだその影響を
受けているのだろうか。

ホームルームも上の空で、とにかく、生徒の一人一人の顔を脳裏に
焼き付けるように見た。

一時間目。『情報倫理学』の授業。電算室。何かが迫ってくる。その度
に現実は遠く、懐かしく。何だろう。涙をこらえながらの授業。

ユタカ。家で買っている柴犬のユタカはどうしているだろう。最近かまって
やってない。余りなついてもいないが可愛い犬だった。

アカネはどうしているだろう。そろそろ洗濯でもしている頃だろうか。声が
聞きたかった。電話したかった。せめて一度だけ。


つづく
245本当にあった怖い名無し:2006/09/06(水) 23:05:52 ID:wpgkR4dM0
ええ・・・?どうしちゃったんだろう〜。
246作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/06(水) 23:07:56 ID:FN1v8Duk0
気付く。思考が全て過去形になっている。どういうことだ?

やはり何かおかしい。アカネに会いたい。家に帰りたかった。

アカネを抱いてやりたかった。セックスじゃない。ただ抱きしめたかった。

何だ?適当に生徒に課題を与え、椅子に座る。

「…先生、大丈夫ですか?」

誰かが声をかけてくれた。

「あ、あぁ、大丈夫だ」

今まで抱いてきた女。授業中にそんなことを?ホーク有吉。福島トオル。
加藤と名乗った謎の男。人生で愛した者。そして、敵。

少しノイローゼ気味らしい。明らかに変だ。早退させてもらおうか。

現実から遠ざかる自分。いや自分から現実が遠ざかっているのか。

落ち着かない。飲んだことはないが、精神安定剤というものが本当に
その名の通り心に平安をもたらせてくれるのならば、今の自分にこそ必要だ。

帰りたい。帰してくれ。帰りたかった!アカネ!


つづく
247本当にあった怖い名無し:2006/09/06(水) 23:20:51 ID:qY00Yxyz0
Σ(゚Д゚)なにが起きてるんだ、ユウジロウ!
まさか…
248作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/06(水) 23:20:59 ID:FN1v8Duk0
電算室が何やら騒がしい。インターネットを主に扱う授業だけに、
時折妙な怪情報や、アダルトサイトに予期せずアクセスしてしまい
騒動が広がることはあった。

当然教師として、その騒動を治める義務がある。

「おい、何してるんだみんな…」

熱い。何か顔がくすぐったい。なんだ?黒い…。そうだ。女抱く時、
邪魔なんだよなぁ。これ…。髪の毛…。なんでこんな近くにあるんだ?

モゾモゾして邪魔だよ…くすぐってぇ。どいてくれよ。熱いんだ。腹が。

何かかき回されてる。こんな感覚は初めてだ。処女奪われる女ってのは
こんな感じなのか?

腹、かき回されて、熱い…。鬱陶しい髪の毛が離れた。赤い。熱い。

なんか教室、うるせぇなぁ。怒るぞ。でも、声出ねぇや。何でだ?

チカラ、入んねぇ。アカネに対する罪悪感…?何で?

腰が抜けて、倒れる。ユウジロウは濡れていた。赤く濡れて、仰向け。

女子生徒の悲鳴が響いた。運動部で活躍する男子が慌てて部屋を出て行った。

鮮血に染まる女子が一人。余りの赤に誰にも分からなかったが、その手には、
カッターナイフが握られていた。ユウジロウは動くことなく天井を見ている。


  終
249作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/06(水) 23:22:06 ID:FN1v8Duk0
今回の話に関しては質問は一切受け付けません。
250本当にあった怖い名無し:2006/09/06(水) 23:31:23 ID:efvl23BNO
霊感ある人って、自らの危険をなんとなく察知してるって言うよね。
ゆうじろうもそれで走馬灯みたいの物を感じたのかな?
251本当にあった怖い名無し:2006/09/06(水) 23:56:50 ID:wE/U253eO
エ?エ??(゚Д゚;≡;゚Д゚)
252本当にあった怖い名無し:2006/09/06(水) 23:57:51 ID:0d3GXYzH0
はぁ・・。
253本当にあった怖い名無し:2006/09/07(木) 00:00:16 ID:0d3GXYzH0
動揺してsage忘れorz
254作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/07(木) 21:05:11 ID:d5b17ebF0
さてここらで怖い話でもするか。

彼女の母親が目覚め、夫の朝食を作るため寝室からダイニングキッチンへ
向かうと、テーブルに意外な人物が座っていた。


つづく
255本当にあった怖い名無し:2006/09/07(木) 21:10:33 ID:tHRPo9Gz0
お、きたわ(・∀・)
256作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/07(木) 21:16:04 ID:d5b17ebF0
彼女である。事件以来、しばらくは気丈に振舞っていたが、やがて
疲れてしまったのか、学校も休みがちになり、夏休み依頼通学せず、
部屋に閉じこもっていた。

食事も部屋のドアの前に置いておくといつの間にか空の食器だけが
出されている。心配でドアに耳をつけて中の様子に聞く耳を立てたり
してみたが、ハードロックが聞こえたり、テレビを見ながら笑う声が
聞こえたり、部屋から出てこないという点を除けばいたって普通の
ようで、放っておいた。

ドアから声をかけても完全に無視されるわけでもない。無視することも
多かったが、時折、『心配しないで』、『少し休ませて』という声があることも
ある。

夫と相談したが、とりあえず来年の頭ぐらいまで様子を見ようということ
だった。

そんな彼女が朝からダイニングに出ているのだ。床には制服が脱ぎ散らかされ、
学校指定のジャージ姿でいる。

「どうしたの!?」

「あ…おはよ…学校、行く」

もともと痩せ方ではなかったが、かなり太っている。母は察した。制服を着ようとしたが、
体型が変わってしまって着れなかったのだろう。


つづく

257作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/07(木) 21:29:32 ID:d5b17ebF0
「そんな恰好で…?今日、あたらしい制服買いに行きましょ?
何日でできるか分からないけど、ゆっくり話もしたいし…」

「…たくさん話したよ。全部あたしの言うとおり…」

「そうねそうね。ごめんね。母さんやパパも反省してるの。もっと
ちゃんとお話聞いてあげるべきだったって」

返事はない。他にも色々と話しかけたが何も答えず、やがて頃合に
なるとやけに膨らんだバッグを背負って家を出て行く。

「荷物そんなにたくさんなの?まって今パパ起こしてくるから。クルマ
で送ってもらおうよ」

「…時間割、わかんないから」

そのまま彼女は歩いて消えた。夏休みを挟んで二学期になり授業の
時間割が変わっている。その詳細を知らない彼女は全教科の教科書と
ノートを持って出たのだ。

通学路。制服の集団の中に一人ジャージ。膨れ上がったバッグ。

知った顔が通るが、挨拶の一つもない。

途中、コンビニエンスストアがあって、狭い駐車場スペースの端に、
コイン照明写真の機械が設置されていた。鏡がついている。何となく覗く。
全く違う自分。太っている。これは『ぽっちゃり』で済むレベルじゃない。
『デブ』だ。ジャージはストレッチ素材でできているから何とか着れたが、
それでも中に目一杯肉が詰まっているのがよく分かる。


つづく
258作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/07(木) 21:46:09 ID:d5b17ebF0
学校に着く。転校したことはないが転校生というのはこういう気分
なのだろうか。

「あら、村野さんじゃない」

担任の熊本サチエだ。こんな時間に校門付近にいるのは明らかに
おかしい。職員用の通用門は別の場所にある。おそらく母親が、
電話で連絡したのだ。装われた偶然。作られた笑顔。

「…すいません。御心配おかけして」

「大変だったものね。ゆっくり休めた?」

「おかげさまで」

「クラスのみんなも気にしてたの。来てくれて嬉しい」

「…ありがとうございます。あの、一人で大丈夫ですから」

振り切るように玄関へ。失敗。夏休みに入る際上履きを自宅へ
持ち帰り、そのままだ。仕方なく来客者用のスリッパを借りる為、
玄関の端へ向かった。一番端の下駄箱は来客用で、その為に
用意されたスリッパが下駄箱に入っているのを彼女は知っていた。

玄関奥の廊下が賑やかだ。そこで出会った知人同士が立ち話に
興じている。その中でも特に賑やかな五人組。吹奏楽部がどうとか。
サックスがどうとか。ふと目をやる。


つづく
259作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/07(木) 21:59:15 ID:d5b17ebF0
いてはいけない者がいた。立ち尽くしていると目が合った。慌てて目を
伏せる。何故いる?どうして?しかし向こうは何事もなかったかのように
会話を続けている。

急速になくなる自信。失われる現実味。行くつもりはなかったが職員室へ。

小林先生を探す。

「先生」

「…?」

余りに彼女が変わってしまったので、小林は相手が誰だか分からなかった。

「…お久しぶりです。村野です」

「むら…あ、おぉ村野か!」

「…他のみんなは?」

「あぁ、今の所、まだ…」

「家にも帰っていないんですか?」

「…さぁ…それぞれの担任の先生に任せてあるから…俺には何とも…」

それぞれの担任。そういえば他のみんなは何組の生徒だったんだろう。
よく考えれば浅い付き合いだった。暗く、友達もいない者同士がとりあえず
寂しさを紛らわせる為だけに一緒にいただけ。


つづく
260作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/07(木) 22:14:40 ID:d5b17ebF0
だからみんながいなくなったからと言って特に強く悲しかったり
残念と思うことはない。

仲良しだとおもっていたけどいなくなったら分かる事実。何も、
感じない。

ただ周囲はそうは思わなかった。いなくなったみんなの親、教師、
そして、警察、マスコミ。

吊るし上げられた自分。一見いなくなったみんなが生贄のようであったが
本当の生贄は唯一残された自分。贖罪の山羊。スケープゴート。

悲劇のヒロイン、世にも恐ろしい事件から唯一生還した者。そんな扱いは
最初だけで、やがてそれは疑いの目に変わる。

何故一人だけ残ったのか?残されたのか?残されたとすれば?犯人の一味?
いやその生き残りが最も怪しい。

助かってよかったと保護される立場から一転、最重要容疑者へ。そうでなくても
見殺しにした、一人だけ逃げたという被害者一族からの理不尽な思い。

まともな事件ではなかった。行方不明者が同時に三人同じ場所から煙のように消える。
いずれも中学生だった。マスコミは一瞬飛びついたが、警察が『誘拐事件のおそれあり』
と報道規制を要求した。


つづく

261作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/07(木) 22:34:56 ID:d5b17ebF0
しかし犯人側からの要求があるわけでもなく、また残された
彼女の証言もかなり曖昧ではあったが誘拐事件を連想させる
ものではなく、報道規制は解除されたが、常に新鮮な事件を追うのが
マスコミの常である。

事件から何日か日が経ち、その新鮮味は失われ、一応報道はされたが
遠い過去の話のような扱いだった。

世間の興味は薄れていたが残された家族や警察の追求は続いた。何せ
彼女は事件の一部始終を知っているはずだった。昏倒していたとは言え
何かは見たはず。しかし彼女はその追及に対し、

「黒ずくめの男を見た」

とはっきり証言した。それは学校でも噂になっているとも付け加えた。
しかし『学校で噂になっている』ということ自体がその真実味を消してしまう
皮肉な結果になった。

胡散臭い噂を信じて、その噂に即したような一種に劇場型犯罪を彼女が
自ら起こし、噂の信憑性を高めると共に、全ての罪を噂の『黒ずくめの男』に
なすりつけようとしているのではないか。

そのセンセーショナルな内容からまたマスコミがもぞもぞと触手を動かし
始めた。女子中学生が単なる噂を真実に昇華させる為、噂に乗っ取って
犯した異常犯罪。


つづく
262作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/07(木) 22:49:51 ID:d5b17ebF0
「あの日、あの四人は何の為に集まっていたんだ?」

部活動で集まっていたことは既に顧問の教師から証言を得ていたが、
どうも部活動をしていた様子がない。彼女は正直に

「顧問の先生には嘘をついて、部室で『ゴーストさま』をしていました」

と供述した。この供述が後に彼女への疑惑を強くした。三名が行方不明
になったとされる部室からは確かに『ゴーストさま』に使われる用紙が発見
された。しかしそのことによって、証言者である彼女の異常性ばかりが目に
ついてしまった。

噂好き。オカルト好き。心霊現象を信じている。それらの事実がなぜか、
カルト教団、信仰宗教、更には校内カルトという聞きなれない言葉にまで
及んだ。

もう誰も彼女の証言をまともに信じようとはしなかった。マインドコントロール、
洗脳、妄想と現実の分別ができていない。思春期独特の不安定な精神状態…。

警察としては完全に彼女を容疑者扱いしたい部分もあったが証拠はなく、
クルマどころか原付にさえ乗れない中学生の女子一人が三人をほんの
数時間の間に行方不明に至らしめる不可能性から放免となるも、まともに
学校生活が営める状況ではなくなっていた。

興味本位で事件について色々聞いてくる者ぐらいならばまだ善良だが、中学生の
頭脳で推理し、彼女を犯人扱いする者。『友達を見捨てて一人で逃げた』と、卑怯者
のレッテルを貼る者。


つづく

263本当にあった怖い名無し:2006/09/07(木) 23:09:28 ID:hqXaST+u0
マユミちゃんキテタ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!
264本当にあった怖い名無し:2006/09/07(木) 23:16:55 ID:d5b17ebF0
警察は当てにならないと、行方不明者の家族は次々と自宅を
訪れ、曖昧な証言をすれば、明らかな嫌がらせを受けた。

やはり『自分の娘は生死不詳の行方不明となり、なんでお前だけ無事
なのだ』というヤッカミもあったのだろう。

次第に彼女の足は学校から遠ざかるようになり、不登校となった。

そうこうしているうちに、一人の少年が自殺し、事件となった。福島トオル。

単なる自殺事件だったが自分のペニスを切り取っての失血死という
壮絶な死に様。(第十四話 『玄と黒』 参照)

しかし彼の死に至らしめたのではないかという容疑まで彼女にかかったのだ。

彼女は、『恐らく死んだ福島トオルが黒ずくめの男である』と警察に述べた。

しかしその証拠はなく、彼女は自分に嫌疑が及んだ為に常々証言していた
実在しない『黒ずくめの男』を捏造し、それを殺害することで彼に容疑がかかる
よう仕向けたと警察は考えた。

疑われていることに気付いた彼女は絶望し、それ以上の情報提供を黙秘。
部屋に完全に閉じこもった。

警察がそこまで彼女に不信感を持ったのにも理由がある。

 
つづく
265本当にあった怖い名無し:2006/09/07(木) 23:23:31 ID:EkhszgOyO
キ、キテターー!(゚∀゚)
266本当にあった怖い名無し:2006/09/07(木) 23:30:39 ID:d5b17ebF0
『ゴーストさま』という怪しげな遊びが一部で行われていることは
警察も他一般生徒への聞き込みで確認していた。

しかし、彼女が誰を呼び出し、結果として何が起こったのか、彼女
は言わなかったのである。

言えるはずもない謎の死を遂げたばかりの教師を呼び出す不謹慎。
そしてその結果として生じた淫らな行為。

そんな少女の心を警察が鑑みることはなく、口をつぐむからには嘘か、
何かやましいことでもあるのだろうという疑惑を持ってしまった。

悪循環。その不信感、あたらさまな疑いの眼差しを彼女は敏感に感じて
いた。親友と呼べる者もなく、幼い頃から教室の片隅で、黙ってじっと、
移ろいゆく人の心を見つめてきた彼女である。実体験は豊富ではなかったが
一人黙って人を観察することで、人を見る目だけは培っているつもりだった。

警察が諦めることはなく、行方不明者の親族も彼女からの情報を求めたが、
彼女が部屋からでることはなく、親が砦となり守ってくれていた。

さてはだんまりを決め込んだな、と更に疑いを強めた警察だが何より証拠も
なく、犯行目的も手段も分からない。手の出しようがなかった。


つづく


267本当にあった怖い名無し:2006/09/07(木) 23:41:05 ID:d5b17ebF0
教室で一人ジャージだった。他人への不信感は以前からあったが
更に強めている。警戒。防御。

何人かの心優しい女子が何ヶ月かぶりにやってきた彼女に声を
かけようとしたが躊躇した。

彼女は今玄関で見た教師のことを考えていた。死んだはず。そう。
死んだから『ゴーストさま』で…。いるはずがない。ニュースは見ていた。
そうちょうど当時、大きなテロ事件があって、ニュースも雑誌もそれ一色。
アイツが死んだことは小さくしか取り扱われなかった。

でも確かに死んだはずだ。校長から発表があった。彼は死んだと。

生きてるじゃねぇか!だとしたら行方不明になった仲間は?取調べの時、
一人の心無い刑事が言った。

「黒ずくめの男?噂になってるって?馬鹿馬鹿しい。だったらカッパも是非
見てみたいもんだね。へへへ」

黒ずくめの男はいなかった。あの先生も死んでなかった。じゃああたしの体験は?
みんなで集まってみんないなくなって。みんな。みんな実はもう学校にいるの?
あたしだけ一人家で馬鹿みたいに閉じこもって。シカト?

消えた三人は確かに同学年だったと思うが、クラスさえ知らなかった。干渉しない。
深入りしない。あくまで上辺だけの仲良し。

そもそもそんな人いたのかな?


つづく

268本当にあった怖い名無し:2006/09/07(木) 23:51:20 ID:d5b17ebF0
二年C組担任熊本サチエは困惑していた。教師生活三十年。ベテラン
ではあるがこういうケースには運がよかったのか出くわさなかった。

数ヶ月ぶりに登校してきた生徒。すっかり太ってしまって別人のように
なってしまったが、彼女を改めて紹介すべきだろうか。

どう扱えばいいか。『久しぶりに来てくれました』と言うのも変か。そのまま
自然に出欠だけを確認して流したほうがいいか。何年も登校拒否という
わけではない。ほんの何ヶ月か学校を休んでいただけだ。改めて紹介する
までもなく、生徒だってみんな知っているだろう。

皆統一された制服の中、一人ジャージは異質であったが、何にも触れず、
そのまま朝のホームルームをいつも通りにこなした。

時間割は黒板の横に大きく貼り出されている。

『一時間目 『情報倫理学』(電算室) 担当:山形』

心が揺らぐ。自分の存在自体に自信がなくなった。本当は連れ去られたの
自分でどこが別の世界に入り込んでしまったのか。

それとも、そもそも全て自分の幻想で事件も、教師が自殺したことも、『黒ずくめの
男』も、警察の取り調べも、全てが夢だったか。

そもそもみんなにあたしが見えてる?どうして誰も声をかけてくれないの?


つづく

269本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 00:00:16 ID:d5b17ebF0
三々五々適当に軽口を叩きあいながら教室を出て行く生徒たちは
何ヶ月の間でぶくぶくと太り、一人ジャージ姿の彼女をまるで注目
しない。

してもいいでしょ?ってか普通するよ。こんなに太ってジャージだよ?
ちょっとは見るでょ?キモいとか思うでしょ?事件のこととか聞きたく
ないの?

事件は既に風化し、余りに変わってしまった彼女をどう扱って良いものか、
判断ができなかったのだ。特に親しかった者がいるわけでもない。確かに

『次は電算室だよ。一緒に行こう。今までどうしてたの?もう平気なの?』

と声をかけようと思った女子は何人かいた。しかしお互いそれぞれに

『自分がやるまでもなく誰かがやるだろう』

と思い、タイミングを見計らったまま見合ってしまっていた。結局彼女は一人
だった。

身体が重い。実際太ったせいか精神的なものか。彼女はこのまま帰宅したい
気持ちを抑えて何とか『電算室』にたどりついた。

チャイムが鳴る。やがて扉が開いた。

現れたのは間違いなく、山形ユウジロウである。

おかしい。確かに死んだ。そして呼び出した。『ゴーストさま』。アイツはやって来て、
あたし達に恥ずかしいことをさせて…


つづく
270作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/08(金) 00:08:18 ID:9mtCy+7q0
一人ジャージの生徒をユウジロウは見た。ああずっと休んでた子か。
出欠を取りながら確認する。

「松本タカシ」

「はーい」

「三上サユリ」

「はい」

「村田ダイスケ」

「ぅいっす」

「…む、村野…マユ…ミ…」

「…はい」

しばらく返事のなかった名。しかし何か引っかかる。話したこともない
生徒だ。見覚えも余りない…気がした。

動いている。そして呼吸をし、教師としての仕事をする。ゾンビなどでは
ない。リアルな人間だった。しかし彼女にとってはリアルであっては困る
存在だった。

ユウジロウの死。天文部。『ゴーストさま』。ユウジロウは帰らず、淫らな
行為を要求した。しなければ犯すと脅した。


つづく
271作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/08(金) 00:20:55 ID:9mtCy+7q0
あたしは乱れて、気を失って、夢を見た。山形先生に犯される夢。

そしてそれとは別に見た『黒ずくめの男』

なんだかわけわかんない。自分が信じられない。だって山形先生は
死んだんだ。死んだから、『ゴーストさま』で呼び出せた。

でも生きてる。不思議。どこかで何かがネジレたんだ。きっと。だから
あたしは疑われたり。じゃアイツが死んだら元通りじゃない?

疑われて、警察からはしょっちゅう『お話を聞かせて下さい』とか電話が
来る。ママが『今娘は精神的に不安定なので』って言ってくれてるから
助かってるけど。

全部コイツ。コイツのせい。アイツが死ねば矛盾はなくなるよね?あたしの
元々いた世界へ戻れるんだ。あたしはもっとスマートで、唯一の生き残りで、
テレビにも出れるよ。インタビュー。あたしは泣きながら言うの。『あたしの大切な
友達がみんな消えちゃって…お願い!あたしの友達を返して!』全国から
あたしを励ますお手紙が届くんだ。『可哀想!あたしが代わりに友達になって
あげるから泣かないで!』 『僕も孤独です。孤独な者同士メル友になりませんか?」

そうそう。そうあるべき!校内でも歩くたんびに、『黒ずくめの男』の話聞かせて!
とか言われて。女子テニス部とか全然カス!みたいな。運動部のかっこいい先輩
たちが守ってくれるんだ。毎日。一緒に家まで送ってくれる。

そうか。あたしは今、何か違う次元みたいな。パラレルワールドみたいな。そんな
いちゃイケナイ所にいるんだ。アイツが死ねば、

…スベテ、モトドオリ…。


つづく
272作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/08(金) 00:34:29 ID:9mtCy+7q0
村野 マユミ(第四話 『天体観測』 参照)は、ペンケースの中から、
カッターナイフを取り出すと刃を目一杯に出して、ゆっくりユウジロウの
元へ向かった。

運のいいことにユウジロウは具合が悪いようで椅子の上で既にぐったりと
している。

やっぱり…神様がチャンスくれてる。簡単そうじゃん。やっぱり歴史は正しい
方向に流れるんだよ…

カッターナイフな気付いた女生徒が悲鳴を上げたが、他の者には何事か
分からない。と、マユミはそのナイフで叫ぶ女子を斬りつけた。振り上げた
ナイフをみんなが見た。

教室中が騒いだ。しかし止める者はいない。いくら女子とは言え相手は刃物。
ましてや混乱の中冷静な判断を下せる十四歳はいなかった。

「おい、何してるんだよみんな…」

不用意に立ち上がったユウジロウへ、マユミが一気に迫った。カッターナイフの
刃は呆気ないほど簡単に、彼の腹へ刺し込まれた。

教室を静まり返る。何がどうなったのか。よく見えない。しかし腹からぼたぼたと
血を流し一度椅子の背もたれに掴まったものの、力なくそのまま仰向けに
倒れこんだユウジロウを見て更に大きな悲鳴が上がった。

たちまち朱に染まるユウジロウは声一つ上げない。一人我を取り戻したサッカー部
所属の男子生徒が部屋を飛び出し職員室へ向かった。


つづく
273作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/08(金) 00:46:28 ID:9mtCy+7q0
振り返るマユミの手元は真紅に染まり、カッターナイフにもべっとりと
血の塊が付着して何を持っているのか分からない状態。

倒れているユウジロウの腹からはだらだらと止め処なく大量の血が
流れ出ていた。

「ここがリアルな世界?」

マユミは血に染まったまま近くの生徒に尋ねたが、彼はただ震える
ばかりだった。

これで悲劇のヒロイン。みんなが同情して、みんなが可哀想と思って、
みんながあたしを大事にしてくれる。

マユミの機嫌はよかった。これで全てリアルになったのだ。ユウジロウが
生きている世界ではなくなった。彼は死んでいなければならない。

それにしても人を一人殺すのって疲れるね。眠い。すごい眠い。

余りの出来事に叫ぶ者。しかし下手に騒げば次は自分が殺されるのではと
恐怖し、必死に息を殺す者、わけも分からずぼろぼろと涙を流す者。

そんな中。マユミは自分の席に着くと、そのまま眠った。

自分は痩せていて、みんなに守られ、唯一の生存者として証言することを
勇気ある行動だと讃えられ、普段の行いがよかったからきっと一人だけ
生き残れたんだなと尊敬される世界。

そんな夢の世界に彼女は浸り、眠り続けた。


  終
274本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 01:36:14 ID:YbISDQfUO
今夜は昨日の話を裏側からみた話でしたか…
それにしても昨日からの流れが怖い…
霊とかの話も怖いですが、こういう人間的な話は怖い…((((((;゚Д゚))))))
そしてこの後どうなっていくのか気になる…
275作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/08(金) 01:51:17 ID:9mtCy+7q0
>>274
人それぞれ怖いツボがありますよね。心霊的なモノが怖いかた、
人間の異常性…今回のようなサイコつぽいのが怖いかた…。

一応様々なニーズに応えられるように色んな恐怖を提供している
つもりですがいかがでしょうか。

さてユウジロウはどうなってしまうんですかね。実は私もまだ決めて
ないんですよ。あくまで設定なし、準備なし。ゲリラ魂は今も健在です…。

百話を目指すと公言していますが、次回が最終回になる可能性もありますよね。

それは『明日の私』しか知りません…。

感想ありがとうございました。
276本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 02:16:41 ID:YbISDQfUO
エ?エ?(゚Д゚;≡;゚Д゚)
まじですか…。
このスレを見るのがすっかり日課となっていたため、
なんとなくいつまでも続いていくものだと思ってしまっていました。
終わらないものなんて無いのに…。

とはいえ!
次どうなるのかはまだわからないですもんね。
まさに作者さん次第って事でw
これからどうなっていくかはわかりませんが、
いつ終わってしまうかもわからないなんて、
そう考えたら読む側としても気合いが入りますね。
1レス、1話、大事に読ませていただきます。
277作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/08(金) 11:30:47 ID:9mtCy+7q0
>>252-253

ふと思ったんだけど同一人物の読者さんのカキコってことは分かるんだけど、
日付はさんでるのになんでID一緒なの?00:00:00ジャストで更新されるんで
ないの?なんかちょっと不思議だったんでつい書いてみました。
278本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 12:56:50 ID:HZK3A+Xj0
作者さん乙です!
面白かったです!一人残ったらそりゃぁおかしくもなるわなぁ。。
松本サリン事件を思い出しました。
人間の狂気は恐ろしい…((((((;゚Д゚))))))

最終回になるのは勘弁してほしいなぁ。まだ教頭の話とか出てないし。
このシリーズのタイトルも決まってないし。
非難スレであったけど、本当にそれぞれが主人公の話なんで
それぞれの人生を垣間見てるみたいで面白い!
人生ってそうだもんなぁ・・、全ての人が自分の人生で主人公で
あとは共演者だもんなぁ。

カッターくらいで逝ってしまわないでまた大爆笑させてほしいっす!
シリアスもいいけどエロオカルトお笑いにいつもはまってしまいます^^
279作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/08(金) 13:29:27 ID:9mtCy+7q0
>>278
まだ教頭にこだわってんのかよwwww
しかも『非難スレ』っていつの間にアンチスレができたのか
一瞬驚いてしまった…orz 避難所のことね。

応援してくれてありがとう^^ 実はちゃんと徳島のも考えてます。
オカルトとからめるのが少し難しいかなぁというところで止まってる
段階。

ただ、その時果たしてユウジロウは生きているのか…。。
280本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 13:37:09 ID:9mtCy+7q0
さてここらで怖い話でもするか。

騒ぎでごった返す『電算室』。立ち尽くしたり、座り込んで泣いている生徒
を掻き分けて、一人の男子生徒が倒れる山形先生に駆け寄った。


つづく
281本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 13:51:20 ID:9mtCy+7q0
あらかじめ脱いであった制服のワイシャツを傷に押し付ける。

しばらく押し付け傷の様子を見て舌打ちをした。ただの刺し傷ではない。
カッターナイフ程度の刃物なら致命傷にはなるまいと踏んだが、村野マユミは
どうもナイフを刺した後、傷を広げるようにえぐったようだ。傷は深く、広い。

強くワイシャツを押し付けるがみるみる血の赤に染まっていく。

「男全員ワイシャツ脱いでこっち持ってこい!早く!急げ!」

何人か冷静さを取り戻した男子生徒がワイシャツを脱ぎ始めた。

「いちいちボタンなんかはずさんでいい!早く脱げ!」

慌ててボタンを引きちぎってワイシャツを持っていく。彼にならってみんなそのように
した。

とにかく大量のワイシャツを傷口に押し付けながら、携帯電話を取り出すと救急車を
要請した。

『…救急車到着まで平均六分…間に合うか…』

一方、『電算室』を飛び出したサッカー部員、尾藤ケンサクは職員室に飛び込むなり

「山形先生が刺された!」

と叫んだ。


つづく
282本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 14:13:06 ID:agFlG7Lh0
こんな時間にキテル━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!

おやつがないよ〜ww
283本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 14:17:12 ID:9mtCy+7q0
校長、並びに徳島教頭、校医の松本ケイコが『電算室』へやってきた。

その頃には生徒は完全に落ち着きを取り戻し、血に染まったワイシャツを
次々にきれいなワイシャツに取り替える作業をしている男子生徒の様子
をじっと見ている。

「ちょっと見せて」

松本ケイコが言った。

「まだ脈は安定しています。圧迫止血をしているんですが…」

傷口を見て、医務室の設備ではどうしようもないことは一目が分かった。

「もう救急車は呼びました」

「…的場くんがこのクラスで助かったわ…」

とりあえず安堵する。教頭と校長も頷いていた。彼は校内でも有名な人物だった。

新聞委員委員長、的場リュウジ。その風貌らして只者ではない風格を漂わせて
いた。

十四歳にして無精ひげ。火こそ着けていないが咥え煙草。精悍な顔立ちはどう
見ても二十台半ばという印象で、肌は黒く焼け、黒々とした髪をオールバックに
固めている。普段は眠そうな目をしているが、いざとなるとその目は険しく、爛々
と輝く。


つづく
284本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 14:23:19 ID:y0JvR7LW0
的場君ステキ〜!新キャラ登場にドキドキ(゚∀゚)
285本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 14:46:51 ID:9mtCy+7q0
『スネーク』と呼ばれる彼の容姿最大の特徴は、左耳の一部が欠けている
ことだ。

何故耳が欠けているのか。銃撃され弾丸が耳をかすめたのである。

彼の父親はプロの戦場カメラマンだった。そしてリュウジが小学二年生の時、
エチオピアとエリトリアの間で起きた紛争の取材中、流れ弾に当たり死亡した。

まだ二年生に上がったばかりで、そのお祝いに近々帰ると連絡があった直後。
そして紛争の休戦合意が成立するわずか二ヶ月前の出来事だった。

まだ幼いリュウジであったが、彼は父の死を理解し、感銘を受け、自らも
ジャーナリストの道を歩き始める。

そして去年の夏休み、中学一年生にして南米の麻薬地帯を取材。抗争の銃撃戦
に巻き込まれ、その際左耳の一部を失った。

そしてその取材写真とレポートを自由研究として提出して以来、彼は校内一の
有名人となった。各新聞紙、週刊誌などにも写真や記事原稿を投稿することも
あり採用されることも多く、既に新聞社とは太いパイプでつながっていて、噂に
よれば中学卒業次第、各社が彼のスカウトに動き出すらしいと言われているが
本人はフリーでいたいようだ。『思想的に偏るのはジャーナリズムに反する』と
いうことらしい。

国内でも大きな災害などがあれば取材に飛ぶ。勿論学校はサボる。しかし彼に
とっては『新聞委員としての取材』であるようで、彼が帰宅した後の校内新聞には
通常の新聞よりも濃い内容の記事と写真が掲載される。


つづく
286本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 15:04:25 ID:9mtCy+7q0
一応パスポート上では十四歳なのでなかなか紛争地域には潜入
しにくい部分があるが、各災害地などを取材するうちに救助活動
にも参加することもあって、応急処置的なこと、サバイバル技術などは
自然と身についていた。

ただし全てが良いわけではない。成績は英語と地理以外はすこぶる悪い。
歴史も近代には異常な強みを見せるが明治維新前のことは全く知らないに
等しい。国語も作文のようなことや漢字は得意だが文学的なことは全くだめ。

体育は得意そうだが、陸上や水泳だけで球技は全くできない。というか基本的な
ルールすら余り知らない。

要するに自分で学んだこと以外は何も知らない。彼は言う。

「学校で教わったことは何もない。全ては俺が身体で学んだことだ」

非常にモテそうだが、ワイルド過ぎて長続きしない。ナイフとニコンのカメラ以外
一切の装備も持たずキャンプに行き、腹が減ったらヘビを食う。大体そこで
逃げられる。

入学早々新聞委員に入り、三年生の委員長のスキャンダルをいきなり暴いて会
から追い出し、そのまま自分が委員長の座について、会の連中には
『編集長と呼べ』と強要する。

校内新聞なのに何を勘違いしているのか校内の記事はほとんど見当たらない。

かなり偏った男ではあるのだが、頼り甲斐はあった。


つづく

287本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 15:06:42 ID:Ois+rdHw0
>>277
00:00:00ジャストでは変わりませんよー
大抵は数分遅れますし、変わったはずなのに一度戻ってしまうこともあります。
自分の経験上、日付かわって7分くらいたてば間違いなく変わるようですが・・
288本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 15:14:07 ID:byKy7+HB0
>>287

私もそう思います。ジャストには変わりませんよね、結構遅いと感じました。

しかし的場君すごすぎ・・。
なんでこんなすごい人ばっかり集まってるのかしら。。面白すぎ!
289本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 15:30:20 ID:9mtCy+7q0
救急車が来た。救急隊員の行動を逐一、リュウジはカメラに収めた。

そしてそのまま救急車に乗り込み同行した。

「ユウジロウ…死ぬな…」

意識を失っているユウジロウの手を取って彼は声をかけ続けた。実は
的場リュウジと山形ユウジロウ、生徒と教師の関係を超えて奇妙な
友情で結ばれている。

始めは単なる興味だった。突然の飛び降り自殺。そして復活。彼に
張り付いて彼の行動を見ているうちに惹かれてしまったのだ。

ユウジロウもいちいち尾行されて色々調べられるよりはと、洗いざらい
彼に自分の起こした様々な事件や出来事について話して聞かせていた。
隠しても隠しきれないことをユウジロウも知っている。

己だけを信じ己の思うままに行動する、といった点で二人は共通するの
かもしれない。不思議と二人は気が合った。

無論ユウジロウが起こした数々の珍事件の中には、校内新聞に取り上げ
られるべきモノもあったが、下品な事件ばかりで記事にしたくないと彼は語る。


つづく
290本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 15:35:35 ID:93zVY68G0
スネークというのは蛇を食べるからか・・・
291本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 15:48:11 ID:GE4YmD0v0
まさかおでん屋のおじさんを殺しちゃった事も言ってるのかな?
292本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 15:54:19 ID:Cg7LOA6N0
>校内新聞なのに何を勘違いしているのか校内の記事はほとんど見当たらない。

やべぇ、ツボに入ったwww
293本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 15:55:07 ID:9mtCy+7q0
ユウジロウは一命を取り留め、凄まじい回復力を見せた。

実は一度心配停止状態に陥ったが、元オカルト同好会一年
雪野カエデが、『ヤオヨロズ』を使役。半ば強制的に心臓を
動かした。死にかけた心臓の『ヤオヨロズ』を活性化させたのだ。
しかし勿論これも内緒である。

活性化といっても、単に『ガンバレ』と応援しただけに過ぎない。

そんなことにも使えるのかとカエデは自分で驚いていた。

あれだけの傷を負いながらユウジロウは短期間で退院。

犯人村野マユミはそのまま逮捕されたが意味不明の供述を
続けていて精神鑑定の必要ありとの見方が強いらしい。

アカネ独自の判断によりそれだけの事件に関わらず報道は
ごく控えめにされた。

ただユウジロウには何故自分が刺されたのか理由が分からなかった。

確かに何処で恨みを買うか分からない人生を歩んできた。

元オカルト同好会の連中に福岡先生などを交えて、『枡や』で快気祝いを
しようという話がアカネから持ち上がったが、ユウジロウは丁重に断った。


つづく

294本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 16:16:04 ID:WordBSzu0
マユミのおかあちゃんちょっと可哀想。。
これで同級生も殺しただろとか言われるんだろうなぁ。

ユウジロウ回復早!という事はこの話はユウジロウが一命を取り留める
話ではなくて前後が重要なのだな、と推理してみるw
295本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 16:16:16 ID:9mtCy+7q0
ただ一人直接、それぞれの自宅や『枡や』に出向いて、心配かけた旨を
詫び、感謝の言葉を述べた。

退院した翌々日には職場復帰。色々と騒がれたが朝礼で一言挨拶をして、
ごく普通に一日を過ごした。

放課後、2−C教室。的場リュウジはいつもここにいる。自分のノートパソコンで
何かしら書いていた。校内新聞用の記事か、投稿用の記事か。彼は窓辺の席
に陣取って窓を全開にして、ラッキーストライクの紫煙をくゆらせていた。

「的場…。助かった」

「朝礼で聞いた。礼はいらない」

「そうか。寒くないのか?」

生徒が教室でタバコを吸っている。生徒は少しでもバレないように便所の換気扇の
下とか、窓のすぐ近くとか、外で吸うのが常だ。それはさすがのリュウジと言えど
変わらない。ただユウジロウにとって生徒がタバコを吸うことなどどうでもよかった。
身体を壊すのは自分だ。人に迷惑をかけているわけでもない。好きにすればいい。
人ごみで歩きタバコしている大人の方がよっぽど迷惑だ。

「俺はなんで刺された?」


つづく
296本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 16:40:36 ID:9mtCy+7q0
ノートパソコンを閉じると、的場リュウジは自分なりに知っている
ことを言って聞かせた。

ユウジロウは自分が死んでいた間の記憶が全くない。その話は
その辺りの話だった。

情報のソースとしてリュウジは警察関係の者とのつながりも持っていた。

『ゴーストさま』をやっていた天文部員が行方不明になった話。村野マユミの
『黒ずくめの男』に関する証言。

「『黒ずくめの男』…?」

「単なる噂だという話だが、福島トオルが自殺した後、奴が『黒ずくめの男』の
正体だったと噂が立った」

「…何か知ってるのか?」

「その手の事件に興味はない…」

「そうか」

「ただ警察は福島の自殺まで村野がやったと考えていた節がある」

「遺書まであったのにか!?」

「一度疑えば惰性で動く。警察の捜査にも『慣性の法則』はあるんだよ。
ユウジロウ」


つづく
297本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 16:47:06 ID:mRndkcbc0
>>292

実は自分もかなりツボにはまったwww
298本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 16:54:20 ID:9mtCy+7q0
「『黒ずくめの男』に連れ去られるともう二度と帰って来れない。
そして『黒ずくめの男』は実在し、それは福島トオルだった」

「…?」

「まだ興味は沸かないか?」

「…全て事実だとして、一番気になるのは二度と帰って来れない
という点だ。どういう方法を使えば可能だ?クルマで運んで山に
でも埋めるか、バラバラにして処理するか…」

「どっちにしてもクルマもなければ一人暮らしでもない中学生には
ちょっと無理だろ?」

「確かに」

「じゃあ食っちまったら?」

「馬鹿馬鹿しい。生で食うのか?調理するにも一回バラさないと
ならんだろう。それに一人で人間一人食いきれるものなのか?」

「奴が死んだ公園は何処だったか」

もう一度ノートパソコンを開いたリュウジは当時の事件記事を検索した。

「滝乃城跡公園…!そういうことか…」


つづく
299作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/08(金) 17:08:31 ID:9mtCy+7q0
滝乃城跡公園。地元の人間ならそれとすぐに結びつく言葉が
あった。ホームレス。行政も色々と手段を講じているが手が
出せない状況が続いている。

『黒ずくめの男』が死んだ今となっては遅いだろうが、彼は後日
取材に出かけた。状況はかなりひどかった。

昼間から酒を飲み、ベンチに寝転がり、エロ本をよみふける者、
遊んでいる子供を何か棒を片手に追い掛け回し、泣かして
楽しんでいる者もいた。少し頭がおかしいらしい。

公園で遊ぶ者も少なく完全にホームレスに占拠されている。

夕方になると公園に帰ってくるホームレスもいた。家はなくとも
何かしら働いているのだろう。にこにこと温厚そうな顔で、手には
コンビニエンスストアの袋を提げてブルーシートで作られた
『自宅』に帰っていく。しばらくすると出てきて、ベンチで朝からゴロゴロ
と寝ていた男に何やら言った。と男は立ち上がるなり老人を殴り蹴り、
死んでしまうのではないかと思うほどの暴力を振るった。

彼は父の忘れ形見のニコンでその様子を写真に撮ると、すぐに止めに
入った。

「すいません軽子沢新聞の者ですが」

「っんだよぉ!取材なんか受けねぇからな馬鹿野郎が」


つづく
300作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/08(金) 17:23:21 ID:9mtCy+7q0
息が酒臭いその男は『新聞』と聞いて暴力行為をやめた。
やはり何か後ろめたいところがあるのだろう。

倒れている老人を助け上げ、そのまま彼の『家』に運び入れた。

意外といい『家』でガスコンロもテレビもある。何かあったのかと
訊ねると温厚そうな老人は毎日盗難にあって困っていると語った。

彼は日中、空き缶を集めては売っているのだという。そこそこの
稼ぎにはなるそうだ。ところが帰ってくる度に家から色々な物が
なくなる。ドアに鍵をつけてもドアそのものが頑丈なものではないから
簡単に蹴破られてしまう。犯人は分かっていて、さっきの男が
そうらしい。

話を聞いてくれるのが嬉しいのか口の軽くなった老人は公園の
現状について語り出した。

基本的に勝手に公園を占拠しているわけだから、それ自体は悪い
ことなのだろうが、それでも以前からいる連中は善良で一応近所の
者や公園遊びに来た者に対しても気を使い、公園のトイレを掃除
したり、落ち葉を拾ったりとそれなりの『恩返し』をしていたらしい。

ところが最近入ってきたグループはマナーがひどく、凶暴な犬を
公園内で放し飼いにしたり、公園に来る女性に悪戯をしたりと、
やりたい放題で、彼らのせいで近所の者からもすっかり冷たい目
で見られるようになってしまったと老人は悲しい目をした。

無論老人は前者。先ほど老人を殴っていた男は後者だ。


つづく
301作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/08(金) 17:39:59 ID:9mtCy+7q0
新しいグループは既にいい場所を確保していた古いグループに
嫌がらせをし、公園を追い出すなどして、今や古くからこの公園
にいる人間は自分一人になってしまったと言う。

「昔は食べるものも大変だろうとも近所の婆さんがオカズ持って来て
くれたりしてねぇ。今じゃ誰も近寄りませんよ」

リュウジは一通り話を聞いて信用を築くと、『黒ずくめの男』についての
質問を切り出した。さすがに言いにくそうだったが老人は語り始めた。
そして言った。

「女を世話してもらう代わりに、その娘を殺して、バラして一日かけて
煮ちまうんです。とにかくトロトロになるまで。こんな生活寂しいから
動物飼ってる奴も多いんですよ。特にイヌだとかネコだとか。んで、
その人煮たやつをイヌやなんかに食わすんです…」

老人は少しえずいた。

「勿論わたしゃあしやしませんよ。まともに見たこともありません。ただ
夜になると犯される女の声が聞こえるんです…可哀想にねぇ…。それが
パタッとおとなしくなる…その後にね、ゴーリゴーリってノコの音みてぇの
が一晩続くんです…朝、わたしが仕事出るぐらいになると、何か煮てるん
ですよ。普段料理なんかしねぇで、コンビニの、期限切れの弁当食ってる
奴がですよ。何度も警察に行こうと思ったんですが…わたしまで疑われる
んじゃねぇかって恐ろしくて恐ろしくて…」

話を聞き、礼をいったリュウジは警察署へ向かい、顔見知りの刑事を尋ねた。


つづく
302本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 18:13:38 ID:9mtCy+7q0
数日後、滝乃城跡公園のホームレス数人が逮捕された。

警察の追及にホームレス達は十六名の女性を処分したことを
認め、軽子沢中学の天文部部室から消えた三名の女子についても
記憶にあるとした。

その猟奇的な事件は大きく報道された。ホームレスはあくまで、
『黒ずくめの男』に依頼されて、という供述をしたが、全く受け入れられ
なかった。福島トオルは既に死に、彼が依頼したという証拠は全くなく、
また被害者全員が死んでいるのでその裏を取ることもできなかった
からだ。

村野マユミの容疑も晴れ、その強引な捜査がリュウジの取材によって
明らかになり、警察側の謝罪会見が開かれた。恐ろしい目に合い、
命からがら助かった少女に疑いの目を向け、話を聞くと言いながら
その内容はほぼ取り調べと呼ぶに等しい内容だった。

ユウジロウを刺した件についても、そのようなストレス状態が引き起こした
事件だという世論が巻き起こった。

その上でユウジロウは起訴の取り下げを求めた。

村野マユミは今精神病院にいる。インターネット上でも彼女の回復を願う
サイトや掲示板が数多く立ち上がっていた。治療は順調で、退院も間もない
という。


  終
303作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/08(金) 18:18:23 ID:9mtCy+7q0
オカルト入れられなかった…ごめん…

合いの手くれた方々ありがとでした。長くてごめんね。どこで
オカルトを入れようかと迷っているうちに話がアッチコッチに…

>>287-288

つまらん疑問に答えてくれてありがとです^^よくわかりました。
今度自演する時は気をつけよう。(嘘)
304本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 18:58:17 ID:8Z1exckw0
作者さん乙です!

いや、なんとなくオカルトというかジワジワくるものがありました。
面白かったですよ〜!ライブならではの話の展開がすごく伝わってきました。
マユミが救われて良かった!
よくよく考えれば悪い事をしたホームレスの人たちは捕まってもいないし
裁きもうけていないですもんね。捕まってよかった。
マユミを追い詰めすぎた警察もちゃんと罰を受けてよかった〜
いつもユウジロウが解決するけど、そればっかりじゃ出来すぎだし
違う新キャラが解決してくれて良かったと同時に面白かった!!
スネークリュウジの今後の活躍に期待します^^

いつも面白いキャラが出てきて最高!でも自分の中学時代を
振り返ると確かに個性的な同級生はいたなぁ。。リュウジほどじゃないけどw

さぁ、新聞委員の夏の合宿はいつだっ??
305本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 19:23:31 ID:opz4TSkB0
久々に来てみたら何コレ?
山形ピンチ!山形再復活を熱烈キボンヌ!!
306本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 20:22:49 ID:YbISDQfUO
ぐはー早い時間にキテター(゚Д゚;)
ユウジロウ助かってよかった。・゚・(ノД`)・゚・。
まぁそう簡単に死ぬお人じゃないとは思いましたが、
実際一回死んでますし、結構心配しましたw
マユミも最悪な形にならないで済んで、ホントよかったぁ〜(つД`)
307作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/08(金) 20:39:54 ID:9mtCy+7q0
>>304
設定なしで書いてるから見逃してる悪人が結構いる気が
するんですよね。まとめサイトもぼちぼち見てるんだけど、
改めて読むとすごいテキスト量の上、とりかえしのつかない
矛盾があったりして…。たくさん感想ありがとう。新聞委員の
夏の合宿って来年??本当は作中世界とリアル世界の時間
は同じはずだったけど。ユウジロウ骨折事件のせいで作中
世界はもう10月半ばですよー(笑)

それに委員会の合宿ってあったか?そもそもリュウジが率いる
合宿って多分アフガニスタンとかイスラエルとか…絶対やだ(笑)

>>305
え?どこまで読んだ?なんか色々最近はスピンオフやったり
遊んじゃったから次回は正統派のエロ怖路線に軌道修正
しようとは思ってるけど…。そういう意味でとっていいの?

>>306
たくさんレスくれてありがとうです^^私も後先考えないで書いている
のでマユミ助かってよかった〜(笑) たまたま『敏腕新聞委員のリュウジ』
というキャラクターがいなかったら助からなかったでしょう。不思議
ですよね。何も考えないのに必要なキャラクターが必要な時に、既に
いるんですもん。自分でも驚きますww
308本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 21:11:12 ID:DY4Bkbd10
>>307

あ、しまった夏休み終わっていたか!
じゃ、秋の一泊旅行でお願いしますw新聞委員の面々が活躍(いや、ずっこけてもいい)
の話なんかがあるといいなぁ^^

そして密かにケンサクの話も期待・・・。

ところで校長の名前ってないんですか?
309作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/08(金) 21:44:02 ID:9mtCy+7q0
>>308
校長は校長です。前もって何か考えるということなく書いているので、
名前やそういったものを立ち上がってくる感じで、瞬間的に決まります。

校長は今のところ校長です。名前が出てこないということはまだ
『立ち上がってない=生まれてない』ってことですね。ただ学校には
必ずいるので『校長という立場の人がいる』というだけで、名前も容姿も
ありません。いつか生まれるのかなぁ。

新聞委員がご覧になりたいと。リクとして受け付けます。ただ以前から、
徳島教頭スピンオフ要望があるのでそちらを優先します。

尾藤ケンサク。そうですね。彼はサッカー部所属ですが、サッカー部と
無関係の話としてなら可能だと思います。


>>読者の皆様へ

喜ばしいことにたくさんのリクが集まりましたのでリク募集はしばらく
休止します。御了承下さい。
310作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/08(金) 23:16:30 ID:9mtCy+7q0
さてここらで怖い話でもするか。

徳島剛三、当年とって五十二歳。座右の銘は質実剛健。

軽子沢中学教頭である。


つづく
311本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 23:22:44 ID:YbISDQfUO
開いた途端にキター!(゚∀゚)
しかも今日2話目(´Д`*)
312本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 23:37:39 ID:DscZYaeJ0
しかも教頭だーーーーーーwwww
313作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/08(金) 23:45:19 ID:9mtCy+7q0
最も早く通勤し、特別なことがなければ最も遅く帰宅する男。

誰も彼の自宅を知らない。

私生活を知る者もいない。

他の教師と酒を飲み交わすこともない。

誰も彼を知らなかった。

主に校長の補佐を生業とし、時として生徒の教育にも当たる。

しかし決して目立たず日陰に隠れ。地味と言われようとも、構わず。

若い頃からは違った陽の当たる場所を好み、熱く燃える熱血教師であった。

出世は早く、軽子沢中学に赴任する前には既に教頭職についていた。

その学校には暗い教師がいた。生徒に小馬鹿にされ、保護者からも
『頼りにならない』という声が上がっていた。

よりによってその教師、徳島と同期であった。いわゆる、『うだつの上がらない男』
だった。

しかしその教師のクラスには問題が多かった。全体的に勉強の成績も悪く、
札付きの不良生徒もいて、更にはイジメ問題も持ち上がっていた。


つづく
314本当にあった怖い名無し:2006/09/08(金) 23:56:21 ID:9mtCy+7q0
同期ということで、徳島は彼を飲みに誘った。そして彼独自の
教育論を展開した。それは根性論であり熱血論で、性格の大人しい
彼に聞かせたところでどうしようもない話だった。

彼の受け持つクラスは更にひどい状態となり、事あるたびに徳島は
彼を酒場に連れて行っては同じ話を聞かせた。

根性、熱血、師弟愛。それで全ての問題が解決すると思っていたのだ。

彼も徳島の言うように何とか頑張ろうと試みた。しかしそれは全くの逆効果で、
鬱陶しいと生徒から総スカンを食らった上、暴力まで振るわれた。

イジメはなくなった。標的が教師である彼に向いたのだ。生徒から多少いびられる
程度ならばよかった。しかし次第に増長した不良たちは彼に暴力を振るうように
なった。

頼りの徳島のアドバイスは『生徒と殴り合え』というものだった。

何とか一撃やり返した彼だったがそれは不良たちを挑発する結果となり、更に
ひどい暴力を受けた。

結果、彼は自ら死を選んだ。

『僕はこの世の全てを恨む
315本当にあった怖い名無し:2006/09/09(土) 00:13:10 ID:bc8wkoWu0
(ごめん途中で送信しちゃった…最後の一行から)

『僕はこの世の全てを恨む』

という遺書を書き残して。首吊り自殺だった。酒はそんなに強い方では
なかったが、恐怖に打ち勝つ為だろう、ウイスキーのボトルがそっくり
空になって足元に転がっていた。

衝撃だった。徳島はすぐに心当たった。自分のアドバイスが逆効果だった
のではないかと。

しかしそれを知る者はいない。誰も徳島と死んだ彼との関係を知らなかった
のだ。彼は徳島以外の同僚からは、暗い奴だと敬遠され、彼のクラスの
様々な問題を知っていながら何か手伝うこともなく、愚痴をきいてやるわけでも
なく、何の話もしなかったのだ。

果たして無視した奴らが悪いのか。余計な助言をした徳島が悪いのか。

苦悩の日々が続くうち、彼が担当していたクラスの不良どもが一度に全員死んだ。

夏休みのことだった。彼らは無免許でバイクやクルマに分譲し、川遊びに出かけた。
その川の上流には小さいながらもダムがあり、水門を開け、ダムの水を放流するから
危険だ、という再三の放送を無視して遊び続け、全員流されて溺死してしまったのだ。

愚かな若者が巻き込まれた事故として報道されたが、自殺した教師の祟りなのでは
ないかという噂が生徒の中で囁かれ始め、今まで彼の死など意に介さなかった生徒
が彼の墓参りをしたり、死亡現場である、公園の木の根元に花を供えたりした。


つづく
316本当にあった怖い名無し:2006/09/09(土) 00:22:38 ID:bc8wkoWu0
徳島はそんなことを知る由もなく、通夜に出席したきりだったが、
夏休みが開けて、通勤して驚いた。なんとその死んだ教師の
慰霊碑が校舎の前に建てられていたのである。

校長に詰め寄ると、どうも事件を校長も気にしていたらしい。

祟りや呪いがあっては大変だと急遽、何百万という金をかけて
慰霊碑を建てたのだ。

馬鹿馬鹿しいと思うと同時に、人間とはなんと浅ましいものかと
思った。死んだ時は何も思わず、むしろ死んでよかったと笑い、
いざ何かあればこのざまか。

そもそもやましい気持ち、悪いことをしたという後悔の気持ちが
あるからそんなことになるのだ。はじめからそんなことを感じなければ
そこには何も生じない。生じたとしても気付かない。

私は絶対そのようにはなるまい。通夜に出席し、充分喪に服した。

私の供養は済んでいる。

そんな時、新しい軽子沢中学への転任が決まった。

徳島は考えた。確かに彼には自分の根性論や熱血論を押し付けすぎた。
それは悪いと思っている。祟りが怖いわけでも呪いが怖いわけでもないが、
過ちだけは認めよう。良かれと思ってした助言やアドバイスがどんな結果を
生むか分からない。もしかしたら最悪の結果を生むかもしれない。


つづく
317本当にあった怖い名無し:2006/09/09(土) 00:32:50 ID:bc8wkoWu0
余計なことはやめよう。静かにいよう。教頭となれば、半ば
教育者から足を洗ったようなものだ。直接自分が生徒に対して
授業を行うようなことはない。

彼は、その身体に流れる熱い血を急速に冷ましていった。

もう戦中戦後の時代ではない。熱血など。根性など。そもそも
時代に合わないのだ。そんなものはもう甲子園の高校球児
ぐらいにしかないものなんだ。

勉強したい者は塾に行く。優秀な教師は公務員何ぞより給料の
いい塾か予備校の講師になる。

義務教育、最低限これだけ受けておけば大丈夫なはずの教育。

それが既に大丈夫ではない。中卒など世の中に通用しない。

高卒でも難しい。大学を出てやっと。それも『いい大学』を出て。

失意の中、それでも徳島は新天地、軽子沢中学に向かった。

その頃にはすっかり血は冷めていた。

以前務めていた学校がどうなったかは知らない。ただ、彼は、
よく転ぶようになった。歳のせいだろうか。階段や段差などではなく、
何もない平坦な道でつまずくのだ。


つづく
318本当にあった怖い名無し:2006/09/09(土) 00:40:41 ID:bc8wkoWu0
それから十年。

様々なことがあった。妻が引越しをしたいと言い出した。まだ
ローンも終わっていない家を手放して引っ越そうと言うのだ。

彼は断り続け、やがて妻は娘を連れて出て行った。離婚。

何故引っ越さなければならないのか。理由は忘れた。何か
妙なことを言っていた気がする。

私には関係のないことだ。

「…教頭…お身体、大丈夫ですか?」

「あぁ、山形先生。そちらこそ、刺された傷の方は?」

「いや私はいいんですが教頭先生が…」

「少し年が行って、色々とガタは来てますがね、至って健康ですよ」

「…そうですか…。いや色々御心配おかけしました」

「…」

大きく溜息をついた。疲れているのだろう確かに最近身体が重いような
感じがする。歳は取りたくないものだ。

学生時代から真面目。教師になる為に突っ走ってきたから免許もない。


つづく
319本当にあった怖い名無し:2006/09/09(土) 00:45:53 ID:bc8wkoWu0
自転車で帰る。

家に着くまでに二度チェーンが外れ、一度パンクした。
パンクも今月に入ってもう三度目だ。

と、ユウジロウの赤い軽自動車が通りすがった。

「教頭…」

「あぁ…」

「故障ですか?」

「パンクですよ。押して帰ります」

「乗って行きますか?」

「いや結構」

そのまま押していく。一時間もかかってやっと我が家へ。

すっかり疲れて、何か作って食べる気がおきない。たまには出前でも
頼もうかと、近所のソバ屋にカツ丼を頼んだ。


つづく
320本当にあった怖い名無し:2006/09/09(土) 00:52:44 ID:bc8wkoWu0
随分待たせたが来た。さて食べるかと丼のフタを開けると
どうも臭い。腐っているらしい。

文句の一つでも言ってやろうとソバ屋に電話をしたが、既に
営業時間を過ぎていて呼び出し音はすれど受話器を取る
者はいなかった。

しかたなく、近所のコンビニエンスストアまで歩いたが、
全て弁当は売り切れていた。

風呂にでも入るかと湯船に湯を張ればどういうわけか水で、
また沸かすのも面倒だからとシャワーを出せば熱湯だった。

何とか風呂をあがって布団を敷き、寝転がるといつもの金縛り。

徳島教頭は必ず目を閉じたままなるに任せるようにしている。
全て疲れているからか錯覚なんだ。ただ目を開けるのだけは
やだ。

そこにいる人間は分かっていた。自殺したあの教師。彼の姿が
見えるのだ。まだ無意識で罪の意識を感じているのだろう。

それが妄想となって、夢となって現れる。それだけのことだが、
余り見たいものでもない。だから固く目を閉じていた。『幻』を
見ない為に。


つづく
321本当にあった怖い名無し:2006/09/09(土) 01:06:53 ID:bc8wkoWu0
ユウジロウにはたまに見えた。

見覚えのない男が教頭の背後に不気味に立っている。

経験で分かる。明らかに教頭は祟られている。既に様々な
不幸に見舞われているはずだ。

忠告しようか、どうしようか。しかし至って教頭は快調なのだ。

どんな不幸に見舞われようとも。静かに。何も思わず。

充分喪に服した。私の供養は済んでいる。

徳島のことをユウジロウは特に嫌いではない。確かに冷たい
印象があり、何を考えているのか分からず、付き合いも悪い。

しかし悪い人間ではないことは何となく分かっていた。他の教師は
嫌っているようだが。

職員会議が終り、ホームルーム開始までの間、ラッキーストライクを
吸いながら眺める。その徳島教頭の『背後の男』もそろそろ彼の鈍感
に焦れているようで、最近存在が薄い。そう、徳島教頭本人のように彼の
存在もまた薄くなってきている。

そのまま消えてしまうのだろう。人のいやがらせと同じで、祟りにも最も
有効な手段は、はじめから気付かないこと。気付いても無視すること。

ユウジロウは何も言わぬ教頭から一つ学んだ。だからユウジロウも、
彼に何も言わない。


322本当にあった怖い名無し:2006/09/09(土) 01:22:49 ID:ZeCawXKHO
乙です!
教頭先生にそんな過去があろうとは…。
長年気付かない?教頭先生スゴス…(´Д`;)
教頭先生に憑いている先生がこのまま薄れて消えてなくなったら、
教頭先生の人生はまた変わってくるのかなぁ、…なんて考えてしまいました。
323305:2006/09/09(土) 11:04:16 ID:R7DgdtL20
作者さん乙です〜。

>>307
仕事の合間にリロードせずに読んでました・・・まさか新作が投下された後だったとはwww
ユウジロウの復活というか、回復してたんですね。よかった〜、心配しましたよ。

>火こそ着けていないが咥え煙草。
ワロスwどんな中学生だよwww
324本当にあった怖い名無し:2006/09/09(土) 11:35:17 ID:bc8wkoWu0
>>322
感想ありがとう。多分教頭も薄々感じているのだと思います。

ただ、祟られ、呪われたから何かできることはないかと言った時に、お経を
唱えるとか除霊してもらうとか、そんな簡単なことでいいのか。それで根本的
解決になるのかと教頭は考えているんですね。

何か悪いことをして祟られた。じゃあ除霊してもらおう。それって余りに安易
ですよね。祟られるということは自分に何か原因がある。何か悪いことをした
から祟られるんです。

それを責任転嫁して、自分は悪霊に取り憑かれた被害者なのだと思い込む。
供え物の一つや二つで許されたと思い込む。

そういったみんなの態度が徳島教頭には許せなかった。だから行動で示すべきだと。
それは熱血、根性を押し付けた自分を捨てることだったんです。

だから、祟られていることを薄々感じながらも、それは罪の償いとして、罰として受ける
べきだと考えたんです。そして、同じ過ちを繰り返さないように、静かに生きようと。

ですから、憑いている霊が消えたところでもう変わることはないでしょうね。

そういった意味で『私の供養は終わっている』と自分に言い聞かせながらも、人生をかけた
供養を続けていると。考えていただければ幸いです。

ある意味『霊』というものを否定しながら、真正面から受け止めているんですね。だからこそ
おふざけでそういったことを取り扱うような感じられた『オカルト同好会』の設立には渋い顔を
したのではないでしょうか。
325本当にあった怖い名無し:2006/09/09(土) 12:55:54 ID:ZeCawXKHO
>>324
なるほど深いですねー。
教頭先生はなんて誠実な人なんだろう…。
326作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/09(土) 16:10:33 ID:bc8wkoWu0
さてここらで怖い話でもするか。

長野シュウイチはメモ帳に何やら書き込みながら、
校庭を歩いていた。


つづく
327作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/09(土) 16:23:38 ID:bc8wkoWu0
校舎から校門に向けて、長屋状に延びるクラブハウスの
最も校門寄りの一室。木製のプレートには

『新聞委員会』

とあった。通常、委員会は部活と違い専用の部屋を持たず、
かつてのオカルト同好会のように普通教室を放課後、利用する
ことになっていた。

例えば一年A組は、生活委員会、一年B組は美化委員会といった
具合。しかし例外があった。

新聞委員会と、放送委員会である。放送委員会は主に東棟四階の
放送室を使っていた。これは委員会の特性上当然のことだ。校内の
あらゆる放送を取り仕切るからには放送の為の機材が不可欠である。

新聞委員も一昨年までは他の委員会と同じように、通常の教室を
使っていたのである。ノートパソコンが学校から与えられ、それで記事を
書き、職員室の業務用プリンターで印刷する。それで充分なはずであった。

しかし、的場リュウジはこれをよしとしなかった。彼は不満を爆発させ、
活動実績のほとんどなかった自転車同好会は廃部にすべきという一大記事
をぶち上げ校内世論を扇動した。

結果、自転車同好会は廃部となった。そもそも会員もいつ辞めてもいい状態
だった。そして一つだけ開いたクラブハウスの部屋に次々と機材を持ち込み
勝手に占拠したのである。


つづく
328作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/09(土) 16:37:52 ID:bc8wkoWu0
以来、誰も文句が言えずそこは新聞委員会の編集室となった。

新聞委員会の一人、長野シュウイチはそのドアを開けた。

流れる曲はジャズの名盤、マイルス・デイヴィスの『死刑台の
エレベーター』、室内にはもくもくと煙草の煙が漂っている。

壁には巨大な世界地図が貼られ、様々な書き込みがされている。

机はわずかに三つ。天井まで届く本棚には様々な資料が詰め込まれ、
有線電話が二台、FAXが一台、小さいテレビが一台あった。

机の上には一台ずつノートパソコンが置かれていたが、それ以外にも
デスクトップタイプのパソコンが二台稼動している。

壁にはレミントン社製のショットガン、H&K社製MP5KA4、
ストーナーXM22突撃銃といった銃器が架けられていて、みんな部屋を
訪れる者はモデルガンだと思っているようだがいずれも本物の銃器であり、
勿論発砲できる。

何故そんなものがあるのかと言えば、あまりに危険な記事を書いた場合、
編集室自体がテロの標的になる可能性があるからだそうだ。勿論的場の
考えであり、銃を用意したのも彼だ。

更に編集長、的場リュウジの机には『自爆スイッチ』なるものがあり、これを
押すと軽子沢中学全てが消し飛ぶという。


つづく
329作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/09(土) 16:54:29 ID:bc8wkoWu0
正式な肩書きは、『軽子沢中学校新聞委員会委員長』であったが、
的場はこの肩書きを嫌い、『編集長』もしくは『デスク』と呼ばせた。

また『新聞委員会』自体も『編集部』と周囲に呼ばせている。

その編集長、的場リュウジは、椅子に座り、机に足を乗せて、
セブンスターの煙をくゆらせながら、バーボン、ノアズミルを
舐めていた。

これで十四歳である。

「あ…編集長、女子テニス部廃部の取材、終わりましたが…」

同学年ながら的場と違い華奢で身体の小さい長野シュウイチは
おどおどとした態度で言った。

通常委員会に所属する者は一クラスから男女一名ずつの計二名が
選ばれる。各学年A組からD組までの四クラスあるので、必然的に
委員の数はどの委員会でも二十四人いる計算になる。

しかし新聞委員はなんと編集長以下三名で運営されていた。的場の
ワンマンな態度、滅茶苦茶な指示、校内新聞に全くそぐわない記事
内容に嫌気がさし、大部分の委員が活動をボイコットしているのである。

気の弱いシュウイチが気付いた時には、的場と、彼に心酔している
志賀マサトと自分だけになっていた。逃げるタイミングを失い現在に
至る。


つづく
330作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/09(土) 17:10:38 ID:bc8wkoWu0
「…よし。レバノンへ飛べ」

的場の指示であった。何故校内新聞の取材でレバノンへ行かなければ
ならないのか。

「ヒズボラを取材して来い」

何故校内新聞でイスラム教シーア派の武装組織を取材しなければならないのか。

と電話が鳴った。今時にして黒電話だ。相手は外国人らしく電話に出た的場は
何事か流暢な英語で話している。

ちなみに的場リュウジは、英語、フランス語、ドイツ語、韓国語、アラビア語、
ポルトガル語を話すことができる。

受話器を方と耳で挟み、ビスコンティのボールペンを胸ポケットから取り出すと
メモ帳にやはり英語でメモをした。

電話を切ると、机の上のノアズミルを飲み干し、満足気に言った。

「CIAの友人から連絡が入った。ワシントンへ飛べ」

飛んでどうしろと?英語も喋れませんが。

しかし的場編集長は満足気に

「これで他紙を出し抜いた!」

と言った。

つづく
331作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/09(土) 17:17:15 ID:bc8wkoWu0
長野シュウイチは立ち尽くしていた。

「どうした?早く行け」

「すいません。パスポート、持ってないんです」

「何!?お前新聞記者の必需品だぞ?」

「す…すいません」

「仕方ないな。北朝鮮へ飛べ。そろそろXXXの体がマズいらしい」

「ですからパスポートが…」

「北朝鮮ぐらい泳いで行け」

更に立ち尽くす。

「ん?あぁそうか。こいつを持って行け」

編集長が懐から取り出したのはベレッタ9mmピストルだった。

「…いりません」

「頼もしい奴だ。丸腰か。しっかりやれよ」

「…行きません」


つづく
332作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/09(土) 17:26:11 ID:bc8wkoWu0
ドアが激しく開けられた。もう一人の編集者、志賀マサトである。

「編集長!」

「どうした!?」

「松ヶ森でマツタケらしきキノコが発見されたと」

「よし取材車を出せ!全員で行くぞ!」

レバノンは。ワシントンは。北朝鮮は。

長野シュウイチは憂鬱だった。取材車。煙草も吸う、酒も飲む。
しかし的場リュウジはクルマの運転などはしない。

かつてこの部室を使っていた自転車同好会から接収した自転車。
それが『取材車』だった。

クルマで順調に行っても松ヶ森までは三時間はかかる。
(第二十八話 『桃源郷』 参照)

しかも、今は昼休みなのである。午後の授業を受けるつもりはもう
ないらしい。

全員で行くというからには僕も行くのか…長野シュウイチは渋々
自転車にまたがった。


つづく
333本当にあった怖い名無し:2006/09/09(土) 17:48:03 ID:bc8wkoWu0
松ヶ森に着いた頃にはとっくに日が暮れていた。

何故か的場リュウジはベレッタの弾倉を確認している。

志賀マサトも他の二人と同じ二年生だが、リュウジを師と仰ぐだけあって、
彼とのコンビネーションはいい。

アシスタントのようにリュウジのニコンにフィルムを入れている。アフリカで
死んだリュウジの父の形見であるニコンに触ることを許されているのは
マサトだけである。

一度、シュウイチが触ってしまったことがあったが、危うく腹に風穴が開く
ところだった。

「…編集長、ところで何を取材するんですか?」

「マツタケドロボーだ」

懐中電灯もなしに森の中へ入っていく編集長。残る二人も後に続いた。
漆黒の闇である。何も見えない。

「音を立てるな…」

長野シュウイチは黙々と進む的場リュウジに関心した。こんな暗く、初めて
来るような森を何の躊躇いもなく進む。父親を亡くし、しかし父と同じ道を進み、
耳の一部をなくしても尚同じ道にこだわる。


つづく
334本当にあった怖い名無し:2006/09/09(土) 18:00:19 ID:bc8wkoWu0
世界中の情報機関とパイプを持っているらしいが、確かに
外国語の電話はよくかかってくる。そしてリュウジがそれに
対応できるだけの言語力を持っているのも確かだ。

それにどこから持ってきたのか銃の数々。普通では絶対手に
入らない。やはり何か特殊なコネクションを持っているのだ。

肉体的にも精神的にも弱いシュウイチが新聞部にいる理由は
単に逃げ遅れただけではない。どこかでリュウジに惹かれていた
のだ。

しかも、リュウジもリュウジで明らかに足手まといのシュウイチを
側に置いている。リュウジにも校内新聞を作っている自覚はある。
しかし紙面の大部分は校外の出来事の記事で占められ、
残るごく一部の校内に関する記事は全てシュウイチが書いていた。

リュウジはリュウジでシュウイチが必要なのである。彼がいなく
なればそれこそ一切校内に関する情報はなくなってしまうのだ。

「どうやら迷ったらしい」

「工エエエェェェ(゜Д゜;)ェェェエエエ工」

「野営する」

「編集長…でもマツタケドロボーってやっぱり夜に来るのでは…」


つづく
335本当にあった怖い名無し:2006/09/09(土) 18:15:14 ID:bc8wkoWu0
「確かに。まず俺が見張る。二人は寝ろ。一時間経ったらマサトを
起こす。そして俺は寝る。マサトは一時間見張ったらシュウイチを
起こせ。その繰り返しだ」

「了解」

編集長腹心の部下、志賀マサトはリュウジの言葉を聞くなり早々に
落ち葉に身を埋めて眠る体勢を作った。

何か動きやすい恰好、汚れてもいい恰好をしていればそれもいいが
学校からそのまま来たので制服である。よくできるものだ。

しかし寒い。落ち葉に身を埋める方法は正解だとシュウイチは思った。

乾いた落ち葉は確かに暖かかった。ここまで自転車でやって来た疲れも
あって、長野シュウイチはたちまち夢の世界へ落ちていった。


パシ、パシ、パシ…お…お…

何時間眠っただろう。まだ眠り足りないが、妙な音でシュウイチは起こされた。

誰かが誰かを引っ叩いているような音に聞こえる。それに呻く声。

気付けば寒さのせいか頭だけは出しているつもりだったがシュウイチは頭まで
すっぽり落ち葉に埋まっていた。


つづく

 
336本当にあった怖い名無し:2006/09/09(土) 18:26:31 ID:bc8wkoWu0
マツタケドロボーの反撃に合っているのだろうか。確かに的場
リュウジ、拳銃を常に持っているが実際に発砲したことはない。

自分の父親を殺し、自分の耳の一部を奪った銃に対して嫌悪感を
抱いているようなところもあった。あくまでジャーナリストとして報道の
自由と、命を守るためとは言っていたが、所持していることと、いざと
なった時に活用できるかは別問題だ。銃の恐ろしさを知っているから
こそ、ぎりぎりになって使用できなかったという可能性もある。

なるべく音を立てないように顔を動かし、葉の間から伺う。視線の先
にはマサトい゛いるはずだったがいない。

ばしっ!ばしっ!ぅおおっ!ぅわああ!

音は激しさを増す。二人の声だった。よりによって頼りになる二人が
消え、残ったのは最も頼りにならない長野シュウイチ。

音はシュウイチの足元から聞こえる。様子が分からない。見ようとすれば
間違いなく乾いた枯葉が音を立てるだろう。

シュウイチは思案した。今こそ勇気を出すときだ。学校で英雄と呼ばれる
的場リュウジ。彼を助けたとなれば自分もその仲間入りだ。編集長も
見直してくれるに違いない。

いくぞ!男になるんだ!


つづく

337本当にあった怖い名無し:2006/09/09(土) 18:35:41 ID:bc8wkoWu0
「ぅおおおおおぉぉ!俺も男だあああぁっ!」

突然地面から飛び出したシュウイチに、リュウジとマサトは
驚いた様子だったが、

「そうか!お前もオトコか!」

「よし!オトコにしてやろう!」

二人。全裸。勃起。一つの勃起は既に闇より暗い、マサトの穴の中へ。

「さぁ脱げ!」

「戦場、刑務所…女の調達が困難な場所での大きな問題に性処理がある…。
覚えておいて損はないぞ!これもサバイバルだシュウイチ!」

あれよあれよとマッチョなオトコ二人に全裸に剥かれ四つん這いにされた挙句。

「アッー!!」

「うむ!いい締り具合だ!鍛えているな!!」

「へ、へ、編集長!」

「大佐と呼べ!どうだ!長野一等兵!」

「大佐!大佐ー!!アッー!」


つづく
338本当にあった怖い名無し:2006/09/09(土) 18:46:01 ID:bc8wkoWu0
「よし!撮れ!撮るんだ!」

「撮ります!」

ニコンのフラッシュが光る。

「オス!オス!オス!どうだ俺の44マグナムは!」

「アッー!大佐!コルトパイソンです!」

「これならどうだ!」

「あへー!スティンガー!!」

十四歳の不純同性交遊。マサトは夢中でニコンのシャッターを切った。

「へへっこいつぁとんだマツタケドロボーだぜ!」


もともと体力のない長野シュウイチは、パワフルな二人に責められ完全に
ダウンしていた。

もう空が明るい。的場リュウジ愛用のスント『アドバイザー』は朝六時を表示
していた。

「よし。帰るか」


つづく
339本当にあった怖い名無し:2006/09/09(土) 18:56:53 ID:bc8wkoWu0
「編集長、コイツはどうします?」

マサトの質問にリュウジは笑顔で答えた。

「疲れただろう…細い身体でよくやっている。休ませておいてやれ」

その優しさにマサトは感激し、二人自転車で帰った。

シュウイチを置き去りにして。

さすが元自転車部所有の自転車だけあって体力のある二人が飛ばしに
飛ばすと午前中のうちに学校に帰り着いた。校門前。

「マサトはどうするんだ?」

「あ、午後から学校出ます」

「そうか。俺は自宅へ戻る」

「分かりました」

これほどの自由が許されるのだろうか。とにかく編集長、的場リュウジは
自宅へ戻り、ニコンからフィルムを取り出すと現像作業を始めた。

BGMはジョン・コルトレーンである。


つづく
340本当にあった怖い名無し:2006/09/09(土) 19:04:58 ID:bc8wkoWu0
夜、的場リュウジの姿は、山形ユウジロウ宅にあった。何度か来た
ことがある。

「ユウジロウ、ちょっとこれを見てほしいんだ」

「…なんだ改まって」

写真にはオトコとオトコの肉のぶつかりあいが映し出されていた。

「…」

改まった意味が分かった。しかしリュウジはユウジロウについて、
かなりの部分知っている。ここで笑ったり馬鹿にすることもできまい。
自分も似たようなものだ。

「で?」

「…あ、あぁ、その、右端に妙なモノが…」

「ん?あ!なんだこれ?確かに写真受け取った瞬間変な感じがしたんだ」

「なに!」

「一枚ぺらぺらの写真だが、重く感じたんだよ。本一冊渡されたぐらいに」

「じゃあこれは…」


つづく

341本当にあった怖い名無し:2006/09/09(土) 19:12:12 ID:bc8wkoWu0
「心霊写真だな。間違いなく」

鬼のような形相で華奢な長野シュウイチの尻を貫くリュウジのすぐ上
辺りに、不気味な女の顔らしいものが浮かんでいた。

「これ何処なんだ?」

「松ヶ森…」

「あぁ…出るかもしれないな…。あそこには『山の老人』っていうのがいてな」

「おいちょっと待ってくれ!それは怖い話か!?」

「いや…怖いというかなんというか…」

「駄目だからな!話すなよ!」

「…お…お前まさか…幽霊とか、駄目なのか?」

リュウジは半べそをかいてうなずいた。

「お前ほどの男が…お化け怖いの?」

「何度も聞くな!それよりこの写真をどうにかしてくれ!詳しいだろ!
こういうの!」

「俺見えたりするけど除霊とかそういうのはできないよ。でもこの写真は
絶対よくないよ。神社か何かに持っていってお祓いしてもらわないと」


つづく
342本当にあった怖い名無し:2006/09/09(土) 19:22:42 ID:bc8wkoWu0
「こ…こんな写真を!?」

「まぁ俺なら持っていけんわな。あはは」

怖い怖いと言いながらリュウジは泣いた。

風呂からあがったアカネが何事かと見に来た。リュウジのことは
知らない。どう見ても自分より少し年上の男が泣いている。それでいて
ユウジロウは笑っている。

写真を見つけた。うわ…すっごい写真…。あれ?この入れてる人って
泣いてる人?え?ホモの恋愛相談?大体誰あの人…。

本人を前にして誰かと聞くのも失礼だ。まだ談笑でもしていれば話にも
混じりやすいが、しくしくと泣いている。

変なの。いいや明日お兄ちゃんに聞いてみよう。

そのまま寝室へ行きアカネは寝てしまった。

ユウジロウは笑っている。

リュウジは泣いている。

ところで長野シュウイチは、全裸で倒れているところを保護され、無事帰宅した。


  終
343作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/09(土) 20:04:24 ID:bc8wkoWu0
今回は趣味に走ってしまいました。色々な音楽、登場する小物、
酒など(アッー!な部分以外はww)私の趣味がかなり色濃く出ています。

興味を持った方はググってみて下さい。
344作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/09(土) 20:11:04 ID:bc8wkoWu0
>>336
こりゃちょっとひどい。仮名打ちならではのミスです。ひどすぎるので訂正します。

>なるべく音を立てないように顔を動かし、葉の間から伺う。視線の先
>にはマサトい゛いるはずだったがいない。

×マサトい゛
○マサトが

びっくりさせたと思う。ごめんなさいでした。
345本当にあった怖い名無し:2006/09/09(土) 22:31:13 ID:l7S9yFsY0
だーーーーーっ!やってくれたリュウジ!
そっちに話がいくとは〜。
十四歳の不純同性交遊wwwwww

シリアスが続いていたので久々に大爆笑しますた。
あ、でも教頭の話もすっごい良かったです。なんていうか人生の重みだよなぁ。。
346本当にあった怖い名無し:2006/09/09(土) 23:30:08 ID:UA8CNzJI0
爆笑wwwwww
これはまいったよリュウジ・・・。
347本当にあった怖い名無し:2006/09/09(土) 23:35:53 ID:ZeCawXKHO
今日もキテター(゚∀゚)ー!
ちょwwwうほwwwww
リュウジワイルド過ぎw
彼は単純に女性がいない場ならではって感じですが、
マサトはどうなんだろw
というかシュウイチが完全にそっちの道に走りそうですねwww
348本当にあった怖い名無し:2006/09/10(日) 00:29:31 ID:xSx54rNQO
うはwww
ホント、とんだ松茸ドロボーだよwww
いやー、爆笑につぐ爆笑でした。もうお腹いっぱいw
349本当にあった怖い名無し:2006/09/10(日) 00:50:25 ID:A+fPsL1p0
松茸泥棒ってそっちを泥棒かよwwwwリュウジ〜wwww
勘弁してくれ〜ww
しかもオバケが怖いってw

さりげなくアカネはリュウジを年上だと思ってるしww
駄目だ、笑いすぎて病院行ってくるwwwww
350本当にあった怖い名無し:2006/09/10(日) 01:09:09 ID:dTj+wWhE0
すっごい面白かったです!松茸泥棒じゃなくて幽霊でも出るのかと
思いきや、そっちとは〜www

校内新聞の取材でレバノンとは〜wwこのやりとりも最高!
351本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 00:25:13 ID:rqIwjqLS0
さてここらで怖い話でもするか。

「やっぱり告白する」

石川レイカは友人達の前で宣言した。


つづく
352本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 00:39:43 ID:rqIwjqLS0
「マジ?」

「でも尾藤君人気あるからなぁ…」

「当てって砕けろって?」

二年C組の放課後である。山形ユウジロウ刺傷事件も彼が無事復帰したことで
早くも風化し、クラスもいちも通り落ち着いた雰囲気を取り戻していた。

事件の際、真っ先に電算室を飛び出し、職員室に駆け込んだサッカー部員、
尾藤ケンサクに石川レイカ惚れ込んでしまっていた。

サッカー部員とはいえ、それ程サッカーが巧みなわけではないケンサクだったが、
整った顔立ちで、清潔感があり、性格も明るかった。

一年生の頃からジャニーズ系の美男子と一部で囁かれ、実際女子に人気がある。
ただ、浮いた話はない。誰かと付き合っているという話は聞いたことがなかった。

それだけに更に人気は高い。美少年でありながら、それを鼻にかけることもなく、
女子を顔で差別しているようなこともなかった。

しかし、それ故に難攻不落とされ、告白した女子は次々にやんわりと断られるという
噂だった。不美人にもチャンスがある分、美人も自分の利点を活かせない。

とにかく一体どんな相手だったら付き合うのか、という話はよく持ち上がっていた。


つづく
353本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 00:52:45 ID:NgOH1K/U0
キターー(゚∀゚)ーー!!

でも、眠くて死にそうだww最後まで見れないかも。。くそぉ〜。
354本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 00:58:22 ID:rqIwjqLS0
一応調査とばかりに、

「好きなアイドルとかいないの?」

などと訊ねてみてもはっきりしない。元モーニング娘。の矢口真里がいい
と言うこともあれば、吉本興業の山田花子がいいと言うこともあり、まただいぶ
年上の山口智子がいいと言うこともある。

では年上好きなのかと問えばそうでもなく、同世代の若手アイドルにも好きな
者はいるという。では誰かと問えば恥ずかしいと言って答えない。

当然だが、同様に校内に誰か憧れの人はいないのかと問うても答えようとは
せず、どんな女性がタイプかと聞いても、『相性のいい人』という余りに曖昧な
返答。

しかし、逆説的に考えると、『じゃあ誰でもいいのではないか』という答えに至り、
人気に拍車がかかっていた。

「で、いつ決行?」

「絶対早いほうがいいよ」

「そうかなぁ…」

「今日いきなよ!今日!」

もうアドバイスを超え、一見心配しているように振舞いながら、興味本位である。


つづく
355本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 01:10:43 ID:rqIwjqLS0
悩んでいたが、結局今日、告白することになった。ただ急かされたから
ではなく理由があった。

尾藤ケンサクは今日、日直だったのだ。日直といっても何をするわけでなく、
ただ朝の挨拶、授業開始時の号令、帰りの挨拶の掛け声をするだけである。
お馴染みの『起立、気を付け、礼、着席』の掛け声当番といっても支障ない。

ただ、終業後、日誌を書く役目があった。その日の時間割、主に起こった
出来事、担任教師への連絡事などを日誌に記して、職員室まで持っていく
のだ。

それが何故理由になるか。要するに、放課後、日直が日誌を書く為、一人
教室に残る確率が高いのだ。そうなれば告白しやすくなる。

案の定、終業のホームルームが終り、みんなが帰り支度を済ませて、教室を
出て行く中、ケンサクが日誌を取り出して何やら書き込み始めた。

通常であれば、放課後何人かの生徒は残っているものだが、今日レイカが
ケンサクに告白することを知っている一部の女子が協力し、残っている生徒を
次々と何かと理由をつけ追い出してくれる。

たちまちケンサクは一人になった。レイカは教室のすぐ外で呼吸を整えている。

一緒にいてくれる友人もあったが、一人にしてほしいというレイカの要望で、
少し離れた女子トイレに身を隠していた。


つづく
356本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 01:19:53 ID:z4aG+N7L0
怖い話になるの??恋話になりそうだけどw続き早くー!
357本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 01:22:23 ID:rqIwjqLS0
「どうなると思う?」

「言っちゃ悪いけど無理だと思うよ」

「最低。けしかけといて」

「ちょっと待ってよなんであたしが悪者になるの?」

大きく一つ息をついて、石川レイカは教室に戻っていった。向こうから
話しかけてくれないかな、と期待したが、忘れ物でも取りに来ただけ
だろうケンサクは日誌を書く作業を黙々と続けている。

どうやら自分から行くしかなさそうだ。意を決した。

「尾藤くん…」

少し驚いた様子だったが、ペンを置いてケンサクは振り返った。

「…?何?」

「あ、いや、あのさ、あはは…」

少し女性的なケンサクの目がこちらに向いている。それだけで激しく
緊張した。

しかしケンサクは気付いていた。告白だと。小学校の五年生あたりから
モテはじめて、告白を受けた回数も多い。その雰囲気は嫌という程
味わっていた。


つづく
358本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 01:36:15 ID:rqIwjqLS0
決して悪い男ではなかったが、やはり慣れというものはある。
それはどうしようもなかった。

相手が相当の勇気をもって挑んでくるのは分かる。分かるし、嬉しくも
あるのだが、断るのにも気を使う。

失礼なことだと自分で思いつつ、どうしても、『面倒くさい』という感情は
拭えなかった。

レイカはそのまま何か喋ろうとするのだが、まともな言葉になっていない。

この時間がじれったい。だからと言って、『どうせ告白でしょ』とも言えず、
ケンサクは既に断りの言葉をどうしようかと頭を悩ませていた。傷つけたくも
ない。

「あの、彼女とかいるの?」

「いないけど…何で?」

ただ、質問に対して『いないよ』と答えるとまた止まってしまう。だから、『何で?』と
分かりきった質問の理由を敢えてこちらから問うことで、最終質問を促す。こう
聞かれれば相手に残された道は告白するか、『なんでもない』と言って逃げ出すか
しかない。

いつの間にか身についたテクニック。ただそんな無用な会話術を持つ自分がケンサク
は嫌いだった。異性にモテるというのは男性共通の夢だが、既にその夢に達して
しまったケンサクにとっては正直少し迷惑だった。しかしせっかく好意を持ってくれている
のに、それを迷惑と思う自分が嫌いだった。


つづく
359本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 01:44:38 ID:rqIwjqLS0
「いや…何でっていうか…こないだ、山形先生が刺された時、
校長先生とか呼びに行ったじゃん」

「あぁ、うん」

「それで、それ見た時、すごいカッコイイとか思っちゃって」

「うんうん」

「それからなんか、好きになっちゃって」

「…」

「だから、彼女とかいなかったら、付き合うっていうか…なんか」

いい調子で来ていたのに最後でつまづいた。お互い無言。何も喋らないので
とりあえず告白と見なしたケンサクず仕方なく言った。

「…俺、好きな人いるんだ」

「え…あ…そうなんだ…あの、それって誰かとか聞いちゃだめ?」

「言えるわけないじゃん」

「そうだよね。そうだよね。ごめん。そうだよね。ごめん邪魔して。それじゃ…」

「…明日ね」


つづく
360本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 01:50:29 ID:rqIwjqLS0
教室から出てきて、とぼとぼと廊下を歩いてくるレイカを見計らって、
女子トイレからぞろぞろと『協力者たち』が現れた。

「なんだ…トイレにいたんだ」

「…やっぱ、駄目?」

「うん。好きな人いるんだって…」

「マジ?いるのかな?」

「断る理由じゃない?」

「ホモなんじゃないの?」

「女っぽい顔だもんね」

「化粧したらあんたより美人かもね」

「うるせーよ。やっぞ?」

「はいはい。怖い怖い」

「でも残念だったねー。大丈夫?」

「うん。初めから知ってたし」

「どんなカワイイ子が行ってもダメらしいもんねー」


つづく
361本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 01:51:23 ID:UYA/bMvSO
うあ゛ー告白!
中学卒業前に初告白した時の事思い出しちゃった〜(´Д`;)
362本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 01:53:20 ID:Ol/sTnXA0
いいなぁ、>>361
自分は告白したことないままここまで年くっちゃったよ。。
363本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 01:58:48 ID:rqIwjqLS0
「じゃ帰ろうよ」

「帰りウチ寄ってく?コンビニで甘いモンでも買って」

「あチョコモナカジャンボ食いたい」

「えーアイスかよー寒ぃ…あたしアレ。なんつったっけ?長いシュークリームに
チョコ乗ってるヤツ」

「なにそれ?長いシュークリーム?」

「エクレアじゃないの?」

「あーそれそれ」

「行こ行こ」

何となく、ふられたばかりのレイカの感情を全く無視しているようだが、彼女たち
なりの気遣いだった。それはレイカにも分かっている。だが、どうも乗る気には
なれなかった。

「ごめん。ちょっと一人になりたいんだ」

「あーそうなん?そっか。じゃあなんかあったらメールしてよ。電話でもいいし」

「うん。ありがとう」

「元気出しなよ。相手が尾藤じゃしょうがないよ」


つづく
364本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 02:05:39 ID:UYA/bMvSO
>>362
初告白にしておそらく最後の告白。
あとはぐだぐだw
邪魔してスイマセン作者さんm(__)m
描写がリアルなので自分の記憶がよみがえってしまったとです^^;
365本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 02:09:48 ID:rqIwjqLS0
わいわいと去っていく彼女達の背中を見送って、振り返る。

自分たちの教室。二年C組。尾藤ケンサクはまだ出てこない。

まだ日誌書いてるのかな。でも告白されたことがちょっと気になったり
してないかな?後で『やっぱり…』みたいなメール来たりして…まさかね。
でももしあったら嬉しいな…。告白したらスッキリするのかと思ったけど。
まだなんか中途半端で…。このまま家帰ったら泣いちゃうかも。何が
気に入らなかったのかな。それだけでも聞いておけばよかった。そしたら、
そこ直してまた告白すればいいんだもん。甘いかな…。

足は教室に向いていた。扉が半分開いている。隙間からそっと中を伺う。

尾藤ケンサクは机にいたが、日誌を書いているわけではなかった。何か、
一人で口を動かしている。物を食べているわけではない。喋っている。

微かだが声も聞こえる。内容までは聞き取れなかった。電話でもしてるのかと
思ったが違う。机の上に置いた両手で、何かを大事そうに持って、それに
向かって話しかけている。

何かのお祈り?なんか変な宗教でもやってるのかな…。ちょっと気味悪い…。
変な宗教とかやってんなら付き合わなくて正解だったかも…。

と、しばらくして突然口を閉じたケンサクは机の横の金具に掛けてある通学カバン
にその『大事そうに持っていた物』をしまおうと、扉の方に向きを変えた。


つづく
366本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 02:17:58 ID:rqIwjqLS0
目があった。そして石川レイカは見た。『大事そうに持っていた物』。
それは小さい人形に見えた。

「あ…ごめんなさい!」

何か見てはいけないものを見てしまった気がしたレイカは慌てて
教室から離れようとする。しかしそれをケンサクは制した。

「ちょっと待って!」

カバンと日誌を持った尾藤ケンサクがレイカを追うように教室を出てきた。

「見られちゃったかな?」

まさかあの状況で『見ていません』とはいえない。レイカはうなずく。ケンサクの
顔を伺うと特に気まずい様子もなく、いつもの笑顔を見せている。

「…これ」

彼が見せてくれたのはやはり人形だった。女の子の形を模したぬいぐるみ。
明らかに手作り、それも素人が作った物であることは一目で分かった。きっと
誰かからのプレゼントだろう。


つづく





367本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 02:29:50 ID:rqIwjqLS0
しかし、いずれにしてもかなり汚らしい。薄汚れて様々なシミがついている。

「…か…かわいいお人形だね…」

「ははは…ちょっと汚いけど…これ、俺のその、好きな人からもらった…」

「そうなん…」

『そうなんだ』と言おうとしたレイカの言葉をケンサクの言葉が遮った。

「最初で最後のプレゼント」

「…え?」

「死んだんだ。知ってるだろ。隣のクラスの井上マユって」

「井上…さん?」

「ほら、こないだ火事で死んだでしょ?」

夏休みが明けて間もない頃、一人の女が死んだ。井上マユ。軽子沢中学
二年D組。オカルト同好会創立メンバーの一人。

報道では自分で自らの家に灯油を巻き、火を着けたことになっている。
一家は全滅。家も完全に燃え尽きて彼女の遺体もほとんど炭のような状態
だったという。

「これ、その人からもらったんだ」


つづく
368本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 02:42:11 ID:rqIwjqLS0
「…付き合ってたんだ。一年の時から」

「…」

「一年の時一緒のクラスでさ。すごい気が合ってね。初めて
俺から告白して。みんなに隠れて付き合ってて…二人で
動物園に行ったり…」

何を考えてるんだろうとレイカは思った。今ふったばかりの女に
死んだ元彼女の思い出話を聞かせる。しかも話しながらケンサクは
泣き始めた。次第に感情は高まり、遂にレイカの理解を遥かに超える。

「ね。あん時は楽しかったよね。そうそうホットドッグ食べて、マスタードが
すごい辛くて。そうそう。そうだったよね」

人形と会話しながら話す。ぼろぼろと涙を流しながら。レイカのその神経と
精神を疑った。まともではない。次第にエスカレートするケンサクは遂には
レイカの存在を全く無視して、人形とだけ話しはじめた。人形のことを『マユ』
と呼びながら。

「…ごめんちょっと用事あるから、あたし先、帰るね」

「あはは。浮気なんてしないよ。するわけないじゃん。大好きだよ。でもみんな
には内緒にしておこう。ヤキモチ焼くのもいるからさ。え?俺じゃないよ!マユが
可愛いからだよ!」

付き合いきれずレイカは帰った。ふざけている様子ではない。恋人が死んだショック
でおかしくなってしまったのだろうか。しかし普段は至って普通だった。


つづく
369本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 02:55:06 ID:rqIwjqLS0
いずれにしても、玄関を出る頃にはレイカの気持ちはすっかり冷めていた。
単に彼が死んだ以前の恋人に今だ心を奪われているからではない。
不気味だったからだ。友達に言いたくもなかった。ケンサクが憐れに思えた。

尾藤ケンサクが職員室の前にたどりつくと既に石川レイカはいなかった。

あれ…おかしいな…そう、『マユ』のこと見られて、変なウワサでも流されたら
たまらないと思って説明して…そのあとどうしたんだっけ?また思い出せない。
頭が痛い…。

日誌を提出して、自宅へ。部屋に入りドアを閉めるとカバンから薄汚れた人形を
取り出した。

「ごめんねマユ。狭かっただろ。え?だから今日の子は関係ないって!ちゃんと
断ったよ。え!そんなことないって。俺にはマユしかいないよ!愛してる。大好き
だよ。怒らないでよ…今日もしてよ…ずっと我慢してたんだから…だめ?やだよ!
一週間も我慢できない!お願い!」

異様な部屋だった。壁一面に井上マユの写真が貼られている。しかしその写真は
いずれも携帯電話のオマケ機能程度のカメラで撮られたものや、プリクラの写真を
無理矢理拡大したもので、画像が荒く、中には何が映っているのか分からないほどの
物もあった。

学校の遠足や運動会の写真もあるがやはり拡大コピーされ、他者と一緒に映っていたと
思われる写真はマユの姿だけを丁寧に切り取って貼られていた。


つづく
370本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 03:10:07 ID:rqIwjqLS0
更にそれらの写真の上には、カバーするように薄い透明のビニールが
重ねて貼られている。

「ねぇいいだろ?え?いいの?本当?うん。大好きだよ。マユだけ。
ありがとう」

ケンサクはズボンとパンツを脱ぎ去るとペニスを写真にこすりつけ始めた。
たちまち勃起し快感に喘ぎ、一枚一枚の写真を大事そうに手で愛で、部屋中
を移動しながら、あらゆる写真にペニスを激しくすりつける。

「ああ…マユ…愛してる…なんで俺だけ残して…あんなにずっと一緒にいよう
って約束したのに…でもいつまでも一緒だよ…ずっと一緒…あっ…あぁ…」

尿道を精液が駆け抜け、マユの写真にかかったが、ビニールでカバーしてあるので
直接写真が汚れてしまうことはない。

笑顔で笑う体操服姿のマユの顔をつたって、白い精液が滴っていた。

「…マユ…マユ…帰ってきて…」

彼女に囲まれた部屋でケンサクは泣きに泣いた。

しかし奇妙なことがある。いずれの写真もマユ一人の写真ばかりで、ケンサクと共に
写っている写真が一枚もないのである。引き伸ばしたプリクラの写真も、マユが女
友達と写したもので、そこにもケンサクの姿はなかった。


  終
371本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 03:22:07 ID:UYA/bMvSO
こ、これは怖い…。

でもセツナス。・゚・(ノД`)・゚・。
マユちゃん一人だけの写真の意味ってもしかして…((((((;゚Д゚))))))
372本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 08:21:09 ID:E7lmkt/pO
やっぱス(ry
373作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/11(月) 11:25:06 ID:rqIwjqLS0
>>371
感想ありがとう^^ あと、途中で謝ってくれたけど合いの手は個人の自由だよ。
だってここ掲示板だもん。邪魔されるのがいやだったら自分でブログか何か
作ってやるってば。

話ぶった切ってもいいから気にしないでレスして。コピペとか巨大AAとかは
やだけど(笑) 読んでくれてありがとう。

>>372
記憶飛んでるんだけど、読んでみるとそうだろうなぁ。でも相手はこの世に
いない…自分で書いておいてなんだけど、なんか複雑な気持ちになるお話
でした。
374作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/11(月) 16:33:25 ID:rqIwjqLS0
さてここらで話でもするか。

タクシードライバーがしているような綿の手袋に覆われた手が
山形家のチャイムを押した。


つづく
375本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 16:36:13 ID:4nvPndpp0
1番乗り(・∀・)イイ!
376作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/11(月) 16:45:38 ID:rqIwjqLS0
山形アカネが玄関のドアを開けると、そこには霧原トオルが立っていた。

「あぁトオルか…」

「あぁって何だよ」

「来る前に電話ぐらいすればいいのに」

「うん。先生、いる?」

「お兄ちゃん?ごめん今道場行ってるよ」

陰行流艶術の更なる向上の為、山形ユウジロウはブラジリアン柔術の
道場に不定期ながら通っている。

「…すごいかっこだね…」

「…あ、うん…」

少しアカネは顔を赤らめた。ナイロンのイージーパンツに、スポーツブラ。
アカネにとって見ればスポーツブラなど、丈の短いタンクトップという程度の
認識だったが、下着であることに代わりはない。敢えて口に出されると少し
恥ずかしかった。

「革の手袋はやめたの?」

女性はファッションに目ざとい。トオルの手袋の違いを一瞬で見抜いた。


つづく
377作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/11(月) 17:01:09 ID:rqIwjqLS0
霧原トオルには、触れた者の感情や思考、記憶を読み取る能力がある。
平常な人間に触れる分にはそれ程大したことはないのだが、特に感情の
昂ぶっている者や、強烈な想いを抱く者などにうっかり触れると、トオルが
望まなくともその感情が流れ込み、卒倒しそうになることが度々あった。

そのことをユウジロウに相談したところ、手袋でもすればいいのではないか
という結論に至り、以来、トオルは右手にだけ黒革の手袋をするようになった。

左手はその能力的にはかなり鈍感なので、覆う必要はない。しかし、どうも
片手だけ黒革の手袋というのも、何か恰好つけているようで嫌になり、今日は
ごく普通の綿の手袋にした。

居間に通されると、机の上にはヨガの入門書が乗っている。アカネが随分と
ラフな恰好をしている理由が分かった。

ソファをトオルに勧めて、自分はキッチンへ向かうと、アカネはオレンジジュースを
グラスに注いで、トオルに出してやった。

「ありがと」

スポーツブラから除く胸の谷間が気になった。霧原トオルには一つ年上の木下サエ
という恋人がいたが、上といってもまだ十五歳。対してアカネはもう二十歳を回った
大人の女である。女の色香という意味では、恋人にはないものがあった。

「…何か着なよ」

「ん?何で?変な気持ちになる?」

からかうようにアカネは言ったが、その目には淫靡な光が宿っていた。


つづく
378作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/11(月) 17:11:10 ID:rqIwjqLS0
トオルの目をじっと見るとトオルは目を逸らしてグラスを口に運んだ。

視界の横にアカネの顔がある。はっきりとは見えないが、こちらを
見つめ続けていることだけは分かる。

横に目をやる。やはり見ている。目が合う。目を逸らす。

「…なんで…見てるの?」

「…可愛いなぁって。思って」

「…」

一度は憧れた人。

「ねぇ…トオル」

「なに?」

「キスしよ」

「!」

アカネの腕が肩に回って、優しく抱き寄せようとする。わずかに横に張り出した
豊かな胸が、グラスを手にするトオルの腕に、柔らかく触れた。


つづく
379本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 17:23:19 ID:WBc6ZO/YO
トオルとアカネがっ!?(゚Д゚;≡;゚Д゚)
380作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/11(月) 17:24:35 ID:rqIwjqLS0
「…力抜いて。だいじょぶ。怖くない…」

全身が心臓になったかのような感覚。鼓動が激しい。トオルはグラスを机に
置いて、アカネの方に顔を向けた。

思った以上に彼女の顔は近く。互い、目を閉じて。

残り二十三ミリでトオルの純潔が拒否した。

「だめだよ!こんなの!俺、彼女いるし!」

アカネは突き放された。溜息が大きい。

「よっしゃあぁぁぁぁー!」

突然キッチンカウンターの向こうから人影が現れた。ひどく驚いたが、それは
あろうことか自分の彼女、木下サエだった。勝ち誇るようにガッツポーズで
立っている。

トオルは混乱していた。

「ごめんね。トオル。したくなかったんだけど…」

手を合わせてアカネが詫びた。要するに『ドッキリ』だ。かなりタチが悪い。サエが
仕組んだのだろう。トオルをアカネに誘惑させて、心が動くかどうかのテスト。


つづく

381本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 17:27:02 ID:4nvPndpp0
これはやられたくない・・・
382作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/11(月) 17:36:04 ID:rqIwjqLS0
トオルは何度かサエを連れて山形家を訪れたことがあった。

余り気が合いそうにもなかったがどういうわけかアカネとサエは
意気投合し、サエ個人でもアカネに勉強を教えてもらう為、山形家
を定期的に訪れていたのだ。

昨夜メールで、トオルは今日ユウジロウを訪ねることをサエに
明かしていた。それに合わせて計画されたのだろう。

トオルは憤慨していた。まだ拒否したからよかったようなものの、
そのままアカネとキスしてしまったらどうなったのか。

「まぁそう怒るな。霧原!」

満足気にサエはトオルの肩をバンバンと叩いた。アカネの服装も、
ヨガの入門書もどうも全て演出だったようだ。アカネは別室で着替えて
戻ってきた。

「ところであたし、ユタカ連れて散歩行くんだけど…どうする?」

「一緒に行ってもいいの?」

「うん。全然構わないよ。でも邪魔じゃない?」

「邪魔って?」

「いや、二人きりの方がいいかなって」

「アカネさん一緒の方がいいよー。霧原大人しいんだもん」


つづく
383作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/11(月) 17:58:11 ID:rqIwjqLS0
(すいません電話です。一時停止します)
384本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 18:05:04 ID:4nvPndpp0
おいっす!じゃあカレー食べて来ようwww
385作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/11(月) 18:31:34 ID:rqIwjqLS0
(すいません長くなりました。再開しますが、またかかってくる可能性
があります。その際は御了承下さい。今回分はライブではなく、後で
ゆっくりお読みになられた方がいいかも…。かなりまったりした話に
なると思いますし)
386本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 19:02:18 ID:rqIwjqLS0
「じゃ、行こっか」

「行くぞ霧原。何あんたまだ怒ってんの?気にしない気にしない。
あーあれだよ、もしあの時アカネさんとキスしてもあたし平気だったし」

木下サエは全く浮気を意に介さない。最終的に自分の所へ戻ってきて
さえくれれば何処で何をされても気にしない女だった。

以前付き合っていた男にも、いわゆる『四股』をかけられていて、友人づてに
その話を聞いた時の彼女のリアクションは『で?』の一言だけであった。

ユタカもまだまだ仔犬だが、そろそろ多少の精悍さが出てきた。

元々は若手で有能な弁護士だった。肉体をユウジロウ再生の為に奪われた
ものの、犬としてアカネの側にいることを決断したユタカ。

元が人間であるからか利口で、既に基本的な芸はマスターしているし、仮に
リードがなくとも主人について散歩することもできた。

「あ、トオル、そういえばさー、動物の心って読めるの?」

「動物!?」

「おー面白そうだ。やってみろ霧原」

確かに経験したことはない。霧原トオル、余り動物が好きではなかった。
特に怖いとか、そういったわけではないが、両親が共に仕事に忙しく、ペット
などを世話する時間的余裕などあるわけもなく、動物自体に接する機会が
ほぼ皆無だった為、扱い方がよく分からないのだ。


つづく
387本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 19:15:20 ID:rqIwjqLS0
綿の手袋を取り去り、ユタカに手を伸ばす。人なつこい犬なので
他人に触られることに対してユタカが警戒するようなことはない。

触れる。流れ込んでくる『それ』は人間の『それ』に比べて余りに
単純だった。

トオルの能力は言わば、『交感』であり、言語化された情報が流れて
くるわけではない。かと言って、ビジュアルでもなければサウンドでも
ない。その『感じ』がそのまま流れ込んでくる。だからこそ、言葉の通じない
外国の人間の心も読み取ることができた。

「とりあえずこれから散歩に行けて嬉しいみたいだよ」

「そんなの見れば分かるじゃん。シッポ振ってるし」

「…でもその程度のことしか感じてないよ」

「まだ小さいからかな?」

「もう性欲もあるみたい…でも人間には向いてないと思う。犬のメスを
求めてるよ」

「へー…早いなー…去勢手術とかしとかないとね」

どうも、ユタカは既に人の心を失い今や完全な犬になったようだ。果たして
それが幸か不幸かは知る由がない。


つづく
388本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 19:35:19 ID:rqIwjqLS0
人の心を残していたとしても、心はどこに収まるのか。心が脳にあると
考えれば明らかに許容量が足りない。確実にオーバーフローを起こす。

もし心が脳に依存しないとしても、脳も含めて肉体はは犬。犬の行動限界を
超えることは決してできない。

人は人として、犬は犬として生きること。当たり前のことだがそれが最も自然
であり幸せなことではないだろうか。人としてのユタカの個性は失われたが、
肉体も持たず霊としてアカネに張り付いていることが幸せとも思えない。
(第二十五話 『犬の生活』 参照)

兄、ユウジロウを復活させる為に奪ってしまった肉体。責任が取りきれるもの
ではないことは理解していた。(第八話 『予期された邂逅』 参照)

しかしユタカ自身がそれを許し、アカネを守ることを選択し、犬として生きる
ことを決めた。ユタカ自身の魂の決定。

「アカネさん?」

心を読ませて、もしユタカの『犬になんかなるんじゃなかった!』という恨み節を
トオルに告げられたらどうしようかと少し懸念していた。しかしとりあえず、ユタカは
今の生活を楽しんでいるらしいことは分かった。それで充分だが、今更に
申し訳ないという気持ちがないわけではない。無論、取り返しはつかない。

「アカネさんってば!」

「え?あぁ、はい?」


つづく
389本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 20:02:18 ID:rqIwjqLS0
「大丈夫ですか?」

「あ…うんうん。平気。行こう。お散歩」

リードにつながれたユタカは短い足をちょこちょこと必死に動かしている。
川沿いの道。

木下サエは乱暴で、自分から惚れてトオルとつきあっているにも関わらず、
随分と邪険に扱う。しかし上手くいっていないというふうでもない。

サドとマゾというわけでもないだろうが、それで成り立っている関係。

トオルもサエの心中を察しているのか、粗暴に扱われても余り気にするような
素振りもない。相手にしていないかのように見えることもある。

一見するとちぐはぐ。それでも二人が愛し合っていることは間違いないように
思える。理想的な関係とは呼べないが、それはそれで良い。

アカネは二人が羨ましかった。穢れのない関係。ただ思うまま、心のまま
愛し合える関係。自分にはできないことだった。

初恋は美しかったが、それが永遠の思い出となることは許されなかった。
(第三十八話 『憧憬』 参照)

「アカネ、大丈夫?なんか変だよ」

「ん?だって、あたし彼氏とかいないし。ちょっと羨ましいかなって。はは」

「アカネさんも彼氏作ればいいじゃん。すぐできそう。かわいいし」


つづく
390本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 20:25:36 ID:rqIwjqLS0
「彼氏かぁ…そうだねぇ…」

トオルはアカネの心を知っている。ある意味それは呪いだ。
自らを縛る呪縛。『そんなこと気にしないで』という安易な助言で
済むような問題でないことも知っている。

一見、人の気持ちも顧みず、ずけずけとものを言いそうなサエだが、
それでも女だ。何かただならぬアカネの気持ちを何となく察した。

事情は知らない。何かワケがありそうだが、向こうから言ってこない
以上はこちらから聞くことでもないのだろう。何やかんやと聞きたがる
野次馬根性をサエは持ち合わせていない。

先頭はユタカだった。ちゃかちゃかと爪を鳴らしながら川沿いの遊歩道を
歩く。少し大きめの石や歩いている虫を見つけてはそっちへ行こうとする。

アカネは軽くリードを引いて、ユタカを制した。その度にユタカに振り返って
アカネの顔を眺める。怒られているのかと思っているらしい。アカネが
笑うと、安心してまたちゃかちゃかと歩き出す。

横から見たその笑顔が、哀しみを湛えているのをサエは見た。アカネとの
つき合いはまだまだ短いが、この人には人に言えない何かがあるんだ。
多分トオルはそのことを知っている。でもあたしの友達のアカネさんは、
あたしの知ってるアカネさん。あたしの知らないアカネさんがいるとしても、
それはあたしの友達じゃない。だから気にしない。もっととずっと仲良く友達で
いれたら、少しずつ知ってるアカネさんが増えて、知らないアカネさんは
減っていく。全部のアカネさんを知った時、まだあたしはアカネさんの友達で
いられるか。それとも途中で嫌いになっちゃうか。


つづく
391本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 20:29:45 ID:WBc6ZO/YO
ユタカかわいいよユタカ
392本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 20:38:56 ID:rqIwjqLS0
でも今、アカネさんはあたしの大事な友達で、大事な先輩。
尊敬もしてるし、好き。いつか嫌いになっちゃうかもとか考えてたら
誰とも付き合えない。あたしだって、アカネさんに見せてない部分が
ある。

ふと、トオルを見る。

そうだね。結局全部なんか見れないし、見せてくれない。霧原
だって同じこと。あたしの知らない霧原もいる。でも霧原は触るだけで
全部見えちゃうんだ。それはそれで大変だよね。便利かもって
思ったけど、全部知っちゃうって怖いことだ。隠すことは、見せないことは、
悪いことじゃない。

「さて、と」

「?」

「なんか、あたし、邪魔してるみたいな気になってきたよ」

「そんなことないよ」

「ううん。ちょっと疲れたし。休んでいくから」

急にどうしたんだろう、やはり羨ましがらせてしまったのか、
だとしたら悪いことをしたな、トオルは思ったが、適当に別れの
言葉をアカネに告げたサエに引っ張られ、そのまま川沿いの
遊歩道を早歩きに歩いた。

アカネはそのままユタカを連れて、遊歩道脇に作られたごく小さい
公園のベンチに座って泣いた。

つづく
393本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 20:53:25 ID:rqIwjqLS0
もう少し強いはずだった。今日に限って何でだろう。トオルとサエの
関係がすこぶるいいことは知っている。のろけ話も散々聞いた。

でも今日は切ない。

ユタカはしばらくリードの届く範囲内で物珍しそうに公園ベンチの周り
をうろうろしていたが、アカネの様子がおかしいことに気付くと、彼女の
足元に座ってじっと顔を見上げていた。

二本足で立ち上がって、前足でアカネのすねを押す。慰めているつもり
なのか、それとも散歩を続けようと催促しているのか分からないが、アカネは
ユタカを抱き上げると強く抱きしめて更に泣いた。

ふと急に暗くなった。目を開けると、見覚えのある靴が見えた。顔を上げる。

「ユタカ、いやがってるぞ」

ユウジロウが立っていた。腕を緩めるとユタカはアカネの膝から飛び降りて、
よろよろと歩いた。苦しかったらしい。

「…お兄ちゃん…」

「帰ろう」

泣いている理由をユウジロウは聞かない。アカネが弱い女でないことは
知っている。いつも戦っている。ただ、戦いに疲れることがたまにある。その時
アカネは涙を流す。それだけ知っていれば充分だった。


つづく
394本当にあった怖い名無し:2006/09/11(月) 21:14:35 ID:rqIwjqLS0
アカネと手をつないで歩く。してやれることはそのぐらい。

慰めない。慰める必要はない。哀しみに打たれ泣く女に男が
してやれることは、言葉をかけることではない。

所詮人も動物で、言葉は単なる道具に過ぎないことをユウジロウは
知っている。

だから手をつなぐ。

「帰ったら抱っこしてやるから…」

そうか。いたんだっけ。つい忘れてた。難しいから。あたしのお父さんで、
お兄ちゃんで、大好きな人で。泣きやんだアカネはユウジロウの肩に頬を
つけた。

ユタカはそれまでしばらく後ろを気にしながら歩いていたが、アカネが
泣きやんだことを見届けてからはずっと前を向いてちゃかちゃかと歩いた。


  終
395作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/11(月) 21:17:25 ID:rqIwjqLS0
途中電話あって長くなりました(時間が) ライブで見てた人いたら
ごめんです。

並びに今回オカルトないです。板違いも謝るです。
396本当にあった怖い名無し:2006/09/12(火) 01:06:41 ID:xgQLci/pO
アカネ…(´;ω;`)ウッ
397作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/12(火) 18:10:24 ID:z9BgByzZ0
とりあえずリク消化したのでリク募集再開します。

お応えできない場合もあるので御了承下さい。
398作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/13(水) 00:27:59 ID:kPM2UDge0
さてここらで怖い話でもするか。

深夜。岡崎家。二階西側の窓にだけ明かりが灯っていた。
ふと、寂しさを感じた部屋の主、岡崎リョウコはアンプの電源を入れた。


つづく


399作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/13(水) 00:47:18 ID:kPM2UDge0
今時の中学生が持つには珍しいセパレートタイプのオーディオシステム。
アンプはラックスマンの一九八〇年代に発売された名機とされるものだった。

オーディオマニアの父からのお下がりである。

吉田美奈子の何とも言えないヴォーカルが、タンノイのスピーカーから時間を
気遣って静かに、しかし重く流れ始めた。

その曲は夜に似合う。うら寂しい気配に溶けて、その雰囲気を陽気に変える
わけでもなく、ネガティブなまま受け入れさせた。

やっと落ち着く。夜の住宅街は静かで、時折自動車のタイヤがアスファルトを
蹴る音が聞こえていたが、改めて聞くとその音は変わっていた。

窓を開ける。秋雨が音もなく降って、地面を濡らしていた。溜まった水を切って
クルマが走りぬけた。

吉田美奈子の歌声は、陰鬱な秋雨の夜にこそ合っていた。

開け放った窓から大きく吐く息は、若干白く、リョウコはそのまましばらく頭を
冷やしていた。

薄水色で、夏っぽいデザインのカシオBaby-Gに目をやると深夜十二時を
少し回っていた。予定では英語の勉強を始める時間だったがまだ数学が
終わっていない。


つづく
400作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/13(水) 01:06:12 ID:kPM2UDge0
教育評論家という肩書きで何冊かの著作を持ち、小規模ながらも
講演をしたり、教育機関の相談役やスーパーバイザーととしても
活動している父を持つ娘として、少しでもいい高校に入学することは
使命とも言えた。

成績は優秀だったがまだまだ上がある。一応志望校は学校側に
伝えてあったが、親としてはもっと上を狙って欲しかったし、リョウコ
本人としてもその期待に応えたい思いはあった。

とはいえ、やはり育て方が上手かったのか、それを苦痛と思うことはなく、
自主的に上を目指しているつもりでもある。まだ気の早い話だが、最終的
に、高校卒業後は東大に入りたいと考えていた。

しかし頭は疲れている。これ以上やっても何も頭に入るまいと決断した
リョウコは部屋の清掃を始めた。

ホコリを取る紙製のシートで、アンプの上や、机の上を拭く簡単な掃除。

清潔好きな彼女にとって、それは一種の気分転換だった。

本棚に納まった本の背表紙を撫で、テレビの上を拭いて、一時期流行した
静電気を利用して埃を吸着させる小さいハタキで、部屋中の細かい部分を
そっと払う。

眠くはない。部屋は元々きれいだから、それ以上掃除する所もない。

そのままベッドへ寝転がった。埃を立てないようにそっと静かに。


つづく
401作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/13(水) 01:18:31 ID:kPM2UDge0
コンパクトディスクは三番目のトラックを再生している。

この曲が終わったら勉強の続きをしよう。そんなことを考えながら
ぼおと天井を見上げていた。

少し首を傾けると、高い本棚と天井の隙間が見えた。そこには最近
買ったDVDプレーヤーや、古いアルバムがしまってある段ボールの
箱が乗っている。

あんな高い所掃除したこともないな。随分と埃も溜まってるんだろうな。

気になると止まらなくなる。リョウコは立ち上がると、キャスターのついた
椅子を本棚の側に転がして行って、本棚の上を覗いた。

やはり相当埃が積もっている。

これは埃を除去するシートでは手に負えそうにない。掃除機で吸ってしまう
のが良さそうだったが、深夜である。明日にしようと諦めたが、ある物が目に
止まった。

黒く小さい箱。赤、緑、白のクリスマスカラーのリボンが掛けられているが、
箱本体は黒い。

記憶になかった。

埃が舞い散らないようにそっと手に取る。それは随分前に購入して、既に
捨ててしまったハードディスクの箱の裏にひっそりと隠れるようにしてあった。


つづく

402本当にあった怖い名無し:2006/09/13(水) 01:36:49 ID:uVkfz8THO
ktkr!(゚∀゚)
403作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/13(水) 01:40:14 ID:kPM2UDge0
どの辺も十五センチ程の箱。窓の外に出して、埃を払い、
何であったか記憶をたどる。

しばらく考えていると思い当たる覚えがあった。

何年も前。小学校の六年生だったか五年生だったか。

リョウコが通っていた小学校ではクリスマス近くになると、週に一時間
だけ設けられた『ゆとり』という授業の中で、クリスマスパーティが
開かれた。

小学校公認で行われるものだから大したパーティではなかった。

クリスマスパーティ前になると、いついつにパーティがあるから、
各々プレゼントを準備するように担任から言われる。

『準備』というのは五百円を上限として、プレゼントを用意することだった。

そしてクリスマスパーティ当日になると、それぞれ購入して、クリスマス用に
ラッピングしたプレゼントを持ち寄るのだ。とにかく五百円という上限さえ
守れば何でもよかった。ミニカーでも菓子でも、ビー玉でも。

そして『ゆとり』の時間になると机を教室の後ろに全て寄せて、椅子だけを
丸く並べ、みんなが持ってきたプレゼントを教師が集めて、丸く並べられた
椅子のサークルの中央に置く。


つづく
404作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/13(水) 01:59:54 ID:kPM2UDge0
教師の号令一下、椅子に腰掛けていた児童たちは、山と詰まれた
プレゼントに群がり、好きなものを手にして、再び椅子に戻る。ただ
それぞれ包装されているので、プレゼントを持ってきた本人以外は
何が入っているのかは分からない。

その後、適当なクリスマスソングがラジカセから流れて、そのリズム
に乗って自分が取ったプレゼントを隣の児童に回し、逆隣の児童から
受け取ったプレゼントをまたリズムに乗って隣の児童に手渡す。

ランダムに散らばったプレゼントは、音楽によって児童の間を回り、
頃合を見計らった教師が、曲の途中であろうが構わずクリスマスソングを
止めてしまうことで、詳細不明のプレゼントが児童の手に残る。

それが、児童それぞれに与えられたプレゼントである、という趣向だった。

プレゼントには署名などはなく、誰が用意したプレゼントかは分からない。
だから、自分は五十円程度の物を持ち寄ったのに上限一杯の五百円相当の
プレゼントを運良く手にし喜ぶ者もいれば、女子向けに用意されたプレゼントを
受け取ってしまった男子が文句の声を挙げることもあった。

小学生時代の岡崎リョウコには苦手な男子児童がいた。名前もよく覚えていない。
暗く、薄気味の悪い生徒だった。

彼は何度かリョウコに手紙をよこした。ラブレターに近い内容だったが、はっきりと
『好き』とか『付き合って』と書かれているわけでもない。何が書いてあったか記憶は
定かでなかったが、もらって嬉しい内容ではなかった気がする。


つづく
405作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/13(水) 02:13:19 ID:kPM2UDge0
『ゆとり』の時間のクリスマスパーティの時それとなくリョウコは
彼の手元を見た。目立つ黒い箱を持っていた。

その後、それは椅子で作られたサークルの中央に埋もれる。

リョウコはそれだけは取るまいとした。

そうだ思い出した。

クリスマスソングが終わった時、その黒い箱は自分の手元にあった。
あろうことか。瞬間、その黒い箱を持ち込んだ男子児童の顔を見ると、
彼が自分を見てにやにやと笑っていた気がする。

そのまま一応そのプレゼントを受け取った形でその日の授業を終えたが、
学校からの帰り、立ち寄った公園のゴミ箱に投げ入れた。

そう。投げ入れるところを同級生に見られてはまずいとかなり周囲を気にして、
投げ入れた。後にも気になって、一度公園に戻りゴミ箱に手を突っ込んで、
既に捨てられていたスポーツ新聞を引っ張り出し、黒い箱の上に被せて
偽装した覚えもある。

確かにそうだ。それが何でこんな所にあるのだろう。

一度も箱は開けていないので中身も知らない。

赤、緑、城のクリスマスカラーのリボンに不釣合いに黒い箱。そのまま
捨てようかとも思ったが月日はその不気味さを薄れさせ、代わりに好奇心を
呼び起こさせた。


つづく
406作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/13(水) 02:33:21 ID:kPM2UDge0
とりあえずリボンを取り去ると、瞬間、彼の顔が鮮明に思い出された。

坊主刈りにどろりとしたなまずのような目。低い鼻。色白の肌に
くちびるだけが妙に赤々としていた。

頭はそれほどいい方でもなかった気がする。先生に当てられて、
答えが分からない時などは無闇に自分の耳たぶをコネくり回す癖が
あった。それもちょっとやそっとではない。先生が他の生徒を指名するまで
延々と続くのだ。

いじめられているわけでもなかったが、何のストレスか鉛筆を折ったり、
針の入っていないホチキスを休み時間中ずっと、激しくかちゃかちゃと
鳴らしていたこともある。

黒い箱だけが残った。静かな夜に溶け入る吉田美奈子のヴォーカルが
途端に不気味なものに感じられた。

フタを取る。そこにはまずカードが入っていた。

『おかざきリョウコさんにとどきますように』

その横には、牛か山羊を模したような象形文字が書かれていた。意味は
分からない。いずれにせよ偶然にしてはできすぎている。

一度集められたプレゼントの中から、児童が好き勝手に自分の好きな物を
選択し、更に音楽によってそれは回され、教師の手によって適当に止められる。

狙った相手に自分のプレゼントが届く確率はおよそ四十分の一。


つづく
407作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/13(水) 02:45:33 ID:kPM2UDge0
そのカードを取るとその下にはもう一枚カードが入っていた。

『高こうであいましょう』

高こう…高校。どこに住んでいたかまでは知らないが、学区が
微妙に違い、彼は近所ではあったが別の中学に通っている。

その二枚目のカードの下にも何かが入っているようだった。

恐る恐るカードを取るとそこにあったのは、毛髪の束、だった。

坊主刈り。違う。クリスマスパーティの直前まで彼は長髪とまでは
いかないが、少なくとも坊主ではなかった。そう。パーティの当日
突然坊主で現れたのだ。

それも乱雑な坊主頭で、一部の髪は長く残っていたり、短すぎる部分は
もう頭皮ぎりぎりであったり。

毛髪の束が、赤く染められた木綿糸でくくってあった。

さすがにそりに手を触れる気にはなれず、二枚のカードを収め、ついでに
リボンも丸めて箱に突っ込みフタを閉めて、部屋の外に出した。

いつの間にか全曲、再生し終わったのかタンノイのスピーカーからは何も
聴こえず、無音。

全身の毛穴が開いたまま、閉じなくなってしまったような感覚を覚えたまま、
リョウコは朝までじっとしていた。


つづく
408作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/13(水) 02:56:33 ID:kPM2UDge0
翌朝、リビングに下りると母がいた。

「リョウちゃん、徹夜だったのね」

「…眠れなくて…」

「余り根を詰めちゃだめよ。身体壊したら何もならないでしょ」

「そうだね。今日は早く寝るよ」

朝食のベーコンエッグが焼き上がり、トーストと共に食べていると母が
言った。

「リョウちゃんそう言えばね、おとといスーパーでリョウちゃんの同級生と
会ったのよ。小学校の時の。お母さんは知らない子だったけど、その子は
お母さんのこともよく覚えてくれててね。リョウちゃんのこと色々心配してた
よ。受験のことなんかも聞いてきて」

「…!それで!?」

「うん。志望校はどこですかって聞くから、答えたの。そしたら、『僕も偶然
同じなんです』なんて言って。お互い頑張ろうって伝えておいて下さいって
言われたよ。名前は聞かなかったけど、伝えてくれれば分かると思います
っていうから…」

リョウコは親の意思とは関係なく、自主的にもう一つランクが高い高校を
目指すことを決めた。


  終
409作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/13(水) 02:58:51 ID:kPM2UDge0
>>402
深夜だし誰もいないかと思ったんだ。合いの手サンクス!助かった!
410本当にあった怖い名無し:2006/09/13(水) 04:08:36 ID:uVkfz8THO
作者さん乙です^^
感想遅くなりましたが、

怖い!怖い!怖い!!((((((;゚Д゚))))))

今回の話もめちゃ怖かった…。
いやでも、相変わらず描写がリアルでこだわりがありますよねー。
リョウコの姿が浮かんできて、前半の時点で話に引き込まれてしまいました。
普段ノンフィクションばかり読んでいるのであまり小説は読まないのですが、
小説ってやっぱり細かい部分の描写で話に夢中になれるかどうか決まってくる気がするんですよね。
今夜の作品は特に作者さんのセンスが光っていました!
お話の展開も次どうなるのか、と非常にwktk出来ました^^
どういうジャンルになるのかわかりませんが、こういうお話好きです。
とても楽しめました!

怪しいくらいにべた褒めですがwそれ位今夜のお話はお気に入りです。
作者さんの長編も読んでみたい、と思ってしまった一本でした^^
411作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/13(水) 12:25:34 ID:kPM2UDge0
ちょっと疲れてたみたい。読み返したらちょっと説明不足な所が3、4箇所
あるな…。自分的に好きな話だけにちょっと残念だ…。

『空き箱』とか『空箱』とするところをただ『箱』と書いてしまったり、
『象形文字らしきもの』と書くべきところを『象形文字』と断言してしまって
いたり…。

あーちょいポカだあ。ちょいだけどね。今後気をつけよう。ライブって
難しいもんだなぁ…。
412本当にあった怖い名無し:2006/09/13(水) 22:44:15 ID:UOfNxCyK0
ero
413作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/13(水) 23:26:08 ID:kPM2UDge0
諸事情により今夜は休載します。楽しみにしてくれていた方々、
いらっしゃったら申し訳ないです。すいません。
414本当にあった怖い名無し:2006/09/14(木) 00:58:12 ID:euP8zI+3O
>>413
了解しました^^
次の投下楽しみに待ってまーす^^
415作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/14(木) 01:10:36 ID:iYUuQora0
>>414
ありがとう。ごめんね。人物設定とか、登場人物のバランス(主人公のユウジロウは
ともかく、たとえばリョウコが出すぎてるとか、カエデがしばらく出てこないとか)、
また古い過去作品のゲストキャラクターを見て『あーこいつもう一回使おう』とか、
まとめサイトさんを必ずチェックしてから書く習慣があるんですが、そのまとめ
サイトが落ちてるんです…。

書こうと思えば書けると思うんだけどいつもの儀式みたいなもんなんで、しないと
落ち着かなくて…。やっぱり自分でもログ取っておくべきだなぁ…。
416本当にあった怖い名無し:2006/09/14(木) 01:22:51 ID:O4YxDzNq0
>>415
あれれ?まとめサイト落ちてます?自分ふつーにみれますよー?
417作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/14(木) 01:37:13 ID:iYUuQora0
418本当にあった怖い名無し:2006/09/14(木) 02:01:21 ID:O4YxDzNq0
>>417
ええ、そこです。自分は今も見れます…が…
どちらにせよ、今日はゆっくり休まれたらいかがでしょう?

でも一日書かないと調子狂っちゃうのか。うーん。。
419作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/14(木) 02:16:16 ID:iYUuQora0
>>418
心配しないで。大丈夫^^気使ってくれてありがとう。雑談スレにも
書いたけど今yahooとかグーグルでキャッシュ拾ってる。

にくちゃんねるにはパート2のログがまだないんだ。

今晩は自分で色々とまとめてみることにします。平気だからそちらこそ
気にせず休んでください。本当にありがとう。
420本当にあった怖い名無し:2006/09/14(木) 20:26:13 ID:59lVC22+0
 
421作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/14(木) 21:11:48 ID:iYUuQora0
さてここらで怖い話でもするか。

私こと『作者 ◆xDdCPf7i9g』は悩んでいた。
何故ならば、あくまで主観だがある程度まとまってしまったからである。


つづく
422本当にあった怖い名無し:2006/09/14(木) 21:27:27 ID:lkDqO6JX0
キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!
423作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/14(木) 21:28:02 ID:iYUuQora0
2ちゃんねるオカルト板。その片隅で三ヶ月書き続けてきた山形ユウジロウという
中学校教師を主人公とする一連の作品群。

それは、下品な言葉で申し訳ないが『糞スレの撲滅』を目的に開発された『兵器』と
呼んで差し支えのないものだった。

立てられたもののスレ主が飽きてしまい早々と放置されたスレッド、スレ主が何処か
恐ろしい場所を発見したという話から始まり、その場所へ突撃。しかしその突撃が
事実であるかさえ明らかではなく、とにかく写真をアップしろだの動画キボンヌだのと
盛り上がるが、肝心のスレ主は以降現れなかったり、現れてもカメラを持っていない、
余りに恐ろしいのでアップできない、具合が悪くなった、眠い、仕事があるなどの理由で
のらりくらりとかわし、毎夜同じことが繰り返されるスレッド。

そういったスレッドに対し投下する『兵器』 

私に何ができるかと、一年以上考えていた。無論必死で考えていたわけではない。
ただ漠然と、私的に面白くない流れを、面白くする方法が何かあるのではないか。そう
考えていた。

そして結論に至る。ゲリラ的にスレッドを乗っ取ること。『俺も突撃します』という実話系で
乗っ取るつもりはなかった。全国津々浦々からの情報が集まるインターネットの世界では
それは無理と思えた。故に、小説という手段を用いてスレッドを乗っ取る。

しかしタイミング的にも戦略的にもあまりに難しく不可能と思われた。

つづく





まとめサイトを
424作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/14(木) 21:39:06 ID:iYUuQora0
(ごめん前レスの最後の一行無視して…)

冗談半分の決行だった。無視されればそのまま撤退する。避難されても
同様。それで構わないと思っていた。

結果として作戦は成功裡に終わった。

ヒントは歌手の倖田來未にあった。『エロカワイイ』 ならば『エロ怖い』でも
いけるのではないか。目論見は当たった。

しかし同時に私自身の気の弱さからくる罪悪感にさいなまれる様になる。

自分のしていることは正しいのだろうか。

そして事件は起こった。投下タイミングの失敗。小規模ながらも正常に稼動
していたスレッドへの投下。

私はゲリラから足を洗った。しかしその頃には、専用スレッドが立っていた。

ゲリラの次に試みたのはライヴである。2ちゃんねるオカルト板。その性質上、
『洒落にならない怖い話』や『エニグマ』といった真偽はともかく実話系のコンテンツ
に人気は集中している。

その中で全く真の部分のない、いわば小説を連載する。

反響はあった。


つづく
425作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/14(木) 21:50:32 ID:iYUuQora0
主人公、山形ユウジロウは第一話で死んだが、それを復活させた時、
私は百話を目指すことを決めた。

一日一話を基本として百日。山形ユウジロウを中心とする百物語の
完成を目指す。

そして気付かぬうちに七十話に至っていた。しかしそこで、まとまって
しまったのである。

それぞれの脇役を主人公に据えるスピンオフも一通り済み、それぞれの
キャラクターに言わせたいことは言わせやらせたいことはやらせた。

頭の中に確かに存在していたキャラクターたちが動かない。

全く設定も考えず、正確な段取りも決めない。とにかく大まかな話の筋が
決まれば後はそのキャラクターに任せる。ゲリラ魂はその辺りに残滓を
見せた。

頭のおかしい奴だと思われるのを覚悟で言う。私は頭の中のユウジロウたち
に呼びかけた。

「あと三十話だ。なんとか頑張ってくれ」

しかし彼らが動くことはなかった。しかし雪野カエデが多少動きかけた。

「そうだ。カエデ。吹奏楽部に入ってからの話を書こう」

しかし彼女は単純に部活を楽しんでいるだけで、そこには『エロ』も『怖』も全く
介在しない。


つづく
426本当にあった怖い名無し:2006/09/14(木) 22:12:11 ID:iYUuQora0
絶望的だった。ユウジロウも、アカネもリョウコもトオルもリュウジも、
全く浮かび上がってこない。

仕方がないので、今日は私の話をしよう。第四十七夜『可能態』において、
私のことを登場人物も意識していることが語られている。

だから私もある意味では登場人物の一人なのだ。

その奇妙な出来事はちょうど十日前。九月四日から起こった。夜、寝ていると
背中に妙な痛みがあり、触ってみると何かニキビのようなデキモノが背中に
できていた。

それは押すと痛く、仰向けで眠ると痛い。仕方なく私はうつ伏せで眠った。

翌朝、そのデキモノは数を増やしていた。何もしなければ問題はないが、触れたり
押すと痛い。四つから五つ、あるようだった。

もともと皮膚は弱い。こういったものができるのは珍しいことではなかったが、一晩で
急に増えたというのも気持ちが悪く、私は鏡でどうなっているのか背中を見ようとした。

上手く見れないので鏡を二枚使って、合わせ鏡にして確認すると、確かに何かが
できていて、赤く腫れている。

クスリを塗ろうにも何を塗っていいのか分からずそのまま放置した。

しばらくそれは全くよくならなかった。むしろ増えている気がする。

背骨に沿って腫れたデキモノが毎晩痛かった。


つづく
427本当にあった怖い名無し:2006/09/14(木) 22:25:41 ID:iYUuQora0
それからしばらくして、パソコンの調子が悪くなり始めた。私のパソコンの
OSはwindowsXPだが、何となく立ち上がりが遅い気がした。

ただ正確に立ち上がりの時間を測ったこともないので、『こんなものかな』と
思った。

しかし立ち上がった後もパソコンの調子はどうも悪かった。

このスレッドの>>383-385 を見て頂ければ分かると思うが、その日、電話が
あった。祖母からだった。祖母といっても家は近い。原付で五分も走れば
彼女の家に行けた。

祖母は一人暮らしだった。彼女本人の性格や人生はともかくとして、家が近所で、
一人暮らしという点で、ツネコのモデルである。

具合が悪い、という話だった。何か変なのだと言う。

気になったので十二日に祖母の家を訪ねようと思ったのだが、原付のエンジンが
かからない。ホンダのカブというバイクで故障の少ない機種であったし、日頃も
色々とメンテナンスはしていた。しかし全く動かない。

気温が低くなったせいかと思いチョーク(寒さなどでエンジンがかかりにくい場合に
用いる機能の一種と考えてもらえればいい)を引いたり色々してみたがかからない。

ガソリンは入っていた。仕方なく徒歩で祖母の家に向かった。

インターホンを鳴らしたが出てこない。しかし鍵は開いていた。驚かしては悪いと思い
大きな声で挨拶をしながら入った覚えがある。


つづく
428本当にあった怖い名無し:2006/09/14(木) 22:34:12 ID:iYUuQora0
祖母は居間に布団を敷いて寝転がっていた。気分が悪く、階段を
昇れないのだと言う。

足腰は弱っていたが寝室が二階にある為に律儀に毎晩階段の上り下りを
していた祖母が居間で寝ている光景は少し異常だった。

祖母の枕元にはタイガーバームという軟膏が置かれている。祖母の
お気に入りで、蚊に刺された時でも蜂に刺された時でも、怪我をした時でも
とにかく祖母はその軟膏を塗っていた。

小さい声で祖母は背中にそれを塗って欲しいと私に頼んだ。

祖母の肌を見るのはもう何十年ぶりか。老人の皮膚とはここまで衰えるもの
かと思ったがそれ以上に驚いたのは、祖母の背中にも背骨に沿って、赤い
デキモノが並んでいたのだ。それも綺麗な直線だった。真っ直ぐ並んでいる。

寝ていて痛いのだと言う。私はタイガーバームをそのデキモノ一つ一つにそっと
塗ってやった。全部でデキモノは九つあった。

しばらく寝転がっている祖母と話していると、だいぶ気分がよくなったのか、茶を
求めた。祖母の家のことはある程度知っている。私は湯を沸かして茶をたててやった。

祖母が落ち着いたところで、私は自分の背中を彼女に見せた。

「ずいぶんキレイにまっすぐ並んでいるよ。あたしと同じだね。九つもある」

と祖母は言った。


つづく
429本当にあった怖い名無し:2006/09/14(木) 22:48:33 ID:iYUuQora0
タイガーバームを孫である私の背中のデキモノに塗りながら祖母は言った。

「おまい、最近何か悪いことでもしていないかい?」

特にした覚えはない。しかし何となく気味が悪かった。私は彼女の話を全て
信じるわけではないが、祖母は色々と勘のはたらく人だった。

戦時中も私の住んでいる町の周辺には大規模な飛行機工場があり、米軍の
爆撃があったようだが、祖母はその勘のおかげで何度も命拾いをしていると
よく語っていたし、偶然だとは思うが夫である祖父の死を彼女は確かに予言
していた。

私の幼い頃だったがよく覚えている。祖母は言ったのだ。

「もうおじいちゃんとは最後だから、みんなで一緒に旅行に行こうね」

そして祖父と祖母と、私と、父、母、叔父で神奈川県へ旅行に行ったのだ。

楽しかった。祖母は祖父の前でも構わず『最後』と繰り返していた。そう告げられる
祖父の心中は今や知る由もないが、優しかったが特に何かプレゼントをしてくれた
ことのない祖父がその時だけは、かわいいヌイグルミを買ってくれた。

そして旅行から帰って三日後、祖父は亡くなった。特に病気も何もなく、元気で
『昼寝をするね』といって眠ったまま起きなかった。

今でもそのヌイグルミは私が大切に持っている。


つづく
430本当にあった怖い名無し:2006/09/14(木) 23:02:11 ID:iYUuQora0
「これはね、私のじゃないよ。おまいのだよ」

祖母は言った。意味がよく分からなかったので訊ねた。

「うん。このオデキはね、悪いことをしたからできるんだよ。ただ悪い
ことをしたのは私じゃなくて、おまいなんだよ」

「それってどんな悪いことなの?」

「うん。これはね、人だとか仏さんじゃないよ。神さまだね。おまい、
神社で小便でもしたんだろ」

心当たりは全くない。しばらく話したが祖母が少し寝たいというので
帰ることにした。帰り際言われる。

「おまい、早いところ謝らないと面倒だよ。まぁ死にゃしないけどね」

完全に祖母は私を疑っているようだった。

帰って、日付が変わり、十三日の深夜、一話投下した。岡崎リョウコの話である。

そのまま眠り、十三日の朝に目覚めると、まとめサイトが見れなくなっていた。

そのことを書き込んだが他の者は見れると言う。結局一日つながらず、
>>413 と >>415 の書き込みをして、自分でもログを取っておこうと色々試行錯誤
した。

yahooやグーグルのキャッシュを漁り、またにくちゃんねるの過去ログ倉庫から自分の
書込みだけをまとめ、ある程度の収集はできた。


つづく
431本当にあった怖い名無し:2006/09/14(木) 23:15:25 ID:iYUuQora0
作業は明け方近くまで続いた。どうしても四十、四十四、四十八、四十九話
が見つからない。いずれも『四』が関係していて少し気味が悪く、疲れもあって
少し休むことにした。

今朝になり、今このスレッドに書き込んだ話をまとめて保存することにして
気付いた。

>>180 

その話。正直言う。ドーナツ池は実在する。社もあり、神社として名前もある。
地図にもきちんと載っている。ただ、『ドーナツ池』という名称は地元の人間に
しか通じない。逆にいえば私の地元で『ドーナツ池』と言えば誰もが知っている。

しかし池はごく浅く小さいもので、『ムネノリくん』のエピソードは全くの嘘だ。

あんな所で水死する者などいるはずもない。

しかし気になった。一応実在の神社をネタに使ってしまったのがマズいのかも
しれないと、一応お参りだけでもしておくかと原付にまたがった。しかしやはり
エンジンはかからなかった。

少々遠いが徒歩で向かう。ドーナツ池。子供の頃以来だった。四歩か五歩で
渡れる程度の橋を渡り、社へ。賽銭を投げて、謝罪するわけでもなく、ただ、
『使わせて頂きました』と心の中で呟いた。


つづく

432作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/14(木) 23:33:15 ID:iYUuQora0
懐かしくなって池の周りを散策した。深い林だったが切り開かれて
だいぶ狭くなっている。

と、林の中に石碑が見えた。記憶にはない。そういえば子供の頃は
池でザリガニ取りをして遊ぶばかりで、その奥の林には全く興味が
なかった。

石碑は恐らく慰霊碑だった。苔むしている上碑文の内容が難しく、
理解できなかったが『霊』だとか『祀る』という文字があったのでそう
判断した。碑の裏には数名の名が刻まれていたので、多分
ドーナツ池は直接関係なく、戦争か災害で亡くなった方を祀ったもの
ではなかろうか。

祖母は人や仏ではなく、神さまだ、と言ったが、偶然にせよ結局ネタと
して使ってしまったことに代わりはないので、御霊を慰めると共に、
やはり『偶然とはいえ使ってしまい申し訳ありませんでした』と詫びた。

書いている今、背中のデキモノはすっかり消えて、夕刻、祖母に電話を
したが元気になったそうだ。パソコンの調子もよくなった気がする。

まだ試していないが原付も回復していると思われる。

と、ここまで書くと、むくむくと沈んでいたキャラクター達が浮かび上がり、
次は俺を目立たせろ私を目立たせろと催促してくるのである。

詳しい事情は知らないが、今一度自宅にて御霊に黙祷を捧げたい。

合掌。


  終
433作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/14(木) 23:43:49 ID:iYUuQora0
今回はこのような話になってしまい申し訳ありませんでした。

実際書き始めた段階で全くキャラクターが動かず、書けず、
やむを得ず、今までを振り返るとともに、私自身の身に起こった
不思議な出来事を記すとともに、記すことで御霊の供養としました。

書き忘れましたがデキモノの数と、慰霊碑にあった亡くなられた方の
数は互いに九で同数でした。

偶然と考えるも、霊のなせる業と考えるも読者の方々にお任せ致します。

私自身、祟りめいたことには半信半疑ではありますが、御霊に対する慰霊の
思いに嘘偽りはございません。

デキモノは消え、パソコンの調子も戻ったことで、御霊の許可は頂けたと
判断致しますので、怖い!と思われた方は不謹慎だとは思わず思い切り
怖がってください。(笑)

何かあったら…さあ…知らない…。
434作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/15(金) 00:34:08 ID:OurzwY6k0
>>まとめ人 さま

今回の話、悪くないとは思うんだけど、引用引いちゃってるし、
まとめサイトに格納しなくていいです。

わがままいってゴメンね。
435本当にあった怖い名無し:2006/09/15(金) 18:44:01 ID:cz0d4ISM0
これ、実話ですか・・・不思議なこともあるものですね(((( ;゚Д゚)))
おばあちゃんが勘の鋭い人でよかったですね。
気づかずに無理やり続けてたら今頃・・・(゚∀。)アヒャ
436作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/15(金) 21:44:42 ID:OurzwY6k0
(すいません慢性胃炎持ちなのですが今日は腹痛がひどいです。途中でリタイア
しちゃったらごめんなさい…)

さて、ここらで怖い話でもするか。

長く続いたイラン・イラク戦争も停戦に至り、韓国ソウルで開催されたオリンピックも
終わった。


つづく
437本当にあった怖い名無し:2006/09/15(金) 21:49:03 ID:YJbxrSaQ0
無事で何よりでした。
フィクションの方もすごく面白かったですよ!
次回作にも期待デス。
438作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/15(金) 21:56:00 ID:OurzwY6k0
日本はバブル景気で、浮ついた雰囲気が漂っていた。

一九八〇年代の末である。

山形ツネコの自宅前には黒塗りの高級車が止まっていた。

降り立った初老の男はそのままツネコの家へと足を踏み入れた。
玄関ではツネコが三つ指をついて彼を出迎えた。

「ようこそいらっしゃいまし」

「いやいや今日は茶を頂きに参ったまで。どうか恐縮なさらず…」

男は客間に通され、ツネコは茶を立てた。

「…陛下の御容態はいかがですか?」

茶を差し出しながら、ツネコは訊ねた。男は渋い顔をした。

「余り、かんばしくないのですね…」

何も答えず、男は茶を一口すすった。彼はツネコの客であった。金を払い、
ツネコを抱いている。しかし今日のようにただ、彼女に会いにくるだけのことも
多かった。

恐らくは寄る年波に勝てず、精力も減退しているのだろう。その上に、大変に
ストレスのかかる仕事をしている。男はさる大臣だった。


つづく
439本当にあった怖い名無し:2006/09/15(金) 22:06:34 ID:2IUEK/fpO
昭和の終焉か…
440本当にあった怖い名無し:2006/09/15(金) 22:11:05 ID:YJbxrSaQ0
大臣、どうしちゃったの?
441作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/15(金) 22:12:14 ID:OurzwY6k0
他愛もない話がゆったりとした時間の中で続いた。

オリンピックのこと。世間を騒がす連続幼女誘拐事件のこと。

レースのカーテン越しに入ってくる秋の風が涼しい。

表の通りでは小学生たちが

「ファッミコンウォーズが出ぇるぞっ!」
「ファッミコンウォーズが出ぇるぞっ!」
「こっいつっはたっのしいシミュレーション!」
「こっいつっはたっのしいシミュレーション!」
「のめりこめ!」
「のめりこめ!」
「のめりこめ!」
「のめりこめ!」
「かーちゃんたっちにっは内緒だぞっ!」
「かーちゃんたっちにっは内緒だぞっ!」

とCMソングを真似て調子よく唄いながら走っていく。

大臣は口元を緩めて少しだけ微笑むと、スーツの内ポケットから
ハイライトの箱を取り出した。咥えると同時にツネコが気を利かせて
身を乗り出してカルティエのライターを差し出すのを遠慮するように
手で制して、男は自分のライターで火を着けた。


つづく


442本当にあった怖い名無し:2006/09/15(金) 22:17:39 ID:Lrj64+kY0
マッチのほうが昭和の香りがしていいな
443本当にあった怖い名無し:2006/09/15(金) 22:17:48 ID:YJbxrSaQ0
アタシも歌ってた、ソレ。

大臣が故・ファンファン大佐と重なるな…
ロマンスグレーがよく似合う、素敵な人だった…
444作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/15(金) 22:21:54 ID:OurzwY6k0
大きく煙を吐き出しながら大臣はぽつりと言った。

「ここにいるのが一番落ち着く…」

「畏れ入ります」

大臣には妻がいる。ここへ初めて訪れた頃、ツネコに惚れ、
求め、年甲斐もなく恋焦がれたものだが、ツネコにとっては、
客のそういった感情をいなすのも仕事の内だった。

今となってはそんな感情もなく、単に癒しを求めてやって来ている
自分に、男は今更ながらに気付いた。

「…それもその陰行流の技術の一つですか?」

ツネコは着物の袂で口を隠すようにして笑った。

「人を気持ちまで操るすべがあるなら…このような生活はしませんわ」

「…書の道具はありますか?」

「…書?」

「墨と筆と紙さえあれば」

ツネコは一度客間を出ると、自分の寝室から書道具を持ってきた。


つづく
445作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/15(金) 22:33:07 ID:OurzwY6k0
「余り、字は上手くないのですが」

と断り、大臣は自分で墨をすり、半紙に筆を滑らせた。

謙遜なのか達筆である。書きあがったそれは、賞状だった。

山形ツネコを、重要無形文化財として認める旨が記されていた。

「御冗談を」

そう言いながらもツネコは微笑んでうやうやしく、頂いた。

と、客間の襖が開いた。幼いアカネが立っていた。

「ねー、アンパンマンまだあ?」

「…これは大変な失礼を…これ、アカネ…」

「はは、いや構わないですよ。アカネちゃんおいで」

アカネは大臣の膝の上に座ったが煙草の煙が嫌だった。

「たばこやだなー」

そういうと立ち上がってさっさと客間を出て行った。

「ふられてしまいましたか…」

大臣は寂しそうに煙草を灰皿に押し付けた。


つづく
446作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/15(金) 22:42:10 ID:OurzwY6k0
玄関のドアを開け閉めする音がした。どうやらアカネが外へ
出て行ってしまったらしい。

退屈を嫌うアカネは最近ドアの鍵に手が届くようになって、一人、
勝手に出歩くことがある。

しかしまだ四歳だ。ツネコは心配したが客人の手前、それを表情に
出すわけにはいかなかった。

と、大臣は察したのか、そろそろ時間なので、と告げて立ち上がった。

「ごゆっくりなさればいいのに」

「いえ少し仕事がありましてね」

「残念ですわ」

「…これは今日のお茶代です」

そこそこ厚みのある封筒だった。ツネコは素直に受け取り、玄関まで
連れ立って、大臣が靴を履くのを見届けると深々と頭を下げた。

「またのおいでを、お待ちしております」

ドアが閉まりクルマが走り去る音を聞くと、草履を履いて表へ出た。

もうアカネはどこにもいなかった。


つづく
447作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/15(金) 22:52:24 ID:OurzwY6k0
アカネはとことこと歩いて、家から程近い公園に来ていた。

砂場が目当てだったが、砂場には既に誰かがいて、水道の水を
バケツに汲んではぶちまけて、泥団子を作ったり、溝を掘って
川を作ったりしていた。

アカネはいいなあと思いつつも、その仲間に入ることができなかった。
内気なのである。

どの遊具にも誰かしらがいる。唯一シーソーは空いていたが一人では
遊べない。

仕方がないのでベンチに向かった。そこには老人が一人座っていた。
内気ではあるが、中年以上であれば平気だった。特に、おじいちゃんや
おばあちゃんと呼べる年代の人には愛着がある。

アカネはてってと走って行った。

そんなアカネを見て老人はにこにこと笑っている。しかし、近づいたアカネは
老人の奇妙な点に気付き、足が止まった。

老人は斜視だった。幼いアカネにとっては、それは何か怖いものに見えた。

それに気付いた老人はさらに笑って、おいでおいでと手を振る。

ゆっくりと警戒しながらアカネは近づいた。


つづく
448作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/15(金) 22:57:30 ID:OurzwY6k0
「おじいちゃん、おめめどうしたの?」

「これはね、薮睨みと言うんだよ」

「やぶ?」

「そう。やぶにらみ」

「やぶにやい…お病気?」

「んん…そうだねぇ。お病気かな」

「痛いの?」

「いいや。痛くないよ。大丈夫だよ」

アカネは老人の隣に座った。

「お嬢ちゃんはみんなと遊ばないの?」

「だってみんな知らない人だもん」

「そうかそうか。知らない人は苦手か」

「うん。ちょっとこわい」

「そうかそうか」

優しく老人は笑った。


つづく
449作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/15(金) 23:02:19 ID:OurzwY6k0
「でも、お砂場で遊びたかったなー」

「ふぅん。砂場が好きなのかい」

「あのね、お山作ってトンネルにするんだよ」

「そうかそうか」

「やりたかったなー」

「砂場を自分で作ればいいよ」

「え?」

「自分で作るんだよ。砂場を」

そうかと思い、アカネはちょこんとベンチから飛び降りると、持ってきた
玩具のスコップで公園の地面を掘り始めた。しかし地面は固く、プラスチックの
スコップでは全く歯が立たない。

「だめだって」

「うん。それじゃ砂場はできないね」

だんだんアカネはいらいらしてきた。やっぱり帰ろうとすると、アカネは砂場にいた。

「ん?」


つづく
450作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/15(金) 23:09:07 ID:OurzwY6k0
「砂場はこうやって作る」

顔中皺だらけにして老人は笑った。アカネは混乱している。
いつの間にかベンチの前が砂場になったのだ。

向こうにも砂場が見える。男の子たちが泥遊びをしている。

公園に砂場は一つしかないはずだった。

試しにスコップをあてがうと、さくりと砂は簡単に掘れた。

「お砂場!」

薮睨みの老人が見守る中、アカネはスコップを使い手を使い、
できるだけ大きい山をこしらえた。手で堅く固めて、トンネルを
掘る。見事にそれは開通した。

「ほら!」

「うん。よくできたねぇ。トンネルだ。すごいなぁ」

「おじいちゃんも何か作ってよー」

「んー?何がいいかな?」

「んと…象さん」

「象か…象…象…」


つづく
451本当にあった怖い名無し:2006/09/15(金) 23:13:40 ID:YJbxrSaQ0
続きが見たい!
老人怖い!なんかゾワゾワする。
『薮睨み』って初めて聞いた…
博学な人だなぁ〜。
452作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/15(金) 23:16:21 ID:OurzwY6k0
老人がぶつぶつと呟いてばかりで動かないので、アカネは
この人は象を知らないのだと思った。

「あのね、象ってね、大きくてね、お鼻が長くってね、お耳も大きいの」

「ほら、できたよ」

「ん?」

老人がアカネの背後を指差すので振り返るとそこには、リアルな象が
既に出来上がっていた。

「向こうから見てごらんよ」

言われるまま砂場の向こうに回りこむと、大きい象に隠れて何と子象まで
いる。

「すげー!お兄ちゃんとアカネだ!」

「そうかい。アカネちゃんっていうのかい。お兄ちゃんがいるの?」

「いるよー。でも今お仕事行ってる」

「お仕事?お兄ちゃんはもう働いてるいるのかな?」

『働く』という言葉の意味がアカネには分からなかった。


つづく
453作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/15(金) 23:23:31 ID:OurzwY6k0
うんうん考えていると老人は言い直した。

「お兄ちゃんは、もう大人の人かい?」

「あーうん。もう大きいんだよ!」

「そうかいそうかい」

アカネは象を感心して眺めている。その技術性の高さは幼いアカネにも
分かった。手も触れず、こんなものをどう作ったのか。まさに象そのもの。
ちょうど砂のグレーと象のグレーも似ていて、ぞうっとするほど象だった。
失礼。

そこへ声が聞こえた。アカネを呼ぶ声だった。そちらの方を向くと着物の
女性が立っている。ツネコだった。

「あ、ママだ」

「おやおや。迎えに来てくれたんだねぇ」

じっと母の姿を見ている。ツネコは小走りに向かってきた。そうだママにこの
象を見せよう。きっとびっくりするよ。

「アカネ!駄目でしょ!勝手に外に出ちゃ!」

怒られているが全くの無視である。それより象を見せたい気持ちが強かった。


つづく
454作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/15(金) 23:31:41 ID:OurzwY6k0
「ねぇママ見て!アカネとねぇ、お兄ちゃんの象なんだよ!」

指差す先に象はなく、それどころか自分が作った山も、砂場自体が
消えていた。

ベンチに老人が一人座っているばかりである。

「あれー!?」

「あれーじゃないでしょ!ほらアンパンマン始まるって!」

「あのねぇ、あのおじいちゃんがね、象作ってくれたの」

何を言ってるのかわけが分からないがとにかくどうも何か老人に世話に
なったらしいことを感じ、ツネコは老人に礼を述べた。

「いやいやいい退屈しのぎができました…あまり怒らないでやって下さい…。
ね。アカネちゃん。遊びたかったんだよね」

「うん」

「本当にすいません。失礼致します…」

頭を下げ下げ去っていく歳の随分と離れた親子を老人は笑顔で見送った。


つづく
455本当にあった怖い名無し:2006/09/15(金) 23:32:28 ID:YJbxrSaQ0
アカネちゃんに見えてるものは、
現実?幻??
…ママには見える?
456作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/15(金) 23:45:40 ID:OurzwY6k0
その後二十年近く経った今に至るも続くアニメ、『アンパンマン』の記念すべき
第一回放送を見て、しばらくすると新米教師のユウジロウが帰宅。

夕食の席でもアカネは今日の出来事をとにかく繰り返した。

「でね、おじいちゃんがね、やぶにやいでね」

「何だヤブニヤイってのは?」

「ん?目がね、変なドラえもんみたいなの」

「はぁ?」

少し解説を要する。アカネがいう『変なドラえもん』とは、ネズミなどを見て、
少々おかしくなってしまった時のドラえもんのことだ。時に目が星になったり、
クエスチョンマークになったりするが、目が斜視のように、あちらこちらに
なることがある。アカネはそれを伝えたかったのだが、ユウジロウやツネコに
その真意が伝わるはずもない。

「それでね。砂場ができてね、お山を作ってね、トンネルを掘ったの」

「うんうん」

「そしたら象ができたんだよ!」

「へー」

意味が分からないので関心の持ちようがなかった。しかし、巷を騒がせている
幼女誘拐事件もあって、少しユウジロウは心配だった。


つづく
457作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/15(金) 23:54:17 ID:OurzwY6k0
その後もアカネの『脱走』は続いた。目的地は勿論件の公園である。

いつも薮睨みの老人はいた。

そしてアカネは母に発見され、連れ戻されるまで老人からレクチャーを
受けた。

「いいかい。アカネちゃん。想像力ってわかるかい?わからないかな」

「うん」

「思い出すんだよ。頭の中に絵を書く。目を閉じてね」


もうツネコも諦めていた。いつもアカネが行く場所は決まっている。公園だ。
そして同じ老人と一緒にいる。悪い人ではなさそうだが、何か異様な雰囲気を
持っていることが気がかりだった。

アカネも老人と一緒にいた後は一日中妙なことを言う。たまにはっきりと彼女は
言った。

「イメージはやがて現実になる」

意味が分かっていっているふうではなかったが、子供のいう言葉ではない。
何か妙なことを教え込まれているらしいがアカネは至って楽しそうだし、何度か
もうその老人と会っては駄目だと告げたが、隙を見ては出て行ってしまう。


つづく
458作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/16(土) 00:05:15 ID:mHHZgOZ90
そしてその時は来た。

アカネは老人からの教えでやり方を完全に覚えていた。ただ
成功には至っていない。しかし老人の言う、『頭の中に絵を書く』ことに
慣れ始めていた。

もう公園に行かずともどこででも練習することができた。そして遂に
彼女は頭の中に完璧なイメージを持つことに成功した。

目を閉じ、その闇の中に像を結ぶ。強く。強く。そしてそっと目を開ける。
光の中にもそのイメージは残っていた。確かに見える。そう、ここまでは
何度か上手くいっていた。

問題は次のステップだった。そのイメージを完璧に保つこと。その空間に、
想像したイメージそのものを『設置』する。その瞬間、イメージは自分を
離れ、そこに存在可能となる。

当然ながら好きなものの方がやりやすい。そのことに気付いたアカネは
その日一番好きなものを頭に思い描いた。

それは、当時活躍していた第六十二代横綱、大乃国だった。

あのグラマラスな肉体。その肉に思い切りうずもってみたいとアカネは
常々思っていた。

しかも名前も覚えやすくていい。オーノクニ。

ああ、オーノクニ。オーノクニの肉体を今ここに!


つづく
459作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/16(土) 00:14:56 ID:mHHZgOZ90
暗闇に浮かぶ大乃国。目を開ける。そこに大乃国がいた。

やっぱり(・∀・)イイ!! あの肉!あの腹!

イメージの設置。間違いなく大乃国はそこにいる!

そのイメージを残したままアカネは一度部屋の外に出た。
そしてゆっくり部屋のドアを開けると、そこにはやはり大乃国がいた。

「オーノクニ!」

子供の頃、布団に入り、眠りに入る際などに何となく頭の中で音楽を
流しているうち、実際に遠くからその音楽が聞こえてくるような感覚に
襲われたことはないだろうか。そしてその音楽の再生は自分が次の
メロディを思い出すまでもなく、止まらずに流れ続ける。

その視覚版である。もう自分でイメージすることなくオーノクニは存在し
動き始める。

大乃国はにこにこと笑っている。その肉に顔を埋める。

(;゚∀゚)=3 

意外に固い。しかしその弾力。正に肉布団。ああオーノクニ…。

どれだけ強くぶつかっても大乃国は動じない。何と男せらしいことか。
これが横綱か。しかもぶつかっても痛くない。


つづく
460作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/16(土) 00:23:42 ID:mHHZgOZ90
隣の部屋を使っているユウジロウはいらついていた。

何をどしんばたんとやっているのだ。

当時はいじめや不良の問題が社会現象化しており、まだ経験の浅い
ユウジロウも頭を悩ませ、大変なストレスを受けていたのである。

いい加減我慢ならずと隣の部屋のドアを開けた。

「お、お、お、お、大乃国!!」

ツネコの客かとも思ったがいくらなんでもマワシ姿はないだろう。

しかもアカネが横綱の腹目掛けてびたんびたんと体当たりを仕掛けている。

「何やってんだアカネ!」

「オーノクニ!オーノクニ!」

慌てて階下に下り、テレビを見ているツネコに言う。

「母さん、大乃国が!」

信じられるわけがない。しかしツネコは引っ張られてアカネの部屋へ連れ込まれた。
しかしそこにもう大乃国はいなかった。

「あなた、ちょっとストレスでおかしくなってるんじゃないの?」

文句を言いながらツネコは居間に戻って行った。


つづく
461作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/16(土) 00:31:10 ID:mHHZgOZ90
ユウジロウはアカネを問い詰めた。そしてその秘密を知る。

「ソンナコトガ、デキルノカ!」

無理矢理アカネを引っ張って自分の部屋に連れ込むと、
南野陽子が出演しているテレビ番組のビデオを見せた。

「アカネ、このお姉ちゃんをイメージするのだ!さぁやれ!」

「うーん」

確かに現れたが、どうもブスだった。

「ちょっと違うぞ。よく覚えるんだアカネ頑張れ!」

「うーん…」

そしてついに南野陽子は現れた。

「キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!」

アカネを追い出し、人気絶頂のアイドル、ナンノちゃんにユウジロウが
挑む!

しかし服が肉体と一体化している。服の脱がしようがない。失敗である。


つづく
462作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/16(土) 00:36:01 ID:mHHZgOZ90
もう一度アカネを呼び戻す。

「いいかアカネ。顔はさっきのお姉ちゃんでいいから裸にしてくれ」

「うーん…裸ってどんな裸?」

当然といえば当然だがアカネは若い女性の裸体を知らないから
イメージのしようがない。

仕方がないので見慣れている母の裸体に南野陽子の顔、という
イメージを召還したが何か変だった。四十にそろそろ手が届くとは
いえ見事なプロポーションを保っているツネコであるが、やはり何か
違う。

少々ためらったが、ユウジロウはエロビデオをアカネに見せた。

「ねーこれ何やってるのー?」

「いいからお姉ちゃんだけ見るんだ!」

「見たよー」

「よしじゃあさっきのお姉ちゃんの顔に、今のお姉ちゃんの身体を
くっつけるんだ!」

「うーん…」


つづく
463作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/16(土) 00:54:33 ID:mHHZgOZ90
できたが下腹部がモザイクになっていてどうしようもない。

やむを得ず裏ビデオを見せた。

「ねーお兄ちゃんこれ何してるのー?」

「いいから気にするな!よく見ろ!目に焼き付けるんだ!」

「もう疲れたよー」

「いいからやるんだ!頑張れ!」

「ちょいとあんたたち何をギャーギャー…」

母ツネコが見たのは、嫌がる四歳の妹に無理矢理無修正ビデオを
見せつけるユウジロウの姿だった。

翌日、ユウジロウは母の手によって強制的に精神病院へ連れて行かれた。


つづく
464作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/16(土) 01:03:57 ID:mHHZgOZ90
一人留守番するアカネは公園へ向かった。師匠である薮睨みの老人に、
成功報告をするつもりだった。

しかしそこに老人の姿はなかった。


世は平成となり、その能力もアカネにとっては当たり前となって、『いつでも
できるからいいや』と思っているうちに忘れ去られ、ある日ふと思い出して
実行してみたが、できなくなっていた。


二十年近い月日が立ち、アカネは散歩ついでに何となくその公園に立ち寄った。
寂れていた。こんなに狭かっただろうか。子供一人いない。

ただ、朽ち掛けたベンチの前には、砂でできた親子の象があった。

アカネは何となく空を見上げた。秋の空は高く、うろこ雲が広がっていた。


  終
465作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/16(土) 01:15:37 ID:mHHZgOZ90
たくさん合いの手ありがとでした。

ファンファン大佐ってかなり懐かしい…。はじめマドラス(マドロス?)大佐でしたよね。
オカダマスミさんがCMやってた靴のメーカー名そのまま使っちゃった。

スポンサーでも何でもないのに。そしたらCMでは渋いイメージだったから、
企業イメージ崩れるからやめてってクレームついてファンファン大佐に…。

確かそんなエピソードがあった気が…。チビノリダーもすっかり俳優さんですね。

何で今はあんな番組になってしまったのだろう…。食わず嫌い王とかどうでもいいし。
細かいモノマネとかもっとやってほすぃ…。


あとマッチ。はじめはそう思ったんだけど昭和っていっても平成の一年前の世界で
大臣がマッチもないだろうと。そんな理由でライターになりました。昭和40年代とか
ならマッチにしたかった!

まとめレスになっちゃってごめんです。読んでくれてありがとでした^^
466本当にあった怖い名無し:2006/09/16(土) 01:26:01 ID:/aTpAagO0
お疲れ様でした〜m(__)m
今回はエロありでしたね(笑)
たしか『うる星やつら』に似たような話があったなって
懐かしくなりました。
でもアレはラムちゃんの発明品で、イメージしながら
ガムを膨らますと風船の中に具現化するっていう…(笑)

自分にもできたら、
絶対山本太郎(メロリンQ)をイメージするのに(~0~)
467作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/16(土) 02:19:21 ID:mHHZgOZ90
>>466
すっごいちょっとだけどね(笑)>エロ

うーん…やっぱイメージを具現化って安易といえば安易…
アイデアそのものは結構あるでしょうね。

何かホラー映画でもあった気がする。殺人鬼が実はみんなが抱いてる
恐怖のイメージが具現化したモンスターだった、みたいな。

でもなんで山本太郎さんなの?ファンなのかな。。

ってかメロリンQって懐かし過ぎ。今来た加藤とか…なぜかドスコイ同好会が
好きだった。何組かデビューしたけど結局残ったのは山本さんだけですね。
しかも俳優として…。インペリアルとか、LLブラザーズとか…どこかで踊って
るのかな…。

あー元気が出るテレビなんでビデオ撮っておかなかったんだろう…

しつこい高田とか早朝バズーカとか見たいなぁ…。あと指パッチンやりまくるやつ。
それから大仏魂。あー100人隊も。「津波だあぁぁぁぁぁ!」って。

ってか無駄話しすぎ。ごめん。
468本当にあった怖い名無し:2006/09/16(土) 14:26:09 ID:u3UqmUTk0
まとめサイトで全話読ませて頂きました。単語の選び方、文章の構成、
ストーリー、全てにおいて無料で読める質を超えているように感じました。
プロデビューしてみてはいかがですか。すでにされている方が趣味の範囲で
書かれているのでしょうか。段取りを考えていないと書かれておりますが、
前準備なしでこれだけの様々なジャンルの短編を毎日書ける才能に感服致し
ました。笑える話、泣ける話、恐ろしい話、いずれも素晴らしくまた、魅力的
な登場人物の描写においてはプロの世界でも十指に入ると見受けました。いずれ
文壇に上がられ戦える日を楽しみにしております。
469本当にあった怖い名無し:2006/09/16(土) 15:22:13 ID:2mteWFpbO
>戦える日を(ry
既にプロ作家のような語り口。もしや…?
470本当にあった怖い名無し:2006/09/16(土) 19:34:29 ID:N+OPogZK0
第六十三夜 走馬灯
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1156690689/231
人は死ぬ直前に走馬灯のように過去を思い出すのだそうですが、
山形先生も多分に漏れず人と同様だったようですね。
ただ彼の場合は、極日常の生活の中に織り交ぜて思い出されていたのがとても面白いと思いました。
人間の一番強い思い出とは当たり前の日常、毎日の繰り返しなのかも知れません。

第六十四夜 混沌の地
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1156690689/254
非常に現実味の深いお話でした。
実際、猟奇的な事件を起こした犯罪者の胸のうちってこういうものかもしれません。
自分の置かれている現実の世界を見つめることができず、
自らが作り出した世界の住人となって正しい世界を導こうとする。
マユミちゃんも混沌とした世界を、自分が存在できる世界へ正そうとしていただけなのでしょう。

第六十五夜 真偽
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1156690689/280
考えてみると、ユウジロウはトオルが、犯した女をホームレスに与えていたことを知っていたのですね。
もし、ユウジロウがもっと早くに手を打てたら、マユミちゃんが凶行に走ることも無かったのでは?
と思ってしまいました。
それにしても新キャラのリュウジ。最高です。
中二にしてこの判断力と行動力。この先も山形ワールドをかき回してくれそうです。
ユウジロウともいいコンビみたいだし。
471本当にあった怖い名無し:2006/09/16(土) 19:34:59 ID:N+OPogZK0
第六十六夜 冥い部屋
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1156690689/310
良かれと思ってやったこと、自分の信念を曲げずに行ったことが却って仇になることはよくあります。
確かに前赴任先での出来事は教頭先生が引き金になってしまったかもしれませんが、
その震央にあるのは彼が行ったことに全て委ねられたものではなかったはずです。
それだけに教頭先生は「教育の方向性」を譲っても、「自分の供養は済んでいる」という信念は決して曲げておりません。
その芯の強さを以って今日も一人部屋で佇む、いつの日か「背後の男」を消し去るために。

第六十七夜 適者生存
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1156690689/326
イイハナシダナ。・゚・(ノД`)・゚・。…
新聞委員最高ですね。シーア派の武装問題から近所のマツタケ泥棒までスクープするとは。
しかも、マトモなシュウイチとリュウジ、マサトの会話はコントのようです。
自分に無いものに惹かれる気持ちは確かにありますが、
得体の知れないものに憧れるシュウイチの気持ち自体がサバイバルな気がします。
十四歳にして掘られたシュウイチはその後どうなってしまうのでしょうか…

第六十八夜 真白
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1156690689/351
中学生の淡い恋物語と思いきや、しっかりオカルト風味に染まっておりました。
これは素直にケンサクがマユを想っているのか、マユに取り付いた魔物が置き土産としていったのか。
いずれにしろケンサクの歪んだ胸のうちはとても純真なものであり、
それゆえ未だにマユが住み着いているのかもしれないと感じたので、何のようなタイトルを付けてみました。
この先ケンサクの病んだ心を解きほぐす者は現れるのでしょうか。
472本当にあった怖い名無し:2006/09/16(土) 19:39:14 ID:N+OPogZK0
第六十九夜 美草
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1156690689/374
美草とは古語で、ススキや萱などをそう呼んだそうです。
なにかトオル、サエ、アカネの散歩道に群生しているような感じがしましたので。
それと同時に自分の置かれた立場を理解し受け入れながらも、
何かもの悲しさ、虚しさを感じているアカネと薄野原の風景が重なるように見えます。
いずれにせよ、一時の切なさも兄ユウジロウがいれば乗り越えられるアカネではないでしょうか。

第七十夜 君影
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1156690689/398
鳥肌の立つような怖さが感じられました。
実際、こういう霊や呪いや、また殺意等及ばない人間の内面から出る恐ろしさというのは何にも勝る気がいたします。
果たして、この男子児童は中学の3年間どのように過ごしているのでしょうか。
ただ只管にリョウコだけを想い続け影を追っているのでしょうか。
リョウコが受験する高校が分かったのは、この箱の髪の毛のせいかもしれませんね。

第七十一夜 幸御魂
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1156690689/436
幸御魂(さきみたま)とは人に幸福を与える神様の魂のことです。
藪睨みの老人が神様かは分かりませんが、
素直で無邪気なアカネをみて何か幸せな気分になったのかもしれません。
それで、彼女にほんのちょっぴり幸福を得る術を与えたのではないでしょうか。
それゆえ、邪念と煩悩に満ち溢れたユウジロウの願いは叶う事も無かったのでしょう。
しかしながら精神病院へ強制連行するツネコ、ヒドスwww
473本当にあった怖い名無し:2006/09/16(土) 23:25:05 ID:mHHZgOZ90
さてここらで怖い話でもするか。

鬼塚ケンシロウ。五十八歳。

童貞。


つづく
474本当にあった怖い名無し:2006/09/16(土) 23:32:18 ID:MvbW5lMVO
キタ―――――(゚∀゚)―――――!!
(電車男w)
475本当にあった怖い名無し:2006/09/16(土) 23:35:24 ID:mHHZgOZ90
無論独身。彼は校内をさすらっていた。

それぞれの教室からは教師の声や、生徒のざわつきが漏れ聞こえてくる。

いずれの教室の引き戸もぴたりと閉められ、大勢の人間の気配はすれど、
廊下は当然無人だ。それは少し奇妙な印象を残す。

ロレックスに似てはいるが、ノーブランドの金色の腕時計を見ると、もうじき
三時間目が終わる頃であった。

彼は軽い腹痛を覚えた。やはり朝に食べた卵がいけなかったらしい。

今日三度目のトイレ。普段であれば教職用のトイレを利用するのだが、
間に合いそうにない。休み時間までには何とかなるだろうと生徒用の
トイレに入った。

個室のドアを開け、尻を出すと便座に腰を降ろす。

腹痛はしつこかった。さて終わったと、立ち上がろうとすると、どうもまだ
腹部に違和感を感じ、再び便座へ。

そんなことをしているうちに、三時間目の終了を告げるチャイムが鳴った。

途端に賑やかになる。生徒が廊下へ出てきたのだ。勿論一部の生徒は
トイレへとやってくる。

鬼塚ケンシロウ、出るに出られず。


つづく
476本当にあった怖い名無し:2006/09/16(土) 23:44:09 ID:mHHZgOZ90
軽子沢中学のトイレの個室は、誰も入っていなければ開いた状態に
なっている。利用者は個室内に入り、ドアを閉め、かんぬきをかける。

つまりは、閉まっていれば、それは利用者がいることを意味する。

「おい誰かウンコしてるぜ」

一つ、扉が閉まっていることに気付いた生徒が言った。ケンシロウは
焦った。

「いいじゃんか。クソぐらい誰だってするだろ。小学生じゃねぇんだから
放っておいてやれよ」

もう一人の生徒が言った。そのまま二人は小便器で用を足し始めた。

「しかしあのバーコード…」

「うん。思い切って切ったらしい。上つるつるだぜ」

「カトちゃんだよカトちゃん」

「波平?」

「一本だけ残しておくべきだったな!」

二人は爆笑した。


つづく
477作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/16(土) 23:57:31 ID:mHHZgOZ90
ほっとしたのも束の間、鬼塚ケンシロウは拳を握り締めた。

『バーコード』それは彼のあだ名であった。無論頭髪のことを指して
つけられたニックネームだ。

ある日偶然彼は聞いてしまった。自分が『バーコード』と呼ばれている
ことを。

そして彼は決意したのだ。無駄な抵抗をやめ、毛髪の残っている両サイドを
残して、女々しい『バーコードヘア』を卒業しようと。

月代のような頭になった。額から後頭部近くまで見事に頭皮が露出している。

しかしこれでもう『バーコード』呼ばわりはないだろうと思ったが、今度は
『カトちゃん』だの『波平』と来た。

「知ってるか?まだ独身なんだぜ」

「知ってる知ってる。しかもアパートらしいぜ。家」

「マジで?」

「軽子沢の恥だな」

「ひっでぇ!言い過ぎ!」

そのまま生徒らはケンシロウの悪口を叩きながらトイレを出て行った。


つづく
478本当にあった怖い名無し:2006/09/17(日) 00:14:40 ID:VbVv9h4c0
四時間目が始まるのを待って、ケンシロウはトイレを出た。

何故私ばかりがこの様な目に合わなければならないのか!
独身!童貞!それどころか同性の生徒にまで!

彼はそのまま校舎を抜け出して、校舎の周りを見て回った。
単なる時間つぶしである。動いていないと、先ほどの怒りが
込み上げてきそうだった。

うろうろしているうちに、昼休みが近づいた。ケンシロウは職員用の
通用門から表へ出ると、学校側のパン屋、『アンジェロラッシュ』に
向かった。

腹痛は治まっている。カツサンドに野菜サンド、カレーパンに、
ミニチョコクロワッサンをトレイに乗せてレジカウンターへ。

まだ若いアルバイトの女性が愛想よく笑いながら、いつもありがとう
ございますと会計をしてくれた。そこで牛乳も追加で注文する。

彼女の笑顔を見るだけで癒される気がした。店長の趣味なのか、
何故か働いている娘はみな愛想がよく、可愛らしい。ケンシロウは
嫌なことがあるとここで昼食を購入することに決めていた。

学校へ戻るとまだ昼休みまでは五分ほどあったが、構わず彼は屋上へ
昇り、晴れ渡った秋空の下、紙製の牛乳パックにストローを刺し、パンを
食べ始めた。


つづく
479作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/17(日) 00:26:26 ID:VbVv9h4c0
調子に乗って少し買い過ぎたか、食べるのに時間を要した。

下を見ると、既に早くも昼食を済ませた生徒たちが校庭に出て、
何やら遊んでいる姿が見える。

ケンシロウは屋上の手すり際に立って、満腹の腹をさすりながら
その光景を見ていた。

そこへ、天文部員の男子生徒がやってきた。読みかけの漫画雑誌を
昨日の部活の際、部室に置き忘れ、それを取りに来たのである。

軽子沢中学の屋上には天文台があり、その下が天文部の部室となっていた。
(第四話 『天体観測』 参照)

と、そこにあったのはケンシロウの姿である。彼の背中が見えた。

何をしているのだろう。校庭を見下ろしながら、手を動かしている。 体の一部を
こすっている。

『…オナニー…!』

天文部員は漫画雑誌を諦め、慌てて、しかし音を立てないように、そっと下へ
降りていった。

教室に戻るなり彼は友人たちに今見た光景を言いふらした。

「おい!校長が屋上でシコってるぞ!」


つづく
480本当にあった怖い名無し:2006/09/17(日) 00:29:08 ID:2nj1nA8GO
バロスwww
481本当にあった怖い名無し:2006/09/17(日) 00:33:04 ID:oFbFzkiVO
校長wwwwww
482本当にあった怖い名無し:2006/09/17(日) 00:38:48 ID:VbVv9h4c0
噂は瞬く間に広がる。同時にもう一つの噂も同時進行していた。

逆に校庭から屋上を見上げ、そこに、鬼塚校長の姿を見た生徒も
いたのである。

「カトちゃんが自殺しようとしてた!」

「ガ━━(゚Д゚;)━━━ン!!!!!」

やがて二つの噂は合流し交じり合い、滅茶苦茶な方向へ進み始める。

『屋上から精子をバラまいた』

『死ぬ前にせめてオナニーをしようと思い立ったが出なかったので断念した』

『屋上の手すりにイチモツをこすりつけていたから手すりフェチ』

その噂は新聞委員所属、編集部員長野シュウイチの耳にも届いていた。

しかし相手は校長である。記事にしていいものか。さすがに校内新聞で
校長の変態行為を暴露するのはまずいのではないか。

クラブハウス。編集室にて、的場リュウジへ相談。彼はセブンスターを
一本、ゆっくり吸い終えるまで結論を出せずにいた。しかし答えは出た。

「…単なるゴシップだ…証拠がない…」

とりあえず校内新聞への掲載は回避された。


つづく
483本当にあった怖い名無し:2006/09/17(日) 00:45:58 ID:VbVv9h4c0
しかし事件が起こる。西棟三階の掲示板に、

『グレートオナニーオニヅカ』

と、でかでかと書かれた張り紙がなされたのである。

更にそういった、面白いもの、楽しいことに対する青少年の頭の回転は
想像を絶した。

『グレートオナニーオニヅカ』

から頭文字を取って、

『GOO』

とし、更にそれをインターネット検索サイト『goo』と絡めて、鬼塚校長に
対し、

『検索エンジン』

なる名称が与えられ、更に『検索エンジン』は『検索猿人』となり、そこから

『サルはオナニーを覚えると死ぬまで続ける』

という伝承を絡めて、

『校長はオナニーを絶えず続けないと死んでしまう』

との結論に至る。


つづく
484本当にあった怖い名無し:2006/09/17(日) 00:56:16 ID:VbVv9h4c0
更に二つの噂が合流する以前の、『校長が自殺しようとしていた』という
証言からは

『自殺志願校長』

というニックネームが生まれた。ニックネームとしては不完全だが、その
響きは子供向け特撮番組の悪役の名のようで一部で絶大な人気を得た。

更に、真実を語れば、そのオナニー事件の際、校庭には男子、女子が
入り乱れていたのだが、いつの間にか『男子しかいなかった』と証言が
変わり、それが先の

『死ぬ前にせめてオナニーをしようと思い立ったが出なかったので断念した』

と結合。

『校長はホモ』

との結論から

『変態ホモハゲ=HHH』

が誕生する。

その上、その校長の変態行動に同調、共感した男子生徒ら数名が、

『HHH団』 を結成。別名

『自殺志願校長親衛隊=JSK親衛隊』である。


つづく
485本当にあった怖い名無し:2006/09/17(日) 01:06:56 ID:VbVv9h4c0
第二の事件が起きた。

『HHH団』による屋上の不法占拠、『イチモツ丸出し事件』である。

校内の治安を取り締まる風紀委員会の強行突入によりこの校内テロは
終結するが、『HHH団』メンバーは

「そのままシコるつもりだった」

「校長先生のように立派な人になりたかった」

と、あくまで校長の後追いであったことを主張。校内の最高権力者である
鬼塚校長の名を出されたらそれ以上の追求もすることができず、厳重注意、
『HHH団』の解散のみの宣告となる。

更に、ジャンケンの罰ゲームとして、鬼塚ケンシロウに対し、

「本当にオナニーを続けないと死ぬんですか?」

と聞くゲームが三年生によって計画され、当初は冗談のつもりであったが、
ジャンケンに負けた一人の生徒がそれを実行に移してしまう。

しかしよりによって校長は、余りの突然の質問に狼狽し、

「だ、誰からそれを聞いたんだ!」

と言ってしまったことで火に油が注がれた。

軽子沢中学大炎上である。


つづく
486本当にあった怖い名無し:2006/09/17(日) 01:20:25 ID:VbVv9h4c0
臨時学級委員会(生徒会に相当)が開催され、とにかく問題を
解決する方向で話が進む。とにかくこれ以上校長の権威を
失墜させるわけにはいかなかった。

学級委員会は校長に対し、釈明会見を開くことを要求することを
決定。しかし誰もそれを校長に告げられず、

「これは校内風紀の問題であるから風紀委員が解決すべきである」

と風紀委員に全ての面倒ごとをたらい回しにした。

困惑したのは風紀委員会である。しかし学級委員会からの指令と
あれば動かざるを得ない。

校長室に押しかけた風紀委員会員たちは校長に釈明を求めた。

「な、なんで私がそんなことを釈明しなければならんのだ!」

「しかし校長本人が釈明する以外解決手段はなし、と学級委員会は
見ています。現在校内は非常事態下にあります」

確かに非常事態である。徳島教頭には二十数名の署名が書かれた
『オナニー部』の設立願いが届いた。調べた結果全て実在しない生徒
であり、悪質な悪戯であることが判明したが、男子を中心に、『オナニー』、
『ホモ』、『ハゲ』、という単語が大ブームとなっていた。

特に女性教師に対する生徒からのセクハラ行為は激しく、福岡ユウコを
中心にかなりの精神的ダメージを受けていた。


つづく
487本当にあった怖い名無し:2006/09/17(日) 01:20:36 ID:lGN9kqz2O
炎上wwwww
488本当にあった怖い名無し:2006/09/17(日) 01:27:54 ID:tYnEIpAd0
鬼塚から検索猿人までの流れがすげぇなwww
このネタまで考えて鬼塚って苗字ができたのか気になる所だ。

筒井康隆っぽい破天荒さ
最高www
489本当にあった怖い名無し:2006/09/17(日) 01:29:36 ID:VbVv9h4c0
生徒側には『校長が…』という免罪符がある。

そろそろ嫌気のさしてきた女子が親に訴え、教育委員会を
動かす懸念もあった。

そして運命の日。校長は全校集会において釈明演説を行った。

「私のことを、ハゲや、オナニー中毒者とする者がいるようですが、
事実無根であります。私が誤解を与えるような行動を取ったことに
ついてはお詫び致します」

オナニー中毒者は確かに事実無根かもしれないがハゲは明白な
事実だった。

「証拠を示して下さい校長!」

カメラ片手に叫んだのは的場リュウジだった。ここまで騒ぎが大きく
なればシュウイチにばかり任せてもいられない。

「しょ…証拠と言われても…」

「全ては校長が独身であること。また、まだ女性経験がないことが
そもそも噂の原因ではないでしょうか?」

的場の追求は厳しく、結局校長は、全校生徒の前、深々と頭を下げ、

「もうオナニーは金輪際致しません!」

と誓ったのである。


つづく
490本当にあった怖い名無し:2006/09/17(日) 01:30:36 ID:cJhKyvMZ0
青少年の頭の回転すごすぎwwwwwwwww
491本当にあった怖い名無し:2006/09/17(日) 01:33:10 ID:DCXzSx6J0
国会議員の釈明演説よりすごいわな・・ケンシロウ頑張れww
492本当にあった怖い名無し:2006/09/17(日) 01:41:23 ID:lGN9kqz2O
ケ…ケンシロウタン…(´;ω;`)ブアッ
493本当にあった怖い名無し:2006/09/17(日) 01:45:09 ID:VbVv9h4c0
翌日発行された校内新聞の一面トップは、アルカイダの幹部が、
アメリカ国内で逮捕された事件についてだったが、下に小さく、

『校長、涙のオナニー卒業』

と見出しのついた写真つきの記事が載った。写真は頭を下げる
校長の哀れな姿である。

一面に小さいとはいえ校内の記事が掲載されるのは異例の事態である。


一方、鬼塚ケンシロウは悩んでいた。オナニーを禁じられてしまった。

無論、自宅でする分には構わないと思うが、気になる存在がいる。的場
リュウジだ。

『千里眼』とも『スネーク』とも呼ばれる彼の目がどこで光っているか
分からない。自宅とはいえ安心はできなかった。

鬼塚ケンシロウの自宅はワンルームのアパートだった。ただ立地もよく、
十二畳の広さがあり、トイレとバスルームも別。

いつかは結婚してマイホームを持とうと、貯金を重ね、普段はつつましい
生活をしているのだ。おかげで貯金は三千万ほど貯まっている。

しかし完全に婚期を逃していた。


つづく
494本当にあった怖い名無し:2006/09/17(日) 01:48:35 ID:M3Vp9nnn0
三千万・・・・。俺の貯金は三万円・・・
495本当にあった怖い名無し:2006/09/17(日) 01:53:03 ID:VbVv9h4c0
禁じられればしたくなるのは人の常で、鬼塚ケンシロウの性欲は
昂ぶりを見せた。

しかし釈明会見の翌日にいきなりオナニーをするのはマズい。

と、ふと思い立った。ゴミ箱を漁る。そこにはデリバリーヘルスの
チラシがあった。

「こ…これだ!」

オナニーは禁じられているが性交そのものは禁じられていない。
要するに相手がいればいいのだ。童貞脱出のいい機会でもある。

とにかく電話してみよう。

ケンシロウは受話器を上げると震える指でチラシにある番号を
プッシュした。

呼び出し音がするかしないかのタイミングでつながる。

「はいーもしもしこちら、デリヘル、ニュー天国で〜す!」

妙にテンションの高い男が相手だった。ケンシロウはそのまま電話を
切ろうかとも思ったが勇気を振り絞った。

「あ、あの、初めて…なんですけど」

「はいっ!ありがとうございま〜す!初めてのお客様ということで、当店の
システムの方、御説明させて頂きま〜すっ!」


つづく
496本当にあった怖い名無し:2006/09/17(日) 01:54:50 ID:2nj1nA8GO
(*゚∀゚)=3ハァハァ
497本当にあった怖い名無し:2006/09/17(日) 02:04:21 ID:VbVv9h4c0
慣れた口調。まるでテープが再生されるようにやや早口で男は
店のシステムを説明した。

特に難しいことはない。住所を告げればそこへ女性がやってくる。
気に入ればその女性に金を払い、事を遂げる。ただ気にいらない
女性が来た場合は、『チェンジで』と告げれば、その女性は帰り、
別の女性が来る。ただその際の交通費だけは取られる。そういった
システムだった。

好みの女性のタイプを聞かれたので、答える。なるべく若くて、
細身で、美人タイプ。髪はロングで、一見真面目そうに見える
タイプが良い、と告げた。

「は〜いっ!かしこまりました!では、伺うまでお待ちください!」

少し失礼に感じるほど一方的に電話は切られた。

鬼塚ケンシロウ、緊張の面持ち。先にシャワーでも浴びておいた方が
いいのだろうか。お茶の用意でもしておいた方がいいのか。一体どんな
娘が来るのだろう。しかし何度でもチェンジできるというのが『ニュー天国』
のサービスらしい。

童貞を捧げるのだ。何度でも気に入る女性が現れるまで何度でもチェンジ
してやろうとケンシロウは心に決めた。

シャワーを浴び、湯を沸かすがまだ、初体験の相手は現れない。


つづく

498作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/17(日) 02:12:12 ID:VbVv9h4c0
カーテンを開け、窓の外を眺める。クルマでくるのだろうか。

しかしアパートは大きな通りに面していて、どのクルマが
どれやら分からない。

と、空に光るものがあった。

「流れ星…」

流れる光に年甲斐もなくケンシロウは祈った。

『どうかいい初体験ができますように…』

閉じていた目を開けると既に光はなかった。と、ドアチャイムが鳴った。

瞬間的に身なりを確認する。部屋着だがどこかおかしいところはないだろうか。
大丈夫だ。歳はいっているがそういう客の相手をすることもあるだろう。

しかしこの歳でやり方が分からないというのも恥ずかしいな。聞いても大丈夫
だろうか。いやこちらは客なのだ自信を持て。聞かぬは一時の恥。

ケンシロウは玄関に向かうと、ドアチェーンと鍵を開け、エスコートするように
ドアを開けてやった。


つづく
499本当にあった怖い名無し:2006/09/17(日) 02:14:45 ID:lGN9kqz2O
ドキドキ(*・ω・)
500作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/17(日) 02:19:36 ID:VbVv9h4c0
そこに立っていたのはかなり強烈なヤツだった。

言うなれば、『ポンキッキ』のガチャピンの相棒、ムック。

その赤く太い体毛が全てミミズのような生物。

「デタ━━(゚Д゚;)━━━!!!!!」

ムックが迫る!鬼塚ケンシロウは叫んだ!

「チェンジチェンジ!チェェェェェェェェンジ!!」

その声は近所中に響き渡る!

しかし抵抗虚しく、校長は。ムックに…。


その響き渡った絶叫を、たまたま近所に住んでいたある軽子沢中学生徒が
聞いていた。

翌日、やつれ、疲れ果てた様子の鬼塚校長のニックネームは、

『チェンジマン』

に変わっていた。


  終
501作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/17(日) 02:30:59 ID:VbVv9h4c0
いやー今日はいいライヴだった。合いの手たくさんありがとう。

しかし多分今の記憶は明日にはない(笑)

読んでくれたみんなもお疲れ様でした!
502本当にあった怖い名無し:2006/09/17(日) 02:44:38 ID:lGN9kqz2O
いつぞやのUFOが校長の願いを叶えに来たんですねー!
今回の話で一気に校長ファンになってしまったw
ケンシロウタン萌え〜(´Д`*)
503本当にあった怖い名無し:2006/09/17(日) 03:07:09 ID:Ulv5zc5DO
噂が広がる展開はまさにオカルト…
504作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/17(日) 03:24:00 ID:VbVv9h4c0
>>502
遂に生まれましたね(笑) こんな校長だったとは…。
自分でもちょっとびっくり。名前が異常にカッコイイのが
ポイントですかね。


>>503
おーすごい。そこ見てもらえたのは嬉しいなぁ。

途中で『軽子沢中学大炎上』と書いたけど、元々のコンセプトは
ブログとかの『炎上』だったんです。ちょっとした誤解が拡大して
大変なことになってしまうという。

結局校長は何も悪いことをしてないのに、大恥をかいた上に、
謝罪までさせられ、更に身の自由さえ奪われる。

面白おかしく書いてはありますが、その辺の怖さも感じてもらえた
のはうれしいですね。ありがとです^^


ところで全くユウジロウの名前すら出てこないのって実は初めて…?
505作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/17(日) 03:35:55 ID:VbVv9h4c0
>>498
>聞かぬは一時の恥。

ごめん酔ってた。大間違い。

○聞くは一時の恥

だね。


まとめ人さんもし余裕あったら修正願います。ごめんね。
506本当にあった怖い名無し:2006/09/17(日) 14:39:54 ID:Mv8k9Yhi0
最後にムックがくるとはwwww

月代ってなに?って思ってググってみました。
さかやきって読むんですね。時代劇とか見ないもので・・・勉強になりましたw
507作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/17(日) 18:32:09 ID:VbVv9h4c0
>>506
薮睨み(ヤブニラミ。=一般に言うロンパリ)とか、月代(つきしろ、さかやき=オデコから頭上
にかけて、髪を剃ること。チョンマゲ頭の、上に乗ってるマゲ本体がない状態)とか、なんか
古い日本語って風情があって好きなんですよね。(かと言って古典とかに詳しいわけでは
ないです。。低学歴ですから^^;; 時代物の映画で仕入れた知識程度なので…)

なんかロンパリって響きにちょっと品がない気がするんです。それよりヤブニラミといった方が
何となく風情がある。

容疑者とか犯人っていうより下手人(げしゅにん)って言ってほしい気がするし、総理大臣じゃなくて
将軍、政府じゃなくて幕府がいい(笑)

なんかアメリカの大統領と、日本の総理が同じスーツで会談なんかすると見劣りするじゃ
ないですか。なんか。いっそのこと袴姿で行くべきですよ。それだけで迫力が違う気が
します。国際会議なんかでもインドの方なんかは民族衣装で参加してますもんね。

ビビると思うんだけどなぁ。アメリカの方にも侍のイメージってあるわけでしょ。向こうの人も
喜ぶ気がします。(注:とはいえ私は国粋主義者ではありません)

ググってくれて嬉しいです。「なんだそりゃ?」で済ませず、自分で調べて、「へー!」って思って
もらいたい部分もあるんです。そうすると忘れませんからね。

ところでいつも不思議なのがチョンマゲです。あれってドラマで見るとカツラで出来合いのモノ
ですからいいんですけど、本来は、言うなれば『頭の上を剃って、後ろ髪だけ伸ばし、
ポニーテールにして、それを頭の上に乗っけてる』髪型ですよね?

アレって戦ったり、馬に乗って走ってる時とか、頭に乗ってるポニーテールの部分はどうなるん
でしょうか。何かで固定されてるのかな…貼ってあるとか…。頭のてっぺんの髪はないから、
ヘアビンのようなもので止めることもできないし…。結局乗ってるマゲの部分が後ろにポロッと
こぼれて、今で言うミッキーカーチスのひどいのみたいな状態(上ハゲポニーテール)になる
気がするんだよなぁ…意味分かる?
508本当にあった怖い名無し:2006/09/17(日) 18:51:39 ID:gUT4ZWRd0
自分が観た映画では、後ろで結んだりそのまま流してるのがデフォでした。
509作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/17(日) 19:44:14 ID:VbVv9h4c0
>>508
おーそれはかなり本格的なチョンマゲ映画ですなー。
あー良質な時代劇(新作)が見たい…。

さいとうたかをの『影狩り』なんてドラマにしたら面白そうなのになぁ。
あれって映像化されてないよなーって調べてみたら、されてたされてた。
俺の生まれる前に。しかも主人公は…

石原ユウジロウ…

…今日のネタでも考えるか…。ふぅ…(ちなみにユウジロウのモデルは
石原氏ではありません)
510本当にあった怖い名無し:2006/09/17(日) 20:00:12 ID:lGN9kqz2O
ユウジロウのモデルが石原裕次郎ならえらいカッコヨスギだよなぁ…w
というかもう最強?www変態だけれどw
511本当にあった怖い名無し:2006/09/17(日) 20:10:06 ID:tYnEIpAd0
第七十二夜 独歩
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1156690689/473
正しく噂の一人歩き状態ですね。まぁ人に疑いを掛けられなくば、誤解されるような行動は慎めと。
身を挺した反面教師ですかw
それまで単なる風説が広まっていたのに対し、最後のオチだけは事実だったという対比が面白いです。
しかしながらパン屋「アンジェロラッシュ」。
すっげぇスピードでパン生地こねていそうです、しかも妙に変態的な手つきでw
それにしても、「大丈夫かこの学校?」と心配になってしまいました。
512作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/17(日) 21:00:51 ID:VbVv9h4c0
>>511
『アンジェロラッシュ』にまで食いつくの!?絶対分からないと思ったのに!
すご過ぎ…。

雑談になっちゃうけどもついでに申し上げると、マイケルアンジェロという、
もう上手いんだか単に目立ちたいのか分からないようなギタリストがおりまして、
その人の独特のテクニックの一つなんですね。

想像して下さい。ギター弾いてる人の左手です。ネック(弦の張ってある棒状の
部分)を握って、指は上を向いてますよね?アンジェロラッシュ状態に入ると、
一度ネックから手を離し、ネック上側から指を下向きになるように被せて、
弦を押さえ、更に離して普通の状態に戻し…を超高速で繰り返すという、むしろ
奏法というよりかくし芸的な弾き方のことです。

日本でも真似をする人はいますが…有名な人がテレビでやっているのを見たのは
野村義男(ヨッチャン)ぐらいだったかなぁ…練習すると似たようなことはできるんだけど
本家アンジェロさんのスピードはちょっとすごい。でもスコアの上では別になんて
ことないんだろうなぁ…『ここはアンジェロラッシュで』みたいな指示が書いてあるの
だろうかwww 詳しく知りたい方はグーグルで。何か見つかるかもです。
513作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/17(日) 23:47:15 ID:VbVv9h4c0
さてここらで怖い話でもするか。

偶然というものは時として恐ろしいものである。
地元から電車で一時間の繁華街。何万人という人間がひしめく中で
二人は出会った。


つづく
514作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/17(日) 23:59:35 ID:VbVv9h4c0
「…あれ?木下先輩ですよね?」

「…?おー!カエデ!」

巨大なターミナル駅で二人は偶然出会った。木下サエと雪野カエデ。
元軽子沢中学オカルト同好会のメンバーである。

サエはDOSCHとロゴの入った袋を提げている。一方カエデは、大型書店の
紙袋を小脇に抱えていた。

いずれにせよ帰る電車は同じである。二人連れ立って人ごみの駅構内を歩いた。

「カエデは何しに来たの?」

「スコアと教本、買ってきたんです」

「スコア?」

「楽譜ですよ」

「あぁ。吹奏楽部だもんね。あたしは適当にぶらぶらして…ドスチー寄って…」

「ドスチーって…エロ可愛い系の?」

「そうそう」

「霧原先輩喜んじゃいますね」

「霧原はだめだよ。なんか普通のお姉さんっぽいカッコが好きみたい」


つづく
515作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/18(月) 00:09:53 ID:F3J/yZSC0
「そうなんですか?」

「なんか聞いたら霧原、お姉さん亡くしてるみたいなんだよね。
だからかも。シスコンってやつ?普通のニットとかさ」

「へー…じゃあ先輩のセクシービームも効きませんね」

「セクシービームって古くない?」

「そうですか?でも先輩はセクシーですよ」

「もうちょっと顔がキレイだったらね。リョウコみたいに」

「えー!先輩も充分美人ですよぉ」

「なんかさぁ、鏡見る度にウツ入るんだよねぇ。なんかサムライみたいな
顔じゃない?」

「…そうですかね…」

否定はしたがカエデは心の中で少しだけ納得してしまった。確かに新撰組の
沖田総司や、佐々木小次郎といった、創作の上では美剣士とされる役を芝居で
やらせたら似合いそうだ。

だが美しいことに代わりはない。男性でも美しい顔つきの者は何処となく女性的な
雰囲気を持ち、女性でも美しい者はどこか男性的な印象を漂わせる。

結局美しい人と言うのは中性的な魅力を持つのではないかとカエデは思った。


つづく
516作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/18(月) 00:27:15 ID:F3J/yZSC0
切符を買い、JRに乗り、何駅かで私鉄に乗り換える。この電車に
四十分程揺られれば地元に到着する。

二十時の電車は混んでいた。仕事帰りの勤め人たちである。週の
頭のせいか一様に疲れ、くたびれた様子だ。その中で、中学生の
二人はいささか異質な存在だった。

この駅が始発駅なので、二人は座る気になれば座れたが立っていた。
何となく自分の父親や母親と同世代のサラリーマンやOLが疲れた表情を
浮かべているのを見ると、悠々と自分たちが座る気にはなれない。

発車まではまだ数分ある。

雪野カエデは一年生だったが、三年生のサエやリョウコ、アヤの近況は
よく知っていた。だから今更あれやこれや聞くこともない。学校の昼休みや
放課後、見掛ける度に話しかけては色々と聞いている。

「何買ったんですか?」

「ジャケット。デニム地のもあったんだけど…なんかGジャンっぽくてさー。
結局白いのにしたんだよね…」

何となく後悔しているような様子だった。

「気に入らなかったんですか?」

思ったことはすぐ口に出す。カエデの悪い癖とも言えたが、さっぱりした性格の
サエにとっては彼女のその無遠慮が好きな部分でもあった。やはり本音はいい。


つづく
517作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/18(月) 00:33:32 ID:F3J/yZSC0
「んー。ミートソースとか絶対食べれないって感じ」

「あー白っていつの間にか何かついてますよね!」

「そうそう。特にあたし、いい加減だからさぁ…」

「知ってます?カラムーチョってシミになるんですよ!」

「マジで?」

「ベッドの上でカラムーチョ食べてたらいつの間にかこぼしたみたいで」

「うん」

「気付いたらシーツに赤いみたいに黄色いみたいな変な色のシミがついて」

「へー…結構お菓子って指の色変わったりするもんね。ハッピーターンとか」

「ハッピーターン?」

「知らないの?」

「知りません」

「えー!信じらんない!食べた後、指についた粉舐めるとめっちゃ美味!」

「へー…かわいい名前ですね。ハッピーターン。メルアドにしようかな?」

「ハッピーターンアットマークドコモ?変だよー!」


つづく
518作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/18(月) 00:46:36 ID:F3J/yZSC0
電車が滑るように走り始めた。車内で喋っているのはカエデとサエの
二人きり。あとは溜息やあくびの音、時折咳払いの音が聞こえるばかり
だった。

急行電車である。四十分はかかるが、三つ目に止まる駅が二人の最寄駅
である。

駅に止まる度、かなりの人数が乗り込んでくる。たちまち車内は満員となり、
お互い購入した物を守る姿勢に入った。

「結構混む時間なんだね」

「…そうですね」

実は雪野カエデ、身長が百五十センチもない。完全に人に埋もっている。
かなり苦しそうだ。

「…大丈夫?」

「…はい…慣れてますから…」

顎を上に上げてはあはあと息をしている。一方でサエの身長は百七十を
超えていた。面倒見のいいサエは何とかしてあげたかったがどうすることも
できない。まさか抱き上げることもできまい。

とりあえず、カエデの背後のわずかなスペースに無理矢理入り込み、吊革を
しっかりとつかんでカエデ用のスペースを作ってやった。


つづく
519作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/18(月) 00:56:09 ID:F3J/yZSC0
「大丈夫?」

「すいません…。楽になりました」

それでもサエの背中にはかなりの圧力がかかっている。吊革を握る手にも
力が入った。サラリーマンやOLはこんな状況を一日に二度も体験している
のか。何と大変なことだろう。将来のことはまともに考えていないが、このまま
いけばOLになり、この満員の電車に揺られる羽目になるのだ。仕事で疲れた
上に。アヤのように夢を追うのもある意味正解かも知れない。

「大変だね。働いてる人たちって」

「…そういえば先輩、高校どうするんですか?」

「そりゃ行くよ。行くけど無理はしないつもり。受験対策みたいのも
してないんだ…。ただ今の学力で行ける所に行ければいいやって感じで…」

「宝塚とか行ってみたらいいのに」

「ちょっとあんたそれ、トラウマなんだけど…」

「あ、すいません…」

「いいけどさ…なんで男顔に生まれたんだろう…」

「でもキレイですよ」

「女に言われても嬉しかないよ」


つづく
520本当にあった怖い名無し:2006/09/18(月) 01:05:03 ID:Pd1NicQYO
キテタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!
521作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/18(月) 01:06:07 ID:F3J/yZSC0
また駅に着いた。降りる者は少なく、乗り込んで来るものは多い。

サエはカエデを守ろうと必死だった。喋る余裕も次第になくなってくる。

と、突然カエデがサエの手を強く握った。

「え?何?」

しかしカエデは振り向かない。彼女が苦しくないように、背後に回って
いるので表情も分からない。ただ、だらりと下ろしていた左手をカエデが
握ってくる。

まさか同性愛ということもないだろう。サエは手を握られるまま、じっと
していた。


一方、カエデの顔は紅潮していた。誰かが尻を触り、スカートの中に、
手を突っ込んでいるのだ。始めはサエの悪戯かと思った。しかし違う。
その手は明らかに男の骨張った手だった。

下着の上から陰部を触れようとするが、カエデは必死で足を閉じた。

しかしそれでも一本の指が太ももの間からねじ込まれ、陰部を探り始める。

「ぁ…」

小さくカエデは喘いだ。そのまま男の指はぐりぐりととにかく足を広げさせようと
必死に動いた。アカネにはどうすることもできない。しかし背後にいるサエが
少しでも視線を下ろしてくれれば見えるはずだ。


つづく
522作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/18(月) 01:16:22 ID:F3J/yZSC0
カエデがもじもじと下半身をくねらせていることに気付いたサエは何となく
視線を下に下げた。そこには、カエデのスカートの中へと入り込む細い
腕があった。

痴漢である。サエはその腕をつかむと、カエデのスカートの中から引きずり
出し、そのまま男の手首を強く握っていた。

時折、男の手は抵抗を見せたが、サエは決してそれを離そうとはしなかった。

やがて最寄り駅に着き、サエは男の手首を引いて電車の外に出た。勿論カエデも
一緒だ。

「あんた、この子のお尻触ってたでしょ?」

何か陰気で、痩せた男は何も答えなかった。しかしカエデに聞くと、確かに尻を散々
撫で回され、下着の上からではあるが、女性自身を責められたらしい。

プラットホームにいた駅員に男を突き出す。

「この人、痴漢です」

痴漢の冤罪事件も増えている。駅員の対応は冷静だった。直接被害にあったカエデから
話を聞き、納得した上で男にも質問をぶつけた。

「この女の子は貴方に触られたと言っていますが、本当ですか?」

男は妙な唸り声を上げた。度々力を入れて、逃走を試みるがサエの手が手首をしっかり
握っている。


つづく
523作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/18(月) 01:24:46 ID:F3J/yZSC0
「…触られんのが嫌なら…電車なんか乗んなよ…」

口の中で男はぶつぶつと呟いている。

「何か言いましたか?」

「う…せ…最後…楽しま…」

「一番線に電車が参ります。危険ですので黄色い線の内側まで…」

「何をいってるんですか?」

ただでさえ小さい男の言葉は駅の構内放送にかき消されてはっきりしない。
と、いきなり男は自分の懐に手を突っ込み、何かを素早く取り出した。

サエは本能的に男の手首から手を離した。何かがかすめる。

同時に男は逃げた。しかし逃げた方向には、相対するホームに向かう階段も
なければ、改札口もない。男はホーム先端に向けて逃げた。

駅員とサエが追う。いずれにせよ逃げ場はない。

電車が入ってきた。

男は、線路に向かって、身を投げた。

唯一の逃げ場。絶対に追われることのない別世界へ。男は逃げた。


つづく
524作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/18(月) 01:37:09 ID:F3J/yZSC0
カエデが遅れてやって来た。

「来るな!あっち行ってな!」

サエは叫んだ。スピードを落としていたとはいえ、ホームに進入
してきた電車に男は激突し、線路に落下。そのまま硬く冷たい鉄の
車輪に轢断され、無残に死んだ。

そこへ現れたのは的場リュウジである。どれだけの取材能力か。
彼は事故現場の写真を、ニコンで撮りまくっている。

一体何処で誰から聞きつけやって来たのか全く分からない。まだ警察に
さえ連絡していない。

気付けば、サエの手。男の手首をつかんでいた手の甲からはかなりの
出血があった。

警察と救急車が呼ばれ、動ける状態であったがサエは病院に搬送。
カエデも付き添った。

サエは病院で傷口を縫われ、その日はそのまま自宅に帰された。

事情を説明したが、心配されるどころか受験前の大事な時にと両親からは
叱られ、ふてくされてそのまま寝ることにした。

カエデを恨むわけではないが、せっかく買ったDOSCHを身体に合わせる
気にもなれない。風呂にも入らず、サエはベッドに潜り込んだ。


つづく
525作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/18(月) 01:45:03 ID:F3J/yZSC0
どれ程時間が経ったか。サエは目を覚ました。

何か音がする。

ばしばしと何かを叩く音。何だろう。うるさいな。

もう一度眠ろうとするが音はやまない。

彼女は電灯を着けた。同時に音は消えた。窓の方から音は聞こえた。
泥棒か変質者か。少し恐ろしかったが隣の部屋には両親がいる。

何かあっても叫べばすぐに親が駆けつけてくれるはずだ。

サエはカーテンを開けた。

そこにあったのは手形だった。無数の手形。赤い。

血にまみれた手で窓を外から叩いたような。しかしここは二階だ。ベランダも
ない窓に人の手形などつきはずもない。

思い出されるのは、死んだ痴漢。祟り。呪い。

馬鹿な。悪いのは向こうだ。痴漢をしたのもアイツだし、電車に飛び込んだのも
勝手にアイツがしたことだ。あたしは悪くない。

強い信念がサエにはあった。しかしその無数の手形には妙な点があった。

いずれも指が四本しかなく、親指がないのだ。


つづく
526作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/18(月) 01:56:29 ID:F3J/yZSC0
翌日、クラブハウス。最も校門寄りの部屋を木下サエは訪ねた。やはり
昨日の事件が気になっていた。カエデも誘うつもりだったがショックが
大きいのか今日は休んでいるらしい。ドアをノックする。

「どうぞ」

「…失礼します…」

煙草臭い部屋だった。的場リュウジが一人パソコンに向かって原稿を
打ち込んでいる。咥え煙草だ。

「的場くん…」

「…先輩に対して申し訳ないが、仕事の話をしに来る時は『編集長』と呼んでくれ」

「…あ、ごめん。編集長…さん…」

「何だ?」

後輩ではあるが見た目はどう見ても二十台半ば。さすがのサエもその迫力には
気おされる。

「昨日の電車の事故だけど…」

「あぁ。詳しい内容は入ってるよ。ただ校内新聞に載せるまでもない。単なる自殺だ」

「何か変わったことはない?」

「ホームに入る為スピードを落とした電車に轢かれ為、ガイシャ(被害者)の遺体損傷は
それほど激しいものではなかった。ほとんどのパーツは見つかった…」

つづく
527作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/18(月) 02:10:18 ID:F3J/yZSC0
「轢断された左腕、左手にはナイフが握られていた」

「ナイフ…?」

「カミラス社製のマリーンコンバットナイフだ。米軍海兵隊にも愛用された。
ナイフマニアならば持っている者も多いだろうな。胴体からはシースも
見つかっている」

「シース…?」

「ナイフを入れる為の鞘のことだ。普段から持ち歩いていたんだろう。無論
銃刀法違反だ。マリーンコンバットの刃渡りは十八センチ近い。あんたの手を
切ったのもそれだよ」

縫われたばかりの傷口をサエはじっと見た。リュウジは取材用のメモをめくり、
書きなぐられた汚い字を追いながら付け加えた。

「あと男の右手、親指が今だ発見できてないそうだ。もっとも細かいものだから、
これ以上捜索されることもないだろうが…」

親指が見つかっていない。昨夜、窓に残された手形。それにも親指がなかった。

サエはその理不尽に怒りを覚えた。何故あたしがこんな目に合わなければ
ならないのだ。何も悪いことをしていないのに!

リュウジに礼を言うと、クラブハウスを出、そのまま自宅に帰った。


つづく
528作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/18(月) 02:24:49 ID:F3J/yZSC0
自室。窓には親指のない無数の手形が残っている。

無性に腹が立ったサエは、手の届きにくい窓の外側を雑巾で必死に
拭き、手形を全て消した。

少し気分がよくなった。それにしても今晩も来るのだろうか。カエデは
大丈夫か。

電話をしてみたがカエデは無事なようだ。ただショックで寝込んでいるが、
明日にでも通学すると言う。

一息ついて、凝った首を回すとDOSCHの袋があった。そうだ。買ったんだっけ。
ちょっと着てみよう。袋から出して羽織ってみる。サイズはいい。ジャケットだが、
ウエストの辺りがくびれていて、スマートに見える。いい買い物をした、と思ったが、
一部、汚れていた。何かシミがついている。なんだろう。

チョコレートがついてしまったようなシミだ。買ったばかりで何もしていない。これは
返品しないとと、たたんで袋にもう一度入れようとしたが袋に何か入っていた。

なんだろうと思い袋をひっくり返してみると、そこから転がり出てきた物は。

あの時。男がナイフを抜いて、とっさに自分が手を引いたとき、男の手は残って
いたのである。サエの手の甲も浅く傷つけたが、男は自分で自分をもっと深刻に
傷つけていた。男の手を握っていたサエの手の手首にはDOSCHの袋が
提げられていた。男のナイフが薙いだ刹那、偶然それは袋に落ちたのだ。

DOSCHの袋から出てきたもの。それは男の親指だった。


  終
529本当にあった怖い名無し:2006/09/18(月) 14:19:08 ID:RJDOEolfO
((((((;゚Д゚))))))

うわー!これはキツイ…。
サエは心が強そうだから大丈夫そうだけれど、
カエデや、もし「自分」が同じ目にあってたとしたら…トラウマ確定orz
530本当にあった怖い名無し:2006/09/18(月) 17:41:59 ID:rnGw0/jPO
昔ね…。とあるコンビニのおにぎりにおばちゃんの指が入ってたんだよ。
製造工場で作ってる時に間違って切断してそのまま混入したんだ。
ロー〇ンかセ〇ンイレブンのどっちかだったな。
531作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/18(月) 18:01:39 ID:F3J/yZSC0
>>530
ローソンだった。そんなに昔?既に2ちゃんねるはあったなぁ…。でも
若い人にとっては『昔』か…。指まるまる一本ってわけじゃなくて、肉片だったと
記憶。

当時のローソンのCMが『週刊ロ〜ソン♪うー!』とかって毎週変わるCMを放映していた
のを覚えています。

2ちゃんねるでそのCMを真似た、『ローソンの指肉入りおにぎり!』みたいなコピペ
が出回った気がするが記憶違いか。

その後も、残留農薬が基準値を超えたホウレンソウを使ってしまったり、同じホウレンソウを
ジョナサンだったかな。ファミリーレストランも使っていたり…。

雪印事件の影響か、何かと『異物混入』というのがマスコミで取り上げられてましたね。
その中でも衝撃的事件の一つでした。

確か食べてしまったのは女性だった気がするのですが、彼女は現在コンビニのおにぎりを
購入することはあるのでしょうか…。
532作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/18(月) 18:30:57 ID:F3J/yZSC0
>>529
前後したけど感想ありがとう。オチがバレバレだったかなぁと思ったんだけど
いかがでしたか。

なるべく最後袋から指が出てきてビックリ!みたいに気を使って書いたのだけど、
『きちんと状況を説明しないと気が済まない』性格のせいで、>>528 の途中あたりで
気付く人多そうだなぁ。

やっぱり文章でも驚かす為には突然に急降下爆撃的な書き方をせんといかんなぁ…。

それまでにこっそり自然に、バレないようにきちんと状況を説明した上で、最後に驚かす。
そういう構成ができるようになりたいな。まだまだ修行が足りません。精進せねば。
533本当にあった怖い名無し:2006/09/18(月) 18:33:24 ID:RJDOEolfO
トラウマになって買えない気が…。
ローソンじゃないけれど、某コンビニのサンドイッチ生産ラインにいたことがあります。
そこは衛生管理がかなりしっかりしていたけれど、
そういう問題じゃなくて、もうサンドイッチ買う気になれません。
数か月の短期バイトだったけれど一生分のサンドイッチを食べた気がする。
(当時、社販でかなりやすく買えた)
このバイトしてからパン自体殆ど食べなくなりました。
スレ違いスイマセン。
534本当にあった怖い名無し:2006/09/18(月) 18:37:01 ID:RJDOEolfO
あ、作者さんのレスが^^;
>>533>>531に対してのレスでした〜m(__)m
535作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/19(火) 00:15:33 ID:RcXJqryM0
ごめん。ちょっとしばらく休ませて。

明日には書ける気がするけど約束できない。

ごめんね。なんか色々考えることがあって集中できないんだ…。

だめだな…激しく自己嫌悪…。

もし待っててくれた人いたら申し訳ない。
536本当にあった怖い名無し:2006/09/19(火) 12:49:19 ID:j/GAefJ9O
じらされるのも、また、一興ですなw
537本当にあった怖い名無し:2006/09/19(火) 15:30:59 ID:n0hUnb5Y0
>>535

全然OKですよ〜。そもそも毎日ってのがすごいし、
たまには休暇を取って下さいよ!

爆笑話また待ってますw
538作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/19(火) 17:45:59 ID:RcXJqryM0
>>536
>>537

お…おまいら…(;´д⊂ヽ ありがとう。ありがとう。
ちょっと待っててな。面白いの書くから。今も頭は回転してる。
少し不調なだけだから。
539作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/19(火) 23:09:08 ID:RcXJqryM0
さてここらで怖い話でもするか。

都内某所。二十時。
中学校教師、山形ユウジロウは見慣れぬ駅舎にとまどっていた。


つづく
540本当にあった怖い名無し:2006/09/19(火) 23:14:16 ID:hcN3O5G6O
開いた瞬間ktkr!(゚∀゚)
541作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/19(火) 23:23:43 ID:RcXJqryM0
大きな人の流れから反れて、駅の外へ。

そこは唐突な別世界であり、ユウジロウにとっては現世界だった。

ほとんど何も変わらない。十年前のまま。振り返ると、妙に新しく、
清潔そうで、きらびやかな駅舎が、かえって異様に見えた。

駅前のコンビニエンスストアだけが煌然としていて、あとはそれほど
変わりはない。

それなりに人通りはあるが、何処か寂しい。

よれたスーツ姿の男たちに混じって歩く。

美味そうな匂いがする。赤い提灯。暗い看板。踏み潰された吸殻。

ポリバケツの上の猫。

ユウジロウはラッキーストライクに火をつけた。

次第に人はまばらになり、そこに低い看板があった。

酔っ払いに蹴り破られたのか、表面は破れて、中の蛍光灯が剥き出しに
なっている。

裏側に回ると、『スナック あざみ』 とあった。


つづく
542本当にあった怖い名無し:2006/09/19(火) 23:31:51 ID:j/GAefJ9O
ライブキテール━━━(゚∀゚)━━━!!!!
が、今日は眠い…
作者さん、明日読ませてもらいます。
543作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/19(火) 23:35:23 ID:RcXJqryM0
板チョコをそのまま大きくしたような木製の扉を開けると、
カウンターの向こうに、和装の女が一人、座っていた。

客はいない。棚にはボトルの一本もなかった。

ひどく暗い。ユウジロウは一度歯噛みをして、眉間にしわを寄せると、
一番奥の椅子に腰を降ろした。

「もう店仕舞いかい」

「…久しぶりね…」

「申し訳ない」

カウンターには埃が積もっている。

「来るのが遅かったかな」

「遅すぎよ」

店主らしき女は言った。

「そのまま、いてくれよ」

一言告げて、店を出たユウジロウは、駅前まで戻り、コンビニエンスストアで
ポケットボトルのウイスキーと、冷えた缶ビールを二本、そしてマイルドセブンを
買って、再び店に戻った。

「待たせた」


つづく
544作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/19(火) 23:43:13 ID:RcXJqryM0
缶ビールを一本開けて、女に手渡す。マイルドセブンも渡した。

「あたしの好きな煙草、覚えててくれたの?」

「忘れんよ」

「嬉しい」

缶のままビールで乾杯すると、女は一口だけ飲んで、煙草を吸い始めた。

「十年ぶりかしら」

「十年ぶりだ」

「仕事は?まだ先生続けてるの?」

「おかげ様で。学校は変わったけど」

「そう…」

「いい学校だよ」

「それはよかったわね」

「ママに教わったことはちゃんと覚えてるよ」

少しだけ女は笑った。


つづく
545作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/19(火) 23:54:09 ID:RcXJqryM0
あれから十年立っているとすれば、ママ、スナックあずみの店主である
この女性の年齢は五十ということになる。

確かに十年の月日は彼女を、美貌という意味では衰えさせた。

十年前。山形ユウジロウはこの近辺にあるある中学校の教師をしていた。
そしてこの店によく立ち寄ったものである。

当時は随分とこの界隈も賑わって、この店も繁盛していた。

女店主は三十台後半になってこの店を開いた。その前は、ユウジロウと
同じく、中学校教諭だった。

しかし、よりによって生徒の父親と不倫関係に落ち、それが元で教師を
辞めざるを得なくなり、何とか貯めていた金でこの店を開くに至る。

不倫事件を除けば教師としては優秀だった。ユウジロウは何か仕事で
トラブルを抱える度に彼女に助言を求め、彼女も適切なアドバイスをした。

「…随分と世話になった…」

「あたしの弟子、みたいなものだものね。あなたは」

「教師を続けるべきだった。ママほど優秀な人材を、俺は知らない」

「優秀な教師は生徒の親と不倫なんかしない」


つづく
546作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 00:05:30 ID:MPgNKorQ0
「相変わらずそこだけは頑固だね…」

ラッキーストライクに火をつけると、ママは黙って灰皿を差し出した。

「…いつ?」

そのユウジロウの質問は、『店が潰れたのはいつか』という意味を
含んでいた。

「ほんの半月前」

顔を天井に向けたユウジロウの目は潤んでいた。遅かった。半月。人生には
タイミングが悪い時、というのが確かにある。しかしそれはどうしようもない。

一息に残ったビールを飲み干すと、ポケットボトルのウイスキーを開け、そのまま
飲んだ。アルコール度数四十度の灼熱が、食道を駆け抜ける。大きく、熱い溜息。

「何年か前に、駅に東口ができてね。人の流れが変わったわ」

「…みんなそっちへ歩いて行ったよ」

駅の様子を思い出しながらユウジロウは言った。以前はこちら側の西口しかなく、
駅の東側に住む者は一度西口から降りて、駅前の商店街を通り、踏切を渡って
東側に出ていた。

それが最近になって直接東側に出られる東口ができ、駅舎も全く新しいものに
建て直された。

「東には大きなマンションが何棟も建ってね。こっちはもう…閑古鳥よ」


つづく
547作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 00:20:32 ID:MPgNKorQ0
「常連さんたちももう定年で…仕事帰りに飲みに来てくれることなんて
なくなって…。それでもなんとか頑張ってたのよ」

「…ああ」

「借金までしてね。馬鹿みたいね。返せる当てなんてないのにね」

ビールを一口、咽を小さく鳴らしてママは飲んだ。

「…すまなかった…」

「謝ることないわよ…。第一、あなた一人飲みに来てくれたって焼け石に水…
結局結果は同じだわ」

「そうかもしれないけど…」

『またすぐ来るよ』この店に来ると、帰り際、ユウジロウは必ずママにそう言った。
しかし突然に決まった学校の転任で、『すぐ』は、十年の月日となった。

そして半月前、この店は潰れたのだ。

わずかなウイスキーがなくなるまでの取り止めのない話。十年であったこと。

薄暗い中で悲愴にくれて、それでも二人は笑って話した。

そして、ウイスキーはなくなった。

「あなた、そろそろ帰らないと電車がなくなるわ」


つづく
548作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 00:24:32 ID:MPgNKorQ0
「…分かってるよ」

「…もうお帰り?」

「あぁ」

「最後に言っておきたいの」

「…いや、知ってるよ」

「…そう…。そうよね」

「俺からも」

「何?」

「ありがとう」

口元は笑っていたが、ママの目からは涙がこぼれていた。

「せめて半月前に…」

語るユウジロウの言葉をママが制した。

「言わないで」

「…分かった」


つづく
549作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 00:40:22 ID:MPgNKorQ0
「今日はあなたにおごらせたわね。あたしがお金払わないと…」

「気にするなよ。ママからは色々教わった。お礼だよ。ささやかだけど」

「悪いわね」

「それじゃ。また、すぐ来るよ」

「…嘘ばっかり」

ラッキーストライクを咥えたまま、ユウジロウは店のドアを開ける。冷たい風が吹き込んできた。
表に出て、閉める。ドアの止め金具が鳴る一瞬、戸惑った。また開けたい気持ちに駆られた。

しかし、風に押されてドアはかちゃりと小さい音を立てて閉じられた。

もう一度ドアを開けようとしたが、既にしっかりと鍵が掛けられていて。

最後にママが言おうとしたこと。それはユウジロウを愛しているなどといった、
ロマンティックな言葉ではない。

それは、今の自分が既にこの世にいないこと。
ユウジロウには分かっていた。

ただ、せめて彼女の眠る墓の場所ぐらいは聞いておけばよかったと、ユウジロウは
思った。それだけが心残りだった。

「ありがとう」

小さくユウジロウはドアに言った。


  終
550本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 00:52:12 ID:ZJDI0xXMO
作者さん、お疲れさまでした!
今回も良かったぁ〜。
切なさを感じました(ノ_;)
551作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 00:59:48 ID:MPgNKorQ0
合いの手サンクス!

今回は一生懸命書いた。本気で書いた。今までで一番心込めて書いた。

短くて物足りないかもしれないけど、つまらないかもしれないけど、

今まで読んでくれた人全員、応援してくれた人全員、レスくれた人全員に
捧げます。

ありがとう。ありがとう。ありがとう。感謝しかできないけど、ありがとう。

もしもあたしが死んだら、あなた達全員はあたしが守る。

どんな苦境に会っても手を差し伸べよう。あなた達があたしにそうしてくれたように。

闇に入れば灯りとなろう。あなた達があたしにそうしてくれたように。

光を、ありがとう。
552本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 01:02:30 ID:fWlYwSqEO
久々にしんみり系…(´;ω;`)

作者さんの中のママのモデルはわかりませんが…。
ママが涙を流すシーンを読んだ時、
ママのやわらかい、そして切ない笑顔が浮かんできました。
こういう別れはホント切ないですね…。
ユウジロウが最後にかけたやさしい台詞がまた泣ける(つД`)
553本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 01:27:30 ID:0RzPUSz+0
やばい…本編もそうだけど>>551読んだら本気泣けた…
前から思ってたんだけど作者さんって女の人??たまにそう思うことがある・・・。
色んな意味でどんな人なんだろう。一回本当に合ってみたい
554作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 01:51:56 ID:MPgNKorQ0
>>550
感想ありがとです^^ そうですね…どうしても『いい話』に『オカルト』を
からめると、『人の死』になってしまうんですよね…安易かな…。他に
何か方法はあるんだろうか…。でも主軸に置きたかったのは『感謝』です。

>>552
あー一番嬉しい。描写に気を使ってるから、『浮かんでくる』っていうのは
ありがたいですね。ママのモデルはいますがそれぞれ想像する人がいる
でしょうから秘密にしておきます。

いつもは女性に『〜だわ』とか『〜よ』って言わせないんです。実際リアルで
そんな言葉使いの女性見たことないですから。他の小説ではよく見かけるん
だけど、なんでそんな不自然な台詞回しをさせるのか私には理解できません。
でも今回は敢えて使ってみました。まぁこういう使い方ならありかなという範囲で。

>>553
男か女か明言したことあったっけ?はっきり女だ!っていうとエロい話書いてる時
恥ずかしいし、男だ!っていうと女心みたいの書いてる時に恥ずかしいし…。
どっちだろ。でもあたしは一人で、俺はあたしだぜ。(笑)

会ってみたいと言われても…がっかりするだけだと思うよ。^^;
555作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 17:35:40 ID:MPgNKorQ0
さてここらで怖い話でもするか。

霧原家。居間。

霧原トオルはあぐらをかいて、背後に手を突き、体重を腕にかけて
テレビを眺めていた。


つづく
556作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 17:44:50 ID:MPgNKorQ0
少し離れて、木下サエがいた。一応人の家に上がらせてもらっているという
遠慮があるのか、正座を少し斜めに崩して座っている。

今日も霧原の両親はいない。

サエは、トオルに座ったままの姿勢で滑るように近づくと、彼の手に手を重ねた。
妙に熱い。

「…風邪でもひいてる?」

「…いいや」

と、トオルは下にあった自分の手を引いて、それを今度はサエの手の上に重ねた。
そして強く手を握る。更に手が熱く感じられた。こちらの手は左手なので、直接触れても
何か心を読めたりするわけではない。右手に対して、非常に鈍感なのだ。

そのまま握った手をトオルは引き寄せた。バランスを崩すようにサエは倒れ掛かり、トオルの
肩にもたれた。

自分の手を握っていたトオルの左手が離れて腰に回り、更に抱き寄せる。手袋をした右手で
サエの顎に手をやると、こちらを向かせてトオルはキスをした。

かなり強引なキスだった。今までサエが知る限り、霧原がこのような行動を示したことはない。

容赦なくトオルの舌はサエのやや薄い唇を舐め、その間から入り込もうとする。

「…ん…」


つづく
557作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 17:57:02 ID:MPgNKorQ0
右手をサエの顎から離すと、次に右手は彼女の後頭部へ回った。

そんなに強い力ではないが、トオルは自分の方に向けてサエの頭を押した。

痛いほど強く密着する唇。更にトオルは口を開いて、サエの唇をむさぼった。

普段キスの際には目を閉じるサエであったが、この時ばかりは目を見開いていた。
本当にキスの相手はトオルなのか。今までこんな強引なキスなんて…。

抱きすくめられ、倒されて、居間の絨毯の上で。激しいキスの間も霧原の両手は
サエのいたるところを、愛撫と呼ぶには余りに激しくまさぐり続けた。

何分経ったか。キスだけで疲れ果ててしまいそうな時間の後に、やっと口を開放した
トオルは言った。

「…服、脱いで」

「…え?」

「脱げって」

こんなトオルは見たことがない。今まで何度かセックスはした。いずれも自分がリード
してきたつもりだ。決まった手順もあった。別にお互いに決めたわけではないが、別々に
風呂に入り、歯を磨いて、何となく二人きり、音楽だけ流して、静かにいて。

それらの手順が一切無視されている。入浴さえしていない。それに衣服はいつもトオルが
不器用ながらも優しく脱がしてくれていた。

それを自分で脱げ、と。しかも命令口調で。


つづく
558作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 18:05:45 ID:MPgNKorQ0
サエの肌があらわになっていく様子をトオルは黙って見ていた。

眺めているというふうではない。完全に凝視している。

「…パンツも…?」

「うん」

長い足を曲げて、片足ずつ足を下着から抜いていく。大理石の像の
ようにすらりと立ったサエの一糸まとわぬ姿をトオルは座ってじっと
見ている。

途端に恥ずかしくなり、サエは乳房と陰部を隠した。

「ボッティチェルリのヴィーナスの誕生みたいだね」

「…な、何それ…」

トオルは立ち上がると顔を赤らめるサエを抱き寄せ、激しいキスをした。

「…ぁ」

左手で肩を抱きながら右手は、下腹部へ伸びる。へその周りはサエの
性感帯の一つだった。

また口が離れて、首筋へ。舐めるわけでもなく、ただ唇でなぞる。時折、
熱い吐息が漏れて耐え難くくすぐったい。

「んっ…はぁっ…だめぇ…」


つづく
559本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 18:23:01 ID:MPgNKorQ0
「何が駄目って?」

「はぁっ…まだお風呂とか入ってないし…」

「そっか…」

右手はそのまま更に下。黒い森の奥。普段見ることない唇。

「…あっ!だめ!汚いからっ」

反射的にトオルの手を制したが、その手を彼は乱暴に振り解いた。

そしてまた、陰部に手を伸ばす。

「…ちょっ…霧原…っ!」

「…っせぇな…」

自分の着ていたTシャツを乱暴に脱ぐと、それをよって、一本の太い紐の
ようにして、トオルはサエの手首を縛った。

「痛い!痛いよ霧原っ!」

無理矢理後ろ手に縛られ、まともに抵抗できないサエを柔らかなソファに押し倒し、
トオルは乳首をこねた。

「このぐらいは気持ちいい?」


つづく
560本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 18:27:37 ID:MPgNKorQ0
「…んっ!…うん…」

「気持ちいいって言って。乳首いじられて気持ちいいって」

「…や…そんなこと言えない…」

と、トオルはサエの乳首を捻り上げた。

「あっ!痛いっ!やめて!」

「じゃあ言ってよ」

「分かったっ!分かったから!」

途端に手付きが優しいそれに変わった。

「はぁ…はぁ…」

「家が大きいといいね。どんな大声出しても隣に聞こえない」

無邪気にトオルは笑った。

「早く言って」

「…」

「言わないと…」

あの痛みはもう二度と受けたくなかった。


つつせく
561本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 18:38:30 ID:MPgNKorQ0
「あっだめっ!ごめんなさい!言うから!言うから!」

「早く…」

「…乳首いじられて気持ちいい…」

「もっとちゃんと言ってよ…まぁいいか…」

口を近づけるとトオルは乳首を口に含んだ。口の中では舌が激しく踊っている。

「あっ…!そんな…」

快感にのけ反るのを見届けると、トオルは犬歯を乳首に立てた。

「いたっ!痛いよ!」

いつものセックスとは全く違った。快感を与えたかと思えば苦痛を与え、何か
恥ずかしい要求を出し、従わなければ何らかの罰が与えられる。トオルは一方的に
責めるばかりだが、その責める行為自体に性的興奮と快感を覚えているようだ。

その突然の行為に、時折サエはキレそうになったものだが、続けているうちに、その
苦痛に快感を見出し、罰を求めている自分に気付く。

惚れたのはこたらからだけど、年下で、立場も下、身長も少しあたしの方が高い。
性格的にもあたしの方がつよいはずなのに。何だろう…。

あの頼りない霧原が今はご主人様だ。え?ご主人様って?これSM?縛られて、
噛まれたり、つねられたり、引っ叩かれたり…SMじゃん…。やだ…あたしって変態…


つづく
562本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 18:43:43 ID:RFA2zsTx0
(*´Д`)ハァハァ
ちょっと、ちょっとちょっと!!
563作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 18:47:58 ID:MPgNKorQ0
しかし、サエのヴァギナは滴るほどに濡れていた。随分と責められ、
ぐったりしていると、トオルは服を脱いで、既に勃起した肉棒を見せた。

サエは全く彼に触れていない。彼は自分が彼女を責める快感と興奮だけで
勃起していたのだ。

「しゃぶれ」

後ろ手に縛られている不便で、芋虫の如く這いずり、やっとソファの上に膝立ちに
なると、ちょうど床に立っているトオルのそそり立つイチモツがそこにあった。

口に含んで分かる。いつもよりほんの少しだが大きく、太い。しかも熱い。

すると、サエの前髪を乱暴につかんでトオルは彼女の口をペニスから離させた。

「…え?」

「頂きます、は?」

「…頂きます…」

「何を?」

「霧原…さんの…おちんちん…」

しばらくフェラチオさせていたが、トオルはサエの頭をつかんで、ペニスを彼女の
咽の奥深くに突き立てた。反射的に頭を振ってペニスを吐き出したサエは咳きこみ、
えずいた。


つづく
564作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 18:59:10 ID:MPgNKorQ0
「…もう一度…」

「…はい…すいませんでした…」

再び喉の奥深くへ。こらえる。いつの間にか涙が出てきた。

やはり無理だった。肉体が反射的に口を離してしまう。そして猛烈な吐き気に
耐えなければならない。

トオルもその無理に気付いたのか、膝立ちしている彼女の陰部に手を刺しいれた。

ひどい濡れようである。彼は躊躇せず指二本をヴァギナに指し入れた。

「ぁあっ!」

のけぞり、柔らかく不安定なソファの上でサエは倒れそうになったが、トオルはそれを
許さなかった。

「そのまま…立ってて」

「…だめ…倒れちゃう…立ってらんなひ…」

「だめだよ」

更に激しくかき回す。濡れているせいだろうか。いつもより中は広く感じた。

「どうしてほしいか言ってみて?」

「ぃい…あぁ…そんな…あっ!」


つづく
565作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 19:03:21 ID:MPgNKorQ0
「ここ?ここどうしてほしいの?」

「…ほじってほしい…」

「ほじるのかぁ…こう?」

一応膣の中である。傷をつけてはいけないことぐらいは感覚で分かっている。
トオルは指の腹で、膣の中に見つけたわずかに突起した部分を奥から手前へ
かき出すようにこすった。

「あぁんっ!いいっそれいいのっ!!あたまばかになりそおっ!」

「なってよ。ばかに」

「なっちゃう!変になっちゃうっ!」

突然それは終わった。トオルは指を抜いた。

「やめた」

「え?」

「おしまい」

「え…やだ…続けて!お願い!」

「そんなに気持ちよかったの?」

大きくサエはうなずいた。


つづく
566作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 19:10:51 ID:MPgNKorQ0
「変態なんだね。サエって…信じらんない…」

「…え?」

「変態なんでしょ?」

「…変態です…」

「へー…そうなんだ…どうしてほしいの?」

「もっと気持ちよくしてほしい…」

「霧原様のおちんちん、サエのオマンコに下さいって言って」

「…」

おちんちんはいい。ただオマンコには抵抗があった。人生で一度でも口にした
ことがあるだろうか。ない気がする。

「霧原さまの…おちんちん…サエの…サエのオマンコにくださいっ!」

「スケベでやらしいサエのマンコにでしょ?」

「…スケベでやらしいサエのオマンコに…おちんちんハメてください…」

屈辱。勝ち気でいていじめられた経験もなく、喧嘩でも男子相手に勝っていた。
この悔しさに涙がぼろぼろとこぼれるのに、この快感はなんだろう。

屈辱が快感。屈辱が快感なことが屈辱。屈辱が快感なことが屈辱で快感。
屈辱が快感なことが屈辱で快感なのが屈辱。

つづく
567本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 19:25:43 ID:rz0Q3eRx0
ひゃぁぁぁぁ、何となく開いたらこの展開でビックリしたww
568作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 19:30:03 ID:MPgNKorQ0
その堂々巡りの中でサエの屈辱は増幅され、更に快感が強化される。

手の拘束は解かれ、獣の様に後ろから貫かれる。

「あぁあっ!いいっ!すごいっ…きもちいい…」

それほど経験が豊かというほどではない。しかしこのセックスは今までの
人生で最高であることに間違いはない。

とろけそうな快楽の中でサエは溺れた。体位も分からない。時間も。自分が
何を言っているのかさえ理解できず。

何か祭のようなものが近づきつつあることだけは分かった。何とも表現し難いが
言うならば正に祭。それが近づいてくる。その祭に巻き込まれたらどうなって
しまうのか。本当に気がどうにかして狂気の世界に堕ちるのではないかという
恐怖に似た感情もあった。

それども祭はやってくる。何か南方の古い古い、ドラムのリズム。サバンナの
動物たち。能の面のような被った人たちが象の周りで踊っている。

空には月が六つもあって、やがてそれは円になり、ぐるぐると回った。

回転の中心にはキリストかジョンレノンか、誰か長髪で色白の男が見えた。

紫の煙が漂っている。何してるんだっけ?ここはどこ?

そうそう霧原の家。あたしは乱暴に犯されてる。ドラムのリズムは肉を打つ音だ。


つづく
569本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 19:51:03 ID:MPgNKorQ0
祭が近づく。狂気の祭。楽しそうだけど巻き込まれていいの?

だめな気もする。でも楽しそうだな。何だろう。ただえっちしてるだけなのに。
なんで祭が来るんだろう。

来る来る来る。祭が来るよ。このままじゃ逃れられない。

マキコマレル…。

唐突に、祭は終わった。寂しい。遠ざかる。どこ行くの?待って。

オイテイカナイデ…。

え?何だっけ。待って。よく考えて。霧原の家。霧原。セックス。

呼吸が苦しい。あれあたし、うつ伏せにペチャンコになって寝てる。セックス終わったのかな。

「…霧原…?」

返事がない。急速に引いていく悦楽。呼吸が楽になったところで、体勢を変えてトオルを
見た。

彼は固まって、目を大きく見開いて何かを見ている。また首を逆方向に回して、トオルの
視線を追った。

居間のドアにはトオルの父が立っていた。


  終
570作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 19:51:39 ID:MPgNKorQ0

どうだ。怖いだろう…
571本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 20:23:00 ID:rz0Q3eRx0
ひぇぇぇぇぇぇーーーーーーーー!!

こ・・、これは怖い。しかもものすごく怖い!怖すぎるw

お父ちゃんどんな顔してたんだろう〜w
サエの声が聞こえただろうからそっとしといてやったら良かったのにw
まぁ、まだ中学生だもんな・・。怒られただろうか・・。
572本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 20:41:57 ID:fWlYwSqEO
ギャアアアアアーーー!!
((((((;゚Д゚))))))
573本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 20:49:43 ID:WETxHo6/O
恐い〜!
まさかそんなラストになるとは!

このすんごい気になる場面で終わる事が多いけど
ほんとーに続きが気になるwwwww
574本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 21:05:48 ID:fWlYwSqEO
>>573
わかるわかるw

山形先生シリーズの中では、山形先生がアカネを脱衣所で襲うシーンに悶えたよ。
ぐおぉー!続きはー!
ってw
575作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 21:09:20 ID:MPgNKorQ0
さてここらで何か変な話でも書くか。

軽子沢中学。東棟二階。校長室。

西日が逆光となり、男には後光が射しているかのようだった。


つづく
576本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 21:17:39 ID:MPgNKorQ0
上品な赤い絨毯に見るからに高級そうな応接セットが備えられている。

ドアから入ると正面は大きな窓で、重厚なデスクが窓の前に鎮座している。

「山形ユウジロウ。参りました」

窓の外を眺めながら、軽子沢中学校長、鬼塚ケンシロウは振り向きもせずに
ゆっくりと口を開いた。

「山形君…。君は随分と女性経験が豊富だそうだね…」

「あはは…また、御冗談を…」

表情を全く崩さず、ユウジロウは誤魔化した。校長にそのようなことを言われるのは
この中学に赴任してきて以来始めてだ。

「隠さなくてもいい。不祥事とか、そういうことではないのだよ。ただ一個人として
聞いている」

「…は」

「先日の一連の事件。知っているだろう?」

「…と申しますと…?」

「私の事件だよ!山形君!」

校長は振り返るなりそう叫んで机を叩いた。


つづく
577本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 21:30:23 ID:+w/VbsU30
ケンシロウキタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!
578本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 21:32:27 ID:MPgNKorQ0
ただ単に屋上で昼食を食べ、満腹の腹をさすっていたことを背後から
目撃され、自慰行為をしていると勘違いされたことに端を発する、軽子
沢中学十年の歴史上最大のスキャンダル。

校長の自慰行為自粛宣言を受け事態は収束したがその事件が残した
傷跡は余りに大きかった。(第七十二話 『独歩』 参照)

「HHH団…JSK親衛隊による屋上占拠事件。あれはテロリズムだ!にも
関わらず、彼らはあくまで私の後を追ったに過ぎないと主張した!
私は断じて屋上で陰茎など露出はしておらん!ましてや自慰行為など!」

怒りと悔しさに唇を噛み、ゆっくりと椅子に腰を降ろして一息つく。やがて
落ち着くと、一度目を閉じて、顔を少し上げてからまた目を開けた。

「生徒達の噂通り私は童貞だ…。君とは大違いなんだよ」

既にユウジロウを女性経験豊富と決め付けた風な口ぶりである。

「…私の話は何処でお聞きになったのですか?」

「…私直属の校内諜報機関があるのは知っているかね」

「…風紀委員会…」

「そう…厳密には風紀委員会内に設置された上部組織。校内調査部…」


つづく



579作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 21:43:28 ID:MPgNKorQ0
電話だ・・・ちょっとまってね
580作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 21:46:48 ID:MPgNKorQ0
しばらくお待たせさせることになりそうです。ごめんね。
581本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 21:49:56 ID:SVAjfqUr0
いいよ、いいよ、気にしないでね!明日でもいいし^^
582本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 22:17:39 ID:MPgNKorQ0
風紀委員会別室校内調査部。通称『内調』。校内のあらゆることを調査、
追求する部会で、校長直属の組織。ケンシロウにのみ忠誠を近い、彼の
命令以外では動かない。

しかし、これといって調べることもないので活動実績ほとんどない。しかし
その調査能力は確かなもので、新聞委員会委員長、的場リュウジも『内調』の
動向には注目していた。

「…そんなものが実際にあったのですか…」

「ある。はじめに私の良からぬ噂を立てた人間が天文部内にいることも、自分で
言いたくはないが『グレートオナニーオニヅカ』の貼り紙をした者が何者なのかも
分かっている…。しかし噂そのものは止めようがなかった…」

随分と遠回りに話を進めるが恐らく半分は愚痴なのだろうとユウジロウはそのまま
黙って聞いていた。

「おぉ…すまない。適当に座ってくれ…」

応接セットの椅子の腰を落ち着けるとユウジロウは机の上にクリスタルガラスの
灰皿を認めて、ラッキーストライクを咥えた。

「校長。そろそろ本題をお伺いしたいのですが」

「…」

しばらく思案した後、鬼塚は重い口を開いた。

「単刀直入に言う。女を世話して欲しい」


つづく
583本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 22:25:16 ID:MPgNKorQ0
そんなところだろうとは思っていたがまさか直球で来るとは思っていなかった。

最も簡単な方法はアカネをあてがうことだが、何となく気が乗らない。

彼女が売春をしていることは勿論知っているが客が誰かは知らないし、顔を
会わせたこともない。

しかしよりによって自分の勤務先の上司に妹を売るというのは気分が悪かった。

ことよりユウジロウ、妹であり娘のアカネに恋心さえ抱いているのだ。

しかしアカネという存在を愛して以来、余り女遊びもせず、通りすがりに強姦を
する程度で、紹介できる女、などという存在はなかった。

いたとしても、遊び人当時に付き合っていた連中で今となっては連絡がつかない
だろうし、第一から相手ももう当時からすれば二十は歳をとっている。

なかなか難しい問題であった。

「風俗店などに行かれてみてはいかがでしょうか?」

風俗店と聞いて、デリバリーヘルス『ニュー天国』の悪夢が思い出される。いや
あれは童貞喪失ではない。何か分からない出来事が起こりたまたま精液が
出てしまっただけだ。

いずれにせよ、風俗店は許しがたかった。


つづく
584本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 22:29:53 ID:fWlYwSqEO
二本目キテター(゚∀゚)ー!
校長萌えの私がきますたよ(´Д`*)ハァハァ
585本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 22:32:42 ID:MPgNKorQ0
そもそも、鬼塚ケンシロウ、校長だけあってプライドが高い。風俗店に行くのは
いいが、堂々としていたいのだ。

おどおどと、初めてなので、とは言いたくないのである。その旨、ユウジロウに
伝えると、それは素人でも同じことだという答えだった。

「できれば処女がいい…」

「無理ですな。犯罪です」

「ある程度歳のいった処女ならば…」

「探すのが大変です。そもそも外見で判断はほぼ不可能ですよ」

話は全く進まない。ユウジロウ、今日はどうしても帰ってしたい用事があった。
このままでは何時間経っても埒が明かない。しかし上司の悩みを適当にする
こともできなかった。

「そもそも校長、失礼ですが女性の体について、もしくは性交について、いかほど
の知識をお持ちでしょうか?」

「…アダルトビデオはよく見る」

ユウジロウの経験上、最もたちの悪い状態と言えた。アダルトビデオばかりを愛好
していると、それが全てであり、セックスとは、あああるべきなのだという間違った
価値がすり込まれてしまう。

事実、例えば喘ぎ声をほとんど立てない女もいる。別にこれは快感を得ていない
わけではなく、声を聞かれるのが恥ずかしいとか、様々な要因がある。


つづく
586作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 22:42:49 ID:MPgNKorQ0
しかし、アダルトビデオからしか性の知識を得ていない者は、『女は
感じていれば喘ぐ』、『快感の度合いが高まれば高まるほど激しく
喘ぐ』と勘違いをする。

結果、たまたまそういう女性とセックスができればいいが、そうではない
女としてしまった場合、相手が不感症か、自分が下手かと思い込む。

また本気の『いや』と、嘘の『いや』の区別がつかず無理をして下手を
すれば犯罪者になってしまう者もいる。

『いやよいやよも好きのうち』幻想である。

女性の絶頂に対する誤解もある。クリトリスを刺激しての絶頂というのは
割と容易であるが、膣内を刺激しての絶頂というのは男のテクニック以前に
相手女性の女性器の開発度や体質などにも依存する。

何度激しく突いても絶頂に達しない女は達しない。しかしアダルトビデオの
知識に囚われている者はこれも『自分が下手なせいだ』と自信をなくす。

素人とやりたければ素人のセックスを見学するのが一番である。

というわけで、ユウジロウは二つの目的を同時に果たすことにしたのである。

今日帰ってしたい用事。そして校長に本当のセックスのあり方を学ばせる。

詳細に打ち合わせ、二人は一度別れ、夜待ち合わせることにした。
587作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 22:48:30 ID:MPgNKorQ0
本当にここで良いのだろうかと、鬼塚ケンシロウがふらふらしていると、
突然目の前に黒い何かが現れた。

「ひぃっ!」

『校長!お静かに!山形です』

小声で話すは何と忍者の様な装束に身をまとった山形ユウジロウであった。
陰行流艶術、忍び見(第六十二夜『障壁』)正式のいでたちである。

『や…山形君!』

『校長…なんですかその恰好は…?』

一方で鬼塚はスーツ姿のままであった。

『うぅ…すまん…よく分からなかったので…』

『仕方ない。そのままいきましょう。時間がない』

『よ…よろしく…』

そのまま夜の町を疾走する二人。いずれも中年。忍者とスーツ。

到着した邸宅は霧原家である。


つづく
588本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 22:50:22 ID:on8k9WGD0
まさか・・・・・
589作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 22:55:22 ID:MPgNKorQ0
『今晩、ここで我が校の生徒二人が肉体を結びます』

『…なんと!校則違反ではないか!』

『今時の中学生はしてますよ…。しかしながら技術は幼稚。教材としては
最適かと…』

『…な…なるほど…』

『庭から侵入します』

『は…犯罪ではないのかね!』

『勉強の為です。校長!』

『そ…そうだな…』

門から入ろうとした瞬間、ユウジロウの頭に何か硬いものが当たった。

『動くな』

振り返るとそこにはベレッタ9ミリ拳銃を構えた新聞委員会委員長、的場リュウジが
いた。完全な迷彩服である。

『なぜ貴様が!』


つづく
590本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 22:57:54 ID:Q4Z8hPTt0
リュウジキタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!

すごいメンバーだwww
591作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 23:03:06 ID:MPgNKorQ0
『落ち着けユウジロウ。セコムがある』

『セコム!』

『危ない所だったな。門を開けた瞬間に通報されるシステムだ』

『十分以内にセコムが到着。その後警察も来る。現役中学校校長と教師が
共謀して教え子の家を覗き。いいニュースになったろう…』

的場リュウジは近くの電柱に登り、取り付けてあった箱を開け、何か細工を
すると降りてきた。

『セコムは解除された』

『突入』

四十歳の忍者、十四歳だが二十台半ばにしか見えない兵士、スーツの成金親父という
関係不明の異常な三人組が霧原家の敷地に入っていく。

『視界確保!』

『視界確保!良好!』

『おぉ…あの女子生徒は見覚えがある…』

『三年C組の木下サエです』

『三年…受験はどうなっとるんだ?』


つづく
592作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 23:09:26 ID:MPgNKorQ0
『校長、この期に及んで教育者面はおやめ下さい』

『そうだ。みっともないぞ』

『…あ…はぁ…』

ユウジロウとリュウジはかなり堂々と覗いている。ケンシロウは不安だった。

『バ…バレないの?』

『こちらは暗く向こうは明るい。そうなるとガラス窓は鏡のようになり外が見えにくく
なる』

『な…なるほど…』

『基本です。校長』

『…うむ…』

『問題はこのまま居間でナニが始まるかということだな…』

『…読みが浅いぞ的場。二人は既に六度のセックスを経験している。そろそろ
アラが出る…』

『アラ?』

『五回も六回もやってると、シャワーだのベッドだのと手順が面倒になって、
ちょっとばかしアクロバットをやってみたくなるもんさ…俺は今日、居間でそのまま
コトに至ると踏んでいる』

つづく
593作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 23:16:23 ID:MPgNKorQ0
『なるほど。さすがユウジロウだ』

『校長、よく見て下さい。霧原…男の顔です』

『…お、おぅ…』

『これはだいぶ来てる…やはり…おっぱじめる気だ!』

『校長!キスですキス!』

『お…大人のキスじゃないか!』

『霧原の奴、いつもと様子が違うぞ…』

『よしこっちも準備開始だ!』

何をするかと思えばユウジロウ、イチモツを出している。この『忍び見』専用の装束、
覗き見て、そのままオナニーし、発見された場合はただちにイチモツを回収、逃げられる
よう、工夫が施されていた。

忍者、しこる。兵士、覗く。成金、驚く。

『ユウジロウ…お前まさかここでやっちまうのか?』

『おうよ。そうじゃなきゃお前の目的はなんだ?』

『もうじき、霧原の親父が帰宅する!』

『ナンダッテ━━(゚Д゚;)━━━!!!!!』


つづく
594本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 23:21:25 ID:CCVrWawM0
>忍者、しこる。兵士、覗く。成金、驚く。

駄目だwwwwwツボにはまったw
595作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 23:24:20 ID:MPgNKorQ0
『おい、それは大問題だぞ。中止だ。知らせてくる』

『待て!邪魔はさせんぞ!』

再びベレッタをユウジロウに向けた。

『何の邪魔だ!』

『俺はただノゾキに来たんじゃない。息子に彼女がいることすら知らない
父親が、息子のセックスを突然目撃したらどうなるか。それをこのニコンで
撮る!』

父親の忘れ形見のニコンをリュウジは軍用のヒップバッグから取り出した。

『ナンテアクシュミナヤツ!』

『お…おいおい脱いどるぞ!』

『なに!』

覗く覗く覗く。そしてついにトオルの手がサエの陰部へ…。

『キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!』

『キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!』

『ガ━━(゚Д゚;)━━━ン!!!!!』

五十八歳童貞には衝撃的映像である。


つづく
596作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 23:30:27 ID:MPgNKorQ0
『おい的場、親父が帰ってくるのはいいが、チャイムかなんか押すだろ。普通』

『インターホンのケーブルは既に切断した』

『それってジャーナリズム的にいいのか?』

『演出だ』

『お…おい、なにやら縛っとるぞ!』

『なに!』

『まさか…霧原がSに目覚めるとは…』

『一応一枚撮っておくか』

『や…焼き増し…』

『…校長から言われれば断れまい。明日、編集部へ』

『へへ…ありがとう…』

「あっ!痛いっ!やめて!」

乳首を捻り上げられたサエの声が漏れ聞こえてくる。

『…ドSだな…』

『うむ…普通は拘束するかくすぐるか止まりなんだが…いきなり痛めつけるとは…』


つづく
597作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 23:38:46 ID:MPgNKorQ0
『おっぱい舐めてる…』

『むぅ。これは少したまらんな』

『あ…俺いっちゃうかも…』

『まて!ユウジロウ!しゃぶるぞ!』

『。・゚・(ノД`)・゚・。 いっちゃった…』

『…わ…私も息子が立ってきました…』

『おい、相当すごいぞ』

『校長、ああいった頭をつかんでフェラチオをさせる技術をイラマチオといいます』

『…ほうほう…』

一度射精してすっきりしたのか、ユウジロウは解説に回った。ケンシロウは何を
勘違いしているのか一生懸命メモしている。

『不安定なソファに膝立ちさせての手マンです。聞こえませんが恐らく倒れないように
命令しているはずです。ほら、見て下さい彼女の必死な顔を。高度な技術といえる
でしょう。ただし、サドとマゾの関係がある程度成立していないと不可能です』

『そ…そそりますなぁ…』


つづく
598作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 23:43:54 ID:MPgNKorQ0
「あぁんっ!いいっそれいいのっ!!あたまばかになりそおっ!」

時折サエの声が漏れ聞こえる。

忍者再勃起。

『もう一発!』

『まだ出るのか!』

『あ…入れますぞ!入れますぞ!』

『校長お静かに…』

『…ところでその父親の写真を撮った後の手はずは…?』

真面目に聞いているようだが、手はイチモツを握っている。

『…写真さえ取れればもう用はないのだが…』

『それはヒドいだろう…』

『うむ』

しばらくリュウジは思案しているようだったがやがて何かを取り出した。


つづく

599本当にあった怖い名無し:2006/09/20(水) 23:50:55 ID:RFA2zsTx0
セコムがツボだよwwwwww
600作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 23:51:56 ID:MPgNKorQ0
『ひぃっ…ば…爆弾!!』

『校長、お静かに!』

『す…すまん…しかし…』

『XM84閃光音響手榴弾だ』

『しゅ…手榴弾…』

『いわゆるスタングレネード。殺傷能力はない。ただ強烈な光で敵の目を奪い、大音響で
耳も使い物にならなくする。無論一時的なものだ。後遺症はまず出ない』

『目くらましだな』

『そうだ。父親が帰宅し、写真が無事撮れたらユウジロウはこいつを部屋に投げ込め』

『…それから?』

『炸裂後、三人で室内に突入。父親の視力、聴力が奪われているすきに、霧原トオルと
木下サエを奪還する』

見事な作戦といえたが、校長が質問した。

『的場くん、しかし二人は裸じゃないか。外に連れ出した後はどうするのかね?』


つづく
601作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/20(水) 23:57:33 ID:MPgNKorQ0
『なるほど。いい質問だ校長。わかった。ユウジロウと校長に二人は任せる。俺は脱ぎ捨ててある
二人の衣服を奪取しよう』

『よし。わかった』

『…う…うむ…』

革靴の底がアスファルトを蹴る音がユウジロウとリュウジの耳には届いた。

『!来たか!』

『な…何がかね…?』

『父親の御帰還だっ!』

改めてニコンの調整をするリュウジ。ユウジロウはスタングレネードのピンに指を
かけている。このピンを抜き、投げ込めば三秒もしない内に閃光と大音響に室内は
包まれる。

『窓は開くか?』

『見た感じ鍵はかかっていないようだ』

『校長、シャッター音が聞こえたら窓を開けて下さい』

『よ…よし…わかった!』


つづく
602本当にあった怖い名無し:2006/09/21(木) 00:02:24 ID:sffCv2Wm0
今日、二本立てとは〜。

夕方5時ごろから書き続けてるのすごいなぁ。ずっと見てるけど
めっちゃ眠たくなってきたので落ちちゃったらゴメンorz
603作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/21(木) 00:05:38 ID:xxj9pCBh0
玄関のドアを開けた音がする。それは校長の耳にも確かに届いた。

しかし喘ぐに任せてバックからサエを責めたてているトオルは全く
気付かない。

しばらくあって、居間のドアが開いた。

トオルがドアの音に気付いて振り返る。そこに父がいる。固まるトオル。驚きの父。

ニコンのシャッターが切られた。

成金が窓を開ける。

忍者が音響手榴弾を投げ込む。

成金、忍者、兵士、一斉に窓に背を向け、目を硬く閉じ耳を塞ぐ。

雷でも落ちたかの様な轟音と閃光!

兵士が飛び込む。忍者が飛び込む。成金が飛び込む。

居間のドアでは父親が倒れていた。

兵士、凄まじい速度で衣服を回収。窓の外へ。

成金、えへらえへらと初めて見る生の若い女の裸体を担ぎ上げようとする。

忍者、それは俺の獲物だとばかりに成金にタックル。


つづく
604作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/21(木) 00:16:41 ID:xxj9pCBh0
忍者、木下サエを抱えて窓の外へ。

成金、タックルを受けて霧原トオルの体に折り重なるように失神。

兵士、忍者ともに成金の脱出を待つもタイムアウト。ふらふらしている
木下サエにとりあえず適当な衣服を着せ、二人で抱えるようにして霧原邸を
脱出。

数分後、父親、覚醒。

愛する息子が全裸にされ、成金親父に覆いかぶさられている光景を目にする。

トオル覚醒。重い。ふと見た父親の記憶。サエはどこ?重い!何か臭い!

「助けてー!」

「ぅおおおぉぉぉ!」

ダンディ親父怒りの鉄拳。成金、覚醒。痛い。みんないない。

「あんた、どこかで見た顔だな?」

「そう!私は正義の味方、チェンジマン!」

ポーズを取った。

処分決まった。

給料が三ヶ月、もらえないらしい。


  終
605本当にあった怖い名無し:2006/09/21(木) 00:21:05 ID:XM3ydz8rO
チェンジマソは正義の味方だったのか(・∀・)
606本当にあった怖い名無し:2006/09/21(木) 00:21:18 ID:9DUi/4EXO
ケンシロウ……どこまでも救われんヤツ…
607本当にあった怖い名無し:2006/09/21(木) 00:46:39 ID:9y00Np+QO
ちょwww校長wwwww
不憫なお人だ…(´;ω;`)

だがそれがいい(゚∀゚)校長萌え〜
608作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/21(木) 01:20:51 ID:xxj9pCBh0
ん〜…校長このまま童貞キャラで終わらすか、大どんでん返しカマすか
迷い中…。可哀想な気もするんだけど本人がどうも本気で悩んでない気が
する。

なんか教師を主人公をしたからなんだろうけど、『奇面組』とか、初期の
『コータローまかりとおる!』みたいな雰囲気が匂ってきたな…。

オカルトと絡めにくいのはその辺りか…。『内調』とかって発想的に思い切り
『コータロー…』みたいだもんなぁ…。
609本当にあった怖い名無し:2006/09/21(木) 17:24:54 ID:0lVQo7BNO
今回の2作コンボかなりキタw
一つ目がシリアスで少し狂気じみたセックス描写でほぼ終止してたのに、
二つ目ではいつものおバカな雰囲気でその描写と絡んだりしてて・・・ギャップにヤラレタ!

あと、自分が好きだった作品に多かれ少なかれ影響受けるのは普通だと思いますぜ。
作者さんのオリジナリティなんかほっといても滲み出てるもんですよー。

では、また楽しみに待たせてもらいます。寒くなってきたけど、風邪などひかぬよう頑張って!
610作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/21(木) 17:40:37 ID:xxj9pCBh0
>>609

>いつものおバカな雰囲気

ヒドスwwwwまぁ実際そうだけど(笑)

> あと、自分が好きだった作品に多かれ少なかれ影響受けるのは普通だと思いますぜ。

うん。そりゃね、始めに漫画でも映画でも小説でも『自分で創ってみよう!」って思う
動機ってやっぱり好きな作品に出会って、そんなようなものを自分も創ってみたいと
思うところ入るから、悪質な盗作はともかく、何かしら影響が出るのは仕方ないですよね。

完全なオリジナルはない、とすればどのジャンルでも『創作作品』と呼べるものは全て
兄弟ってことになりますね。なんか不思議な感じです。
611作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/21(木) 20:37:53 ID:xxj9pCBh0
さてここらで怖い話でもするか。

居酒屋『枡や』は十八時に開店する。
赤提灯に灯が入り、店主が暖簾を掲げる。


つづく
612本当にあった怖い名無し:2006/09/21(木) 20:44:51 ID:V1mSaAuIO
「枡や」キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!
613作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/21(木) 21:01:22 ID:xxj9pCBh0
開けて、十分もするとちらほらと客が入り始める。

馴染みの者が多いが、恐る恐る様子を見ながら立ち寄る一見の者もあった。

ふらりと現れたのは鉄工所経営の群馬泰蔵、通称『テッちゃん』である。
(第五十二話 『切符』 参照)

「毎度らっしぇい。今日は随分早い…」

言いかけて店長はふとカレンダーを見た。カウンター席後ろの壁に貼られていて、
カウンター客には背後で見えないが、厨房にいる店主からはよく見えた。

日付を確認して口をつぐむ。

泰蔵はまだだいぶ空きのあるカウンター席に腰を降ろした。いつもは自分の鉄工所の
従業員を連れ立って来ることが多いが今日は一人。

「何にします?」

「久保田、冷やで。あと…厚揚げと、焼き鳥適当にもらおうかな」

「厚揚げは煮たやつで?」

「そうだね」

カウンターに枡が置かれ、中にコップが立てられた。そこに店主は日本酒、久保田を
コップが一杯になって、枡にこぼれ出すのも構わず注ぐ。


つづく
614作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/21(木) 21:16:46 ID:xxj9pCBh0
枡ごとコップを持ち上げ、まずはコップに口をつけてすすり飲むと、コップを
枡から抜いて、枡に溜まったこぼれ出た久保田を一気に煽り、一息ついて、
コップをカウンターに戻した。

がらがらと引き戸が鳴った。

「毎度!」

威勢のいい店主の声が響く。入ってきた客は泰蔵から少し離れて隣に座った。

「こんばんわ」

「…あぁ、二代目先生…」

声をかけてきたのが軽子沢中学教師、福岡ユウコと認めて、泰蔵は軽く頭を
下げたが、いつもと様子が違うのは明らかだった。

「お父さんあたし、レモンサワーとナンコツのから揚げね」

頻繁に通うユウコは店主のことを『お父さん』と呼んでいた。どうもみんなが『親父』と
呼ぶのにならっているようだが、育ちの良さが出るのだろうか、『親父』とは呼びにくい
らしい。とはいえ元々は、

「余計なこと書かないでね(はぁと」

あ…はい…(第五十五夜 『彼岸峠』 参照)

態度がおかしい泰蔵を横目にレモンサワーを飲む。氷抜きで、と頼むのを忘れた。
今日は冷える。

つづく
615作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/21(木) 21:28:06 ID:xxj9pCBh0
しかし店が次第に賑わうに伴って温度はあがり、やがては暑い程になる。

何せそれほど広いとはいえない『枡や』に三十六度以上の体温を持つ人間が
ひしめいているのだ。しかも酒が進めば進むほどその体温も上がる。

時折開く戸から入り込む晩秋の風が心地いい。

午後八時ともなれば平日でも満員である。

『奥座敷』では相変わらず仕事にミスでもあったのか暗い表情の男たちが、畳の床に
酒と肴を置いて、自分を慰めている。特に畳に置かれた皿に顔を近づけ、肴を食べ食べ
している様は、まるで何度も土下座をしているふうに見える。(第四十九話 『現実態』 参照)

気付けば、福岡ユウコは、群馬泰蔵とぴったり肩を並べていた。

いつも自分の経営する鉄工所の仲間を連れて、賑やかにやっている男である。一人
カウンターにいること自体が珍しい。しかし、ユウコを見かけてはしつこい程ではないが何か
しらちょっかいを出してくる男でもある。

これだけ接近していて、一言の声もかけてこないのはおかしい。聞くのも悪いかと遠慮していた
ユウコであったが、酒が彼女を大胆にした。

「テツさん、なんかあった?」

「ん…あぁ、まぁ、ちょっとね」


つづく
616作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/21(木) 21:41:28 ID:xxj9pCBh0
福岡ユウコは気になった。

あれ?そういえばあたしよりテツさん早く来てたな…。いつも仕事終わってから
来るからあたしより遅いのに…。それにいつも金曜日にしか来ない。今日は
水曜日。やっぱり何か変だ。

何杯目か、泰蔵は菊水を飲んでいた。ほとんど酒ばかりで、はじめに頼んだ
厚揚げも、焼き鳥の盛り合わせもほとんど残っている。

「ちょっとって何ぃ?」

敢えてユウコはおどけて聞いてみた。今日はユウジロウも来ない様子だし、
少々退屈だったのだ。心配もあったが、単に興味、かまってほしい部分もある。

しばらく何か考えていた様子の泰蔵だったが低い声でぽつりぽつりと語り始めた。

「あんまり、こんな、酒ぇ飲みながら話す話じゃないんだけどさ…」

カウンターの向こうで、店主の焼き鳥を焼く手が一瞬止まった。

小さい声が店の騒がしさに消し去られそうで、ユウコは身体を斜めにして泰蔵に
擦り寄るような恰好になった。いつもの泰蔵なら喜ぶところだろうがそんな様子もない。

「なになに?」

「ウチはさ、親父の代から鉄、扱ってるんだよ」

「鉄工所のテツさんだもんね」


つづく
617作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/21(木) 21:57:19 ID:xxj9pCBh0
「もう何年になるかなぁ。今のウチの鉄工所はさ、作業場とは別に、プレハブ小屋
だけど事務所が別に建ってんだ」

「へー…うんうん」

「でも前は違って、作業場の一番奥に部屋があって、そこが事務所だったんだよ」

言いながら、すぅと泰蔵は手を前へ伸ばした。細長い作業場の奥に事務所がある、
という意味のジェスチャーだろう。ユウコはグレープフルーツサワーのグラスに口を
つけたまま、うなづいた。

「…んで、ある晩、泥棒に入られた。事務所荒らしっていうのかな」

「えー怖い…」

とは言いつつ勝手に泰蔵の焼き鳥のつくねに手を出す福岡ユウコの図々しさ。

「朝になって、俺がいつも一番に出勤するんだけど、事務所に行くには…」

「作業所を通っていかないと、行けないんだよね?」

「そうそう。あぁ親父、上善水如あるかい?」

「へーい」

狭い敷地になるべく多くの客席を設ける為、『枡や』の厨房はやたらと狭いのだが、
酒に関しては日本酒、焼酎、ウイスキー、バーボン、ウォッカ、ワインに至るまで
ないものはなく、銘柄も異常に豊富。しかもどこから出してくるのか分からない。

一部から『四次元居酒屋』と呼ばれる所以である。

つづく
618作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/21(木) 22:04:07 ID:xxj9pCBh0
上善水如を水のようにがぶがぶと飲むと、泰蔵は続けた。

「で…何だっけ?」

「ん?朝一番で出勤して…」

「おぅ、そうそう。それで、その日、朝一で出て、事務所に行こうと思ったら、
積んであった鉄骨の山が崩れてやがった」

「うん」

「あれ、崩れてるなとは思ったけども、帰りは俺が最後だったし、まぁあとで
積みなおせばいいやと思ってそのまま事務所に行ったんだ」

「…」

真剣に聞いているが、ユウコはつくねを食べ終えて、手羽先に手を出していた。
無論泰蔵のものである。

「そしたらもうシッチャカメッチャカでよ」

「えー!」

「もうメッタヤタラに荒らしたんだな。現金でやりとりすることなんかねぇから事務所
には金庫もないわけよ。あっても事務の女の子が机に忘れた小銭ぐらいなもんで」

「だからもう荒らして荒らして金ぇ探しまくったんだろうなぁ」


つづく
619作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/21(木) 22:15:54 ID:xxj9pCBh0
手羽先の骨にわずかに残っているナンコツ部分を前歯でこりこりと
かじりながらユウコが聞いた。

「警察には言ったの?」

「そりゃモチだぜ。すぐさま事務所から一一〇番してさ。パトカーが来るわ
雇ってる連中は通勤してきて驚いてるわ、近所の連中は集まるわでな」

「へー…」

「被害は何もねぇんだ。ただ事務所メチャメチャにされただけで。それでも
アレだな。警察の連中ってのはちゃあんと調べてくれるもんなんだな」

「…一応住居不法侵入だしね…」

「それに当時、何だ、事務所荒らしが流行ってたんだな。いただろ?今でも
いるのかな」

「なるほどね。警察も常習犯の可能性ありって判断したんだね」

「そうよそうよ。さすが先生だ話が早いや」

「だから被害が少なくても、細かく調べてくれたんだ」

「うん」


つづく
620作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/21(木) 22:24:18 ID:xxj9pCBh0
勢い込んで話していた泰蔵は一瞬辺りを気にするような素振りを見せて、
また声を潜めた。

「そしたらさ、作業場の床から、血が見つかったんだ」

「血?」

「作業場の床たってアスファルトで固めただけの床で真っ黒だから、
気付かなかったんだけど、警察が調べたらかなりの血が見つかったんだ」

「…なんで…?」

「さっき鉄骨の山が崩れてたって言ったろ?その近くに懐中電灯があった。
ウチのじゃない。犯人のやつだった。でもタマが切れててつかなかったんだ」

「…うん…」

偶然二人同時に、酒に口をつけた。泰蔵は上善水如を。ユウコはグレープフルーツ
サワーを。

「分かるかい。忍び込んで、事務所荒らして帰ろうかって時に、懐中電灯のタマが
切れた。真っ暗だ。何があるかもわからねぇ。鉄工所だから色々危ねぇものが
ゴロゴロしてる」

「…そうだよね…」


つづく
621作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/21(木) 22:29:37 ID:xxj9pCBh0
「一番血がたくさん見つかったのは、崩れた鉄骨の近くでさ。警察が、どかして
くれって言うから、ホイスト使って鉄骨どかしたのよ」

「ホイスト?」

「あぁ、クレーンだよクレーン。鉄骨運ぶごっついやつ」

「あぁ、うん」

「鉄骨どかしたら、下に何があったと思う?」

大体予想はついた。

「…犯人の死体…?」

「ならいいや…」

「え?」

左手で、右の二の腕をとんとんと、泰蔵はチョップする仕草をして見せた。

「手ぇだよ。手ぇ。犯人の、腕。腕だけ。」

「!」


つづく
622作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/21(木) 22:38:09 ID:xxj9pCBh0
「暗闇で鉄骨の山に服でも引っ掛けたのかねぇ…。身動きは取れねぇ。
助けも呼べない。早くしないと朝になる。焦ってもがいてるうちに…」

ずっと持っていた焼き鳥の串を、泰蔵は皿にわざと落とした。

「人間の力で崩せるような積み方はしてなかったはずなんだけどねぇ…」

「…え…で、犯人は…?」

「逃げたさ。腕だけ置いて、な」

「…お、お父さん…梅サワー氷抜きで…あとなんか温かいものちょうだい…」

「へーい」

「…何か…怖くなってきちゃった…」

「二代目先生から聞いてきたんだぞ」

「そりゃ…そうだけどさ…」

梅サワーを飲んで人心地つくと、ふと疑問に突き当たった。その事件と、今日の
泰蔵の思いつめたような表情の説明ができない。ここにいつもより早く来た理由も。

騒がしい中、二人は静かだった。店主はどこまで知っているのか時折ちらちらと
二人を見やった。


つづく
623作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/21(木) 22:46:54 ID:xxj9pCBh0
しばらく黙っていると泰蔵から口を開いた。

「…だから今日は毎年休みなんだ」

「え?」

「今日仕事すると必ず怪我人が出んだよ。毎年。毎年」

「…」

「しかも必ず、右腕にね。どんな気をつけても…だから休みにした」

「そうなんだ…」

出されたおでんの出汁だけを少し飲んだ。総毛だった身体が少しだけ暖まった
気がした。

店内のざわめきに二人取り残されていた。しばらくすると、泰蔵の反対隣の男が
立ち上がって、レジに向かった。途端にそちら側の肩が淋しくなる。

「お勘定」

「へーい。ありがとうござーい」

レジに立った男は随分と金を出すのに苦労しているようだった。

右腕がないからである。


  終
624本当にあった怖い名無し:2006/09/21(木) 22:54:01 ID:9DUi/4EXO
ええぇぇぇぇーーー!ジワジワと恐い!
犯人は死んでないようだけど怪我人は出るし、
隣の人は腕がないし……
625本当にあった怖い名無し:2006/09/21(木) 22:54:07 ID:V1mSaAuIO
ぎゃーーぁぁ!((((;゚Д゚))))
コワス…けど軟骨食べたい…
626本当にあった怖い名無し:2006/09/21(木) 23:38:41 ID:YPe9Ea+ZO
感想じゃないけど、枡やに是非『酔鯨』と『白雪』も置いてください!
627本当にあった怖い名無し:2006/09/21(木) 23:42:32 ID:u46vPE3G0
今回もジワジワきたなぁ。。作者さん乙です!

今日の秋の寒い夜にぴったりな話だw
628作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/22(金) 01:03:00 ID:ympX+bwM0
>>624
『片腕の男』は犯人なんでしょうか。私にも分かりません…

>>625
たまにナンコツに若干身(肉)がついた状態で出してくれる店が
あるんですよ。あれがまた美味いです。あとつくねにワザとナンコツ
混ぜてる店。いいです^^ こりっこり。

>>626
『四次元居酒屋』なので何でもあると思いますww

基本的に山形先生に出てくる食べ物や小物といったアイテムは私が
実際に食べたり飲んだり使ったり好きだったり、愛着のある物を出して
るんですが、日本酒は余り明るくないんですよ…。今度飲んでみるです^^

>>627
幽霊が直接ズバっと出てくるより個人的にこの手の話が好きですね。
なんだか分からないけど怖いみたいな。『夜にも奇妙な物語』ともちょっと
違うんだけど…。『枡や』での会話が中心、しかも語り手が若干べらんめぇで
無骨なてっちゃんだからどこまで怖さが伝わったか…。


感想たくさん感謝!読んでくれた人みんなにありがとう^^
629作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/22(金) 20:40:56 ID:ympX+bwM0
さてここらで怖い話でもするか。

草壁アヤはいつもの自信を失いかけていた。
きっと大人が、やけ酒というのをやる時はこんな時なのだろうと思った。


つづく
630作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/22(金) 20:54:37 ID:ympX+bwM0
業界大手とされるプロダクションのオーディションに参加したものの、
落選した上、きつね顔の審査員からは

「もう諦めたほうがいい。高校受験をして普通の人生を送った方がいいよ」

と嫌味半分に言われた。

これで主だったオーディションには出尽くした。後はアイドル発掘を内容とした
テレビ番組に応募してみるか、一年に何度か行われる全国規模の企画物の
オーディションを狙うぐらいしか方法がない。

素人参加番組に、応募して何か目立つことをやって誰かの目に止まるように
仕向ける方法もあったが、それはもう宝くじのようなものだった。

このまま電車に乗って帰るのもいやで、ファストフード店で一人、好物の
チーズバーガーをぱくついたが気分は一向に晴れず、そのままその辺に
ぽつんとあった公園のブランコに揺られていた。

猫の額ほどの狭い公園。この程度の公園でも都会ではそこそこ広いほうだろう。

そろそろ夕闇が迫ろうとする時間。地面に新聞紙を敷いて、ギターを奏でている
青年がいた。

アルペジオの旋律が、低いビルの谷間に吸い込まれていく。

大きく溜息をつく。やはり芸能人は無理か。

一応そこそこの高校に行ける学力があることが疎ましかった。(第六十二話 『障壁』 参照)


つづく
631作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/22(金) 21:03:32 ID:ympX+bwM0
何となく自分には、進学という逃げ場がある気がするのだ。必死になりきれない
気がしないでもない。

頑張っているつもりなのだが、本当に玉砕覚悟の精神を持っているのか。

そう考えると思考は止まらなくなる。弱い。テレビに出てくるあの同世代の子たちは
テレビではあんな明るく楽しくやっているようだけど必死なんだ。生き残るため。
サバイバル。その精神力と、芸能にかける情熱。自分はその道を進む意外に道は
なしという猪突猛進の強い意思と勢い、直進性。それが自分にあるか。

『もう諦めたほうがいい。高校受験をして普通の人生を送った方がいいよ』

やばい。泣けてきた。その世界に入り頑張りたいのに、その世界に入ることすら
許されない屈辱。入ってしまえばいけそうな気がする。いや、入れない時点で
駄目なんだ。

やはり、泣いていた。

「どうしたの?」

声がする。気付けば隣のブランコに人が座っている。いつの間にいたのだろう。
優しそうな老人だった。笑顔をなげかけているが前歯がない。

「好きな人にでもふられたのかな?」

アヤは大きくかぶりを振った。

「よかったら、お爺ちゃんに聞かせてよ。話」


つづく
632作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/22(金) 21:15:43 ID:ympX+bwM0
鼻をすすり、バーバリーのトレンチコートの袖で瞼を拭う。

そういえば、親にも友達にも、

『芸能人って大変でしょ?大丈夫なの?』

と聞かれる度、平気だと言い続けてきた。自信はあると。自分に言い聞かせる
ように。弱味を見せないように。

弱味を見せればつけ込まれる気がした。

『だったらやめちゃえばいいじゃん。頭もいいんだしさー』

親も本音を言えば進学を望んでいるようだし、弱味を見せることはできなかった。
絶対いける。絶対大丈夫!

しかしそろそろ限界だった。

アヤは老人にぽつぽつと話をした。こんな老人に芸能界のことが分かるだろうか。

しかし優しげに彼女の話を聞きながら、老人はうなづき、よく話を聞いてくれた。
その様子に引き込まれたのかアヤは全てを曝け出していた。不安。恐怖。悔しさ。
それでいて、進学という退路に少しずつ感じている魅力。

今の若者が将来へ抱く感情を老人は知ってか知らずかとにかく聞いている。アヤは
アヤで話してだいぶ気が楽になったのか、少しずつ笑顔を見せるようになっていた。

「笑うと可愛いねぇ。今テレビに出てる子たちなんかより、よっぽど可愛いよ」


つづく
633作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/22(金) 21:22:06 ID:ympX+bwM0
素直に嬉しかった。と老人はこんなことを言い出した。

「歌も歌うって言ったね。アヤちゃんの歌が聞いてみたいなぁ」

その場限りの社交辞令的冗談かと思ったがどうも本気らしい。

「聞かせてもらえないかなぁ」

「えーここでですか?」

「歌手っていうのは、みんなの前で歌うのが仕事でしょう?」

言われて気付いた。確かにその通りだ。何となく度胸試し、舞台根性をつける
為、老人に一曲披露することにした。

ブランコを降りて、ギターの青年の元へ向かう。

「すいません」

「…はい?」

「あの、あたし、歌いたいんで、伴奏つけてくれませんか?」

「あぁ、いいよ」

青年も少し驚いた様子だったが、嬉しいのか喜んで歌本を出して、好きな歌を
選ぶように言った。老人に聞かせるのだし伴奏がギター一本なら静かなゆったり
した曲がいいだろうとアヤは知っている曲を一曲選んだ。


つづく
634作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/22(金) 21:28:55 ID:ympX+bwM0
「これで、お願いできます?」

「うん。全然だいじょぶ」

老人は少し離れてブランコに小さく揺れている。公園には何組かの
カップルもいた。

ギターの前奏に続いてアヤが歌いはじめた。

アヤの声量は飛び抜けている。それ故、オーディションでは顔をしかめる
審査員もいた。声が大き過ぎるというのだ。

しかし、室外においてその響きは絶大な威力を発揮した、公園の側を通り
かかった者ですらをも公園内に引き込む。

歌い終わる頃には小さい人だかりができて、拍手が起こった。アヤは頭を下げ、
ギターの青年に礼を言うと、ブランコに戻った。

やっと集まり始めたギャラリーは、なんだ一曲だけだったのかと少々残念そうだった。

「いやあ上手いね!」

老人は感心した様子で帰ってきた彼女を迎える。

「そうですか?」

「それでオーディションに受からないの?おかしいねぇ。どうかしてるよ」


つづく
635作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/22(金) 21:38:45 ID:ympX+bwM0
とにかく老人の褒めっぷりは凄まじく、遂に彼は正体を明かした。

「今度是非連絡をちょうだいよ」

「え?」

「あのね…私はこういうことやってるの」

「はぁ…」

「それじゃ、余り遅くなったら危ないよ。最近物騒だからね。早く帰った方がいい。
必ず連絡してね」

つい先日襲われたことを思い出して(第六十二話 『障壁』 参照)、別れの挨拶も
適当にアヤは駅へと向かった。

老人が最後に手渡したものは黄ばんだ名刺だった。

『福井芸能事務所 社長 福井宗一郎』

とあり、電話番号と住所が書いてある。聞いたこともない芸能事務所だ。少しだけ
アヤは落胆した。恐らく売れない演歌歌手を何人かかかえて細々とやっている
小さい事務所だろう。

電車に揺られながら、アヤはまた大きく溜息をついた。


つづく
636作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/22(金) 21:48:10 ID:ympX+bwM0
翌日の昼休み、アヤは一応その名刺にあった電話番号に電話を
してみることにした。

何を当てにしたわけではない。きっぱりと断るためだ。この福井という
老人は嫌いじゃないし、親身になって話を聞いてくれた。でも、小さい
事務所でこつこつやっていくつもりはない。

変に期待もさせたくないから、もし自分を囲って、デビューさせるような
つもりが向こうにあるなら、はっきり断ろうと思ったのだ。

しかし妙なことに気付いた。電話番号がおかしい。電話をしてもつながらない。

「あれ?」

困っていると声をかけられた。

「よお草壁」

見れば山形ユウジロウが立っている。

「あ…先生…」

「どうした?やっぱり上手くいかないのか?」

無論、アイドルタレントへの活動の話である。事情はよく知っていた。一応進路相談専門の
教師はいるにはいるのだが、まずほとんどの生徒が高校進学する中で、タレントに
なりたいという相談にはさすがに乗り切れず、主立って真剣に気にかけてくれている教師は
ユウジロウぐらいだった


つづく
637作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/22(金) 21:52:53 ID:ympX+bwM0
「いや…そういうのじゃないんですけど…これ見て下さい」

名刺を見せる。

「電話、つながらないんですよ」

「…こりゃまた古い名刺…つながるわけないよ。これまだ九桁の時のだ」

「九桁?」

「知らないか…。昔東京の電話番号ってのは九桁しかなかったんだよ。
今は十桁。人口が増えすぎて番号が足りなくなったから、いつだったか
一桁増えたんだ」

「そうなんですか…」

「しかしこんな古い名刺誰から…」

と言いかけて、ユウジロウの動きが固まった。

「これどこでもらったの?」

「…渋谷かな…?あの辺の公園で…。おじいさんから…」

「ちょっと預かっていいか?」

「いいですけど…」


つづく
638作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/22(金) 22:01:40 ID:ympX+bwM0
その日、夜になってユウジロウからアヤに電話があった。今から迎えに
行くから準備をして待っていろというのだ。

わけも分からず着替えて家の外で待っていると、赤いポンコツの軽自動車が
やってきた。言われるままに乗り込んで、向かう先は山形家だった。

「え?先生やですよえっちなこととか…」

「ばか!そんなんじゃない。いいから降りろ!」

居間に通される。アヤが山形家に入るのは初めてである。居間には中年と
呼ぶには少々歳のいった身なりのいい男が座っていた。見覚えがあるようで
ない。

男と向かい合うように、アヤとユウジロウは座った。男が口を開く。

「この名刺をもらったのはあなたですか?」

ユウジロウに渡した名刺を男は見せた。

「あ、はい」

名刺を渡された詳しい経緯を教えてくれと言うので、アヤは詳しく話した。公園。
ブランコ。老人。ギターの青年。歌。集まった人。もらった名刺。

男はひどく難しそうな顔をして聞いていた。


つづく
639本当にあった怖い名無し:2006/09/22(金) 22:24:06 ID:Onts4MJ8O
ドウナッテルノ?(゚Д゚;≡;゚Д゚)
謎だらけだお!
640作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/22(金) 22:24:14 ID:ympX+bwM0
「実は私、この福井宗一郎の息子でして」

机に置かれた黄ばんだ名刺を男は四本の指でとんとんと叩いた。

「はぁ…」

「父は十六年前に他界しました」

「え?」

彼の父親、福井宗一郎は一九五〇年、三十七歳の時設立福井芸能事務所を
設立した。そして六十歳を迎えるにあたり会長職に退き、息子であるこの男に
社長職を引き継がせた。

しかし会長となっても七十七歳で逝去するまで芸能人の卵を発掘しては育てて
きた。会長なくして福井芸能事務所なし、と言わしめた程の人物。

彼の育てた芸能人は数知れず。今だマネージメントの神様、プロデュースの神様と
呼ばれる。

そしてその息子は父の死後、社名を世界に通用させる為に日本名から横文字に
変更。

モンロービルプロモーションである。


つづく
641作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/22(金) 22:31:23 ID:ympX+bwM0
「申し送れましたが私こういう者です」

男が差し出す真新しい名刺。そこにあった名は

『モンロービルプロモーション 代表取締役 福井幸之助』

アヤは失神しかけた。モンロービルプロモーション。それは業界最大手と
される芸能事務所だった。余りに巨大、しかもオーディションなどは一般に
行われていない。

オーディションなどしなくても、芸能界を目指す有能な者たちからの履歴書、
デモテープ、写真が毎日ごまんと送りつけられてくる。その中から選ぶか、
もしくは小劇団や、地道に活動しているバンドにまで触手を伸ばし、原石を
見つけては磨き、世に送り出す。

今では日本人アーティストや俳優を外国にも売り出し成功を収めていた。

そのトップが目の前にいるのである。アヤも無意識的にモンロービルは
避けていた。どこかで絶対に自分では通用しないと思いこんでいた。

「え…あの…」

戸惑うアヤにとにかく土曜日に本社へ来るように告げて、そろそろ遅いからと、
アヤを帰らせた。ユウジロウがクルマで送っていく。

福井幸之助は一人不思議そうに父の名刺を眺めていた。


つづく
642作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/22(金) 22:37:30 ID:ympX+bwM0
居間にアカネが入ってきた。

「福井さん…」

「あぁすいませんでした今日は…」

「いえいえ」

「あの草壁という子の言っていた公園。あそこは父が事務所を初めた時に一室を
借りていたビルの跡地です」

「そうなんですか…それで、どうなんでしょう。あの子は…」

「まだ分かりませんが…父の目は絶対でした。死ぬ間際まで。ろくに目も見えず、
耳も遠いのに、あの人にはその後世に出る人が分かっていた」

「…」

「父がみつけた最後の原石です。輝かせてみせます」

「あたしからもお願いします」

「大丈夫ですよ。父は、絶対ですから」

草壁アヤの未来が約束された瞬間であった。


  終
643作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/23(土) 00:09:12 ID:XO2pc9KD0
…今までで一番難しい話だった…設定なし、段取りなし、ライブの限界を見た…
これが俺の実力か…。今読み返すと不備がだいぶある…。

ちなみに福井幸之助がなんで山形家にいるかってアカネのお客さんだからです。
それも書きもらした…。

『モンロービルプロモーション』の元ネタが分かった人、雑談スレに連絡ください。
検索は反則ですぞ。

あー久しぶりのポカだ!自分を嫌悪しろ!傷つけろ!虐め抜け!責めろ!殺せ!
俺はまた一度死んだ!駄目な自分を殺した!そして私は私に淘汰される。

許せ草壁!
644本当にあった怖い名無し:2006/09/23(土) 02:34:30 ID:1VtWupgYO
> ちなみに福井幸之助がなんで山形家にいるかってアカネのお客さんだからです。

一作目から読んでいる読者ならわかったハズ!
私はすぐにわかりましたよ^^
って、きっとそうなんだろうな…と想像を膨らませていただけなんですけれど^^;
今回の話、ラストで鳥肌がたちました!
(うまく書けませんが感動の鳥肌…?)
アヤちゃんの将来を想像して嬉しくなりました^^
645作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/23(土) 13:46:37 ID:XO2pc9KD0
>>644
そうそう鳥肌を立たせたかった。

立ってくれる人が一人でもいてよかったよぉ…・゚・(ノД`)・゚・。
646本当にあった怖い名無し:2006/09/23(土) 19:04:48 ID:gTMhNuJQ0
アヤの未来に幸あれ.*:.。.:*・゚(´・∀・`) .*:.。.:*・゚
俺もアカネのお客さんだってピンときましたよwww
よって熱心な読者にとってはポカじゃないので作者さん安心汁!
647作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/23(土) 19:52:23 ID:XO2pc9KD0
>>646
ありがと♪大丈夫だよー^^昨日のことは昨日のこと。今日のことは今日のこと。

一度眠るとあたしは死んで、起きると生まれ変わるのです。さて今日もそろそろ怖い
話するんべぇかなぁ…。今日は誰が動き出すか…俺にも分からない…。
648作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/23(土) 20:49:06 ID:XO2pc9KD0
さてここらで怖い話でもするか。

岡崎リョウコ、草壁アヤ、木下サエの三人は駅前のファストフードショップに
いた。日曜日の午後である。


つづく
649作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/23(土) 21:03:14 ID:XO2pc9KD0
あーいきなり電話…まってて・・・
650本当にあった怖い名無し:2006/09/23(土) 22:17:24 ID:XO2pc9KD0
本来は元オカルト同好会のメンバーを揃えるつもりであったが、雪野カエデは、
所属している吹奏楽部の発表会があり、残念ながらこの場にはいない。

霧原トオルも、木下サエの彼氏であることを、一応秘密ということにしていたが、
明らかにみんなが感づいていることも察していて、気まずいのか適当な理由を
つけて来なかった。

昼過ぎに集合ということで、それぞれ昼食は済ませてしまっていて、注文したのは
それぞれ飲み物と、みんなで分けてつまめるようにと最も大きいサイズのフライド
ポテトだけである。

秋晴れの優しい日差しがガラス張りの店内を明るく照らしていた。

外には駅前の商店街を行き来する人々が見える。

受験勉強に疲れ、久しぶりにゆっくり会おうという名目だったが、真剣に勉強に
取り組んでいるのはリョウコぐらいで、サエはほどほどに、アヤに至っては
受験勉強はしていない。

当然である。草壁アヤは、先日、モンロービルプロモーションの臨時オーディションを
受け、社長じきじきの太鼓判をもらい、デビューは完全に決定していた。

しかも、ただでさえ強大な芸能プロダクション、モンロービルプロモーション挙げての
大型新人として、である。

しかしながら、すぐにデビューというわけではなく、両親の、『せめて義務教育だけは
しっかりと受けて欲しい』との要望を汲んで、卒業後にデビュー。それまでは、ボイス
トレーニング、ダンス、演技の練習を集中的に行うことになった。いずれも講師陣は
その道のスペシャリスト達で、マスコミにはデビューの発表まで一切を秘密とした。

つづく
651作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/23(土) 22:27:14 ID:XO2pc9KD0
両親もモンロービルプロモーションからのデビューと聞いて、いまいちぴんと
こないようだったが、アヤの両親らの世代にはモンロービルプロモーションの
前身である福井芸能事務所の方がよく通じた。

一九七〇年代八〇年代のアイドルブームの際、多くのアイドルを輩出した
事務所で、しかも当時のアイドル達は今や実力派の歌手となり、女優となり
現役で活躍している者も多い。

所属タレントの息が長いことも福井芸能事務所並びにモンロービル
プロモーションの特色といえた。

両親としては安泰である。これ以上嬉しいことはない。しかしあくまで彼女の
デビューは秘匿。親戚にも漏らすことができず、それどころか両親以外の
五人の兄姉たちにも内緒だった。

「でもさーもうお父さんずっとニヤニヤしっぱなしでさ。さんま御殿に出たら
どうだの、うたばんに出たらどうだの、もう芸能人になったつもりで話してる
からお兄ちゃんたちとかお姉ちゃんたちも変な顔してるよ」

「あれ?お父さんってちょっと反対してなかった?」

「でもモンロービルだよ?喜ばない親いないでしょ?」

「ごめん。もうちょい静かに頼める?」

「あーごめんごめん」


つづく
652作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/23(土) 22:40:40 ID:XO2pc9KD0
とはいえ中学生、気心の知れた仲間にはつい話してしまっていた。

知っているのは友人ではリョウコとサエの二人きり。口も堅く、サエは
恋人である霧原トオルにさえそのことを告げてはいない。妬むような
性格でもないのでアヤも安心だった。

そもそもこの元オカルト同好会、妙な関係で、確かに友情を互いに感じては
いるが、それぞれの余り深い部分にまで干渉しようとはしない。ある意味、
それぞれがそれぞれで勝手にやっていればいい、という関係だった。

一見冷たそうであるが、鬱陶しさがなくて心地よかった。メールをして返信が
なくても、それはそれで何か忙しいのだろうと別に気にはしない。隠し事をしても
ああ何か事情があるのだろうと追求もしなければ、隠し事をしたことを責めも
しない。

簡単に誘えて、簡単に断れる。心安い関係だった。カエデだけがアヤデビューの
話を知らず、のけ者にされているようだが、そんなことはない。直接会うことが
なかったし、電話するような用事もなく、またわざわざデビュー決まったという
ことをこちらから言うまでもない、と思っただけのことである。

仮にカエデとたまたま出会い、どうなりましたか、と聞かれれば素直に答えるつもり
だった。事実、リョウコやサエも自分からどうなったか聞いたので、教えてもらえた
のだ。アヤからは何も言い出さなかった。


つづく

653作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/23(土) 22:49:34 ID:XO2pc9KD0
「でもすごいねー。おめでとう、だ」

「えへへ…何回も言ってもらったよー。ありがとう」

「リョウコの勉強はどうなの?なんか顔やつれてるよ?」

「うん。ちょっと疲れたね。でも大丈夫。調子はいいよ」

「そっかそっか。受かるといいね」

「受かるといいねってサエはどうなの?わざわざ先生の家で妹さんに
教えてもらってるんでしょ?」

「うぅん…まぁ…無理はするつもりないからね」

デビューの決定したアヤ、勉強は順調だというリョウコ。対して何もしていない
自分。別に焦りはないが、ただ必死で頑張っている二人に申し訳ない気がして
サエは苦笑いをした。勉強もそこそこに彼氏と遊び呆けているのだ。

「まぁ…サエはサエらしくしてればいいよ」

「なんだよそれ!」

「あ、そうそう指ってどうなったの?」

「えーモノ食べながらその話ぃ?」

「キッツいなぁ…やっと忘れかけたのに…。あんたこそ髪の毛プレゼントマンは
どうなったのよ」


つづく
654作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/23(土) 22:50:21 ID:XO2pc9KD0
「…その話はナシでしょ!そのせいでこんな苦労してるんだから!」
「だったら指の話だって聞くなよ!」

655作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/23(土) 23:06:04 ID:XO2pc9KD0
(うぉ…送信するショートカットキーを叩いてしまったらしい…>>654 無視して。ごめん)

「…その話はナシでしょ!そのせいでこんな苦労してるんだから!」
「だったら指の話だって聞くなよ!超キモかったんだからっ!」
「…まぁまぁ…」

岡崎リョウコは、小学校のクリスマスのプレゼント交換会で、自分に恋心を抱いていた
男子から、髪の毛の束が入った呪術めいた謎のプレゼントを偶然ながらも受け取って
しまい、彼が自分が目指していた高校と同じ高校を狙っていると知るや、一つランクの
上の高校を目指して頑張っていた。(第七十話 『君影』 参照)

しかしながら結果的には良かったとも思っている。彼女t@最終的に狙っているのは
東大だ。当然ながら高校のランクが上がれば上がっただけ、東大も近づくというものだ。

一方、痴漢されている雪野カエデを救い、痴漢を駅員に突き出したところ、突然ナイフを
出し、つかんでいたサエの手を切りつけ電車に飛び込んで死んだ男は、その一振りで
自分の親指をも切断しており、後日、サエがその日に持っていた買い物袋から痴漢の
親指が転げ出てきたという事件もあった。

当然の措置ともいえるが、気丈なサエはその親指を丁寧にハンカチに包み、父親を
連れ立って近所の交番へ届け、詳細を述べた。

余りの偶然に、警察官は驚き、いぶかしんだが、戸惑いながらも預かってくれ、それきり
何の連絡もないので警察の方で適当に取り計らってくれたのであろう。


つづく
656作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/23(土) 23:18:02 ID:XO2pc9KD0
「ねぇねぇ、どこの高校?」

三人が同時に振り返ると、見知らぬ三人の男が立っていた。余り雰囲気の
よくない男たちである。

「あ…あたしたちまだ中学です…」

戸惑い気味にリョウコが答えた。

「うっそ!マジで?大人っぽいね。ねぇねぇ俺らヒマなんだけどさ、一緒にカラオケ
とか行かない?」

机の下ではアヤがサエの手を押さえていた。彼女の喧嘩早さを知るアヤである。
とりあえず穏便に、という合図だ。確かに相手はまだ何も悪いことをしていない。

「あ、もう帰ろうとしてたところなんで」

適当にリョウコがあしらった。

「まだポテト残ってんじゃん。じゃそれ一緒に食べるだけ。ね!」

「いや、本当に帰らないといけないんで。すいません。ね、行こ」

促して、リョウコは早々にバッグを持って立ち上がり、アヤも続いたがサエが動かない。
意地になっているようだ。しかしここで問題を起こせばリョウコとアヤも巻き込まれる。
リョウコは進学に響くかもしれないし、アヤに至ってはせっかくのデビューをふいに
する可能性も充分ある。

渋々サエも立ち上がり、三人で店を出て行った。


つづく
657作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/23(土) 23:25:51 ID:XO2pc9KD0
しばらく歩いて振り返ったが、さすがに追ってくるようなことはないようだ。

「あーよかった…。ありがとう。サエ」

「ヒョロかったなぁ…多分勝てた」

「勝てたと思うよ。実際。サエちん強いもんね」

無論、サエの気持ちをいさめる為の嘘だ。

「なんか時間中途半端だなぁ…」

「話し足りないね」

「ク・ドゥイユ行く?」

「うぉー金がねぇ…一番安いコーヒーでも五百円はするぞ。雰囲気はいいけど」

「ファルマコンは?」

「あー久しぶりだ…行こっか?」

「行こ行こ」

駅から、『枡や』の方向へしばらく歩くと、それはある。ハンバーガーショップでは
あるが個人経営の店で、味は評判だが、身体に悪い素材を使っているという悪評も
あった。『ファルマコンバーガー』である。


つづく
658作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/23(土) 23:46:05 ID:XO2pc9KD0
店に入る。店内はちょうど、西部劇に登場する酒場のような雰囲気である。

木製の床に壁、カウンターがあり、四人掛けの丸テーブルが幾つかある。
壁には額に入った古いアメリカ映画の宣伝用ポスターが飾られ、アメリカの
ビールメーカーのロゴのネオンが光り、ジュークボックスが設置されている。
古き良きアメリカ、といったコンセプトなのだろう。

セルフサービスではなく、席につけば注文を取りにウエイトレスがやって来る。
値段の幅が広く、最も高い『スーパーファルマコンデラックスバーガー』は
千五百円する。

しかし、『ハーフファルマコンバーガー』はやや小ぶりながらも、粗挽きの
合い挽き肉を使ったハンバーグとレタス、薄切りのトマトとピクルスが挟まれ
二五〇円。

ドリンクはアルコールもあり、全てガラス瓶の物が出され、価格は普通に
小売店で購入するのと同額である。その点は良心的といえた。

ハンバーガーショップの定番メニューともいえる細長いフライドポテトはなく、
代わりに厚めに切ったジャガイモを揚げて出す。要するに分厚いポテトチップ
である。

リョウコとアヤは炭酸飲料と、件のポテトフライを頼み、サエはそれに、
『ハーフファルマコンバーガー』を足して頼んだ。


つづく
659作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/23(土) 23:53:32 ID:XO2pc9KD0
「お昼食べてきたんじゃないの?」

「おやつおやつ。さっきの連中なんかムカつくし」

「ここのハンバーガー食べたら死ぬって…」

「それってさっきの店が立てた噂でしょ?」

『さっきの店』というのは、先ほどまで三人がいたファストフードショップである。
確かに競合店である『ファルマコンバーガー』から客足を奪う為、『ファルマコン
バーガーのハンバーガーは合成添加物の塊で大変身体に悪い』という噂を、
そのファストフード店が流したという『噂』があった。

「なんでも同じもんばっか食ってりゃ死ぬよ」

美味そうにハンバーガーを頬張りながらサエは言った。食べ方もダイナミック
である。三口程度で食べ終えてしまうそうな食べっぷりだ。

「それはそうだね。うん」

「そういえばデビューって何でデビューするの?」

「何でって?」

「ドラマに出るとか、歌でとか、グラビアで、とか色々あるんじゃないの?」

「あー。歌だよ。CDが出るんだ」

「すげー…」


つづく
660作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/23(土) 23:58:13 ID:XO2pc9KD0
「何だか知らないけどもうプロデューサーは決まっててさ」

「へー…」

「もう曲まで決まってるんだけど…ちょっと不安なんだよね」

「なんで?」

「だって曲って、時期によって流行るジャンルってあるでしょ?」

「うんうん」

「今から決まってて、来年の五月に出るんだけど、その時にはもう時代遅れとか
なってないのかなって思って」

「あーそっかそっか」

「でもいい曲はいい曲でしょ?気にしなくていいんじゃないの?」

「曲はなんていうの?どんな歌?」

「『アイコノクラズム』って曲名しか教えてもらってないんだ」

「何それ。aikoの歌みたいだね。どんな意味?」

「さぁ…」

「まぁモンロービルから出せば売れるでしょ」


つづく
661作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/24(日) 00:09:04 ID:r0dsn49p0
既にハンバーガーを食べ終え、また先ほどの連中のことを思い出したのか。
何となくサエは機嫌が悪そうだった。しばらく何か考えた素振りを見せると、
口を開いた。

「そういえばウチの中学ってなんでヤンキーいないの?」

「…確かにそうだね、見たことない」

「ちょっと髪染めてる子ぐらい?」

「うん」

「風紀委員のせいでしょ。委員会で身体鍛えてるのあそこぐらいだよ」

「走ってるもんなぁ…。でもそれだけかなぁ。周りにはいるよね?」

「いるいる。駅前とか来ると分かるよね」

学校近くの堂坂公園で不良に絡まれたことをアヤは思い出して、少し嫌な
気分になった。その事は他の二人にはさすがに伝えていない。
(第六十二夜 『障壁』 参照)

「あれ?そういえば、アヤのお兄ちゃんって、ウチの卒業生じゃない?」

今時珍しく、草壁家は大家族といえた。両親は健在で、三十五歳の長女を筆頭に、
三十二歳の長男、二十九歳の次男、二十七歳の次女、二十一歳の三男がおり、
アヤは六番目の子供だった。末っ子である。


つづく
662作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/24(日) 00:17:35 ID:r0dsn49p0
軽子沢中学はできてまだ十年しか経っていないので、二十一歳の三男より
上の兄姉は他の中学へ通っていたが、三男は軽子沢中学を出ている。それに
しても六年も前の話だ。

「あーうん。一人お兄ちゃんはウチ出てる…。すごい荒れてたって」

「そうなの?」

「らしいよ。脅かされたもん。入るとき。怖かったなぁ。入って安心したけど」

「そうなんだ…それで風紀委員ができたのかな?」

「ううん。風紀委員はあったよ。お兄ちゃんそうだったもん」

「ん〜?じゃあ何が変わったんだ?」

「さぁ…」

それ以上続けても仕方のない話なので、適当に話は移り変わり、ポテトフライも
食べつくして、そろそろ頃合、解散ということになった。とはいえ途中まで帰る方向
は一緒である。

「あれ!もう暗いやー」

「ほんとだ…今日ってなんか面白いテレビあったっけ?」

「いいなー余裕ある人は…」


つづく
663作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/24(日) 00:26:49 ID:r0dsn49p0
なんだかんだと話しながら駅の方へと向かっていく。と、先ほどの連中とは
また別の、更に凶悪度を増したような風体の若い男が四人ほどで何かを
やっている。

街行く人も気にはなっている様子だが基本的に無視だ。

見ればどうも、若者四人で一人の男を囲んで何やらやっている。

「おいあれ、カツアゲだよな…?」

「ひどい…おじさんっぽいよ」

「…ちょっとおじさんって…え!うそ…」

「なになに?」

なるべく気付かれないように横目で見ながら通り過ぎる。若者四人に
囲まれて縮こまっている男には見覚えがあった。

「チェンジマン…!」

「だよね?だよね?」

「あちゃあ…校長だめだめだなぁ…」

百メートル程離れて様子を伺っていると、四人は校長を囲う形で移動
し始めた。


つづく
664作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/24(日) 00:35:06 ID:r0dsn49p0
「やべぇ…連れてかれるよ…」

「どうするんだろ…」

「見えない所でボコして財布取るとか、そんな感じっぽいなぁ」

「えー!」

「警察行こう!」

「待てって。とりあえずどこに連れてくか見ておかないと…。じゃあ
リョウコ先に駅前の交番の前に言ってて。あたしどこ連れてくか見て
電話するから」

「あぁ、そか。わかったわかった」

「アヤはここにいな。面倒ごとになったら大変だよ」

「ありがとう…。ごめんね」

若者四人は不良というよりむしろチンピラといった感じである。サエも
さすがに手が出せず充分な距離を置いてついていった。

最近パチンコ店が潰れてできたコインパーキングへ入っていく。クルマで
拉致するつもりかとも思ったがどうも違うらしい。

そのコインパーキングはL字型の敷地をしており、奥まった所へ入ると、
表通りからは全くの死角となる。


つづく
665作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/24(日) 00:42:45 ID:r0dsn49p0
耳を立てると、『金を出せ』だの『ぶつかっておいて』だの『謝って済む
問題じゃねぇ』だのという罵声が聞こえた。

一触即発の危機だ。サエはコインパーキングから離れたところでリョウコに
電話をかけた。

しかしよりによって通じない。何度かけても

「お客様のお掛けになった電話は、電波の届かない所におられるか…」

仕方なくサエは交番に向かって走った。そんなに時間はかからない。

電話を持って不安げにしているリョウコは驚いた顔をしている。

「え?どうしたの?」

「そこ電波届かないってさ!」

そのままサエは交番へ入り、息も絶え絶えに、コインパーキングで若者四人に
人がからまれていることを伝えた。

いちいち説明するのも面倒なので校長がどうのという説明は省いた。

警察官も彼女の只ならぬ様子にすぐに現場へ向かう。あのコインパーキングが
犯罪の温床であることは知っている。表通りから見えにくい為、恐喝や車上荒らし
といった犯罪が起こっていた。だからコインパーキングと聞いた途端にぴんと来た。


つづく
666作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/24(日) 00:56:33 ID:r0dsn49p0
サエとリョウコも続いたが、普段鍛えている警察官の俊敏さには
全く追いつけない。

コインパーキングでやっと追いつく。

そこには、がらの悪い四人の若者の無残な姿があった。

ある者は首を折られ、またある者は腕がありえない方向に曲がり、
ある者はコインパーキングの照明が取り付けられている柱に
もたれるようにして、後頭部から大量の血を流していた。

「…き…君たちは…何を見たのかね…」

「…いや…おじさんが…この人たちに絡まれてて…それで…」

若者四人は全員死んでいた。詳しいことを聞かれたが校長の名は勿論、
絡まれていた男の特徴すら『よく見えませんでした』で通した。結局そのまま
返される。

帰り道、アヤは言った。サエが交番へ走ってしばらく後、校長が一人、
コインパーキングから出てきて、そのまま何事もなかったかのように
帰っていったこと。そしてその直後、警察官が駆け込んできたのだ。

その間わずか三、四分。その間何があったのか。

軽子沢中学には、不良がいない。


  終
667本当にあった怖い名無し:2006/09/24(日) 01:03:13 ID:d/HQD13iO
こ、校長…((((゚д゚;)))ガクブル
668本当にあった怖い名無し:2006/09/24(日) 01:03:55 ID:2gFeH2dpO
まさかっ…!
ケンシロウたん…お前はもう(ryとか言うのかっ!
669本当にあった怖い名無し:2006/09/24(日) 02:21:35 ID:bzhzw61nO
>>668
バロスwww
でもそんな校長もイイ!(゚∀゚)

こういう同好会メンバーの日常生活の描写があるお話も好きだなぁ(´ー`)
670作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/24(日) 02:31:44 ID:r0dsn49p0
>>667
感想ありがとう。怖がってくれてありがとう。自分でも好きな話です。

>>668
ケンシロウという名前にしてしまったのがいけなかった…絶対結ばれる
だろうと思ったけど案の定…その発想で行くと途端に笑い話になって
しまうんだよなぁ…。でも見方は人それぞれですな。(笑)

>>669
今日の話は日常から一気に恐怖へ転落する話を書きたくて、かなり
満足のいく落ちっぷりなんだけど、北斗の拳と絡められるともう
お笑いでしかない(笑) こまったキャラだよケンシロウ…。

教頭にすべきだったかなぁ。いや、でも校長だな。あと二十話ちょっとで
一応終わるわけだけど、もしかすると、最後にもっとも嫌われるというか、
裏切られるキャラクターは鬼塚ケンシロウかもしれません…。

ヒント:彼は単に『普段弱そうだけど実は強い人』ではない可能性がある…。

あくまで、『可能性』…。
671本当にあった怖い名無し:2006/09/24(日) 16:46:49 ID:6Qw5cGLq0
第七十三夜 忘れ物
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1156690689/513
親指を失った男は其の指を取り返しに来たのでしょうか?
いずれ死ぬつもりであったのでしょうから、サエが呪われる謂れはないと思いますが、
その後の彼女がちょっと心配です。
まさか、痴漢で捕まえられた腹いせにサエの所在を知るべく、
わざと自分の分身を残していったなんてことは…

第七十四夜 夜の花
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1156690689/539
「春は菜の花 秋には桔梗 そして私はいつも夜咲くアザミ…」
本当にアザミは夜咲くものなのか知りませんが、このスナックには相応しい店名かと思いました。
ママはユウジロウが必ず来ると信じて半月もの間、店を開けていたのでしょう。彼にしか見えない店の入り口を。
もし、ユウジロウがお墓の場所を尋ねていたとしても、彼女は語らなかったと思います。
知らせなくてもユウジロウはいつか来てくれると信じているから。

第七十五夜 引き潮
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1156690689/555
ト、トオル〜、一体どうしたのでしょうw
ちょっと急展開な感じもありましたが、なんかいい関係ですね、この二人。
多分、普段はサエに年上風吹かされて尻に敷かれてるんですよ、トオルは。
でもいざという時にはしっかり主導権をトオルが握るみたいな。
最後のオチは一気に気持ちが冷めていく様がなんか読み手に伝わってきますね。
672本当にあった怖い名無し:2006/09/24(日) 16:48:31 ID:6Qw5cGLq0
第七十六夜 真理
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1156690689/575
ユウジロウが校長にアカネを紹介しなかったのも真理。
ユウジロウが校長に当世女性事情を説くのも真理。
ジャーナリストのリュウジが隠し撮りするのも真理。
忍者再勃起wも真理。ユウジロウがサエを奪回するのも真理。
オヤジが不審な成金に鉄拳制裁するのも真理。
不条理なのは校長だけ。なんか更迭されるのも遠くなさげでかわいそうになってきますwww

第七十七夜 隻腕
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1156690689/611
明文化されてませんが、ユウコ先生はテツさんの左隣、男は右隣に座っていたのでしょうね。
それゆえ、ユウコ先生にもテツさんも男の右腕に気づかなかった…
男は犯人なのでしょうか?それとも腕を失った犯人は失血死してしまったのでしょうか?
生きているとすれば、その後鉄工所で起こる事故は…謎が謎を呼びます。
しかし、厚揚げは煮たのも味が染みて美味いし、炙ったのも香ばしくて美味いですね。

第七十八夜 才能
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1156690689/629
日ごろの行いがいいのでしょうな、アヤちゃんは。
しかしながら他プロダクションは見る目なさすぎ!
彼女がデビューしたあかつきには臍を噛む思いするでしょうw
こういうところが大した実力もないタレントを数多く排出して無駄を生み出すのかもしれないです。
彼女は文字通り才能を持ち合わせたタレントとして成長をするのでしょうね。

第七十九夜 賢しらな羊
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1156690689/648
「普段弱そうだけど…」う〜ん校長の正体はかなり謎めいてますね。
人前では羊のように大人しいのですが、いざという時には…
もしかしたら校長の影武者がいるのかもしれないですねw
なんか校長の謎だけで学校の七不思議ができちゃいそうです。
「アイコノクラズム」。CIMA?って思いましたが、作者さんの趣味からすればBUCK-TICKでしょうかw
673作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/24(日) 18:48:38 ID:r0dsn49p0
>>タイトルさん

毎度ですー。今回のタイトルもいいです『夜の花』はいい。響きがすきです。

『アイコノクラズム』は単にそのまま『偶像破壊』という意味からもらいました。
アイドル=偶像ですから、敢えてアイドルとしてデビューはするが、そのテーゼを破壊する。
『アイドルを超越した超アイドル』といった意味合いでつけました。

CIMAも元はBUCK-TICKの曲名から取ったみたいですけどね。
674作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/24(日) 21:56:39 ID:r0dsn49p0
さてここらで怖い話でもするか。

山形ツネコは日がな一日、居間に座して、テレビもつけずに
一人、柱に掲げられた日めくりカレンダーを見上げていた。


つづく
675作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/24(日) 22:12:11 ID:r0dsn49p0
その日は今日であった。

忘れることもない。肉体は何百という男に開いてきたが、心まで開くことはない。
その心を開いた一人の男。生涯唯一愛した男が没した日。

死刑であった。

戦後最凶最悪と語られる連続強姦魔岩手ノリオ。

貞操観念などという言葉がまだ確かに生きていた時代。それでいて、非合法の
売春が横行し、社会問題化しているという矛盾した時代。

そんな時代の闇から生まれた男。逮捕後の供述で犯した女の数は五十余名と
されたが実数はその三倍とも四倍とも言われる。

一九六五年。十六歳のツネコはノリオに犯された。完璧とまではいかないが既に
『お留め』の技術の大半をマスターしていたはずだった。

ノリオの力に屈したわけではない。その卓越したテクニックに心が折れた。貞操を
守ることよりも、悦楽に溺れることを彼女の肉体は選択する。

そのまま抵抗を続けていれば恐らくは、犯されることはなかっただろう。

言ってしまえば、ツネコは『犯された』のではない。『犯させた』のだ


つづく

676作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/24(日) 22:26:27 ID:r0dsn49p0
以来、処女だったツネコの生活は一変する。男を求める日々が続いた。

しかしいずれも彼女を満足させるには至らず。

そんな頃、岩手ノリオ逮捕の報が入る。余罪の多さに関わらず、裁判は早かった。

彼が犯した女のうち二人が、犯された後に自害したのである。包丁で自らの喉を
突き、また一人は首をくくった。

しかし、検察側はそれを強姦のショックによる自殺とは取らず、あくまで、ノリオが
暴行後、殺害したと言い張った。

一方で、ノリオはその二人の女を知らないと言った。ノリオは極めて狭い範囲で
犯行を行っていた。東京多摩地区を中心に、都内一部。埼玉県南部、遠くても
神奈川県北部。

殺害されたと言われる二人の女はいずれも愛知と、福島の者だった。

弁護側も必死の弁護を繰り返したが、検察側の圧倒的有利は変わらなかった。

当時、ノリオの事件を結果的に模倣する形で、凄惨な性犯罪が多く行われていた。

その全ての罪をノリオは甘んじて受けたのである。ノリオは釈明らしい釈明は
一切行わなかった。どんな心境だったのか、とにかく裁判に入って以降、
『その事実を認めますね?』の質問には『認めます』としか答えなかった。

弁護する側も、本人が認めてしまう以上弁護のしようもなく、上訴も控訴もないままに。

判決は、死刑。


つづく
677作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/24(日) 22:42:50 ID:r0dsn49p0
逮捕直後から、ノリオはツネコに手紙を出し続けた。

謝罪と、愛の言葉が並んでいた。

ツネコもそれを受けて返事を出し続けた。彼女もノリオを許し、愛したのだ。

しばらくあって、ノリオの子、ユウジロウが生まれる。

公判中も、時間があればノリオは彼女に手紙を書いた。裁判の内容などは
一切なく、ごく普通の手紙だった。ユウジロウが生まれてからは彼はそれを
喜び、まるで単身赴任か出稼ぎに出ている夫がしたためるような手紙だった。

立てるようになったか?なにかしゃべるか?体調はどうだ?

死刑の日取りや予定がいつ本人に告げられるのか、ツネコは知らない。
そしてまた、判決が死刑になったことはニュースになったが、執行された
ことは報道されなかった。

手紙の返事が来ないことで、ツネコはノリオの死を悟る。

時にユウジロウ五歳の頃である。

その後、売春で生計を立てるようになったツネコはある官僚から、ノリオの
正式な死刑執行日、つまりは命日を聞きだした。

それが、今日なのである。
678作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/24(日) 22:53:00 ID:r0dsn49p0
二十二時に寝室へ。自分の布団を敷き、隣にもう一枚、布団を敷いた。

二枚の布団はぴたりとついている。

電灯を消し、闇の中で彼女は自分の布団に潜り込んだ。

眠らずにいる。今でもあの十六歳の頃を思い出すと女が疼いた。

当時はノリオの方が倍以上も年上だったが、今ではそのノリオの年齢を
自分が上回ってしまっている。

岩手ノリオ。享年四十歳。一方で、山形ツネコ。現在五十七歳である。

と、隣の布団がめくれて、小さい風が頬を撫でた。

闇に見えない。

ただ彼は毎年、こうして訪れる。

一年ぶり。それでも愛しく、切なかった。一年に一度、それも夜の何時間か
だけ。朝まで起きていようと思っても、最愛の人が隣に寝ていてくれるという
安心感だけでつい、うとうととしてしまう。

普段特に寂しいというわけでもないのに。なぜかその包容力にまどろみを
覚える。

一年。八七六〇時間のうちの、ほんの何時間か。


つづく
679作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/24(日) 23:02:05 ID:r0dsn49p0
そっと隣の布団に手を差し入れる。手が握り返す。ごつごつとしたたくましい
男の手だ。

優しく手を握りながら、親指で優しく手の甲を撫でてくれる。

ツネコは年に一度だけ泣く。

言葉はかけたことがない。かけると消えてしまいそうだから。

そのまま情に任せて抱きついたこともない。そこにいなかったら切ないから。

ただ毎年、何時間かだけ、手を慰めてもらう。

恥じらいを覚えた。もう私も随分と年をとった。色々と気は使っているけれど、
衰えは隠せない。あの人の手はいつもたくましくて、いつも変わらないけれど、
あたしの手はどうだろう。骨張って、しわが増えて、若い頃のように水分に
満ちた柔らかで弾力のある肌はない。

ずいぶん老けたと思われないかしら。

それでも彼は毎年同じように優しく、ただ手の甲を撫でてくれる。

それだけで、最愛の人に抱きすくめられ寵愛されているような安心感と満足が
あるのだ。

眠りたくない。そのままずっと朝まで。それでも、まぶたは、やがて重くなって。

さらなる暗闇へ。手の感覚をぎりぎりまで残したまま。

つづく

680作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/24(日) 23:17:11 ID:r0dsn49p0
「…愛してる」

確かに聞こえた。やっと。四十一年間待っていた言葉。

読んだことはあるが直接聞くことはなかった言葉。

柔らかく閉じられたまぶたから、伝う涙を何かが優しく拭ってくれた。

「わたしも…」

というのがやっとだった。深い愛に包まれることがこれほどの充足を
もたらすのか。母に抱かれ眠る子のように、ツネコは夢の世界へ
落ちていった。


暗闇の中、二つの目が光っている。ツネコの目ではない。年に一度だけ
復活することを許された戦後最凶最悪の強姦魔、岩手ノリオの目である。

愛する人が眠りに落ちたことを確認すると彼は動き出す。心の闇が動き出す。

その目は既に優しさの微塵もなく、ただ夜の闇に光る獣の目。

これを読んでいる女性は気をつけたほうがいい。忘れてはならない。彼が、
最凶最悪と呼ばれ、恐れられたことを。彼は現れる。ツネコの元へ現れた
ように。ただ、ツネコにしたようにはしないだろう。

何をするかは…。

今宵、あなたの、まくらもとへ…。


  終
681本当にあった怖い名無し:2006/09/24(日) 23:49:53 ID:2gFeH2dpO
ぎゃああああああああ!!!!!
いつも通り安心して読んでたら、自己責任系かよっ!!
不意をつかれた!マジKOEEEEEEEEE!!!!



あっ、俺男だった。
682作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/24(日) 23:58:39 ID:r0dsn49p0
>>681

ヒント:アッー!


うそうそ(笑)
683作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/25(月) 22:22:51 ID:ihEDF1a70
(また慢性胃炎がひどいです。耐えられなかったら途中で中断します。もちろん続きは
明日書きます。あらかじめ御了承下さい)

さてここらで怖い話でもするか。

須藤アリサはただベッドに横たわって、腰の動きに合わせて
適当に喘いでいた。


つづく
684作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/25(月) 22:38:53 ID:ihEDF1a70
あの日以来何も感じない。あの憎たらしいくそったれの山形ユウジロウに
もてあそばれてからというもの、あの敏感だった小さな突起も、快楽を
もたらしてくれた柔らかに濡れる肉の深淵も。

彼女は知らなかった。自らが施された秘術。陰行流艶術『止め抑え』。
それは元は浮気防止の為に考えられた技術である。術を施された者は
性的快感を得られない身体になる。(第五十七夜 『陰の宴』 参照。)

それでも徐々に快感は戻るが、それには何十年という長い時間を要する。

もっとも、もう一度陰行流艶術をマスターした者と交われば、ただちに復活
することもできた。その技術を『打ち戻し』という。

戦や貿易などで長期に渡り、妻と離れなければならない者たちの要望に
より編み出されたその技術は一方で、不倫などの罰としても使用された。

つまりは『打ち戻し』を行わないままに捨てるのである。そうなった女は、
以降何十年と性的快感を得ない身体のまま生活しなければならない。

須藤アリサは全く快感を得ることなく、ただ肉棒を受け入れていた。感覚と
しては、かゆくもない鼻の穴をほじられているようなものである。

それでも彼女は必死に感じている風を装っていた。嫌われないために。

女子テニス部は崩壊しみなばらばらになった。元より友情などというものはない。

解散以降、誰がどうなったかなどどうでもよかった。ただ快楽だけを求めて、
合法ドラッグだかマリファナだかに手を出した奴がいる、程度の話は聞いていた。

つづく

685本当にあった怖い名無し:2006/09/25(月) 22:40:45 ID:ukCotmDM0
アリサキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!
686作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/25(月) 22:53:54 ID:ihEDF1a70
ぎしぎしときしむベッドの揺れが止まった。

男はおもむろにペニスを抜くと、むくりと起き上がって、サイドテーブルに
置かれたセーラムを咥え、シルバーのジッポライターで火を着けると、
世話しなく大きく一息吸って、吐き出した。

動きの一つ一つが荒々しく、苛立っていることは一目瞭然だった。

「え…なんでやめちゃうの?」

「人形とやってんじゃねぇんだからよ…」

「なんで?すごい気持ちよかったし」

「フカシこいてんじゃねぇっ!」

手の甲で思い切り頬を張られる。勢いベッドに突っ伏して、アリサは泣いた。

「先に金払ってんだからよぉ。ふっかけやがって。このガバマン女が。
金返せよオラ!」

泣いているアリサの後頭部を容赦なく小突く。アリサは泣きながら自分の
ルイ・ヴィトンのバッグからプラダの二つ折りの財布を取り出すと、五枚の
一万円札を出して相手に渡した。

「アホか。五も取りやがってよ。顔だけか。顔だけならグラビアでも見て一人で
シコるよ。バカ女」


つづく
687作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/25(月) 23:04:11 ID:ihEDF1a70
何の商売をやっているのかは知らないが、三十歳近くに見えるホスト風の
その男はホテル代までアリサに出させ、腹立たしげに帰っていった。

また夜の街へ出て、公園へ。ここは『ナンパ公園』と呼ばれ、若い男女の
出会いの場として栄えていた。ただし決して健全なものではない。

肉体だけを求める男。金を求める女。単に一晩一緒にいてくれる人がいれば
いいという寂しい者。肉体を捧げる代償として一晩の宿を求める家出少女。
いずれにせよ、一般に言う、『まっとうな若者』が来る場所ではない。

中央にある噴水のある泉のほとりにアリサは座った。泉の周辺は女の場所で
ある。その周囲を男はぶらぶらと歩きながら品定めし、気に入った者がいれば
声をかける。

誰がルールを作ったわけでもないのに、数年前からそういうことになっていた。

と、二人連れの男が声をかけて来た。

「一人?俺達とかどう?」

「あたし、売りなんだけど」

「売り?何枚?」

五枚と言いかけてやめた。

「…さ、三枚。一人、三枚」


つづく
688本当にあった怖い名無し:2006/09/25(月) 23:19:57 ID:ihEDF1a70
「高くね?もうちょっとどうにかなんない?二人で五枚とか」

「…いいよ…」

結果は同じだった。いやもっとひどかった。折檻を受けたのだ。二人は
サディストだった。

二人で責めてもアリサが感じていないと気付くや突然暴力的になり、
乳首をちぎれるほどに捻りあげられ、尻が真っ赤になるほど叩かれ、
尻の穴まで犯された。

二人掛かりで三時間、散々いたぶられ、やっと拷問は終わった。

終わった時には身体中の至る所が腫れ、赤くなり、青みを帯びている
ところもあった。熱いように痛い。

しかし、事が済めば彼らは料金をきっちりと払い、無論ホテル代も出した。
通常二人のところを三人と一人分追加した上、一時間延長しているので
休憩代金とはいえかなりの額になる。

その後二人は、クルマにアリサを乗せ、自宅まで送った。

まだ痛みの残る中、車中でアリサは思い立ってある提案を二人に持ちかけた。

売春の斡旋のようなことである。

『ようなこと』というのが彼女のしたたかさだった。


つづく
689本当にあった怖い名無し:2006/09/25(月) 23:28:26 ID:ihEDF1a70
相手二人がある有名私立大学の生徒であり、その学生には、経済力が
ある者が多いこと。そこでアリサは考えた。どうにか金を引き出す方法は
ないか。

自分の身体は使い物にならない。それはもう諦めよう。ではどうするか。

他人の身体を使えばいい。売春の斡旋?いやだめだ。儲けが少ない。

儲けからすれば、実際に身体を売った人間の方に大きい金が動く。

仲介手数料はわずかだ。せいぜい取れて一万か二万。

もっと稼ぎたい。身体を売る人間が得る稼ぎをこちらに流すことはできないか。

仲介をしつつ、身体を売る女にはただ働きをさせる。

そうすれば収入は丸々自分の下へ入ってくる。それだ。それがいい。

アリサは二人に持ちかけた。そういうことはできないかと。

「…怖ぇな。でも相手中学生だろ?ヤバくね?」

「でも処女率高いよ」

「最近の中学生カワイイ子多いもんなぁ」

「いいよ。その話。面白そうじゃん」


つづく
690作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/25(月) 23:43:32 ID:ihEDF1a70
大学生二人は女好き、それも年下好きの男を集めた。

「中学生と合コンできるんだけど、どう?」

手当たり次第である。場合によっては女に縁がなく、更にロリコンと
噂されるいわゆる秋葉系、オタクの連中にも構わず声をかけた。

参加費はまず三千円。これは全てアリサの懐へ入る。

合コンそのものは全て大学生が料金を持つ。オゴリだ。それを出しに
して、アリサは合コンの参加者を集めた。

そろそろ大人の世界に興味を持つ者がちらほらと現れる世代である。
相手は有名私立大学生。健全なものであることをアピールしつつ、
頭数を揃える。

そして当日は、大学生のやりたい放題である。さすがに相手は中学生で
あるから、居酒屋などには連れて行けない。主にカラオケボックスなどを
使い、酒を飲ませる。

大学生の方には『中学生とヤレる』という認識がある。不慣れでわずかな
酒で酔った中学生を自宅かホテルに誘い込み、前後不覚の状態の彼女
たちを犯すという流れだ。

カラオケボックスを出、それぞれ気に入った女子を連れ、一緒に帰る段階で、
それぞれから五万円ずつを、幹事であるアリサがこっそりと徴収する。

これで集まった大学生かけることの五万円がアリサの懐に入る。後どうなろうが
知ったことではない。とにかく持ち帰りの段階で五万という前約束である。


つづく
691作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/25(月) 23:52:40 ID:ihEDF1a70
しかし、それでは、大学生を集めた二人に何のメリットもないようだが、
彼らには無料で女子中学生を持ち帰れる権利が与えられた。

そして悪魔の宴の第一回が開催されたのである。

集まった大学生は例の二人を除いて八名。参加費一人三千円だから
二万四千円がこの時点でアリサの懐へ。

アリサは酒も飲まずとにかく周囲に気を配っていた。酒を勧められ、
拒んでいた他の生徒達もカラオケやらゲームやらで盛り上がり、遂に
酒に手を出し始める。

十対十だが、ある程度の時間で頑なに『帰る』と言い出す者が出てくる。
説得も聞かず、最終的には十対六となった。

しかし、残った六人はもう泥酔の状態である。

大学生の中で密議が行われ、それぞれが誰を持ち帰るかが決定した。

「まともに立てないね。クルマで送っていくよ」

それまで当然ながら大学生達は紳士的である。酔いに任せて、女子が
了承する。契約成立。この段階で、六人から五万円ずつ。三十万をアリサは
手に入れた。もちろん彼女が集めた女子たちには内緒である。


つづく
692作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/26(火) 00:04:05 ID:l/mibCIJ0
一方で、二人きりになった大学生が、『あのアリサという子が五万円で君を
売ったんだ』と言い出さないように善後策も取られていた。

もしばらしたら二度とこの会には参加できないこと。更に、アリサが、その密告
した大学生に犯されそうになったと警察に虚偽の通報をすること。

虚偽であっても、その日、大学生と中学生の間で会合が開かれたことは
事実であり、また酒を飲ませたことも例の大学生二人が証言することに
なっていた。

要するに、正義漢ぶれば自分で自分の首を絞めることになるのだ。また二人の
大学生も、そんなことをしない性欲の塊のような連中ばかりを集めていた。

ちなみに十対六となった段階で、無料で女子を持ち帰れる権利を持つ二人は
その権利を放棄して降りていた。金を払う者が優先である。

全てアリサの計画通りだった。

その晩、自業自得とはいえ六人の少女の処女が奪われた。

まさか大学生と合コンに行って酒を飲んで犯されましたとは親に言えまい。親に
言ったとしても、学校まで話は及ぶまい。

須藤アリサに誘われたと告げられて、その親が何か言ってきても、自分も被害者面を
していればいいのである。


つづく
693本当にあった怖い名無し:2006/09/26(火) 00:16:02 ID:l/mibCIJ0
案の定、どういう形でかは知らないが処女消失をした女は暗い顔で
登校して来た。

アリサも暗い顔をして彼女らに言って回った。

「ごめんね。何かひどいことされなかった…?あたし、犯されたんだ…」

首謀者であり、発起人であるアリサも犯されたとなれば責めるわけにも
いかず、ただみんな黙っていた。

ざまみろ。馬鹿女。これで三十二万四千円。超ボロい!半端だから今日帰りに
二万四千円使っちゃおうかな。

その後、『アリサから誘われたら絶対行っちゃダメだよ!』という噂が広まって
しまえば一度きりで終わらせるつもりだったが、そういうこともなく、大学生側
からは、『次はいつ?こっちはもう人手集まってるよ!』と要望があり、もう一度
手を出すことにした。

さて誰にするかと触手を動かす彼女を見る者があった。新聞委員会校内担当
長野シュウイチである。


つづく




694本当にあった怖い名無し:2006/09/26(火) 00:18:49 ID:CRaXXIILO
新聞委員キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!
695作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/26(火) 00:23:48 ID:l/mibCIJ0
校内のこととなれば鋭い嗅覚を持つ彼である。

ましてや、動き出したのは悪名高き女子テニス部元主将の須藤アリサ。

間違いなく何かある。それとなく聞く耳を立てた。

「…大学の…合コン…すっごい楽しいって…みんな優しい…全然
そういうじゃなくて…」

途切れ途切れだが聞こえた。大学生と合コン…。的場リュウジゆずりの嗅覚が
長野シュウイチを動かした。

編集部のドアを開ける。

「編集長!」

「いねーよ」

「どこへ?」

「台湾」

「…orz」

いるのは副編集長の志賀マサトだけである。

「何か事件か?」

「須藤アリサがまた動き出した!」


つづく
696作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/26(火) 00:34:37 ID:l/mibCIJ0
「須藤…あぁ女子テニス部のクソ女か」

「大学生と合コンをやるらしいんだ」

「やるだろ。アイツなら。そんぐらい」

「それが大人しそうな子ばかり誘ってる」

「へー」

「おかしいだろ?絶対に何かあるよ!」

「しゃーねーな。尾行してみっか。日取りはいつだ?」

「まだ分からない…」

「分かったらすぐ知らせな」

「分かった!」

編集部をシュウイチは飛び出していった。

「…相手は大学生か…素人とはいえ容赦はしねぇ」

マサトはデトニクス45の弾倉を確認した。小型ながらパワーのある
45ACP弾六発を弾き出すオートマチックピストルである。

当然的場リュウジから授かったものだ。

つづく
697作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/26(火) 00:48:41 ID:l/mibCIJ0
志賀マサトは新聞委員でありながら、的場リュウジとは違った
価値観を持っている。

事件後になって駆けつけ、報道するのは良しとして、偶然にも事件現場に
居合わせてしまったらどうするか。その点が的場リュウジと大きく違う。

的場リュウジは事件の成り行きを記録し、あくまで報道することに集中する。
事件を解決、被害者を救出するのはジャーナリストの仕事ではなく、警察および、
消防の仕事であるとし、写真を撮る、現場の状況をメモ、記憶するといったこと
しか基本的にしない。余裕があれば助けるといった程度だ。

しかし志賀マサトは違う。ジャーナリスト以前に人道主義者で、救出すべき人、
回避できる危機が迫っていれば率先して救出、解決に全力をかける。その際
報道は二の次である。

例えば包丁を持っている男が歩いていたとして、的場はその男が事件を起こすまで
待つ。志賀はまず取り押さえる。その違いである。

その点でよく二人は信頼関係にありながらも反目し合っていた。シュウイチは
どちらかといえば、マサト派であるが、考えの上だけで、恐らく包丁を持った男が
歩いていればまず逃げることを選択するだろう。


数日後。今日も何事もなしと志賀マサトが帰り支度をしていると携帯がなった。
着信メロディで分かる相手はシュウイチだ。

「俺だ」


つづく
698作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/26(火) 00:52:56 ID:l/mibCIJ0
『アリサがみんな連れて駅の方へ向かってる。すごい数だよ!』

「何!?」

『今日も編集長はいないの?』

「今日は別府にいるそうだ」

『別府?温泉の?』

「そうだ」

『何か事件で?』

「いや単に温泉だ」

『…とにかく来て!』

「何処に向かうのか分からんのか?」

『わかんないよ!』

「おちつけ。すぐに行く!」

校庭を駆け抜け取材車(自転車)にまたがると駅に向けてマサトは走り出した。


つづく
699作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/26(火) 00:57:39 ID:l/mibCIJ0
マサトが駅に付く頃には、シュウイチはいなかった。

メールが来ている。どうやら新宿方面に向かっているらしい。

マサトも続いた。

都内のカラオケボックスでやっとシュウイチと落ち合う。

「探すのに苦労したぜ…」

「よかった…間に合って…」

「状況は?」

「ウチの女子が十二人。須藤も入れて。相手の大学生も十二人で
この店に入って行ったよ」

見上げるビルには様々な店が入っていたが、カラオケボックスの看板が
あった。

「カラオケか…」

「うん。エレベーターの表示で確かめた」

「よし。突入だ」

「と、突入?」


つづく
700作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/26(火) 01:02:16 ID:l/mibCIJ0
「デバガメ大学生どもを血祭りに上げる」

「ダメだよ!まだ何もしてないかもしれないし…」

「…しばらく待つか…」

待っているとエレベーターから見知った女子が降りてきた。

「あれ?志賀くん?」

「真鍋か…」

真鍋美代子、志賀と同級生だった。顔が赤い。

「どうしたの?こんなところで」

「お前こそ何をやっていた?」

「大学生と合コン」

「須藤に誘われたか?」

「そうそう。でもそろそろ門限だから…」

「中の様子は?」

「別に普通だよ。ただお酒は飲んでるけど…」


つづく
701作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/26(火) 01:07:18 ID:l/mibCIJ0
「『飲んでいる』のか、『飲まされた』のか、どっちだ?」

「うーん…飲まされた、かな…。別に変なこととかしないけど、お酒だけは
すごい飲ませようとする」

「分かった。帰って良し」

「…あ…うん…それじゃ…ばいばい」

真鍋美代子は志賀の無愛想に呆れながら帰っていった。

「酒を飲ませた上でレイプする気だな。間違いない」

「やっぱりそうかな」

「帰る人間がいるということは売春じゃないな。参加者は何も知らずに参加
している。恐らく須藤に仲介料が入るシステムになっている」

「なるほど!」

「金に汚い女だからな…」

寒い中しばらく待っていると、ぞろぞろとエレベーターから男女が降りてきた。
知った顔もあった。

料金表が張り出された大きな看板にシュウイチとマサトは身を隠す。


つづく
702作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/26(火) 01:15:44 ID:l/mibCIJ0
雑踏の中、切れ切れに男女のやり取りが聞こえる。

「だいぶ酔ったね。送っていくよ…いいよ遠慮しなくて。クルマだし。大丈夫大丈夫!」

マサトは思った。分散すると。まずい。分散されては救いようがない。

仕方がなかった。とりあえずターゲットを絞って追跡するより方法はない。

男女は繁華街のコインパーキングまで歩くと、それぞれクルマに便乗して走り去った。

問題はここからだ。作者は全くこの後の展開を考えていない。

「馬鹿かお前は!」

とりあえずタクシーへ飛び乗り、適当な一台を追跡するようドライバーに言った。

繁華街を抜けて、唐突に現れた住宅街の、豪奢なマンションの地下駐車場に目的の
クルマが入っていく。

それを見届けたマサトはタクシーを止め、降りた。

「お客さん!料金は!?」

「軽子沢中学に請求しろ!」

「えー!」

マンションを見上げた。しばらくすると、最上階、角部屋の窓が明るく灯った。

「最上階だ!行くぞシュウイチ!」

つづく
703本当にあった怖い名無し:2006/09/26(火) 01:18:27 ID:CRaXXIILO
wktk!!
704作者 ◆xDdCPf7i9g :2006/09/26(火) 01:20:49 ID:l/mibCIJ0
しかし、ロビーにすら入れない。暗証番号を押さないと建物にさえ入れないのだ。

「くそったれめ!」

デトニクスが火を噴いた。砕け散るガラスドア。

「続け!シュウイチ!」

警報が鳴る。

「セコムか!」

「い、いいの!?」

「かまわん!最上階だ!」

十二階建てのマンションである。エレベーターを使う。

「そうすぐに犯したりはせんだろう…時間はある」

「だ…大丈夫かな…」

「クルマに乗っていたのは男女一組じゃない。三対三だ」

「…そこまで見てたの?」

「恐らくここで乱交でもするつもりなんだろう。許せん…」


つづく
705作者 ◆xDdCPf7i9g
最上階の角部屋。とりあえずドアチャイムを鳴らすが反応はない。

しかし中から人の気配はする。無視しているようだ。

「くそっ!セコムが来るぞ!」

45ACP弾がドアノブに向けて立て続けに発射される。ドアノブは破壊されたが
ドアは開かない。

「くそぅ!映画のようにはいかんのか!」

しかし爆発音を聞いてさすがに驚いたのかドアが向こうから開けられた。

チャンス!

飛び込み様、まず一人目を投げた。ロシア格闘術システマが炸裂する!
ロシア特殊部隊出身、元陸軍大佐のミカエルリャブコが開発した、言わば
ロシア式合気道システマ。志賀マサトは既にこれをマスターしていた。

いとも簡単に投げ飛ばされる大学生。

「的場だけじゃないぜ。志賀も忘れるな!」

瞬く間に制圧。泥酔した三人の女子をシュウイチに託す。

「後は頼んだ!」


つづく