741 :
(1/5):
少し長くなりますが、私の体験した怖い話をさせて下さい。
私はとある地方の国立大学の職員です。国立大学は数年前に独立行政法人とな
りましたが、職員の身分は「準公務員」というもので、基本的には国家公務員
とほぼ同じ待遇になっています。国家公務員は何かと叩かれてはいますが、基
本的に給料はそれほど高くはなく、大学の同期の中でも最低レベルです。その
代わりある程度の安定があるのと、福利厚生が充実している点が良い点でしょ
うか。
公務員の持つ特権的なものの一つに「官舎」というものがあります。とは言っ
ても、霞ヶ関や永田町におつとめの偉い方々とは違って、利点は家賃が安いと
いう一点だけですが。私はまだ独身ですので、独身者のための建屋の1階の部
屋を借りて住んでいます。法人化に伴い、名目は「官舎」ではなくなったので
すが、家賃はあり得ないほど安いままです。官舎の多くと同様、物凄く古い建
物で、サッシは鉄製、冬などは窓を閉めていても冷たい風が吹き込みます。
間取りは六畳間、四畳半と三畳間であり、和式便所とちっぽけな風呂場があり
ます。私はその六畳間と四畳半のしきりのふすまを開けっ放しにして十畳半の
部屋として使っており、四畳半の部屋に高さ1メートル強程度のパイプベッド
を置き、その上で寝ています。ベッドの下は収納スペースです。寝転がると天
井までは80センチ程度でしょうか。
仕事を終えて帰宅し、冬場はチョロチョロとしかお湯のでないシャワー(夏場
は比較的十分出ます)を浴びると、私はそのパイプベッドに横になり、枕元に
取り付けたランプをつけてしばらく下らない小説などを読んでから寝るのが習
慣になっていました。
742 :
(2/5):2006/08/07(月) 17:12:12 ID:OM9lIypI0
3週間ほど前のこと、いつものようにベッドに横になって本を読もうとした私
は、手にしている本の向こうに見えている風景のなかに何かの違和感を感じま
した。本を置き、天井の明かりをつけてよく見てみると、白い天井の片隅、私
の頭がある方向とは逆の隅あたりに、ぼんやりとしたシミがついており、それ
は何か人の顔のように見えました。しかし理系の出身である私は「幽霊の 正
体見たり 枯れ尾花」の言葉の意味を十分理解しており、「このような何の意
味もないシミなどの要因が、脳の認知機構のエラーによって幽霊話などを作り
出すものだ」などと考え、特に気にせずに再び本を読み始めました。
数日はそのまま気にも留めていなかったのですが、十日前後経ったある夜、や
はり何かおかしい気がして例のシミをよく見てみると、明らかにシミが強くなっ
ておいることに気づきました。しかも、もはやそれが人間の顔であることは疑
いようもなくなりました。ディテールこそはっきりとしないものの、それは間
違いようがなく目を閉じた中年男性のあごから上を示しています。全身の毛が
逆立つような恐怖を憶えた私は、その夜その部屋では一睡もできずに朝を迎え
ました。
翌日、私は大学の施設部にそのことを伝えました。しかし、なんだか要領を得
ない返事とともに、「安い金で住居を与えてもらっておいて、それに下らない
ケチをつけるとは何事だ」というような文句を言われるばかりで、相手にして
もらえません。私は怒りを覚えつつも、このような話を信じてもらうのはきわ
めて難しいことを悟りました。たとえその人を私の家に連れて行ってそれを見
せたとしても、頭のおかしないたずらとでも思われることでしょう。
743 :
(3/5):2006/08/07(月) 17:12:47 ID:OM9lIypI0
私は即座に引っ越しを決意しました。大学の近くにある不動産屋に駆け込んで
探してもらうと、ちょうど最近空きが出たアパートがあるとのことで、その日
のうちに見に行き、契約を行いました。何がなんでも即座に引っ越したいとい
う私の要望を大家さんは聞き入れてくださり、一両日中に引っ越し作業を行う
ことになりました。その夜は、その部屋で寝るなんてことは私には不可能です
から、駅前のビジネスホテルに泊まりました。
地元の引っ越し業者にも無理を言ったかいがあって、翌日には引っ越し作業を
行うことができました。業者の若い方二人と一緒に二度と戻りたくなかったそ
の部屋に再び入り、できるだけ天井のシミは見ないようにして、決して多くは
ない私の荷物を3時間程度で運び出し、最後に天井に目を向けました。
シミ、というよりそれはもう顔の写真のようになりつつありました。それはま
すますはっきりとしており、唇の赤黒さすら分かる状態になっていました。
そして、閉じていた目はうっすらと開こうとしていました。
>>740 公園のトイレなんて使用者が任意に流してたら水道代がかかってしょうがないから、
時間ごとに自動的に流れる仕組みになってるとこがしばしばある。
まあ別に幽霊が流しててもいいけど。
センサーで流れるWCってオチ
ぞっとする程いい人の話
物心のついたときにAはすでにいじめられていました。
Aはいつもにこにこしているのに、どうしてだろうと親戚は首をかしげていましたが、
医者も両親も驚くほど、Aはいつもにこにこしているのです、というよりも
笑顔しか表情がない のです
小学生になり、Aはやはりいじめられていました。
Aはかえるの死骸を食べさせられても笑っていました。
トイレに放課後まで閉じ込められても、やはり笑っていました。
突き飛ばされ怪談から転げ落ち、顔の真ん中が裂けて9針も縫う大怪我を負っても
やはりAは笑っているのでした。
気味が悪い、と、Aは今度は無視されるようになりました。
それでもAは笑っていました。
中学時代、Aは父親の転勤で引っ越しましたが、その土地でもやはり
いじめられました。
上履きに画鋲を入れられ、落書きされ、机にボンドを塗られ、自転車に泥を塗られ、
体育のサッカーの時には腹に蹴りを入れられ、掃除の時間にはバケツの水を
頭から被せられ…およそ全てのいじめを体験したといってもいいくらいでした。
担任は見るに見かねてAといじめに関わっている全員を指導室に呼び、
一同にAにたいして謝らせましたがAは笑って許しました。
担任は、心の広い少年だと思っていましたが、ならばなぜいじめられるのか本当に
不思議でした。ボランティア精神に溢れ、顔立ちは整っていないものの平凡普通で、
家庭環境も珍しくなく、成績も中の上。内申は勿論のこと上々であるのに。
何かAの人格に問題があると思えない、と、担任はAについて個人的に
調査することを心に決めました。
Aの帰宅路を、Aに気付かれぬよう担任はつけました。
土手、商店街の書店、図書館…不思議なところはいまのところ見られない。
唯一の違和感といえば常々感じていたことだが、Aが独りでいるときも笑顔を浮かべていることだ。
角をまがるたびみえる横顔が笑っている。
やがて――細い苔むした路へAは引き込まれるように入って行きました。
見失いそうになり、担任は少々小走りに追いました。
Aの足が止まりました。木の陰へ隠れ、担任が様子を伺っていると、
Aが何かを拾おうという様子で屈みました。
ゆっくりと回り込んで、Aの手元の見える位置へ行くと、Aの手には
ぼろぼろの少女趣味な人形が握られていました。
Aは徐に鞄から何か小さな布を取り出して、人形のぼろぼろの服を脱がせはじめました。
どうやら、布はAが裁縫で繕った人形の服らしく、多少不恰好ではあるけれども
しっかりと人形のからだにおさまりました。Aは満足そうに頷きました。
担任は背筋にうっすらと寒気を感じましたが、やはりAは気心の優しい男だと
自らに言い聞かせました。
そうしていると、Aがこちらに歩いてきました。担任は戦いて、見つかった!と
ばつのわるい顔をし、自ら出てゆきました。
「Aすまん、お前をつけていたんだ、おまえのことが心配で。」
しかし、Aは担任など目に入っていないのか、脇を通り過ぎました。
そうして、人形に話しかけ始めました。
「もう足も古くなっちゃったね、とりかえなくちゃ。やっぱりつくりものの皮膚じゃ
いやだよねぇ、人間の皮膚じゃないと、ふしぜんだもんね。大丈夫、
ボクが今度病院にお願いして、人間の皮膚をもらってきてあげるから。大丈夫だよ。
うん、ぼくね、昨日きみにあったときに恋したんだ。こんな気持ちはじめてなんだ。
ぼくはかならずやりとげるよ。
こんなところに一日も放っておいてごめんね、さあかえろう、かえってお風呂に入ろう…」
担任は、謎がとけたような思いがした。Aはもとより人間など相手にしていないのだ。
そういえば家庭訪問の折、一つ不審な点を家族より耳にしたのを思い出した。
「 うちの子、誰とも口を利いたことがないんですよ。ええ、うちの誰とも」
('A`)
o-o、 アタマアタマ
ノ ノ)_
750 :
(4/5):2006/08/07(月) 18:10:35 ID:OM9lIypI0
私は二度とその部屋には近づくまいと考え、以前よりせまくなった新しい住居
(こちらも古いことには変わりはありませんでした)と大学を往復して暮らし
ていましたが、そのうち私の中で、あのシミがその後どうなっているのかをど
うしても確かめたい気持ちが強くわき上がってきました。
新しい住居から大学へ向かうもっとも近い道を少しだけ迂回すると例の官舎が
あり、通り過ぎながら例の部屋をのぞき見ることができます。
4日ほど前、ついに誘惑に勝てなくなった私は、出勤の途中でその道を通り抜
けました。道路からのぞきこんだ天井には、もはやシミではなく人間の顔面が
ありました。細かいところは分かりませんが、目は完全に見開いており、しか
も気のせいか、天井からその部分がふくらんでいるように見えます。それ以上
見ていることは私には不可能であり、気持ちの悪い汗をかき、全身の鳥肌を立
てながら、そそくさとその場を去りました。もう二度と来ないつもりでした。
そして昨日のこと。日曜日といっても特にすることのない私は、ぶらぶらと大
学へ出かけ、ちょっとした細かい仕事などを片付けていました。そのうち、心
の中にまたあの悪い欲求がわきだし、再び私はその場所へ向かいました。
751 :
(5/5):2006/08/07(月) 18:11:46 ID:OM9lIypI0
天井の顔は完全に跡形もなくなっていました。天井はもとの白い姿に戻ってい
ました。二週間以上をかけてわき出してきたあの顔が3日にしてどのようにし
て消えたのか、私には分かりません。
しかし、気になったことがあります。退去する際、きちんとしめてあったはず
の押し入れが30センチ程度空いていたのです。
そこで起こっている何かはまだ終わってなどいないということを、私ははっき
りと認識しました。
次にそこに入居する人間が何を見るのか、私には分かりません。私はもっとも
伝えるべき相手であろう施設部の人間に話はしました。これ以上の責任は彼に
あります。私はこの件についてもう関わることはないでしょう。
新しい部屋の天井には、今のところシミ一つありません。
以上です。長くなりましてすみませんでした。