『山の老人』の鍋には、そんな各種のキノコが混入しているのだ。
『山の老人』は長い時間をかけ、自分の身体をキノコの毒に慣らして
いるので何事もないが、初めて食べる者にとっては堪らない。
食して何分もしないうちに幻覚を見たり気を失ったりと、キノコに毒される。
そして『山の老人』は、その中の気に入った女を小屋に運び入れては
犯すというのだ。無論キノコの中には性的快感を高め、催淫作用のある
ものもある…。
話を聞くなり居酒屋の会計を済ませ、自宅に飛び交えるとさっそくハイキング
の準備を始めた。一時期、登山サークルにも所属していたことがあるので
一応の道具は揃っている。
松ヶ森を歩くには二種類ある。松ヶ森の外側に沿って、平坦な道を行歩いて
松ヶ森の周囲をぐるりと一周するコースと、松ヶ森を突っ切って、向こう側へ
出るコース。
つづく
松ヶ森を一周するコースはかなり初心者向けというか、
簡単なピクニックといった感じだが、松ヶ森を突っ切る
のはかなり本格的なトレッキングコースだ。
松ヶ森の中央に近づけば近づくほど森は深く、鬱蒼とした
ものになってくる。実際に何年かに一度は遭難する者が出る
程だ。
『山の老人』が松ヶ森のど真ん中にいる、というからには後者
のコースをたどらなければ出会えないだろう。それなりの装備
は必要だ、と山形は考えた。
翌早朝、出発。クルマで三時間。ハイカー用の無料駐車場が
ある。
いよいよ山形ユウジロウは松ヶ森に挑んだ。
つづく
本当にいるのだろうか。それが最大の心配だった。
いなければ元も子もない。
初めて挑むが、元登山サークル出身者とは言えもう何十年も前の話、
しかも特に身を入れて活動していたわけでもない。冗談半分に簡単な
山に何度か登ったという程度だ。
体力もそろそろ落ちているユウジロウにとって松ヶ森はかなりの難コース
だった。
何時間歩いただろうか。地図とコンパスの使い方だけは正確に覚えていた。
そろそろ中央付近なのだが…。
と、鼻腔に何かを感じた。昼なお暗いじっとりとした湿る土の匂いでもなく、
木々の香りとも違う何か。明らかに異質な香りを感じた。
つづく
「なんだ…今のは…」
山の上から松ヶ森へ吹き降ろす風。匂いはその風に乗ってやってきた。
無風になると何も匂わない。
風上へ向けてユウジロウは歩き出した。確かに風が吹くと、何か異質な
匂いを感じる。
近づいている。ユウジロウは直感した。
視界が開けた。自然にそうなったのか、人為的なものなのか、まるで
森の円形脱毛症のように、ぽっかりと木がない。
その真ん中。プロパンガスの小さいボンベにコンロがつながれ、コンロ
には鍋が乗っている。美味そうな匂いが周囲を包んでいる。
つづく
鍋にサイバシを突っ込んでかき回している老人は、ユウジロウに
一瞥をくれると、すぐに視線を鍋に落とした。
恐らく、ユウジロウが女であれば、鍋を勧めてくるのだろう。
誰かと思えば四十がらみの中年男だったから興味を失ったのだ。
「マチガイナイ!ヤマノロージンダ!!」
近づきながらさも興味ありげに聞いた。
「ほー鍋ですかぁ。この暑いのに…」
「こりゃ私の夕食だで…」
「是非頂きたいもんですなぁ!」
「いや、だからこりゃ私の夕食だで…人に食べさすもんでねぇ」
つづく
『山の老人』は思った以上に頑固だ。何を聞いてもろくな答えが
帰ってこない。
確かに、睡眠薬を飲ませて女を犯す犯罪者と似たようなものだ。
色々と警戒しているのかもしれない。
しかしユウジロウはなんとしてもその鍋の中身が欲しかった。でき
ればレシピも欲しい。
それにしても老人は何も語らず、『とにかくこれから夕食を食べるの
でどっかに行ってくれ』の一点張りだ。
仕方ない。どうせ誰も見ていないんだ。
手近にあった大きい石を見つけるとユウジロウは『山の老人』を
殺した。
「キモチイイコトノタメニハシュダンヲエラバズ!!」
つづく
さて、邪魔者はいなくなったが唯一事実を知る人間も死んでしまった。
辺りをウロウロすると、木々の間からロッジのような建物が見えた。
山小屋だった。そういえば老人は昏倒した女性を小屋に運び入れて
犯すと聞いた。ここがその小屋か。
入ってみると案外清潔に保たれていた。そこには家庭用の普通のコンロ
もあって、大きな寸胴鍋が乗っている。
フタを開けてみると、さっきの鍋の匂いと同じ匂いがした。
これだ!!相当な量のスープがある。全てを持って帰るのは無理だ。
ユウジロウは用意していた二リットルのペットボトル四本に、そのスープ
を取った。合計八リットル。十キロ近い重量だ。
つづく
リュックサックにペットボトルを押し込むと、ユウジロウは帰路
についた。
険しい道。重い荷物。ユウジロウは努力する変態だった。
しかし、松ヶ森を出る前に日が暮れた。懐中電灯一本で歩ける
ような道ではない。仕方なく野宿になる。
蒸し暑いぐらいなので寝たらそのまま死んでしまうこともないだろう。
とりあえずベッド代わりにマットを敷いて腰を降ろす。
リュックサックから一本、ペットボトルを出した。これが幻のスープ
か…。見た目は茶色で、しょうゆラーメンのスープか、おでんのダシ
という感じだ。
つづく
とりあえずフタをあけ、匂いを嗅いでみる。美味そうな匂いだ。
と、ふらりと眩暈を覚えた。どうもこのスープ、匂いを嗅いだだけ
でも何らかの影響が出るようだ。
一口、口に含む。やはりおでんのダシのような味だ。もっとシイタケ
のような味がすると思ったのだが、こうやって味わっている分には
キノコのスープという感じはしない。
恐らく様々なモノが入っているのだろう。口に含んだスープを飲み込む。
木から木の妖精が現れた身長は十センチ程度だろうか。いずれ劣らぬ
美女で、四枚の羽を持っている。妖精たちはユウジロウの周りを飛び回
っている。
つづく
そのままシートに身を横たえると、空の星は踊り、月は二つあって、
片方の月には目があって黒目がぎょろりぎょろりと動いている。
不気味ではあるが、見たい。見ていなければならない気がした。
何時間経ったか、時間の感覚がない。ほんの何秒という気もするし、
永遠の時が経った気もする。
と、我に返って腕時計を見た。十分程度、経っていた。もう星は動かず、
月は一つで、妖精も失せた。
凄まじい即効性!
「コレハスゴイ!!」
つづく
数日後。ユウジロウは、準備をしていたおでん屋台の店主を
殺して川に投げ捨てた。
屋台が必要だったからだ。おでん鍋に、『山の老人』特製スープ
を満たし、具を入れる。立派な『おでん』だ。
屋台をひいてユウジロウは、女性専用マンションの真ん前に屋台
を開いた。
夏におでん。売れるだろうか。しかも若い女性がおでんの屋台で
飲み食いするだろうか。ユウジロウの脳はそこまで考えなかった。
女性専用マンションだから、ポツリポツリと女性は歩いてくる。しか
し屋台を一瞥すると、そのまま無視してマンションへと消えていく。
おでんはぐつぐつと煮立って、いい感じだ。その湯気…。
つづく
香りを嗅いだだけで眩暈がする代物。そのもうもうと立ち上る湯気に
ユウジロウは完全にやられていた。
目は座り、口は半開き、更に今後の展開を期待してニタニタと笑っている。
もしも客が来たとしても、その顔を見れば逃げ出すだろう。明らかに
『危ない人』の顔だ。
ところが、ノレンが動いた。美女だ。ほんのりと頬を赤く染め、酔っている
らしかった。
「いいいいいらっしぇ〜」
見事呂律が回っていない。ユウジロウは湯気で完全に頭をやられていた。
しかし客の女もほろ酔いで、いちいちユウジロウの危ない人っぷりに構って
いられない様子。
つづく
「おじさん、酒!お酒!あとおでん適当に!」
「へ〜い」
コップに酒をまともに注ぐこともできない。一升瓶を握る手は
ブルブルと振るえコップに入っている日本酒の倍以上の日本酒
が地面にこぼれていた。
「おおおおまちど〜。おでんも…オイシイデスヨ!!」
適当におでんも更に盛り付ける。『山の老人』特製スープがたっぷり
と沁み込んだハンペンにチクワ…。
「あ、これ美味しい〜」
「オイシイデヤンショ!オイシイデスヨ〜!シタクナリマスヨ〜」
つづく
たちまちのうちに女も『山の老人』風おでんの虜になった。腰も
まともに立たない。何でもないことが可笑しくてしょうがない。
「あーあたしもうだめ。帰る〜。いくら?」
「お金なんてね、お金なんてね、カラダデハラエ〜なんちて〜」
「おじさん、立てないよぉ」
「腰に来てますからね!家までお送りしますよ!!」
ユウジロウは表に回って、女に肩を貸した。美人だ。
「コンヤハイタダキ!!」
傍目には、泥酔したカップルという感じだろう。お互いにフラフラになりながら
女性専用マンションへ入っていく。
つづく
wktk!
「な、な、何階れすか?」
「ん〜と…2階」
ぐでんぐでんになりながら階段を上がる。何とか部屋の鍵
をあけて、二人で転がり込む。
そのまま玄関で熱烈なキスをする。
「あ〜おでん屋さん…いいわ…」
「一緒に気持ちよくなりまひょ〜」
「あぁ…」
果たしてそこに快楽はあったのか、滅茶苦茶なセックス。身体中を
べろべろと舐め回し、勃起はするものの、視界がぼんやりぼやけて
ヴァギナの位置すら確認できない。
つづく
「あれーはいらないなー」
「そこはおへそですぅ〜」
「アハ!オヘソニイレヨウトシチャッタ!!」
「や〜んおでん屋さんおちゃめ〜」
「ア!イッチャッタ!」
一体『山の老人』のスープにはどんな効能があるのか、何の刺激もないのに
山形先生は射精した。たちまちチンポが萎えていった。
女は物足りなそうだ。
「ねぇ…もっとしてよぉ…」
「だめだよぉもう立たないよぅ…」
つづく
それにしても美人だった。快楽をねだる姿もたまらない。
ユウジロウは思い立って、携帯電話を取り出すと、カメラモード
にして彼女のあられもない姿を撮影した。
写真として鑑賞できるし、もし後に訊ねた時、記憶障害で
「あなたなんかしらない」
と言われたときに、この写真で脅迫すればまたセックスができる
かもしれない。
「オレッテアタマイイナー!」
「や〜ん…写真なんか恥ずかしいよぉ…」
「ほら…もっと足開いて…そうそう…」
つづく
全裸でM字開脚する写真。ヴァギナもばっちり映っているはずだ。
「ねぇおでん屋さん…またエッチして!お願い!あたし、変になりそう!!」
「いいよいいよ明日も来るからね〜」
「絶対だよ?」
「絶対絶対」
とりあえずフラフラになりながらユウジロウは帰った。屋台もほったらかしだ。
エッチな写真で脅迫してセックスする。ユウジロウも一度やってみたいと思っていたことである。
しかもあの美人だ。もしかすると『山の老人』スープの影響で、今夜の記憶はないかもしれない。
つづく
しかしこの写真が何よりの証拠になるのだ。
「言うこと聞かないと、この写真をバラまきますよ?」
「…!それだけは…」
「じゃあ俺のいうことを聞きなさい…」
「分かりました」
そして飽きるまでもてあそぶのだ。
「タノシミダナ!」
何とか自宅にたどりつくと、そのまま玄関で倒れるように眠った。
次の日の朝、アカネがユウジロウを起こした。
つづく
「どこで寝てんのよもう…しばらく留守にしたと思ったら…」
「ん…すまんすまん…」
なんだっけ?しばらく記憶が戻るまで時間がかかった。
しかし携帯電話を見た瞬間、思い出す。そうだ!昨日の美女!
携帯電話の写真フォルダ。そこにあった写真は、
M字開脚する五十近いオバサンの写真だった。全てそうだった。
ユウジロウも『山の老人』スープの湯気にやられて、ラリっていたのだ。
数日間、アカネが何をしてもユウジロウのペニスが立つことはなかった。
終
ネタ提供者ですが、何気にライブでみたの初めてでしたW
老人のスープはありがたいような、そうでもないような微妙な代物でしたねWWW
ラリってハメるのは男子永遠のテーマですので、いつかは私も体験してみたいものです。
ユウジロウも久々にエロパワー全快といった感じでよかったですよ!乙です!
>>931 毎度どうもです。若干スランプ気味で、エロとオカルトのバランスが取れなくなってる
んですよね。多分パソコンを新しくした辺りから、読んで下さる人の数減ってるんじゃ
ないかなってそんな気がします。
原因ははっきりしてるんですよね。期待に応えようとし過ぎ、みたいな。もうちょっと
自由にできればいいんだけど、どうしても変な気を使ってしまう。
質が落ちてきたな、と感じる方、多いんじゃないでしょうか。
そんな中でお褒めの言葉を頂き、少し恥ずかしいです。スレもそろそろ終盤、『2』の
需要はあるのかなぁ。あったとしたら書くのが大変、なかったとしたらちょっと寂しい
そんな感じです。ありがとうございました。
>>906 こんにちは。
まめにチェックしておりましたが、感想などは名無しで書き込んでおりましたので
この名前ではお久しぶりですw
復帰を心待ちにしておりました。早速の作品も、お疲れ様です。
ところで、百物語の話は永久欠番にしてしまうのですか?
自分としては、それはあまりにも勿体無いと思いますよ。
老婆の色情霊、おもしろいではないですか。オチもいいですよ!
股間を押さえて泣くユウジロウには同情しつつ、笑ってしまいましたもん。
しかも昨夜のうちに、まとめサイトにはうpってしまっているんですよ。
作者さんがどうしても納得できないのであれば、仰せの通りにするしかないとは思いますが…
やはり欠番にしたいと思われるのでしたら、時間のあるときにでも
別のラストを書いていただけませんでしょうか?
そちらもアナザーストーリーとして、まとめサイトにも掲載できたらと考えています。
どうか御一考のほどを・・・
>>933 お疲れ様です。お世話になっています。
何となく、自分で納得ができない形で、皆さんが『いや面白かった』と言って
下さればそれはそれで結構です。むしろ嬉しいことだと思います。
もう掲載済みとのことで、二転三転して申し訳ありませんが『欠番』宣言は撤回
とさせて頂きます。(どっかのアマチュア野球チームみたいでやだなー^^;;)
というわけでまとめサイトへの掲載、よろしくお願いします。最近名前を見かけなかったので
どうされたのかな、とは思っていましたが名無しさんで感想などくれていたのですね。
とても嬉しく思いました。ありがとうございます。以上のこと、よろしくお願いします。
さて、ここらで怖い話でもするか…。
中学校教師、山形ユウジロウは飢えていた。
ぼうとしてコーヒーをすする態度に、妹アカネが聞いた。
つづく
「どうしたの?」
マグカップを机に置く。ブルーとピンクの揃いのマグカップだった。
ブルーはユウジロウ。カップにはブラックコーヒーが半分程残っている。
ピンクはアカネ。中には甘めのカフェオレが、わずかに残っていた。
「愛のあるセックスがしたい…」
一瞬笑いそうになったが、くぐもるようなユウジロウの表情を見て、笑いを
飲み込む。
「あたしとかじゃだめなの?お兄ちゃんのこと、大好きだよ」
「…妹だしな…」
つづく
「そろそろ彼女でも欲しくなった?」
少し、聞くのに勇気のいる質問だった。イエスだったらどうしよう。
何となく、一人ぼっちになってしまいそうな気がした。
「彼女はいらない。変な言い方だけど、アカネで充分だよ」
わずかな不安が消えて、アカネは安堵した。しかしいずれにせよ
兄妹は兄妹、その覚悟をしておく必要はあるな、と思った。
「でも、愛のあるセックスがしたい…」
「どんなの?」
「始める前から、愛があるセックス」
つづく
ユウジロウは特殊なケースかもしれない。導入はレイプか無理矢理
から始まる。しかし総じてそのレイプは『優しいレイプ』だった。相手に
も自分以上に気を使いテクニックをもってして、犯しつつ愛を深める。
次第に抵抗はなくなり、向こうから求めてくるようになる。そうでもない
場合も勿論あるが、そうならない場合、ユウジロウ的には『失敗』である。
その愛が単なる肉欲から生まれるものだとしても、ユウジロウはそれで
よかった。むしろそれが最も自然である気がした。
金で釣り、容姿で釣り、権力で釣る。その結果得られたセックスに愛は
あるのだろうか。
ユウジロウはよれたスウェットのズボンからラッキーストライクを出して
咥えた。居間は原則禁煙だ。しかしユウジロウは何か深く思慮する時には
構わずタバコを咥える。アカネもそれに関しては許していた。彼女は
窓を軽く開けると換気扇を回した。
つづく
タバコを吸うからには相当なことを考えているな、アカネはそう感じた。
だから黙っていることにした。
金もない。容姿もない。恋愛とは無縁だ。むしろ不浄なものとして避けて
きた気がする。肉体と肉体の交錯によって得られる愛こそ本質だと思っ
ていた。
しかしそれでは、肉体の交わりがなければ愛は生まれないことになる。
とにかくセックスが愛の前提条件になる。
そうではなく。初めから愛のある状態でセックスがしたいのだ。
今まで、セックスした女はユウジロウ的にはほとんど『堕ちて』いる。
レイプで始まろうがなんだろうが最終的にその女は俺に惚れている。
ことが多い気がしないでもない。(ユウジロウ談)
つづく
しかしそうなってからではダメなのだ。セックスの最初から、
愛を感じたい。ユウジロウは強くそれを望んだ。
台所の隅に片付けられていた灰皿をアカネが差し出すと、
礼も言わずそれでラッキーストライクを揉み消し、立ち上がると
居間から出て行った。
アカネは溜息混じりにきちんと火が消えているかを確認すると、
ティシュペーパーで吸殻を包み込んでゴミ箱に投げ入れた。
一度何か難しいことを考え出すとちっとも構ってくれなくなる。
アカネが小さい頃からのユウジロウの癖みたいなものだが、
アカネが唯一、兄の嫌いな部分だった。
部屋で着替えたのだろう、しばらくすると『いってきます』とも
言わずユウジロウは出て行った。
つづく
堂坂公園にユウジロウはいた。蒸し暑いのは苦手だが、
夏の太陽に直接焼かれるような暑さは好きだった。
ベンチの横には吸殻入れが設置されている。とにかく
ユウジロウは考えた。
陽も傾き、目を細めるような眩しさは去って、ちらほらと
人も帰っていった。
紫の夕暮れがあって、黄昏て、夕闇が迫ると、今度は
若い連中が集まりはじめた。余り品のいい連中という
ふうでもない。むしろ物騒な連中といってもいいだろう。
しかし誰もベンチにいる中年男を気にしようとはしない。
つづく
それぞれ、何か若者向けのダンスの練習をしたり、ギターで
弾き語りをしたり、下世話な話で盛り上がったり。
堂坂公園には出入り口が二つあって、駅から住宅街の方へ
向かう際には、実は堂坂公園を通過することで大幅なショートカット
が可能だった。公園を通過しないと、広大な公園の外周をぐるりと
一周しなければならないのだ。
多少物騒な雰囲気を醸してはいるが、それでも足早にスーツの男や女が
目の前を通り過ぎていく。
一時期は『親父狩り』などというものが流行ったそうだが、今ではそこ
までひどくはないようだ。
ユウジロウはそこで何時間粘ったか、たっぷり残っていたラッキーストライク
は残り一本になっていた。
つづく
山形はやおら立ち上がると、数ある少年グループの中でも
最も凶悪そうな連中に向かって歩き出した。
「なんだオッサン?あ?」
交渉開始。ユウジロウは全てをこのグループに賭けた。
提案された内容はこうだった。この公園を帰り道に利用するOL。
それに、因縁をつけてほしい。そしてある程度のタイミングを計って
ユウジロウがそのOLの救出に入る。恐れをなしたふりをして、少年
たちはOLを開放する。一人では危ないからとユウジロウがOLを
自宅まで送る。そして女が助けてくれたお礼にお茶の一杯でもと
誘ったところで、口説き落としてセックスに至る。
そこには『愛』があるはずだった。
つづく
謝礼として、五万を払うことも告げた。
少年らは胡散臭げにユウジロウを見ていた。彼らには最終的に
ユウジロウが何をしたいか、伏せられていた。とにかく女を遅い
助けに入ったら退散しろ、そこまでの説明だった。その謝礼が
五万。
しかし、若者のグループは五人いた。一人当たり一万円だ。十万
にしろとの声もあったがユウジロウは断じて五万円にこだわった。
ユウジロウ。この男、数件の殺人も犯している。危うく捜査の手が
伸びそうなこともあったがアカネの人脈(第二十五夜 『犬の生活』参照)
によって何とか誤魔化している。
日頃ケンカに明け暮れたり、物騒な連中同士の中で培った眼力、人を
見る目が若者たちにはあった。
その点でユウジロウの迫力は只者ではないことは分かる。何か一つ
間違えば、この五人全員が危険な目に逢う。明らかに勝機は向こうに
あることを若者のリーダー格の男は見抜いていた。
「わかった。五万でいいッスよ」
つづく
決行当日。公園入り口付近にユウジロウは待機。そこで
好みのタイプをチェック。いい女がいれば携帯で、不良
グループに連絡。
女が公園の半ばまで来た辺りで、不良グループが因縁を
ふっかける。しばらくあって、ユウジロウ救出に入る。若者
たちを諌め、女とともに公園を出る。
夕闇が公園を包んでいる。公園内の灯だけがぼんやりと、
昼間賑やかだった公園の遊具を照らし出している。
美女発見。ターゲットロック。不良グループへ携帯電話で
通達。了解。不良グループ行動開始。ターゲット捕獲に成功。
アタックチャンス!!ユウジロウ発動。接近。偽りの交戦。
ターゲットの奪取成功。公園外へ移動。
つづく
「怖かったでしょう?大丈夫」
「…はい…ほ…本当にありがとうございました…」
恐怖で震え、暗く見えないが恐らく涙を流しているのだろう。
優しく肩を抱く。抵抗はない。そこには確かに『愛』があった。
「家まで送ろう」
「はい…」
何分歩いたか、ユウジロウは女の肩を抱き続けた。
「ここです…少し寄っていって下さい…よろしければお茶でも…」
予想通りの展開キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!
しかし立派な…家…あ…
つづく
一生の不覚!『女が一人暮らしとは限らない!』
なんということだろう。間違いなくこの一軒家にこの娘が
一人で住んでいるわけがない。ここは彼女の『実家』だ!!
父親、母親の前でセックスしろとでも言うのか!
是非というので仕方なく。お茶を御馳走になり、そうこうしている
うちに全てのタイミングを失ってしまった。こんな時間に帰宅して
くる人間なぞわずかだろう。
ユウジロウあえなく轟沈!
決戦は後日に持ち込まれた。
つづく
「なんだオッサン、またやんのか?」
「…五万で…頼む…」
「まぁいいけどよぉ。俺たち暇そうに見えて結構忙しいのよ」
「申し訳ない」
そろそろ帰宅時間だ。見た目で一人暮らししているかどうかの
見極めは極めて困難だ。運に任せるしかない。
美女発見。ターゲットロック。不良グループへ携帯電話で
通達。了解。不良グループ行動開始。ターゲット捕獲に成功。
アタックチャンス!!ユウジロウ発動。接近。偽りの交戦。
ターゲットの奪取成功。公園外へ移動!
「さぁ、もう大丈夫だ。一緒に家に帰ろう」
一人暮らしかどうか聞けばいいのだが、下心が見えそうだった。
助けた人間が一人暮らしかどうか確認すれば目的はタチドコロ
にばれるだろう。
つづく
「あ、あたしの家、ここなんです…」
アパート。
キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!
一人で帰ろうとする美女にさりげなく言う。
「実は僕も臆病な方で…。助けるのに緊張しちゃって…」
「そうなんですか…。すいませんでした」
「よかったら、お水の一杯でも頂けませんか?」
「あ、それは気が効きませんで…すいません。どうぞあがってください」
キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!
つづく
ドアを開ける。中が明るく騒がしい。なんだ?
「ただいまー」
「おかえりー」
??ドウイウコトダッ!!
「あ、この方、山形さん…公園でちょっと助けてもらっちゃって」
不審そうに男がユウジロウを伺っている。
「あ、夫です。公園で悪い人にしつこく声かけられて、助けてくれたんだ」
「あー、そうなんですか!それはどうもお世話になりました。
さ、どうぞどうぞ。マリ、お前あの公園通るなって言ってあるだろ!」
「ごめんなさい。つい近道したくて…」
「いやーすいませんでした。本当に…」
今度は夫のおまけつきだった。
翌日。黄昏時。
「おい、またあのオッサン来たぞ!」
「マジかよ!」
「また、頼みたい…」
手にはくしゃくしゃに握りつぶされた五万円があった。
「何してぇのか知らねぇけど、オッサンこれで十五万だぞ?」
「構わん!」
男泣きに泣いていた。小遣いもこれで最後だ。ラストチャンス!
つづく
美女発見。ターゲットロック。不良グループへ携帯電話で
通達。了解。不良グループ行動開始。ターゲット捕獲に成功。
アタックチャンス!!ユウジロウ発動。接近。偽りの交戦。
ターゲットの奪取成功。公園外へ移動!!
今度のユウジロウは一味違う。もう一人暮らしかどうか聞いてしまおう!
「お…お一人で暮らしてらっしゃるんですか?」
「…まぁ…一人といえば…一人かな…」
持って回った言い方だがとにかく一人ではいるらしい。少し無口な女だった。
少し大人しい印象を受けるがこういうのがセックスになると豹変したりする。
「是非、お部屋に呼ばれたいもんですな。はっはっはっ」
冗談っぽく責めれば何とかなるのではないかと言う幼稚な作戦である。
つづく
「寄って、いかれますか?」
「え?いいんですか?」
「何のお構いもできませんけど…」
「いや、お茶の一杯でも頂ければ充分です」
「それじゃあ歩いて行くのもなんですし…」
女は流していたタクシーを止めた。部屋まで相当距離が
あるのだろうか。
タクシーに乗るなり、タクシーは動き出した。国道を進んでいく。
それにしても随分走るものだ。この女、あの公園にいたのは
帰るからではなかったのか?何か仕事の途中か何かにふと
立ち寄ったか何かしただけなんだろうか。
見た事もない風景の中をタクシーは進む。女は何も喋らない。
つづく
運転手も何も喋らない。静かにエンジン音だけが流れている。
何十分、いや何時間走ったか、途中ユウジロウは寝てしまって
分からなくなった。
「着きましたよ」
運転手の声で起こされる。暗い。どこだここは?
「九七〇〇円になります」
当然女が支払うものかと思えば微動だにしない。
「きゅ…きゅ…九七〇〇円ですよっ!!」
運転手の様子も変だ。とりあえず立て替えておこう。ユウジロウは
一万円を出し、釣りを受け取った。
つづく
車外に出るとひんやりと涼しい。女は降りてこない。
あれ、と思ってタクシーの中を覗くとそこには誰もいない。
運転手だけが慌てて後部のドアを閉めるところだった。
乱暴にドアは閉まり、乱暴に走り去った。
ユウジロウのいる場所。そこは都内でも有数の霊園だった。
そういえば、タクシーに乗ったとき、普通ならば『どちらまで?』
と聞かれるはずだ。それもなかった。初めから俺一人だったのか!
いやあの運転手の挙動。しきりに後部座席を気にしていた。そして
会計の時のあの怯えよう。
彼には何かが見えていたんだ!自分が見ていた女とはとは違う『何か』が。
三回戦。十五万+タクシー代は泡沫が如く消えた。ここからどう帰ればいいのだろう。
諦めた歩き出そうとした時、耳元で誰かが囁いた。
「あたしの『部屋』には寄っていかないの?」
あの、女の声だった。
とりあえずユウジロウはその場から走り去った。
終
私が鳥をつけ忘れまくるのを見てみんなはどう思うんだろう。
いい加減そろそろ『実は作者は馬鹿なんじゃないか』と疑われる時期だな…。
ところで、このスレではもう、作品自体は投稿しません。もし特に要望もなく、
2番目のスレッドが立ち上がらなければ、事実上↑の作品が最終回ということに
なります。
一体何人の方に読まれているんでしょうか。たくさんの人に愛されていれば
いいんですけどね。
本当にゲリラをやっていた頃の勢いはなくなっていると思います。残り40ぐらい
レスつけられるかな?その間私は黙っていますので住民の方々に決めて欲しい
と思います。主体性がなくて申し訳ありませんが。私は『やってみたいような、
続くかどうか不安なような』という気持ちです。
あとは読んでくださる方々次第という感じで。よろしくお願いします。
作者氏、いつも乙です。個人的には次スレキボンです。
スレ乱立、削除、dat落ちが多いオカ板でここまで続いたのは何か意味がある事だと思われ。書き続けて欲しいです。
いつか作者氏が「もう疲れました、終了」と宣言する時が来ても、スレが続いていれば引き継ぐ猛者が現れそうな気もします。
ROM専が勝手な妄想を語って申し訳無い。
>>957 ROM専の方なのに書き込んでくれてありがとう。私も書いていて楽しいです。
正直申し上げて、『ちょっと不安だけど続けたい』という気持ちが本音です。
恐らく私から『疲れて終了』はしないと思います。私は色々と事情があって、
問題が多い人間なので、せめて、少しの人だけでも喜んで読んでくれる
『山形先生シリーズ』に強い思い入れがあります。
本当にレスありがとう。嬉しいです。
>>958 作者氏、レスありがとうございます。
もう一つ個人的な希望と言うか提案なのですが、どこかに避難所を作ってはどうでしょう?(例えばクラウン板等、雑談もOKな場所に)
現在のオカ板の自治は先が読みにくい状況ですし、作者氏と、又は住人同士で板違い・スレ違いな話をしてみたい人も居そうなので。