119 :
本当にあった怖い名無し:
某団体の女子プロレスラーさんの巡業先での出来事。
それはある年の暑い夏、屋外での試合のことでした。
まだ若手のその選手たちは、いつものように雑用に追われ、リングの外を
走り回っていました。すると同期の友人がこんなことをいいました。
「ねー、あそこのお客さん、さっきからずっとこっち見てるよ!」
「へぇーどこ」「ほら、斜め後ろの立ち見の人…」
その人は他にも席が空いているのになぜか、客席の後ろで立ち見していました。
しかもその人は、今試合が行われているリングではなくて、彼女たちの方を
ジッと見てニコニコ微笑んでいたそうです。
それは全然嫌な感じはしなくて、逆に初対面なのにドキドキするような不思議な
感じがしたそうです。そうして彼女たちは売店の仕事をしていても、ついつい目で
“あの人”を追ってしまうほどでした。
「あれー、あの人もう帰っちゃったのかな?」「えー、気になるの?」「少し…」
「えー、あんたああいうの好みかい」「だってイイ感じじゃん?」
「そうねー、ちょっといいかな!」「なんだよー、おまえもかよー!」
彼女たちは、ちっょと浮かれていました。それはまるで一夏の魔法にかかったようでした。
そうして試合もほぼ終わり、お客様も帰りだした夕暮れ、ヒグラシの声が聞こえる頃、
あの人はまだ待ってくれていました。
彼女たちはその人が待っていてくれたことに一様に驚いて、でもすぐに話しかけ、
みんなで一緒に記念写真を撮りました。
「あのー、誰のファンなんですか〜?」
「みなさんイキイキとしてて、とても素敵です。まぶしいです」
その人の声も笑顔も優しくて、それがとても嬉しくて、彼女たちは疲れていることも
忘れて、その人を囲んで何枚も一緒に写真を撮ったそうです。
そうして数日後、写真は現像されてきましたが…
「うわわわわっ!?」「えっ、どうしたの?」
「うわっ? ウソ、なにこれ〜〜〜〜〜〜!!!!」
10枚以上も取った写真の中の、微笑んでポーズをつけている彼女たちの中央には、
誰も写っていなかったそうです…。