撤退って自分で言ってんじゃん。
豊臣秀吉の朝鮮出兵により、中国本土でも見ることができなくなっていた
稀覯本、『算学啓蒙』(朱世傑、1299年)という算学書が戦利品としてもた
らされた。名前のように入門書であるが、算木算学の最高傑作ともいえる「
天元術」を解説する本だったのである。
当時中国では、算木システムから算盤システムへと移行しており、「天元
術」も忘れさられていた。しかし、これは、中国算学の退化ということでは
ない。算盤算学では、小数点以下25桁まで無理数を計算したり、大型の魔法
陣を作ったり、膨大な計算量を必要とするものが重視されていた。これは、
西洋近代数学とは異なるものだったので、現在では評価されていないようで
あるが、方向性の違いと考えるべきで、退化というのは当たらないだろう。
今後、コンピュータ的数学が成立すれば、脚光を浴びるような種類の算学で
あった。
この算盤算学の最高峰といわれるのが、『算法統宗』である。これは、『
楊輝算法』という算木算学の集大成とも言えるものを算盤算学に焼き直した
ものである。『算法統宗』の入手経路は、分からないが、民間貿易を通じて
もたらされたようである。なお、『楊輝算法』は、朝鮮出兵時にもたらされ
、関孝和はこれをもとに独学し、算学の基礎を身につけたのである。