ある仲の良い兄弟がいた。いつも二人で遊び、遅くまで帰ってこない事も
しばしばあった。
よく二人は学校にある昇り棒で遊んでいた。兄は弟よりも速くスルスルと
棒を昇っていく。弟はなかなか兄のスピードについていけなかった。
何日も何日もそれは変わる事が無かった。
だがある日、弟が兄と同じくらいのスピードで棒を昇れるようになった。
二人の差は徐々に無くなっていった。
そしてその翌日、兄弟の昇るスピードは全く変わらなくなる。兄は隣の棒を
一生懸命昇る弟に追い抜かれそうになった。
次の瞬間、兄は脚で弟の腕を蹴っていた。軽く蹴っただけだったが、弟は
まっ逆さまに地面に落下した。打ち所が悪く、弟は病院に担ぎ込まれた時点で
死亡してしまった。
兄は自分が蹴ったという事実は隠し、弟が手を滑らせたと親に告げた。全てが
怖かった。
それから時が流れ、兄は社会人になっていた。
夜遅く、いつものように帰途に着く兄。電車はもう終電近く、その駅に降りた
のは兄唯一人だった。誰もいないホームを歩く兄の目に子供の姿が映った。
泣いているようで、両腕で目を擦り続けている。
兄はその子供に近付き、声をかけた。
「どうしたの?」
子供は答えずに泣いている。
「お父さんはいないの?」
子供は答えずに泣いている。
「お母さんはいないの?」
子供は答えずに泣いている。
「お姉ちゃんはいないの?」
子供は答えずに泣いている。
「お兄ちゃんはいないの?」
「お前だ。」