【小説】ZOMBIE ゾンビ その14【創作】

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830fool
「保守」

「保守だ!1000まで保守だ!」
博士は叫んだ。

この研究所では個人用シェルターの開発が行われていた。
内部では完全なエネルギー循環が行われ、いつまでも生活ができる。
しかも、安価に構築できるシェルターである。
この個人用シェルターはほぼ完成していたと言ってもよかった。
しかし、ある事情により研究はキャンセルされた。
ある事情とはゾンビ災害が終息してしまったことによる。

ゾンビ災害が起きた初期の頃にこのプロジェクトは始まった。
対ゾンビ用にシェルターが売れると睨んだある財閥から、シェルターの
開発が依頼されたのだ。まさかこんなに早くゾンビ災害が
収まってしまうとは想定していなかったのだ。
831fool:2005/10/24(月) 02:08:14 ID:KXiCo2P80
完成まぎわにプロジェクトがキャンセルされてしまったので、
今までの苦労はすべて水の泡となった。
博士と助手はがっくりとして、毎日酒浸りとなっていた。

そんなある日、博士が何を思いついたか、大量のゾンビを研究所に
招き入れていた。

「博士!いったい何をやっているのですか!」
「保守だ!1000まで保守だ!ゾンビを1000体保存する!」
「なぜ、ゾンビなどどうするつもりです。こんな危険なことをやっていないで、
はやく軍隊に引き取ってもらわないと。」

プロジェクトが途中でキャンセルされたことに対して、博士の頭がおかしく
なってしまったのではないか。そう思うと助手は不安になった。
832fool:2005/10/24(月) 02:09:00 ID:KXiCo2P80
「いいかね、君。たしかにゾンビ災害は終息しつつある。だがゾンビに
関しては何一つわかっておらん。ただゾンビを破壊して、事態を収めたに過ぎない。」
「はあ。」
「今回の災害に瀕して、我々科学者はいったい何の貢献ができたのだろう。否、
何もできてはおらん。科学とは、我々科学者とはどれ程のものなのか。
今回はたまたま軍事的圧力でゾンビを制することができた。しかし、次回はどうか。
いや、ゾンビ化の原因がわからぬ以上、今後いつまたゾンビ災害が起きても不思議は
ないのだ。そのためにゾンビに関して研究をつづけねばならぬ。」
「だからゾンビを...。狂ってる。ゾンビを1体でも残せば、どんなに危険性が高いか。」
「君に理解してもらおうとは思わんよ。どこへなりと通報するがいい。ただ私は自分の
信念に従うのみだ。」
833fool:2005/10/24(月) 02:10:18 ID:KXiCo2P80
助手は迷っていたが、結局軍隊に通報した。
すぐに一個中隊が到着し、ゾンビを残らず破壊してしまった。
しばらくして助手は博士がいないことに気づいた。
研究所内と探すと開発中のシェルターの前で博士を見つけた。
「博士...。申し訳ありませんが、ゾンビはすべて処理させていただきました。」
「そうか...。」
博士はため息をついた。
「それでもサンプルの一つは必要だ。」
博士が白衣をまくった。そこには大きな噛み傷があった。
「おそらく私が最後の感染者となるだろう。どうか、私を有効に活用してくれたまえ。」
博士はそういうとシェルターに飛び込み、中から封印してしまった。
こうなってしまうと外からは開けることができない。

いつの日か、これが未来のゾンビ災害の切り札となるのだろうか。
それともゾンビ災害の原因となるのだろうか。
考えても答えが出ないので、助手はシェルターをほうっておいたまま研究所を後にした。