【解説】
戦火の中、必死で逃げる人々。彼らもその中にいた。
爆撃を受け、倒れる彼女。
「待って!置いていかないで!」
彼は、追いすがる彼女の手を取ろうとした。
しかし、手を引いて逃げようにも、彼女の体は半分くらいしか残っていなかった。
おそらく後何分も持たないであろう事は容易に察せられた。
彼は、彼女に冷たく言い放った。
「怪我人は足手まといなんだ。俺だって命は惜しい。
悪いが、ここからは別行動にさせてもらうよ」
彼女は、自分を見捨てた彼を恨みながら死んでいった。
やがて、何とか無事に逃げおおせた彼の元に、彼女の幽霊が現れた。
「あの時はよくも私を置いて逃げたわね…許さない…」
彼女は、彼が自分だけ助かりたいがために彼女を見捨てて逃げたと思っている。
だから、彼を恨み、化けて出たのだ。
彼には、彼女が助からないことはわかっていた。
しかし、彼女を失いたくなかった。
そこで彼はわざと彼女を見捨てた。
忌の際に、強く自分を恨ませようとしたのだ。
───化けて出てきてくれ! 幽霊でもいい、君に会いたいんだ!───
彼は、愛しい恋人との再会を果たすことができた。
彼女は彼を恨んだままだが、彼はその誤解を解こうとはしない。
下手に誤解を解き、「恨み」という強い情念が失われてしまったら、
彼女は消えてしまうのではないか?
そう思ったから。