【解説】1/2
終戦後広島から親戚の住む北海道の片田舎にやってきた少年鉄雄、
彼には普通の人と違う点が二つあった。
それは原子爆弾の放射能に侵された肉体、
そして世界に通用するほどの声楽家としての才能だった。
しかし、終戦直後の日本ましてや彼の住む田舎では
彼の才能の本当の価値に気づく人間はいるはずはなかった。
ただ一人彼の声を認めてくれていた初恋の幼馴染も
器量がよいとは言えない彼ではなく好青年と結婚してしまい
彼のそばで彼の歌を聞いてくれる人が誰もいなくなったとき
彼は幼馴染の住む親戚の家を出ようと決心する。
「ついてくんな、帰れ」
後をついてくる親戚のうちの飼い犬を追い返そうとしながら駅へと歩いて行く。途中鉄雄は自分が幼い頃に出会った少年と再会する。
しかし不思議なことにその‘少年’は鉄雄が十数年前に会ったときと同じ姿だった。
そして鉄雄の手を握ると告げた。
「行こう 君を世界中に認めさせる」
ニ分割では入らないことが判明orz
【解説】2/3
その‘少年’は不思議な力を持ち永遠に近い生を持ち
時の流れをさまよいながら人間のおろかさや美しさを見つめ続けていた。
あるとき知った鉄雄の才能を認め、その才能がうずもれていることを歯がゆく思っていた。
そして彼の病魔を考えるとその機会は後わずかでした。
そして彼が全てを捨てた瞬間に現れ、イタリアのオペラ座の舞台に瞬間異動で立たせたのだ。
突然のことに驚いた鉄雄だった。
しかし彼の才能はその舞台に流れる音楽を聴くとやがてそれに声をのせ始める。
彼の登場に恥真は驚いていた舞台そして客席の人々も
その歌声を知ったとき何故鉄雄がそこに呼ばれたかを理解した。
そして全てを歌い終わると舞台の人間は彼を取り囲み口々に彼を賞賛する。
鉄雄を連れてきた'少年’は心のなかで呟く
「ここが君にとって一番ふさわしい場所だ。
人々はそれを'神に愛された声'と呼ぶだろう」
【解説】3/3
しかし'少年'とオペラ座の人々の満足とは裏腹に鉄雄は合点のいかない顔をしていた。
そして彼の足下にあった存在に気づいたときにその答えに気づいた。
「なんだそっか、お前僕の歌を聞きに来てくれたんか」
それは彼の後をついてきた飼い犬であり
そして親戚一家が誰も耳を傾けてくれなくなった中で
唯一彼の歌声を楽しみにしてくれた存在だった。
「まあええか・・・なんじゃ人が認めてくれるかどうかなんてはね
結局大事なのは僕が誰に向かって歌ったら気持ちいいかってことじゃけん」
鉄雄はしゃがみ首筋をなでながらそういうと彼の唯一の聞き手に向かっていつもと同じように歌い始めた。
いつの間にか戻っていた彼の住む町の夏空の下彼の声が流れる。
しかしそれは今日は長くは続かなかった。
彼は口から血を流しだすと道の上に倒れていった。
倒れても鉄雄の口はたった’一人’の観客のために動き続けた。
そしてその観客は心配そうに彼の口元をなめ血をふき取ってやる。
満足そうに歌い続ける鉄雄の声は次第に小さくなっていき聞こえなくなっていった。
'少年は怒りとも悲しみに似た表情で自分の愛した歌声が永遠に失われていくのをただ見つめることしか出来なかった。
元ネタは
『不思議な少年』(山下和美作、講談社)第2巻から「鉄雄」