交通事故で足を骨折し、病院帰りにギプスと松葉杖の状態で電車に乗ったときのことだった。
ホームの階段降りてすぐの位置にある車両のドアから優先席は遠かったので、入ってすぐの席に座っていた。
すると、目の前に高校生くらいの男が立った。なぜか俺を睨んでいる。
いったいなんなんだろう? と思ってると、いきなり物凄い力で横に押しのけられ、転倒した。
骨折れたところにモロに衝撃が来て激痛に声も出せなかった。
近くの人に助け起こされ、どうにか目を開けたとき視界に映ったのは.……
通勤ラッシュの時間からはずれガラ空きの車内で、わざわざ俺が座っていた席に座り、満足そうにしている男だった。
どうにか痛みが和らぎ抗議するも、ん"っ! あ”っ! と、わけのわからない叫び声を返すだけ。
そのとき、数年前に見たドキュメンタリー番組の映像が脳裏をよぎった。
新しく設置された植木という新しい要素に対応できずパニックを起こす少年。
物事の認識にズレがありトンチンカンな受け答えをしてコミュニケーションをうまく取れない少年。
そして……
いったんココだと決めた電車の席に、先に他の人が座ってたためパニックを起こし、その人を必死に押しのけようとする少年。
あれは、自閉症児を扱った番組だった。
そして今、俺を突き飛ばした男は、まさに電車でおじさんを押しのけようとしていた少年の(体だけ)成長した姿だった。