【小説】ZOMBIE ゾンビ その12【創作】

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222fool
ある建物に逃げ込むと、いつものように内部の調査を開始した。
閉鎖された空間は奴らがいなければこの上なく安全だ。
逆に奴らが一人でも紛れ込んでいれば、閉鎖されている分だけ
外にいるより危険度は増す。浸入口も含めて、建物の綿密な調査は必須だ。

廊下を歩いているとき、青白い顔をした男が近づいてきた。
私はそれがゾンビだと思ったので、その男の頭に鉄パイプを振り下ろそうとした。
「ま、待ってください。あなたに危害を加えるつもりはありません。」
こいつ、生身の人間なのだろうか。それにしては血色の悪さはただごとではない。
「たしかに私は死人です。しかし皆が皆、外の奴らと同じというわけでもないのです。」
私は鉄パイプを下ろして隙を作ってみせたが、襲ってくる様子はなかった。

男は確かに死人であるらしい。体温はないし、心臓も止まっている。
しかし他のゾンビと違い意識があり、人肉への嗜好もないようだった。
外を歩いていても生身の人間ではないのでゾンビに襲われることもないと言った。
223fool:2005/04/23(土) 23:02:52 ID:5sPoGg8e0
ここは安全そうだ。私はしばらくこの建物に居座ることにした。
そして、死人との同居生活が始まった。
この男、つき合ってみると中々よい奴だった。
人手があるのはありがたいし、私の食料を分けなくてよいのも助かった。
必要なものがあれば男に外に取りにいってもらった。
心臓が止まっているのにどういうわけか代謝があるようで、
死人に特有の腐敗臭もなかった。外のゾンビと異なり、男は理想的な
不老不死を体現しているように見えた。

ある日、建物の扉を突き破るとゾンビの集団がなだれ込んできた。
運悪く、眠っている間の出来事だったのでとっさに反応できず
気づいたときにはすでに逃げ道をふさがれていた。
このままでは良くてゾンビの仲間入り。順当なところで、
食い尽くされて終わるのがオチだろう。
224fool:2005/04/23(土) 23:04:01 ID:5sPoGg8e0
「どうせなら、私に噛まれてみませんか。」
男が声をかけてきた。
男はもともと死人なのでゾンビには襲われない。気楽なものだ。
しかし私も言われるまでもなくそれを考えていた。

せっかく今まで生き延びてきたのに、ゾンビとなるのは癪だが、
男のようになるのならそう悪くない。
仕方がない。まあ、なるようになるさ。
私は目をつむった。
225fool:2005/04/23(土) 23:04:56 ID:5sPoGg8e0
私が眼を覚ますと建物はゾンビで溢れていた。
男の姿はすでになかった。おそらく住むのに適さず、と建物を
放棄して出ていったのだろう。
私は自分の体を調べてみた。意識はしっかりとしているが、
心臓は止まっていた。息をせずとも苦痛は感じない。もちろん、
生前と変わらず人肉を喰おうなどとは思わない。

ゾンビどもは私を見ても襲ってこようとはしなかった。
どうやら私はあの男と同じタイプの死人となったらしい。
食料の必要もないし、ゾンビに襲われる心配もない。
そして私は不老不死となったのだが、気分は憂鬱だった。

あの男、肝心なことを言っていなかったようだ。
確かに人肉を喰おうとは思わない。
しかし、私は耐えがたい喉の乾きと生き血への欲求を
感じはじめていた。