これは俺があんまり猫が得意でないからこそゾッと来た話で、猫好きな人、及び
猫に興味ない人からすれば「ハァ?」な話だと思うが、まあ聞いてくれ。
今住んでるアパートの周辺に、けっこう年寄りの野良猫が一匹定住している。
割と人に馴れた猫で、例えば玄関脇に出してある洗濯機のフタの上なんかによく居るんだけど、
冗談のつもりで「スンマセンけど、洗濯するからどいてくれる?」とか声を掛けると渋々といった
感じでどいてくれたりする。
また、アパートに入り口の階段を登ろうとした時、ちょうどその階段を老猫が降りようとしていて、
これも冗談のつもりで体を退いて「どうぞ」と腕で送り出すと、一声鳴いて悠々と階段を降りたりする。
まあこれはこちらが人間のセンスで見ているからそんな人間臭さを感じるのであって、殊更その
老猫が人間味を帯びてるわけではない、と思ってはいた。
ちなみに食い物を差し上げた事は一度もないので、別に懐かれているわけでもないと思う。
で、先日、アパートに帰ったら、玄関の脇をネズミが一匹チョロチョロしていた。洗濯機の上の老猫は
ネズミなんぞ眼中にない様子で、なんと夕日などをじっと眺めている。
そうやってネズミの隙を窺っているかとも思ったが、俺が近づいてネズミが逃げ出しても無反応。
もうコイツに声かける癖がついてしまってる俺が「最近の猫はネズミなんて喰わんの?」と言ったら、
なんだか横目でコッチの顔を凝視してくるわけだ。
猫が「横目」なんてするものなのか? となんとなく気味が悪くなって部屋に引っ込んだ。
数時間後に出かけようとすると、玄関先にネズミの頭が転がっていた。拾い上げてみると本物。
周囲を見回すと少し離れたところ、アパートの二階に上がる階段で、老猫がコッチを眺めてる。
これは「戦果」を俺に見せたという事か? と思って「やるなぁ」と呟くと。
老猫が俺の顔を見たまま軽く顎を上げて、片目を細めた。
ああ、笑ってるな、と思った。
正直なところ、猫というものがああいう仕草というか表情というか、あんな顔をしてみせるものだとは
未だに思えない。全ては俺の気のせい、あるいは猫というものへの無知からする勘違いかも
知れないし、ひょっとしたらおかしいのは俺の脳の方かも知れないが、余りの人間じみたその行動、
仕草は異様な感じがする。猫離れしすぎだ。
あいつはこのまま長生きしたら「猫以外の何か」になりそうな気がしてちょっと嫌だ。
以上、大した事ない話だけど。