【古今】暗黒の文学館二号館【東西】

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1恐怖館主人 ◆m2/JIAzxUM
「人類の最も強烈な感情は、未知のものに対する恐怖である。」
−ハワード・フィリップス・ラヴクラフト『文学における超自然』

前スレッドをご愛顧いただきまして、まことに感謝申し上げます。
怪奇・幻想文学にロマンを求める方々、今年もじっくりまったり
でよろしくお願い致します。
2恐怖館主人 ◆m2/JIAzxUM :05/01/04 08:06:30 ID:HGf8WFLC
前スレッドのURLをご案内の方、恐縮ですがご教示いただければ
幸甚です。
3新参者 ◆1BoyUhe6Ns :05/01/04 08:08:03 ID:a0GgXqsW
恐怖館主人さん、住人の皆さん、またよろしくお願いいたします。
4新参者 ◆1BoyUhe6Ns :05/01/04 08:09:31 ID:a0GgXqsW
前スレッドのURLです。どうぞ。
http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1059377824/
5本当にあった怖い名無し:05/01/05 06:01:32 ID:kOGMnf+Z
恐怖館主人さん、新参者さん、乙でした。
このスレ大好きだったし、凄く参考にしてたので嬉しいです。
今年もよろしくおねがいします。
6恐怖館主人 ◆m2/JIAzxUM :05/01/05 08:40:51 ID:/LfMnjwa
ブリジット・オベール「ジャクソンヴィルの闇」(ハヤカワ文庫HM)

’94の作品。アメリカ南部の小さな町、ジャクソンヴィル。ジェムとローリーはゴキブリ
の異常発生というケチがついたにもかかわらず、夏休みの到来に浮き足立っていた。
しかし平和そのものに見えた町にそぐわない、むごたらしい殺人事件が起こる。あち
こちを喰い裂かれた死体についていたのは「人間の」歯型。ただならぬ事件に町全体
が興奮と不安に包まれる中、第二、第三の惨殺事件が続発する。そこらじゅうに群れ
るゴキブリと、そして跳梁する不気味な影。なすすべない住民たちを嘲笑うかのような
怪奇現象のヴォルテージが最高潮に達したとき、ジャクソンヴィルとその住民に秘め
られた驚愕の事実が明らかになり、平和な町は地獄と化す!フレンチ・ミステリ界の
女流が、ホラーマニアとしての一面を遺憾なく発揮した衝撃作!!

以前このスレッドで紹介されました「ジャクソンヴィルの闇」です。フレンチホラーは不
案内なのでオベールのポジションがよくわからない。ゾンビ物定石のストーリー展開
の始末として、作者の見せ場であるはずの謎解きの部分がどうにも肌に合わない
というか、アングロサクソンスプラッタを読みなれた者としては非常に違和感のある
設定。スプラッタにファンタジー風味の真相という何だかてんぷらとスイカのような
食い合わせのような、消化不良のスカッとしない真相。着想・演出はいいと思うので、
死後の世界どうとかに逃げずに現実路線で走らせれば、ね。〆はむしろ定石どおり
でキレイに決っているのですが、謎解きの部分がね…。前半部分はサクサク読めて
ここからどう落とすかなと期待したのですが…

7恐怖館主人 ◆m2/JIAzxUM
ルース・レンデル「殺す人形」(ハヤカワポケットミステリ)

'84の作品。顔に醜い痣を持ち人付き合いを避ける姉ドリーと、魔術師になることを目指
す弟パップ。二人とその父親は、やや内向的ながら穏やかな日々を送っていた。しかし
突然の父の再婚により家族の生活は一変する。ドリーとパップは魔術で継母に罰を与
えようと儀式を行い、偶然か必然か継母はその日のうちに絶命してしまう…その結果
に魔術への熱が冷め、大人としての自我に目覚め始めたパップと対照的に魔術の魅
力に憑かれ、ますます内向的になっていくドリー。そしてもう一人、トラウマを抱えなが
ら家族から爪弾きにされ孤独の底で彷徨う青年ディアミット。膨らんでいく被害妄想に
苦しむ彼は別の人格に逃げ道を見つけ、ついには殺人まで犯してしまう。
妄執の泥沼の中に嵌まり込んでいくドリーとディアミット。二人がもがき苦しんだ果て
に辿りついたのは…英国ミステリー界きっての女流が描く、孤独な魂の破滅を描いた
沈鬱なサイコホラー。

このストーリーの登場人物に共通する、孤独、コンプレックス、トラウマ。俗に「シリアル
キラー」と称される「怪物」たちの過去を追っていくと、多くは同様の状況に辿りつくの
ではないでしょうか。枯れかけた魂が逃げ込んだのが、この物語ではたまたま「魔術」で
あり「もう一人の人格」であった訳ですが、それが「ホラー」であったり「変質的な性欲」
であっても根源的に違いはないような気がします。人は環境によっていつ何時薄皮一枚
で隔てられた異常な世界に踏み込んでしまうかもしれないという意味で、本作は非常に
示唆的であり、幽霊(幻覚)という形をとってまで孤独を癒そうとする登場人物の内面の
葛藤と悲哀もきちんと描いた、暗いながらもバランス感覚に富んだ好作です。シブ過ぎ
る感もありますが、他の作家にはないこの淡白な感じもまた本作品(作家?)の持ち味
でしょう。奈良の事件の前後でしたので感慨深い作品でした。(絶版)