ほんとは怖くない話part?(999)

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538490 ◆WpBVgxesBo
今日もまた夜が更けて一人、また一人と山小屋の戸を開けて登山客が入ってくる。
小屋はせいぜい数人も入れば満員で、その日もすぐに登山客で満員になった。
「これは本当にあったことなんだが、、、」
集まった登山客に向かって俺は静かに話し始めた、内容はなんてことのない
怪談。古典となってしまった感のある山小屋の部屋の四隅を回る話から
SOS事件、結末が分からないものはこじつけでも何でも一応結末はつけてある。
そうしないと聞いている者たちが満足しないからだ。
人は結末をつけてもらわなければどうしてもかすかに希望を抱いてしまう、
どんな絶望的な状況でも
「ひょっとしたら、、、」
そう考えてしまって諦めることが出来ない。未練が残るのだ。
生きていく上ではそういったことは重要なのだろうが。

夜通し話しつづけ、時計の針が3時を回った頃、顔の半分が砕けた男と
手首から血を流している女が静かにドアから出ていいった、
足をぶらぶらさせた中年の男性、がりがりに痩せこけた青年もそれに続いた。
今日もまた知らない顔があった。いつになったら終わるのだろう。
539490 ◆WpBVgxesBo :04/11/10 23:33:27 ID:lt6xz7IW
俺がこの山小屋へきたのは、一年程前の吹雪の日だった。
あの日も、今日のように吹雪の夜で誰もいないことの
恐怖よりも小屋がある幸せの方が勝った。
その日以来、俺は幽霊を相手に話をしている。
この世に未練を残し死んでいった者たちの中には自分が死んでいることや、
どうやって死んでしまったのかを忘れてしまって迷っている者がいる。
そういった亡者が自分の人生に結末を求めてこの山小屋を訪れる。
どんな結末であれ、自分の死の体験に近い話を聞くと自分のことと思い
満足するのだろう。はっとした表情で帰っていくものは次の日は来ない。
その代わりといってはなんだが次の日には知らない顔がある。
もちろん小屋から出ることは何度か試みたがどうやら無理らしい、
どんな快晴でも小屋を出ればすぐに吹雪いてくる。
朝になるとあるいは誰かが発見してくれるかもという淡い期待を
抱き彼らは自分の死んだ場所に帰るのだが、どこからか見ていて俺を閉じ込める。
この頃俺はよく考える、自分が生きていた頃のこと。半死半生で山小屋にたどり着き
そのまま死んでしまったこと。
そしてここを訪れる幽霊の誰もが俺も幽霊だということに気づかないこと。
だがひょっとしたら気づいているのかもしれない、それでもすがってくるのならば
この奇妙な集会を続けなければならないだろうということ。
月明かりが雪を青く照らし、稜線のふもとの山小屋は今日も静かに客を待つ。