「落とし物」
暗い夜道を歩いていると、曲がり角のところでうつむいて何かを
探している人がいた。暗くてよく見えないが女の人のようだ。
「すいません。落としちゃったんです」
女の人がいきなり俺に話しかけてきた。
うつむいているせいで顔は見えない。
「落としちゃったんです。一緒に探してくれませんか?」
女の人は独り言のように繰り返した。
「何を落としたんですか?」
「ほっぺ……」
「え? 何を落としたですって?」
女の人が顔をあげた。
女の人にはほっぺがなかった。
「あんなにおいしいお料理は初めて食べたから……」
食べかすを口のまわりにつけて、女の人は困ったように笑った。