ZOMBIE ホームセンター攻防編 八日目

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 恋に死ねない、ろくさあぬ。
それでも人生は続いてゆく。けれど君は、何も考えず、何も学ばず、いつまでも変わろ
うとしなかった。白、赤、黄色、青、緑、黒。宝石のような瓶から振りかけた高価な
匂い消しも、その退廃を消す役には立たない。取り替えても取り替えても、翌朝にはもう、
つんと鼻を突く栗の花の匂いがシーツに染み付いていて。
整えるそばからベッドは皺くちゃになり、僕はとても忙しかった。
あいつらはただの遊び相手よ。私が本気で愛してるのは貴方だけ。そう言って僕を抱き
しめ撫でさすり、キスをして。けれど君はものの10分でその言葉を忘れ、男が来れば
寝て喧嘩して啜り泣きとりすがり、喚き散らしてまたすがって、甘えて泣いて怒鳴って
蹴って、その終わりに僕はいつも、男たちにからかわれ、慰められ、殴られ、またひと
しきり優しくされ、そしてまた殴られ、犯されたりもしたけれど、そのたびに君はこう
言った、それが人生よ。

 なんて哀れなろくさあぬ。
僕は君にさようならを言おうと決め、市場で仕事を見つけた。学歴はなくても体だけ
は丈夫だったし、毎日シーツを洗うのには、もううんざりしていた。すると君は僕に
すがって涙を流した。いかないで、可愛いろべえる。貴方にまで捨てられたら、私は
どうしたらいいの。震える睫と肩を掴む小さな白い手。それはまるで、下町の芸人が
披露する子供向けの三文人形芝居のようだったけれど。耳元で鳴り響く、下手糞な
アコーディオンの響きを聞きながら。僕は君を抱きしめ、捨てるなんて、違うよ、
そうじゃあないんだ、と呟き。
僕らは一晩中、飲んで、話し合って、飲んで、話し合っていた。
翌朝僕は、あのお馴染みの匂いの中で目を覚ました。あるこおると甘い毒と汗と栗の花の。
乱れたシーツにくるまった裸の僕の腕の中には君がいて。あなたももう立派な男ね。と
囁き、僕の耳たぶを噛んだ。