私が女子大3年の夏、ニューヨークに一人旅したときのことです。
予約していたホテルが何かの手違いで泊まれなくなってしまいました。
そのホテルで新たに紹介されたのは、薄汚れた場末のホテルでした。
なんか危ないなぁ〜、と思いながらも、野宿するわけにもいかないし、またフロント係の人が女性で良さそうな人に見えたので、そこで泊まることにしました。
部屋の中は思っていたよりも綺麗でしたが、空調の具合が悪いのか、空気がドンヨリと重く漂っているような感じがしました。
また、浴室の鏡にはひびが入っていて、洗面台の上には使用済の注射器が放置されたままでした。バスタブの中には髪の毛が数本と砂とも塵とも判別できないような埃が溜まっていました。
うわぁ〜、いやだなぁ〜、と思いながらも、今日1日だけ我慢すればいいや、と思い直して我慢することにしました。
そしてその夜のことでした。
なかなか寝付けなくて、夜中に水を飲もうと思ってベッドから出ようとしたとき、誰かが私のそばに立っているのに気がついたのです。
それは全裸姿の黒人の大男でした。口元からよだれを垂らしてニヤニヤしながら私を見下ろしていました。
犯される!
私はそう思いました。そしてこのホテルに泊まったことを後悔しました。自分の運命を呪いました。
叫び声を上げようとも、声が出ません。本当に怖いときには声も出ないということを初めて知りました。
その男は、私の体の上に覆い被さってきました。そして私の顔をじっくりと覗き込み、臭い息が私の顔に吹きかかる。
ああ、もうダメだ・・・
と、そう思ったときです。
その男は、スーッと目の前から消えたのです。
私は全身の力が抜けてしまいました。
ああ、よかった。彼が幽霊で・・・