ほんのりと怖い話スレ その13

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母親が死んだ。
優しい人だった。誰にでも笑顔で接し、亡き父からの暴力も耐え、
家族にかすがいになってくれていた。そんな母が、死んだ。
歳を経てからは妄言も多く、介護できる環境にもなかった為、
結局は俺が紹介した、預かり先の病院での臨終だった。
頼れる親戚も少なく、まだ独身だった俺は喪主の役割に忙殺され、
母の死を悲しむ暇もなく、ただ、自宅での葬儀を整えた。
葬式には誰かも知らない親戚がパラパラを集まり、香を焚いていた。
俺は坊主のありがたそうな念仏を隣で聞きながら、よくやく一息ついた心地だった。
母は老人になってからは苦労しか与えてくれない存在だったが、
こうして亡くなってしまうと、自分が子供の時の、若く優しい母の記憶しか思い出せない。
涙腺が緩むのを感じながら、俺は目前の棺桶の中の、母の死に顔を見つめていた。
ふと、母の閉じた口から、白いモヤが立ち上るのが見えた。
煙にして薄い、しかしそれは消える事なく、家の天井に吸い込まれた。
2431:03/05/31 17:15
俺は呆気にとられ、すぐに参列者の皆に目配せをした。
しかし、誰も彼もが下を俯き、目の前も坊主も目を閉じて経を上げている。
(俺だけが見た?他は誰も見ていない?こんな事ってあるのか!?)
しばらく待っても、誰も顔を上げようとはしない。それはなぜか恐ろしく感じる光景だった。
失礼、と呟いて席を離れた俺は、天井の上、つまり2階へ行く為に階段を上った。
あのモヤは気のせいではない。そう心中で確認しながら、俺は2階に着くと、
廊下の一番奥の、丁度一階の天井の上に位置していた部屋の襖を開けた。中は真っ暗闇だった。
そこは使わない荷物置きにしている部屋なのに、なぜか空気が流れていた。
部屋の床を見てみる。何のシミもない。床をじっと見つめていると、
すぅっと引き込まれる感じがした。ヤバイ。これは危ない。
「真ちゃん!どうしたの?大丈夫!?」
大きな声に、はっ!と意識が醒めた。不自然に思った親戚が来てくれたようだ。
「あ、ああ、大丈夫、大丈夫。すぐ戻るよ」
もう一度、俺は部屋を睨むように見渡すと、乱暴に襖を閉めた。
2441:03/05/31 17:15
「ねぇ、どうしたの?ホントに大丈夫?」
すでに傍らに来ていた母親の手をとると、俺は階段に向かって歩いた。
「あー、何でもない。何か変なのが見えてね」
「変なのって・・・ええ?怖いモノ?でも葬儀の席では、馬鹿な事言ってはダメよ」
「はいはい、かーさんはいっつも・・・・・・・」
俺の足が止まった。
母親は死んだ。今夜は母親の葬儀だ。俺のかーさんは 死んだ。はず。だ。
見ると、母は俺の顔を凝視していた。亡くなった時のままの、白い患者服を着たままで。
俺は恐怖で声が出ない口を大きく開けて、子供みたいに手をバタバタさせながら、
廊下の壁に張り付いた。
「・・・・・お返事は?真ちゃん」
「・・・・!・・・!・・・!」
俺は息をするので精一杯で、何もしゃべれなかった。
「・・・・真ちゃんはいつから、いい子から悪い子になったの?」
母は子供みたいに、ベーっと舌を出して、首をかしげた。
自分の母親の、その仕草はあまりにもおぞましすぎて、俺は息をするのも忘れた。
母は舌を垂れたまま、首を振り子のように振りながら近づいてきた。
「ヒィィィィアアアア・・・・・・」
やっと出た俺の悲鳴は小さすぎて、廊下の奥闇に吸い込まれて消えた。
2451:03/05/31 17:16
母の顔はすでに俺の目の前にあった。老人特有の臭い口臭が、鼻についた。
ブジュッ ブジュッ ブジュッ ブジュッ ブジュッ
母の舌は恐ろしく長いものになっており、その俺に向かって伸びている舌を、
ボロボロの歯で噛み潰しながら、ゆっくりと俺に近づいてくる。
舌は簡単に血を吹きながら床に赤い染みを作り、母はまるでそれを辿るように、
舌を飲み込みながら、噛み、租借し、近づき、飲み込む。
ブジュッ ブジュッ ブジュッ ブジュッ ブジュッ
俺は、意識が脳の戻っていくような感覚で、失神寸前だった。
それでも、言葉は出なかった。口は開きっぱなしだった。
いつの間にか、母の舌が俺の口の舌にピッタリくっつき、繋がっていたからだ。
ブジュッ ブジュッ ブジュッ ブジュッ ブジュッ
俺の舌が痛み始めた。今、母は俺の舌と繋がっている箇所を食いちぎっているのか。
意識を失う寸前、最後に、俺は母の目を見た。
母の黒い瞳には、何も写っていなかった。
2461:03/05/31 17:16
俺は親戚達に、半ば強制的に精神病院に入院させられた。俺は抵抗はしなかった。
考える時間が欲しかったし、その気ならすぐに退院できる事も知っていた
どうせ、ここの連中は、金さえ払えば診察も無く、誰でも即入院させるのだ。
見るからに脱力症になっている俺でも。
俺が世話を焼くのに面倒になった、俺の母親でも。