いつまでも引きずるほどの話じゃないから、もうバラしてしまう。
「怨霊丹」
島根県のある地方の伝説がもとになったらしい話。
その地方では怨霊のことをエンリョウと発音し、祟りの凄い死霊のことを
エンリョウ様と呼んで恐れ、鎮める。
伝説概要
中国地方一帯が飢饉に見舞われた時のこと。
ある村では被害がことの他酷く、多くの餓死者が出ていた。
そんな中、地主階級は小作のなけなしの食料を容赦なく取り立て、
その為小作人たちは隣同士で死んだ家族の亡骸を交換して食い合ったり、
終いには生きた子を取り替えて殺して食うほどの惨状となった。
やがて年が変わり、飢饉も何とか終息していった。
だが、それと引き換えのように地主達の間に奇病が流行り始めた。
何を食べても吐いてしまう。地主らの家族は次々と床に伏せる。
そこに見知らぬ修験者が訪ねて来た。良い丸薬があるという。
試しにある者に飲ませると、たちまち病が治まり回復した。
薬は法外な値であったが、地主達はこぞって買い求めた。
修験者は去り、地主達は皆元気を取り戻した。
(つづく)
(つづき)
ところが、数日もたつと様子がおかしくなってきた。
薬を飲んだ者達の食欲が異常に旺盛になり、とにかくガツガツと何でも食う。
話しかけても上の空。そのうち気狂いのようになって、
木を食う、泥を食う、虫を食う、生きた鼠を食う、
そしてついに互いに食い合いを始めた。
生きたまま家族の肉を食い千切り、血を啜る地獄絵図。
こうして地主達はそのほとんどが死に絶えた。
伝説自体の内容はこれだけで、バージョンによっては
最初に地主達が病気になったのは修験者の法力によるもの、
修験者の正体は飢饉で死んだ小作に縁があった者、などと説明される。
自作自演で金を儲け、復讐したってわけね。
時代背景は不詳だけど、おそらく室町時代くらいかとされている。
で、この話を聞くと、当然ラストの共食いは何なんだって思うよね。
原因の察しはついても明確にはされていない。
(つづく)
(つづき)
実はこの地方には誰でも知っている(知っていた?)民間伝承があって、
それが「怨霊丹」と呼ばれるもの。
激しい恨みを抱いて死んだ者の肝を主原料に秘薬を混ぜて練り上げ、
外法によって中に死霊の魂を封じ込める。
出来た丸薬を仇をなした相手に飲ませると死霊が取り憑き、
やがて狂乱して必ず死ぬという俗信。
いわゆる憑き物筋とも関連がある伝承のようだが、ここでは
民俗学的考察は必要ないでしょう。
まあ、そういう下地があるのでさっきの伝説を聞かされた者は
すぐにピンとくるってわけね。
(つづく)
(つづき)
さて、ようやく本題かな。(w
今ローカルな都市伝説になっている話は、先の伝説の丸薬が
幾つか残っていて、現代にも伝わっているというもの。
旧家が蔵を整理してる時に出て来て、珍しいものだと本宅に持ってきた。
で、たまたま腹痛を起こした小さな女の子が見つけて、
いつも飲まされる正露丸だと思い飲んでしまう。
親がふと気付くと、女の子がゴキブリを捕まえては生きたまま貪り食っている。
あわてて止めようとすると、振り向きざま男の声で
「邪魔するでない! ようやく外界に出れて腹が減っておるのじゃ!」
と怒鳴る。
ま、そんなたわいもないお話です。
ああ、憑かれた。
注:
伝説のあらすじの中で使った言葉、地主だの小作だのは
いわば分かりやすく現代語に置き換えただけなんで、へんなツッコミは無用よ。
ああっと、それから55の話には色々とバリエーションがあり、
女の子の顔が痩せこけたおっさんになっていたとか、
飼っていた小鳥を踊り食いしたとか、
犬や猫をわずか数秒で平らげたとか、
妊娠していた母親のお腹を食い破って胎児を食ったとか、
近くのコンビニに駆け込んでそこにある食い物をあっという間に食い尽くしたとか、
その他何だかんだと追加されて今では大分派手になってきているようです。
みんなが聞いた話はそちらかもしれません。
他にも別バージョンの話があるようなら、
報告を待ちたいと思います。