【懐かしい】昔話はオカルト満載・第2話【語れ】

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527Zanoni
分身の術

左慈(さじ)は盧江(ろこう)の人である。
若いときから神通力があった。

あるとき曹公(そうこう)の家の宴会に招かれていったが、曹公が、
「今日は山海の珍味を取りそろえた。ないのは松江(しょうこう)の鱸(すずき)の
膾(なます)だけだ」
というと、左慈は、
「松江の鱸くらいなら、わけなく手に入ります。」
と言った。
528分身の術 (中国):03/01/06 19:07
曹公が聞きとがめて、
「それなら、すぐ取り寄せてみよ。」
と言うと、左慈は大きな銅盤に水を満たし、竹竿に糸と鉤(はり)を付けて、
盤の中へ垂らした。

そして間もなく、一匹の鱸を釣り上げた。
529分身の術:03/01/06 19:35
曹公も列席の者も、みな驚いて己の眼を疑ったが、それは紛れもなく
三尺余りの大きさの、ピチピチとした鱸であった。

「一匹ではみんなに行き渡らぬ。もう一匹あるとよいのだが・・・・・・」
と曹公が言うと、左慈はまた糸を垂れ、前と同じ大きさの鱸を釣り上げた。
530分身の術:03/01/06 19:40
曹公は自分で膾を作りながら、
「これに蜀の生薑(しょうが)があると、よいのだがな」
と言った。
すると左慈は、
「それもすぐ手に入ります。」
という。

曹公は左慈がこの土地の生薑でごまかすのではないかと思って、
「鱸を盤の中から釣り上げたように、そのあたりの地面から掘り出すのか?」
と言った。
531分身の術:03/01/06 19:46
左慈は笑って、
「いいえ。蜀へ行って買ってまいります。」
と言う。

「そんなことができるわけがない。蜀へ往復するには、急いでも一年はかかるのに。」
「それは、普通の者ならということでございましょう。」
「ふむ。それで、お前が買いに行くと言うのか?」
「いいえ。使いの者をやります。」

「それなら使いの者にことづてを頼む。私の部下が今、蜀へ錦を買いに行ってるから、
その部下に会って、もう二反買い足すように言いつけてくれとな。」
「承知致しました。」
532分身の術:03/01/06 19:52
左慈は、その旨を言い含めて使いの者を出した。

その者は出て行ったかと思うと、すぐに帰ってきて生薑を差し出し、
「蜀で錦を売る店を探しましたところ、閣下の部下の方にお会いすることが
できました。お言葉通りにもう二反買い足すようにと伝えておきました。」
と、言った。
533分身の術:03/01/06 20:24
それから一年余りたったとき、錦を買いに行った曹公の部下が蜀から帰って
きたが、果たして、始めに言いつけたよりも二反多く買ってきた。

わけを訊ねると、
「一年余り前の何月何日、錦を売る店で出会った人が、閣下のお言い付けだと
言って、二反多く買うようにと言いましたので。」
と、そのときの様子を話した。
534分身の術:03/01/06 20:33
曹公は、左慈の神通力を恐れだした。

その後、曹公が百人余りの部下を連れて郊外へ遊山に出かけたとき、
左慈は、一壺の酒と一切れの肉を持ってついて行き、自分で酒を注いでまわり
肉を勧めて、百人の部下たちみんなを堪能させた。
535分身の術:03/01/06 20:43
曹公はそれを見て怪しみ、部下を町の酒屋へやって調べさせたところ、
どこの酒屋でもみな昨夜のうち、店にあった酒と肉がすっかりなくなって
いたという。
536分身の術:03/01/06 20:49
曹公は、益々左慈を恐れるようになり、折を見て左慈を殺してしまおうと考えた。
だが、なかなかその機会がない。

あるとき左慈を家に招き、いきなり逮捕しようとしたところ、左慈はパッと壁の中に
逃げ込んで、そのまま姿を消してしまった。

そこで一千の懸賞金をかけて左慈を捜させた。
537分身の術:03/01/06 21:08
その後、ある人が町の人混みの中で左慈を見つけ、捕らえようとしたところ、
町中の人が、みな左慈と同じ姿になってしまって、どれが本物か見分けが
つかなくなってしまった。
538分身の術:03/01/06 21:18
その後また、湯城山のあたりで、左慈を見かけたという知らせがあったので、
曹公が部下に追いかけさせたところ、左慈は羊の群の中へ逃げ込んでしまった。

そこで曹公は、部下に、羊の群に向かってこう言わせた。
「曹公は、あなたを殺そうと思っておられるのではない。あなたの術を試そうとされただけだ。
あなたの術がいかに優れたものであるかはもうよく分かったから、どうか姿を現されたい。」
539分身の術:03/01/06 21:35
すると羊の群の中から、一頭の年取った牡羊が、前足を折り曲げて人間の
ように立ち上がりながら、
「何をあくせくなさる。」
と言った。

曹公の部下たちは、それを見ると、
「あの羊だ!」
と、我がちにその羊をめがけて駆け寄ろうとしたところ、数百頭の羊が、みなその羊と
同じ羊になり、同じ格好をして、
「何をあくせくなさる。」
と、言った。
540分身の術:03/01/06 21:44
曹公の部下たちは、どの羊を捕らえたらいいのか分からなくなって、むなしく引き
返したという。

『老子』に、こういう言葉がある。
「吾(われ)に大いなる患(うれい)ある所以(ゆえん)のものは、吾に身あるが為なり。
吾に身なきに及べば、吾に何の患かあらん。」

老子のような人たちは、自分の肉体をなくすることができたのであろう。
左慈も、それに近かったのではなかろうか。