【懐かしい】昔話はオカルト満載・第2話【語れ】

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364Zanoni
生首交換

陵陽(安徽省の県名)の朱爾旦(しゅじたん)、字(あざな)を小明(しょうめい)という。
豪放な男だが頭は鈍い。
まじめに学問をしていたが、いまだに試験に合格できない。

ある日、同学の仲間と一杯やってきた。
仲間のひとりが、彼をからかった。
「君は豪傑で有名だが、どうだ、真夜中に十王殿*1に行き、そこの左廊下にある判官*2
の像を背負って来ることができるかね?できたら、みんなで奢ってやるぜ」

*1 冥土の十王を祀る。十王の中には閻魔王もいる。
*2 冥土の官名
365翔 ◆Ua.iPm2zOo :02/12/27 11:26
モーーー!!ヤメテェエ!!!
366生首交換:02/12/27 11:29
そもそも、陵陽には十王殿あり、木彫りながら生けるがごとき神鬼が飾ってあった。
わけても東の廊下に立つ判官像は、緑面に赤鬚の、すごい凶相であった。
夜になると、両側の廊下にて拷問の声がきこえることもあるという。
十王殿に行けば、人みな身の毛がよだつ。
だから、こんな難問を朱にふっかけたのである。
367生首交換:02/12/27 11:55
朱は笑って立ちあがり、すぐ出て行った。
いくばくもたたぬうちに、門外で呼ばわる声がする。
「おおい、鬚の先生をお連れしたぞ!」

みな立ちあがった。
と、朱が判官像を背負い入って来て、ドンと机の上に置いた。
酒盃をその像に三度捧げる。
368生首交換:02/12/27 12:23
じっと見ていた連中、身のちぢむ思いで落ち着かない。
また背負って行ってくれと、朱に頼んだ。

彼は、酒を地に注ぎ、判官像に祈った。
「わたくしは、軽率粗野な男ではありますが、判官さま、まあ変におぼし召されるな。
拙宅は、ここからそんなに遠くはありません。気が向いたら、いつなり一杯やりに
お出で下さい。なにとぞ、ご遠慮なさいますな。」
そして、背負って出て行った。
369生首交換:02/12/27 12:29
その翌日、一同は約束通り朱を招き宴を張った。
夕方になり、ほろ酔い気分で帰ってきたが、まだ飲み足りない。
灯かりをつけ、ひとりでちびちびやっていた。

いきなり、簾をかかげて入ってきた者がいる。
見れば、くだんの判官である。
朱は立ちあがった。

「ああ、おれはまもなく死ぬんだな。昨夜あんな無礼をはたらいたんで、殺しにいらしたんでしょうな」
370生首交換:02/12/27 12:34
すると判官、濃い鬚をしごき、微笑しながら、
「いやいや。昨夜ていねいに招待してもらったんで、今夜たまたま暇なのを
幸い、約束を果たしに伺った次第」

朱はたいそうよろこび、判官の袖をひっぱって席をすすめた。
そして、自分で酒器を洗ったり、火を熾(おこ)したりした。
371生首交換:02/12/27 12:38
「今夜は暖かいから、冷酒でいいよ」
と判官が言う。
朱は、そのまま酒瓶を卓上に置き、奥にとんで行って家人に酒の肴を用意させた。

ところが妻は、そう聞いてぶったまげ、そちらに行くなと言う。朱は無視して、立ったまま待っている。
酒肴がととのうと、自分で持って出て行った。
372生首交換:02/12/27 13:11
杯のやりとりをしてから、はじめて姓名をたずねた。
「姓は陸(りく)だ。名や字(あざな)なんかない」
とのこと。
話が典故のことに及ぶと、打てば響くような反応ぶりである。
「科挙よ試用の文章はいかがですか」
とたずねると、
「文のうまいへたぐらい、見分けられるよ。冥土だって文章を読むんだ。陽界とだいたい同じことさ」
373生首交換:02/12/27 13:16
陸の飲みっぷりは豪快だった。
大杯で、たてつづけに十杯は飲んだだろう。
朱は、一日酒びたりだったせいか、ついにへべれけに酔いつぶれ、机につっ伏して眠ってしまった。
やがて目が覚めると、灯りは尽きんとしてうす暗く、冥土の客もすでにいなかった。

それ以来、陸は三日にあげずやって来た。
ふたりますます親しくなり、時には泊まって行くこともあった。
朱が作文の草稿を見せると、陸は朱筆でどんどん消した。どれもへたくそだと言うのである。
374生首交換:02/12/27 13:27
ある晩、朱が酔って先に寝た。陸は、まだ手酌で飲んでいた。

朱は突然、酔いの夢のなかで腹がチクチク痛むのを感じた。
はっと目が覚める。
見ると、陸が寝台(ねだい)の前にきちんと座している。
朱の腹を裂き、胃や腸をひっぱり出して一本ずつそろえているではないか。

これにはたまげて、
「これまで、なんの仇(かたき)や怨みもなかったはずだ。それなのに、殺すつもりか。なぜだ?」
375生首交換:02/12/27 13:33
陸は笑って、
「心配するなって。君のために、聡明な心を入れ替えてやってるだけなんだから」
とて、悠々と腸を腹中に収めた。
次いで、腹の傷口をくっつけ、纏足用の布を朱の腰にぐるぐる巻きつけた。

すべてが終わり、寝台の上を見た。
血の跡すらない。
腹のあたりがいくぶん痺れているような感じがするだけである。
376生首交換:02/12/27 13:37
陸がなにやら肉塊を机の上に置いたので、何かとたずねた。
「これは、君の心臓さ。君の作文がへたくそなものだから、ははーん、心臓の毛穴がふさがっているなと
察したわけだ。冥土にある何万もの心臓から、うまいぐあいに、ひとつ上等のをえらび取っておいたのだ。
そいつを、君のと取り替えた、という次第さ。これはとっておいて、不足分の穴埋めにしよう」
と答え、立ちあがった。

そのまま扉を閉め、出て行った。
377生首交換:02/12/27 13:49
夜が明けた。
布をほどいて見てみると、傷口はふさがり、赤い線が残っているだけだった。
以来、朱の文章はめきめき上達した。
読書していても、目を通したものは忘れない。
数日後、また作文を陸に見せた、陸は言った。
378生首交換:02/12/27 13:56
「よしよし。だが君は、それほど幸運児ではない。あんまり出世は望めんな。せいぜい郷試どまりだ」
「いつの郷試だい?」
「今年だ。きっと首席で合格するだろう」

それからまもなくの科試では一番だった。
そして秋の郷試では、果たして首席を占めた。
同学の仲間たちは、平素から朱をからかっていた。
それが今度の答案を見るや、顔を見あわせ下を巻いた。
あれこれたずねて、やっとその怪異を知るや、競って朱に紹介を頼み、陸との交際を目留めるのだった。
379Zanoni:02/12/27 14:06
陸が承知したので、豪勢な宴席を設けた。

待つうちに初更*となり、陸がやってきた。
赤い鬚がピクピク動き、目は雷のように光っている。
それだけでもう色を失い、歯の根も合わぬほどふるえてしまった。
やがて、ひとりまたひとりと逃げて行く。

*夜の8時頃
380生首交換:02/12/27 14:14
残った朱は、陸をともない家に帰って飲んだ。

ほろ酔い気分になったころ、朱は言った。
「腸を洗い、心臓を取り替えてもらっただけでもありがたいんだが、実はもうひとつだけ頼みがあるんだ。きいてもらえるかなあ」
「なんなりと」
と陸が言うので、朱は言った。
「おれの女房のことなんだが、つまり正妻なんだがね、あちらのほうは、まあ悪くはないにしても、器量がそんなによくないんだよ。
そこでなんとか、あんたの腕を煩わしたいと思ってね」
381生首交換:02/12/27 14:19
陸は笑った。
「いいとも。考えておくから、あんまり焦らないでくれよ」

数日たった。
陸が夜中に来て門をたたいた。
あわてて立って迎え入れる。
灯りで照らしてみると、懐中になにやら入れている様子。

何だとたずねると、陸は言った。
「このあいだ頼まれたことだがね、あれからずっと苦労して捜しまわっていたんだ。そしたら、
うまいぐあいに美人の首が見つかった。それで、約束を果たさんと、つつしんで参上した次第」
382生首交換:02/12/27 14:51
朱が、そのふところをあけて見た。
頸(くび)の切口からは、まだ血が滴っている。

陸は、鶏や犬をさわがしてはならんから、急いで奥へ行こうと、せっついた。
夜中のこととて、婦人の寝室への門や戸には鍵がかかっている。
どうしたものかと考えていると、陸が来て手で扉を推した。
扉はひとりでに開いた。
そのまま寝室へと案内した。
383生首交換:02/12/27 15:15
朱の夫人は、横向きのまま眠っていた。
持参の首を朱に持たせると、陸は鞋(くつ)のなかから匕首(あいくち)に似た刃物をとり出した。
そいつを、夫人の項(うなじ)にあてた。
力をこめて切ると、豆腐でも切るように、いともかんたんに切り離した。
384生首交換:02/12/27 15:18
首は、枕もとにころりと落ちた。

急いで朱の懐中から、美人の首を取り出す。
そいつを項に合わせ、ぴったり合ったかどうか、ていねいに確かめる。
それから、ぐいと押さえつける。

最後に、枕を肩の下にしっかりあてがった。
切り落としたほうの首は、どこか静かなところに安置しておくようにと朱に命じ、陸は立ち去った。
385生首交換:02/12/27 15:21
朱の夫人は、目を覚ました。
頸のあたりが、なんだが痺れているようだ。
頬にはうろこが生えているような異物感がある。
さわってみると、血のかけらだった。

たまげて、女中を呼び湯を汲んでくるようにいいつけた。
女中は、夫人の顔が血まみれなのに腰を抜かした。
386生首交換:02/12/27 15:27
顔を洗う。盥の水がまっ赤になった。

顔を挙げると、すでにして別人の顔。
女中は、またも腰を抜かした。
387生首交換:02/12/27 15:35
夫人は、鏡を手にして自分をうつした。
そのおどろきと不思議さ、なにがなんだか、まるっきりわからない。

そこへ朱が入って来て、ことの次第を教えてやった。
そこで、つらつらながめてみる。
鬢(びん)までつづく長い眉、頬にぽっちり愛らしいえくぼ、まこと画中の美人である。

襟をひらいて頸をしらべたところ、赤い線がぐるり一周していた。
その線の上下、肌の色は歴然とちがっているのだった。
なにやらここの住人はみな勇者になったヨカーンがする(w
389生首交換:02/12/27 15:40
さて、これより先、呉侍御(ごじぎょ)* の邸に美しい令嬢がいた。
嫁がぬ前に、相手の許婚者に死なれること二度、そこで十九になるのに、まだかたづいていなかった。

*侍御は中央監察機関の高官
390生首交換:02/12/27 15:55
その令嬢、正月十五日の元宵節に十王殿に遊びに行ったことがある。
参詣人でごったがえしていた。

そのなかに無頼の賊あり、令嬢の姿をかいま見、よからぬ気を起こした。
やがて令嬢の住まいをつきとめ、夜陰に乗じて梯子でしのびこんだ。
391生首交換:02/12/27 15:57
令嬢の寝室の戸に穴をあけ、女中を殺して寝台の下にぶちこんだ。
そして、令嬢に迫って手ごめにしようとしたのである。

令嬢は必死になって抵抗し、大声で叫んだ。
賊は怒り、令嬢をも殺した。
392生首交換:02/12/27 16:01
その叫びをかすかに聞きつけた呉の夫人は、女中に見に行かせた。
すると、なきがらがころがっているので肝をつぶした。
邸内みな起きて大さわぎになった。

広間に令嬢のなきがらを安置する。
切られた首は、項(うなじ)のすぐ横に置いた。
一家あげて号泣し、その夜はもうたいへんな修羅場であった。
393生首交換:02/12/27 16:09
あくる朝、死者を覆う衾(きん)をあけてみた。
からだはあるが、首がない。
侍女たち残らず笞打たれた。
しっかり番をしていなかったので、犬の腹に葬られたのだというのである。

呉侍御は、役所に訴え出た。
役所では、きびしい期限つきで犯人を捜した。
しかし、三月たっても、犯人はつかまらなかった。
394生首交換:02/12/27 16:13
するうちに、呉公の耳に奇妙な話が伝わった。
朱家で起きた首のすげかえ事件のことである。

呉公は、もしやと思い、婆やを朱家にやって首を捜させた。
婆やは、朱の夫人をひと目見るなりぶったまげ、とんで帰って呉公に知らせた。
395Zanoni:02/12/27 16:20
外出するので、一時中断します。
  気になるね。続きのことだよ  
       ̄ ̄ ̄ ̄V ̄ ̄        \
      V   ~-v('A`)>     ギシギシ
     [ □]   ヘヘ ノ       アンアン/
397生首交換:02/12/28 01:11
令嬢のなきがらは、もとのまま在る。
いったいどういうことなのか、不思議でたまらない。
もしかすると、朱が妖術を使って、わが娘を殺したのではないか--というわけで、呉公は出かけて行った。

朱を問いつめる。
朱は答えた。
「家内が眠っているあいだに、首がすげかわっていたのです。なぜそうなったか、わたしにも
わけがわからんのですよ。わたしがお嬢さんを殺したなんて、とんだぬれぎぬですよ」
398生首交換:02/12/28 01:17
呉公は、しかし信じなかった。
朱を訴えたのである。

役所は、朱家のすべてを捕らえて訊問した。
ことごとく朱の申し立てと一致する。
これでは、知事とても裁決できない。
朱は帰宅し、なんとかしてくれと陸に相談した。
399生首交換:02/12/28 01:19
陸は、
「おやすいご用。あの令嬢に、自分の口から言ってもらおうじゃないか」
と言った。
400生首交換:02/12/28 01:25
その夜、呉公は令嬢の夢を見た。
令嬢は、父にこう告げたのである。
「わたくしは、蘇渓* の楊大年(ようだいねん)という男に殺されたのです。朱さんとは関係がありませんわ。
朱さんは、奥さんが美人でないのを気に病んでおりました。そこで陸判官が、わたくしの首を取って、奥さん
の首とすげかえてやったのです。わたくしのからだは死んでしまいましたが、首はまだ生きているのですよ。
ですから、朱さんとは仇にならないで下さいまし」

*湖南省の地名
401生首交換:02/12/28 01:46
目が覚めるや、呉公はそのことを夫人に言った。
夫人も、同じ夢を見ていた。

そこで、役所に告げた。
捜索してみると、なるほど楊大年なる男がいた。
ひっ捕らえて拷問にかけたところ、やっと自白し罪に服した。
402Zanoni:02/12/28 01:52
ご声援ありがとうございます。
今日はこの辺までにさせてもらいます。
このスレにはちょっと長めの話かとは思ってましたが、無計画に
書き込みだすとなかなか終わらないもんですね。
( ・∀・) パチパチ おつかれさま 今後も期待してまつ!
404生首交換:02/12/28 10:32
呉公は朱家を訪ねた。
夫人に会わせてもらうためである。

かくて、朱は呉公の女婿となった。
朱の夫人の首は、呉公の令嬢のからだとともに葬られた。
405生首交換:02/12/28 10:36
朱はといえば、そののち三度も会試* を受けている。
しかし、いずれも試験場規則に触れて失敗した。
そこで、出世はあきらめた。

*郷試の上の全国試験
406生首交換:02/12/28 10:42
三十年たった。
ある日の夕景、陸判官が来て言うには、
「君の寿命は、あといくばくもないな」

どれぐらいだとたずねると、五日きりだと言う。
なんとか助けてくれよとの朱の頼みに、こう答えた。
「なにしろ、こればかりは天命だからね。人間にはどうしようもないんだ。生死を達観した人から
見れば、生も死も、同じものだよ。生が楽しい、死が悲しいなんて、そんな区別なんぞあるものか」

朱は、なるほどもっともだと思った。
そこで、経帷子や棺をあつらえ、準備万端ととのったところで、きちんと正装し、死んだ。
407生首交換:02/12/28 10:47
死の翌日、夫人が柩にとりすがって泣いていると、朱が突然あらわれた。
ふらふらと外からやって来たのだ。

夫人がこわがると、
「おれは、たしかに幽鬼だ。しかし、生きていたときと、なんの違いもないのだよ。
後家になったお前や、孤児になった子供のことを考えると、うしろ髪を引かれる思いでな」
408生首交換:02/12/28 10:58
夫人は、激しく泣いた。
涙が胸まで流れる。

朱がやさしく抱いて慰めてやると、
「昔から、死者が生き返る話はありますわね。あなたにはこうして霊魂がおありなんです
もの、どうして、もう一度、生き返ってくださらないの?」
と言った。

「天命に逆らってはいかんのだ」
と答えると、冥府でどんな仕事をしているのかとたずねる。
「陸判官の推薦でな、裁判事務の監察をしておるよ。官爵も授けられたし、辛いことはない」
409生首交換:02/12/28 11:45
夫人がもっと語りかけようとすると、朱は、
「陸判官がいっしょに来ておるんだ。酒の支度をしてくれんか」
と言って、急ぎ出て行った。

言われるままに、酒肴をととのえる。
すると、部屋のなかから雑笑の声がきこえた。
豪放な高笑いなど、生前そのままである。
深夜に及んでそっとのぞいてみると、すでに姿は消えていた。
410生首交換:02/12/28 12:08
それからというもの、四、五日に一度はやって来た。
時には泊ってむつまじく語らうこともあった。
家内のことどもを、ついでに取りしきったりもした。
age
412生首交換:02/12/28 14:07
息子の瑋(い)は、まだやっと五歳だった。
来れば、きまって抱きあげた。
七、八歳になると、灯りの下で読み書きを教えた。
賢い子だったので、九歳で立派な文章が書けるようになった。
十五歳で、県学に入学した。
そして、自分が父なし子であるとは、つゆ知らなかったのである。
413生首交換:02/12/28 14:14
そのころから、来る回数が次第に少なくなった。
なん日目か、あるいは、なん月目かにやっと一度、というようになった。

そんなある晩、夫人に言った。
「今宵かぎりで、お前とも永遠の別れだ」
どこへ行くのかとの問いに、
「玉帝のご命令にて太華卿* となり、まもなく遠くに赴任することになった。
仕事が忙しいうえ、遠くへへだたっているので、来れんのだ」

*官府の官名
414生首交換:02/12/28 14:19
母子ともども、すがりついて泣いた。

すると、
「そんなに泣くな。伜だってもう一人前になったし、財産だって食うには困らんだろう。
百年たっても別れぬ夫婦はおらんだろうに?」
と言い、息子に向かっては、
「立派に成人するんだぞ。父の財産を減らさぬようにな。十年たったら、また会おう」
と言いざま、門から出て行った。

それきり、来ることはなかった。
415生首交換:02/12/28 14:27
その後、瑋は二十五で進士に及第した。
宮中祭祀を司る官を拝し、勅命を奉じて西岳の華山を祭りに赴いた。

道すがら華陰を通ったとき、ある行列にぶつかった。
車馬を従え、華蓋(かがい)をさしかけている。

それが、こちらの行列に突っこんで来た。
不審に思って車中の人をよく見ると、ほかならぬ父であった。
416生首交換:02/12/28 14:45
瑋は車からおり、泣く泣く道傍にひれ伏した。
父は輿(かご)をとめ、言葉をかけた。
「役人としての評判、なかなかよろしいな。これで、わしも瞑目できるというものじゃ」

瑋は、ひれ伏したまま立ちあがらなかった。
父は輿を促し、そのままあっというまに立ち去った。
417生首交換:02/12/28 14:50
しかし、数歩* ほど行ったところでふり返った。
佩刀をほどき、侍者に持たせて瑋に授けると、はるかより声をかけた。
「その刀を佩びておると、出世するだろう」

*一歩は五尺
418生首交換:02/12/28 14:56
瑋は追いすがろうとした。
しかし車馬も従者も、たちまち風のようにゆらめき、あっというまにかき消えた。

痛恨の念に耐えず立ちつくすことしばし、ややあって刀を抜き、つらつらながめた。
精巧を極めたつくりである。
字が一行、刻されていた。

胆ハ大ナラント欲セドモ、心ハ小ナラント欲ス。
智ハ円(まどか)ナラント欲セドモ、行ハ方ナラント欲ス。
419生首交換:02/12/28 15:13
その後の瑋は、官は司馬* にまで至った。
子も五人もうけた。
沈・潜・沕(ぶつ)・渾(こん)・深(しん)という。

ある夜、父が夢にあらわれて言った。
「あの佩刀は、渾に授けるがよかろう」

その通りにした。
渾はやがて総憲* にまで出世した。
施政の評判も高かった。

*都察院長官
420Zanoni:02/12/28 15:17
やっと終わりました。

ネタ元は、中野美代子 訳の 「聊斎志異」
ttp://shopping.yahoo.co.jp/shop?d=jb&id=05811287
です。

書き始めてから、このスレにはちょっと長過ぎることに気づきました。
以後気を付けます。