324 :
おじいさんに不孝をした子供 (アイヌ):
私を育ててくれているのは、本当うに年をとった一人のおじいさんです。
おじいさんはいつも歌をうたっていました。
私が少し大きくなってその歌をよく聞くと、それは歌をうたっているのではなく、泣いているのでした。
わけを聞くとおじいさんは、
「昔あった村は病気がはやってみんな死んでしまった、生き残ったのはわしと孫のお前だけだ、死
んでしまった人々のことを思うといくら泣いても泣ききれない」
と言いました。
おじいさんはあまりにも年をとっているので、熊や鹿を採ることができません。
兎や狐のような小さい獲物をとって、おいしい肉の方をいつも私に食べさせ、
自分は固い肉をしゃぶります。
山からとってきた薪も、私が座る方によく燃える木を自分の方にはあまり燃え
ない木を、という具合です。
そのようにして私は大切に育てられ、今は自分の着物の裾を引っ張って、おちん
ちんを隠すぐらいの年ごろになりました。
おじいさんに代わって自分で狩りをできるようになりました。
泣いてばかりで暮らしていたおじいさんは、そのためかだんだん目が衰え、しまい
には全く見ることができなくなりました。
あれほど私を可愛がり、自分は食べなくても私には食べさせてくれたおじいさんで
したが、私はおじいさんと暮らすのが嫌になりました。
目が見えなくなったのをいいことに、肉でも魚でもおいしい方は私が食べ、おじい
さんには骨や筋しかあげませんでした。
薪も、私が座っている方にはよく燃える木をくべ、おじいさんの方には生木をくべま
した。おじいさんは煙にむせながら、いつも寒い思嫌ひもじい思いをしてじっと我慢
をしていました。
おじいさんが早く死ねば、私は一人でどこかに行って楽ができると思い、
段々意地悪も露骨になって、三度の食事も二度、一度に減っていきました。
おじいさんは一言の愚痴も言わず、段々痩せ細って、終いには手も足も
骨と皮だけのようになり、今では自分で寝返りも打てません。
328 :
おじいさんに不孝をした子供 (アイヌ):02/12/25 19:26
これぐらい弱ったらまもなく死ぬだろうから、おじいさんを捨てて私はどこかに
行こうと思ったのでした。
家の中にあった宝物入れの箱を背負い、生きているおじいさんを置き去りにして、
川の上流に向かって歩きはじめました。
家からずいぶん歩いたころ、川のふちに一本の柳の木があって、川の上に泳ぐ
ようなかっこうで立っていました。
見ると、木にはクッチのつるがからみ、たくさんのクッチの実がなっているのです。
私は突然どうしてもその実を食べたくなり、木に登ってクッチの実を一粒、二粒、
口に入れた途端、急に体の力が抜けて、動くことが出来なくなりました。
自分で自分の体をよく見ると、クッチのつるの網にからまってるというよりも、
つるが体をブスリ、ブスリと貫いて通っているのです。
私は大きな声で「おじいさーん、助けてえー」と泣き叫びました。
すると、上流から一そうの丸木舟に乗った二人の若者がやってきました。
若者たちは木の下に丸木船をつけて、岸辺に上がりました。
助けてもらえる、と思って喜んでいた私を、若者たちは手に持った竿で、めった
めったに殴りつけました。
「おじいさんに不孝をした罰で、このようにされてるのも知らず、助けてくれと
はよくも言えたものだ。これからは死ぬにも死ねずに、いつまでもここにさらさ
れているがよい。おまえのしたことを火の神さまが見ていて罰を与えたのだ。肉
親に不孝をしたものがどうなるか思い知れ。」
と言いながら、二人は散々私を殴りつけると、さっさと丸木船に乗って川を下って
行ってしまいました。
331 :
おじいさんに不孝をした子供 (アイヌ):02/12/25 20:06
それからというものは、川を通る舟人は必ず私を殴ってから通っていき、死ぬにも
死ねず、夏は雨や風に打たれ、冬はみぞれや雪にさらされて凍えるばかりです。
クッチの実を食べにくる鳥たちにふんをかけられながら、体の肉は溶けてしまい、
骨ばかりになってしまいました。
それでも頭だけは生きていて、何年も何年も苦しんでいるのです。
「だから今いる子供達よ、おじいさんやおばあさんに不孝をしてはいけません」
と、一人の子供が言いながら死んでしまいました。
332 :
あなたのうしろに名無しさんが・・・:02/12/25 22:32