伝説または逸話

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579好爺
秋田県湯沢市の町外れに清涼寺という寺がある。その寺の11代の住職・竜国寿金禅師の話である。
代々、この寺の住職は京の都から高僧が派遣されてくるのが習いだったが、禅師の場合は様子が
違っていた。禅師はある日突然、門前に姿を現し、「わしは新しい住職の竜国寿金禅師である」
と名乗ったのである。早飛脚で都に問いただそうと、寺内で論議をしているのをよそに、禅師は
本堂にどっかと座り、読経を始めてしまった。ところが、その読経の素晴らしさに、それまで
半信半疑だった寺僧たちも、やはり都から遣わされた高僧は違うものだと信じ、禅師が住職と
なるのに異論を唱える者はいなくなった。やがて、その名僧ぶりは近隣に鳴り響くようになり、
はるか都まで届いたのである。
ところが、突然に異変は起こった。ある夜に「みな、起きろ!火事だ!」と禅師の大声が響いた。
寺僧はじめ、近在の人が駆けつけたが、寺には火の気は無く、勿論火も炎も浴びてはいなかった。
ところが禅師は「火事だ、火事だ」と庭石に水をかけている。それどころか集まってきた僧たちに
「何をぐずぐずしておる。寺が丸焼けになってしまうではないか」と火を消すように命じるのだ。
やむなく、庭石に水をかけながら、寺僧たちは、正気の沙汰ではないと小声で言い合った。
勇気ある僧の一人が、何処が火事なのかと尋ねると、禅師は大真面目に「唐土の金山寺が
燃えているのじゃ」と答える。いよいよ頭がおかしくなったのだと、誰もが顔を見合わせた。
580好爺:03/01/09 00:32
…続き
ところがそれから暫くして、驚いた事に、唐の金山寺からなんとも見事な錦織の幕と竜の髭の
払子が届けられた。添えられた書状には「先般、当寺が火災を起した折には、力を貸して頂き
厚く御礼を申し上げる次第である」と書いてある。寺はこの幕と払子を丁重に扱い、寺宝として
厳重に保管する事になった。
禅師が不思議な力の持ち主だった事を伝えるのは、金山寺の火事事件だけではない。
雨乞いに関しては百発百中といえるほどの霊力を持ち、禅師が祈祷すると、どんな日照続きの
時も、たちまちかき曇り、滝のような雨が降ってくるのである。但し、不思議にも、禅師は
「どんなことがあっても、絶対に自分が祈祷中の姿を見てはならぬ」と固く命じていた。
ある時、僧の一人が祈祷中の禅師の姿をのぞき見ようとしたところ、堂の中には人の姿は無く
竜がとぐろを巻くようにして座り、一心不乱に読経しているではないか。仰天した僧が思わず
大声を出した為、禅師は自分の真の姿を知られてしまったと気づいた。すると次の瞬間、
すさまじい風が吹き、竜はその風に飲み込まれるようにして、天の高みに消えてしまった。
巨大な竜巻の中に竜の頭がのぞき、名残惜しそうに何度も清涼寺を振り向く姿が見られた。
そしてそれを最後に、禅師は二度と寺に戻らなかった。
秋田って龍伝説多いよね。